台湾の民俗コミュの八家将及び東港東隆宮

主旨東港東隆宮祭典行事(重點為神之問的交流)及八家將的角色

主旨
　去る年の十一月十七日、台湾の屏東東港東隆宮は開基三百週年を祝うため、盛大な巡礼活動（注）を行った。この境内巡礼には、多くの屏東一円の廟も人員を出して参加した。筆者の調査対象である台東大学の神将芸陣研究社（以下は「芸将社」と記す）もその指導団体忠合宮を主体として今回の活動に参加した。この発表では、今回の芸将社が披露した八家将に対する調査を踏まえ、より台湾における廟の祭典のあり方と八家将の現状を明らかにしたい。

一、台湾の廟の現状
　台湾は特殊な歴史背景及び自然環境のため（注）、民間信仰が盛んに発展されてきた。その民間信仰の集合地としての廟は、台湾では高い密度で散在している。劉枝萬氏が1960年代に台湾省文献会にて在職していた頃に行った調査では、台湾の廟の総数は4420軒であり、1990年代に下ると、その数は16000余にも上った（阮昌鋭　1990）（注）。台湾政府の統計データによると、今回の調査地である東港鎮の面積は29.4635平方キロ、人口は49812人である。同地方に登録されている廟は65軒であり。平均毎0.41平方キロに一軒の廟が存在しており、人口割で見ると、毎766人が一軒の廟を有しているという具合になる。南台湾の典型的な漁村に対し、台湾の首都である台北市の下町である萬華区の人口は194743人であり、面積は8.85平方キロで登録されている廟は23軒である。即ち、当地域は毎0.38平方キロに一軒の廟があり、毎8463人に一軒の廟が配置される。日本の場合、神社本庁のデータによると東京都には1398軒の神社が登録しており、そして東京の面積2187平方キロで、人口12616029人（東京総務局データより）であるため、東京の場合は平均1.56平方キロに一軒の神社があり、毎9024人が一軒の神社を有することになる（注）。このデータから見ると、台湾における廟の密度の高さは窺える。なお、この現象は決して農漁村に限ることがなく、普遍的なものであることがわかる。台湾の廟の形態には、「公廟」と「私廟」の二つがある。私廟は個人が出資して、一族の集会拠点にしたり、または法事などを行う民間宗教者が生業の拠点として設立したものに対し、公廟は集落または生活圏の人々が共同出資して建造したものであり、信仰の中心地の同時に、地域経済の集散地と集会場との機能をも有している。台湾政府の管理上、公廟は公共財の性格を帯びており、実際に不動産などを有することも多いので、登録された廟は殆ど公廟であり、私廟の登録は強制されない。したがって、台湾の廟の総数はデータより二倍ほど多いと考えられる。

二、調査地の紹介
?東港東隆宮と王爺信仰
　東港東隆宮は温王（注）を主神とし、1706年に設立された南台湾随一の王爺信仰の廟である。王爺信仰は南台湾に盛んでおり、疫病神がそのまま神格化される民間信仰である。劉枝萬氏の説によると、王爺信仰の変化には以下の時系列が見られる：
第一期　王爺は災いを与える疫病神そのもの
第二期　疫病神を取り締まり、悪を罰する神
第三期　海との深い関係で、海神の性格を帯びるようになる
第四期　医学の神。疫病を無くす神から更に威力が要求される。
第五期　集落を守る守護神
第六期　全能の神に
（同、1983年）
なお、その特徴としては以下の数点が挙げられる：
１　王朝時代の官吏制度が強く反映される
　清王朝時代の移民に構成される台湾平地部の集落には、炎熱な気候のせいで疫病が多発していた。猛威をふるって瞬間して大勢の人間を殺してしまう流行病が、常民たちに天の超越的な力を思わせる。そのため、王爺が単なる恐れられて村や集落から追い出したい存在から常民の守り神に転化された過程の中に、その威力から、王爺は天帝から任務を受け天下を視察して、悪に罰を下る性格が与えられた。即ち、一瞬にして人間を死なせる恐怖が天からの制裁への転換である。民間信仰の中、神々の系図は中国の王朝システムに擬似されるので、王爺は天子から権力を付与した「御史」に相当する。その故、王爺を祭る廟には、「○○府」と命名されることが多く（例：台南の代天府）、廟の額及び王爺の行列には「代天巡狩」（天子の代わりに天下を巡視して悪を摘発する）がよく使われる。なお、王爺の祭典に奉仕する信者組織「班役」の編制も衣装も、清王朝の警察組織をそのまま継承したものである。

