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賢治さんを遊ぶコミュの賢治詩023『 小岩井農場 22パート1 』sx29

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★ 賢治詩023『 小岩井農場 22パート1 』sx29

――★♪♪★―――――――――――――★♪♪★――




      パート一


   わたくしはずゐぶんすばやく汽車からおりた

   そのために雲がぎらつとひかつたくらゐだ

   けれどももつとはやいひとはある

   化学の並川さんによく肖(に)たひとだ

   あのオリーブのせびろなどは

   そつくりをとなしい農学士だ

   さつき盛岡のていしやばでも

   たしかにわたくしはさうおもつてゐた

   このひとが砂糖水のなかの

   つめたくあかるい待合室から

   ひとあしでるとき……わたくしもでる

   馬車がいちだいたつてゐる

   馭者(ぎよしや)がひとことなにかいふ

   黒塗りのすてきな馬車だ

   光沢(つや)消(け)しだ

   馬も上等のハツクニー

   このひとはかすかにうなづき

   それからじぶんといふ小さな荷物を

   載つけるといふ気軽(きがる)なふうで

   馬車にのぼつてこしかける

    (わづかの光の交錯(かうさく)だ)

   その陽(ひ)のあたつたせなかが

   すこし屈んでしんとしてゐる

   わたくしはあるいて馬と並ぶ

   これはあるひは客馬車だ

   どうも農場のらしくない

   わたくしにも乗れといへばいい

   馭者がよこから呼べばいい

   乗らなくたつていゝのだが

   これから五里もあるくのだし

   くらかけ山の下あたりで

   ゆつくり時間もほしいのだ

   あすこなら空気もひどく明瞭で

   樹でも艸でもみんな幻燈だ

   もちろんおきなぐさも咲いてゐるし

   野はらは黒ぶだう酒(しゆ)のコツプもならべて

   わたくしを款待するだらう

   そこでゆつくりとどまるために

   本部まででも乗つた方がいい

   今日ならわたくしだつて

   馬車に乗れないわけではない

    (あいまいな思惟の蛍光(けいくわう)

     きつといつでもかうなのだ)

   もう馬車がうごいてゐる

    (これがじつにいゝことだ

     どうしやうか考へてゐるひまに

     それが過ぎて滅(な)くなるといふこと)

   ひらつとわたくしを通り越す

   みちはまつ黒の腐植土で

   雨(あま)あがりだし弾力もある

   馬はピンと耳を立て

   その端(はじ)は向ふの青い光に尖り

   いかにもきさくに馳けて行く

   うしろからはもうたれも来ないのか

   つつましく肩をすぼめた停車場(ば)と

   新開地風の飲食店(いんしよくてん)

   ガラス障子はありふれてでこぼこ

   わらじや sun-maid のから凾や

   夏みかんのあかるいにほひ

   汽車からおりたひとたちは

   さつきたくさんあつたのだが

   みんな丘かげの茶褐部落や

   繋(つなぎ)あたりへ往くらしい

   西にまがつて見えなくなつた

   いまわたくしは歩測のときのやう

   しんかい地ふうのたてものは

   みんなうしろに片附(づ)けた

   そしてこここそ畑になつてゐる

   黒馬が二ひき汗でぬれ

   犁(プラウ)をひいて往つたりきたりする

   ひわいろのやはらかな山のこつちがはだ

   山ではふしぎに風がふいてゐる

   嫩葉(わかば)がさまざまにひるがへる

   ずうつと遠くのくらいところでは

   鶯もごろごろ啼いてゐる

   その透明な群青のうぐひすが

    (ほんたうの鶯の方はドイツ読本の

     ハンスがうぐひすでないよと云つた)

   馬車はずんずん遠くなる

   大きくゆれるしはねあがる

   紳士もかろくはねあがる

   このひとはもうよほど世間をわたり

   いまは青ぐろいふちのやうなとこへ

   すましてこしかけてゐるひとなのだ

   そしてずんずん遠くなる

   はたけの馬は二ひき

   ひとはふたりで赤い

   雲に濾(こ)された日光のために

   いよいよあかく灼(や)けてゐる

   冬にきたときとはまるでべつだ

   みんなすつかり変つてゐる

   変つたとはいへそれは雪が往き

   雲が展(ひら)けてつちが呼吸し

   幹や芽のなかに燐光や樹液(じゆえき)がながれ

   あをじろい春になつただけだ

   それよりもこんなせわしい心象の明滅をつらね

   すみやかなすみやかな万法流転(ばんぽうるてん)のなかに

   小岩井のきれいな野はらや牧場の標本が

   いかにも確かに継起(けいき)するといふことが

   どんなに新鮮な奇蹟だらう

   ほんたうにこのみちをこの前行くときは

   空気がひどく稠密で

   つめたくそしてあかる過ぎた

   今日は七つ森はいちめんの枯草(かれくさ)

   松木がおかしな緑褐に

   丘のうしろとふもとに生えて

   大へん陰欝にふるびて見える

   



 1922・05・21




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