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オリジナル作品展コミュの−−− ビー玉 〜もうひとつの物語〜−−−−

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ママがしんじゃった。

パパとあたしをおいて。

『泣かないで…。僕が傍いるから。』
『うっ…。………。』
『ほら、コレ。僕の宝物。』
『っ……、なに?これ。』
『コレ?魔法の玉。』
『まほう?』

目の前で転がるその丸い玉は、キラキラしてていつの間にか泣いていた事を忘れていた。

『そう…、魔法。コレあげる。』

その日からそれは、あたしの宝物になった。

辺りが暗くなり、空にかざすと、星の光を集めて更に輝きを増した。

あたしは忘れない。この日の貴方の笑顔を…



−−− ビー玉 〜もうひとつの物語〜−−−−

悲しい事があると、この公園によく来てた
。ブランコと小さなジャングルジム、シーソーとすべり台しかない小さな公園だったけ
ど、唯一あたしが涙を流せる場所だった。

その場所も来年、取り壊される事が決まった。

あたしの大切なモノは、必ず無くなっていく。あたしの前から…。

今日はクリスマス。

大好きなあの人は何をしてるのかな…なんて考えながら歩いてたらいつの間にか公園まで
来ていた。

久しぶりの外泊許可がおりて、最初に来た場所。

……きっとこれが最後。


悲しい事があるとよくこの公園のすべり台の下で泣いてたっけ…。

初めて友達と喧嘩した時も、ママの大切にしていた指輪をなくした時も…。

18の時、ママが亡くなった時も…あたしは一人でココで泣いていた。

そんな時、必ず迎えに来てくれたっけ…

『かえろっ!』


そう言って、ただ手を差し出してくれたっけ。

久しぶりにすべり台の下に入ると、なんだか懐かしかった。

あたしは持っていたペンで落書きをした。来年には取り壊される、このすべり台に。


−− 嘘つき。傍にいてくれるって言ったくせに…。−−


それは、あたしを1人この街に残して行ったあたしの大好きな人…稔に宛てたものだっ
た。

稔が出発する日、見送りに行こうとしたけど、急に発作がおこり、あたしの行き先は駅か
ら病院に変わった。

意識を飛ばし、目が覚めたのは一週間後だった。

落書きを残した公園を後にして、タクシーに乗り込むと、もう一カ所あたしの大切な場所
に向かった。

昔なら歩いて行けた距離も、今のあたしには自殺行為になる。

行き先を伝えて数分、目的の場所は冬の空気に溶け込む静けさを漂わせていた。

一緒に通った中学校。すでに廃校になっていて、隙間風が妙に寂しく感じる。

教室の窓から見える夏の花火を、どうしても稔と観たくて、一度だけ誘った。

花火が始まる少し前に、2人で机の上に座って言葉を交わした。


『ママが死んじゃってからさぁ、パパ笑わなくなったんだ…』
『そっか…』
『家が泣いてる。』
『うん…。』
『だからあたしは……泣かない。』
『………』
『あっ!』


お互い顔を見ずに話しをしていた。途中で上がった花火の音に少しビックリしながら、そ
の後は2人黙ってその花火を観ていたよね。


『泣いていいよ…僕の前では。』


最後の言葉…。打ち上げられた花火に掻き消され、あたしには届いてないと想ってるかも
しれないけど…、あたしにはちゃんと伝わってたよ。

すぐ傍にある貴方の手を握りたかったけど、その時のあたしには勇気がなかった。

けど、あの言葉で、あたしは沢山の勇気をもらった。

教室を見渡しても、時間が止まったまま。埃やゴミが散乱している。

黒板には沢山の落書き。

あたしはチョークを一つ手に取り、隅っこに小さく跡を残した。


−− ママが死んじゃった病院、もう行きたくないのにな −−


月明かりで微かに光る教室を後にして、あたしは実家に戻った。


『ただいま。』
『おかえり。』


パパは笑顔であたしを迎えてくれた。


『なぁ…、稔クン、今何してんだ?』
『知らないよ。』
『知らせんでいいんか?』
『いい…。パパ、余計な事しないでよ?!』
『そりゃせんけど…』


パパが言いたい事、痛いほど伝わるよ…。けど、けどね。

あたしは部屋に入ると、ママからもらった宝石箱に宝物を大切にしまうと机に向かった。

もしも…、もしも稔があたしを訪ねて来てくれる時の為に、2通の手紙を書いた。

今まで過ごして来たこの部屋で手紙を書く事も、こうやって机の前に座る事も……

今日が最後。

手紙を書き終えると1階に降りると、パパはもういびきをかいて寝ていた。

パパのいびきも…。

あたしはママが眠る仏壇の前に座ると、いつもの様に話し掛けた。


『ねぇママ、あたしもうすぐママに会いにいくよ。でもね、一つだけ心配な事があるの。
パパ、これから一人ぼっちで大丈夫かなぁ?ママがいなくなっちゃった時もグダグダだっ
たから…。一応、必要な事はノートに書いたんだけどね。ママ、あたしね、一つだけ後悔
してる事があるんだ…。でもそれは、そっちに行ってから話すね。明日には病院に戻るか
ら、そう遅くないと想う。ママ、メリークリスマス。』