２　海神と同一視される傾向がある
　王爺信仰の重要な要素の一つは、送王船である。最初の王船は様々な悪霊と疫病神を船に乗せて海に送り出す行事であるが、その後は王爺が船に鎮座して、悪霊を船に押し詰めて海に移送し、またこの船を乗って天下を巡視するという意味がつけられた。だが、王船が集落の海岸に漂着してきたら、これを厚く歓待しないと、疫病が流行り災いが村に降りかかる。反面、漂着してきた王船を廟に祭り上げると、その地域が王爺の霊威に保護される。送り王船には、遊天河（王船を燃やして天に送る）と遊地河（そのまま王船を海に出す。殆ど現存していない）の二種類がある。清王朝まで盛んに行われた遊地河の場合だったら、王船は最終的にどこかの沿岸に漂着することになる。そのため、台湾の王爺信仰が盛んである地域は、ほぼ海に繋がる川の流域と一致する（図）。この王船の要素で、漁業が盛んでいる地域には、王爺が篤く信仰される現象が見られる。王爺が船を使って天下を巡視するため、同じく船を使って生業を営む漁民の守護神にもなったのである。
　
３　地縁関係とのつながりが薄い
　台湾の漢民族はほぼ中国大陸からの移民であったが、中華民族の故郷を重んじる風習のため、一族単位の移民は殆どなかった。したがって、最初の台湾の漢民族集落は血縁で団結されることが少なく、出自の地によってグループを形成した。これが原因で、大陸の地域限定な郷土神が台湾に移され、そしてその神を祭る廟を中心に同地域の人が集まる現象が見られる。例えば、同じ福建省出身者でも、漳州人は開漳聖王を祭り、泉州人は保生大帝を祭る。そして客家の三山国王、同じく福建省内の清水祖師、霞海城隍などもこの類である。この郷土神の信仰は全台湾に散在しているが、南台湾の王爺信仰はこれに比べれば少し異質性がある。王爺にも元々このような郷土限定な性格があったが（注）、１、２が原因で、疫病と海難を避けるために成立した王爺信仰の地域色が払拭されてしまった。即ち、移民が台湾に集落を形成させて、漁村という新たな共同体を作り上げたため現れた新しい地域信仰である。
　
　このようにして、王爺は南台湾もっとも盛んな民間信仰になった。今回の調査対象なる八家将は天子（天帝）から任命された官吏である王爺の配下であり、王爺が廟の所轄内を巡視する際に警護や悪霊の拿捕を行う役目にあたる。以下は実際に王爺の巡行は如何に行われ、そして八家将の作法と役割について説明したい。

