カッコいい一般男性！吉田春太郎コミュの営業マンとして

再び心ならずも社会人に戻った彼は、新任研修を受けた後、すぐに営業二課に配属となり飛び込みセールスの仕事を始めた｡会社では当時の時価で２８万円のクラシック音楽の１３６枚組の全集を売るように社員に命じていた。彼の役割は音楽大学の卒業生名簿をみて、一件一件にテレアポを取り、訪問した相手に品物を売ることである。いくら音楽が好きな彼も売るとなると、経験もなく売るのは難しい。しかもＣＢＳソニーレーベルの演奏家オンリーの全集は、クラシック音楽が好きな人は気に入った演奏家のレコードを一枚ずつ買うのが通例であり敬遠する。また１７歳の彼はうぶで若い音大生上がりの女性と接するのは甚だ不得手である。したがって社長は彼は無理だと考え、解雇する予定でいた。だが妙なところに意地を張る彼は社長にテレアポではなく実際出向いて販売する方にまわして欲しいと話し、社長もそのほうが彼には向いていると検討し、解雇は撤回し彼の希望を飲んだ。すでに入社一ヶ月半を経過していた。テリトリーが変わり、水を得た魚のように精力的に仕事に励み始め、ようやく二ヶ月が経過しようとした時期に、区役所の昼休みにくつろいでいた職員に高い品物ではないが、吉田拓郎やバンバンの歌が収録されたフォークソングの十枚組の全集を売った。営業マンになって初めて売れた商品であった。会社ではとても喜ばしい売れた商品ではなかったが、上司や主任から激励され自信をつけた。彼はこの経験から官公庁のゴールデンタイムや放課後の学校の職員室の教師をターゲットに定め営業戦略を立て、「私は高校中退ですが、どうしても大検を取り大学へ進みたいのです」と真っ赤なウソのセールストークを活用した。特に学校の教師たちはそれに共鳴して２８万円のクラシック全集を買ってくれるようになり、営業成績もたちまち伸びて、毎月ノルマを超え社内でもトップセールスの要となり、毎回金一封をもらうようになった。そして入社後八ヶ月で未成年でありながら主任に昇進し、月の収入も２５万円稼ぐまでになり、彼はここでこの仕事を生涯の天職にしようと考えるようになる。社員の顔ぶれは社長と事務員の女性を除き、一年後には彼が一番の古株となった。