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コメント(359)
３１９番の続きです。いらないハナシかもしれませんが、ちょっとはさみます。すみません。
寿司店の職人さん達は閉店後、店内を片付けながら、しばらく話し合っていました。
「これまでは、外国人の同性カップルはいたが、ついに日本人でも現れたとはな。。。」
板長が、感慨深そうに一言言いました。そこで、ベテラン職人が声をあげます。
「でも、板長。なんの問題もなかったじゃ、ありやせんか。きれいに注文されて、きれいに食べてくださって、帰っていかれやした。板長の握った寿司が、今日もお客さんを幸せにしたってことで、なんの問題もありやせん。」
そこで、ベテランさんの下の若手が言いました。。
「そうですよ、板長！おいら、あのお二人は、満足されてお帰りになったと思いますよっ！」
板長がクスッと笑いながら言います。
「おう、太郎。お前、うそばっか言うんじゃなかったのかい！？」
「へいっ！！おいら、確かにウソはつきますが、あのお二人は、本物だと思いましたっ。」
「板長、この太郎までが言うんです。今夜の板長の仕事は、カンペキだったんですよ。」
「ですよっっ！！」
板長は軽く笑って、「ふたりとも。ありがとうな。。。」
と、ひとこと言って、生ゴミの処理を始めるのでした。
ベテランさんと、太郎と呼ばれた若い衆もうつわの片付けなどを続けるのでした。
「あのお二人、幸せになってくれるといいな。。。」
「きっと大丈夫ですよ、板長！！」
「ですよ、ですよっっ！！」
（個人的には、板長は國村隼さん。ベテランの職人さんは内村さん。そして太郎はお源さんでお願いしたいです。無理ね。）
寿司店の職人さん達は閉店後、店内を片付けながら、しばらく話し合っていました。
「これまでは、外国人の同性カップルはいたが、ついに日本人でも現れたとはな。。。」
板長が、感慨深そうに一言言いました。そこで、ベテラン職人が声をあげます。
「でも、板長。なんの問題もなかったじゃ、ありやせんか。きれいに注文されて、きれいに食べてくださって、帰っていかれやした。板長の握った寿司が、今日もお客さんを幸せにしたってことで、なんの問題もありやせん。」
そこで、ベテランさんの下の若手が言いました。。
「そうですよ、板長！おいら、あのお二人は、満足されてお帰りになったと思いますよっ！」
板長がクスッと笑いながら言います。
「おう、太郎。お前、うそばっか言うんじゃなかったのかい！？」
「へいっ！！おいら、確かにウソはつきますが、あのお二人は、本物だと思いましたっ。」
「板長、この太郎までが言うんです。今夜の板長の仕事は、カンペキだったんですよ。」
「ですよっっ！！」
板長は軽く笑って、「ふたりとも。ありがとうな。。。」
と、ひとこと言って、生ゴミの処理を始めるのでした。
ベテランさんと、太郎と呼ばれた若い衆もうつわの片付けなどを続けるのでした。
「あのお二人、幸せになってくれるといいな。。。」
「きっと大丈夫ですよ、板長！！」
「ですよ、ですよっっ！！」
（個人的には、板長は國村隼さん。ベテランの職人さんは内村さん。そして太郎はお源さんでお願いしたいです。無理ね。）
３２０番の続きです。
空港を出た春牧のふたりは、早く帰りたいこともあって、タクシーを使い、家に帰ってきました。
「ちょっと贅沢じゃないですか？」「たまには、いーじゃん。タクシーなんておれも久しぶりだよ。」
手を握り合い、微笑みあって顔を見合わせるふたりでした。
そして帰宅して、ふたりはばたばたと忙しくなりました。ふたりとも、ざっと上着を脱ぎ、洗面所を交互に使って、手を洗いうがいです。それからストーブに火を入れます。
そこからすぐ牧くんは家の中のあちこちを点検し始めるのでした。
「春田さーん。とりあえず、お風呂沸かすからー。」「うん。お願いー。」
「あ。台所、朝のそのまんまですか？」「いや、こんなの今からすぐやるから。」
「洗濯物もたまってたし。どれくらい放置してたのー？」
「そのー。。。シンガポールから帰ってきてから。。。」
恥ずかしそうにすねたような表情の春田さん。はーっとため息をついた牧くん。
「しょーがねーな、明日朝から洗濯やんないと。他にもためてるのないの！？全部出してっ！！」「ふあ〜〜〜い。。。」
牧くんてきぱきと進めていきます。まず、ざっと台所を片付け、洗濯物を整理して洗濯機に順にセットして、翌朝に合わせてタイマーをかけます。
その間に春田さんは、部屋着兼パジャマのスウェットに着替えていました。
牧くんはまだ、ワイシャツとスラックスのままです。
春田さんは、パタパタと動き回る牧くんと対照的に、少し所在なげに台所の作業台に腰を下ろし、少しぼんやりと天井を見上げていました。
「よーし。あとは、お風呂を待つだけだな。」と、牧くんがほっと一息ついて言いました。
リビングに戻ってきた牧くん。台所の作業台に腰掛ける春田さんと、ぱちんと目が合います。
「しばらくしたら、お風呂できますからね。」
春田さんはそれに答えず、スウェットのポケットに手を突っ込んで、まるで捨てられた子犬のような目で、牧くんを見つめています。
「なに。どうしたの。」心配そうに問いかける牧くん。
牧くんの顔を見ているのに、言葉のない春田さん。左手でぱたぱたぱたっ！と、手招きをします。
「何なんですよー。」牧くん、春田さんの前に立って、春田さんの髪をくしゃくしゃと優しくなぜながら、おでこをコツン！と合わせました。
すると春田さんが牧くんの腰に両腕を回してきました。作業台に腰掛けている春田さんは、ウルウルしている目で、上目遣いで牧くんを見つめます。さっきから何も言わない春田さん。
「春田さん？」牧くん、やさしく春田さんの頬をなぜます。何も言わなかった春田さんが、口を開きました。
「、、、あのね。」「うん。。。」「おれさ、やっぱさみしかった。」春田さんが、ぼそりとつぶやきました。
「春田さん。こないだ、シンガポールで会ったばっかじゃないですか。」
「ごめん。牧が仕事頑張ってすごく生き生きしてるのは、分かってるし、それは本当に心から応援してる！メールも電話もできるんだ。でもさ。こうやって、そばにはいないんだって、確認する作業みたいでさ。なんか余計にさみしくてさ。」
今にも涙がこぼれ落ちそうな春田さん。一瞬、見つめ合うふたり。牧くんは、春田さんの髪を撫ぜていた両手を、春田さんの首と背中に回して、ぎゅうっと抱きしめました。春田さんの耳元で、うめくように言います。
「おれだって。おれだって！！さみしくないわけないでしょっ！？」
ふたり、しばらく抱きしめ合います。そっと身体を離して、牧くんが口を開きます。
「でも、でもおれ、さみしくても、春田さんがおれのこと応援してくれてるって思ったら、頑張れるんです。おれ、仕事の成果も出したいし、何より仕事で夢叶えたいし、それに何より、春田さんに恥ずかしくないおれになろうって思ってるから。」
「牧はおれにとって、恥ずかしい存在なんかじゃないぞ。」
「えっ。でも、おれ、春田さんより年下だし、経験値足りないし、自信が足りないって言うか。。。」
「牧はいつでも努力してて頑張ってる。牧はおれの自慢の伴侶だ。一生の。おれ、牧と一生ずっと一緒にいるからな。」「春田さん。。。」見つめ合うふたり。
「りょうた。。。」「そういち。。。」春田さんが下からすくい上げるようなキスを始めました。牧くんは、されるがままに受け入れていました。
お風呂のタイマー音を無視して、ふたりはしばらくむさぼり合うように抱きしめ合い、キスをしているのでした。
続けまーす！！すみませーん！！
空港を出た春牧のふたりは、早く帰りたいこともあって、タクシーを使い、家に帰ってきました。
「ちょっと贅沢じゃないですか？」「たまには、いーじゃん。タクシーなんておれも久しぶりだよ。」
手を握り合い、微笑みあって顔を見合わせるふたりでした。
そして帰宅して、ふたりはばたばたと忙しくなりました。ふたりとも、ざっと上着を脱ぎ、洗面所を交互に使って、手を洗いうがいです。それからストーブに火を入れます。
そこからすぐ牧くんは家の中のあちこちを点検し始めるのでした。
「春田さーん。とりあえず、お風呂沸かすからー。」「うん。お願いー。」
「あ。台所、朝のそのまんまですか？」「いや、こんなの今からすぐやるから。」
「洗濯物もたまってたし。どれくらい放置してたのー？」
「そのー。。。シンガポールから帰ってきてから。。。」
恥ずかしそうにすねたような表情の春田さん。はーっとため息をついた牧くん。
「しょーがねーな、明日朝から洗濯やんないと。他にもためてるのないの！？全部出してっ！！」「ふあ〜〜〜い。。。」
牧くんてきぱきと進めていきます。まず、ざっと台所を片付け、洗濯物を整理して洗濯機に順にセットして、翌朝に合わせてタイマーをかけます。
その間に春田さんは、部屋着兼パジャマのスウェットに着替えていました。
牧くんはまだ、ワイシャツとスラックスのままです。
春田さんは、パタパタと動き回る牧くんと対照的に、少し所在なげに台所の作業台に腰を下ろし、少しぼんやりと天井を見上げていました。
「よーし。あとは、お風呂を待つだけだな。」と、牧くんがほっと一息ついて言いました。
リビングに戻ってきた牧くん。台所の作業台に腰掛ける春田さんと、ぱちんと目が合います。
「しばらくしたら、お風呂できますからね。」
春田さんはそれに答えず、スウェットのポケットに手を突っ込んで、まるで捨てられた子犬のような目で、牧くんを見つめています。
「なに。どうしたの。」心配そうに問いかける牧くん。
牧くんの顔を見ているのに、言葉のない春田さん。左手でぱたぱたぱたっ！と、手招きをします。
「何なんですよー。」牧くん、春田さんの前に立って、春田さんの髪をくしゃくしゃと優しくなぜながら、おでこをコツン！と合わせました。
すると春田さんが牧くんの腰に両腕を回してきました。作業台に腰掛けている春田さんは、ウルウルしている目で、上目遣いで牧くんを見つめます。さっきから何も言わない春田さん。
「春田さん？」牧くん、やさしく春田さんの頬をなぜます。何も言わなかった春田さんが、口を開きました。
「、、、あのね。」「うん。。。」「おれさ、やっぱさみしかった。」春田さんが、ぼそりとつぶやきました。
「春田さん。こないだ、シンガポールで会ったばっかじゃないですか。」
「ごめん。牧が仕事頑張ってすごく生き生きしてるのは、分かってるし、それは本当に心から応援してる！メールも電話もできるんだ。でもさ。こうやって、そばにはいないんだって、確認する作業みたいでさ。なんか余計にさみしくてさ。」
今にも涙がこぼれ落ちそうな春田さん。一瞬、見つめ合うふたり。牧くんは、春田さんの髪を撫ぜていた両手を、春田さんの首と背中に回して、ぎゅうっと抱きしめました。春田さんの耳元で、うめくように言います。
「おれだって。おれだって！！さみしくないわけないでしょっ！？」
ふたり、しばらく抱きしめ合います。そっと身体を離して、牧くんが口を開きます。
「でも、でもおれ、さみしくても、春田さんがおれのこと応援してくれてるって思ったら、頑張れるんです。おれ、仕事の成果も出したいし、何より仕事で夢叶えたいし、それに何より、春田さんに恥ずかしくないおれになろうって思ってるから。」
「牧はおれにとって、恥ずかしい存在なんかじゃないぞ。」
「えっ。でも、おれ、春田さんより年下だし、経験値足りないし、自信が足りないって言うか。。。」
「牧はいつでも努力してて頑張ってる。牧はおれの自慢の伴侶だ。一生の。おれ、牧と一生ずっと一緒にいるからな。」「春田さん。。。」見つめ合うふたり。
「りょうた。。。」「そういち。。。」春田さんが下からすくい上げるようなキスを始めました。牧くんは、されるがままに受け入れていました。
お風呂のタイマー音を無視して、ふたりはしばらくむさぼり合うように抱きしめ合い、キスをしているのでした。
続けまーす！！すみませーん！！
やけくそです。３２１番の続きです。
さて、お風呂のあと。ふたりはすでにベッドの中で、眠りに落ちかけていました。
ふたりとも、色違いで一面星柄のおそろいのスウェットを着て、あお向けで手を握っていました。
「今夜はごめんね。そういち。」「気にしなくていいよぅ。りょうたはフライトもあったし、疲れたろ？」「うん。それに明日は朝から洗濯とか掃除もあるし、、、ふわあああ。。。」
大きくあくびする牧くんに春田さんが言います。
「おれもやるから、どんどん指示してよっ。」「ふふっ。言いましたねー？」
ニヤッと笑う牧くん。
「おう！おれ、がんばるよっ！」
「へへへっ。うれしいけど、そういちのハナシは半分くらいで聞いとく。」
「えー？何だよ、それー。」
ふたり、くすくすと笑いながら、お互いの隣りの愛しい人の目を見つめ合って、
「とりあえず、寝るか。。。おやすみ、まき、愛してる。」
「おやすみなさい、はるたさん、愛してる。」
ベッドサイドの灯りを消し、ふたりは手を握りしめ合って、呼吸を整えて、眠りに入っていくのでした。
また続けます。しつこくてすみません！！！
さて、お風呂のあと。ふたりはすでにベッドの中で、眠りに落ちかけていました。
ふたりとも、色違いで一面星柄のおそろいのスウェットを着て、あお向けで手を握っていました。
「今夜はごめんね。そういち。」「気にしなくていいよぅ。りょうたはフライトもあったし、疲れたろ？」「うん。それに明日は朝から洗濯とか掃除もあるし、、、ふわあああ。。。」
大きくあくびする牧くんに春田さんが言います。
「おれもやるから、どんどん指示してよっ。」「ふふっ。言いましたねー？」
ニヤッと笑う牧くん。
「おう！おれ、がんばるよっ！」
「へへへっ。うれしいけど、そういちのハナシは半分くらいで聞いとく。」
「えー？何だよ、それー。」
ふたり、くすくすと笑いながら、お互いの隣りの愛しい人の目を見つめ合って、
「とりあえず、寝るか。。。おやすみ、まき、愛してる。」
「おやすみなさい、はるたさん、愛してる。」
ベッドサイドの灯りを消し、ふたりは手を握りしめ合って、呼吸を整えて、眠りに入っていくのでした。
また続けます。しつこくてすみません！！！
３２２番のお話の続きです。ダラダラしててすみません。
その翌朝。２０２０年、１２月２８日、月曜日の朝日が昇りました。ぱりっと冷えた朝。
やはり先に目覚めたのは、牧くんでした。大きな伸びをしたあと、隣りで寝ている春田さんの鼻筋を人差し指でなぜて、ベッドから抜け出し、春田さんをかけ布団でぎゅむぎゅむと固定します。
「もうしばらく寝ててね。」
それから牧くんは、部屋に置いてあるストーブを点け、室内がふんわりと暖まってきたところで、自分の部屋着に着替えました。
階下に降りて、トイレに行ったり、水を飲んだり、顔を洗ったり。そして段々とエンジンが上がってきます。
洗濯機はあとしばらくで出来上がるところです。
「よし。この間に。」と、牧くん、冷蔵庫から冷えたみかんゼリーを取り出し、がばがばっと食べてしまいます。（みかんゼリーは、春田さんがいつでもストックしてくれています。）
エナジーチャージが出来た牧くん。
洗濯機の前で待ち構えて、早速カゴに取り出しながら、洗濯物の干す場所を思い浮かべ、作戦を考えているところに。
「おはよおお。。。牧いぃぃ。。。」「えっ！？春田さんっ！？」
振り向くと、そこには寝起き直後のぶすったれた顔した春田さんが立っていました。
「えっ！なんで！？」「、、、なんでって、それないよ、まきぃ。。。寒くて起きちゃったよぅ。。。むにゅむにゅ。。。」
「おかしいなあ。ストーブ点けておいたのに。」「あれさー、ちゃんと消しといたからねー。。。むにゃむにゃ。。。」「寒かったの？」「だってー、牧がいないんだもん。寒いに決まってるじゃんかー。。。で、もう洗濯物干すの？」
「ああ、今ちょうど出来上がったところで。」「おれもやるー。」ぶすったれた顔の春田さんが、やおら洗濯機の前に陣取りました。
「春田さんっ。いいですって。リビングにいてくださいよっ。」「いーよ。おれ、こんな顔してるけど、頭はハッキリしてるし。ふたりでやろうよ。すぐ終わるよ。」
そこまで言われて、牧くんも何も言えなくなりました。そしてふたりは、とりあえず一回目の洗濯物を干し終わりました。牧くんはすぐに２回目の準備をし始めました。
洗濯機に、ネットに入れた靴下やらハンカチやら肌着やらパンツやら。どんどん放り込んでいきます。
「ふーっ。とりあえず、これでいいか。」洗濯機前で牧くんがそう言った時。うしろから、春田さんが声をかけます。
「牧ぃ。朝めし、おれ作るわ。食パンメニューでいい？」牧くん、びっくりです。
「お、おれ！味噌汁飲みたいんで、作りますよ。春田さん、座っててください！」
「んー。。。そお？じゃ、おれその間、テレビ見てていい？」「どうぞ、どうぞ！！」
「ん〜〜〜。うんめ〜〜〜。」お味噌汁を一口含んだ春田さんが、心の底から声をふりしぼりました。いつもより少し遅めの朝食の始まりです。
「そんなぁ。。。」少し照れながら、牧くんが答えました。
「やっぱさ。牧のみそ汁、かーちゃんのより、うまい。何が違うのかな。」
「今日のは、麦味噌を少し混ぜてみたから、ちょっと甘いと思います。」
「おれ、これも好きー。」「よかった！おれも好きだから、時々使いますね。」
そして食事も片付けも終わって。。。ふたりとも思ったより早起きだったので、昼までには余裕がありました。
第２弾の洗濯物は、小物類だったので、第一弾を干している間を縫うように干して、あとは出来あがりを待つばかりです。
その間に牧くんは、部屋やリビングにポイポイされている大きなごみを集め、掃除機をかけました。
そして今ふたりは、食後のお茶を飲んでいます。
「ね。まき。」「んー？」「せっかくだから出かけようぜ。映画とか行かない？」
「そういえば最近、邦画見てないし。いいですね。」
「よっしゃ。じ・つ・は。○○ウォーカーを買ってましてね。」と、取り出した雑誌のページを開く春田さん。
「わー。。。あ、これなんか面白そう。」「こっちのは、星ついてるよ。」
そしてふたりは、わちゃわちゃと話し合い、一つの映画に決めて、出かけることになりました。
その前に、第一弾で乾いた洗濯物をとり込み、その他を室内の空いたスペースに、並べて下げていきました。
そして、出かける準備を始め、あっという間に整いました。お互いに、手編みのマフラーを首元に巻いてあげます。
牧くんが言います。「このマフラー、高かったんじゃないんですか？春田さんのそれだって。」「いやー。それがさ。安くしてもらえたんだよ。」「えっ。またなんで？」
「まず、おれがしてるチャコールグレイのが、割引になって売れ残ってたの。でもおれ、買いますって言ったらさ、照生さんがニッターさんに連絡してくれてね。そしたら、牧にもって、もう一つ編んでくれることになったんだよ。」
その翌朝。２０２０年、１２月２８日、月曜日の朝日が昇りました。ぱりっと冷えた朝。
やはり先に目覚めたのは、牧くんでした。大きな伸びをしたあと、隣りで寝ている春田さんの鼻筋を人差し指でなぜて、ベッドから抜け出し、春田さんをかけ布団でぎゅむぎゅむと固定します。
「もうしばらく寝ててね。」
それから牧くんは、部屋に置いてあるストーブを点け、室内がふんわりと暖まってきたところで、自分の部屋着に着替えました。
階下に降りて、トイレに行ったり、水を飲んだり、顔を洗ったり。そして段々とエンジンが上がってきます。
洗濯機はあとしばらくで出来上がるところです。
「よし。この間に。」と、牧くん、冷蔵庫から冷えたみかんゼリーを取り出し、がばがばっと食べてしまいます。（みかんゼリーは、春田さんがいつでもストックしてくれています。）
エナジーチャージが出来た牧くん。
洗濯機の前で待ち構えて、早速カゴに取り出しながら、洗濯物の干す場所を思い浮かべ、作戦を考えているところに。
「おはよおお。。。牧いぃぃ。。。」「えっ！？春田さんっ！？」
振り向くと、そこには寝起き直後のぶすったれた顔した春田さんが立っていました。
「えっ！なんで！？」「、、、なんでって、それないよ、まきぃ。。。寒くて起きちゃったよぅ。。。むにゅむにゅ。。。」
「おかしいなあ。ストーブ点けておいたのに。」「あれさー、ちゃんと消しといたからねー。。。むにゃむにゃ。。。」「寒かったの？」「だってー、牧がいないんだもん。寒いに決まってるじゃんかー。。。で、もう洗濯物干すの？」
「ああ、今ちょうど出来上がったところで。」「おれもやるー。」ぶすったれた顔の春田さんが、やおら洗濯機の前に陣取りました。
「春田さんっ。いいですって。リビングにいてくださいよっ。」「いーよ。おれ、こんな顔してるけど、頭はハッキリしてるし。ふたりでやろうよ。すぐ終わるよ。」
そこまで言われて、牧くんも何も言えなくなりました。そしてふたりは、とりあえず一回目の洗濯物を干し終わりました。牧くんはすぐに２回目の準備をし始めました。
洗濯機に、ネットに入れた靴下やらハンカチやら肌着やらパンツやら。どんどん放り込んでいきます。
「ふーっ。とりあえず、これでいいか。」洗濯機前で牧くんがそう言った時。うしろから、春田さんが声をかけます。
「牧ぃ。朝めし、おれ作るわ。食パンメニューでいい？」牧くん、びっくりです。
「お、おれ！味噌汁飲みたいんで、作りますよ。春田さん、座っててください！」
「んー。。。そお？じゃ、おれその間、テレビ見てていい？」「どうぞ、どうぞ！！」
「ん〜〜〜。うんめ〜〜〜。」お味噌汁を一口含んだ春田さんが、心の底から声をふりしぼりました。いつもより少し遅めの朝食の始まりです。
「そんなぁ。。。」少し照れながら、牧くんが答えました。
「やっぱさ。牧のみそ汁、かーちゃんのより、うまい。何が違うのかな。」
「今日のは、麦味噌を少し混ぜてみたから、ちょっと甘いと思います。」
「おれ、これも好きー。」「よかった！おれも好きだから、時々使いますね。」
そして食事も片付けも終わって。。。ふたりとも思ったより早起きだったので、昼までには余裕がありました。
第２弾の洗濯物は、小物類だったので、第一弾を干している間を縫うように干して、あとは出来あがりを待つばかりです。
その間に牧くんは、部屋やリビングにポイポイされている大きなごみを集め、掃除機をかけました。
そして今ふたりは、食後のお茶を飲んでいます。
「ね。まき。」「んー？」「せっかくだから出かけようぜ。映画とか行かない？」
「そういえば最近、邦画見てないし。いいですね。」
「よっしゃ。じ・つ・は。○○ウォーカーを買ってましてね。」と、取り出した雑誌のページを開く春田さん。
「わー。。。あ、これなんか面白そう。」「こっちのは、星ついてるよ。」
そしてふたりは、わちゃわちゃと話し合い、一つの映画に決めて、出かけることになりました。
その前に、第一弾で乾いた洗濯物をとり込み、その他を室内の空いたスペースに、並べて下げていきました。
そして、出かける準備を始め、あっという間に整いました。お互いに、手編みのマフラーを首元に巻いてあげます。
牧くんが言います。「このマフラー、高かったんじゃないんですか？春田さんのそれだって。」「いやー。それがさ。安くしてもらえたんだよ。」「えっ。またなんで？」
「まず、おれがしてるチャコールグレイのが、割引になって売れ残ってたの。でもおれ、買いますって言ったらさ、照生さんがニッターさんに連絡してくれてね。そしたら、牧にもって、もう一つ編んでくれることになったんだよ。」
３２３番の続きです。長くてすみません！！
「そのニッターさんって。。。」
「照生さんの奥さんで、里江子さん。ちゃきちゃきして、明るい人だったよ。」
「すごいですね。こんなに長目のを、すぐ編んでしまえるって。。。」ふふふっと、微笑む春田さん。
「里江子さんさぁ。牧にきっと似合うからってこの色にしてくれたんだよ。可愛い牧に、きっと似合うって。」
ちょっとムッとして顔を赤らめる牧くん。「やだなあ。おれ、可愛いって言われたくないし。」
春田さん、優しく微笑みながら言います。
「おれからすれば、まきは、りょうたは、愛しくて可愛くて仕方ない存在だぞ？」
見つめ合って、もっと照れた牧くん。
「いやっ。でも。おれ男だし。そういちを守るのはおれだし。」少しブスっと怒っているような口調です。
「そんなの！おれだって、りょうたを守るよ。おれたち、助け合って、支え合っていくんじゃないのか？ね。違う？」
春田さんにまっすぐに見つめられた牧くん。小さなため息をついて、その瞳に見つめ返します。
「そうでしたね。おれたち、ずっと一緒なんですよね。」
春田さんは、その言葉を聞きながら、牧くんにやさしく、濃いキスをしました。
「もう。春田さんたら。キス、うまいんだからっ。」「りょうたから教わったんだよ。」
少し雄味の増した、春田さんが答えます。
そしてしばらくキスを堪能したふたりは、極上の笑顔で、出かけてゆくのでした。
「そのニッターさんって。。。」
「照生さんの奥さんで、里江子さん。ちゃきちゃきして、明るい人だったよ。」
「すごいですね。こんなに長目のを、すぐ編んでしまえるって。。。」ふふふっと、微笑む春田さん。
「里江子さんさぁ。牧にきっと似合うからってこの色にしてくれたんだよ。可愛い牧に、きっと似合うって。」
ちょっとムッとして顔を赤らめる牧くん。「やだなあ。おれ、可愛いって言われたくないし。」
春田さん、優しく微笑みながら言います。
「おれからすれば、まきは、りょうたは、愛しくて可愛くて仕方ない存在だぞ？」
見つめ合って、もっと照れた牧くん。
「いやっ。でも。おれ男だし。そういちを守るのはおれだし。」少しブスっと怒っているような口調です。
「そんなの！おれだって、りょうたを守るよ。おれたち、助け合って、支え合っていくんじゃないのか？ね。違う？」
春田さんにまっすぐに見つめられた牧くん。小さなため息をついて、その瞳に見つめ返します。
「そうでしたね。おれたち、ずっと一緒なんですよね。」
春田さんは、その言葉を聞きながら、牧くんにやさしく、濃いキスをしました。
「もう。春田さんたら。キス、うまいんだからっ。」「りょうたから教わったんだよ。」
少し雄味の増した、春田さんが答えます。
そしてしばらくキスを堪能したふたりは、極上の笑顔で、出かけてゆくのでした。
３２４番のお話の続きです。（１２月２８日、月曜日。）
ふたりが選んだ映画は、日本のコメディー映画でした。ツボにはまったようで、上映中ふたりとも大爆笑して、映画をたっぷり楽しみました。映画館の中が、笑いの一体感に包まれていました。
そして終映後、牧くんはパンフレットを買い、ふたりは映画館から少し離れたカフェに入りました。
「あれ、笑ったよな。せっぱつまって、芸者のカッコしてお座敷に出るところ！」
「で、似合ってて、本人もまんざらじゃない風で。くすくす。」
「社長はだまされちゃってたけど。」「あれね。おれ、あれだったらすぐ見抜いちゃってますよ。」「あっはっはっは！！だよねえー！！」
パンフレットを読みながら、ふたりはしばらく映画の話で盛り上がって、楽しく話し合っていました。
そうこうしていると、そろそろ１８時近くになりました。時計を確認する牧くん。
「ね。春田さん。」「何。どうしたのよ。」「もう、帰りましょう。で、帰りに、☆☆商店街で、買い物して帰りましょうよ。」
「☆☆商店街って。。。ホソカワテーラーもある商店街だな。何かあるの？」
「ほら、このチラシ。今朝、新聞とか色々整理してたらね。ほら、これ。『招福抽選会開催！！』今日から大晦日までです。」
「あ。そういや見たわ、これ。」「おれ、これやってみたいんです。」
「えっ！！抽選、きっとガラポンだよっ！？おれ、くじ運ないし、当たる確率だって低いよっ！？」「うん。きっとそうだとは思うけど、おれも春田さんもお世話になってる商店街さんだから、何か貢献したいなって。おれたちの運試し、やってみませんか？抽選だけじゃなく、お買い得品とか割引セールとかやってるし、行きましょうよ。お買い物ポイントに合わせて抽選チケットもらえるって。」
「それはいいけどさ、、、今日の晩飯はそのお買い得品で作るワケ？」
「おれ、鍋にしようかと思ってて。今日も寒いから、鶏肉も白身の魚も野菜もたくさん入れて、な〇キューブで味付けして、ふたりであったまろうって、思ってるんです。」「牧。。。」
「春田さんにはいろんな食材を食べてもらって、健康でいてもらいたいから。」「牧。。。」
春田さん、急に真剣なまなざしになって牧くんを見つめます。カップル席だったので、隣り合って座っていたふたり。牧くんの指輪の光る左手を、力強く、でも優しく握りしめる春田さん。しばらく見つめ合っていたふたり。
「よし。じゃあ行こう。今夜の食材だけじゃなくて、消耗品とかも買おうか。その方がチケットもらえるんだろ？」「うん。でも５００円でチケット一枚だから、今日だけではとても。。。とりあえず、今日のチケットで、今日の運を試してみて。明日は明日で試しませんか？」
「よーし。乗った！！」
それからふたりはカフェを出て、商店街へ向かうのでした。
続けまーす。すみませーん！！
ふたりが選んだ映画は、日本のコメディー映画でした。ツボにはまったようで、上映中ふたりとも大爆笑して、映画をたっぷり楽しみました。映画館の中が、笑いの一体感に包まれていました。