?東港の送王船と今回の開基三百周年祭
１　開基三百周年とは
　東隆宮の送王船は、三年一回で遊天河の方式で行う。近年は政府の宣伝の力で、地域全体の盛大な行事になりつつあり、王船祭の期間に、東港の対外道路が麻痺するほど地元の経済に大いに貢献する一大イベントに変貌した。次の送王船は今年の10月のはずであるが、去年は東隆宮が開基三百周年という名目で、王船祭とは別で王爺の巡行活動のみを行った。したがって、今回のイベントの運営は、ほぼ送王船と同じ形で行われる。
２　運営に関わる組織
　祭典の企画は、主に東隆宮の「祭典委員会」によって運営される。この委員会は廟の管理委員会とは異なり、祭典のみを職務とし、その任期も祭典の準備期から祭典の終了までであり、ボランティア職である。だが、指揮システムを統一するため、委員会の委員長は、廟の管理委員会の会長が兼任する。祭典委員会のメンバーは、七角頭（注）から選任する。委員会の下には、総務（庶務）、経理、典務（祭祀と奉仕者の管理）、設計、指揮の五つの「科」があり、祭典の実務を運行する。なお、祭典期間の信者の誘導、行列の整理などは、「班役」というボランティア部隊が担う。この五科と班役も、七角頭出身の人間からなるものである。即ち、東港の祭典は七角頭によって成立されると言っても過言ではない。なお、角頭の代表（頭人）になるのは、角頭内の寄付戦争に勝たなければならない。
３　祭典のあり方と流れ
　祭典の主体は、温王の神輿の行列が東港地区を巡行するもので、所謂「遶境」である。遶境の行列は七角頭の神輿と他の地区の廟が参加したものからなる。東隆宮の遶境の際に、七つの神輿が担ぎ出される。その中、温府千歳は温王の本尊であり、大千歳から五千歳はその分身で、中軍府は王爺の事務所という意味合いがある。神輿が出発する際には、まず東隆宮の広場に集まり、信者と班役によって、王爺の神像が廟から運び出される。この儀式は非常に重要であり、神像が廟から出る瞬間信者たちは王朝時代の貴族を迎えるように、一斉に大声を出す。なお、神像を持ち出す人は、その場でもっとも位の高い人間でなければならない。今回の温府千歳の神像を持ち出したのは、選挙の宣伝で駆けつけた台湾与党の党主席であった。
　神輿の中温府千歳が一番貴い存在なので、各角頭が競って温府千歳の神輿を担ぎたい。そのため毎回の遶境において、各角頭は神前で当年の神輿の順番を博杯（一種のクジ）で決める。以下は今回の遶境の神輿担当表である。
　七角頭の神輿の後ろに、他所の廟が祭典に参加する行列が配置される。この一行はまず東隆宮から出発して、七角頭の公廟を巡り、東港鎮全境を巡視する。神輿及び他所の廟の行列が公廟に一旦入る際、角頭と行列の神が交流を行う。この他所との交流こそ台湾の祭典の特徴であり、そして八家将などの神前の陣頭の役割がこの交流活動の中でよく見られるので、その説明を次に譲る。

三、神々の交流
　今回の遶境において、私と武井氏が角頭廟の一つ東隆壇で調査を行った。すべての神輿及び陣頭が角頭廟に通過する時、必ずその広場に入って、パフォーマンスを行いながら行列の神が廟の神に挨拶をする。行列は大体以下の構成からなる：
１　涼傘
　古代貴人が出掛ける時に使われる巨大な円形の傘。行列の中では神が巡視に出ているのを表し、常に行列の先頭を歩く。
２　童乩
　シャーマン色が強い廟、または日頃廟内に託宣を行っているところは、童乩が涼傘の後ろに歩く。
３　陣頭
　廟に所属の陣頭があれば、涼傘や童乩の後ろに歩く。この場合の陣頭は、神の先頭部隊や護衛部隊の役目を果たす。広場に入ったら、陣頭は「脚歩」（戦陣）を演舞して、廟の神に敬意を払う。調査対象の芸将社の八家将も所属の忠合宮の神輿が広場に入る前に、先に広場に入り、演舞を行った。
４　神輿
　神の神像を乗せ、広場に入ったら三行三進（三回前進して後退する）をし、神に挨拶をする。

