ダンテス・ダイジの教えを学ぶコミュの管理人の体験

【　諸悪莫作の実践　】

私は作曲を辞める少し前から指揮を始めるまでの数年間、２０代の終わりに、
音楽を離れて自分を見つめる日々を過ごしていた時期があります。

在家の老師の許で道元禅を学び、老師が亡くなった後は福井県の禅寺に行きました。
結果として身体を壊してしまったのですが、いわゆる悟りとは程遠いものの、
幾つか気付かされた事がありました。

キリスト教系の宗教学者は、禅仏教は宗教ではないと言うそうですが、私もそう思います。
いわゆる教義というものを信じる事を前提とせず、
正直に各自の抱える問題を直視する道だからです。

各自の抱える問題を、《疑団》と呼びます。

私の場合、《孤独と愛》が疑団でした。

具体的には、作曲で尊敬する２人の先生方からあり得ないほど過分な評価を戴き、その気になって必死で数年かけて書いた協奏曲が複数のコンクールに落ちて、
当時すべてのコンクールの審査員をされていた別の先生の同性愛の相手をすれば優勝させてもらえる、という話を聞いて、結果として作曲を辞める事になったのですが、

その頃、ある先生から『君は３年間、血を吐くような思いをして書いたに違いない。』と努力に関しては理解して頂いた,その努力の動機が、
実は名声を求める虚栄心からのものであり、
『自分は果たして本当に音楽を愛しているのか？音楽を虚栄心のための道具にしているのではないか？』
という疑いを否定できない自分がいました。

また、協奏曲を書き始めた頃から、何をしても埋められない激しい孤独感に苛まれ続けていました。

途中経過は省略致しますが、座禅を通じて私なりに気付いた事は、

【　自分は他人や音楽を、孤独感・空虚感を埋めるための道具に使っていた。それは愛ではない(音楽を愛している、とは言えない) しかし孤独から逃げる事はできない。
自分の孤独を受け入れない限り、何かを、又は誰かを愛する事は決してできない。　】

というものです。

オペラや小説、交響曲などで展開される愛憎劇・喜怒哀楽、人間の光と闇の両面を私はとても愛しいもの、でもあると感じていますが、
自分にとって都合のよいものは愛するが、都合の悪いものは憎む、少なくとも愛せない。この、《愛憎》が、我々人間のありのままの姿だと思います。

そしてそこには逃れられない孤独感や空虚感が必ず伴います。

亡くなった老師の著作には、自己・自我意識そのものが孤独感や空虚感の原因であると書かれていますが、恐らくそうなのだろうと思います。

その後、身体を壊して座禅は物理的に続けられなくなったのですが、

私の中で、この《愛憎》以外の行動原理を作ろうと、二つの努力が始まりました。

一つは、自分にとってどうかは脇に置いて、相手や対象物そのものの質を素直に感じたところから、自分の行動を始めてみようという事です。
単純に申せば、花が水を欲しがっていると感じたら水をかける。空気が濁ってきたと感じたら窓を開ける。など、です。
そして、自分に向けられた負の感情などには対立的に取り合わず、悪循環を作らない事です。

もう一つは道元禅師の《正法眼蔵・諸悪莫作》の教えで、

①心に疚しいことをしない。
②善と思う行動をする。
③善悪の基準が間違っていたと感じたら、即座に改める。

というものです。③が最も重要だと思います。

勿論、これらを完全に行える強さは私には無く、外れてばかりなのだろうと思いますが、
現在のところ、これが私の体験に基づく真の愛情の本質についての見解です。

オーケストラの現場でもこのような在り方を心掛けているつもりですが、

省みると、厳しい現場ほどそのような余裕が失われている傾向があるのではないかと反省しております。

また、異なる多くの種類のメンタリティを持つ人々の集まるこの社会に於いて、
このような立場が必ずしもポジティヴな結果をもたらすとは限らない、という事が、現時点での反省です。非常に悩ましいところだと思います。

2013年10月8日

コメント(6)

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[1] mixiユーザー 05月23日 20:55

なかなかヘビーな体験をされてたのですね。。
大変でしたね。。

　
一つ前の、師弟関係のトピックに書こうか
こちらに書こうか迷いました。

久松真一さん？の手紙を受けて
思ったことを書こうと思ったんですが、
　
そもそも、禅の中から攻める場合に
oshoは、たしか悟りをクリエイティブな方面から攻めるクリエイション的な感じで書いていたと思います

