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文藝 虎の穴コミュの曖昧冥利 (サンプル)

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 俺の体は黒かった。小さかった。泥まみれだった──生まれつきだった。

 どれだけ体を鍛えたところで、鋼の体を持つ彼と同じになれるわけじゃない。それは俺がカブトムシじゃないからだった。

 俺は頭も悪かった。足りなかった。まわらなかった──死ぬまでどうしようもないことだった。

 どんなに空を夢見たところで、疾風(はやて)の翅(はね)を操る彼女と同じに飛べるわけじゃない。それは俺が蟻だからだった。

 そいつを嫌だとか、彼らと同じ体に生まれてきたかっただとか、そういうことに気がいったことはない。俺はいつだってこのままがよかった。

 右の蟻がいった。僕たちの命は軽い、と。左の蟻もいった。私たちは奴隷だ、と。そういう言葉を聞くたびに、俺は俺がどんどんわからなくなった。

 蟻は蟻だ。蟻以外のなに者でもない──誰かがいった。軽い命でも、奴隷のような暮らしでも、君たちはまず、蟻に生まれてきたことを誇りに思わなくちゃいけない。

 誰がそんなことを思うんだ?──右と左の蟻がいった。後ろの蟻もいった。俺もいっていた。軽い命のせいで僕たちはどんな目に遭わなくちゃいけないんだ? 私たち奴隷のおかげで得をしているのはどこの誰? 俺たちがもっとも忌むべきことは蟻に生まれてきたことなんじゃないのか?

 俺たちには顔がない。名前がない。喜びも悲しみもない。それはつまり──闇だ。一筋の光も届かない、黒々とした世界が俺たちのすべて。

 闇? 光? 世界? なにをいってるんだ。君も僕も蟻だろう──みんながみんな、口にした。

 闇に暮らしているのに闇の正体を知らない愚か者。光の世界を辨えている者など、ここには誰もいやしない。

コメント(4)

冒頭と最終行がとてもキマってます。
読みやすく解りやすいと思いました。

でも、なぜ蟻なんでしょうか?

黒くて小さい生き物は
蟻<蚤<ダニ・・・

短い命の生物
蟻<蝉

蟻の苦悩や悲惨さがもう少し欲しいです。

>俺たちには顔がない。名前がない。喜びも悲しみもない。それはつまり──闇だ。一筋の光も届かない、黒々とした世界が俺たちのすべて
この表現もとても素晴らしいのですが、ゴキブリを連想してしまいました(泣)ごめんなさい!

それと、これは蟻目線の一人称なので他からの目線の二人称作品にしたら面白いかも〜て思いました。

生意気な感想ですみません。

>>[2]

 拙作への評に深い感謝の意を申し上げます。m(_鶏_)m

--------------

>でも、なぜ蟻なんでしょうか?
>
>黒くて小さい生き物は
>蟻<蚤<ダニ・・・
>
>短い命の生物
>蟻<蝉
>
>蟻の苦悩や悲惨さがもう少し欲しいです。

 気づきをありがとうございます。そうですね。力なき無個性な集団というと、とかく蟻にその役目がまわってくる、というか当てはめてしまうというか、はい。ステレオタイプですね。『意外性』という、文章創作の武器を蔑ろにしている自分がいたであります。


>この表現もとても素晴らしいのですが、ゴキブリを連想してしまいました。

 本当ですね。修辞の『黒々』が連想を強めちゃってる、というよりトドメな感じですね。他の語句に言い換えをしたほうがいいかもしれないと思いました。

>それと、これは蟻目線の一人称なので他からの目線の二人称作品にしたら面白いかも〜て思いました。

 二人称、ですか。つまり対称=YOU、ということですよね。三人称ならまだアレですが『あなた』『君』でそれをやるとなると、ミステリーなどをあまり読まない(そっち系の素養がまるでない)鶏には非情に難しい気が……いや、限りなく無理に近い人称です。でも機会があれば挑んでみたくはあります。

--------------

 お忙しいなか駄作を吟味頂き、ありがとうございました。m(_鶏_)m

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