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ジャーナルクラブコミュのグルコースによる神経活動の抑制メカニズム

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 我々の体はお腹が空くと目が覚めて食欲がわく。お腹がいっぱいになると眠くなる。このような体内の栄養状態を示すシグナルとしてグルコースが用いられていることが分かっている。

 脳の満腹中枢(satiety centor)と呼ばれる視床下部腹内側核(ventromedial hypothalamus:VMH)を破壊するとずっと御飯を食べ続けて肥満を生じる。この部位にはグルコース受容性神経(glucose responsive neuron)と呼ばれる、グルコースによって活動が活性化する神経が存在している。この神経が食後の脳内グルコース濃度の上昇を検知して、摂食行動を抑制するようなシグナルを発生する。
 それに対して摂食中枢(feeding centor)と呼ばれる視床下部外側野(lateral hypothalamus:LH)は破壊するとお腹が空いても御飯を食べなくなってしまう。この部位にはグルコース感受性神経(glucose sensitive neuron)と呼ばれる、グルコースによって活動が抑制される神経が存在しており、この神経が脳内グルコース濃度の低下によって摂食行動を惹起するものと考えられている。

 グルコース受容性神経におけるグルコースによる神経活性化メカニズムについてはKatp channelが関与していることが報告されている。膵臓のβ細胞と同様に、細胞内に取り込まれたグルコースがATPとなり、細胞内で増加したATPがKatp channelを閉口することで細胞が脱分極する。
 それに対し、グルコース感受性神経におけるグルコースによる神経抑制メカニズムについてはほとんど分かっていなかった。細胞内ATP濃度の上昇がNa+,K+-ATPaseの回転を増加させ、それが過分極を引き起こす、という報告が30年前にあったが、それに続く報告は全くなかった。

 オレキシンは視床下部外側野で発現するペプチドで、脳室内に投与すると摂食行動が亢進することが報告されている。また、電気生理学的解析において細胞外のグルコース濃度を増加させるとオレキシン神経は過分極し、グルコース感受性神経としての性質を持っている。

 今回の論文では、このオレキシン神経のグルコースによる過分極反応がどのようなメカニズムで起きるのかについて報告している。

Burdakov D, Jensen LT, Alexopoulos H, Williams RH, Fearon IM, O'kelly I, Gerasimenko O, Fugger L, Verkhratsky A.
Tandem-pore k(+) channels mediate inhibition of orexin neurons by glucose.
Neuron. 2006 Jun 1;50(5):711-22.

 Burdakovらはorexin/EGFPマウスを用いてオレキシン神経を蛍光顕微鏡下で同定し、電気生理学的な解析を行った。
 まず最初に、グルコースが何のイオンを動かすことによって過分極が生じるのか、ということを細胞内液の組成を変えることによって検証した。その結果、K+イオンが流出することによって細胞が過分極していることが分かった。
 K+ channelには主に (1). 電位依存またはカルシウム依存性チャネル (2).内向き整流性チャネル (3).外向き整流性のリークチャネル の3種類が存在する。(1)は主に活動電位発生後の再分極の際にK+イオンを流入させる際に開口する。(2)はGiと共役したGPCRにリガンドが結合することによって開口するGIRKやKatp channelなどが存在する。それに対して(3)はあまり解析が進んでいなかった。

 電流-電圧関係から、細胞外グルコース濃度の上昇時に開くチャネルは(3)に属するものと考えられたため、このグループのチャネルからさらに絞り込みを行った。
 哺乳類で(3)に属するチャネルにはKCNKファミリーのTandem-Pore K+ (K2P) channelが存在する。このファミリーの遺伝子は15個あってさらに、"TASK","TREK","THIK","TALK"のサブファミリーに分かれている。
 ハロタンはTASKとTREKを活性化し、THIKとTALKを抑制する。オレキシン神経はハロタン存在下で過分極したため、オレキシン神経にTASKかTREKが存在することが確認された。ただ、ハロタン存在下でカレントインジェクションで膜電位を上昇させ細胞外グルコース濃度を上昇させるとオレキシン神経は過分極した。筆者らはこの現象が、ハロタンが十分にK2P channelを活性化しなかったためとしているが、この後にいろんな条件でオレキシン神経のグルコース応答を観察して、過分極したからこの条件はメカニズムに組み込まれていない、という結論を出している。ダブルスタンダードのようなものが感じられて、ちょっと気持ち悪い。