そして終映後、牧くんはパンフレットを買い、ふたりは映画館から少し離れたカフェに入りました。
「あれ、笑ったよな。せっぱつまって、芸者のカッコしてお座敷に出るところ！」
「で、似合ってて、本人もまんざらじゃない風で。くすくす。」
「社長はだまされちゃってたけど。」「あれね。おれ、あれだったらすぐ見抜いちゃってますよ。」「あっはっはっは！！だよねえー！！」
パンフレットを読みながら、ふたりはしばらく映画の話で盛り上がって、楽しく話し合っていました。
そうこうしていると、そろそろ１８時近くになりました。時計を確認する牧くん。
「ね。春田さん。」「何。どうしたのよ。」「もう、帰りましょう。で、帰りに、☆☆商店街で、買い物して帰りましょうよ。」
「☆☆商店街って。。。ホソカワテーラーもある商店街だな。何かあるの？」
「ほら、このチラシ。今朝、新聞とか色々整理してたらね。ほら、これ。『招福抽選会開催！！』今日から大晦日までです。」
「あ。そういや見たわ、これ。」「おれ、これやってみたいんです。」
「えっ！！抽選、きっとガラポンだよっ！？おれ、くじ運ないし、当たる確率だって低いよっ！？」「うん。きっとそうだとは思うけど、おれも春田さんもお世話になってる商店街さんだから、何か貢献したいなって。おれたちの運試し、やってみませんか？抽選だけじゃなく、お買い得品とか割引セールとかやってるし、行きましょうよ。お買い物ポイントに合わせて抽選チケットもらえるって。」
「それはいいけどさ、、、今日の晩飯はそのお買い得品で作るワケ？」
「おれ、鍋にしようかと思ってて。今日も寒いから、鶏肉も白身の魚も野菜もたくさん入れて、な〇キューブで味付けして、ふたりであったまろうって、思ってるんです。」「牧。。。」
「春田さんにはいろんな食材を食べてもらって、健康でいてもらいたいから。」「牧。。。」
春田さん、急に真剣なまなざしになって牧くんを見つめます。カップル席だったので、隣り合って座っていたふたり。牧くんの指輪の光る左手を、力強く、でも優しく握りしめる春田さん。しばらく見つめ合っていたふたり。
「よし。じゃあ行こう。今夜の食材だけじゃなくて、消耗品とかも買おうか。その方がチケットもらえるんだろ？」「うん。でも５００円でチケット一枚だから、今日だけではとても。。。とりあえず、今日のチケットで、今日の運を試してみて。明日は明日で試しませんか？」
「よーし。乗った！！」
それからふたりはカフェを出て、商店街へ向かうのでした。
続けまーす。すみませーん！！
３２５番のお話の続きです。（2020年R2、１２月２８日その夜。）
☆☆商店街で、食材や日用品をを買い込んで帰宅したふたり。
「けっこう重かったな。大丈夫か？牧。」「はい、ぜんぜん大丈夫ですっ。」
それからふたりは、手洗い・うがいに始まり、（インフルの時期だし、牧くんがまた倒れたりすることのないようにするため。）ざっと、着替えも終えました。
そして、牧くんの宣言通り、鍋ごはんが始まりました。
「うーん。今日は参加賞だけか。。。」と、春田さん。
「いろいろ、安く買えちゃってありがたかったですけどね。」ちょっと残念そうな牧くん。
「なーに。大晦日まで、まだ日にちがあるんだし。おれたち、きっといいものが当たるよ。」
明るく笑う春田さん。
「ふふっ。」その笑顔を見て、牧くんが微笑みました。
「なに？牧。」「ううん。おれはこういう時、ちょっと悲観的になるけど、春田さんはそうならない。すごいなって。」
「なんだよ、それー。おれがノンキ過ぎるってかー？まあ、確かにそうかもなあ。」
「ううん。ちがう、そうじゃないんです。明るい方向に、意識を向けるところがすごいんですよ、春田さんは。おれはいつも心配したり、不安になったりするから、すごく助けられています。」
「牧。。。」微笑む牧くん。
「あ！はい！ほら！魚、煮え過ぎちゃうんで、春菊とこのタラから食べてっ。」「オッケー、牧！」そして、牧くんの愛情たっぷりの鍋ディナーは、色々話をしながら楽しく進んでいくのでした。
「ねえねえ、まきぃー？」「何？」「東京にいる間、一回は唐揚げにしてくれない？」
「ふふっ。わかってますって。」「へへへっ。楽しみにしてるから。」
☆☆商店街で、食材や日用品をを買い込んで帰宅したふたり。
「けっこう重かったな。大丈夫か？牧。」「はい、ぜんぜん大丈夫ですっ。」
それからふたりは、手洗い・うがいに始まり、（インフルの時期だし、牧くんがまた倒れたりすることのないようにするため。）ざっと、着替えも終えました。
そして、牧くんの宣言通り、鍋ごはんが始まりました。
「うーん。今日は参加賞だけか。。。」と、春田さん。
「いろいろ、安く買えちゃってありがたかったですけどね。」ちょっと残念そうな牧くん。
「なーに。大晦日まで、まだ日にちがあるんだし。おれたち、きっといいものが当たるよ。」
明るく笑う春田さん。
「ふふっ。」その笑顔を見て、牧くんが微笑みました。
「なに？牧。」「ううん。おれはこういう時、ちょっと悲観的になるけど、春田さんはそうならない。すごいなって。」
「なんだよ、それー。おれがノンキ過ぎるってかー？まあ、確かにそうかもなあ。」
「ううん。ちがう、そうじゃないんです。明るい方向に、意識を向けるところがすごいんですよ、春田さんは。おれはいつも心配したり、不安になったりするから、すごく助けられています。」
「牧。。。」微笑む牧くん。
「あ！はい！ほら！魚、煮え過ぎちゃうんで、春菊とこのタラから食べてっ。」「オッケー、牧！」そして、牧くんの愛情たっぷりの鍋ディナーは、色々話をしながら楽しく進んでいくのでした。
「ねえねえ、まきぃー？」「何？」「東京にいる間、一回は唐揚げにしてくれない？」
「ふふっ。わかってますって。」「へへへっ。楽しみにしてるから。」
すみません、３２６番のお話の続きです。
その鍋ディナーの終わった夜。。。２階の春田さんの寝室で。。。ふたりはベッドの中で全裸で抱きしめ合っていました。お互い、荒かった呼吸も落ち着いた頃。
「まき、きつくなかった？」「大丈夫。春田さんは？」「おれ？おれは今ちょっとふんわりボーっとしてるかな。」「おれも。えへへ。」微笑みあって、抱きしめ合います。
少しして、牧くんがバスローブをまとって、階下に降りていきました。見送った春田さんは、部屋に持って来ていたリュックから、煙草とライターを取り出し、ベッドに入って座りながらぼんやりとカーテン越しの外を眺めていました。
外の薄明かりを受けて、美しい上半身がさらされていました。春田さんは煙草を一本取り出し、火をつけ、ゆったりとくゆらせ始めます。大きく吸って、大きな息で吐き出し、窓のよりかかってカーテンの隙間から外を眺めていました。
「あ。。。」春田さん、何かに気付きました。
そこへ牧くんが戻ってきました。ストーブは消してあったので、室温はそれなりに下がっています。カーテンとカーテンの間を、窓に寄りかかりながら外を眺めている、春田さんの横顔。
それを見た牧くんは、心の中で、「なんて綺麗なんだろう」と、つぶやきました。
「この綺麗な人が、おれのことを好きでいてくれるんだ。」とも。。。
少し呼吸をおいて、話しかけます。
「そういち。煙草吸うんだ。」
「あ。うん、たまにね。ほんと、何か月かに一回くらいだけどね。」
「ふーん。。。」バスローブを脱いで床に落とし、春田さんの隣りにするりと座る牧くん。
「おれにも一口ちょうだい？」「まき、吸えるの？」「うん、おれもごくたまにね。」
春田さんは、煙草を挟んでいるその手をそのまま、牧くんの口に添えてやりました。すーっと吸った牧くんは、ふわーっと吐きだして、「けっこう強いの好きなんだ！」と、少し驚いたように言いました。
「だから、たまになんだよ。」そしてふたりは代わる代わる煙草を吸って、あっという間に一本を終わらせました。
春田さんが小さな灰皿に煙草を押し付け火を消し、牧くんが階下から持ってきた水入りのペットボトルからほんの数滴落として、鎮火しました。
「さすが牧だな。」「飲みたかったから持ってきただけで、たまたまですよ。」
「それはそうとさ。。。ほら、見て。さっきからこうなんだけど、すごくない？」「あっ。雪？」春田さんがカーテン越しに見ていたのは、雪だったのでした。
「気がついてから、どんどん降ってきてんだぜ。」「うわー。完全に牡丹雪じゃないですか。」
「この分じゃ積もりそうだな。」
ふたり、肩を抱き合いながら降る雪を言葉もなく眺めています。
「きっと積もるからさ、朝起きたら、何する？」春田さんがそっと話しかけます。
「雪だるま、作りますか？」「あ、いいね！じゃあ、写真撮って、かーちゃんとか牧のご両親とかに送っちゃうとか。」「ちずさんと鉄平さんにも送りましょうか。」微笑みあうふたりでした。
そして春田さんが、ついっと外に視線を向けて、一言つぶやきました。
「、、、雪だね。」「、、、雪ですね。」
少しして春田さんが話し始めました。
「おれさ。子供の頃から、留守番多くて一人だったことが多くてさ。こうやって、雪だねって言ったら、雪だねって返事があるってさ、、、おれさ、、、」
春田さんそれきり言葉が出ません。
「春田さん、こっち見て。」「ん？」「これからはおれがいます。おれたち、ずっと一緒ですよね。」
そう言いながら、春田さんの目を、まっすぐ見つめる牧くん。
「うん。そうだな。おれ、りょうたと死んでも一緒にいたいんだからな。」「おれも、そういちとどこまでも一緒だと思ってる。」
そう言って、春田さんを押し倒し、やさしくくちびるにキスをし始める牧くん。
「あ、、、まき、、、？」「ふふっ。次はおれがシてあげますから。もしかして、イヤ？」
「ううん。イヤじゃない。。。」「ふふっ。そういちは素直なとこがいい。」
「りょうたは、ちょっとヒネてるとこが、可愛い。」
「え。そうかな。。。」「大好き。りょうた。」そう言う春田さんの目をたっぷり見つめてから、春田さんのくちびるを、自分のくちびるでふさぐ牧くん。
そうして、ふたりの長くて短いような夜は、ふたたび始まるのでした。
その鍋ディナーの終わった夜。。。２階の春田さんの寝室で。。。ふたりはベッドの中で全裸で抱きしめ合っていました。お互い、荒かった呼吸も落ち着いた頃。
「まき、きつくなかった？」「大丈夫。春田さんは？」「おれ？おれは今ちょっとふんわりボーっとしてるかな。」「おれも。えへへ。」微笑みあって、抱きしめ合います。
少しして、牧くんがバスローブをまとって、階下に降りていきました。見送った春田さんは、部屋に持って来ていたリュックから、煙草とライターを取り出し、ベッドに入って座りながらぼんやりとカーテン越しの外を眺めていました。
外の薄明かりを受けて、美しい上半身がさらされていました。春田さんは煙草を一本取り出し、火をつけ、ゆったりとくゆらせ始めます。大きく吸って、大きな息で吐き出し、窓のよりかかってカーテンの隙間から外を眺めていました。
「あ。。。」春田さん、何かに気付きました。
そこへ牧くんが戻ってきました。ストーブは消してあったので、室温はそれなりに下がっています。カーテンとカーテンの間を、窓に寄りかかりながら外を眺めている、春田さんの横顔。
それを見た牧くんは、心の中で、「なんて綺麗なんだろう」と、つぶやきました。
「この綺麗な人が、おれのことを好きでいてくれるんだ。」とも。。。
少し呼吸をおいて、話しかけます。
「そういち。煙草吸うんだ。」
「あ。うん、たまにね。ほんと、何か月かに一回くらいだけどね。」
「ふーん。。。」バスローブを脱いで床に落とし、春田さんの隣りにするりと座る牧くん。
「おれにも一口ちょうだい？」「まき、吸えるの？」「うん、おれもごくたまにね。」
春田さんは、煙草を挟んでいるその手をそのまま、牧くんの口に添えてやりました。すーっと吸った牧くんは、ふわーっと吐きだして、「けっこう強いの好きなんだ！」と、少し驚いたように言いました。
「だから、たまになんだよ。」そしてふたりは代わる代わる煙草を吸って、あっという間に一本を終わらせました。
春田さんが小さな灰皿に煙草を押し付け火を消し、牧くんが階下から持ってきた水入りのペットボトルからほんの数滴落として、鎮火しました。
「さすが牧だな。」「飲みたかったから持ってきただけで、たまたまですよ。」
「それはそうとさ。。。ほら、見て。さっきからこうなんだけど、すごくない？」「あっ。雪？」春田さんがカーテン越しに見ていたのは、雪だったのでした。
「気がついてから、どんどん降ってきてんだぜ。」「うわー。完全に牡丹雪じゃないですか。」
「この分じゃ積もりそうだな。」
ふたり、肩を抱き合いながら降る雪を言葉もなく眺めています。
「きっと積もるからさ、朝起きたら、何する？」春田さんがそっと話しかけます。
「雪だるま、作りますか？」「あ、いいね！じゃあ、写真撮って、かーちゃんとか牧のご両親とかに送っちゃうとか。」「ちずさんと鉄平さんにも送りましょうか。」微笑みあうふたりでした。
そして春田さんが、ついっと外に視線を向けて、一言つぶやきました。
「、、、雪だね。」「、、、雪ですね。」
少しして春田さんが話し始めました。
「おれさ。子供の頃から、留守番多くて一人だったことが多くてさ。こうやって、雪だねって言ったら、雪だねって返事があるってさ、、、おれさ、、、」
春田さんそれきり言葉が出ません。
「春田さん、こっち見て。」「ん？」「これからはおれがいます。おれたち、ずっと一緒ですよね。」
そう言いながら、春田さんの目を、まっすぐ見つめる牧くん。
「うん。そうだな。おれ、りょうたと死んでも一緒にいたいんだからな。」「おれも、そういちとどこまでも一緒だと思ってる。」
そう言って、春田さんを押し倒し、やさしくくちびるにキスをし始める牧くん。
「あ、、、まき、、、？」「ふふっ。次はおれがシてあげますから。もしかして、イヤ？」
「ううん。イヤじゃない。。。」「ふふっ。そういちは素直なとこがいい。」
「りょうたは、ちょっとヒネてるとこが、可愛い。」
「え。そうかな。。。」「大好き。りょうた。」そう言う春田さんの目をたっぷり見つめてから、春田さんのくちびるを、自分のくちびるでふさぐ牧くん。
そうして、ふたりの長くて短いような夜は、ふたたび始まるのでした。
３２７番の続きです。いつもすみません、長くて。
そしてその翌朝。令和２年、２０２０年、１２月２９日(火曜日)の朝がやって来ました。
ふんわりと温かな温度の中、牧くんは夢を見ていました。
夢の中、牧くんは白くて大きな空間の中で、淡い水色のタキシードスーツを着て、立っていました。
見上げると、大きくてとてもきれいなステンドグラスから光が差し込んでいます。教会のような雰囲気です。
牧くん、ふとつぶやきます。「きれいだなあ。。。」「だよね。でも、凌太のほうがきれいだよ。」
すぐそばの春田さんが、そう言いました。
「えっ。そういちっ！？」牧くんが振り向くと、そこには少しクリーム色がかった白のタキシードスーツに身を包んだ、春田さんが立っていました。
「行こう、牧。みなさんも待ってる。」そう言って牧くんの手を取り、エスコートする春田さん。
「みなさんって、、、？」「みんなだよ。。。」優しく牧くんの手を取り、
「ほら、こっち。あそこが誓いの言葉を言う場所だよ。」そう言って、夢の中の春田さんは、少し強引に牧くんの手を引っ張っていきます。
「春田さんっ！家族はいいとしても、みんなって誰ですかっ！」
「何言ってるんだ凌太。いろんな人に応援してもらったじゃないか。。。」
少し離れた所から、拍手と歓声が響いてきました。
「ほら。まき。おれのりょうた。皆さん待ってるから行こう。」
「や、やだ。おれ、そんな派手なことしたくないし。」「りょうた？」
「だいたい、春田さんおかしい！おれに相談なく、こんなこと進めるだなんて！らしくないですよっ！！」
そこに、誰か二人が近づいてきます。
「何、言ってるんだ、牧。」
「そうだぞ。牧も、大勢の人達に祝福されたいのが、本音なんじゃないのか？」
「武川さんっ！！部長もっ！？」「そうだぞ、まき。」春田さんも加わります。
「いや。だけどおれたち、男同士だし、両親のことも考えると、、、」
。。。。。。。。。。
そこで牧くんの夢は途切れました。はっと目覚めると、すぐそばには春田さんがいました。
「まき。。。大丈夫か？なんか少しうなされてたぞ？」
少し先に起きていた春田さんが少し心配そうに牧くんをのぞき込んでいるのでした。
息を整えた牧くん。少しして、小さな声で必死に話します。
「春田さんが、勝手に結婚式を挙げようとする夢だった。おれ、派手なことしたくないのに。。。あんなのって。。。」
くすっと笑った春田さんは、牧くんの上から覆いかぶさって、まず牧くんの耳を引っ張り始めました。「何、すんだよおっ。」
春田さん、かまわず牧くんの頭部をわしゃわしゃと揉むようにしばらく撫ぜて、ひとこと言います。「それ、きっと潜在的な願望だぞ。」
「そっ！！そんなことないっ。」牧くん、反抗的に言います。
「なんでか、部長も武川さんも出てきて、おれ、驚いたんですからっっっ！」
「りょうた。。。」春田さんが優しく声をかけて、牧くんの顔のあちこちにやさしくキスをし始めました。段々と落ち着き始めた牧くん。春田さんに言います。
「そういち。。。んん。。。くちびるにもしてよ。」「くすっ。分かってるよ。」
ふたりはしばらく、いちゃいちゃらぶらぶしたあと、ベッドから出て、一階のリビングへと降りてきました。そして、ふたりともスウェットの上からフリースを軽く羽織って、家の外に出て、一面の銀世界にびっくりするのでした。
「うわー。見事なもんだなあ！！」
「全部、新雪ですね！配達の人の足跡しか残ってませんよ！！」
「じゃあ、やるか！！」「えっ！？」言うが早いか、春田さんが牧くんに雪玉を投げつけました。「わっ！！なに、すんだよっ！！」「へへえ〜ん。油断した者の負け〜。」ぺろりと舌を出す春田さん。「くっそ！」
負けず嫌いの牧くん、すぐさま応戦です。「ぶわっ！！顔はやめろよっ、まきぃっ！」「お返しですよっっっ！！」
「えーい！！こうしてやるううっ。」
「わっ！！やめろ！！服の中、雪つっ込むのは反則ー！！」
キャーキャー言いながら、ふたりは早朝の雪合戦を楽しむのでした。
しばらく雪合戦を楽しんだふたりは、家の中に戻り、着ていたものを全部洗濯機に投げ込んで、別の部屋着に着替えました。春田さんは別のスウェットに着替えただけですが。
リビングのテーブルの上には、お盆にのせた、小さめの雪だるまが２つ、のっかっていました。
あ。続けまーす。
そしてその翌朝。令和２年、２０２０年、１２月２９日(火曜日)の朝がやって来ました。
ふんわりと温かな温度の中、牧くんは夢を見ていました。
夢の中、牧くんは白くて大きな空間の中で、淡い水色のタキシードスーツを着て、立っていました。
見上げると、大きくてとてもきれいなステンドグラスから光が差し込んでいます。教会のような雰囲気です。
牧くん、ふとつぶやきます。「きれいだなあ。。。」「だよね。でも、凌太のほうがきれいだよ。」
すぐそばの春田さんが、そう言いました。
「えっ。そういちっ！？」牧くんが振り向くと、そこには少しクリーム色がかった白のタキシードスーツに身を包んだ、春田さんが立っていました。
「行こう、牧。みなさんも待ってる。」そう言って牧くんの手を取り、エスコートする春田さん。
「みなさんって、、、？」「みんなだよ。。。」優しく牧くんの手を取り、
「ほら、こっち。あそこが誓いの言葉を言う場所だよ。」そう言って、夢の中の春田さんは、少し強引に牧くんの手を引っ張っていきます。
「春田さんっ！家族はいいとしても、みんなって誰ですかっ！」
「何言ってるんだ凌太。いろんな人に応援してもらったじゃないか。。。」
少し離れた所から、拍手と歓声が響いてきました。
「ほら。まき。おれのりょうた。皆さん待ってるから行こう。」
「や、やだ。おれ、そんな派手なことしたくないし。」「りょうた？」
「だいたい、春田さんおかしい！おれに相談なく、こんなこと進めるだなんて！らしくないですよっ！！」
そこに、誰か二人が近づいてきます。
「何、言ってるんだ、牧。」
「そうだぞ。牧も、大勢の人達に祝福されたいのが、本音なんじゃないのか？」
「武川さんっ！！部長もっ！？」「そうだぞ、まき。」春田さんも加わります。
「いや。だけどおれたち、男同士だし、両親のことも考えると、、、」
。。。。。。。。。。
そこで牧くんの夢は途切れました。はっと目覚めると、すぐそばには春田さんがいました。
「まき。。。大丈夫か？なんか少しうなされてたぞ？」
少し先に起きていた春田さんが少し心配そうに牧くんをのぞき込んでいるのでした。
息を整えた牧くん。少しして、小さな声で必死に話します。
「春田さんが、勝手に結婚式を挙げようとする夢だった。おれ、派手なことしたくないのに。。。あんなのって。。。」
くすっと笑った春田さんは、牧くんの上から覆いかぶさって、まず牧くんの耳を引っ張り始めました。「何、すんだよおっ。」
春田さん、かまわず牧くんの頭部をわしゃわしゃと揉むようにしばらく撫ぜて、ひとこと言います。「それ、きっと潜在的な願望だぞ。」
「そっ！！そんなことないっ。」牧くん、反抗的に言います。
「なんでか、部長も武川さんも出てきて、おれ、驚いたんですからっっっ！」
「りょうた。。。」春田さんが優しく声をかけて、牧くんの顔のあちこちにやさしくキスをし始めました。段々と落ち着き始めた牧くん。春田さんに言います。
「そういち。。。んん。。。くちびるにもしてよ。」「くすっ。分かってるよ。」
ふたりはしばらく、いちゃいちゃらぶらぶしたあと、ベッドから出て、一階のリビングへと降りてきました。そして、ふたりともスウェットの上からフリースを軽く羽織って、家の外に出て、一面の銀世界にびっくりするのでした。
「うわー。見事なもんだなあ！！」
「全部、新雪ですね！配達の人の足跡しか残ってませんよ！！」
「じゃあ、やるか！！」「えっ！？」言うが早いか、春田さんが牧くんに雪玉を投げつけました。「わっ！！なに、すんだよっ！！」「へへえ〜ん。油断した者の負け〜。」ぺろりと舌を出す春田さん。「くっそ！」
負けず嫌いの牧くん、すぐさま応戦です。「ぶわっ！！顔はやめろよっ、まきぃっ！」「お返しですよっっっ！！」
「えーい！！こうしてやるううっ。」
「わっ！！やめろ！！服の中、雪つっ込むのは反則ー！！」
キャーキャー言いながら、ふたりは早朝の雪合戦を楽しむのでした。
しばらく雪合戦を楽しんだふたりは、家の中に戻り、着ていたものを全部洗濯機に投げ込んで、別の部屋着に着替えました。春田さんは別のスウェットに着替えただけですが。
リビングのテーブルの上には、お盆にのせた、小さめの雪だるまが２つ、のっかっていました。
あ。続けまーす。
３２８番の続きです。
その２つの雪だるまが少しづつ溶けかかって来た頃。春田さんが牧くんに声をかけます。
「ねー。まきぃー。」「なあに。どうしたんですよ。」
「おれさー。まきのご両親に年末のあいさつ、行かなくていいのかな。うちのかーちゃんはさー。アタルくんといっしょにニューヨークに行ってて、仕事なんだってさー。ほら、これ。アタルくんとの写真きてるし。」「うわ。幸枝さん、なんてポップな。」
「だからさー。せめて牧のご両親にあいさつしておこうって、おれ思ってるんだけど。。。」
ソファに座って、ゾイドをいじっていた春田さんの隣りに、ぽすん！と座った牧くん。
「おれ、うれしい！春田さん、うちの両親のことも考えていてくれたなんて！！」
「そんなの、当たり前じゃないかあっ！でも、おれまだ、お義父さんに認めてもらってないからさ。『芳郎さん』から『お義父さん』って呼べるまで頑張るからな。」
「春田さん。。。」牧くんは、隣り合った春田さんの左腕に、自分の右腕をからませ、手の指までからませました。そしてぎゅっと手のひらを握ります。
「はるたさん。。。」少し見上げるように、春田さんの目を見つめる牧くん。
「まき。。。」そう一言言った春田さんは、右手をそーっと牧くんの左頬に添えて、やさしく唇にキスをするのでした。うっとりした顔の牧くん。
「おれ、母に連絡とってみます。」そしてすぐさま電話するのでした。「はえーな、牧。早すぎじゃねーの？」
「あ、もしもし、お母さん？今？日本に帰ってきてるんだ。そうなんだー、うん。年明けまでこっちにいるんだよ。うん。でね。春田さんとふたりで、今夜でも年末のごあいさつに伺おうかって話してて、それでどうかなって。うん。うん。えっ！！お父さんインフル！？大丈夫なのっ！？」
隣りで聞いている春田さんもびっくりです。
「そうなのよ、凌ちゃん。１２月に入ってから、まずそらがかかっちゃってね。そらは５日くらいで良くなったんだけど、お父さんにうつっちゃったのよ。え、お母さん？マスクとか、手洗い・うがいしてたからかしら。なんともないのよ。すごいでしょ？」
「お母さん、大丈夫でよかったよー。。。で、お父さんは！？」
「３日ほど前から平熱に下がって、もう大丈夫そうよ。そーだわ、お母さん、今夜お父さんの快気祝いにから揚げするし、おいでなさいよ。お父さんも凌ちゃんに会いたがってるし！！」
「春田さんも一緒だよ。じゃないと、おれ、行かないよ？」
「当たり前じゃない！お父さんはまだ慣れてないだけよ。もっと知り合ってもらうためにも、おいでなさいよ。ね？」「うん。。。でもさ。。。」
返事をする牧くんを見ていて、じれったくなった春田さんは牧くんのスマホを奪い取り、離し始めます。
「わっ！！春田さんっ！！」「あっ！代わりました、春田です。お久しぶりですぅ。お義父さんのお加減いかがですか？」
「あらまぁ、春田さん！」「隣りで聞いていましたが、牧といっしょに、おれもお見舞いに伺っていいでしょうか！」
「ふたりとも、今夜いっしょにいらっしゃいな。あの人も、インフルはもう落ち着きましたから、大丈夫よ〜。私、張り切ってから揚げ用意しとくから、ふたりでおいでなさいよっ。」
「はいっ！！伺わせていただきますっっ！！」そして、お宅に伺う時間を決めて、電話は終わりました。
「春田さんっ。」「牧、心配するな。おれさ、お義父さんと仲良くなりたいだけだから。」
「春田さん。おれ、うれしい。」
「おれさ、父ちゃんいないだろ？牧のお父さんが、父ちゃんになってくれればいいなって、前から思ってたんだ。アタルくんは、少し年上のおにいちゃんって感じだし。そう思うと、おれ、二人も先輩が出来るんだから、すげーラッキーだよなっ。」
にこにこと微笑む春田さんを見つめる牧くんは、しみじみと言うのでした。
「、、、春田さんでよかった。」「え？何？」「ううん。いいんだ。はるたさんが、おれのはるたさんで、よかった。」
「なーに、言ってんだよ。おれだって、まきが、おれだけのまきだって思ったら、本当に幸せだよ。。。」
熱く見つめ合う、ふたりでした。。。
すみません、続けます！！！
その２つの雪だるまが少しづつ溶けかかって来た頃。春田さんが牧くんに声をかけます。
「ねー。まきぃー。」「なあに。どうしたんですよ。」
「おれさー。まきのご両親に年末のあいさつ、行かなくていいのかな。うちのかーちゃんはさー。アタルくんといっしょにニューヨークに行ってて、仕事なんだってさー。ほら、これ。アタルくんとの写真きてるし。」「うわ。幸枝さん、なんてポップな。」
「だからさー。せめて牧のご両親にあいさつしておこうって、おれ思ってるんだけど。。。」
ソファに座って、ゾイドをいじっていた春田さんの隣りに、ぽすん！と座った牧くん。
「おれ、うれしい！春田さん、うちの両親のことも考えていてくれたなんて！！」
「そんなの、当たり前じゃないかあっ！でも、おれまだ、お義父さんに認めてもらってないからさ。『芳郎さん』から『お義父さん』って呼べるまで頑張るからな。」
「春田さん。。。」牧くんは、隣り合った春田さんの左腕に、自分の右腕をからませ、手の指までからませました。そしてぎゅっと手のひらを握ります。
「はるたさん。。。」少し見上げるように、春田さんの目を見つめる牧くん。
「まき。。。」そう一言言った春田さんは、右手をそーっと牧くんの左頬に添えて、やさしく唇にキスをするのでした。うっとりした顔の牧くん。
「おれ、母に連絡とってみます。」そしてすぐさま電話するのでした。「はえーな、牧。早すぎじゃねーの？」
「あ、もしもし、お母さん？今？日本に帰ってきてるんだ。そうなんだー、うん。年明けまでこっちにいるんだよ。うん。でね。春田さんとふたりで、今夜でも年末のごあいさつに伺おうかって話してて、それでどうかなって。うん。うん。えっ！！お父さんインフル！？大丈夫なのっ！？」
隣りで聞いている春田さんもびっくりです。
「そうなのよ、凌ちゃん。１２月に入ってから、まずそらがかかっちゃってね。そらは５日くらいで良くなったんだけど、お父さんにうつっちゃったのよ。え、お母さん？マスクとか、手洗い・うがいしてたからかしら。なんともないのよ。すごいでしょ？」
「お母さん、大丈夫でよかったよー。。。で、お父さんは！？」
「３日ほど前から平熱に下がって、もう大丈夫そうよ。そーだわ、お母さん、今夜お父さんの快気祝いにから揚げするし、おいでなさいよ。お父さんも凌ちゃんに会いたがってるし！！」
「春田さんも一緒だよ。じゃないと、おれ、行かないよ？」
