ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

半蔵門かきもの倶楽部コミュの第135 回文芸部 みけねこ作『葦ヶ沼の龍』

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
第一章 暴れ沼
江戸時代中期、下総国の北西に三守村という小さな村があった。
村の東には広い沼があり、その周囲には田畑と葦原が続いていた。
沼の名は葦ヶ沼。しかし村人たちは、昔から「暴れ沼」と呼んでいた。
大雨が降れば水があふれ、田畑をのみ込む。日照りが続けば水が引き、魚も捕れなくなる。
村人たちは、沼の恵みを受けながら、同時にその恐ろしさと向き合って暮らしていた。
その年は、春から雨が少なかった。
田植えを終えた稲は弱り、用水路には泥が残るばかりだった。
村人たちは朝から晩まで水を運んだ。井戸も川も水が乏しくなり、飲み水の確保さえ難しくなっていた。
村の名主は年貢のことを案じていた。稲が実らなければ、村人たちは冬を越せない。
寺では雨乞いの祈祷が続いた。
村人たちは沼に向かって手を合わせた。
葦ヶ沼には、古くから龍が棲むという伝説があった。
龍は水をつかさどる神の使いで、大龍王の命令に従って雨を降らせていた。
しかし、龍には厳しい掟があった。
天の許しなく雨を降らせてはならない。
どれほど人間が苦しんでも、勝手に手を貸してはならない。
龍は長い年月、その掟を守っていた。
だが、やせ細った子どもたちや、枯れた田を前に立ち尽くす村人たちを見て、ついに決心した。
ある夜、葦ヶ沼の水面が大きく揺れた。
黒い雲が空を覆い、稲妻が走った。
そして、待ち望んでいた雨が降り始めた。
村人たちは家を飛び出し、空を見上げた。
雨は一晩中降り続いた。
田んぼに水が戻り、弱っていた稲は再び青さを取り戻した。
村人たちは喜び、龍に感謝した。
しかし、天の掟を破った龍には、厳しい罰が下された。
激しい雷鳴とともに、龍の体は三つに引き裂かれた。
頭は沼の東へ。
胴は西へ。
尾は北の丘へ。
翌朝、村人たちは三か所に不思議な光が立ち上るのを見たという。
人々は龍への感謝と供養のため、それぞれの場所に祠を建てた。
やがて祠は寺となり、雲泉寺、水月寺、天祥寺と呼ばれるようになった。
龍は葦ヶ沼の底深くで、静かに眠りについた。
村人たちは、その眠りを妨げぬよう、三つの寺を大切に守り続けた。

第二章 三守町
それから二百年以上が過ぎた。
三守村は三守町となり、田園地帯には住宅や商業施設が増えていた。
かつて暴れ沼と呼ばれた葦ヶ沼も、治水工事によって大きな氾濫は少なくなっていた。
町では近年、スマートタウン構想が進められていた。
農業の自動化、交通システムの改善、再生可能エネルギーの導入。
新しい技術で人口減少や高齢化に対応しようという計画だった。
水野沙織は、三守町の郷土資料館で働く学芸員だった。
東京の大学で考古学を学び、文化財調査の仕事を経て、故郷の三守町へ戻ってきた。
沙織が関心を持っていたのは、葦ヶ沼に残る龍の伝説だった。
三つの寺には、それぞれ龍の頭、胴、尾が祀られているという。
しかし、伝説がいつ生まれたのか、はっきりした記録は残っていなかった。
ある日、沙織は古い絵図を整理していた。
そこには、江戸時代の葦ヶ沼と三つの寺が描かれていた。
沼の周囲には、現在は失われた水路や小道も描かれている。
沙織はその地図を丁寧に撮影し、現在の地形図と比較することにした。
そのころ、三守町では三か所目となる大規模太陽光発電施設の建設が進んでいた。
町は、再生可能エネルギーの普及を地域振興の柱としていた。
ただ、計画を歓迎する住民ばかりではなかった。
農地を貸したものの、契約内容を十分に理解していなかったという農家もいた。
木々の伐採や土地の造成によって、雨水の流れが変わることを心配する声もあった。
それでも工事は進み、丘の斜面には何列もの黒いパネルが並び始めていた。

コメント(5)

大作の予感。ミステリーとオカルトと現代の環境問題についてのシリアスなドラマが融合していて、おもしろいです。続きが気になります。

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

半蔵門かきもの倶楽部 更新情報

半蔵門かきもの倶楽部のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。