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日記コワイアルコミュのウシロガミ

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後ろ髪を引かれる、という言葉がある。未練を表した比喩だ。
このような感覚は誰でも一度は経験があるだろう。
ただ、他の人と違うのは俺の場合は実感を伴っているということだ。





始まりは小学生のときだった。
クラスの好きな女の子が転校すると聞いて、最後に思いを伝えようと思った。
クラスでのさよなら会が終わって、彼女に話しかけようとして勇気がでなくて諦めようとしたとき、襟足をぐいっと引っ張られるような感じがした。振り向いても誰もいなかった。
勇気をだして話しかけた結果、結局秘めた思いを伝えることはできなかったが、最後に彼女の笑顔が見れた。
風の噂だと彼女は今はもう結婚して子供もいるらしい。





大学四年の夏に爺ちゃんが死んだ。
俺はそのとき就活真っ最中で、内定が取れなくて焦っていた、もともと体を悪くしていたじいちゃんが体調を崩して入院したと聞いても、俺はお見舞いにもほとんど行かなかった。
ある日。三次までこぎつけた企業の面接当日。
その企業の最寄り駅に着いて電車を降りようとしたとき、後頭部をぐっと引っ張られた。後ろにはやはり、誰もいない。
降りる乗客達に邪魔だと睨みつけられても、足が動かないのでどうしようもない。
諦めて乗り続けようとすると体が自由になる。しかし、どの駅でも降りることはできなかった。
ある駅に着いた途端、急に足が動いてホームに降りた。
そこは、じいちゃんが入院している病院のある駅だった。
企業に電話をして、面接を断る。対応してくれた人事はやんわりとした対応だったが、強い拒絶を奥に感じた。後輩に迷惑がかからなければいいのだが。

病院の受付で聞いた病室に入ると、珍しく当のじいちゃん以外は誰もいなかった。
「ようきたなぁ」と弱々しく迎えてくれるじいちゃんの体には、点滴や酸素マスクなど様々な管が纏わりついていた。じいちゃんを生かすための装置を見て俺が抱いたイメージは、皮肉にも確実に来る死そのものだった。
病室には一時間もいなかったと思う。バイバイ、またくるね。そういって病室を後にした俺は、地元の公園で一人煙草を吹かしていた。
三次まで行った大事なチャンスを棒に振ってしまった。もったいないと悔やんでいると、母から電話がかかってきた。
じいちゃんが亡くなった。
そう言われて、ああやっぱりかと思った。電車から降りられなかったのは虫の知らせのようなものだったのだろう。ずっと見舞いにいけなかった心残りが、ぎりぎり間に合ったのだろう。





俺は現在、大学の先生のコネで入った会社でSEをやっている。
最近は忙しくて寝る暇もない。家にはシャワーを浴びるために帰っているようなものだ。
電車を待っているわずかな時間でも座ってしまうと、熟睡してしまうため立って待っている。電車の中でも同様だ。
掲示板を見ると、俺が乗る電車の前に急行が一本通過するようだ。乗車まで十分はあるだろうか。
時間は午前六時を十分ほど過ぎたところ。ラッシュ前とはいえ、それなりに賑わうホーム。乗り口の先頭でただ電車を待つ。
疲労が溜まっているのか、立ったままでさえうつらうつらしてしまう。
仕事のこと。現実味を持った将来のこと。様々な考えが頭を巡る。足元がふわふわする。ごう、と耳鳴りがして、体はそのままに意識だけが左回りに一回転する。
鉄の塊にヴァイオリンの弦を無理に擦りつけたような音に目が覚める。電車の警笛。
いつもより低い視界。眠気で膝が崩れたのを知る。
巨大な質量が圧倒的な速度ですぐそこまで迫っているのが、見えなくてもわかる。


「もうだめだ」


諦めた。もう、助からない。しかし、


『まだだよ』

どこからか聞こえた声と同時、襟を凄まじい力で引かれた。
視界が一瞬暗くなるほどの加速。遅れて、急行電車が鼻先を掠めていく。
助かったのか……。
ほっと胸を撫でおろしていると、駅員が駆け寄ってきた。凄い剣幕で怒っている。
当然か。もう少しで死ぬところだったのだ。
しかし、俺はその説教をちっとも聞いていなかった。
俺が考えていたのは、いつも俺を見守り、俺が後悔しないように、後ろ髪を引っ張ってくれた存在のこと。
ありがとう。口の中で誰にも聞こえぬように呟く。








男が去った後のホームに一人の少女が立っている。
歳は中学生に上がるか上がらないかといったところだろう。
背中まであるだろう長髪。赤いワンピースを着ている。
顔は髪の毛で隠れてはいるものの、確かに笑っている。
その笑みは裂けるように…………


『まだだよ』


『まだ、殺さないよ』

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