禅は、その性質から
空間的に自己のない〈絶対無〉を
その主座にしますが
　
個人的な見解ですが、
空間的な認識が極まる人は
多いかと存じます

（余談ですが、
禅の数々の師の本を読んで、
禅の極まりは化物である龐居士の子である
霊照によって結晶化しているように感じました
個人的にですが

なぜなら、霊照は、
禅から覚醒に至らず
すでに至りから禅の世界に遊びに来たかのように
思えたからであり、同時にギョッとしました。）
　
人生経験の中で
おそらく、魂に必要な？
統合と経験という学びがあり、
それをもって禅で結晶化するかは
たしかに、それまでの魂の旅路に
よるように思います。
　
それは、たぶん
空間的な認識知を持ってしても
近づけない味わい深いものです
　
ぼくは、覚醒に興味がなかったので
世界平和に関して心を砕いていたように
思います

あのとき、世界に関して
これで良いのだろうか？と
悩みというか、思ってました

しかし、同じ状況をペーストしたところで、
個々人の個性が失われてしまいます

よくあるのが、
覚醒の状態をコピー＆ペースト
することで、個人を失うことです
「私は、無の始まりである」というように
　
共通的感覚知である「空」を
共通のスローガンを使い
自分を無くした　とします

しかし、絶対無であり
遍在は、個性もまた際立ちます

なので、個人の大切な日々が
大切なのだろうと思います

空間知により、悟りを近似する運動が
さかんですが、そこには何もない
空虚なものであって

真に自分の人生に寄り添う中に
その階梯があり、
だからこそ、遍在としてのワタシに
ぴったらと会う瞬間があり

だからこそ、大切な自分なのだろうと
思います

自分は、覚醒に興味がありませんでした
　
人類の総合的集合意識が
向かう先に興味がありますが
　
それが恩寵だったのかもしれません。

なので、
自分自身をめいいっぱいに大切にできること
自分自身を覚醒のためにめいいっぱいに捧げること
自己を超えていくこと
自己を強化に創り出すこと

結局は、これら全て
同じ話であり
カタチの色んな変容であり

まったく同じ一から
発生しているのであれば

どれも同じこと

しかし、分からなくても
個性の情熱の燃焼の中に
個聖が宿り、
ソレが流れ出すのなら
その歓喜のうちに
個を生きることもまた、必要なのかと
思います

なので、長くなりましたが。。

そのままの方向で
いいのではないでしょうか(^ ^)

[2] mixiユーザー 05月24日 13:04

>>[1] コメントありがとうございます

。貼らせて頂いたレポートは、某音大指揮科に勤めていた頃に、オーケストラ授業のあり方に対して、現状分析と提言を書いて教授に出した後、教授との関係が悪化し、その数年後にまた出したレポートの冒頭近くに、私のスタンスを書いたものです。

覚醒体験の無い私からは想像するしかないお話しかと思いますが、繰り返し味読させて頂きますね

。

[3] mixiユーザー 05月26日 15:41

>>[1] 私の方向性は、この雨宮老師の遺稿の中の一文と一致していると思います。
ーーーーーーーーーーーーー

男性は自己の生命を捨ててもいいという風に生きなければ悟り、至福、エクスタシーに目覚めることはないのだ。

純粋なる坐禅冥想は勿論、全面的な死への道であり、全面的な至福への道であるが、それはごく限られた人々のものでしかない。

そこで男性は、職業、家庭、友情、使命などに生命をかけねばならないのである。

それらが自己満足としてあるのではなく、自己放棄としてあらねばならない。
つまり、自己満足の虚しさと恐怖の構造を理解して、自己満足ではない、純粋に正しい行為を生きつづけるのだ。
たとえ、その行為の結果が完全に失敗に終わっても、である。

至福ハンドブック＝死とＳｅｘ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　’83 Sept,3
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Form　ダンテス・ダイジ　　より。

[4] mixiユーザー 05月26日 15:45

>>[1] また、その方向性は、雨宮先生も『本物だ。』と評価されていた、私の作曲の恩師の生き方の影響下にあるものです。
次に、恩師について書いた一文を貼らせて頂きます。

[5] mixiユーザー 05月26日 15:46

>>[1]

【恩師・池野成先生の作曲士魂】

『《常住死に身》ですよ、津田君。』池野成先生のご指導の下、東京音大作曲科で３年間取り組んだチェロ協奏曲の作曲中に質問の電話をさせて頂く度に先生から戴いた言葉である。

管弦楽法ゼミでの『春の祭典』要約譜作成から始まった門下としての学びは、作曲技法のみならず前出の武士道の箴言を始めとした先生の所謂《作家魂》を喚起する教えに裏付けられたものであった。

《作曲は職業ではない。All or Nothingであり、作品が歴史に残るものでなければ意味が無い。》《作家たるもの、右顧左眄せず、ひたすら自己に忠実であるべき。》等の教えを通して仰ぎ見る先生の姿は、
その高潔さと苛烈なまでの真摯さに於いて、私にとっては『はした金ななど求めず星を求める生活をせよ。』と語り、孤独な苦闘を生涯続けた楽聖・ベートーヴェンに代表される《音楽の求道者》そのものである。