　以上は行列が角頭廟にて行う挨拶の仕方及び編成であった。そして角頭廟側は、まず遶境に参加する者以外は、信者は全員廟の前に立ち会う。行列が入ってきたら、信者が爆竹を鳴らして、線香で拝むなど饗応しなければならない。廟のスタッフが香炉を持ち出して、行列の涼傘と童乩に香炉の匂いを嗅がせてもてなしをする。その際、香炉持ちと童乩、そして涼傘持ちとはよく会話をする。だが、この会話は決して人間同士ではなく、憑霊状態に入った神の僕によって行う神同士のコミュニケーションである。このような一連の流れによって以下の現象が見られる：
１　角頭内の交流
　遶境にしたがって、東隆宮の千歳神輿と他の七角頭の神輿が必ず角頭廟にやってくる。角頭にとって、千歳の到来は「巡幸」に等しく、このような形で当地域に霊力と平安を与える。東隆宮にとって、角頭廟は王爺の配下に当たり、地区の平安を守る大役を果たしている。そのためこの巡幸によって、角頭廟の神の苦労をねぎらう。他の角頭廟の行列がやってくる時は、当地域と平等な格の神が到来するわけなので、盛大にもてなしをするのは義理であると、東港地区の信仰における一種の擬似統治システムがよく見られる。即ち、東港を領するのは天帝から権力を与えられた温王であり、そして角頭廟の神はその部下に相当し、このような権力構造で、東港の平安が守られる。
２　他所との交流
　台湾の廟は、時々他所の廟のイベントに協賛することが見られる。協賛するところと協賛される廟は同格の場合、その目的は協賛することによって他所の祭典を一層盛り上げて、廟と廟との親睦を深めながら、今度は自分の祭典にも、協賛してもらった廟が義理で駆けつけてきて盛り上げてくれるという「共生共栄」の構図である。協賛する廟の格が劣る場合は、この協賛によって、格上の廟に忠誠を誓い、自分の「分霊」という正統性、そして霊力を強めるのが目的である。なお、自分の廟の陣頭が他所に行く場合は、陣頭にとっては一種の自己誇示、パフォーマンスの場が提供される格好になり、協賛してもらう側にとっても、このようなパフォーマンスによって、自分の祭典に花が添えられることになる。
　今回の遶境
。神與神之交流,行列的說明
○芸陣的介紹
。芸閣及陣頭之不同、源流。
。家將之起源、種類、成員編制。
。家將的特殊性、宗教定位
○家將介紹
。家將的社會定位、社會問題
。台東芸將社的介紹、成立原因及目的
。芸將社的運營、成果及問題
○駙結今後展望