「当たり前じゃない！お父さんはまだ慣れてないだけよ。もっと知り合ってもらうためにも、おいでなさいよ。ね？」「うん。。。でもさ。。。」
返事をする牧くんを見ていて、じれったくなった春田さんは牧くんのスマホを奪い取り、離し始めます。
「わっ！！春田さんっ！！」「あっ！代わりました、春田です。お久しぶりですぅ。お義父さんのお加減いかがですか？」
「あらまぁ、春田さん！」「隣りで聞いていましたが、牧といっしょに、おれもお見舞いに伺っていいでしょうか！」
「ふたりとも、今夜いっしょにいらっしゃいな。あの人も、インフルはもう落ち着きましたから、大丈夫よ〜。私、張り切ってから揚げ用意しとくから、ふたりでおいでなさいよっ。」
「はいっ！！伺わせていただきますっっ！！」そして、お宅に伺う時間を決めて、電話は終わりました。
「春田さんっ。」「牧、心配するな。おれさ、お義父さんと仲良くなりたいだけだから。」
「春田さん。おれ、うれしい。」
「おれさ、父ちゃんいないだろ？牧のお父さんが、父ちゃんになってくれればいいなって、前から思ってたんだ。アタルくんは、少し年上のおにいちゃんって感じだし。そう思うと、おれ、二人も先輩が出来るんだから、すげーラッキーだよなっ。」
にこにこと微笑む春田さんを見つめる牧くんは、しみじみと言うのでした。
「、、、春田さんでよかった。」「え？何？」「ううん。いいんだ。はるたさんが、おれのはるたさんで、よかった。」
「なーに、言ってんだよ。おれだって、まきが、おれだけのまきだって思ったら、本当に幸せだよ。。。」
熱く見つめ合う、ふたりでした。。。
すみません、続けます！！！
３２９番のお話の続きです。すみません、考えてたら朝です。とほほ。。。
その日、１２月２９日の夜。牧家の晩餐は、にぎやかに始まっていました。芳郎さんが食欲全快でした。そこへ、そらちゃんからの教育的指導。
「お父さん！！から揚げ、食べ過ぎだってばっ！！」「何言うんだ、そら。食べられるのは、回復した証拠だぞっ！！だろっ！？凌太っ！！」
「確かにそうだけど、お父さん自分のお皿に取り過ぎだよっ。ちょっとは春田さんに食べさせてあげてよっ！！」牧くんにそう言われて、ちょっと気まずい顔の芳郎さん。
「わかった！！おれも大人気なかった。すまんな、春田くん。これ、食べて。」
自分の皿から春田さんの取り皿に、どっとから揚げを移す牧パパ。ぱーっと、笑顔になる春田さん。
「ありがとうございます！ほんと、お母さんと牧のつくるから揚げ、うまいんですよねっ！」
牧くんが返事します。「もー。春田さんてば、ほめ過ぎですよおっ。」と、言いながら春田さんの油のついた口元を、サッと拭いてあげる牧くん。
ふたりのいちゃいちゃぶりを、まんざらでもなさそうに見ている芳郎さん。
そこに、そらちゃんがカットインです。
「ねえねえ、おにいちゃん。年末年始、何するの？」「なんだよ、そら。急だな。」
「旅行とかさ、一泊二日とかでどこか行かないの？」
「ムリムリ。日程的に無理だし。第一、こんな年末年始で行ったら、めっちゃくちゃ高いからっ！！そういうのは却下だっ！！」「うっわー、出たよ、ケチ凌太！！も、むかしからそうだよね。」
「何がケチだっ！！こーゆーのは、倹約・節約って言うんだよ、馬鹿そらっ！！」
「うーわーっ！！ひどいでしょ、ね、ひどいでしょ春田さん！これがおにいちゃんの正体ですからねっ！」
「まあまあ、そらちゃん。でもさー、おれがゆるいところあるからさ。牧が締めてくれて、感謝してるところ、大きいんだよね。」「えーっ。そうなんですかあっ！？」
ぶーっとふくれる、そらちゃん。かたや、牧くんは少しドヤ顔です。その様子を見ていた芳郎さん。少しうれしそうに微笑むのでした。
そして、ディナーも終盤を迎え、しのママお手製のキャラメルコーヒームースがデザートに運ばれてきました。ひとくち含んだ春田さん。
「わっ。」「どしたの？春田さん。」「すごい、うまいんですけど。こんなの。お店でも食べたことないと思う。。。」
「あら、うれしいわね、春田さん。」と、しのママが声をあげました。
「ふふふ。。。分かりましたか、春田さん。」「何。どしたのよ、牧。」
「これは、おれもまだうまく作れないメニューなんです。」「えっ。牧でもそうなんだ。」
「まず、ハワイコナって言う、コーヒー豆の入手が最近ちょっとだけ難しいんです。」
「ハワイで採れる豆なの？」「そうなんです。コナと言う地区だけで採れる豆なんです。」
「そうなんだー。」
「そうなんだよねええ。」牧パパが、話し始めます。
「わしは、元々コーヒー好きで、飲むのはだいたいハワイ・コナで、そのついでに作ってもらうこのデザートが好きでさー。」と、牧パパもため息。。。
「そんなの、ハワイに行っちゃえば、すぐ買えるんじゃないんですか？」けろりと言う春田さん。「春田さんは、もー。軽く言うけどさ。」と、牧くん。
そこで春田さん返します。
「おれ、思い出しちゃった。☆☆商店街の招福抽選会、特等はハワイ旅行だったぞ。」
「えっ、そうだったっけ。」と、牧くん。それが牧パパの興味を引きました。
「本当か？春田くんっ。」「はいっ。ほら、これこれこれ。はいっ！これっ！」
リュックから、たまたま突っ込んでいた商店街のチラシを取り出した春田さん。ダイニングテーブルの上に、シワを伸ばしながら広げます。
☆☆商店街の抽選会には、けっこう豪華な品々が上位に並んでいました。冷蔵庫とかクーラーとか電動機付自転車とか。
「あー。。。だから、５００円で一枚のクジだったのかあ。。。」と、牧くん。
「だからさ、牧。少しでも可能性があるものに賭けてみない？それも楽しみの一つだしさ。年末だし、いいんじゃないかなって。」
その日、１２月２９日の夜。牧家の晩餐は、にぎやかに始まっていました。芳郎さんが食欲全快でした。そこへ、そらちゃんからの教育的指導。
「お父さん！！から揚げ、食べ過ぎだってばっ！！」「何言うんだ、そら。食べられるのは、回復した証拠だぞっ！！だろっ！？凌太っ！！」
「確かにそうだけど、お父さん自分のお皿に取り過ぎだよっ。ちょっとは春田さんに食べさせてあげてよっ！！」牧くんにそう言われて、ちょっと気まずい顔の芳郎さん。
「わかった！！おれも大人気なかった。すまんな、春田くん。これ、食べて。」
自分の皿から春田さんの取り皿に、どっとから揚げを移す牧パパ。ぱーっと、笑顔になる春田さん。
「ありがとうございます！ほんと、お母さんと牧のつくるから揚げ、うまいんですよねっ！」
牧くんが返事します。「もー。春田さんてば、ほめ過ぎですよおっ。」と、言いながら春田さんの油のついた口元を、サッと拭いてあげる牧くん。
ふたりのいちゃいちゃぶりを、まんざらでもなさそうに見ている芳郎さん。
そこに、そらちゃんがカットインです。
「ねえねえ、おにいちゃん。年末年始、何するの？」「なんだよ、そら。急だな。」
「旅行とかさ、一泊二日とかでどこか行かないの？」
「ムリムリ。日程的に無理だし。第一、こんな年末年始で行ったら、めっちゃくちゃ高いからっ！！そういうのは却下だっ！！」「うっわー、出たよ、ケチ凌太！！も、むかしからそうだよね。」
「何がケチだっ！！こーゆーのは、倹約・節約って言うんだよ、馬鹿そらっ！！」
「うーわーっ！！ひどいでしょ、ね、ひどいでしょ春田さん！これがおにいちゃんの正体ですからねっ！」
「まあまあ、そらちゃん。でもさー、おれがゆるいところあるからさ。牧が締めてくれて、感謝してるところ、大きいんだよね。」「えーっ。そうなんですかあっ！？」
ぶーっとふくれる、そらちゃん。かたや、牧くんは少しドヤ顔です。その様子を見ていた芳郎さん。少しうれしそうに微笑むのでした。
そして、ディナーも終盤を迎え、しのママお手製のキャラメルコーヒームースがデザートに運ばれてきました。ひとくち含んだ春田さん。
「わっ。」「どしたの？春田さん。」「すごい、うまいんですけど。こんなの。お店でも食べたことないと思う。。。」
「あら、うれしいわね、春田さん。」と、しのママが声をあげました。
「ふふふ。。。分かりましたか、春田さん。」「何。どしたのよ、牧。」
「これは、おれもまだうまく作れないメニューなんです。」「えっ。牧でもそうなんだ。」
「まず、ハワイコナって言う、コーヒー豆の入手が最近ちょっとだけ難しいんです。」
「ハワイで採れる豆なの？」「そうなんです。コナと言う地区だけで採れる豆なんです。」
「そうなんだー。」
「そうなんだよねええ。」牧パパが、話し始めます。
「わしは、元々コーヒー好きで、飲むのはだいたいハワイ・コナで、そのついでに作ってもらうこのデザートが好きでさー。」と、牧パパもため息。。。
「そんなの、ハワイに行っちゃえば、すぐ買えるんじゃないんですか？」けろりと言う春田さん。「春田さんは、もー。軽く言うけどさ。」と、牧くん。
そこで春田さん返します。
「おれ、思い出しちゃった。☆☆商店街の招福抽選会、特等はハワイ旅行だったぞ。」
「えっ、そうだったっけ。」と、牧くん。それが牧パパの興味を引きました。
「本当か？春田くんっ。」「はいっ。ほら、これこれこれ。はいっ！これっ！」
リュックから、たまたま突っ込んでいた商店街のチラシを取り出した春田さん。ダイニングテーブルの上に、シワを伸ばしながら広げます。
☆☆商店街の抽選会には、けっこう豪華な品々が上位に並んでいました。冷蔵庫とかクーラーとか電動機付自転車とか。
「あー。。。だから、５００円で一枚のクジだったのかあ。。。」と、牧くん。
「だからさ、牧。少しでも可能性があるものに賭けてみない？それも楽しみの一つだしさ。年末だし、いいんじゃないかなって。」
すみません、３３０番のお話の続きです！！
そこで芳郎さんが、一声を発しました。「しの。」「はい。あなた。」
「これは、我々も参加すべき案件ではないのかな。」
「あなた。そう言ってくださると思いましたよっ。」「えーーーっっっ！！」春牧も、そらちゃんも声をあげます。
「さあ。春田くんっ！説明したまえ。ちょうど我が家も買い出し時だ。どうせなら、その商店街で買い物しようじゃないか。そして、ハワイ旅行を当てて、ハワイへ行ってコーヒー豆買うのさ。」
「いえっ、いえいえいえいえ。確実に特賞が取れるとは限りませんしっっっ！！！」急に青くなって、あわあわする春田さん。
「そうだよっ、お父さん！！何、言ってんの！！普段のお父さんが言うセリフじゃないよっ！！」牧くんも加勢します。
しかし、そこでそらちゃんが、ぽそっと一言はさみます。
「でも、お父さん、インフルから立ち直ったし。何か持ってるかも。。。」
「そらっ！お前もそういうあやふやなことを言うなっ。」
止めに入る牧くんを制して、牧パパが立ち上がりました。
「ハワイコナの豆は、近年輸入量が減っていて、手に入りにくいんだよ。高いしね。だ・か・ら。凌太っ！春田くんっ！」「はいっ！！」春田さんと牧くん、ふたり同時に返事します。
「くじを当てて、現地でコナコーヒーを買ってくる。そこを最大の目標にしよう！！、、、とりあえず、まず、明日、昼くらいに待ち合わせして、その商店街に行こうじゃないか。今夜はもう帰って休みなさい。お父さんもそういうことなら年末まで協力しようと思う。あ。しの。必要なものを、書き出しておくんだよ。」「はいっ。あ・な・たっ。」
「あーーー。結局、うちもラブラブ夫婦なのかーーー。。。」と、そらちゃんが声をあげました。
そして、帰宅した春牧のふたりは、すでにベッドの中です。
「おい、まき。いいのか？」
「思いもしなかった展開ですけど、両親がやりたいって言うんですから、止める理由もないし。けど、なにしろガラガラですから。絶対に当たる確率が低い。まあ。お遊び感覚で楽しんでくれるといいんですが。」
眉間にシワを寄せて、はーっと息をつく牧くん。
「お父さんとお母さん、運があるといいな。」
「ですね。少しはいいものが当たるといいんですけど。」
やさしく牧くんの髪やほほをなぜながら、春田さんが言いました。
「牧はやさしいな。」「それほどでも。」
「ううん。まき。やさしい。お父さんとお母さんとそらちゃんの気持ち、考えてる。」
「そうかなあ。。。でもおれ、けっこう好き勝手してるから。。。」
見つめ合うふたり。
「おれのかーちゃんにだって、やさしいし。」「そんなの当然ですよ、春田さんを産んで、ここまで育ててくれた人なんだから！！」
少し強めに言う牧くんの顔を見ながら、すごくうれしそうに微笑んで、牧くんを抱きしめる春田さんでした。
「春田さ、、、く、、、苦しいって。」「牧。。。りょうた、大好き。」
「お、おれだって、そういちが大好きだもん。忘れないでね。」「うん。分かってる。」
そうやって抱きしめ合いながら、あたたかくなって、眠りに落ちていく、ふたりなのでした。
２０２０・１２・２９ かようび おわり。。。
そこで芳郎さんが、一声を発しました。「しの。」「はい。あなた。」
「これは、我々も参加すべき案件ではないのかな。」
「あなた。そう言ってくださると思いましたよっ。」「えーーーっっっ！！」春牧も、そらちゃんも声をあげます。
「さあ。春田くんっ！説明したまえ。ちょうど我が家も買い出し時だ。どうせなら、その商店街で買い物しようじゃないか。そして、ハワイ旅行を当てて、ハワイへ行ってコーヒー豆買うのさ。」
「いえっ、いえいえいえいえ。確実に特賞が取れるとは限りませんしっっっ！！！」急に青くなって、あわあわする春田さん。
「そうだよっ、お父さん！！何、言ってんの！！普段のお父さんが言うセリフじゃないよっ！！」牧くんも加勢します。
しかし、そこでそらちゃんが、ぽそっと一言はさみます。
「でも、お父さん、インフルから立ち直ったし。何か持ってるかも。。。」
「そらっ！お前もそういうあやふやなことを言うなっ。」
止めに入る牧くんを制して、牧パパが立ち上がりました。
「ハワイコナの豆は、近年輸入量が減っていて、手に入りにくいんだよ。高いしね。だ・か・ら。凌太っ！春田くんっ！」「はいっ！！」春田さんと牧くん、ふたり同時に返事します。
「くじを当てて、現地でコナコーヒーを買ってくる。そこを最大の目標にしよう！！、、、とりあえず、まず、明日、昼くらいに待ち合わせして、その商店街に行こうじゃないか。今夜はもう帰って休みなさい。お父さんもそういうことなら年末まで協力しようと思う。あ。しの。必要なものを、書き出しておくんだよ。」「はいっ。あ・な・たっ。」
「あーーー。結局、うちもラブラブ夫婦なのかーーー。。。」と、そらちゃんが声をあげました。
そして、帰宅した春牧のふたりは、すでにベッドの中です。
「おい、まき。いいのか？」
「思いもしなかった展開ですけど、両親がやりたいって言うんですから、止める理由もないし。けど、なにしろガラガラですから。絶対に当たる確率が低い。まあ。お遊び感覚で楽しんでくれるといいんですが。」
眉間にシワを寄せて、はーっと息をつく牧くん。
「お父さんとお母さん、運があるといいな。」
「ですね。少しはいいものが当たるといいんですけど。」
やさしく牧くんの髪やほほをなぜながら、春田さんが言いました。
「牧はやさしいな。」「それほどでも。」
「ううん。まき。やさしい。お父さんとお母さんとそらちゃんの気持ち、考えてる。」
「そうかなあ。。。でもおれ、けっこう好き勝手してるから。。。」
見つめ合うふたり。
「おれのかーちゃんにだって、やさしいし。」「そんなの当然ですよ、春田さんを産んで、ここまで育ててくれた人なんだから！！」
少し強めに言う牧くんの顔を見ながら、すごくうれしそうに微笑んで、牧くんを抱きしめる春田さんでした。
「春田さ、、、く、、、苦しいって。」「牧。。。りょうた、大好き。」
「お、おれだって、そういちが大好きだもん。忘れないでね。」「うん。分かってる。」
そうやって抱きしめ合いながら、あたたかくなって、眠りに落ちていく、ふたりなのでした。
２０２０・１２・２９ かようび おわり。。。
そのまま続けます！すみません！！
１２月３０日の朝がやって来ました。その朝の牧くんの実家では、すでにパパとママが起きて準備中でした。
「なあ。しの。早く行かないと。」「あらぁ。あなた、そういうのはダメじゃないかしら。」
「えーっ！？だめ？何がだめーっ！？」
「きっと、こんなに早くは仲良しな二人を邪魔するだけよ、きっと。だいたい、私たちもまだこれから朝ご飯なんだし。」
「あ、そっかー。それは確かにお父さんダメダメー。。。って、じゃなくてーっ！！わ、わ、わしの凌太は、あんなヤツ選ぶような子じゃないっ！！ほんと性格もよくて優しくて可愛くて目もきれいで、同級生よりいつも優秀で、成績もよくて、そして可愛くて。。。」パパ、そこで言葉が途切れます。
「なんでだよ、おれの息子が。。。」がっくりとうなだれて、畳に座り込む牧くんのパパ。
「あなたの、そういう顔が見たくなかったから、凌太は、ずっと言えなかったのよ。」
「そうなのかっ！？」「ええ。ずいぶん長くね。」「しの、おまえ、いつから知ってたんだっ！？」
ただ、笑顔でうなづくしのママ。
「私も初めはちょっとびっくりだったけど、でも、あの子を見ていたら、なんだか不思議に強く言えなくて。。。」
「そりゃあ、しのも初めて知った時は驚いただろうなあ。」牧パパが少し静かに言った言葉に、しのママが答えます。
「でもね。この子にはこの子で、幸せになる道がきっとあるって思ったんです。凌太のことを心から好きになって、一緒にいてくれる人が現れるに違いないって。私にあなたがいてくれたように。」
パパの目を見つめるママ。「しの。。。」
と、そこにそらちゃんが切り込みます。
「あー！！！もー！！！朝からのろけてる場合じゃないでしょっっっ！！！」
「あ。ごめん。そら。お父さん、今日がんばるからな。」
ぱたぱたとあわてふためくパパとママ。
「そーよっ！！頑張ってよっ、目標はハワイなんだからさっ！！」
「じゃ、朝ごはんにしましょうかね。」
しのママの優しい声を合図に、朝ごはんが始まるのでした。
次、続けます！！
１２月３０日の朝がやって来ました。その朝の牧くんの実家では、すでにパパとママが起きて準備中でした。
「なあ。しの。早く行かないと。」「あらぁ。あなた、そういうのはダメじゃないかしら。」
「えーっ！？だめ？何がだめーっ！？」
「きっと、こんなに早くは仲良しな二人を邪魔するだけよ、きっと。だいたい、私たちもまだこれから朝ご飯なんだし。」
「あ、そっかー。それは確かにお父さんダメダメー。。。って、じゃなくてーっ！！わ、わ、わしの凌太は、あんなヤツ選ぶような子じゃないっ！！ほんと性格もよくて優しくて可愛くて目もきれいで、同級生よりいつも優秀で、成績もよくて、そして可愛くて。。。」パパ、そこで言葉が途切れます。
「なんでだよ、おれの息子が。。。」がっくりとうなだれて、畳に座り込む牧くんのパパ。
「あなたの、そういう顔が見たくなかったから、凌太は、ずっと言えなかったのよ。」
「そうなのかっ！？」「ええ。ずいぶん長くね。」「しの、おまえ、いつから知ってたんだっ！？」
ただ、笑顔でうなづくしのママ。
「私も初めはちょっとびっくりだったけど、でも、あの子を見ていたら、なんだか不思議に強く言えなくて。。。」
「そりゃあ、しのも初めて知った時は驚いただろうなあ。」牧パパが少し静かに言った言葉に、しのママが答えます。
「でもね。この子にはこの子で、幸せになる道がきっとあるって思ったんです。凌太のことを心から好きになって、一緒にいてくれる人が現れるに違いないって。私にあなたがいてくれたように。」
パパの目を見つめるママ。「しの。。。」
と、そこにそらちゃんが切り込みます。
「あー！！！もー！！！朝からのろけてる場合じゃないでしょっっっ！！！」
「あ。ごめん。そら。お父さん、今日がんばるからな。」
ぱたぱたとあわてふためくパパとママ。
「そーよっ！！頑張ってよっ、目標はハワイなんだからさっ！！」
「じゃ、朝ごはんにしましょうかね。」
しのママの優しい声を合図に、朝ごはんが始まるのでした。
次、続けます！！
３３２番の続きです。すみません！！
１２月３０日。その日の午後。１２時に少し前、春田さんと牧くん、そして牧パパとしのママ、そらちゃんは、☆☆商店街の入り口で合流していました。
ばばばーん！！と、緊張して怖い顔の牧パパ。それをなごませようと、作り笑いが過ぎる春田さん。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと！！」牧くんが割って入ります。
「お父さんっ！！そんな怖い顔しないで！春田さんを、おどかさないでよっ。」
「すまんっ、凌太。お父さんも緊張して、こんな顔しかできないんだ。」
そして、みんなで作戦会議的なものが始まりました。
まず第一に、各家庭で必要なものを買おうと。そして第二に、ポイントを稼げる品物を選んで買おうと。そして、みんなの最大の目標はハワイ旅行！！
そこまで話し合って、小さくサークルを組んで声を出し、気持ちを確認した後、商店街のあっちとこっちにメンバーは別れていくのでした。
「まき、とりあえず何が必要かなあ。」
「そうですね。今夜はうちで食べるから、まずはその食材ですね。」
「えっ。うちでいいの？」
「そんなー。おれの実家で２日連続じゃ、春田さんのお疲れがハンパじゃないでしょ？おれ、母さんと打ち合わせずみです。」
ぱっと笑顔になる春田さん。
「まきいいぃぃっっ！！」「あっ！気持ちはわかるけど、うれしいけど、こんな商店街の真ん中で抱きしめないで下さいね。」「わかってる。ありがとおおおっ。」うるうるの目で見つめる春田さん。
「もう。そういちは。。。」
少しほおが赤く染まった牧くん。春田さんの頭をくしゃくしゃと撫ぜ、春田さんの耳元でささやきます。「だから、そういちが大好き。」
「おれだって、まきが大好きだ。」「ほら、もー！！大きい声で言うな！！」
「えー。でもさー。すぐ答えることに意義があるんじゃないのおー？」
「へへっ。」そして、自分から春田さんに手をつなぐ牧くん。
目を見つめ合って、微笑みあったふたりは、寄り添って買い物にくりだしていくのでした。
１２月３０日。その日の午後。１２時に少し前、春田さんと牧くん、そして牧パパとしのママ、そらちゃんは、☆☆商店街の入り口で合流していました。
ばばばーん！！と、緊張して怖い顔の牧パパ。それをなごませようと、作り笑いが過ぎる春田さん。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと！！」牧くんが割って入ります。
「お父さんっ！！そんな怖い顔しないで！春田さんを、おどかさないでよっ。」
「すまんっ、凌太。お父さんも緊張して、こんな顔しかできないんだ。」
そして、みんなで作戦会議的なものが始まりました。
まず第一に、各家庭で必要なものを買おうと。そして第二に、ポイントを稼げる品物を選んで買おうと。そして、みんなの最大の目標はハワイ旅行！！
そこまで話し合って、小さくサークルを組んで声を出し、気持ちを確認した後、商店街のあっちとこっちにメンバーは別れていくのでした。
「まき、とりあえず何が必要かなあ。」
「そうですね。今夜はうちで食べるから、まずはその食材ですね。」
「えっ。うちでいいの？」
「そんなー。おれの実家で２日連続じゃ、春田さんのお疲れがハンパじゃないでしょ？おれ、母さんと打ち合わせずみです。」
ぱっと笑顔になる春田さん。
「まきいいぃぃっっ！！」「あっ！気持ちはわかるけど、うれしいけど、こんな商店街の真ん中で抱きしめないで下さいね。」「わかってる。ありがとおおおっ。」うるうるの目で見つめる春田さん。
「もう。そういちは。。。」
少しほおが赤く染まった牧くん。春田さんの頭をくしゃくしゃと撫ぜ、春田さんの耳元でささやきます。「だから、そういちが大好き。」
「おれだって、まきが大好きだ。」「ほら、もー！！大きい声で言うな！！」
「えー。でもさー。すぐ答えることに意義があるんじゃないのおー？」
「へへっ。」そして、自分から春田さんに手をつなぐ牧くん。
目を見つめ合って、微笑みあったふたりは、寄り添って買い物にくりだしていくのでした。
３３３番のお話の続きです。すみません長くて！！
しかし、その日、１２月３０日のガラガラくじの結果は惨敗でした。
それぞれのチームのクジをすべて引きましたが、牧パパチームは、１０００円のお買い物券、春牧チームもは、『魚屋さんの鍋セット』が当たっただけで、他のくじはすべて参加賞でした。
最終的な目標には、まったく届かず。。。
「それでも当たったんですからっっ！！」春田さんは声を大にして明るく言いましたが、牧パパのほうが冷静でした。
「いや、春田くん。これが今日の運なんだ。」
「お義父さん。。。」「お父さん。。。」「あなた。。。」そらちゃんはつら過ぎて声が出ず、牧パパを見つめていました。
牧パパが静かに、でも熱く言います。
「わしは、明日に賭けるぞ。年末までまだ一日あるんだ。ハワイ旅行、当てよう。わしら、家族の力で引き寄せよう。なぁ、春田くんっ。」「お父さん」
目がきらきらし始める春田さん。
「なっ。なんだよっ、春田くんっ！」「家族のちからでって、言ってくれましたよねっ！！」
「あっ！！お父さん、今言った！！」牧くんも加勢します。
「それはそれとしてだねっ！！」牧パパ、ちょっと恥ずかしそうに話し始めます。
「今日はこんな結果だったが、まだ大晦日の明日一日が残っている。そしてまだ、特等のハワイ旅行は、出ていない。わしらにはまだチャンスが残っているということだ。」「はいっ。」
チームが返事します。
確かに、特等のハワイ旅行の当選はまだ出ていませんでした。
☆☆商店街のくじ引きは、下位の当たりくじが多いようで、色んな上位の品物も、まだ当選者はいない模様でした。
牧パパ、話し始めます。
「あすっ！みんなには悪いんだが、もう一度集まってほしい。わしのカンでは、ハワイ旅行は、もう目の前に来ていると思っているんだよ。」
牧パパの落ち着いた声で、チームは集中するのでした。
そして、決戦の１２月３１日。お昼前。それぞれのチームでお買い物をして、チケットを入手して、ガラガラの抽選に挑戦したのですが。
春牧チームも、牧パパチームも、残念ながら、すべて参加賞だったのでした。。。
しかし、その日、１２月３０日のガラガラくじの結果は惨敗でした。
それぞれのチームのクジをすべて引きましたが、牧パパチームは、１０００円のお買い物券、春牧チームもは、『魚屋さんの鍋セット』が当たっただけで、他のくじはすべて参加賞でした。
最終的な目標には、まったく届かず。。。
「それでも当たったんですからっっ！！」春田さんは声を大にして明るく言いましたが、牧パパのほうが冷静でした。
「いや、春田くん。これが今日の運なんだ。」
「お義父さん。。。」「お父さん。。。」「あなた。。。」そらちゃんはつら過ぎて声が出ず、牧パパを見つめていました。
牧パパが静かに、でも熱く言います。
「わしは、明日に賭けるぞ。年末までまだ一日あるんだ。ハワイ旅行、当てよう。わしら、家族の力で引き寄せよう。なぁ、春田くんっ。」「お父さん」
目がきらきらし始める春田さん。
「なっ。なんだよっ、春田くんっ！」「家族のちからでって、言ってくれましたよねっ！！」
「あっ！！お父さん、今言った！！」牧くんも加勢します。
「それはそれとしてだねっ！！」牧パパ、ちょっと恥ずかしそうに話し始めます。
「今日はこんな結果だったが、まだ大晦日の明日一日が残っている。そしてまだ、特等のハワイ旅行は、出ていない。わしらにはまだチャンスが残っているということだ。」「はいっ。」
チームが返事します。
確かに、特等のハワイ旅行の当選はまだ出ていませんでした。
☆☆商店街のくじ引きは、下位の当たりくじが多いようで、色んな上位の品物も、まだ当選者はいない模様でした。
牧パパ、話し始めます。
「あすっ！みんなには悪いんだが、もう一度集まってほしい。わしのカンでは、ハワイ旅行は、もう目の前に来ていると思っているんだよ。」
牧パパの落ち着いた声で、チームは集中するのでした。
そして、決戦の１２月３１日。お昼前。それぞれのチームでお買い物をして、チケットを入手して、ガラガラの抽選に挑戦したのですが。
春牧チームも、牧パパチームも、残念ながら、すべて参加賞だったのでした。。。
もはや季節が変わってしまいましたが、牧の記憶喪失話の後編です。
ちなみに[295]〜[299]の五本で前編、中編は[301]〜[305]
後編は一万五千字超えてるので、枠取ってごめんなさいm(_ _)m
しかも、更に最終章に続きます。
後編は大波乱ですが、やっと牧の記憶が戻ります。
Make a vow −LOVE or HATE− 後編
牧が、春田の記憶を失くして一週間。
その日、ちょうど昼休みに入った時間だった。
外で昼食を取ろうかと、立ち上がった春田を、栗林が呼んだ。
「春田さん、御指名ですよ」
「え、お客様？」
「物件探しに来たお客様じゃないみたいで、今、廊下にいます。すっげー可愛い女の子。胸なんかこーんなの」
手で大きな胸を表す栗林に、それはやめろと注意しながら、カウンター前のガラス扉の向こうに目を凝らすと、栗林の話から予測した通りの人物が見えた。
「そらちゃん」
「へへ、来ちゃった。仕事中にごめんなさい」
「いや、今から昼休みだよ」
「春田さんってお弁当？」
「どこかの店でも行こうかと」