と同時に人を傷付ける事を何よりも嫌う繊細な優しさを兼ね備えた人間性は、厳格な剣の達人でありながら家人や弟子には柔和だったという、江戸初期の東郷重位や幕末の男谷信友等の武士道を彷彿とさせる。

そして親友であられた松村禎三先生による追悼文には、先生がこのような潔癖な生き方を貫徹する上での苦悩について言及されている。

音楽観に於いてロマン主義を廃し《音楽は音楽以外の何物も表現しない》を旨とされていた池野先生ではあるが、その謂わば《作曲士魂》故の真摯さや静謐・熱狂と共に鬼哭啾啾とした気場がRapsodiaConcertanteの響きの中には横溢しており、筆者は指揮しながら震撼させられたものである。

【熱狂させてくれなければ音楽ではない。】

この師の言葉が端的に表す独自の作風はEvocationで確立し、Timpanata、FragmentAntique(いずれも低音金管楽器と膜質打楽器を中心としたアンサンブル作品)で深化した。

それは《古代主義》とも称され、チベットや日本の仏教音楽、能楽や和太鼓、アフリカ音楽などの研究に基づくものであるが、

その発想の原点はEvocatiionに先立つ舞踊曲「増殖儀礼」の作曲家自身による以下の解説文から読み取れる。

『火の如き素手で打ちまくるドラムは何日もの間絶えることなく続くこともあると云われる。
踊り手は踊り続け乍ら足で地面を掘り起こし遂には彼等の様体の全部が地中に没するまでその穴を拡げ疲労の極に倒れても更に全身の痙攣によって踊りを続けようとする種族もあると云うことである。
未開族の聖歌が我々に告げるあの主体が完全な忘却のなかに消え去る個別法則の崩壊。
無意識界の本能的なエネルギー。
猥雑なまでに活力に満ちた生命的な叫び声、作曲者である私にはこのようなコセモスを作りたいということが常に関心と興味の中徳となるのである。』

【 RapsodiaConcertante 】

筆者は池野成先生から《真のオリジナリティ確立のため、西欧近代までの名曲のスコアを充分に研究した上でそれを否定せよ。》との教えを受けたが、

RapsodiaConcertanteに於いては上記の民族音楽研究に加えて、StravinskyやRavel等西欧近代音楽の書法研究の成果も融合されたと思われる。

曲は、開始部の暗鬱な独奏からTimpaniSolo等徐々に各楽器が加わり、梵鐘と読経の響きを経てチベット仏教の荘厳な儀式に至る(～10:58)。
その後戦闘的な独奏と炸裂するTuttiの後、荒涼とした響きを背景に独奏が鬼哭啾啾と詠う(～18:24)。
烈風で砂塵が舞い上がるようなTuttiの短い間奏の後、Timpani同様厳密に調律された膜質打楽器群が加わり、躍動的な独奏と立体的で多彩な変化を伴うオーケストラの激烈な変拍子やポリリズムが聴き手を熱狂に導く。

2015年3月、長年の念願が叶い、荒井英治氏という理想的なソリスト、若く情熱溢れるEnsembleBuono!と一緒にこの傑作を演奏する事が出来ました。

泉下の恩師にこの録音を捧げると共に、作曲家・池野成の作品世界を出来るだけ多くの方々にお伝え出来きれば幸甚です。 2017年9月池野成門下、指揮者・津田泰孝拝
  
 
 
 

[6] mixiユーザー 05月31日 03:55

>>[5]

どちらに先にコメントしようか
迷いましたがこちらを先に返させて頂きます(^ ^)

なんか、凄いですね、、
もちろん、音楽的なことは
むずかしくて
まったくついていけないのですが笑

いや、なんていうんだろう
そこまで、真摯に深く
己を持って真剣に取り組む人は
少ないと思います

ダンテスの指導として、
死に体の自己にくさびを打ち
そこを舵とすることで
一連の道の単純化と
罠を少なく通り抜ける道を
指南したと見受けられますが

だからといって、
そこにコミットして進もうと
思う人は、少ないと思います
　
冥想にかける青春と
言わせて貰えばよいのか

道元的と言わせて貰えばよいのか

なんというか、
それを音楽の道の上でされてるのが
素敵ですね、
同時に大変だったと思います
　
何人が共にするのかという。。
　
　
本当にシンプルな場所では、
微笑みがそこらじゅうにあり
柔和さが堅固さの中に染み入っています
　　
情熱と冥想の一致する点
境目があります
そこは、情熱と冥想のあいだで
かといって、
そこは、
情熱を拒み、冥想を抵抗する場所では
ありません

情熱と冥想に影響されず
静かです

そして、
情熱と冥想をもち緩やかです
　
柔和さが、
情熱と冥想を打つ時、
　
存在は、両方に
浸透しましょう

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