一、
八家将は、台湾の民俗芸能「芸陣」の一種である。芸陣とは、「芸閣」（注）と「陣頭」の総称である。芸閣はその上に説話や吉瑞の動物の飾りをつける車であり、「芸閣」とは現在台湾における一般的な呼称であり、芸閣が初めて歴史書に登場した際には、「山車」や「陸船」と記載されている。これに対し、陣頭は人間が神や歴史人物を扮し、一定の流儀と手順で行う団体芸能のことである。両者の共通点は、ほぼ信仰関係の場にしか現れないことである。即ち、「芸陣」は民間芸能でありながら、「信仰」の場からは完全に独立していない。その中、八家将は人間が直接に神の部将を扮するものであるため、陣頭の中でも信仰色が強い芸能である。
八家将は以上の難点を補い、このような城隍の配下が実体化される民俗芸能である。八家将は城隍などの神が所轄を廻る際に、神輿の行列の先導を歩く者たちの呼称である。台湾では八家将の専門団体が林立し、廟だけに専属して、その廟の行事の時しか出ないものもあれば、各地の廟の委託を受け、それを職業とするものもある。人数は8人、16人、多く32人になる。宗教上の役割は神の護衛と悪霊の駆除、そして罪人の拿捕である。
八家将の宗教色が強い故、祭典以外の場では、なかなかその演舞を見ることができない。一般の場合、八家将が演出される場は、重要視される順で以下の通りになる：
１　所属の神の生誕
２　よその廟の行事や神の生誕に協賛する場合
３　民俗芸能のイベント
４　所属の廟の行事
５　芸陣の大会に出場する場合
（呉騰達　2002）
1 メンバーと演出
　八家将の構成メンバーは甘、柳、謝、范の四大将軍と春、夏、秋、冬の四大帝君になる。甘、柳は刑罰担当及び八家将のリーダーであり、謝、范は罪人の魂の拿捕を担当する。四大帝君は鬼吏と判官の役割を果たす。以上の八人を補い、他に文判（記録判官）、武判（犯人を冥府に送る判官）、雑役などがある。
　八家将の機能と現状
　八家将は現在台湾では、民俗芸能に分類されているが、その本質は寧ろ神事に近い。実際でも、台湾では廟の巡礼以外に、八家将がなかなか見られない。そのため、八家将団体も廟に所属する以外の形では運営することができない。だが、日本統治時代以前の台湾において、廟は村の信仰中心だけではなく、経済、文化教育の中心でもあった。廟の管理人は村のもっとも知識に富む古老に任せ、廟の広場が行商や催事の会場であった。国民党統治時代になっても、廟の広場が村人の憩いと集会の場であり、そのまま村の活動中心（公民館）や託児所になることも多かった。そのため、神の僕である八家将は村人の信仰を団結させる団体であり、祭典の際に八家将に参加したい若者はまず信者委員会の許可を得て、そして神意を伺う儀式を行ってからやっと団体に参加できる。猛々しい作法で行う八家将は厳格な訓練が必要で、村人からも厳しい道徳標準を要求される。成員たちは普段定職を持って、自由時間を使って広場に集まり、先輩たちの指導によって訓練を行った。だが、台湾の経済成長と社会形態の変遷に従い、廟は信仰以外の機能を段々失い、祭典も段々贅沢化してきたため、八家将の形態も変化し始めた。まずは結束力がないため、八家将が所属メンバーに厳しい紀律を要求することができなくなり、伝承されてきた作法や禁忌が段々軽んじられてきた。反面、祭典が即物的になり、贅沢と見栄が重視されるようになったので、八家将のニーズが増大する一方になった。近年に至り、八家将を職業とする集団も現れてきた。だが、このようなプロ集団は決して厳格な紀律に従っているのではなく、逆にメンバー確保のため、構成員の質に拘るなく素行の悪い人間でも入れてしまう。そのため、祭典の際に八家将同士の喧嘩がよく起こり、普段でも八家将がギャングに化し様々な事件を起こすようになった。その現状を変えるべく、台湾の台東大学副教授賴亮郡が生徒を集め、純粋な八家将を本来の民間芸能に戻すことを宗旨とするサークル「台東大学神将芸陣研究社」を成立した。