そらはパッと表情を輝かせた。
「よかった〜、お弁当作ってきたよ。唐揚げ、好きでしょ？」
「え！マジか？そりゃ有り難い！」
それから二人で屋上に移動し、春田は久々の唐揚げを頬張る事が出来た。
「旨いな〜。さすが牧のお母さんだ。牧が作ったのと同じ味がする」
「お兄ちゃんのはお母さん直伝だもん」
「お義母さんにお礼、言っといてくれ」
「私も詰めるの手伝いました〜」
「ははは、ありがとな」
香ばしい鶏肉を味わいながら、春田は目を閉じた。
日本に帰ったら、まずこれが食べられると思った。
そして、目の前には牧の笑顔があると。
ただそれだけの事が、何故まだ叶わない？
「ちょっと春田さん！唐揚げ食べながら泣かないでよ〜！」
思いに浸る春田の目からは、思いがけず涙が一筋流れていた。
「あ、ごめんごめん、涙が出るくらい旨くてさ」
「分かってるわよ、お兄ちゃんの事、考えてたんでしょ？」
春田は苦笑して、そらが用意してくれたマグのお茶を流し込む。
「何か話があったんだろ？」
ひと息ついて、春田は問い掛ける。
「うん・・・、お兄ちゃんがね、最近機嫌悪くて」
「俺の前ではそうでもないけどな」
「そりゃ春田さんの前ではいい子ぶってるけどさ、私が春田さんの話しようとしても、その話はもういいとか。・・・あと退院したがってる」
「やっぱりそうか・・・」
「お見舞いに来た本社の人から、仕事の進み具合聞いてるし、せっかくチームに選ばれたのに、何の役にも立ってないって焦ってるのよ」
「あいつ、真面目だからなぁ」
「それと春田さん、あんまり付き合ってた頃の話してないでしょ？」
「医者が、あんまり周りが騒ぐと、思い出してないのに調子を合わせる事もあるって言うからさ、自然に思い出して欲しくて・・・」
「優しいね、春田さん。でも、そろそろタイムリミットよ。最後の手段で二人しか知らない、付き合ってた頃の話をしてみて。それでもダメなら、長期戦も覚悟しないと」
「そうだな」
「元カレと復縁なんか嫌よ」
そこで春田は気になっていた事を聞きたくなった。
「そらちゃんは武川さんに会った事、あるの？」
「うーん、会ったって言うか、一緒にいるのを見掛けた事はある。お兄ちゃんたら、甘えた顔しちゃってさ」
「武川さんの方がスペック高いだろ？」
「高過ぎて近寄りがたい感じ。それにね、春田さんならお兄ちゃんが増えた感じだけど、武川さんだと、お父さんがもう一人って感じじゃない？」
「あはは、確かにな」
「何より、春田さんはもう家族だもん。どんなハイスペックのイケメンでも、春田さん以外ダメ」
そう言ってくれる義妹に、嬉しさと、牧の為に何も出来ていない申し訳なさに、春田はただ苦笑してみせた。
「あいつも、そう思ってくれたらいいな」
「当たり前じゃない！今、ちょっとおかしくなってるだけよ。何だったら、もう一回、階段から落とそうか？」
「ははは、それはさすがにやめような」
「あ、もうすぐ花火じゃん！お兄ちゃん、春田さんからもらった浴衣着て行くの、楽しみにしてたから、絶対それまでには元に戻って欲しい！」
春田は苦笑で答えた。
いつまでに、と期間を設けて、叶わない結果に終わるのは辛すぎる。
昼休みも終わる時間、空の弁当箱を持って、そらは手を振って帰って行った。
振り返す春田の隣に、いつの間にか栗林が来て、一緒に手を振っている。
「何だよ、マロ」
「春田さん、どこでグラビアアイドルと知り合ったんですか？」
「誰かグラビアアイドルだ！彼女は牧の妹だよ」
「えぇー！？牧さんの？！美男美女の兄妹じゃないスか！」
続く！
ちなみに[295]〜[299]の五本で前編、中編は[301]〜[305]
後編は一万五千字超えてるので、枠取ってごめんなさいm(_ _)m
しかも、更に最終章に続きます。
後編は大波乱ですが、やっと牧の記憶が戻ります。
Make a vow −LOVE or HATE− 後編
牧が、春田の記憶を失くして一週間。
その日、ちょうど昼休みに入った時間だった。
外で昼食を取ろうかと、立ち上がった春田を、栗林が呼んだ。
「春田さん、御指名ですよ」
「え、お客様？」
「物件探しに来たお客様じゃないみたいで、今、廊下にいます。すっげー可愛い女の子。胸なんかこーんなの」
手で大きな胸を表す栗林に、それはやめろと注意しながら、カウンター前のガラス扉の向こうに目を凝らすと、栗林の話から予測した通りの人物が見えた。
「そらちゃん」
「へへ、来ちゃった。仕事中にごめんなさい」
「いや、今から昼休みだよ」
「春田さんってお弁当？」
「どこかの店でも行こうかと」
そらはパッと表情を輝かせた。
「よかった〜、お弁当作ってきたよ。唐揚げ、好きでしょ？」
「え！マジか？そりゃ有り難い！」
それから二人で屋上に移動し、春田は久々の唐揚げを頬張る事が出来た。
「旨いな〜。さすが牧のお母さんだ。牧が作ったのと同じ味がする」
「お兄ちゃんのはお母さん直伝だもん」
「お義母さんにお礼、言っといてくれ」
「私も詰めるの手伝いました〜」
「ははは、ありがとな」
香ばしい鶏肉を味わいながら、春田は目を閉じた。
日本に帰ったら、まずこれが食べられると思った。
そして、目の前には牧の笑顔があると。
ただそれだけの事が、何故まだ叶わない？
「ちょっと春田さん！唐揚げ食べながら泣かないでよ〜！」
思いに浸る春田の目からは、思いがけず涙が一筋流れていた。
「あ、ごめんごめん、涙が出るくらい旨くてさ」
「分かってるわよ、お兄ちゃんの事、考えてたんでしょ？」
春田は苦笑して、そらが用意してくれたマグのお茶を流し込む。
「何か話があったんだろ？」
ひと息ついて、春田は問い掛ける。
「うん・・・、お兄ちゃんがね、最近機嫌悪くて」
「俺の前ではそうでもないけどな」
「そりゃ春田さんの前ではいい子ぶってるけどさ、私が春田さんの話しようとしても、その話はもういいとか。・・・あと退院したがってる」
「やっぱりそうか・・・」
「お見舞いに来た本社の人から、仕事の進み具合聞いてるし、せっかくチームに選ばれたのに、何の役にも立ってないって焦ってるのよ」
「あいつ、真面目だからなぁ」
「それと春田さん、あんまり付き合ってた頃の話してないでしょ？」
「医者が、あんまり周りが騒ぐと、思い出してないのに調子を合わせる事もあるって言うからさ、自然に思い出して欲しくて・・・」
「優しいね、春田さん。でも、そろそろタイムリミットよ。最後の手段で二人しか知らない、付き合ってた頃の話をしてみて。それでもダメなら、長期戦も覚悟しないと」
「そうだな」
「元カレと復縁なんか嫌よ」
そこで春田は気になっていた事を聞きたくなった。
「そらちゃんは武川さんに会った事、あるの？」
「うーん、会ったって言うか、一緒にいるのを見掛けた事はある。お兄ちゃんたら、甘えた顔しちゃってさ」
「武川さんの方がスペック高いだろ？」
「高過ぎて近寄りがたい感じ。それにね、春田さんならお兄ちゃんが増えた感じだけど、武川さんだと、お父さんがもう一人って感じじゃない？」
「あはは、確かにな」
「何より、春田さんはもう家族だもん。どんなハイスペックのイケメンでも、春田さん以外ダメ」
そう言ってくれる義妹に、嬉しさと、牧の為に何も出来ていない申し訳なさに、春田はただ苦笑してみせた。
「あいつも、そう思ってくれたらいいな」
「当たり前じゃない！今、ちょっとおかしくなってるだけよ。何だったら、もう一回、階段から落とそうか？」
「ははは、それはさすがにやめような」
「あ、もうすぐ花火じゃん！お兄ちゃん、春田さんからもらった浴衣着て行くの、楽しみにしてたから、絶対それまでには元に戻って欲しい！」
春田は苦笑で答えた。
いつまでに、と期間を設けて、叶わない結果に終わるのは辛すぎる。
昼休みも終わる時間、空の弁当箱を持って、そらは手を振って帰って行った。
振り返す春田の隣に、いつの間にか栗林が来て、一緒に手を振っている。
「何だよ、マロ」
「春田さん、どこでグラビアアイドルと知り合ったんですか？」
「誰かグラビアアイドルだ！彼女は牧の妹だよ」
「えぇー！？牧さんの？！美男美女の兄妹じゃないスか！」
続く！
>>[336]、前はあんな子がタイプでしたよね？合コンの度に、ロリ顔巨乳を探してたじゃないですか」
「まあ、昔はな」
「それが今や、女ですらない牧さんなんて、人生分からないもんスね〜」
「まだ人生語るトシじゃないだろ」
「だって、俺だってそうですもん。まさか母親と同じ年の人、好きになるとか、想像もしてなかった。まぁ、蝶子さんは特別だけど」
「特別か・・・」
春田にとっても、牧は特別な存在だ。
誰も、代わりはいない。
牧にとってもそうあって欲しい。
その日も、仕事帰りに春田は牧の病院に向かった。
「あれ？」
病室に牧の姿がない。
廊下を見渡すと、ランドリーの方から畳んだ洗濯物らしいものを抱えた牧が戻って来るのが見えた。
春田は駆け寄る。
「牧！安静にしてなきゃダメだろ。洗濯ならおれがやるし、実家のお義母さんに頼んでもいいのに」
牧は春田を見て溜息をついた。
「ねぇ春田さん、おれそんな重症者に見えます？」
見ろとばかりに、牧は両腕を小さく広げた。
「いや、それは・・・」
春田は口ごもる。確かに骨折もしてないし、初めは痛々しかった打撲の跡も、擦り傷も完治している。頭部も異常はない事は何度も確認された。
「もう何ともないのに、いつまで入院しなきゃいけないんですか？おれは大きなプロジェクトのメンバーに選んでもらったのに、何の仕事もしてない。リーダーは待ってると言ってくれたけど、計画はこうしてる間も進んでいるんです」
そらが言った通りの牧の苛立ちに、春田は言葉を失くした。
春田の様子に、牧は少し気遅れした顔になる。
「まだ春田さんを思い出せないのに、ごめんなさい・・・」
「いや、それは気にしなくてもいいよ。プロジェクトの進捗聞いたら、確かに焦るよな」
「それに、第二のみんながお見舞に来てくれたけど・・・」
牧はまたチラリと春田を見た。
武川だけがなぜ来ない？と言いたいのだ、と春田には分かった。
だが彼とは既に別れ、今の恋人は春田であると聞かされている以上、武川の名を出す事には躊躇いを感じているのだ。
「病室で話そうか」
春田は促した。
牧の病室は個室である。
責任を感じた黒澤部長が差額ベッド代を負担し、春田とゆっくり話せる環境を整えてくれた。
病室に戻ると、洗濯物を所定の位置に収納した牧をベッドに座らせ、春田も椅子を移動して向き合った。
「そらちゃんから俺達の事は聞いてると思うけど、俺からちゃんと言ってなかったからさ、一度、どんな経緯で付き合ってたか話して置いた方がいいかなと思って。話してもいいか？」
「・・・はい」
牧の了解を得て、春田は静かに語り出した。
「最初はマロ達が企画した合コンだったんだよ」
「合コン？！」
「参加した記憶は？」
「いいえ・・・」
「それごと忘れてるか。それが初対面だったんだけどさ、俺は多分一目惚れだけど、お前は酔っぱらった俺をタクシーに押し込んだぐらいで、いい印象はないだろうから、忘れてていいよ」
「はぁ」
「それからお前が第二営業所に異動して来てさ、俺が色々教えたんだ。マロなんかポスティングを軽く見て、真面目に話を聞かなかったけど、お前はどんな事でも真剣に聞いて取り組んでくれるから教え甲斐があったよ。特別に、俺手製の虎の巻とか渡したくらい」
「そこまでおれのためにして下さったんですね」
牧は少し照れを浮かべつつ、自分の話ではないような感覚で聞いていた。
「で、その日の夜、遅くまでポスティングしてたお前とバッタリ会ってさ、住む所探してるのを知って、ルームシェアを誘ったんだ」
牧は大きな目を開いて、興味を持ち出したようだ。
「お前は掃除とか料理とか進んでやってくれて感心したよ。そこまではマメな奴だと思ったくらいで、ただの同居人じゃん？」
「そうじゃなくなったんですか？」
「うん、まず俺が看板の下敷きになる事故があって、お前が髪の毛振り乱して、涙ぐんで怒って来てさ。心配したって。冷静な奴だと思ったからあの取り乱した姿は驚いたな〜」
「それから、もっと驚いた事が起きたんだよ」
「何ですか？」
自分達の過去と言うより、牧は春田の話す物語の先を知りたくなる。
「俺がシャワー浴びててさ、バスタオル取ってくれって頼んだら、いきなりお前が入ってきて、好きだって言って、キスしたんだ」
「えぇ！？」
「だろ？驚くよな？突き放したら、お前泣きそうな顔して逃げて行ったから、ただビックリして・・・。でも翌朝には何もなかった顔して台所に立っててさ。意味分かんなくて、会社で武川さんに相談したり」
「武川さんにですか？！」
予想外な名前が出て来て、牧は驚いた。
続く！
「まあ、昔はな」
「それが今や、女ですらない牧さんなんて、人生分からないもんスね〜」
「まだ人生語るトシじゃないだろ」
「だって、俺だってそうですもん。まさか母親と同じ年の人、好きになるとか、想像もしてなかった。まぁ、蝶子さんは特別だけど」
「特別か・・・」
春田にとっても、牧は特別な存在だ。
誰も、代わりはいない。
牧にとってもそうあって欲しい。
その日も、仕事帰りに春田は牧の病院に向かった。
「あれ？」
病室に牧の姿がない。
廊下を見渡すと、ランドリーの方から畳んだ洗濯物らしいものを抱えた牧が戻って来るのが見えた。
春田は駆け寄る。
「牧！安静にしてなきゃダメだろ。洗濯ならおれがやるし、実家のお義母さんに頼んでもいいのに」
牧は春田を見て溜息をついた。
「ねぇ春田さん、おれそんな重症者に見えます？」
見ろとばかりに、牧は両腕を小さく広げた。
「いや、それは・・・」
春田は口ごもる。確かに骨折もしてないし、初めは痛々しかった打撲の跡も、擦り傷も完治している。頭部も異常はない事は何度も確認された。
「もう何ともないのに、いつまで入院しなきゃいけないんですか？おれは大きなプロジェクトのメンバーに選んでもらったのに、何の仕事もしてない。リーダーは待ってると言ってくれたけど、計画はこうしてる間も進んでいるんです」
そらが言った通りの牧の苛立ちに、春田は言葉を失くした。
春田の様子に、牧は少し気遅れした顔になる。
「まだ春田さんを思い出せないのに、ごめんなさい・・・」
「いや、それは気にしなくてもいいよ。プロジェクトの進捗聞いたら、確かに焦るよな」
「それに、第二のみんながお見舞に来てくれたけど・・・」
牧はまたチラリと春田を見た。
武川だけがなぜ来ない？と言いたいのだ、と春田には分かった。
だが彼とは既に別れ、今の恋人は春田であると聞かされている以上、武川の名を出す事には躊躇いを感じているのだ。
「病室で話そうか」
春田は促した。
牧の病室は個室である。
責任を感じた黒澤部長が差額ベッド代を負担し、春田とゆっくり話せる環境を整えてくれた。
病室に戻ると、洗濯物を所定の位置に収納した牧をベッドに座らせ、春田も椅子を移動して向き合った。
「そらちゃんから俺達の事は聞いてると思うけど、俺からちゃんと言ってなかったからさ、一度、どんな経緯で付き合ってたか話して置いた方がいいかなと思って。話してもいいか？」
「・・・はい」
牧の了解を得て、春田は静かに語り出した。
「最初はマロ達が企画した合コンだったんだよ」
「合コン？！」
「参加した記憶は？」
「いいえ・・・」
「それごと忘れてるか。それが初対面だったんだけどさ、俺は多分一目惚れだけど、お前は酔っぱらった俺をタクシーに押し込んだぐらいで、いい印象はないだろうから、忘れてていいよ」
「はぁ」
「それからお前が第二営業所に異動して来てさ、俺が色々教えたんだ。マロなんかポスティングを軽く見て、真面目に話を聞かなかったけど、お前はどんな事でも真剣に聞いて取り組んでくれるから教え甲斐があったよ。特別に、俺手製の虎の巻とか渡したくらい」
「そこまでおれのためにして下さったんですね」
牧は少し照れを浮かべつつ、自分の話ではないような感覚で聞いていた。
「で、その日の夜、遅くまでポスティングしてたお前とバッタリ会ってさ、住む所探してるのを知って、ルームシェアを誘ったんだ」
牧は大きな目を開いて、興味を持ち出したようだ。
「お前は掃除とか料理とか進んでやってくれて感心したよ。そこまではマメな奴だと思ったくらいで、ただの同居人じゃん？」
「そうじゃなくなったんですか？」
「うん、まず俺が看板の下敷きになる事故があって、お前が髪の毛振り乱して、涙ぐんで怒って来てさ。心配したって。冷静な奴だと思ったからあの取り乱した姿は驚いたな〜」
「それから、もっと驚いた事が起きたんだよ」
「何ですか？」
自分達の過去と言うより、牧は春田の話す物語の先を知りたくなる。
「俺がシャワー浴びててさ、バスタオル取ってくれって頼んだら、いきなりお前が入ってきて、好きだって言って、キスしたんだ」
「えぇ！？」
「だろ？驚くよな？突き放したら、お前泣きそうな顔して逃げて行ったから、ただビックリして・・・。でも翌朝には何もなかった顔して台所に立っててさ。意味分かんなくて、会社で武川さんに相談したり」
「武川さんにですか？！」
予想外な名前が出て来て、牧は驚いた。
続く！
>>[336]にですか？！」
予想外な名前が出て来て、牧は驚いた。
「その時点では、お前の元カレだなんて知らなくてさ。昔から武川さんには彼女がいた時とか相談に乗ってもらってたから。部長と同じで、入社以来の付き合いだから」
「そうなんですね」
それから部長と牧が争ったことによるケンカもあり、目まぐるしく変わって行った二人の関係。
「わんだほぅ」を牧の機転で救った話。ちずとの関わり。
一度は武川のもとへ行くと言う牧を、半ば力づくで引き留めた事、始まった彼氏としての付き合い。
中堅営業マンだけに、春田の話は面白くて分かりやすく、牧は引き込まれた。
「そうそう、付き合うことになってから二人で服買いに行ってさ。お前が俺の服選んでくれて。あれが初めてのデートだな。楽しかったなぁ」
様子を思い浮かべ、牧にも笑みが浮かぶ。
スタイルのいいこの人なら、選び甲斐もあるだろう。
「そのデート中にも俺、お前を傷付ける事、言っちゃって・・・」
「・・・」
何を？とは、牧は聞かなかった。
春田の後悔が見えたからだ。
「だから挽回したくてさ、アイドルと俳優の記者会見に感化されて、会社で交際宣言した」
思わず牧は吹き出した。
「極端ですね〜、春田さん」
「まぁ、そのせいで火がついた部長がグイグイ来て大変だったんだけどさ」
「お前は意味が分からないって、みんなの前から逃げ出すし、帰ってその話してたら熱出して倒れるし、バタバタだったよ」
「それは何だかご迷惑かけてしまって・・・」
覚えてないながらも、牧は自分のしたらしい事に、少し申し訳なくなる。
「いいんだよ。倒れたお前を看病するのもいい経験になったし、お粥に餅米使っちゃいけないのも分かった」
「餅米？」
「いや、何でもない。見舞いに来た人の謎も残ってるけど、すぐ回復したからよかったよ」
「そうですか」
謎と言ったのも気になったが、春田が話したくなさそうなので、牧はそれ以上は聞かなかった。
「お前は一日だけ会社休んで、俺が帰ったら飯まで作ってて。で、何でだか、親に会って欲しいとか言い出したんだよ。俺がお前の実家に行った顚末は、そらちゃんに聞いてるだろ？」
「はい、何回も。父が酷い事言ったり、お湯掛けたりしたみたいでごめんなさい」
牧は頭を下げた
「いや、それだけお前を大事に思ってるんだ、お義父さん。でも何回も通ってるうちに、俺が上海行く寸前くらいに根負けしてくれて。俺は父親いないから、嬉しかったよ」
「春田さんなら父のいい飲み友達になれそう」
「そうか？なら嬉しいな。今思うと、あれも楽しかった。お義母さんもそらちゃんも歓迎してくれて。俺も家族になれるのかなぁって」
こうして笑顔で語り合っていると、牧が自分の事だけ忘れている事が信じられない。
こんな風に、気付かないくらい自然に思い出してくれたら、どんなにいいか。
だが、次の話で現実を突き付けられる。
「でな、牧の実家から戻って、俺だけちずに呼び出されて、まぁ色々あったんだけど、カタ付けて家に戻ったら、お前が変なんだよ」
「変って？」
「何だか機嫌悪くて、洗濯の事とか換気扇の事とか文句言ったと思ったら・・・」
そこで話が途切れた。
俯いた春田の目から涙が溢れるのを見て、牧は驚いた。
「春田さん？！どうしたんですか？おれはその時、何て言ったんですか？」
春田は顔を上げると、涙を流しながら苦笑した。
「わ、別れましょう・・・って、さ。もう俺、訳分かんなくて・・・」
「・・・」
「俺の・・・、俺の事なんか、好きじゃ・・・ないって、泣きながら言うんだよ。俺のせいかと思ったら、かわいそうでさ・・・」
笑おうとして上手く行かず、顔を伏せて嗚咽する春田が哀れで、思わず牧はその頭に、慰めるように手を置いた。
ハッとして春田は顔を上げると、思わず目の前の牧を抱き締めた。
自分だけを忘れてしまった愛しい人を。
牧も、戸惑いつつ、抵抗せずじっとしていた。
まだ思い出せないが、この人を悲しませているのが自分だと思えば、突き放す事は出来なかった。
しばらくそうしてると、落ち着いた春田は牧を離した。
「ごめんな、驚かせて。あの時を思い出すと、何度でも泣けるよ。役者になれるな、俺」
へへへと照れ笑いした春田は、続きを語る。
「お前が出て行って別れた後は一年間、普通の先輩後輩で・・・いや、そのフリをしてただけかもな。部長のプロポーズを流れで受けて、武川さんにお前の本心聞いて、結婚式のキスの前にお前の顔が浮かんでさ、部長にもハッパ掛けられて、お前を探しに飛び出したんだ」
続く！
予想外な名前が出て来て、牧は驚いた。
「その時点では、お前の元カレだなんて知らなくてさ。昔から武川さんには彼女がいた時とか相談に乗ってもらってたから。部長と同じで、入社以来の付き合いだから」
「そうなんですね」
それから部長と牧が争ったことによるケンカもあり、目まぐるしく変わって行った二人の関係。
「わんだほぅ」を牧の機転で救った話。ちずとの関わり。
一度は武川のもとへ行くと言う牧を、半ば力づくで引き留めた事、始まった彼氏としての付き合い。
中堅営業マンだけに、春田の話は面白くて分かりやすく、牧は引き込まれた。
「そうそう、付き合うことになってから二人で服買いに行ってさ。お前が俺の服選んでくれて。あれが初めてのデートだな。楽しかったなぁ」
様子を思い浮かべ、牧にも笑みが浮かぶ。
スタイルのいいこの人なら、選び甲斐もあるだろう。
「そのデート中にも俺、お前を傷付ける事、言っちゃって・・・」
「・・・」
何を？とは、牧は聞かなかった。
春田の後悔が見えたからだ。
「だから挽回したくてさ、アイドルと俳優の記者会見に感化されて、会社で交際宣言した」
思わず牧は吹き出した。
「極端ですね〜、春田さん」
「まぁ、そのせいで火がついた部長がグイグイ来て大変だったんだけどさ」
「お前は意味が分からないって、みんなの前から逃げ出すし、帰ってその話してたら熱出して倒れるし、バタバタだったよ」
「それは何だかご迷惑かけてしまって・・・」
覚えてないながらも、牧は自分のしたらしい事に、少し申し訳なくなる。
「いいんだよ。倒れたお前を看病するのもいい経験になったし、お粥に餅米使っちゃいけないのも分かった」
「餅米？」
「いや、何でもない。見舞いに来た人の謎も残ってるけど、すぐ回復したからよかったよ」
「そうですか」
謎と言ったのも気になったが、春田が話したくなさそうなので、牧はそれ以上は聞かなかった。
「お前は一日だけ会社休んで、俺が帰ったら飯まで作ってて。で、何でだか、親に会って欲しいとか言い出したんだよ。俺がお前の実家に行った顚末は、そらちゃんに聞いてるだろ？」
「はい、何回も。父が酷い事言ったり、お湯掛けたりしたみたいでごめんなさい」
牧は頭を下げた
「いや、それだけお前を大事に思ってるんだ、お義父さん。でも何回も通ってるうちに、俺が上海行く寸前くらいに根負けしてくれて。俺は父親いないから、嬉しかったよ」
「春田さんなら父のいい飲み友達になれそう」
「そうか？なら嬉しいな。今思うと、あれも楽しかった。お義母さんもそらちゃんも歓迎してくれて。俺も家族になれるのかなぁって」
こうして笑顔で語り合っていると、牧が自分の事だけ忘れている事が信じられない。
こんな風に、気付かないくらい自然に思い出してくれたら、どんなにいいか。
だが、次の話で現実を突き付けられる。
「でな、牧の実家から戻って、俺だけちずに呼び出されて、まぁ色々あったんだけど、カタ付けて家に戻ったら、お前が変なんだよ」
「変って？」
「何だか機嫌悪くて、洗濯の事とか換気扇の事とか文句言ったと思ったら・・・」
そこで話が途切れた。
俯いた春田の目から涙が溢れるのを見て、牧は驚いた。
「春田さん？！どうしたんですか？おれはその時、何て言ったんですか？」
春田は顔を上げると、涙を流しながら苦笑した。
「わ、別れましょう・・・って、さ。もう俺、訳分かんなくて・・・」
「・・・」
「俺の・・・、俺の事なんか、好きじゃ・・・ないって、泣きながら言うんだよ。俺のせいかと思ったら、かわいそうでさ・・・」
笑おうとして上手く行かず、顔を伏せて嗚咽する春田が哀れで、思わず牧はその頭に、慰めるように手を置いた。
ハッとして春田は顔を上げると、思わず目の前の牧を抱き締めた。
自分だけを忘れてしまった愛しい人を。
牧も、戸惑いつつ、抵抗せずじっとしていた。
まだ思い出せないが、この人を悲しませているのが自分だと思えば、突き放す事は出来なかった。
しばらくそうしてると、落ち着いた春田は牧を離した。
「ごめんな、驚かせて。あの時を思い出すと、何度でも泣けるよ。役者になれるな、俺」
へへへと照れ笑いした春田は、続きを語る。
「お前が出て行って別れた後は一年間、普通の先輩後輩で・・・いや、そのフリをしてただけかもな。部長のプロポーズを流れで受けて、武川さんにお前の本心聞いて、結婚式のキスの前にお前の顔が浮かんでさ、部長にもハッパ掛けられて、お前を探しに飛び出したんだ」
続く！
>>[336]を振り回しといて、全部忘れちゃうなんて・・・」
申し訳なくて、牧は早く思い出さなければと焦った。だが、ある気掛かりがそれを阻止する。
「いや、責めてる訳じゃないんだ。ごめんな、俺ばっかり話して。そうだ！今度はお前と武川さんの付き合いを教えてくれよ」
これには牧も驚いた。
「えぇ！何故ですか？そんなの聞きたくないでしょ？」
「お前の恋愛の記憶が武川さんで止まってるなら、俺に繋がるヒントもあるかなと思って。後々参考にしたいし」
「参考って・・・」
「出逢いは前に、武川さんに聞いたよ。OB訪問だったんだろ？」
「えぇ、あの時、武川さんに怒られてなかったら、今のおれはないくらい、すごく影響受けました」
「それだけ聞くと師匠と弟子みたいだけど、好きになったんだな」
少し牧は頬を赤らめた。
「えぇ、すごく好きになって、色々教えてもらって、いろんな所に連れてってもらって・・・あ、ドライブはよく行ったなぁ」
話すうちに、楽しかった頃を思い出したらしい牧から笑みがこぼれる。
自分も、牧にこんな顔をさせてやりたいと話を聞きながら春田は思った。
武川との話を聞きたいのは、追い付きたいからだ。
どんどん牧の話に熱が入って行く中、異変が起きた。
「〜〜それから、マサムネが浴衣買ってくれて、今年の花火大会はそれ着て行こうって」
「・・・は？」
夢中で話す牧は、春田の反応に気が付かない。
名前の呼び方が変わってる事だけならまだしも、その記憶は・・・
「嬉しかったのは『お前と一緒にいる事は、決して恥ずかしい事じゃない』って言ってくれた事で・・・」
「牧！！」
思わず声を荒げた春田に、牧は驚き、やっと春田の表情が変わっている事に気が付いた。
「は、春田さん・・・どうされたんですか？」
思わず春田は牧の肩を両手で掴む。
「牧・・・違うよ。それを言ったのは俺だ！」
「え！」
「浴衣の件も俺だ。なんで武川さんになってるんだ？お前の頭の中で何か起きてるんだよ！！」
肩を掴まれた力の強さと、春田の怒声に、牧は恐怖を感じた。
先程まで感じていた春田への憐憫の情も吹き飛んでしまった。
すっかり武川との楽しい日々に気持ちが飛んでいたのに、いきなり地上に引きずり落とされた。
無性に武川が恋しくなる。
しまった！と春田が気付いた時はもう遅かった。
牧は俯き、口を開かない。
話をさせるのを諦めた春田
「怒鳴ってごめんな。今日は帰る。お詫びに明日何か買ってくるよ。お前、本が好きだったろ？読みたいのとかないか？探してくるから」
春田は牧の返事を待った。
「・・・・い・・です」
「え？」
翌日、春田は武川を屋上に呼び出した。
「何だ春田、牧の事か？」
思った通りの武川の反応に、春田は覚悟を決めた顔で告げる。
「武川さん、牧に会ってやって下さい！」
武川は驚いた顔で春田を見た。
「お前、牧の父親の言葉を聞いた筈だろう」
「そうですけど、もう見てられないんですよ！」
昨日、何か読みたい本はないかと聞いた春田に、牧は涙を流して言ったのだ。
『武川さんに・・・会いたいです。会いたいです・・・』
「あいつ、武川さんに会いたいって泣くんですよ。もうかわいそうで・・・俺が武川さんとの昔の話を思い出させたのが悪いんだけど・・・あいつの中に、もう俺はいない。どうしたらいいんですか・・・」
春田は涙ぐんで訴えた。
武川は溜息をついて、春田に向き合った。