 TASKとTREKのどちらが関わっているのかを確認するために細胞外のpHを変化させた。TASKの場合には酸性条件下で抑制される。オレキシン神経は高グルコース下で過分極している時に細胞外を酸性にすることで脱分極した。つまり酸性条件で閉じるようなチャネルがグルコースによって開いているということになり、オレキシン神経のグルコース応答に関わっているのはTASKであることが示唆された。

 TASKには1〜4まで存在し、それぞれpH応答におけるIC50が異なる。オレキシン神経のpH応答について調べるとIC50が6.9であり、これはTASK1とTASK3の値と近い。電極内のグルコースを除去し、single channel recordingでコンダクタンスを測定すると約40pSであり、これはTASK3のhomomerかheteromerの値と近い。TASK3のブロッカーであるruthenium red存在下でもオレキシン神経の過分極は抑制されたなかったため、TASK3とTASK1のheteromerがオレキシン神経のグルコース応答に関与している可能性が高い。

 カルシウム依存性K+ channelの関与を確かめるために電極内にキレータであるBAPTAを入れてもオレキシン神経は過分極した。また細胞外液のCa2+を下げ、Mg2+を上げても同様であったことから、Ca2+ activated K+ channelは関与していない可能性が高い。
 また、電極内のグルコースやATPの濃度を上げてもオレキシン神経のグルコース応答に対する影響はほとんどなかった。これは非常に興味深いことで、K2P channelによる過分極に細胞内のグルコースやATP濃度の上昇は関与していない、ということになる。電極内のグルコースを除去したsingle channel recordingと合わせて考えると、オレキシン神経は膜表面の何らかの分子を介して細胞外グルコース濃度の変化を検知し、その分子が何らかのシグナルを介してK2P channelを開口することで細胞を過分極させる、ということになる。

 TASK channelはセロトニン神経やノルアドレナリン神経、運動神経などでも発現しているため、これらの神経におけるグルコース応答にも関与しているのかもしれない。

コメント(5)

素人的な質問になってしまいますが・・・

グルコースが細胞内に取り込まれた後の、細胞内でのグルコースの働きや、そのグルコース濃度の変化によるシグナリングなどはどうなってるのでしょうか??

あまり調べてもわからないので質問させていただきました。
生化学の教科書で炭水化物の代謝の項を読めば分かります。

 グルコースは基本的に代謝物と考えられていて、最終産物であるATPが細胞内のモデュレータとして働くとされていたのですが、今回の論文ではグルコースがリガンドとして膜表面の受容体に認識され、その受容体からのシグナルがK+ channelを開く、というこれまでにないメカニズムを明らかにしたので非常に意義のある論文だと思います。
 もし今回の報告が十分に信用できるものであるなら、グルコース受容体の同定やその受容体がチャネルを開口させるメカニズムの解明ができれば良い研究になると思います。
実際に論文を見ることができないのですが、上記の話を読んだ感じでは、細胞外のグルコース濃度を認識するためにレセプターが存在しているというのは仮説の領域ではないのでしょうか?グルコースの細胞外の濃度と細胞内の濃度を考えると細胞内で何らかのシグナルが動いている可能性もあるのではないでしょうか?
 グルコースのレセプターがある事と細胞内で何らかのシグナルが動いてチャネルが開くという事は矛盾する仮説ではないと思いますが?

 細胞内のグルコースの関与については細胞内液のグルコース濃度を増加させる事で検証しています。もし細胞内のグルコースがチャネルを開くなら、あらかじめ細胞内にたくさんのグルコースを存在させておく事でチャネルが開いているため、細胞外のグルコース濃度を上昇させても過分極応答が見られないのではないか、というものです。
 実際には過分極応答が見られたため、細胞外のグルコースは細胞内に流入してから何らかの経路を介してチャネルを開くのではない、としているわけです。

 ただ、TASKチャネルのブロッカーであるハロタン存在下でも過分極応答は見られるため、そこがこの論文のちょっと弱いところのような気がします。ここでは1%ハロタンを用いていますが、濃度応答性も見てくれたら良かったのにと思います。
実際に細胞内液のグルコース濃度を増加させて検証しているのならば、間違いないようですね。

実際に雑誌を見ているわけではないので何とも言えませんが、実際に起こりうる現象なのではないかと感じます。

もっと生化学的な実験で間のパスウェイを明らかにすれば説得力も増すのだと思いますが・・・。

毎度ですが、丁寧な解説ありがとうございます。

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