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瀬田に旗をコミュの出会い5

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「ほら、食えよ!」
 腕によりをかけた料理が並び彼女は渋々、箸を持ち白米を口にした。
 次に口にしたのは、野菜と疲れをとる薬草が入った汁だった。
 薬草の苦みを和らげるために試行錯誤で味を整えたオレの自信作。

「おいしい・・・・・・」
「そうか! しっかり食べろよ! 疲れが取れる薬草も入っているからな」
 黙々と食べる彼女はよほど腹を空かせていたのか、次々と惣菜がなくなっていくが、食べ方は嗜みを持った食べ方である。

「ごちそうさまでした・・・・・・」
 箸を置くと手を合わせ完食した。
 オレは倒れていた理由を聞こうとしたが、なかなか言葉が出ず沈黙が部屋を支配したが、おもむろに彼女が口を開いた。

「このように親切にして頂き、ありがとうございます・・・・・・。私の名は禰津神平と申します・・・・・・」
「オレは一ノ瀬隼人だ!」
「隼人様ですか」
「隼人でいいよ」
 実に礼儀をオレ以上に心得ている女性だと思いつつ見ていたが、オレは詰まっていた言葉を彼女に問う。

「なぜ、倒れていたんだ?」
 この言葉で彼女は俯いてしまったが、すぐ顔を上げ話をする。

「私は関東管領様であった上杉憲政様の忍びとして仕えていましたが、憲政様は北条軍に大敗し、憲政様は越後の長尾家に助けを乞うため家臣の一部たちと越後へと向かっていました。私もお供していましたが、憲政様は忍びが紛れ込んで、こちらの内部を知られたため大敗したと道中で仰せられ。私を始め忍びはその敵の忍びを探し撃退するのもお役目であります。憲政様もそれは御分かりのことで、自ずと私の失態でお味方が大敗したことになります。憲政様は私を斬りかかろうと襲いかかってきました・・・・・・」
 神平の淡々と話す口調が徐々に恐怖に満ちた声となり、オレはこのまま喋ると神平が可愛そうだと判断した。

 関東管領とは、関東一帯を管轄する役職のことであり、関東管領の職に就いている上杉は名家の家柄である。
 越後の龍として有名な上杉謙信は、その上杉の養子となり、関東管領の職を引き継ぎ長尾景虎から上杉謙信となったのだ。

「それ以上は話さなくてもいいよ」
 神平はホッとしたのか一呼吸ついた。

「ありがとうございます・・・・・・」
「これからどうするんだ? もう、憲政殿の元に戻れないし」
「はい・・・・・・。一つお願いしたいことがあります・・・・・・」
「なんだ? オレに出来ることなら言ってくれ」
「隼人様にお仕えしたいのですが・・・・・・」
 耳を疑う一言だった。オレの思考が停止してしまった。

「隼人様に助けてもらった命。隼人様のために使いたいのです・・・・・・」
 深々と頭を下げる姿に、オレは困惑するしかなかった。
 まさか、こんなことになるとは思ってもいなかった。助けてお礼を言われ別れるというのが、オレが描いた現実。それが見事に覆されたのだから。

「オレはまだ一介の足軽程度だ。神平を満足させる生活はできないぞ」
「構いません! ただ、隼人様に仕えたいのです・・・・・・」
「う〜ん。わかった。今日からよろしくな。神平」
ここまで言われて神平の頼みを無下に出来ないなと考え、オレは神平の頼みを了承することにした。

「ありがとうございます・・・・・・。隼人様のために尽くします・・・・・・」
「今、思い出したが、その越後の長尾だが上杉になったぞ」
「憲政様は?」
「役職を長尾景虎殿に譲り、今は越後で暮らしている」
「そうですか・・・・・・」

 オレと神平は主従関係を結ぶことになってしまった。本当に予期せぬ出来事であった。

「近いうちに、武田は上杉と雌雄を決する戦が起こる。オレはその決戦が初陣となるが、神平は付いて来るか?」
「隼人様をお守りするため付いて行きます。忍びたる私なら上杉陣営に忍び込み内部事情を知らせるお役目もでき、武田を勝利に出来るかもしれませんので・・・・・・」
「わかった。一緒に戦おう神平」
「承知しました・・・・・・」

 決戦の日は音もなく近づき、誰もがその日にみなぎる闘志を燃やして待っている。
 
 オレと神平が出会って最初の朝が訪れた。オレはは朝から稽古に明け暮れた。
 敵役を神平が引き受けてくれているため、実践的な稽古ができる。ただ、神平は忍びであるため、とても素早くオレの攻撃はその速さに付いていけてない。

「そこだ!」
 薙刀を振り落すが、あっけなく見破られ神平はオレの背後にいた。

「まだまだだ!」
 オレは何としても神平を捉えたいと、休むことなく稽古に励む。
 神平は何も言わず、オレの稽古に付き合ってくれる。

「ん?」
 神平は人の気配と走って来る足音を察知し、オレを庇うかのように前に出た。

「どうした? 神平」
「誰か来ます・・・・・・!」
 短刀を逆手に構え身構える。足音は近づきその足音の主が姿を現した。

「やっと、見つけたのね!」
 足跡の主は昌恒殿であった。

「昌恒殿! どうしてここへ?」
 オレは昌恒殿がここに来る理由が分からない。その前に、オレが長屋にいることを、どうして知っているのかさえ、今のオレの思考では考えが付かない。
 
「神平。大丈夫だ。武田家臣の一人、土屋昌恒殿だ」
 オレは神平に昌恒殿を紹介すると、神平は一礼をした。

「隼人のお友達なの?」
「そうですよ」
「よろしくなのね!」
 昌恒殿は神平の手を握り笑顔で挨拶するが、神平は困惑している。

「ところで、昌恒殿はどうしてここに?」
「昌景殿に教えてもらったのね。もし、家に居なかったら近くで、稽古しているから探せば見つかると言われて探してたのね。伝えることあるのね」
「伝えることですか?」
 オレは昌恒殿が何を伝えに来たのか見当つかない。

「上杉との戦が始まるのね。明日、出陣するのね!」
「いよいよですか! わかりました。昌恒殿」
「隼人は私の所に入ることになったのね。よろしくなのね!」
「昌恒殿の部隊ですか! こちらこそ、よろしくお願いします」
上杉との決戦の鐘が鳴った。我ら武田軍が出陣すれば、上杉軍も出陣して来るだろう。

「私は帰るね。バイバイー!」
 昌恒殿は小さな身体で大きく手を振り帰って行く姿をオレは手を振り返し見送る。

「明日が出陣か」
「大丈夫ですか・・・・・・?」
「何がだ?」
「いえ、手が震えていますので・・・・・・」
 神平はオレの手の震えを見て心配してくれていた。自分では気づかなかった微かな震えである。

「大丈夫だ。必ず武功を立ててみせるさ!」
「私もお手伝いします・・・・・」
「ありがとう」
「さて、稽古の続きだ!」
「承知しました・・・・・・」
 気持ちを切り替え、オレと神平は稽古を再開させた。

 一日中、稽古に明け暮れ日が沈み始めてきた。

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