「自信を持て、春田。あいつはお前を選んだんだ。記憶は必ず戻る。諦めるんじゃない」
「でも、あいつ退院したら、武川さんに会いに来ますよ」
「俺は会う気はないし、会っても業務上必要な事しか話さない。お前の心配してるような事にはならない」
申し訳なくて、牧は早く思い出さなければと焦った。だが、ある気掛かりがそれを阻止する。
「いや、責めてる訳じゃないんだ。ごめんな、俺ばっかり話して。そうだ！今度はお前と武川さんの付き合いを教えてくれよ」
これには牧も驚いた。
「えぇ！何故ですか？そんなの聞きたくないでしょ？」
「お前の恋愛の記憶が武川さんで止まってるなら、俺に繋がるヒントもあるかなと思って。後々参考にしたいし」
「参考って・・・」
「出逢いは前に、武川さんに聞いたよ。OB訪問だったんだろ？」
「えぇ、あの時、武川さんに怒られてなかったら、今のおれはないくらい、すごく影響受けました」
「それだけ聞くと師匠と弟子みたいだけど、好きになったんだな」
少し牧は頬を赤らめた。
「えぇ、すごく好きになって、色々教えてもらって、いろんな所に連れてってもらって・・・あ、ドライブはよく行ったなぁ」
話すうちに、楽しかった頃を思い出したらしい牧から笑みがこぼれる。
自分も、牧にこんな顔をさせてやりたいと話を聞きながら春田は思った。
武川との話を聞きたいのは、追い付きたいからだ。
どんどん牧の話に熱が入って行く中、異変が起きた。
「〜〜それから、マサムネが浴衣買ってくれて、今年の花火大会はそれ着て行こうって」
「・・・は？」
夢中で話す牧は、春田の反応に気が付かない。
名前の呼び方が変わってる事だけならまだしも、その記憶は・・・
「嬉しかったのは『お前と一緒にいる事は、決して恥ずかしい事じゃない』って言ってくれた事で・・・」
「牧！！」
思わず声を荒げた春田に、牧は驚き、やっと春田の表情が変わっている事に気が付いた。
「は、春田さん・・・どうされたんですか？」
思わず春田は牧の肩を両手で掴む。
「牧・・・違うよ。それを言ったのは俺だ！」
「え！」
「浴衣の件も俺だ。なんで武川さんになってるんだ？お前の頭の中で何か起きてるんだよ！！」
肩を掴まれた力の強さと、春田の怒声に、牧は恐怖を感じた。
先程まで感じていた春田への憐憫の情も吹き飛んでしまった。
すっかり武川との楽しい日々に気持ちが飛んでいたのに、いきなり地上に引きずり落とされた。
無性に武川が恋しくなる。
しまった！と春田が気付いた時はもう遅かった。
牧は俯き、口を開かない。
話をさせるのを諦めた春田
「怒鳴ってごめんな。今日は帰る。お詫びに明日何か買ってくるよ。お前、本が好きだったろ？読みたいのとかないか？探してくるから」
春田は牧の返事を待った。
「・・・・い・・です」
「え？」
翌日、春田は武川を屋上に呼び出した。
「何だ春田、牧の事か？」
思った通りの武川の反応に、春田は覚悟を決めた顔で告げる。
「武川さん、牧に会ってやって下さい！」
武川は驚いた顔で春田を見た。
「お前、牧の父親の言葉を聞いた筈だろう」
「そうですけど、もう見てられないんですよ！」
昨日、何か読みたい本はないかと聞いた春田に、牧は涙を流して言ったのだ。
『武川さんに・・・会いたいです。会いたいです・・・』
「あいつ、武川さんに会いたいって泣くんですよ。もうかわいそうで・・・俺が武川さんとの昔の話を思い出させたのが悪いんだけど・・・あいつの中に、もう俺はいない。どうしたらいいんですか・・・」
春田は涙ぐんで訴えた。
武川は溜息をついて、春田に向き合った。
「自信を持て、春田。あいつはお前を選んだんだ。記憶は必ず戻る。諦めるんじゃない」
「でも、あいつ退院したら、武川さんに会いに来ますよ」
「俺は会う気はないし、会っても業務上必要な事しか話さない。お前の心配してるような事にはならない」
>>[336]、あいつの好きそうな本とか教えてもらえますか？」
「いいぞ、リストを作ってやろう」
その日の終業後、春田は本屋を回り、武川の書き出した本のリストに添って買い集め、牧の病室に急いだ。
「牧！遅くなってごめんな！武川さんにお前の好きそうな本を聞いて・・・」
春田の手から数冊の本が落ちた。
病室は無人だった。
着替えて畳まれたパジャマと、室内履きから、昨日のようにランドリーに行った訳ではなく、外出したのが分かる。
ナースステーションに聞くまでもなく、行き先は予測がついた。
春田は病院を飛び出した。
その頃、武川はいつものように一人残業して残務を片付けていた。
ふと、入り口の扉が空いた気がして目をやると、いる筈のない人物を見付ける。
「牧！お前どうして・・・」
牧は答えず、走り寄ると抱き着いてくる。
「やっと会えた・・・。なんで会いに来てくれなかったんだよ？昨日、春田さんに昔の話してたら、どうしても会いたくなって・・・メールも電話も連絡先から消えてるし」
「なぜ春田に？それにお前、黙って抜け出して来たのか！？」
「もう何ともないよ！やっぱりおれ、マサムネじゃないと・・・」
「よせ！俺達はとうの昔に別れたんだぞ！？」
「あの時、来てくれたじゃん！」
「あの時？」
牧は大きな瞳を潤ませ、武川を見上げた。
「おれが嫌い？」
武川は既視感を覚える。
そうだ、初めて気持ちを打ち明けてきた時と同じだ。
「ぼくが嫌いですか？」と、涙を浮かべた双眸で見上げて来た。
気が付けば、あの時と同じ事をしていた。
「嫌いな筈がないだろう」
思わず力いっぱい抱き締める。
この身を抱き締めたのは、何年振りだろう。
だが
「武川さん！！」
春田の怒声に、慌てて牧の身を離す。
「何をしてるんですか・・・」
「春田・・・すまん。つい」
「春田さん？どうしてここが？」
牧の声は耳に入らなかった。
春田の怒りは、まっすぐ武川に向かう。
「あんた昼間、俺に何て言いました？・・・・裏切り者！！」
牧には一瞬何が起きたか分からなかった。
拳の当たる鈍い音と、メガネを飛ばし、壁に叩き付けられた武川。
春田は武川を殴り飛ばしていたのだ。
「マサムネ！！・・・春田さん！なんて事するんですか！武川さんが何をしたんですか？！」
「お前に手を出した」
「俺が勝手に抱き着いただけです！あなた、俺に忘れられて悔しいんでしょ？だったら俺を殴ればいいじゃないですか！」
「おい、牧よせ。俺が悪い」
武川が飛んだメガネを探しながら争いを止めようとする。
だが、興奮した牧の耳には届かない。
「どうしてマサムネを・・・」
そして牧はハッとする。
「あなたですか？」
「え？」
「俺と武川さんが会うのを邪魔していたのは、あなたですか？！」
慌てたのは武川だ。
「牧、それは違う！違うぞ！」
だが二人には聞こえていないようだ。
「俺だったら何だ」
春田はもうどうでもよくなっていた。
牧は怒りに赤く染まる。
「そんな人だったんですね。見損ないました。いい人だと思ったのに・・・」
好感を抱き始めていただけに、裏切られた気持ちが大きい。
憎しみに、涙すら滲ませて、牧は春田を睨んだ。
だが、春田はそんな牧ですら、美しいと感じていた。
忘れられるより、憎まれた方がマシかも知れない。
「牧、病院に戻るぞ」
春田は腕を取ろうとしたが、跳ね除けられる。
「触らないで下さい！あなたの指図は受けません」
牧は、穢らわしいものを見るような視線で春田を見る。
「俺が記憶を無くしたのも、あなたのせいじゃないんですか？」
「牧、よさないか！」
武川の声は届かない。
「好きじゃないではなく、今度はハッキリ言って上げます。あなたが嫌いです。大嫌いだ！」
「そうか、じゃあ別れるか？」
「そうですね。もっとも、付き合った記憶もないけど」
「そうだろうな」
春田は力なく笑う。
「お見舞いの一週間、お世話になりました」
牧は頭を下げた。
「おいおい、お前達、早まるんじゃない！」
武川が仲裁しようとするが、二人は聞いていない。
メガネが見つからず、二人の表情が見えないのがもどかしい。
続く！
「いいぞ、リストを作ってやろう」
その日の終業後、春田は本屋を回り、武川の書き出した本のリストに添って買い集め、牧の病室に急いだ。
「牧！遅くなってごめんな！武川さんにお前の好きそうな本を聞いて・・・」
春田の手から数冊の本が落ちた。
病室は無人だった。
着替えて畳まれたパジャマと、室内履きから、昨日のようにランドリーに行った訳ではなく、外出したのが分かる。
ナースステーションに聞くまでもなく、行き先は予測がついた。
春田は病院を飛び出した。
その頃、武川はいつものように一人残業して残務を片付けていた。
ふと、入り口の扉が空いた気がして目をやると、いる筈のない人物を見付ける。
「牧！お前どうして・・・」
牧は答えず、走り寄ると抱き着いてくる。
「やっと会えた・・・。なんで会いに来てくれなかったんだよ？昨日、春田さんに昔の話してたら、どうしても会いたくなって・・・メールも電話も連絡先から消えてるし」
「なぜ春田に？それにお前、黙って抜け出して来たのか！？」
「もう何ともないよ！やっぱりおれ、マサムネじゃないと・・・」
「よせ！俺達はとうの昔に別れたんだぞ！？」
「あの時、来てくれたじゃん！」
「あの時？」
牧は大きな瞳を潤ませ、武川を見上げた。
「おれが嫌い？」
武川は既視感を覚える。
そうだ、初めて気持ちを打ち明けてきた時と同じだ。
「ぼくが嫌いですか？」と、涙を浮かべた双眸で見上げて来た。
気が付けば、あの時と同じ事をしていた。
「嫌いな筈がないだろう」
思わず力いっぱい抱き締める。
この身を抱き締めたのは、何年振りだろう。
だが
「武川さん！！」
春田の怒声に、慌てて牧の身を離す。
「何をしてるんですか・・・」
「春田・・・すまん。つい」
「春田さん？どうしてここが？」
牧の声は耳に入らなかった。
春田の怒りは、まっすぐ武川に向かう。
「あんた昼間、俺に何て言いました？・・・・裏切り者！！」
牧には一瞬何が起きたか分からなかった。
拳の当たる鈍い音と、メガネを飛ばし、壁に叩き付けられた武川。
春田は武川を殴り飛ばしていたのだ。
「マサムネ！！・・・春田さん！なんて事するんですか！武川さんが何をしたんですか？！」
「お前に手を出した」
「俺が勝手に抱き着いただけです！あなた、俺に忘れられて悔しいんでしょ？だったら俺を殴ればいいじゃないですか！」
「おい、牧よせ。俺が悪い」
武川が飛んだメガネを探しながら争いを止めようとする。
だが、興奮した牧の耳には届かない。
「どうしてマサムネを・・・」
そして牧はハッとする。
「あなたですか？」
「え？」
「俺と武川さんが会うのを邪魔していたのは、あなたですか？！」
慌てたのは武川だ。
「牧、それは違う！違うぞ！」
だが二人には聞こえていないようだ。
「俺だったら何だ」
春田はもうどうでもよくなっていた。
牧は怒りに赤く染まる。
「そんな人だったんですね。見損ないました。いい人だと思ったのに・・・」
好感を抱き始めていただけに、裏切られた気持ちが大きい。
憎しみに、涙すら滲ませて、牧は春田を睨んだ。
だが、春田はそんな牧ですら、美しいと感じていた。
忘れられるより、憎まれた方がマシかも知れない。
「牧、病院に戻るぞ」
春田は腕を取ろうとしたが、跳ね除けられる。
「触らないで下さい！あなたの指図は受けません」
牧は、穢らわしいものを見るような視線で春田を見る。
「俺が記憶を無くしたのも、あなたのせいじゃないんですか？」
「牧、よさないか！」
武川の声は届かない。
「好きじゃないではなく、今度はハッキリ言って上げます。あなたが嫌いです。大嫌いだ！」
「そうか、じゃあ別れるか？」
「そうですね。もっとも、付き合った記憶もないけど」
「そうだろうな」
春田は力なく笑う。
「お見舞いの一週間、お世話になりました」
牧は頭を下げた。
「おいおい、お前達、早まるんじゃない！」
武川が仲裁しようとするが、二人は聞いていない。
メガネが見つからず、二人の表情が見えないのがもどかしい。
続く！
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背を向け、扉に向かった春田
「武川さん、責任は取りますから・・・」
「おい、春田！待て！！」
振り向く事もなく、出て行った。
春田は第二営業所の入るビルを出ると、頭を抱えコンコース前の階段に座り込んだ。
「・・・クソッ！」
何故こんな事に・・・？
よかれと思った事が、全て裏目に出た。
この一週間は何だったのか。
牧の笑顔を取り戻したかった。
指輪も渡したかった。
何も出来なかった・・・
昨日のそらの顔が浮かぶ。
「ごめんな、そらちゃん・・・」
あれほど気を回してくれたあの子は悲しんでくれるだろうか。
義兄の資格を失くした自分に。
牧家の人々は、もう家族ではなくなるのか。
一人に耐えられず、春田はスマホを取り出した。
架電した先は・・・
『春田か、どうした、こんな時間に』
「部長、俺をクビにして下さい」
『何だと？』
「武川さんを殴りました。もう天空不動産にいる資格はありません」
『何が資格だ！お前まで・・・。今どこにいる？そこに行くから待ってろ！』
黒澤は車に乗り込むと、まず武川に電話をかけた。
「おい武川！春田に何があった？お前達に何が起きたんだ！！」
一方、春田が出て行った後の営業所では・・・
「まったく・・・何て人だろ。マサムネ、大丈夫？」
牧は足元まで武川のメガネが飛んで来てる事に気が付くと、キズや歪みがない事を確認し、手渡す。
武川は、いささか乱暴に受け取った。
「口元、血が出てるよ。家に帰って、ちゃんと手当しないと」
「家だと？どこの家だ」
「マサムネのマンション。俺達、一緒に住んでたよね？」
武川は、不機嫌に言う。
「まったく、どうしてお前達は人の話を聞かないんだ？」
そして溜息をついた。
「春田が殴ってくれてよかった。もう少しでお前に惑わされる所だった」
牧はムッとする。
「惑わされる・・・って何だよ？」
「いいか？俺はお前に振られたんだ。今は靡いても、春田を思い出したお前に、二度も振られてたまるか」
「もう、あんな人、思い出さなくていい」
「バカな事を言うな！無責任だぞ」
その時、武川のスマホが振動した。
黒澤からだ。何があったかと問われる。
「部長！申し訳ありません。事情は後程。今は春田についていてやって下さい。あいつを一人にしない方がいい」
その会話を、牧は苛立ち気味に聞いていた。
「なんでそこまで・・・」
電話を切ると武川は牧に向き直る。
「いいか、お前はいくつか誤解している。お前に会うなと言ったのは、お前の父上だ」
「父が！？どうして・・・」
「お前の寝言のせいで昔の事がバレたからな」
「・・・！でもあの人、否定しなかったよ？」
「春田も同じ気持ちだからだろう。そりゃそうだ。自分の記憶を失くしてる時に、昔の男と会えばどうなるか、今のお前が一番分かるだろう」
「・・・」
「それでも昨日、あいつは俺に、お前に会ってやって欲しいと言ってきたぞ」
「え！」
「泣いて会いたがっているのがかわいそうだと言ってな」
「・・・」
「だから俺は春田を励ました。牧を幸せに出来るのは、お前しかいないと。その舌の根も乾かない内に、お前を抱き締めていたんだから、怒るのは当然だ」
話しながら、武川は黒澤に詳しい事情をメールした。
「今更、何故俺なんだ？」
「だって！マサムネ、あの時・・・」
「さっきも言ったな、あの時とは何の話だ」
「俺が入院してすぐ、マサムネ来てくれたじゃん！」
痛みと疲れで夢かうつつか曖昧な時、優しい声が聞こえた。
─ かわいそうに・・・。痛かったか？よく部長を守ったな ─
そっと髪を撫でられ、額に落ちた唇の感触を、よく覚えている。
「悪いが、それは俺じゃないぞ」
「え！だって、あの声・・・」
包み込むような、暖かい、優しい、懐かしい声だった。
二人が一番仲睦まじくしていた頃に似た。
自分がどうなったのか不安な時、それを聞いて安心して眠りに付いたのだ。
「あの日は部長が会議でいなかった。病院に駆け付けたい気持ちはあったが、俺まで第二営業所を留守には出来ないからな」
「じゃ、誰が・・・」
「ちょうど香港から帰ったばかりの春田が営業所にいたんだよ。予定も入ってないから、代表して行ってくれた」
「じゃあ、あの声も・・・」
「だろうな、お前は眠っていたと言っていた」
「まさか・・・あんなギャーギャー言う人が・・・」
「おいおい、その言い方はないだろ。あいつも中堅営業マンだ。落ち着いて話せば、いい声だぞ」
「そんな・・・」
「春田の記憶を失くした上に、人違いか。お前ってやつは、まったく・・・」
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背を向け、扉に向かった春田
「武川さん、責任は取りますから・・・」
「おい、春田！待て！！」
振り向く事もなく、出て行った。
春田は第二営業所の入るビルを出ると、頭を抱えコンコース前の階段に座り込んだ。
「・・・クソッ！」
何故こんな事に・・・？
よかれと思った事が、全て裏目に出た。
この一週間は何だったのか。
牧の笑顔を取り戻したかった。
指輪も渡したかった。
何も出来なかった・・・
昨日のそらの顔が浮かぶ。
「ごめんな、そらちゃん・・・」
あれほど気を回してくれたあの子は悲しんでくれるだろうか。
義兄の資格を失くした自分に。
牧家の人々は、もう家族ではなくなるのか。
一人に耐えられず、春田はスマホを取り出した。
架電した先は・・・
『春田か、どうした、こんな時間に』
「部長、俺をクビにして下さい」
『何だと？』
「武川さんを殴りました。もう天空不動産にいる資格はありません」
『何が資格だ！お前まで・・・。今どこにいる？そこに行くから待ってろ！』
黒澤は車に乗り込むと、まず武川に電話をかけた。
「おい武川！春田に何があった？お前達に何が起きたんだ！！」
一方、春田が出て行った後の営業所では・・・
「まったく・・・何て人だろ。マサムネ、大丈夫？」
牧は足元まで武川のメガネが飛んで来てる事に気が付くと、キズや歪みがない事を確認し、手渡す。
武川は、いささか乱暴に受け取った。
「口元、血が出てるよ。家に帰って、ちゃんと手当しないと」
「家だと？どこの家だ」
「マサムネのマンション。俺達、一緒に住んでたよね？」
武川は、不機嫌に言う。
「まったく、どうしてお前達は人の話を聞かないんだ？」
そして溜息をついた。
「春田が殴ってくれてよかった。もう少しでお前に惑わされる所だった」
牧はムッとする。
「惑わされる・・・って何だよ？」
「いいか？俺はお前に振られたんだ。今は靡いても、春田を思い出したお前に、二度も振られてたまるか」
「もう、あんな人、思い出さなくていい」
「バカな事を言うな！無責任だぞ」
その時、武川のスマホが振動した。
黒澤からだ。何があったかと問われる。
「部長！申し訳ありません。事情は後程。今は春田についていてやって下さい。あいつを一人にしない方がいい」
その会話を、牧は苛立ち気味に聞いていた。
「なんでそこまで・・・」
電話を切ると武川は牧に向き直る。
「いいか、お前はいくつか誤解している。お前に会うなと言ったのは、お前の父上だ」
「父が！？どうして・・・」
「お前の寝言のせいで昔の事がバレたからな」
「・・・！でもあの人、否定しなかったよ？」
「春田も同じ気持ちだからだろう。そりゃそうだ。自分の記憶を失くしてる時に、昔の男と会えばどうなるか、今のお前が一番分かるだろう」
「・・・」
「それでも昨日、あいつは俺に、お前に会ってやって欲しいと言ってきたぞ」
「え！」
「泣いて会いたがっているのがかわいそうだと言ってな」
「・・・」
「だから俺は春田を励ました。牧を幸せに出来るのは、お前しかいないと。その舌の根も乾かない内に、お前を抱き締めていたんだから、怒るのは当然だ」
話しながら、武川は黒澤に詳しい事情をメールした。
「今更、何故俺なんだ？」
「だって！マサムネ、あの時・・・」
「さっきも言ったな、あの時とは何の話だ」
「俺が入院してすぐ、マサムネ来てくれたじゃん！」
痛みと疲れで夢かうつつか曖昧な時、優しい声が聞こえた。
─ かわいそうに・・・。痛かったか？よく部長を守ったな ─
そっと髪を撫でられ、額に落ちた唇の感触を、よく覚えている。
「悪いが、それは俺じゃないぞ」
「え！だって、あの声・・・」
包み込むような、暖かい、優しい、懐かしい声だった。
二人が一番仲睦まじくしていた頃に似た。
自分がどうなったのか不安な時、それを聞いて安心して眠りに付いたのだ。
「あの日は部長が会議でいなかった。病院に駆け付けたい気持ちはあったが、俺まで第二営業所を留守には出来ないからな」
「じゃ、誰が・・・」
「ちょうど香港から帰ったばかりの春田が営業所にいたんだよ。予定も入ってないから、代表して行ってくれた」
「じゃあ、あの声も・・・」
「だろうな、お前は眠っていたと言っていた」
「まさか・・・あんなギャーギャー言う人が・・・」
「おいおい、その言い方はないだろ。あいつも中堅営業マンだ。落ち着いて話せば、いい声だぞ」
「そんな・・・」
「春田の記憶を失くした上に、人違いか。お前ってやつは、まったく・・・」
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その頃には、黒澤が春田を車で拾い、行き付けのバーへ連れて来ていた。
春田の話と武川からのメールで、黒澤はほぼ事情を理解した。
「牧の父親が来た日、武川は辞表を出してきたんだ」
「武川さんが！」
「自分にはもう主任の資格はないと言ってな」
「・・・」
「だから俺は、資格があるかどうかは俺と本社が決めると言った」
「それはそうですよね。」
「牧との件は、個人的な問題だ。本社にも報告するつもりはない」
「・・・俺は違いますよね？暴力なんて・・・」
「武川は、自分が約束を破ったのが原因だと言ってる。お前に非はないと。確かに暴力は看過出来ないが・・・」
「いいんです。クビにしてもらった方がスッキリする。じゃなかったら、香港の支店長に俺がまだ必要か聞いてもらえませんか？」
「春田・・・」
「俺なんか、日本にいない方が牧も安心して暮らせる。こんな俺でも必要としてくれる人の所へ行きたいんです」
香港の仲間の顔が浮かんた。短くも充実した日々を思い出す。
「必要とする者ならここにいる。第二の仲間もいる。逃げる事を考えるんじゃない。牧も、お前を思い出せばきっと・・・」
春田は自嘲するように笑う。
「大嫌いって言われましたから。もう諦めました。これも・・・」
そう言って指輪のケースをポケットから出した。
「渡せずじまい、もう受け取ってもらえない。そうだ、以前のお礼に部長、受け取ってもらえませんか？」
これには、さすがに黒澤もムッとする。
「お前は俺を馬鹿にしているのか？！指輪の意味を何だと思っているんだ！」
叱責され、春田の目に涙が浮かんだ。
「だって・・・だって、俺はどうしたらいいんですか〜！」
嗚咽する春田に、黒澤はバーのマスターと顔を見合わせ、困った顔をした。
そして第二営業所。
牧は自分の思い込みが全て翻され、混乱していた。
「どうだ？まだ春田の事を思い出したくないか？」
牧は首を振る。
「思い出したいです・・・春田さんは、おれの何だったか・・・」
「そうだろう？どうだ、春田は今、部長と飲んでいて家は誰もいない。その間に、あの家に行ってみないか？何かヒントがあるかも知れない」
「え！でも、帰ってきたら・・・」
「いいじゃないか、二人で暮らし、一年間はお前が一人で守った家だ。春田が帰ったら、今度こそ落ち着いて話し合え」
少し時間が過ぎた頃、絶望の淵にいる春田に、黒澤は再度求愛する機会かも知れないと思い始めた。指輪は、それを煽るようだ。
テーブルに置かれたままのケースに手を伸ばす。
「なぁ、春田。本当にこれを・・・」
その時、黒澤のスマホが振動した。
「武川、どうした？・・・そうか！分かった。伝えよう」
そして、テーブルに伏せている春田に声を掛ける。
「おい！春田、しっかりしろ！牧がお前の家に着いたぞ！」
「俺んちに？どうして・・・？」
「武川が全て誤解を解いたそうだ。牧は少しでもお前を思い出したくて、家に行ってヒントを探してる。お前も早く帰れ。武川は外で待っているそうだ。二人で話し合う、いい機会だ」
そして二人は車で春田の家に急いだ。
近付いてくると、牧が家から出て来るのが見えた。
両手でしっかりと冊子状のものを抱えている。
「どこへ行くんだ？」
「俺、つけてみます！」
春田は車を降り、牧の後をつける。
その30分ほど前、武川に車で送られ、牧は春田家に着いていた。
身体が覚えてるのか迷いなく鍵を取り出し、家に入ると自然に自分の部屋に向かい、ある物を見付けたのだ。
それを受け取った時の胸の高鳴りを覚えている。
誰がくれた？その答えを求め、外に出た。
たどり着いたのは公園。
桜の木があるが、今の季節には花はない。
緑の葉の下で、牧は記憶を遡る。
これをくれた人に、ここで何を言われた・・・？
牧が大事に抱えていた冊子は、歪な猫のイラストの表紙。
『プレゼント〜』と、ふざけた調子で渡されたこれの中には、彼の優しさと思いやりが丁寧な文字で綴られていた。
牧の脳内で、その人の顔に掛かっていた靄が、少しずつ晴れていく。
「一緒に住まない？ルームシェアってやつ？」
それは幻ではなく、現実の声だった。
「から揚げ目当てですか？」
条件反射のように、牧は答えた。
そしてハッとする。
春田が駆け寄って来た。
「牧！！思い出したんだな？！」
だが、牧は抱えていた冊子、春田手製の「虎の巻」で、春田を叩いた。
「いてっ、牧、何だ？どうした？」
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その頃には、黒澤が春田を車で拾い、行き付けのバーへ連れて来ていた。
春田の話と武川からのメールで、黒澤はほぼ事情を理解した。
「牧の父親が来た日、武川は辞表を出してきたんだ」
「武川さんが！」
「自分にはもう主任の資格はないと言ってな」
「・・・」
「だから俺は、資格があるかどうかは俺と本社が決めると言った」
「それはそうですよね。」
「牧との件は、個人的な問題だ。本社にも報告するつもりはない」
「・・・俺は違いますよね？暴力なんて・・・」
「武川は、自分が約束を破ったのが原因だと言ってる。お前に非はないと。確かに暴力は看過出来ないが・・・」
「いいんです。クビにしてもらった方がスッキリする。じゃなかったら、香港の支店長に俺がまだ必要か聞いてもらえませんか？」
「春田・・・」
「俺なんか、日本にいない方が牧も安心して暮らせる。こんな俺でも必要としてくれる人の所へ行きたいんです」
香港の仲間の顔が浮かんた。短くも充実した日々を思い出す。
「必要とする者ならここにいる。第二の仲間もいる。逃げる事を考えるんじゃない。牧も、お前を思い出せばきっと・・・」
春田は自嘲するように笑う。
「大嫌いって言われましたから。もう諦めました。これも・・・」
そう言って指輪のケースをポケットから出した。
「渡せずじまい、もう受け取ってもらえない。そうだ、以前のお礼に部長、受け取ってもらえませんか？」
これには、さすがに黒澤もムッとする。
「お前は俺を馬鹿にしているのか？！指輪の意味を何だと思っているんだ！」
叱責され、春田の目に涙が浮かんだ。
「だって・・・だって、俺はどうしたらいいんですか〜！」
嗚咽する春田に、黒澤はバーのマスターと顔を見合わせ、困った顔をした。
そして第二営業所。
牧は自分の思い込みが全て翻され、混乱していた。
「どうだ？まだ春田の事を思い出したくないか？」
牧は首を振る。
「思い出したいです・・・春田さんは、おれの何だったか・・・」
「そうだろう？どうだ、春田は今、部長と飲んでいて家は誰もいない。その間に、あの家に行ってみないか？何かヒントがあるかも知れない」
「え！でも、帰ってきたら・・・」
「いいじゃないか、二人で暮らし、一年間はお前が一人で守った家だ。春田が帰ったら、今度こそ落ち着いて話し合え」
少し時間が過ぎた頃、絶望の淵にいる春田に、黒澤は再度求愛する機会かも知れないと思い始めた。指輪は、それを煽るようだ。
テーブルに置かれたままのケースに手を伸ばす。
「なぁ、春田。本当にこれを・・・」
その時、黒澤のスマホが振動した。
「武川、どうした？・・・そうか！分かった。伝えよう」
そして、テーブルに伏せている春田に声を掛ける。
「おい！春田、しっかりしろ！牧がお前の家に着いたぞ！」
「俺んちに？どうして・・・？」
「武川が全て誤解を解いたそうだ。牧は少しでもお前を思い出したくて、家に行ってヒントを探してる。お前も早く帰れ。武川は外で待っているそうだ。二人で話し合う、いい機会だ」
そして二人は車で春田の家に急いだ。
近付いてくると、牧が家から出て来るのが見えた。
両手でしっかりと冊子状のものを抱えている。
「どこへ行くんだ？」
「俺、つけてみます！」
春田は車を降り、牧の後をつける。
その30分ほど前、武川に車で送られ、牧は春田家に着いていた。
身体が覚えてるのか迷いなく鍵を取り出し、家に入ると自然に自分の部屋に向かい、ある物を見付けたのだ。
それを受け取った時の胸の高鳴りを覚えている。
誰がくれた？その答えを求め、外に出た。
たどり着いたのは公園。
桜の木があるが、今の季節には花はない。
緑の葉の下で、牧は記憶を遡る。
