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自己満足な短編部屋コミュの空・・・好きか? 3月15日 その7

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「どうされたんですか?」
 彩香の今にも泣きだしそうな顔が、光国のこころをかき乱した。
「この間はごめんなさい・・・もしよろしければ、少し時間頂けないですか?」
「あ、それならこの間のお店でも・・・」
「いえ、喫茶店とかでも構いませんので、静かに話しが出来る場所がいいんですけど」
 何かを決心したような、そんな強い意志が彩香の言葉には込められていたので、光国は近くのファミレスへ行くことにした。
 ファミレスなら時間制限も無く、深夜も営業をしているから、万が一話が長引いたとしても、閉店を言い渡されることは無い。
 ファミレスは歩いて5分も掛らない場所にあったのだが、着くまで2人は無言のまま歩いていた。
 店に着き、食事とドリンクバーを頼む間も、彩香は顔を曇らせたままだった。
 食事が運ばれたが、終始無言のまま食事を終えたが、その間光国から語りかけることは一切しなかった。
 それは、彩香の表情が決意の表れを浮かべていた以上、自分から語りかけることは、その決意を鈍らせる可能性があったからだ。
 店に入ってから1時間が経過しようとしたころ、彩香が重い口を開いた。
「この間はごめんなさい・・・」
「いえ、僕も気が利かなくてすいません」
「そんな事は言わないでください!」
 突然泣き崩れる彩香をどうすれば良いのか、光国は戸惑いを隠すことが出来なかった。
 多くの男性が女性の涙に弱い様に、光国も例外なく女性の涙は苦手である。
「私・・・あれから一人であのお店にいったんです・・・そして、光国さんの過去の話しを聞いてしまいました」
 光国の過去を知っているのは、あの居酒屋の店主だけだった。
「居酒屋って・・・初花ですか?」
「はい・・・そうです」
 居酒屋の初花と言う名は、店主の趣味からとった名だと、以前光国は聞いたことがある。
 戦国時代に肩衝と呼ばれる茶器の中でも、初花は【天下三肩衝】と呼ばれる大名物の中の一つであった。
 肩衝とは、器の肩の部分が水平に張った茶入のことで、肩の部分から底の部分にかけて茶褐色の釉が流れて景色をつくっているもの言い、その中でも初花は『楢柴』『新田肩衝』に並び称されるほどの逸品であった。
初花は現在重要文化財に指定され、重要文化財としての名称は【唐物肩衝茶入れ 銘 初花】と呼ばれている。

「光国さんが定休日の日は、初花に来ないとあの日聞いていたから・・・」
「えっと・・・それって僕を避けたということでしょうか?」
「違います!・・・なんか会わせる顔がなかったので・・・」
 強い語気での否定は、素の気持ちのあらわれでもある。以前の活発なイメージの彩香なら気にも留めなかったのだが、本来の彼女のイメージをあの日知っていたから、光国はその勢いに押される感じになってしまった。
「何故いかれたのですか?」
「一つは、高いお酒をご馳走していただいたお礼を言いに・・・」
「ああ、菊理媛!でも、お酒が大分弱かったんですね。知らなかったとはいえ、居酒屋に誘ってしまってすいませんでした・・・まさか半分も飲めないとは思いませんでした。お蔭で僕は得をしましたけど」
 1時間かけてコップ半分で酔い潰れるほどに、彩香は酒が弱かった。記憶はあるが呂律が回らず、起きているのか寝ているのか解らないほどに目は細くなっていたから、光国は店主の勧めもあって残りの半分を飲み干したのだ。
「私・・・自分だけが不幸な人生だと思っていて・・・生きる事の意味や・・・何故生まれてきたのかとか・・・そんな悲観的な事ばかり考えていて・・・」
 苦しそうに話す綾香を見て、これ以上辛い気持ちを吐き出させてはいけないと感じ、光国は静かな口調で、話しを途切れさせた。
「僕にもありますよ。なんせあんな過去ですから」
 光国がにこやかに彩香に言った言葉は、彩香には理解できず、問い詰めるかのように光国に問いただした。
「どうしてそんな笑顔が出来るんですか?」
 涙を流しながら、彩香は初花の店主の言葉を思い出していた。

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