○調査対象
今回の調査対象は、台湾の台東大学（元台東師範学院）の学生サークル「神将芸陣研究社」である。当サークル（以下は「芸陣社」と記す）は2004年に同大学の教授賴亮郡と有志学生を中心で成立して現在に至る。サークルの主な活動は陣頭の中の八家将を中心に研究することや、八家将を実演するための教習と練習である。八家将の作法を学生たちに伝授するのは、台東市を拠点とする廟「忠合宮」（注）に所属している家将団である。忠合宮の現任信者会会長は芸陣社の指導教官の高校同級生であるため、サークル成立した際、忠合宮は芸陣社の指導を快く応諾したという。そして実際に八家将を実演する際には、サークルだけの成員だけでは人数が足りない場合が多いため、ほぼ半々で陣頭を編成するという。
○八家将の起源
八家将の起源については、明確な伝承がなく、様々な説がある。大まかに整理すれば、以下の五つの説が挙げられる：
一、厄病神（注）「五福大帝」の部將である。
二、清王朝の際、軍隊の伝染病を駆除した神。
三、清王朝の警察系統が神格化した産物である。
四、地蔵王菩薩の部将である。
五、城隍の部将である。
○八家将の歴史背景
八家将は、中国全土だけではなく、同じく福建系移民が世界各地にいたる居住地域にも見られない。その原因の一つは台湾の特殊な歴史風土だと考えられる。清王朝時期の台湾において、国家の治安維持範囲は全土に届けなかった。そのため、村人が祭りに乗じ、神の部将を扮することによって地方の男子を集めて一種の武力訓練をする。なお、神明の「遶境」に、猛々しい八家将の陣頭を見せるのも、一種の武力誇示であり、盗賊や山賊の攻撃を防ぐものである。そのため、清王朝中期から台湾が日本領になるまで、八家将の組織や紀律は非常に厳しく、村の信仰と治安の重鎮でもあった。城隍が逮捕の命令を出す→范、謝将軍が罪人の魂を捕らえる（人間はこの段階で死ぬ）→甘、柳将軍が訊問→四大帝君が拷問→文判が記録→武判が罪人を地獄に送る。
以上のような流れは、大体清王朝の警察機関とは一致している。即ち、現世の警察機関は、あの世にも存在して、そして不正と賄賂がなく、すべての悪が追及されるという「悪事行うべからず」の教化作用を果たしている。

（注）ここで使ったデータは、中華民国内政部民政司の2003年度統計によるものであった。だが、このデータには登録を行った廟しか統計されず、民間に乱立して登録を行わない私的な廟が入っていない。そのため、実際に存在する廟は、恐らくこの数の二倍があると考えられる。比較資料として使われた東京の神社の総数は神社本庁に入っている神社のみであり、神社本庁に所属していない神社や祠は計算されない。だが、以上の事情を考慮して、このデータを比較対象にしても妥当だと考えられる。
（注）温王、名は温鴻、字は徳修。唐王朝生まれで、唐太宗の危難を救ったことによって進士の位を授けられた「三十六進士」の一人である。その後山西の知事になって徳政によって民に愛されながら、なお盗賊の討伐で大功を立てたので王爺の位になった。その後任務のため海難にあって死んだ。皇帝はその死を惜しむため、「温王船」という巨船を作り、その船を海に流してまた全国に温王船が漂流してきたらその地方は盛大に祭り上げようと命じた。
　その後福建省の沿海に海難があるたびに、「温」という旗を掲げた船が救助にきた伝説が広がり、台湾に移民が増えてきた清王朝に、漁業を主な生業とした東港地方に、東港東隆宮が建てられた。（東隆宮温府千歳開基三百周年慶典専集　東隆宮縁起より）
（注）1960年代の台湾省文献会調査によると、台湾の王爺には、106の姓がある。王爺の姓は、その出自を表すものである。例えば、温王爺の「温」は山東省の名字であるが、実際に温王が広く信仰されるのは、福建省一帯の沿海地域であった。
（注）角頭とは、集落、生活圏のことである。そのため、公廟はまた「角頭廟」とも言われ、一定の地盤で稼業をするヤクザでも「角頭」と呼ばれる。東港には七つの角頭があり、それぞれの角頭には公廟がある。
（注）芸閣はまた「詩意閣」とも言われる。車の上に神話や歴史人物を扮する人間を乗せ、様々な吉瑞と草木を飾り、民間伝承あるいは小說や物語のジオラマを再現するものである。台湾静宜大学民俗文化研究室の調査によると、芸閣の起源は漢王朝の上元点燈に遡れる。唐王朝、宋王朝に下ると、「山車」と「陸船」という動的なパフォーマンスが現れた。清王朝中葉に、山車と陸船は祭典の重要な見世物になり、その外見が楼閣に似てるため、「芸閣」と呼ばれるようになった。
なお、清王朝に書かれた朱景英の『海東札記』の中には「俗喜迎神賽會，如天后誕辰、中元普度，輒醵金境內，備極鋪排，導從列仗，華侈異常。又出金傭人家垂髫女子，妝扮故事，舁遊於市，謂之『抬閣』，靡靡甚矣」という記載が見られるため、清王朝の乾隆帝時代以前から、既に芸閣は台湾で盛んになっていたことがわかる。。1873年に書かれた『東瀛識略』の中にも「又有択童男女之美秀者，飾為故事，名曰台閣。数架、十餘架無定，每架四人舁之，先以鼓吹，歴街市，及署而止，官乃賜以銀牌」という記載があり、当時の芸閣は児童で扮し、演奏を加えながら行うものであり、そして政府にも推奨されることがわかる。
○八家将が起こす社会問題
　台湾台中県政府教育局は県内の各級学校に正式公文書を出し、学生の八家将軍への参加を禁じた（2003／03／05自由時報40面記事）。この事件は、台湾でも大きな波紋を呼んだ。台湾に現存する八家将団体は全て禁忌と作法を守っているとは言い難く、八家将という青少年が集まる特性が利用され、愚連隊や暴力団の下級組織に変質したものも少なくない。