これをくれた人に、ここで何を言われた・・・？
牧が大事に抱えていた冊子は、歪な猫のイラストの表紙。
『プレゼント〜』と、ふざけた調子で渡されたこれの中には、彼の優しさと思いやりが丁寧な文字で綴られていた。
牧の脳内で、その人の顔に掛かっていた靄が、少しずつ晴れていく。
「一緒に住まない？ルームシェアってやつ？」
それは幻ではなく、現実の声だった。
「から揚げ目当てですか？」
条件反射のように、牧は答えた。
そしてハッとする。
春田が駆け寄って来た。
「牧！！思い出したんだな？！」
だが、牧は抱えていた冊子、春田手製の「虎の巻」で、春田を叩いた。
「いてっ、牧、何だ？どうした？」
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牧は叩く手を止めない。
「ばかやろう！何て格好だよ！あの男、誰だよ！何してたんだよ！浮気者〜！」
バンッバンッと、音の割には痛くない叩き方で、気持ちを爆発させた牧。
そして、春田は気が付いた。
「牧、あの時それが言いたかったんだな。いいんだ、全部俺にぶつけろ！」
「会いたかったのに！せっかく休みとったのに！楽しみにしてたのに〜！」
まるでノドに詰まった異物を吐き出すように、牧は叫んだ。
「そうか、うん、俺が悪かった、ぜーんぶ春田さんが悪い、ごめんな」
牧の怒りを受け止め、暴れる牧を抱き締める。
息を荒くして、まだ虎の巻で春田の背中を力無く叩きながら、牧は言う。
「おれの計画、台無しにして〜。サプライズなんか初めてだったのに・・・」
「うんうん、ありがとうな。サプライズ、やり直そう。一緒に休み取って香港行こう！俺が関わったマンション、見せてやるよ」
「今更、何言ってるんですか。そんな時間は・・・」
再び牧は、ハッとして身を離した。
「あ、あ・・・」
春田を見て目を見開いた。
「わあー！」
頭を抱えて叫ぶ牧。
春田は驚いて牧を覗き込む。
「牧！何だ？今度はどうしたんだ？！」
「春田さん！どうしよう！？おれ、春田さんを忘れちゃってた！」
「うん、忘れてたな」
「もうダメだ！嫌われた！さよなら春田さん！」
そう言って、走り出そうとする牧を、慌てて春田は腕を掴んで引き止める。
「いやいや、さよならじゃねぇだろ！せっかく記憶が戻ったのに。ここまで来て逃さねぇぞ！」
「だって・・・、おれひどい事たくさん言っちゃって・・・」
「うん、あれはキツかったな」
「もう、春田さんに好きになってもらう資格ない！」
「資格があるかないかは、俺が決める！」
二人の様子を、密かに物陰で覗いていた黒澤と武川
「春田の奴、俺のセリフをマネしおったぞ」
「そうですね」
黒澤と武川は顔を見合わせて笑った。
そして春田は続けた。
「お前な、俺に嫌われたとか勝手に決めるなよ。大嫌いだって言われたのは俺の方だ。でも、ちゃんと思い出してくれたな。ありがとう」
「春田さん・・・」
「俺、ここで誓うよ。この先、ケンカばっかりして、お前が料理作ってくれなくなって、パンツ一緒に洗ってくれなくて、メールの返信遅くて、デブになっても、ハゲになっても、オナラ臭くなって、歯も抜けて入れ歯になって、ボケちゃって出逢った頃の事忘れても、今回みたいに俺の事全部忘れてもさ、それでも俺は、牧じゃなきゃ嫌だ。死んでもお前と一緒にいたい」
そう言って抱き締めてくる春田に、牧は笑った。
「何ですか、それ。おれはハゲたり太ったりしません！おれならもっとワガママに誓います」
「ん？」
春田は牧の顔を見た。
「ケンカしても料理は作ります！春田さんの健康はおれが守りますから、デブにもハゲにもしません！歯はちゃんと磨いて！ボケたら許さない！出逢った頃を忘れないで・・・おれの事・・・忘れたら嫌だ・・・イヤだぁ」
強気な牧の声は次第に弱くなり、泣き声となり、春田の胸に顔を埋める。
「お前なぁ、自分は忘れといて・・・。いいよ、俺はどんなにモウロクしても忘れないから。お前が忘れても、俺は絶対忘れない」
「ごめんなさい・・・おれなら耐えられない、辛い思いをさせてしまって・・・おれも、春田さんじゃなきゃ嫌です」
花のない夏の桜の樹の下で、ようやく二人は帰るべき所へ帰り着いた。
ホッとしたのは、物陰で見ていた黒澤と武川だ。
「やれやれ、やっと解決したか」
「私も、殴られた甲斐がありましたよ」
武川の痛々しい顔のアザに、黒澤は同情する。
「お前も災難だったな。元気を出せ。今度、お前好みの子を紹介してやろう」
「は？いやいや、そんな・・・」
「遠慮するな、俺のコネクションの広さを甘く見るなよ？」
「はぁ・・・」
まだ続く！
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牧は叩く手を止めない。
「ばかやろう！何て格好だよ！あの男、誰だよ！何してたんだよ！浮気者〜！」
バンッバンッと、音の割には痛くない叩き方で、気持ちを爆発させた牧。
そして、春田は気が付いた。
「牧、あの時それが言いたかったんだな。いいんだ、全部俺にぶつけろ！」
「会いたかったのに！せっかく休みとったのに！楽しみにしてたのに〜！」
まるでノドに詰まった異物を吐き出すように、牧は叫んだ。
「そうか、うん、俺が悪かった、ぜーんぶ春田さんが悪い、ごめんな」
牧の怒りを受け止め、暴れる牧を抱き締める。
息を荒くして、まだ虎の巻で春田の背中を力無く叩きながら、牧は言う。
「おれの計画、台無しにして〜。サプライズなんか初めてだったのに・・・」
「うんうん、ありがとうな。サプライズ、やり直そう。一緒に休み取って香港行こう！俺が関わったマンション、見せてやるよ」
「今更、何言ってるんですか。そんな時間は・・・」
再び牧は、ハッとして身を離した。
「あ、あ・・・」
春田を見て目を見開いた。
「わあー！」
頭を抱えて叫ぶ牧。
春田は驚いて牧を覗き込む。
「牧！何だ？今度はどうしたんだ？！」
「春田さん！どうしよう！？おれ、春田さんを忘れちゃってた！」
「うん、忘れてたな」
「もうダメだ！嫌われた！さよなら春田さん！」
そう言って、走り出そうとする牧を、慌てて春田は腕を掴んで引き止める。
「いやいや、さよならじゃねぇだろ！せっかく記憶が戻ったのに。ここまで来て逃さねぇぞ！」
「だって・・・、おれひどい事たくさん言っちゃって・・・」
「うん、あれはキツかったな」
「もう、春田さんに好きになってもらう資格ない！」
「資格があるかないかは、俺が決める！」
二人の様子を、密かに物陰で覗いていた黒澤と武川
「春田の奴、俺のセリフをマネしおったぞ」
「そうですね」
黒澤と武川は顔を見合わせて笑った。
そして春田は続けた。
「お前な、俺に嫌われたとか勝手に決めるなよ。大嫌いだって言われたのは俺の方だ。でも、ちゃんと思い出してくれたな。ありがとう」
「春田さん・・・」
「俺、ここで誓うよ。この先、ケンカばっかりして、お前が料理作ってくれなくなって、パンツ一緒に洗ってくれなくて、メールの返信遅くて、デブになっても、ハゲになっても、オナラ臭くなって、歯も抜けて入れ歯になって、ボケちゃって出逢った頃の事忘れても、今回みたいに俺の事全部忘れてもさ、それでも俺は、牧じゃなきゃ嫌だ。死んでもお前と一緒にいたい」
そう言って抱き締めてくる春田に、牧は笑った。
「何ですか、それ。おれはハゲたり太ったりしません！おれならもっとワガママに誓います」
「ん？」
春田は牧の顔を見た。
「ケンカしても料理は作ります！春田さんの健康はおれが守りますから、デブにもハゲにもしません！歯はちゃんと磨いて！ボケたら許さない！出逢った頃を忘れないで・・・おれの事・・・忘れたら嫌だ・・・イヤだぁ」
強気な牧の声は次第に弱くなり、泣き声となり、春田の胸に顔を埋める。
「お前なぁ、自分は忘れといて・・・。いいよ、俺はどんなにモウロクしても忘れないから。お前が忘れても、俺は絶対忘れない」
「ごめんなさい・・・おれなら耐えられない、辛い思いをさせてしまって・・・おれも、春田さんじゃなきゃ嫌です」
花のない夏の桜の樹の下で、ようやく二人は帰るべき所へ帰り着いた。
ホッとしたのは、物陰で見ていた黒澤と武川だ。
「やれやれ、やっと解決したか」
「私も、殴られた甲斐がありましたよ」
武川の痛々しい顔のアザに、黒澤は同情する。
「お前も災難だったな。元気を出せ。今度、お前好みの子を紹介してやろう」
「は？いやいや、そんな・・・」
「遠慮するな、俺のコネクションの広さを甘く見るなよ？」
「はぁ・・・」
まだ続く！
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>>[337]
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>>[341]
>>[342]
>>[343] の続き
翌日、さっそく退院の手続きを取り、牧は春田家に帰った。
「おかえり、牧」
「ただいま、春田さん」
家に入る時、まるで儀式のように二人はそんな言葉を交わす。
「あ、でもおかえりなさいはおれから言わないと！」
牧は、慌てたように春田と立ち位置を入れ替える。
「ん、なんだなんだ？」
春田は笑って、牧の行動を楽しむかのようだ。
「春田さん、海外赴任、お疲れ様でした。おかえりなさい」
そう言って、牧は頭を下げる。
「うん、ただいま」
春田の言葉に、満足した牧だが、次第に情けない顔になる。
「おれが最初に言いたかったのに〜」
そう言って寄り掛かってくる牧が、春田は可愛くて仕方ない。
「大丈夫だ！他のやつのは忘れた！お前が最初だよ」
「何言ってるんですか！それは失礼でしょ」
そう言葉を交した後、顔を見合わせて笑い合う。
そんな、何気ない幸せが泣けて来るほど嬉しいと、春田は思った。
牧は、帰って来たのだ。身も心も。
その後、さっそく牧は材料を揃えて、帰国したら春田に作るつもりでいたラタトゥイユを夕食にした。もちろん唐揚げも。
春田は飛び上がって喜んでくれた。
「らたとゆって初めて食ったけど、旨いなぁ」
「ラタトゥイユ。味付け、鉄平さんに教えてもらったんです。春田さんに野菜、たくさん食べてもらいたかったから」
「ありがとうな。鉄平兄にも礼を言わないとな」
食事を終えると、今後の事を話し合った。
一緒にいたいのは山々だが、本社から遠い春田家で、家事までしながら牧が本社に通勤するのは合理的ではない。
春田は牧の身体が心配だった。
止むなく、牧は生活の拠点を実家に置き、休みには春田の家に来る二重生活となった。
寂しいが、自分の為に牧にはもう無理をさせたくない。
安心してもらう為、春田も家事の腕を磨くつもりだ。
そして、牧の記憶が戻って、春田にはやり残した事がある。
まだ牧には見せていない、黒いケース。
密かに、春田はその日を計画していた。
今度は春田のサプライズで、牧に喜んでもらいたい。
辛かった一週間を、牧の笑顔で締め括りたい。
春田の今の目標はそれだけだ。
─ 最終章へ続く ─
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翌日、さっそく退院の手続きを取り、牧は春田家に帰った。
「おかえり、牧」
「ただいま、春田さん」
家に入る時、まるで儀式のように二人はそんな言葉を交わす。
「あ、でもおかえりなさいはおれから言わないと！」
牧は、慌てたように春田と立ち位置を入れ替える。
「ん、なんだなんだ？」
春田は笑って、牧の行動を楽しむかのようだ。
「春田さん、海外赴任、お疲れ様でした。おかえりなさい」
そう言って、牧は頭を下げる。
「うん、ただいま」
春田の言葉に、満足した牧だが、次第に情けない顔になる。
「おれが最初に言いたかったのに〜」
そう言って寄り掛かってくる牧が、春田は可愛くて仕方ない。
「大丈夫だ！他のやつのは忘れた！お前が最初だよ」
「何言ってるんですか！それは失礼でしょ」
そう言葉を交した後、顔を見合わせて笑い合う。
そんな、何気ない幸せが泣けて来るほど嬉しいと、春田は思った。
牧は、帰って来たのだ。身も心も。
その後、さっそく牧は材料を揃えて、帰国したら春田に作るつもりでいたラタトゥイユを夕食にした。もちろん唐揚げも。
春田は飛び上がって喜んでくれた。
「らたとゆって初めて食ったけど、旨いなぁ」
「ラタトゥイユ。味付け、鉄平さんに教えてもらったんです。春田さんに野菜、たくさん食べてもらいたかったから」
「ありがとうな。鉄平兄にも礼を言わないとな」
食事を終えると、今後の事を話し合った。
一緒にいたいのは山々だが、本社から遠い春田家で、家事までしながら牧が本社に通勤するのは合理的ではない。
春田は牧の身体が心配だった。
止むなく、牧は生活の拠点を実家に置き、休みには春田の家に来る二重生活となった。
寂しいが、自分の為に牧にはもう無理をさせたくない。
安心してもらう為、春田も家事の腕を磨くつもりだ。
そして、牧の記憶が戻って、春田にはやり残した事がある。
まだ牧には見せていない、黒いケース。
密かに、春田はその日を計画していた。
今度は春田のサプライズで、牧に喜んでもらいたい。
辛かった一週間を、牧の笑顔で締め括りたい。
春田の今の目標はそれだけだ。
─ 最終章へ続く ─
MIYAKOさんのあとに、すごく恥ずかしいんですけど、３３４番のお話の続きをかいていきたいとおもいます。
最後のガラガラを回したのは、牧パパ。「あなた！」「パパ！」「お父さんっ！！」みんなで励ましの声をかけていました。
「なんでおれはここまでクジ運ないんだよーーーっ。」
牧パパは、かなり落ち込んでいましたが、何とか気持ちを取り戻し、こう言いました。
「いや。凌太も春田くんも、ありがとう。最近、こんなに気持ちが集中して、楽しかったことはなかったよ。本当に楽しかった。ありがとう。」牧パパの目に、うっすらと涙。
春牧のふたりも、しのママもそらちゃんも、言葉がありません。
そろそろ日の陰ってくる時間帯となりました。
「さあ。帰ろうか。くじも使い果たしたし、大晦日だし、今夜の食事の用意もあるだろうし。ね、しの？悪いね。」牧パパがチームに声をかけました。
「ええ。あなた。。。お節料理の何品かは作ってますし、年越しそばだってありますし、年越し肉じゃがも作りますから、大丈夫ですよ。」
「お父さん。。。あたしさ、お母さんに教えてもらって、あのキャラメルコーヒームースも、作るから。」そらちゃん、ふっとそんな言葉が出ました。
牧パパ、微笑んで静かに答えます。
「そらが作ってくれるんなら、お父さんはなんでもうれしいよ。そらは、わしの自慢の娘だからな。」
「お父さん、そんなの初めて聞いたよ？それ、本当なのっ！？おにいちゃんだけが、自慢の子だったんじゃないのっ！？」
「そんなことない！！自慢の男の子と、自慢の女の子が授かって、わしはうれしかったんだぞ。」
「お父さん。。。」言葉の出ないそらちゃん。そっと寄り添うしのママ。
そんな会話を交わして、牧パパチームは帰っていきます。
最後牧パパは、「おい、春田くん。」と、声をかけました。「はいっ。お義父さん。」「凌太は、、、きみとの結婚式を望んでる。場所なんてどこでもいいんだろうが。もちろん、抽選で当たったなら、ハワイだってそれも素敵だって思う。ただ、わしの凌太と幸せに添い遂げてくれれば、それでいいんだから。」
牧パパの真剣な目で見つめられた春田さん。強くはっきりとした目で、答えます。
「もちろんです。おれは、牧としか幸せになれません。牧だけがおれの相手だと思っています。死ぬまで、いや、死んでもおれは牧と一緒なんです。」
春田さんのその言葉を聞いた、牧パパは、満足そうに微笑みながらそらちゃんに手を取られ、しのママの運転するクルマに乗り込んで、帰っていきました。
惜しいことに、牧パパと春田さんの会話を、牧くんは聞いていませんでした。
兄として、妹の不安感をぬぐおうと、しのママと３人で話していたからです。
「そら。変に卑屈にならなくていい。そらはお父さんの自慢の娘なんだから。」
「そうよ、そら。」「お兄ちゃん、ほんと？」
「そらは気づいてなかったかもしれないけど、小さい頃から親戚だけでなく、会社とかでもそらの自慢話してたんだぞ、お父さん。」
「そうよ、そら。お母さん、おなたたちふたりを見ていて、お父さんは何も不公平にしていないわ。ふたりとも大好きなのよ。」「お母さん。」そらちゃんの表情が明るくなりました。
☆☆商店街から、牧パパ一家を見送った春牧のふたり。
「なんだかお義父さんの気持ちを悲しくさせちゃったな。。。」と、春田さん。
「でも、仕方ないですよ。ガラガラなんですから。。。公明正大で、やましいところがないのが、ガラガラ抽選のいいところですよ。」少し明るく言う牧くん。
「そうだよな。」ふたりしばらく言葉が出ません。
「ねえ。牧。」
「なあに？」
「夜中に食べる年越しそばだけ買っておいてさ、商店街の中のお店で食べて帰らない？」
「それもいいですね。何にします？この商店街、食べ物屋さんはけっこうありますよ？あー、でも、この時間から、そばが残ってるかなー。」
ふたり、気落ちした気持ちを上げようと、少し明るめに話していました。
そんなところに、春田さんは誰かとぶつかります。
どしっっっ！！かなり強くあたってしまいました。心配して青ざめる春田さん。
「あっっっ！すいませーん！！大丈夫ですかあっ！？」「あ。大丈夫です。えっ。はるっぴ？」
「えー！？レイジ！？」そこにはなんと○○エアライン、次期チーフパーサー候補の獅子丸レイジくんが、小さな男の子を３人従えて、立っているのでした。
最後のガラガラを回したのは、牧パパ。「あなた！」「パパ！」「お父さんっ！！」みんなで励ましの声をかけていました。
「なんでおれはここまでクジ運ないんだよーーーっ。」
牧パパは、かなり落ち込んでいましたが、何とか気持ちを取り戻し、こう言いました。
「いや。凌太も春田くんも、ありがとう。最近、こんなに気持ちが集中して、楽しかったことはなかったよ。本当に楽しかった。ありがとう。」牧パパの目に、うっすらと涙。
春牧のふたりも、しのママもそらちゃんも、言葉がありません。
そろそろ日の陰ってくる時間帯となりました。
「さあ。帰ろうか。くじも使い果たしたし、大晦日だし、今夜の食事の用意もあるだろうし。ね、しの？悪いね。」牧パパがチームに声をかけました。
「ええ。あなた。。。お節料理の何品かは作ってますし、年越しそばだってありますし、年越し肉じゃがも作りますから、大丈夫ですよ。」
「お父さん。。。あたしさ、お母さんに教えてもらって、あのキャラメルコーヒームースも、作るから。」そらちゃん、ふっとそんな言葉が出ました。
牧パパ、微笑んで静かに答えます。
「そらが作ってくれるんなら、お父さんはなんでもうれしいよ。そらは、わしの自慢の娘だからな。」
「お父さん、そんなの初めて聞いたよ？それ、本当なのっ！？おにいちゃんだけが、自慢の子だったんじゃないのっ！？」
「そんなことない！！自慢の男の子と、自慢の女の子が授かって、わしはうれしかったんだぞ。」
「お父さん。。。」言葉の出ないそらちゃん。そっと寄り添うしのママ。
そんな会話を交わして、牧パパチームは帰っていきます。
最後牧パパは、「おい、春田くん。」と、声をかけました。「はいっ。お義父さん。」「凌太は、、、きみとの結婚式を望んでる。場所なんてどこでもいいんだろうが。もちろん、抽選で当たったなら、ハワイだってそれも素敵だって思う。ただ、わしの凌太と幸せに添い遂げてくれれば、それでいいんだから。」
牧パパの真剣な目で見つめられた春田さん。強くはっきりとした目で、答えます。
「もちろんです。おれは、牧としか幸せになれません。牧だけがおれの相手だと思っています。死ぬまで、いや、死んでもおれは牧と一緒なんです。」
春田さんのその言葉を聞いた、牧パパは、満足そうに微笑みながらそらちゃんに手を取られ、しのママの運転するクルマに乗り込んで、帰っていきました。
惜しいことに、牧パパと春田さんの会話を、牧くんは聞いていませんでした。
兄として、妹の不安感をぬぐおうと、しのママと３人で話していたからです。
「そら。変に卑屈にならなくていい。そらはお父さんの自慢の娘なんだから。」
「そうよ、そら。」「お兄ちゃん、ほんと？」
「そらは気づいてなかったかもしれないけど、小さい頃から親戚だけでなく、会社とかでもそらの自慢話してたんだぞ、お父さん。」
「そうよ、そら。お母さん、おなたたちふたりを見ていて、お父さんは何も不公平にしていないわ。ふたりとも大好きなのよ。」「お母さん。」そらちゃんの表情が明るくなりました。
☆☆商店街から、牧パパ一家を見送った春牧のふたり。
「なんだかお義父さんの気持ちを悲しくさせちゃったな。。。」と、春田さん。
「でも、仕方ないですよ。ガラガラなんですから。。。公明正大で、やましいところがないのが、ガラガラ抽選のいいところですよ。」少し明るく言う牧くん。
「そうだよな。」ふたりしばらく言葉が出ません。
「ねえ。牧。」
「なあに？」
「夜中に食べる年越しそばだけ買っておいてさ、商店街の中のお店で食べて帰らない？」
「それもいいですね。何にします？この商店街、食べ物屋さんはけっこうありますよ？あー、でも、この時間から、そばが残ってるかなー。」
ふたり、気落ちした気持ちを上げようと、少し明るめに話していました。
そんなところに、春田さんは誰かとぶつかります。
どしっっっ！！かなり強くあたってしまいました。心配して青ざめる春田さん。
「あっっっ！すいませーん！！大丈夫ですかあっ！？」「あ。大丈夫です。えっ。はるっぴ？」
「えー！？レイジ！？」そこにはなんと○○エアライン、次期チーフパーサー候補の獅子丸レイジくんが、小さな男の子を３人従えて、立っているのでした。
続けます！！３４５番の話の続きです。すみません！！
「うわー、奇遇だなあ、レイジ！！」「ほんとだよ。何。何なの、この偶然！！」
盛り上がるふたりを見て、牧くんちょっとびっくりです。
「レイジ、この辺地元なの？」「うん。実はそうなんだ。たまにしか帰ってこられないけどさ。あ。言っておくけど、この子たちはアニキの子供達で、上の二人は双子で中一、末っ子は３歳。おれの子供じゃないからね。」ぷぷっと吹きだす春田さん。
「オッケー、オッケー！！あ。ちょうどいいや。ほら、これがおれの自慢の牧！」ぐいっと牧くんの肩に手を回して、「これが、おれの大事な大切な牧なんだ。」と、紹介する春田さん。
「これがウワサの牧くんかー。初めまして。○○エアラインの獅子丸レイジです。」
「あ、あなたが、、、うわっ！！まぶしいっ！！」
レイジくんのキラキラ感に少し気圧される牧くんですが、負けている場合ではありません。
「初めましてっ！天空不動産の牧凌太ですっ。春田さんがお世話になっておりますっ。」
レイジくん、牧くんをパッと見ただけで言うのでした。
「はるっぴ。一番ぴったりな、最愛な人を選んだね。」と、断言しました。
「やっぱ、レイジは分かってくれると思ってた！！」
「ちょ、ちょっと春田さん、何なんですよっ！！」割って入る牧くんでしたが、春田さんとレイジくんの話の中には入られないのでした。
「はるっぴ、幸せになれよっ！！」「当たり前だよ、当然レイジも幸せになるんだぞっ！！」
「いや、おれはさー。。。まだ、なんていうか迷子なんだよねー。」
しばらく続く二人の会話に入れない牧くんに、レイジくんの甥っ子たちが物怖じせず話しかけます。
「ねえねえ、おにいさん。特賞が当たりたいんだね。」「ハワイ旅行だね。」
牧くん答えます。「う、うん。でももうチケットがないから、無理みたいなんだ。ところで君たちは何か当てたの？」
「うん。当てたよ。今年は大型冷蔵庫。」「去年はクーラーだった。」けろりと話す男の子たち。
「すごいね、キミたち！！ものすごいラッキーじゃないか！！」
「うん。だからね。もういっぱいもらったからさ。このチケット、もういいんだ。」「いいんだ。」
一枚のチケットを、牧くんに差し出すふたり。
「おにいさん。このチケットで、ハワイ旅行当ててよ。」「きっと当たるよ。」とてもきれいな二人のまなざし。しかし牧くんは立ち止まります。
「ちょっと待って。君たちで旅行を当てて、親御さんたちと行こうとは思わないの？」
かわいらしい双子は、ふっと目を見合わせて、くすくす笑いながらかわるがわる言いました。
「ぼくたち、パスポート持ってないもん。それにあんまり興味なくって。」
「おにいさん。ぼくたちの代わりに行ってきてくださいよ、ハワイ。」
「で、、、でも。。。」言い淀む牧くん。そこに一番末っ子の男の子が、牧くんのコートの裾を引っ張って、満面の笑みなのです。
「レイジ兄さんの話だと、このおにいさんとカレシは思い合って離れることのないふたりだということだった。」「だったねえ。素敵だよねえ。」
「き、君たち、おれたちのどこまで知っているのっ？」ちょっと恥ずかしそうな牧くん。
「そんな二人に行ってもらいたいんだ、ハワイ旅行。」「そうなんだよ、ぼくら。」
「そんなの、本当にいいの？」問い返す牧くん。
「そういう二人だから、きっと当たると思うんだ。」「ほんと、そうだよ。」「この末っ子の３歳だって、そう思ってるよ。」
そういう二人の邪心のない言葉に促され、一枚のチケットを受け取る牧くん。最終的には足元の３歳の男の子のきれいな瞳に説得されてしまいました。
そこへ春田さんが様子に気づいて牧くんに話しかけます。「どうしたの？まき。」
「春田さん。これこれで。チケットをもらい受けました。」すぐさま状況を判断した春田さんが言います。
「レイジ！！いいのかっ！？」「ああ。いいんだよ。この子たちは自分たちが当たることで、少し罪悪感を抱いているんだ。去年も、今回も大きいのを当てたからね。はるっぴとその伴侶にいい品物が当たれば、この子たちの気持ちも晴れるだろうよ。」
そこまで言われた春牧のふたりは、ふたりして最後の賭けに出ることにしました。そしてくじ引きの列に並びます。レイジくんと子供たちもその様子を見守ります。
「次の方どうぞー！！」その声に呼ばれて、一歩二歩と進む春牧のふたり。
「うわー、奇遇だなあ、レイジ！！」「ほんとだよ。何。何なの、この偶然！！」
盛り上がるふたりを見て、牧くんちょっとびっくりです。
「レイジ、この辺地元なの？」「うん。実はそうなんだ。たまにしか帰ってこられないけどさ。あ。言っておくけど、この子たちはアニキの子供達で、上の二人は双子で中一、末っ子は３歳。おれの子供じゃないからね。」ぷぷっと吹きだす春田さん。
「オッケー、オッケー！！あ。ちょうどいいや。ほら、これがおれの自慢の牧！」ぐいっと牧くんの肩に手を回して、「これが、おれの大事な大切な牧なんだ。」と、紹介する春田さん。
「これがウワサの牧くんかー。初めまして。○○エアラインの獅子丸レイジです。」
「あ、あなたが、、、うわっ！！まぶしいっ！！」
レイジくんのキラキラ感に少し気圧される牧くんですが、負けている場合ではありません。
「初めましてっ！天空不動産の牧凌太ですっ。春田さんがお世話になっておりますっ。」
レイジくん、牧くんをパッと見ただけで言うのでした。
「はるっぴ。一番ぴったりな、最愛な人を選んだね。」と、断言しました。
「やっぱ、レイジは分かってくれると思ってた！！」
「ちょ、ちょっと春田さん、何なんですよっ！！」割って入る牧くんでしたが、春田さんとレイジくんの話の中には入られないのでした。
「はるっぴ、幸せになれよっ！！」「当たり前だよ、当然レイジも幸せになるんだぞっ！！」
「いや、おれはさー。。。まだ、なんていうか迷子なんだよねー。」
しばらく続く二人の会話に入れない牧くんに、レイジくんの甥っ子たちが物怖じせず話しかけます。
「ねえねえ、おにいさん。特賞が当たりたいんだね。」「ハワイ旅行だね。」
牧くん答えます。「う、うん。でももうチケットがないから、無理みたいなんだ。ところで君たちは何か当てたの？」
「うん。当てたよ。今年は大型冷蔵庫。」「去年はクーラーだった。」けろりと話す男の子たち。
「すごいね、キミたち！！ものすごいラッキーじゃないか！！」
「うん。だからね。もういっぱいもらったからさ。このチケット、もういいんだ。」「いいんだ。」
一枚のチケットを、牧くんに差し出すふたり。
「おにいさん。このチケットで、ハワイ旅行当ててよ。」「きっと当たるよ。」とてもきれいな二人のまなざし。しかし牧くんは立ち止まります。
「ちょっと待って。君たちで旅行を当てて、親御さんたちと行こうとは思わないの？」
かわいらしい双子は、ふっと目を見合わせて、くすくす笑いながらかわるがわる言いました。
「ぼくたち、パスポート持ってないもん。それにあんまり興味なくって。」
「おにいさん。ぼくたちの代わりに行ってきてくださいよ、ハワイ。」
「で、、、でも。。。」言い淀む牧くん。そこに一番末っ子の男の子が、牧くんのコートの裾を引っ張って、満面の笑みなのです。
「レイジ兄さんの話だと、このおにいさんとカレシは思い合って離れることのないふたりだということだった。」「だったねえ。素敵だよねえ。」
「き、君たち、おれたちのどこまで知っているのっ？」ちょっと恥ずかしそうな牧くん。
「そんな二人に行ってもらいたいんだ、ハワイ旅行。」「そうなんだよ、ぼくら。」
「そんなの、本当にいいの？」問い返す牧くん。
「そういう二人だから、きっと当たると思うんだ。」「ほんと、そうだよ。」「この末っ子の３歳だって、そう思ってるよ。」
