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意味不明小説(ショートショート)コミュの路地

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彼は寝転んで、指先を見つめていた。やがて窓の外、遥か彼方から、その音は近づいてくる。

水銀のように大気の抵抗が少ない場所をパリパリと、食みながら、気圧の変化は地面を振動させる。

外は奇妙に晴れ渡って、写真のように、動きがあせて見えた。音はなおも近づいてくる。空の見える場所を探した。路地の先にごみ収集車が止まっている。シリンダーに気密された圧縮ガスの途方も無い力であらゆるモノをひき潰す、巨大な。彼は足を止めた。

彼はごみ収集車が怖かった。
なぜごみ収集車が自分の死に関わっている気がするのか、彼には分からなかった。しかし運命がその最期に彼を引っ立てる場所が、結局あの醜悪な、歯の抜け落ちた空虚なんだという強迫観念は、しつこく彼につきまとっている。
強迫観念。それは愚かしく切実で、背筋の凍る暗い直感。彼にとって、これ以上明確な事はなかった。
とにかくごみ収集車は、まともに考えるには少し、凶悪すぎるのだ。

路地を別の方向に歩いていくうち、やっと小高い場所に出る。昔ここで、大きなヘビを捕らえた。それは黒々として、どうしてか、古いタイヤの下から動こうとはしなかった。街は投げやりに、眼下に広がる。

飛行機は、思ったほど近くはなかった。遥か遠くを、ほとんど動かずに飛んでいる。

彼は全てのモノを揺るがす、輝く太陽を映した銀色の機体が見たかった。
精神病患者の塗ったような青色の上に、白線を引いて航行する姿を。
そして、危険なほど実体を備えた、ぶ厚い白雲に、やがて消えるのを。

太陽。彼は言った。スペイン。ガードレール。ハーモニー。携帯を取り出して、写真を撮ろう。
二つの世界を。俺は二つの世界に住んでいる。ううむ。あるいは、真実の伴う悪い嘘だ。悪いうそ。

もうやめろ。

彼は黙った。
ナイーブで、決定的に危うい一瞬。

飛行機はいつのまにか、見えなくなった。
どうしてこんな所までわざわざやって来たのだろう?あの時蛇はどこにいたっけ。正確には?

そして、卵が割れる音がした。
痛みの激しさに彼は、顔を歪めた。知らぬ間に圧縮された時間が急激に破れ飛び、旅客機が彼のすぐ上を通過した。ほんの数十メートル上空。彼は這いつくばって頭を抱え込み、グロテスクな轟音に、泣き声をあげた。

長い時間が経ったように思えた。
頭の痛みもやがて、灰のように消えた。
呼吸を整えて眼を見開くと、そこに世界が、新たな方法を彼に示していた。

左手と右手の長さが違って見える。彼は愉快になった。何より、よそよそしかった景色は今や生命を彼に分け与えていた。梢の葉脈や、カモメの狂ったような瞳孔や、遥か眼下の建物の影で洗濯をする老婆のスカートの、紺とオレンジのパターンまで見えるようだった。

立ち上がるとすぐ自販機を探して動きだした。歩き始めてすぐ携帯が、まるで爆弾並みに重くそのうえ、やっかいな代物に思えてきた。彼はソレを片手でへし折り、捨ててしまった。

彼は歩く。脚を時計の針のように交互に使い。決められた一つの方向に。昼の街灯に貼り付いた蛾が、その死の向こうから、こちらを眺めていた。今こそ、彼は最高の状態だった。痛みさえ懐かしく思った程。

やがて自販機の前まで辿り着き。コインを入れて、ボタンを押した。
バシャリと音がして、取り口に水が跳ねた。


「愚かな田舎者め」

自販機が静かに喋り出した。

「朝は目を覚まして、しっかりと食べて、夜は寝る。たったこれだけのことが、どうしてうまくできないんだ?」

「俺は、結構都会育ちだぜ」

「何だって?」

「何でも無い。飲み物を出せよ」

ボタンを押す。よせ!ボタンはさっき押した。
彼は自分を叱りつけ、笑い声をあげた。

「ほら、早く出せ」

自販機が告げた。

「ダメさ」

「オンボロのラジコン野郎め」

「君は、血が薄まってる。頭も身体も、ダメになりかけてる」

「俺が筋肉ムキムキのジムのトレーナーとかだったら、アクエリアスを出してくれたのか?」

「君は死ぬんだよ」

「話にならないな」

もう一度ボタンを押した。
すると今度は自販機が左右にするすると開き、彼は自販機に乗り込んだ。

その時、ごみ収集車のエンジンとプレス部分が作動した。


コメント(2)

>>[1]
初めまして。本当ですか!
褒めていただいてとても嬉しいです。
ありがとうございますm(__)

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