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CIMOC40 リレー小説コミュのにわ

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 どこか、憧れはあった。自分の手の届かない場所、そこにある色々なもの、手に入らないと分かってはいても、それらを求める気持ちがなかったといえば嘘になる。そしてそんな想いは今、具体を備えて私の前に存在している。
「ねえ、おなか、すいたんだけど」
「……あんたさあ、さっき散々食い散らかしたあのお菓子は何だったのよ。あー、はいはい、分かったから分かったから、そうやって睨みつけるの禁止」
 あの雨の日以来、この“少女”との奇妙な共同生活は続いていた。最も、あれ以来いつの日も雨模様なんだけど。
 私はこの少女、雨女を名乗る彼女に“あまめ”と名付けた。特に意味はない。名前があれば、少しでも近しい存在に感じられると思った。だけど、こっちの目論見通りにいくような簡単な相手じゃない。
「ちょっと、あまめッ! あんた何勝手に人のパソコン触ってんのよッ! しかもさあ、もぉー、キーボードがビショビショじゃない!」
 彼女はいつでも風呂あがりのように濡れそぼった髪を引きずる。彼女が着てるバスローブとバスタオルは、あの日そこの量販店で買ってきたものだ。
「……コレ」
あまめはそう言ってキーボードと同じく水が滴るディスプレイをこちらに向ける。覗き込んでみれば、そこには薄気味悪い老婆のような絵が映し出されていた。浮世絵のようにみえる。
「何よコレ。きもちわるッ」
「あめおんな、雨女。ググった」
「雨女? へー、じゃあこれってあんたの知り合い?」
「違う。わたしは、わたししか雨女を知らない」
「じゃあこれあんたの似顔絵なんだ」
「違う。わたし、こんなにブサイクじゃないもの」
「ぷっ」
 話が読めてきた。どうやら自分をモデルに描いたと思わしきこの絵の出来が気に食わないらしい。意外に可愛いところもあるじゃない。
「そういえばあんたってさあ、なんつーかどこから、いつの時代の何処から来たの?本当は何歳なのよ」
「忘れた」
「忘れたって……まあいいや。三百、何歳だっけ? そんだけ生きてるのがもしホントなら、あんたホントはおばあちゃんだもんねー。ふふっ」
「…………」
実際のところ、この“自称”妖怪の言うことを疑い始めればキリがない。本来ならば警察なり児童相談所なりに迷子として突き出すべきなんだろう。だけども、どっかで私には、この少女がここではないどこかから来たということが、感覚で理解出来ていた。
「雨ちゃん」
 か細い、それでいて響く声が私を呼ぶ。
「んー? 何?」
「雨ちゃんは、どこへ、行くの」
「え?」
「雨ちゃんは、どこへ、行きたいの」
 唐突な問いかけだった。私の行く場所。行きたい場所。どこなんだろう。どこに向かっているんだろう。
 考える。考えてみる。行きたい場所、欲しいもの。考えてみる。本心をではない。この少女へのとりあえずの返答だ。
「私は……ここでいいよ」
「…………」
「そりゃ、一人暮らしは大変だし、学校だって毎日が楽しいってわけじゃないけどさ、でも、それなりにさ、充実してると思うんだけどさ、私的には」
「…………」
「留学も考えたことあるけど、あたし英語もロクに喋れないしさ、行っても楽しくないじゃん? やっぱり日本が一番だと思うんだよ、うんうん、きっとそう」
「…………」
 あまめの澄んだ眼が、何もかもを見透かすかのような眼には、作り笑いを浮かべる私の顔が映ってる。やっぱりバレてる、この子には」
「…………」
「えーっと…………」
 こうなれば我慢比べだ。今更言い繕う必要もないと思うし、沈黙を貫いてみる。日曜の昼間だというのに、何をしてるんだ私は。
「…………」
「…………」
「………………」
「………………あのー、だからえーっとその」
「おしっこ」
「……へ?」
「おしっこ、行ってくる」
 あまめはそう言ってすっくと立ち上がると、あっという間にタタタッと駆けて行ってしまった。きれいなその小さな足がペチペチという音とともに足跡で床を濡らしていく。
「……慣れないな、こういうの。バレてるかな、私」
 あの日のような冷たい空気を感じることこそなくなったが、それでもあまめの発するあの感じには未だに居心地の悪さを感じる。自分ん家なのに。
 そしてあのきれいな足にも未だに見惚れてしまう。すらっとしたシルエットにきゅっと引き締まった足首、あまりに色白できめ細やかな肌は、まさにこの世のものとは思えない。あの足で、どこからか歩いてやってきたのだろうか。
「行きたいな、一緒に」
 どこからか来たというのであれば、戻ることも出来るはず。そこはどんなに甘美で完成された場所なんだろう。濃密な死の匂いさえ感じるが、不思議とおそれはなかった。それほどまでに求める気持ちが強いというのか、私は。
「どこも、一緒だよ。ここと、同じ」
「うわあっ」
 いつの間にかトイレから戻ったあまめが耳元で囁く。驚いた。同居人ながら心臓に悪い。少しどきどきもする。
「だーかーら! そういうの禁止って言ったでしょうが! ホントにもう」
「……………………」
「……な、何よ。何か文句あるわけ」
「…………おなか」
「……はい?」
「おなか、すいたんだけど」
「……あ」
「…………さっき、言ったのに」
「ご、ごめんごめん。すぐ用意するから、もう」
 背中にあまめの視線を感じながら、台所へと足を踏み入れる。心配せんでもちゃんと作るっての。冷蔵庫の中身を確認しつつ、その思考はここではないどこかにあった。

コメント(1)

遅れてすみませんでした。第二話です。
当たり障りのないところに一応落としたつもりですあせあせ(飛び散る汗)
続きの方よろしくお願いしmす

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