そういう二人の邪心のない言葉に促され、一枚のチケットを受け取る牧くん。最終的には足元の３歳の男の子のきれいな瞳に説得されてしまいました。
そこへ春田さんが様子に気づいて牧くんに話しかけます。「どうしたの？まき。」
「春田さん。これこれで。チケットをもらい受けました。」すぐさま状況を判断した春田さんが言います。
「レイジ！！いいのかっ！？」「ああ。いいんだよ。この子たちは自分たちが当たることで、少し罪悪感を抱いているんだ。去年も、今回も大きいのを当てたからね。はるっぴとその伴侶にいい品物が当たれば、この子たちの気持ちも晴れるだろうよ。」
そこまで言われた春牧のふたりは、ふたりして最後の賭けに出ることにしました。そしてくじ引きの列に並びます。レイジくんと子供たちもその様子を見守ります。
「次の方どうぞー！！」その声に呼ばれて、一歩二歩と進む春牧のふたり。
一旦、ベッドに入ったのですが、じりじりと緊張が解けず、起き出してきました。
実は、やっと懸案事項だった書類の作成が終わりまして、４月２３日の昼過ぎ、まとめて封入した書類一式を、郵便局で出してきたところなんです。
あとは共済組合から、国の機関へ送られ、そこで判断されるんだろうと思われます。
私としては、いろいろ書きたいこともあったけど、端折って、要点をまとめて送ったつもりなので、やりおおせたと、解放感にも似た気分でいます。
そして、これでやっと、ここでのふたりのその後、小説まがいのお話の続きを書いていけるようになったことがうれしくて。。。
２０２０年の暮れで中断している、私の物語。２０２１年の初めあたりから、書き出すことになりそうですが、まず資料を読み直すところから始まりそうです。
始まりましたら、どうかまた、読んでやってくださいませ。
実は、やっと懸案事項だった書類の作成が終わりまして、４月２３日の昼過ぎ、まとめて封入した書類一式を、郵便局で出してきたところなんです。
あとは共済組合から、国の機関へ送られ、そこで判断されるんだろうと思われます。
私としては、いろいろ書きたいこともあったけど、端折って、要点をまとめて送ったつもりなので、やりおおせたと、解放感にも似た気分でいます。
そして、これでやっと、ここでのふたりのその後、小説まがいのお話の続きを書いていけるようになったことがうれしくて。。。
２０２０年の暮れで中断している、私の物語。２０２１年の初めあたりから、書き出すことになりそうですが、まず資料を読み直すところから始まりそうです。
始まりましたら、どうかまた、読んでやってくださいませ。
こんな深夜ですが、ためていたところを書こうと思います。
３４７番の続きです。
年末大みそか、春牧のふたりは手に手を取って、最後の一枚のクジで、クジを引こうとガラガラの前に立ちました。
最後は余計な言葉もなく、見つめ合ったふたり。そして手に手を取り、ガラリ、ガラリ、と２回回してポトリと落ちたその玉は。。。
赤色に金の水玉模様の、いかにもおめでたい玉でした。ほんの数秒静まり返り。。。
次の瞬間、大きな薬玉が割られ、ハンドベルががらんがらんと鳴り出し、商店街一の美声の持ち主、魚屋のおにいさんがマイクで歌うように叫びました。
「出ました！！みなさん出ました！！今年の特賞です！！ハワイ旅行の当たりくじが、たった今、出ました！！おめでとうございます！！出ましたよーーーっっ！！」
色とりどりの紙片が、たくさん舞い落ちてくる中、それをただ呆然と眺める春牧のふたり。
「当てたよ、まき。」「当たっちゃいましたね、春田さん。」
ふたりは目を見合わせ、それから辺りをはばからず、やさしく抱きしめ合うのでした。
「やったね、はるっぴ！！」「おめでとう、おにいさんたち！！」そう言いながら、拍手を送ってくれるレイジくんたちに、春田さんと牧くんは、うれしくなって抱きつくのでした。
「はるっぴ、よせよ！！」「ありがとう、レイジ！！」
そして牧くんは、双子を抱きしめていました。
「ありがとう、ふたりとも！！」「喜んでもらえたね。」「へへっ。そうだね。」
双子はそう言い交わすのでした。
そのあと、春牧たちは、レイジくんと双子たち、そして商店街の人たちと、その場で記念写真を何枚か撮り、それから商店会事務局へと案内されました。
レイジくんたちは帰宅していきました。
「春田くんっ！牧くんっ！おめでとうっ！！」「あっ！！照生さんっ！！」
春牧のふたりが声を揃えて驚くのも無理はありません。ホソカワテーラーの照生さんが、招福抽選会の役員の一人だったのです。
「いやー。ぼくも初めてこんな役を引き受けてさ。その最初で特賞ハワイ旅行が、君たちに当たるなんて！！ぼくね、今回役を引き受けるの、少し重たかったんだけどさ。引き受けてよかったよーっ！！」今にも涙しそうな照生さん。
笑顔で牧くんが答えます。
「照生さんっ。おれたちだけの力じゃないんです。チケットを譲ってくれた男の子たちがいてくれたおかげなんです！！」
それを聞いてびっくりする照生さんです。
「もしかして、、、双子かいっ？」そこでザワザワとなる、運営側スタッフ。と、役員の面々。
春田さんが明るく言います。
「そうなんです。その子たちは高額商品を当てて、自分たちを責めるような気持ちになってて。それで、おれたちにくじ引き券を、分けてくれたんです。本当にいい子たちですっ！」
その言葉で、事務局内にほっとする気持ちのゆとりが生まれ、その場の雰囲気がおさまりました。
続く！！
３４７番の続きです。
年末大みそか、春牧のふたりは手に手を取って、最後の一枚のクジで、クジを引こうとガラガラの前に立ちました。
最後は余計な言葉もなく、見つめ合ったふたり。そして手に手を取り、ガラリ、ガラリ、と２回回してポトリと落ちたその玉は。。。
赤色に金の水玉模様の、いかにもおめでたい玉でした。ほんの数秒静まり返り。。。
次の瞬間、大きな薬玉が割られ、ハンドベルががらんがらんと鳴り出し、商店街一の美声の持ち主、魚屋のおにいさんがマイクで歌うように叫びました。
「出ました！！みなさん出ました！！今年の特賞です！！ハワイ旅行の当たりくじが、たった今、出ました！！おめでとうございます！！出ましたよーーーっっ！！」
色とりどりの紙片が、たくさん舞い落ちてくる中、それをただ呆然と眺める春牧のふたり。
「当てたよ、まき。」「当たっちゃいましたね、春田さん。」
ふたりは目を見合わせ、それから辺りをはばからず、やさしく抱きしめ合うのでした。
「やったね、はるっぴ！！」「おめでとう、おにいさんたち！！」そう言いながら、拍手を送ってくれるレイジくんたちに、春田さんと牧くんは、うれしくなって抱きつくのでした。
「はるっぴ、よせよ！！」「ありがとう、レイジ！！」
そして牧くんは、双子を抱きしめていました。
「ありがとう、ふたりとも！！」「喜んでもらえたね。」「へへっ。そうだね。」
双子はそう言い交わすのでした。
そのあと、春牧たちは、レイジくんと双子たち、そして商店街の人たちと、その場で記念写真を何枚か撮り、それから商店会事務局へと案内されました。
レイジくんたちは帰宅していきました。
「春田くんっ！牧くんっ！おめでとうっ！！」「あっ！！照生さんっ！！」
春牧のふたりが声を揃えて驚くのも無理はありません。ホソカワテーラーの照生さんが、招福抽選会の役員の一人だったのです。
「いやー。ぼくも初めてこんな役を引き受けてさ。その最初で特賞ハワイ旅行が、君たちに当たるなんて！！ぼくね、今回役を引き受けるの、少し重たかったんだけどさ。引き受けてよかったよーっ！！」今にも涙しそうな照生さん。
笑顔で牧くんが答えます。
「照生さんっ。おれたちだけの力じゃないんです。チケットを譲ってくれた男の子たちがいてくれたおかげなんです！！」
それを聞いてびっくりする照生さんです。
「もしかして、、、双子かいっ？」そこでザワザワとなる、運営側スタッフ。と、役員の面々。
春田さんが明るく言います。
「そうなんです。その子たちは高額商品を当てて、自分たちを責めるような気持ちになってて。それで、おれたちにくじ引き券を、分けてくれたんです。本当にいい子たちですっ！」
その言葉で、事務局内にほっとする気持ちのゆとりが生まれ、その場の雰囲気がおさまりました。
続く！！
３５０番のお話続けます。
それから春牧のふたりは、照生さんと商店会のスタッフ、そして商店街の中にある某大手旅行代理店の支店スタッフと話し合いに入りました。
当てたはいいけど、なにしろ豪華に１０日間の旅のため、契約はもちろん、ふたりの事情や仕事状況を踏まえ、最適なシーズンを見定めるための話し合いでした。
話し合いが進む中、春田さんが言いました。
「みなさんっ。よろしくお願いしますっ！おれたち、男同士ですが、伴侶なんですっ！今回当たったこの旅行、出来ればおれとまきの、新婚旅行にしたいと思っています。色々、イレギュラーな案件だとは思いますが、どうかご配慮、そしてご協力くださいますよう、よろしくお願いいたしますっ！！」
そこに、冷静にダメ出しする牧くん。
「春田さん。待ってください。ね。まず、その旅行期間だけの有給休暇、取れるんですかっ。」
「そんなのっ！結婚休暇で取れるよっ！」「男同士なのにっ！？社の規定外ですよっ！？」
「。。。そ、それはさ。。。」口ごもる春田さん。
そこに、畳みかける冷静な牧くんです。
「有給休暇もあるかもしれないけど、だいたいね、おれたちの今年度の有給休暇残り日数分かってますかっ。それに。おれはこれからシンガポールで忙しくなる時期なんですよっ！？おれの仕事、分かってくれてますよねっ。」
「おれだって、有給休暇の日数は残り少ないよ。でもさあっ！こんなチャンス、そうそうあるわけないんだよっ！確実にチャンスが目の前にあって、それに手を出さないなんて、そんな馬鹿できるか？まき？」「。。。それは、そうだけど。。。」
そこに一人の男性がふらりと入ってきました。はっと、動作も声も止まる事務局の一同。
「あっ！！会長っ！！」
その男性、とても紳士なその人は、照生さんを含めて周囲の人たちにやさしく微笑みかけて、こう言いました。
「おふたりが特賞のハワイ旅行、当てられたんですか。それはおめでとう。」静かで落ち着いた、優しい声でした。その声はそのまま続きました。
「福引、なんだかおふたりのムードで盛り上がったのか、高額当選品が続出しているようですよ。。。あれ？もしかしてふたりとも、せっかくのハワイ旅行、お嫌ですか？」
きりっと大き目の声で答える春田さん。「いえっ。おれは牧と行きたいですっ。」
牧くんがすぐさま言い返します。
「でもっ。おれはっ！残りの休暇日数も、仕事の日程もあるし、それにおれはともかく、春田さんが、また無理するんじゃないかって、おれすごく、、、心配で。。。」
その紳士はふたりの様子を観察して、ふふふっと微笑みました。
「あなたがた、ふたりはとても深い結びつきなんだね。」
優しい声に、春牧のふたりはハッとして顔を見つめ合います。とっさに声が出ませんでした。
「まあ、とりあえず、お茶を入れますから、召し上がってくださいよ。」
商店会長は、すぐさま簡易の茶道具を用意して、濃茶を点て始めました。
すみません。続けますっ！！(>_<)
それから春牧のふたりは、照生さんと商店会のスタッフ、そして商店街の中にある某大手旅行代理店の支店スタッフと話し合いに入りました。
当てたはいいけど、なにしろ豪華に１０日間の旅のため、契約はもちろん、ふたりの事情や仕事状況を踏まえ、最適なシーズンを見定めるための話し合いでした。
話し合いが進む中、春田さんが言いました。
「みなさんっ。よろしくお願いしますっ！おれたち、男同士ですが、伴侶なんですっ！今回当たったこの旅行、出来ればおれとまきの、新婚旅行にしたいと思っています。色々、イレギュラーな案件だとは思いますが、どうかご配慮、そしてご協力くださいますよう、よろしくお願いいたしますっ！！」
そこに、冷静にダメ出しする牧くん。
「春田さん。待ってください。ね。まず、その旅行期間だけの有給休暇、取れるんですかっ。」
「そんなのっ！結婚休暇で取れるよっ！」「男同士なのにっ！？社の規定外ですよっ！？」
「。。。そ、それはさ。。。」口ごもる春田さん。
そこに、畳みかける冷静な牧くんです。
「有給休暇もあるかもしれないけど、だいたいね、おれたちの今年度の有給休暇残り日数分かってますかっ。それに。おれはこれからシンガポールで忙しくなる時期なんですよっ！？おれの仕事、分かってくれてますよねっ。」
「おれだって、有給休暇の日数は残り少ないよ。でもさあっ！こんなチャンス、そうそうあるわけないんだよっ！確実にチャンスが目の前にあって、それに手を出さないなんて、そんな馬鹿できるか？まき？」「。。。それは、そうだけど。。。」
そこに一人の男性がふらりと入ってきました。はっと、動作も声も止まる事務局の一同。
「あっ！！会長っ！！」
その男性、とても紳士なその人は、照生さんを含めて周囲の人たちにやさしく微笑みかけて、こう言いました。
「おふたりが特賞のハワイ旅行、当てられたんですか。それはおめでとう。」静かで落ち着いた、優しい声でした。その声はそのまま続きました。
「福引、なんだかおふたりのムードで盛り上がったのか、高額当選品が続出しているようですよ。。。あれ？もしかしてふたりとも、せっかくのハワイ旅行、お嫌ですか？」
きりっと大き目の声で答える春田さん。「いえっ。おれは牧と行きたいですっ。」
牧くんがすぐさま言い返します。
「でもっ。おれはっ！残りの休暇日数も、仕事の日程もあるし、それにおれはともかく、春田さんが、また無理するんじゃないかって、おれすごく、、、心配で。。。」
その紳士はふたりの様子を観察して、ふふふっと微笑みました。
「あなたがた、ふたりはとても深い結びつきなんだね。」
優しい声に、春牧のふたりはハッとして顔を見つめ合います。とっさに声が出ませんでした。
「まあ、とりあえず、お茶を入れますから、召し上がってくださいよ。」
商店会長は、すぐさま簡易の茶道具を用意して、濃茶を点て始めました。
すみません。続けますっ！！(>_<)
こんな時間にすみません。前の３５１番のお話の続きです。
「あ。ふたりはお茶を点てるところは初めてかな。」会長は静かにお茶を点てながら、春牧のふたりに話しかけます。流れるように美しい、そして穏やかなお点前でした。
緊張していた春牧のふたりは、黒の楽茶碗に点てられた濃茶を、ふたりで半分づついただいて、少しづつ気分が落ち着いてきました。
「美味しいね、牧。」
「ほんとに。」
「ハーゲンダッツの抹茶味より、美味しい。」
「こらっ！こういうのが本家本元なんだから、失礼にあたりますよっ。」
「それは、失礼いたしましたっっっ！」
「あっはっはっはっ！ハーゲンダッツはぼくも好きだね。あれはよく出来ているよねえ。」
会長は微笑みながら、スタッフにもお茶を点てて（なんと会長の部下が、いくつかお茶碗を持参していました。）、少し時間を作って、ふたたび春牧のふたりに話しかけました。
「さあ。どうしようかね。何事もふたりの気持ち次第だと思うけど。」
「確かにそうですね。」一呼吸おいて、先に牧くんが答えました。
「牧？」「春田さん。本当におれでいいんですか？」
少し厳しい顔つきで、春田さんに問う牧くん。意外なことを聞かれて、心穏やかならぬ春田さん。
「。。。この期に及んで。。。何、言ってんだ。おれが牧のこと大好きなのは、分かってんだろ？試す必要がどこにあるんだよ！？」
「春田さん。。。」がつっと、牧くんの手に自分の手を重ねる春田さん。
「何も心配すること、ないって。」
牧くんは何も言えず、春田さんを見つめるだけでした。うっすらと涙のにじむ瞳の牧くんです。
ややあって、「新婚旅行が無理なら、どちらかのご両親にプレゼントするという方法もありかなあ。」
会長がぼそりと言いました。
「あっ。そうかも。」「それもいいですねっ。」ふたりが答えます。
「じゃあ、今すぐに連絡が取れるところからしていって、君たちも気持ちを決めるといいよ。よくご両親と相談してねっ。でも僕は、ぼく個人としては、君たちにハワイに行って欲しいけどね。」
会長の提案に、春牧も含め、周囲のみんなが少しためらっている様子でした。
会長が続けて言います。
「昨年の特賞ハワイ旅行はね、金婚式のご夫婦が当てられてね。そして次が君たちじゃないか。これはもうね。時代の波がやって来ているんだと、ぼくは思うんだ。」
「えっ、そうでしょうかっ！」と、春田さん。
しかし、それを聞いていた牧くんはどんどん顔色が悪くなっていくのでした。
「、、、まき、大丈夫か？」
優しい春田さんの声にハッとなる牧くん。「うん。大丈夫。」
その声が本気ではないと分かっている春田さん。
とりあえずふたりは、ハワイ旅行の目録の受け取りとか、いろいろの書類にサインをし、６か月間有効のチケットを手にしました。
そして、まず牧くんが、その場ですぐに牧パパに連絡して、春田さんも幸枝ママに連絡します。
そして３世帯が混乱し始めるのでした。
まず、牧パパとしのママは喜びの声を、電話の向こうで上げました。
「やったじゃないか、凌太！！わしらの代わりに、ハワイ旅行行っておいでっ！」
「すごいじゃない凌太。ふたりで楽しんでらっしゃいよ！」
スマホでかわるがわる話すパパとママ。
「でもさ、お母さん。おれシンガポールの仕事もあるし、有給休暇の日数だって、そんなにないからさー。。。」
「あら、凌太。だったら、新婚休暇を取ればいいんじゃないの？」
「男同士なのにっ！？」
「規定はあるの？」「な、、、無いかもしれないけど。。。」と、牧くんがしのママと話しているかたわらで、春田さんはNYに滞在している幸枝ママに電話していました。
「そーいちっっ！！あんた、時差分かってんのっ！？」
「ごめんっ！！ちょっと相談が急にあってさ。くじ引きでハワイ旅行当てたんだ。」
「あらあらあら！本当にっ！？」
「そうなんだよ、知り合いのレイジからくじ券の余りもらってさ、特賞のハワイ旅行、当てちゃったんだよ。」
「あらー。すごいじゃない。行って向こうで結婚式、挙げてくればいいんじゃないの？」
「それよ、それなんだよっ！おれ、ひらめいたんだけど、かーちゃんとアタルくんも、牧のご両親も、みんなでハワイ行ってさ、小規模のウェディングパーティーとか、しない？おれ、牧と正式にみんなの前で、結婚式したいんだ。」
しばらく黙っていた幸枝ママ。
「それはまず、牧くんとちゃんと話し合うべきね。」「か、母ちゃん。。。」
「お母さんはね、ふたりでじっくり話し合って決めた結果を聞きたいわね。多分、アタルくんも同じことを言うと思うわ。」
あ。字数制限だ。。。
「あ。ふたりはお茶を点てるところは初めてかな。」会長は静かにお茶を点てながら、春牧のふたりに話しかけます。流れるように美しい、そして穏やかなお点前でした。
緊張していた春牧のふたりは、黒の楽茶碗に点てられた濃茶を、ふたりで半分づついただいて、少しづつ気分が落ち着いてきました。
「美味しいね、牧。」
「ほんとに。」
「ハーゲンダッツの抹茶味より、美味しい。」
「こらっ！こういうのが本家本元なんだから、失礼にあたりますよっ。」
「それは、失礼いたしましたっっっ！」
「あっはっはっはっ！ハーゲンダッツはぼくも好きだね。あれはよく出来ているよねえ。」
会長は微笑みながら、スタッフにもお茶を点てて（なんと会長の部下が、いくつかお茶碗を持参していました。）、少し時間を作って、ふたたび春牧のふたりに話しかけました。
「さあ。どうしようかね。何事もふたりの気持ち次第だと思うけど。」
「確かにそうですね。」一呼吸おいて、先に牧くんが答えました。
「牧？」「春田さん。本当におれでいいんですか？」
少し厳しい顔つきで、春田さんに問う牧くん。意外なことを聞かれて、心穏やかならぬ春田さん。
「。。。この期に及んで。。。何、言ってんだ。おれが牧のこと大好きなのは、分かってんだろ？試す必要がどこにあるんだよ！？」
「春田さん。。。」がつっと、牧くんの手に自分の手を重ねる春田さん。
「何も心配すること、ないって。」
牧くんは何も言えず、春田さんを見つめるだけでした。うっすらと涙のにじむ瞳の牧くんです。
ややあって、「新婚旅行が無理なら、どちらかのご両親にプレゼントするという方法もありかなあ。」
会長がぼそりと言いました。
「あっ。そうかも。」「それもいいですねっ。」ふたりが答えます。
「じゃあ、今すぐに連絡が取れるところからしていって、君たちも気持ちを決めるといいよ。よくご両親と相談してねっ。でも僕は、ぼく個人としては、君たちにハワイに行って欲しいけどね。」
会長の提案に、春牧も含め、周囲のみんなが少しためらっている様子でした。
会長が続けて言います。
「昨年の特賞ハワイ旅行はね、金婚式のご夫婦が当てられてね。そして次が君たちじゃないか。これはもうね。時代の波がやって来ているんだと、ぼくは思うんだ。」
「えっ、そうでしょうかっ！」と、春田さん。
しかし、それを聞いていた牧くんはどんどん顔色が悪くなっていくのでした。
「、、、まき、大丈夫か？」
優しい春田さんの声にハッとなる牧くん。「うん。大丈夫。」
その声が本気ではないと分かっている春田さん。
とりあえずふたりは、ハワイ旅行の目録の受け取りとか、いろいろの書類にサインをし、６か月間有効のチケットを手にしました。
そして、まず牧くんが、その場ですぐに牧パパに連絡して、春田さんも幸枝ママに連絡します。
そして３世帯が混乱し始めるのでした。
まず、牧パパとしのママは喜びの声を、電話の向こうで上げました。
「やったじゃないか、凌太！！わしらの代わりに、ハワイ旅行行っておいでっ！」
「すごいじゃない凌太。ふたりで楽しんでらっしゃいよ！」
スマホでかわるがわる話すパパとママ。
「でもさ、お母さん。おれシンガポールの仕事もあるし、有給休暇の日数だって、そんなにないからさー。。。」
「あら、凌太。だったら、新婚休暇を取ればいいんじゃないの？」
「男同士なのにっ！？」
「規定はあるの？」「な、、、無いかもしれないけど。。。」と、牧くんがしのママと話しているかたわらで、春田さんはNYに滞在している幸枝ママに電話していました。
「そーいちっっ！！あんた、時差分かってんのっ！？」
「ごめんっ！！ちょっと相談が急にあってさ。くじ引きでハワイ旅行当てたんだ。」
「あらあらあら！本当にっ！？」
「そうなんだよ、知り合いのレイジからくじ券の余りもらってさ、特賞のハワイ旅行、当てちゃったんだよ。」
「あらー。すごいじゃない。行って向こうで結婚式、挙げてくればいいんじゃないの？」
「それよ、それなんだよっ！おれ、ひらめいたんだけど、かーちゃんとアタルくんも、牧のご両親も、みんなでハワイ行ってさ、小規模のウェディングパーティーとか、しない？おれ、牧と正式にみんなの前で、結婚式したいんだ。」
しばらく黙っていた幸枝ママ。
「それはまず、牧くんとちゃんと話し合うべきね。」「か、母ちゃん。。。」
「お母さんはね、ふたりでじっくり話し合って決めた結果を聞きたいわね。多分、アタルくんも同じことを言うと思うわ。」
あ。字数制限だ。。。
お話、３５２番の次を行きます。
「かーちゃん。。。」
「まあ、とりあえず大晦日なんだしさ、年越しそばでも食べながら、ふたりで大きなくじを当てたことをお祝いしなさいよっ。」
「そうだな。うん、わかった。牧とよく相談するよ。それから報告するわ！」
「そうしなさい。やっぱりね、お互い向き合うことが、そして正直に気持ちを伝えあうことが、大切なのよっ。お母さんだってね、アタルくんとは出来るだけ話すようにしてるもの。でも、本当におめでとう！こんな大きなラッキーを引き当てたのも、そのレイジくんや牧くんのおかげね。あんたは、むかしからくじ運のない子なんだから、ちゃんとありがとうを伝えなさいよっ。」
「うん、そうだね。かーちゃん、ありがとう。」
「あら、いつになく素直ね。大雪にならなきゃいいけど。」
春田さんも幸枝さんも、電話のこちら側で、少し照れながら、電話を切るのでした。
「幸枝さん。そういちくん、どうだった？なんだったの？」
ソファにゆったりと座って、アタルくんが問いかけます。
うれしそうな顔の幸枝さんが答えます。
「実はね。。。」幸枝さんの説明を聞いたアタルくん、ソファから向き直って、話し始めました。
「えーーーっ！？よかったじゃない、幸枝さんっ！ふたりがハワイで式を挙げるなら。。。ぼくたちマイルがたまってますからね。多分きっと、何の問題もなくハワイに行けるよっ！でも、確かに、実際のふたりの休みの日数が問題だよねーーー。。。」
少し渋い表情になるアタルくん。
そのアタルくんを不安そうに見つめる幸枝ママ。
「でもぼくはもう、ウクレレでふたりを祝う曲を弾いている気分だから。」
ぷっと吹き出す幸枝ママ。
「もう。アタルくんたら。」
「あのふたりは大丈夫だよ、幸枝さん。。。そして、おれたちもね。」
そしてふたりはNYのきれいな夜景を、温かな室内から眺めつつ、肩を寄り添い合っているのでした。
「かーちゃん。。。」
「まあ、とりあえず大晦日なんだしさ、年越しそばでも食べながら、ふたりで大きなくじを当てたことをお祝いしなさいよっ。」
「そうだな。うん、わかった。牧とよく相談するよ。それから報告するわ！」
「そうしなさい。やっぱりね、お互い向き合うことが、そして正直に気持ちを伝えあうことが、大切なのよっ。お母さんだってね、アタルくんとは出来るだけ話すようにしてるもの。でも、本当におめでとう！こんな大きなラッキーを引き当てたのも、そのレイジくんや牧くんのおかげね。あんたは、むかしからくじ運のない子なんだから、ちゃんとありがとうを伝えなさいよっ。」
「うん、そうだね。かーちゃん、ありがとう。」
「あら、いつになく素直ね。大雪にならなきゃいいけど。」
春田さんも幸枝さんも、電話のこちら側で、少し照れながら、電話を切るのでした。
「幸枝さん。そういちくん、どうだった？なんだったの？」
ソファにゆったりと座って、アタルくんが問いかけます。
うれしそうな顔の幸枝さんが答えます。
「実はね。。。」幸枝さんの説明を聞いたアタルくん、ソファから向き直って、話し始めました。
「えーーーっ！？よかったじゃない、幸枝さんっ！ふたりがハワイで式を挙げるなら。。。ぼくたちマイルがたまってますからね。多分きっと、何の問題もなくハワイに行けるよっ！でも、確かに、実際のふたりの休みの日数が問題だよねーーー。。。」
少し渋い表情になるアタルくん。
そのアタルくんを不安そうに見つめる幸枝ママ。
「でもぼくはもう、ウクレレでふたりを祝う曲を弾いている気分だから。」
ぷっと吹き出す幸枝ママ。
「もう。アタルくんたら。」
「あのふたりは大丈夫だよ、幸枝さん。。。そして、おれたちもね。」
そしてふたりはNYのきれいな夜景を、温かな室内から眺めつつ、肩を寄り添い合っているのでした。
久しぶりに続きを書いていこうと思います。
３５３番のお話の続きです。
春牧のふたりも、商店街から家に帰ってきました。ハワイ旅行を当てたというのに、会話はほとんどありません。
阿吽の呼吸で、手洗い・うがいをして、ふたりとも楽なジャージに着替え、そしてお白湯で一服をつき、、、
「晩ごはん作りますね。」「うん。ありがと。」
大晦日の夜、牧くんがひとり、料理をし始めました。まず牧くんは、少し大きな両手鍋に牛肉多目の肉じゃがを作り始めました。
その間、春田さんはゾイドをいじったり、テレビを見たり、そして牧くんの様子を伺っていました。
肉じゃがが半分出来上がったところで、牧くんは次にシメジとタマネギとジャガイモとタラの煮込みスープを作り始めました。
「やっぱ、コンロは二口あると、大勝利だよなあ。」と、牧くん独り言です。
ブロッコリーのレンチンサラダも作りました。時間を見計らっておいた白飯も、ちょうど炊けました。
そして、いい感じに炊きあがった肉じゃがも、タラの煮込みスープも、完成です。
「ね。まきぃ。。。肉じゃが、今夜食べられないの？」
「あれは三賀日用ですから。年が明けたら食べましょう。その頃には味が染みて、もっとおいしくなっているはずです。それから、母からおせちの一部の黒豆とか数の子とか差し入れてもらってるし、三賀日は大丈夫ですよ。」
「そっか！それは楽しみだよ。ありがとう、牧！」
嬉しそうに微笑む牧くんでした。そして大晦日の夕飯が始まります。それまでの不穏な空気はどこへやら。
ふたりは楽しく話しながら、食くじを楽しんでいました。
「ね、牧。ハワイって行ったことある？」「ないッス。おれ、パスポート取ったのって、今のシンガポールが初なんす。春田さんは？」
「おれ、高校生の時に行ったことあるけど、それっきりで社会人になって、上海行くのでパスポート取り直したから、プライベートでは久しぶりかな。」
「へー。そうなんだ。」
そして、魚のスープを口にする春田さん。
「タラかー。すごい久しぶりの魚メニュー、おいしいよ、牧。」
「あー。たまには魚もいいでしょっ？へへっ。褒められておれ、うれしいな。」
「牧が作るご飯は、みんな美味しいからさ、おれ、いっつも不思議なんだぁ。」
「おれ、春田さんのこと、ずっと考えてるもん。栄養も食材もメニューも、色々考えてますから、だから気に入ってもらったのって、すごく嬉しい。」