この時、隣の部屋で寝ていたパパが起きていた事も、声を押し殺して泣いていた事も。あ
たしは最後まで知らなかった。


『パパ、ありがとう。どうせ明日も来るんでしょ?』
『仕事早かったらな。』
『そっかぁ…。あっ、そうだ。ちょっと駅に寄ってくれる?』
『あ?……あぁ。』


あたしは昨日書いたうちの1通を白い封筒に入れて駅のロッカーに入れた。

もう1通はあたしの部屋に置いて来た。宝物と一緒に…。


『じゃあ、また明日ね。』
『ちゃんと寝ろよ。』
『わかってるって。パパ………メリークリスマス』
『!?』


あたしはそう言ってパパを抱きしめた。出せる力を振り絞って。

手を振るあたしを見るパパは泣いていた。それを見てあたしも泣きそうになった。


『おかえり。身体、大丈夫だった?』
『大丈夫だよ〜。ってか今日クリスマスなのに仕事!?さみしー。』
『うるさいっ!早く部屋戻りなさい。』
『はぁい…、あっそうだ!持ってきたよ?写真。』
『あっホントに?好きな人だっけ?』
『うん…。ってかさぁ、見せてあげるからお願い聞いて。』
『なに〜?あたしに出来るコトならするけど〜?』
『うん。大丈夫。絶対出来るから。』
『そう?』


まだママがいた頃、3人で撮った大切な写真。3人とも笑顔ですごく幸せな瞬間だった。


『ほら、ココで撮ったんだよ!』
『どっちが彼〜?』
『ひっど〜!!わかるでしょ?こっちのかわいらしいのがあたしっ!』
『う〜ん、そう言われれば…なんとなく…』
『もういいよ…。』
『ごめん、ごめん。それでお願いって?』
『あっ、うん。』


あたしがいなくなっちゃった後に、もしも彼が訪ねて来るような事があったら、この写真
を渡して欲しい事。


『……でも、』
『見たんだからちゃんとお願い聞いてよねっ!』
『でも……。それにコレ。』
『あたしからの最初で最後のプレゼントの引き換え券だからっ!!』


病室に戻ったあたしには、最後にやらなきゃいけない事があった。

ママがいなくなってから、今まで育ててくれたパパへの手紙。

−−− パパへ
パパを一人ぼっちにするのは不安だけど、そろそろお迎えが来るみたい。
いつも仕事で疲れてるのに、毎日欠かさず会いに来てくれてありがとう。一日の中で、パ
パとの時間が一番楽しかったし、幸せだった。
それと、稔の事。最後まで気にかけてくれて、本当にありがとう。だから、最後に1つだ
けお願いがあるんだ。もうひとつの封筒を、もし稔があたしを訪ねて来る事があったら渡
して欲しいんだ…。まぁ、多分ないだろうけどね。
ホントに最後になっちゃうけど、あたし、パパが大好き!ありがとう −−−


容態が急変したのは、その日の夜中だった。駆け付けてくれたパパの声が遠くの方で聞こ
えた気がして、パパの暖かい手を握りながらあたしはママの元へ向かった。

宝物と一緒に置いて来た手紙…

いつか稔の元に届くといいな…。


−−−
やっと来てくれたんだね。
ありがとう。

本当は言わないておこうと想ったんだけど、ちゃんと言わないと後悔しそうだったから、
手紙だけど、ちゃんと言うから笑わないで聞いてね。
ママが死んじゃった時、くれた魔法の玉。
今考えると恐ろしいくらいセンスない名前だよね…。
だって、魔法はいいとして“玉”って…。

でも…、それでもね、3歳だったあたしにはすっごい影響力だったんだ。
大切な宝物をあたしにくれたんだよね。
ありがと。
あの日から、あたしの宝物でもあるんだよ。
花火大会の夜、始まる前に話してたの覚えてる?話の途中で花火が始まっちゃってそのま
まになっちゃってたけど、あの時言ってくれた言葉、ちゃんと伝わってたよ!
いつでも泣ける場所があるんだって想ったらその後全然平気だった。

でも、急にいなくなっちゃうんだもん…。
あの日、止めなかったのも、見送りに行かなかった事もすっごい後悔した。
こんな事になるなら……、ちゃんと行けばよかった。。。



あたしね、傍に居てくれるって言ってくれた日から今日まで…大好きでした。
それから…、これからも大好きです。


…言っちゃったぁ。
でも、今この手紙を読んでるって事は…


あたしもう会えないんだね。
ありがとう…、いっぱいありがとう。

あたしの宝物、あたしの代わりに持ってて。

大切にしてね。


         香苗
−−−


その日、あたしの生まれ育った街は、暖かい雪に包まれた。

コメント(1)

アンソロ:クリスマスで書いた『ビー玉』の
もう一つの物語。

こっちも哀しいです。。。

ゴメンナサイ。

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