（注）「五福大帝」は台湾民間信仰の厄病を追い払う神である。また、「五方瘟神」とも呼ばれる。五福大帝は五人で構成され、その名はそれぞれ張元伯﹑鍾士秀﹑劉元達﹑史文業、趙公明である。伝承では、五人は古代の知識人であり、ある夜共に出かけると、瘟鬼（厄病を流行らせる悪霊）が井戸に毒をいれたのを目撃した。五人は村人を気付かせるために、遺書を書いて井戸に身を投じた。村人がその恩を偲び、廟を立てて彼らを祭るようになった。その後天帝が五人に顕霊公、応霊公、宣霊公、揚霊公、振霊公の称号を与え、彼らに人世の厄病駆除と治安維持の任務を命じた。五福大帝最初は福建省の福州あたりの地域神であったが、この伝承が台湾の厄病神信仰の原型になり、現在南台湾で広く信仰されている王爺信仰の濫觴でもある。

（注）忠合宮は台東市内の精誠路に位置し、発祥は民国三十八年（西暦1949年）に、東港から台東に移住した魚屋黄氏が東港で盛んに信仰される刑府千歲を勧請するため、童乩洪氏を頼み東港の共心堂から分霊してもらった。最初は違法な簡易建築で御神体を祭っていたが、その後強制退去させられ、暫く信者会長廖氏の家に移転した。この際信者も二派に分裂し、信者会長派はその後現在の台東忠善堂になり、片方は精誠路に移転し、現在の忠合宮になる。主神の刑府千歲の他、註生娘娘（子宝を主宰する女神）、福德正神（土地神）、白龍庵五福大帝（疫病神）をも祭っている。廟の運営は信者の寄付で賄い、管理委員会を設置する。信者はほぼ台東県内に住んでおり、その構成は漢民族七割、客家二割、原住民一割になる。なお、神々を奉仕するため、選ばれた信者で駕前什家將を構成する。この駕前什家將の成員で、台東大学芸陣社の学生に八家将のやり方を指導する。この忠合宮の駕前什家將は、台東で最初に成立された八家将団体でもある。
○八家将の禁忌
１　陣頭の三日前から菜食して沐浴する。
２　陣頭に出る前には女性に近づかない。
３　不幸のある家と産婦の部屋に立入しないこと。
４　身内に不幸がある人は参加しないこと。
５　化粧が施されたら私語と飲食を禁ずる。
６　歩道橋の下を通る時は歩道橋上の通行人を疎開する
７　位の高い廟を通る時には、演奏と私語を禁ずる。
８　不幸のある家の前を通る時には、団扇で顔を隠し速やかに通過すること。
９　武器は喧嘩に使わないこと。
１０　行進中には、通行人を割り込ませないこと。
１１　牛肉と蛇肉の食用を禁ずる。
１２　行列に妊婦を入れないこと。