モグモグする春田さんのほっぺに飛んだスープのしずくを、ゆびさきでぬぐい取って自分で舐めちゃう牧くんでした。
その感触に、パッと赤面する春田さん。それを見て、赤面する牧くん。
ふたりとも赤面しながら、食事が進んでいきました。
そして食事が終わり、片付けが始まります。
「もう、やだー。春田さんは邪魔だから、座ってろよーっ。」
「牧はそう言うけどっ。おれも何かやりたいんだってばっ！！」
なんだかんだ言いながら、ふたりの共働作業は、思ったよりも早く終わりました。
そしてふたりは今、年末恒例の歌番組を見ながら、ソファで寄り添い合っていました。
春田さんのうしろ、背中から牧くんが抱きとめています。そうしてしばらく歌番組を楽しんでいた頃、牧くんが春田さんの耳元で話しかけました。
「ね。春田さん。」「なに？」
「おれ、○○○のグルメ、見たい。」「えっ！コーハク途中だけど。」
「見たいんだ。だめかな。」
少し迷った春田さんでしたが、普段自分を抑える牧くんが言うのですから、「そうだな。牧は普段こっちにいないから、ドラマも見たいよな。」と、チャンネルを変えました。
そしてふたり、ドラマを楽しみ、そして「ゆく年くる年」に戻ってきました。
次に続けます！！
３５３番のお話の続きです。
春牧のふたりも、商店街から家に帰ってきました。ハワイ旅行を当てたというのに、会話はほとんどありません。
阿吽の呼吸で、手洗い・うがいをして、ふたりとも楽なジャージに着替え、そしてお白湯で一服をつき、、、
「晩ごはん作りますね。」「うん。ありがと。」
大晦日の夜、牧くんがひとり、料理をし始めました。まず牧くんは、少し大きな両手鍋に牛肉多目の肉じゃがを作り始めました。
その間、春田さんはゾイドをいじったり、テレビを見たり、そして牧くんの様子を伺っていました。
肉じゃがが半分出来上がったところで、牧くんは次にシメジとタマネギとジャガイモとタラの煮込みスープを作り始めました。
「やっぱ、コンロは二口あると、大勝利だよなあ。」と、牧くん独り言です。
ブロッコリーのレンチンサラダも作りました。時間を見計らっておいた白飯も、ちょうど炊けました。
そして、いい感じに炊きあがった肉じゃがも、タラの煮込みスープも、完成です。
「ね。まきぃ。。。肉じゃが、今夜食べられないの？」
「あれは三賀日用ですから。年が明けたら食べましょう。その頃には味が染みて、もっとおいしくなっているはずです。それから、母からおせちの一部の黒豆とか数の子とか差し入れてもらってるし、三賀日は大丈夫ですよ。」
「そっか！それは楽しみだよ。ありがとう、牧！」
嬉しそうに微笑む牧くんでした。そして大晦日の夕飯が始まります。それまでの不穏な空気はどこへやら。
ふたりは楽しく話しながら、食くじを楽しんでいました。
「ね、牧。ハワイって行ったことある？」「ないッス。おれ、パスポート取ったのって、今のシンガポールが初なんす。春田さんは？」
「おれ、高校生の時に行ったことあるけど、それっきりで社会人になって、上海行くのでパスポート取り直したから、プライベートでは久しぶりかな。」
「へー。そうなんだ。」
そして、魚のスープを口にする春田さん。
「タラかー。すごい久しぶりの魚メニュー、おいしいよ、牧。」
「あー。たまには魚もいいでしょっ？へへっ。褒められておれ、うれしいな。」
「牧が作るご飯は、みんな美味しいからさ、おれ、いっつも不思議なんだぁ。」
「おれ、春田さんのこと、ずっと考えてるもん。栄養も食材もメニューも、色々考えてますから、だから気に入ってもらったのって、すごく嬉しい。」
モグモグする春田さんのほっぺに飛んだスープのしずくを、ゆびさきでぬぐい取って自分で舐めちゃう牧くんでした。
その感触に、パッと赤面する春田さん。それを見て、赤面する牧くん。
ふたりとも赤面しながら、食事が進んでいきました。
そして食事が終わり、片付けが始まります。
「もう、やだー。春田さんは邪魔だから、座ってろよーっ。」
「牧はそう言うけどっ。おれも何かやりたいんだってばっ！！」
なんだかんだ言いながら、ふたりの共働作業は、思ったよりも早く終わりました。
そしてふたりは今、年末恒例の歌番組を見ながら、ソファで寄り添い合っていました。
春田さんのうしろ、背中から牧くんが抱きとめています。そうしてしばらく歌番組を楽しんでいた頃、牧くんが春田さんの耳元で話しかけました。
「ね。春田さん。」「なに？」
「おれ、○○○のグルメ、見たい。」「えっ！コーハク途中だけど。」
「見たいんだ。だめかな。」
少し迷った春田さんでしたが、普段自分を抑える牧くんが言うのですから、「そうだな。牧は普段こっちにいないから、ドラマも見たいよな。」と、チャンネルを変えました。
そしてふたり、ドラマを楽しみ、そして「ゆく年くる年」に戻ってきました。
次に続けます！！
３５４番のお話の続きです。
「春田さん。」
「んー？」
「春田さんを後ろから抱っこしてる体勢がしんどくなってきた。代わってよ。」
「おっしゃ。代わろう。」
「へへっ。ごめんね。」
「おれこそ。重くてごめんな。」牧くんは笑顔で場所を変わりました。
テレビから全国放送の除夜の鐘の音が聞こえてきます。
次に牧くんは、春田さんに膝枕をお願いしました。牧くんを見下ろして、柔らかい牧くんの髪を優しくなぜる春田さん。ただふたりは優しく見つめ合います。
滲むように潤む牧くんのひとみ。
テレビからナレーションが流れてくる中、牧くんは下から春田さんを見つめていました。
「どうしたんだよ、まきぃ。」やさしく春田さんが問いかけます。
その瞬間、牧くんの瞳から、真珠のような涙がひとつぶ、こぼれ落ちました。「。。。牧っ！？」
真剣に静かな声を出す春田さん。
そんな春田さんを見上げていた牧くんは、するりと起き上がり、ソファの上、春田さんの前に向き直りました。心配そうな春田さん。冷静に尋ねます。
「牧。何がそんなに悲しいのっ。」
「ううん。違う。うれしいんだ、おれ。」
「えっ。」
分からなくて混乱する春田さん。笑顔を取り戻そうとする牧くん。牧くんが話し始めます。
「おれね、春田さんとカップルになって、心配だった。春田さんは元々女性が好きだから。でも、今は新婚旅行のことまで考えてくれてる。そして、おれの両親や春田さんのお母さんとアタルさんのことまで考えて、ハワイ旅行のことを考えてくれてる。ふたりで当てたハワイ旅行なのに。。。おれ、幸せだなあって。おれ、まさか、こんなふうに人生が変わっていくなんて、思ってなかった。」
うれしそうに、微笑む牧くん。
ふたり、少し言葉がありませんでした。
沈黙を破って、春田さんが話し始めました。
「おれさ。まきが大好きでどうしようもない。これから先、まき以外の誰かを、まき以上に愛せない。まきはどうかなあ。」
少し不安気に、牧くんに尋ねる春田さん。それを聞いて、少し微笑みながら、牧くんが言いました。
「春田さんには、おれのことずっと一生好きでいてほしい。おれも、春田さんが、創一が、ずっと好きだ。ずっと愛してる。」
春田さんはそこまで聞いて、牧くんの顔をそっと両手のひらで包み、やさしくキスをし始めました。
上唇を吸い、下唇をやさしく舐め、くちびるを開けさせて、やわらかく内側に侵入していきました。
春田さんはテレビのリモコンを使って、テレビを消しました。
息継ぎを、やっとした牧くんが言いました。
「春田さん。おれ、春田さんが、そういちが誰よりも大好き。わがままも言うけど、おれのこと嫌いにならないで。」
少し赤い目をして、一生懸命に話す牧くんを眺めながら、春田さんは不思議でなりませんでした。
「牧さ、なんでそんなこと言うの？おれ、牧より大好きで大事な人なんて、もうどこにもいないよ。凌太。大好きだよ。おれのこと、信じて。」
「創一。。。」
そしてふたりは、ふたりだけの世界に没入していくのでした。夜は深く、やさしく、ふたりを包み込んでいきました。
続けます！！！
「春田さん。」
「んー？」
「春田さんを後ろから抱っこしてる体勢がしんどくなってきた。代わってよ。」
「おっしゃ。代わろう。」
「へへっ。ごめんね。」
「おれこそ。重くてごめんな。」牧くんは笑顔で場所を変わりました。
テレビから全国放送の除夜の鐘の音が聞こえてきます。
次に牧くんは、春田さんに膝枕をお願いしました。牧くんを見下ろして、柔らかい牧くんの髪を優しくなぜる春田さん。ただふたりは優しく見つめ合います。
滲むように潤む牧くんのひとみ。
テレビからナレーションが流れてくる中、牧くんは下から春田さんを見つめていました。
「どうしたんだよ、まきぃ。」やさしく春田さんが問いかけます。
その瞬間、牧くんの瞳から、真珠のような涙がひとつぶ、こぼれ落ちました。「。。。牧っ！？」
真剣に静かな声を出す春田さん。
そんな春田さんを見上げていた牧くんは、するりと起き上がり、ソファの上、春田さんの前に向き直りました。心配そうな春田さん。冷静に尋ねます。
「牧。何がそんなに悲しいのっ。」
「ううん。違う。うれしいんだ、おれ。」
「えっ。」
分からなくて混乱する春田さん。笑顔を取り戻そうとする牧くん。牧くんが話し始めます。
「おれね、春田さんとカップルになって、心配だった。春田さんは元々女性が好きだから。でも、今は新婚旅行のことまで考えてくれてる。そして、おれの両親や春田さんのお母さんとアタルさんのことまで考えて、ハワイ旅行のことを考えてくれてる。ふたりで当てたハワイ旅行なのに。。。おれ、幸せだなあって。おれ、まさか、こんなふうに人生が変わっていくなんて、思ってなかった。」
うれしそうに、微笑む牧くん。
ふたり、少し言葉がありませんでした。
沈黙を破って、春田さんが話し始めました。
「おれさ。まきが大好きでどうしようもない。これから先、まき以外の誰かを、まき以上に愛せない。まきはどうかなあ。」
少し不安気に、牧くんに尋ねる春田さん。それを聞いて、少し微笑みながら、牧くんが言いました。
「春田さんには、おれのことずっと一生好きでいてほしい。おれも、春田さんが、創一が、ずっと好きだ。ずっと愛してる。」
春田さんはそこまで聞いて、牧くんの顔をそっと両手のひらで包み、やさしくキスをし始めました。
上唇を吸い、下唇をやさしく舐め、くちびるを開けさせて、やわらかく内側に侵入していきました。
春田さんはテレビのリモコンを使って、テレビを消しました。
息継ぎを、やっとした牧くんが言いました。
「春田さん。おれ、春田さんが、そういちが誰よりも大好き。わがままも言うけど、おれのこと嫌いにならないで。」
少し赤い目をして、一生懸命に話す牧くんを眺めながら、春田さんは不思議でなりませんでした。
「牧さ、なんでそんなこと言うの？おれ、牧より大好きで大事な人なんて、もうどこにもいないよ。凌太。大好きだよ。おれのこと、信じて。」
「創一。。。」
そしてふたりは、ふたりだけの世界に没入していくのでした。夜は深く、やさしく、ふたりを包み込んでいきました。
続けます！！！
２０２１年の初め、春牧の話からずいぶん経ってしまいました。
その間、書き進めてはいるのですが、まだここに載せるまでには至っていません。
そこで。その本編とは違うお話。私の中での本編から、しばらく経ったふたりを、思いついたので、ちょっと書いていこうかと思います。
ある年が明けた冬晴れの日。春牧のふたりは休みの日が合ったこともあり、昨日から楽しみに待っているのでした。早目に眠って、今日は早起き。そしてお出かけ。。。の、はずが。
「ねー。はるたさーん。まだなのー？ずいぶん待ってるんだけどー？」
牧くんが声をかけるも、春田さんからは返答がありません。
「なにー？どしたー？ねーえ？」イライラし始める牧くん。
「まったく。春田さんはいつもこうだよ。おれはいつも早めに用意が出来あがるのに！！！」
そこに春田さんが登場します。「あっ！！」牧くんは短く言って、でもイラついた表情がパッと変化しました。花がほころぶように、少し照れたように微笑むのでした。
「はるたさん、それ。。。」
春田さん、渋い焦げ茶色の素敵なコートを着て、玄関先に登場です。控え目に、くるん！と一回転して、牧くんの前に登場したのです。
「どお？まき。」見惚れる牧くん。すぐに返事が出来ません。
「まき？」心配そうな春田さん。ふふっと、微笑んだ牧くんは答えます。
「やっぱりその色にしてよかった。深い紺色と、その深い焦げ茶色と迷ったけど、やっぱそっちで正解だ！！やっと着てくれたんだ、うれしいです！」
実は、春田さんのこの深い焦げ茶色のコートは、昨年のクリスマスプレゼントに、牧くんが春田さんに贈ったものでした。でも春田さんは、あまりのハイブランドでの品物だっただけに、なかなかすぐには袖を通せず、しばらく着ていなかったのです。
「まき。あんなに高額でなくてもおれはよかったのに。」
「何言ってんですか。もう主任なんですよ？それくらいのコートも着なきゃ。嫌だった？」
春田さん、心配そうな牧くんの顔を見て、くすりと微笑みます。
「違うよ。こんな着やすくて暖かいコート、うれしかった。」「だったら、いーじゃん。」
その、屈託のない牧くんの笑顔に春田さんは、心が救われる思いでした。
そして、それに対して牧くんはずいぶん前から着ている水色のファーコートを着込んでいました。
春田さんは前から、色が褪せてきたこともあるし、買い替えたら？と薦めていたのですが、牧くんは買い替えず今に至っています。
春田さんも見慣れてきていることもあったようで、気にかかっていました。
「毎年このコートだな。」「ファーコートは、寿命が長いんですよ。そういちは、嫌？」
少し心配そうな牧くん。
「違う。このコートの空色を見ると、おれの凌太、おれの牧だって、うれしくなるんだ。」
「えっ。この色なら、普通は水色じゃないの？」
「違うよ。おれにとっては、今日みたいな冬晴れの青空色。ふふふっ。」
「春田さん？」
「牧はね、いつだっておれの青空。きれいな空色。水色は、ちょっと寒そうだし。」
「は、はるたさん。。。」
「おれの青空、りょうた。」
春田さんは、向き合った牧くんの両方のほほを、自分の両手のひらでそっと包んで、静かな声で言いました。
「牧はおれの青空なんだよ。いつまでも。大好き、まき。」
そう言って春田さんは、牧くんをコートの上から、肩の上から抱きしめました。
「おれだって大好きだよ。」牧くんはすぐに答えました。
「じゃあさ、キスしてよ。」と、ねだる春田さん。
「いいですけど。」
「素直じゃないなあ。」「でも、春田さんだけが好きなのは、変わらないよ？」
心配そうな牧くんの表情を見た春田さん。
牧くんの瞳を見つめ、柔らかく微笑みながら言います。
「おれの青空。おれの大事で大切で、可愛い牧。」
すぐさま牧くんも答えます。
「おれが青空なら、春田さんは太陽だ。」
「大好きな、まき。」「おれも。大好きなはるたさん。」
ふたりきりになってからも、まだまだずっとラブラブなふたりなのでした。
その間、書き進めてはいるのですが、まだここに載せるまでには至っていません。
そこで。その本編とは違うお話。私の中での本編から、しばらく経ったふたりを、思いついたので、ちょっと書いていこうかと思います。
ある年が明けた冬晴れの日。春牧のふたりは休みの日が合ったこともあり、昨日から楽しみに待っているのでした。早目に眠って、今日は早起き。そしてお出かけ。。。の、はずが。
「ねー。はるたさーん。まだなのー？ずいぶん待ってるんだけどー？」
牧くんが声をかけるも、春田さんからは返答がありません。
「なにー？どしたー？ねーえ？」イライラし始める牧くん。
「まったく。春田さんはいつもこうだよ。おれはいつも早めに用意が出来あがるのに！！！」
そこに春田さんが登場します。「あっ！！」牧くんは短く言って、でもイラついた表情がパッと変化しました。花がほころぶように、少し照れたように微笑むのでした。
「はるたさん、それ。。。」
春田さん、渋い焦げ茶色の素敵なコートを着て、玄関先に登場です。控え目に、くるん！と一回転して、牧くんの前に登場したのです。
「どお？まき。」見惚れる牧くん。すぐに返事が出来ません。
「まき？」心配そうな春田さん。ふふっと、微笑んだ牧くんは答えます。
「やっぱりその色にしてよかった。深い紺色と、その深い焦げ茶色と迷ったけど、やっぱそっちで正解だ！！やっと着てくれたんだ、うれしいです！」
実は、春田さんのこの深い焦げ茶色のコートは、昨年のクリスマスプレゼントに、牧くんが春田さんに贈ったものでした。でも春田さんは、あまりのハイブランドでの品物だっただけに、なかなかすぐには袖を通せず、しばらく着ていなかったのです。
「まき。あんなに高額でなくてもおれはよかったのに。」
「何言ってんですか。もう主任なんですよ？それくらいのコートも着なきゃ。嫌だった？」
春田さん、心配そうな牧くんの顔を見て、くすりと微笑みます。
「違うよ。こんな着やすくて暖かいコート、うれしかった。」「だったら、いーじゃん。」
その、屈託のない牧くんの笑顔に春田さんは、心が救われる思いでした。
そして、それに対して牧くんはずいぶん前から着ている水色のファーコートを着込んでいました。
春田さんは前から、色が褪せてきたこともあるし、買い替えたら？と薦めていたのですが、牧くんは買い替えず今に至っています。
春田さんも見慣れてきていることもあったようで、気にかかっていました。
「毎年このコートだな。」「ファーコートは、寿命が長いんですよ。そういちは、嫌？」
少し心配そうな牧くん。
「違う。このコートの空色を見ると、おれの凌太、おれの牧だって、うれしくなるんだ。」
「えっ。この色なら、普通は水色じゃないの？」
「違うよ。おれにとっては、今日みたいな冬晴れの青空色。ふふふっ。」
「春田さん？」
「牧はね、いつだっておれの青空。きれいな空色。水色は、ちょっと寒そうだし。」
「は、はるたさん。。。」
「おれの青空、りょうた。」
春田さんは、向き合った牧くんの両方のほほを、自分の両手のひらでそっと包んで、静かな声で言いました。
「牧はおれの青空なんだよ。いつまでも。大好き、まき。」
そう言って春田さんは、牧くんをコートの上から、肩の上から抱きしめました。
「おれだって大好きだよ。」牧くんはすぐに答えました。
「じゃあさ、キスしてよ。」と、ねだる春田さん。
「いいですけど。」
「素直じゃないなあ。」「でも、春田さんだけが好きなのは、変わらないよ？」
心配そうな牧くんの表情を見た春田さん。
牧くんの瞳を見つめ、柔らかく微笑みながら言います。
「おれの青空。おれの大事で大切で、可愛い牧。」
すぐさま牧くんも答えます。
「おれが青空なら、春田さんは太陽だ。」
「大好きな、まき。」「おれも。大好きなはるたさん。」
ふたりきりになってからも、まだまだずっとラブラブなふたりなのでした。
二年ぶりの新作です。
Twitterで簡単に粗筋をツイしたら、ちゃんとお話にしたらと背中を押してくれたフォロワーさんがいて、書いてみた短編。
続き物の完結を二年間、放置してるけど、これは二時間で書けたから、ちょっと自信を取り戻しました。
タイトル ー 特別な人 ー
2月14日。
牧凌太にとっては、毎年煩わしい思いをする日だ。
本社に異動してからは、それが増した。
同じフロアの女子社員ばかりか、同じビルで働く総ての階の女性達がチョコレートを持って押し寄せた。
さすがに直接業務で関わっていない女性達のものは、丁重に受け取りを断ったが、それでも帰宅した牧が持つ紙袋には、様々なチョコレートで溢れている。
「お帰り。すげぇな！さすが牧だ」
先に帰宅して、出迎えた春田創一が紙袋を見て感心する。
「さすがじゃないですよ〜。これ、全部お返ししなきゃいけないんだから。仕事でもないのに、リスト作ってお返し考えて…」
溜息をつく牧に、春田も苦笑する。
「モテる男の辛さだな。腹減ったろ？一緒に食おうぜ」
「夕食、用意してくれたんですか？」
「お前ほど色々出来ないけどな」
ダイニングに入ると、牧の持つ物の半分程の紙袋に、やはりチョコレートが10数個入って、テーブルに置いてあった。
「春田さんも結構、もらってるじゃないですか」
「いや〜、俺のは管理人のオバちゃん達とか、顧客の子供達からのだから。義理チョコで安いやつ」
そう言ってテーブルから空いた椅子に紙袋を移動させたが、牧はそこに入り切れなかったらしい、大き目の箱に気がついた。
アクセサリーや時計で知られるブランドの名前が見える。
「それは？」
「ん、これはちょっと特別。会社に送られて来てさ」
特別…
その言葉も引っ掛かったが、牧がもっと気になったのは、手紙が添えられていた事だ。
どこの誰から？と問い詰めるのも女々しい気がして、見ない振りをして、二人で夕食を済ませ、春田が先に風呂に向かい、牧が食器を片付ける。
その間も牧は手紙が気になって仕方ない。
春田が風呂に入ってるスキに、そっと封筒を取って裏返す。
贈り主は当然女性で、牧の知らない人だ。
誰だろう？春田さんとどんな関係だろう？
チョコレートのセンスの良さから、中高年でも子供でもない筈。
まだ手紙は封が切られていない。
このまま破り捨ててしまいたい、と牧は思った。
贈り物にすら嫉妬する自分が恥ずかしい。
春田が風呂から上がった春田が、こちらに戻ってくる気配がして、慌てて牧は手紙を元の位置に戻した。
「牧、風呂空いたよ」
「あ、はい。片付け終わったら入りますね」
そう言いながら、牧は振り向いて春田を伺った。
春田は手紙を手に取ると、ソファーで開いて見ている。
続く！
Twitterで簡単に粗筋をツイしたら、ちゃんとお話にしたらと背中を押してくれたフォロワーさんがいて、書いてみた短編。
続き物の完結を二年間、放置してるけど、これは二時間で書けたから、ちょっと自信を取り戻しました。
タイトル ー 特別な人 ー
2月14日。
牧凌太にとっては、毎年煩わしい思いをする日だ。
本社に異動してからは、それが増した。
同じフロアの女子社員ばかりか、同じビルで働く総ての階の女性達がチョコレートを持って押し寄せた。
さすがに直接業務で関わっていない女性達のものは、丁重に受け取りを断ったが、それでも帰宅した牧が持つ紙袋には、様々なチョコレートで溢れている。
「お帰り。すげぇな！さすが牧だ」
先に帰宅して、出迎えた春田創一が紙袋を見て感心する。
「さすがじゃないですよ〜。これ、全部お返ししなきゃいけないんだから。仕事でもないのに、リスト作ってお返し考えて…」
溜息をつく牧に、春田も苦笑する。
「モテる男の辛さだな。腹減ったろ？一緒に食おうぜ」
「夕食、用意してくれたんですか？」
「お前ほど色々出来ないけどな」
ダイニングに入ると、牧の持つ物の半分程の紙袋に、やはりチョコレートが10数個入って、テーブルに置いてあった。
「春田さんも結構、もらってるじゃないですか」
「いや〜、俺のは管理人のオバちゃん達とか、顧客の子供達からのだから。義理チョコで安いやつ」
そう言ってテーブルから空いた椅子に紙袋を移動させたが、牧はそこに入り切れなかったらしい、大き目の箱に気がついた。
アクセサリーや時計で知られるブランドの名前が見える。
「それは？」
「ん、これはちょっと特別。会社に送られて来てさ」
特別…
その言葉も引っ掛かったが、牧がもっと気になったのは、手紙が添えられていた事だ。
どこの誰から？と問い詰めるのも女々しい気がして、見ない振りをして、二人で夕食を済ませ、春田が先に風呂に向かい、牧が食器を片付ける。
その間も牧は手紙が気になって仕方ない。
春田が風呂に入ってるスキに、そっと封筒を取って裏返す。
贈り主は当然女性で、牧の知らない人だ。
誰だろう？春田さんとどんな関係だろう？
チョコレートのセンスの良さから、中高年でも子供でもない筈。
まだ手紙は封が切られていない。
このまま破り捨ててしまいたい、と牧は思った。
贈り物にすら嫉妬する自分が恥ずかしい。
春田が風呂から上がった春田が、こちらに戻ってくる気配がして、慌てて牧は手紙を元の位置に戻した。
「牧、風呂空いたよ」
「あ、はい。片付け終わったら入りますね」
そう言いながら、牧は振り向いて春田を伺った。
春田は手紙を手に取ると、ソファーで開いて見ている。
続く！
>> [357] の続き！
牧は見た。
手紙を読む春田の表情が、ふわりと優しく微笑んだのを。
いたたまれなくて、牧は風呂に向かった。
春田さんに、手紙だけで、あんな顔をさせる女性。
そんな人が、あの人には必要なのでは？
自分が独り占めするのは、やはり間違いなのだ。
今度こそ、幸せに向かう道に戻して上げなくては…
…おれはもう充分、幸せにしてもらった
泣き顔になるまいと、何度も風呂の湯を顔にかけ、気を引き締めて浴室を出て春田のいる居間に戻った。
「牧、ちょっとおいで」
呼ばれて、春田の向かいに座る。
別れ話も覚悟した。
「このチョコレートと手紙さ、くれたのは、俺が入社したばかりの頃、担当した物件の、管理人の娘さんでさ、まだ10歳くらいだったんだよ。それが今や…」
ほら、と見せてくれた写真には、美しい、優しそうな女性。
春田さんとお似合いだ、と、牧は声に出さず思った。
「綺麗な人ですね」
「だろ？こんな美人に育つとはなぁ。大人になったら結婚してとか言ってたな」
「よかったですね」
言いながら、牧は涙声になりそうなのを堪えた。
春田さんと結ばれる為に、彼女は美しくなったのだ、と思った。
だが、次に春田が言ったのは、予想外の言葉。
「この子、結婚が決まってさ、式にはぜひ来て欲しいって」
「…え？」
「俺に今、パートナーがいるなら一緒に招待したいってさ。牧、一緒に行ってくれるか？ぜひ紹介したいんだ」
「え？え！春田さんが結婚するんじゃなくて…？」
「はぁ？お前、話聞いてた？何で俺がこの子と結婚するんだよ！お前がいるのに」
「だって…、だって、特別だって…」
少し考えて、牧の誤解に気が付いた春田は頭を下げた。
「ごめん！俺の言い方が紛らわしかったな。でもいきなり結婚とか、飛躍し過ぎだよ」
牧の目から安堵の涙がポロポロ落ちる。
地の底から飛び出て来たように、気持ちが追い付かない。
「よかった…、よかったぁ…」
慌てたのは春田だ。
「いや、本当にごめん！お前がそういう事に敏感な事、忘れてた！」
「いえ、おれがバカな事、考え過ぎました。ごめんなさい」
「俺にとって、特別な人間はお前だけだ。この子は娘みたいなもんでさ、祝福してやりたいんだよ。一緒に祝ってくれるよな？」
「はい！もちろんです」
春田がふわりと、優しい笑顔で牧を見る。
ああ、この笑顔は最初から自分にも向けられていたのだ。
ヤキモチ焼いてごめんね、と、牧は写真の女性に心から詫びた。
その後、二人で口にした、かつての少女だった彼女からのチョコレートは、甘くて少しほろ苦い、初恋の味がした。
牧は見た。
手紙を読む春田の表情が、ふわりと優しく微笑んだのを。
いたたまれなくて、牧は風呂に向かった。
春田さんに、手紙だけで、あんな顔をさせる女性。
そんな人が、あの人には必要なのでは？
自分が独り占めするのは、やはり間違いなのだ。
今度こそ、幸せに向かう道に戻して上げなくては…
…おれはもう充分、幸せにしてもらった
泣き顔になるまいと、何度も風呂の湯を顔にかけ、気を引き締めて浴室を出て春田のいる居間に戻った。
「牧、ちょっとおいで」
呼ばれて、春田の向かいに座る。
別れ話も覚悟した。
「このチョコレートと手紙さ、くれたのは、俺が入社したばかりの頃、担当した物件の、管理人の娘さんでさ、まだ10歳くらいだったんだよ。それが今や…」
ほら、と見せてくれた写真には、美しい、優しそうな女性。
春田さんとお似合いだ、と、牧は声に出さず思った。
「綺麗な人ですね」
「だろ？こんな美人に育つとはなぁ。大人になったら結婚してとか言ってたな」
「よかったですね」
言いながら、牧は涙声になりそうなのを堪えた。
春田さんと結ばれる為に、彼女は美しくなったのだ、と思った。
だが、次に春田が言ったのは、予想外の言葉。
「この子、結婚が決まってさ、式にはぜひ来て欲しいって」
「…え？」
「俺に今、パートナーがいるなら一緒に招待したいってさ。牧、一緒に行ってくれるか？ぜひ紹介したいんだ」
「え？え！春田さんが結婚するんじゃなくて…？」
「はぁ？お前、話聞いてた？何で俺がこの子と結婚するんだよ！お前がいるのに」
「だって…、だって、特別だって…」
少し考えて、牧の誤解に気が付いた春田は頭を下げた。
「ごめん！俺の言い方が紛らわしかったな。でもいきなり結婚とか、飛躍し過ぎだよ」
牧の目から安堵の涙がポロポロ落ちる。
地の底から飛び出て来たように、気持ちが追い付かない。
「よかった…、よかったぁ…」
慌てたのは春田だ。
「いや、本当にごめん！お前がそういう事に敏感な事、忘れてた！」
「いえ、おれがバカな事、考え過ぎました。ごめんなさい」
「俺にとって、特別な人間はお前だけだ。この子は娘みたいなもんでさ、祝福してやりたいんだよ。一緒に祝ってくれるよな？」
「はい！もちろんです」
春田がふわりと、優しい笑顔で牧を見る。
ああ、この笑顔は最初から自分にも向けられていたのだ。
ヤキモチ焼いてごめんね、と、牧は写真の女性に心から詫びた。
その後、二人で口にした、かつての少女だった彼女からのチョコレートは、甘くて少しほろ苦い、初恋の味がした。
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