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瀬田に旗をコミュの出会い4

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朝が訪れ、オレは荷物をまとめている。今日から長屋で一人暮らしが始まるからだ。じじいとは離れるが会えない訳ではない。また、会おうと思えば会える。

「長屋の行先はその紙に描いてある。まぁ、さほど遠くもないから迷わないだろ」
「わかった。今までありがとう。じじい」
「いつでも、会えるがお前との暮らしは良かったぞ。次に会うのは戦場となるが、それまで元気でな」
「ああ。オレもじじいには、感謝している。今までありがとう」
 いつでも会えるのはお互いに分かってはいるが、何故か、オレの眼から小雨が降っていた。それは、じじいには、見せられない。オレは背を向け振り向かず長屋へと歩いて行く。

 しばらく、歩いていると長屋が見えてきた。実に古びた長屋であった。
 オレはじじいが、使っていた部屋に入る。その光景は外装より酷く汚くなっている部屋であり、じじが最後の住人だったのかもしれない。

「掃除か・・・・・・」
 荷物を玄関先に置き、オレは部屋の掃除に取り掛かった。

「けっこう汚れているな」
 隅から隅まで掃除をしていくと、蜘蛛の巣やネズミが現れるなど掃除のやり甲斐があった。

「よく、ここまで汚れているな」
 一人でぶつぶつと文句を言っても答える者は誰もいない。
 掃除をしていると時間早く進んでいたかのように、とっくに昼は過ぎていた。
 部屋は最初よりは格段に綺麗になっているが、まだ、汚れている所はあったが、一先ずオレは休憩とした。

「一日掛かるな」
 部屋に寝そべり、しばらく上の空で天井を見ていると、眠気が波のように襲いかかり、オレは抗うことなく眠ってしまった。

 オレの意識はどこにいってしまったのか自分自身でさえ、分からずに深い眠りに付き、時間は優しく過ぎていくが、その優しさに甘えていたオレは起きようとしなかった。

 空は青から朱色へと変貌していた。

「ふぁ〜。よく、寝た」
 ようやく、オレは眠気の波から脱出することが出来たが、時すでに遅し、である。

「しまったー! 寝てしまったー」
 今さら後悔しても意味ない事は知っているが、大声を出してオレは後悔した。

「明日やろう掃除・・・・・・」
 掃除するやる気が出ず、オレは明日に持ち越した。

「気晴らしに稽古するか・・・・・・」
 オレは薙刀を持ち稽古出来る場所を探しに出掛ける。

 長屋を出て少し歩いた場所に林があり、林の中で稽古することに決めた。

「よし! やるぞ!」 
 自分に言い聞かせ薙刀を縦横無尽に振り回す。傍から見れば雑に振り回していると思われるが、オレは脳内で敵を作りそれを身体に移し替え、稽古している。目の前に敵がいるかのように思い描いて。
 
気合を入れて声を出して刀や槍などを振る人もいるが、オレは声を出さず黙々と稽古をする方である。気合がないわけではない。
 心を無にして動きを悟られにようにする稽古もしているため、声を出さないのである。
 いつしか、オレの周りに生えていた草木は、オレの薙刀の刃によって斬られていた。

 最後にオレは木に目掛け薙刀を投げるため、六十メートルぐらいの距離から薙刀を投げた。
 薙刀は甲を描くのではなく真っ直ぐに飛んでいき、木に突き刺さった。
 これは、遠くから来る敵を驚かすために磨いた技である。

「今日はこれで終わりにするか」
 薙刀を抜き帰ろうとした矢先、何かが聞こえてきた。

「だれ・・・・・・か・・・・・・」
 まだ、判明出来ず、オレは耳を研ぎ澄ませた。

「誰か・・・・・・」
「ん?」
今にも途切れそうな声がオレの耳へと流れ込んできた。

「たす・・・・・・助けて・・・・・・下さい」
 またオレの耳に声が聞こえて来た。気になったオレは林の中へと入って行く。

「おーい! どこにいる?」
 大きな声で叫ぶが返事は変ええてこない。気のせいかと思い戻ろうとした時、オレの足は何かに掴まり転倒した。

「痛てー、何だ?」
 オレが振り向き見たのは紺色一色、言わば紺装束の服装をした女性が酷く弱り果てた状態で倒れていた。見るからに忍びだと分かる。

「おい! おい! 大丈夫か?」
 返事はないが息はあることを確認したオレは女性を背負い、急いで自宅に駆け込んだ。
首元に女性の息がかかり、その息は疲れ果てている息だと感じた。

「ここに寝かせるか、腹を空かせているかもしれないな」
長屋に着き女性を布団に寝かせた後、オレは食事の準備に取り掛かった。
じじいとの交代で食事の準備はしていたので、料理はそこそこできる。

「これに、こう加えてと」
鍋に野菜の葉っぱや疲れを取る薬草などを混ぜ込み汁を作り、白米を炊き込むため火を起こしなど、休む間もなく台所を動き回った。

「よし、一通り出来たか」
オレは眠りに付いている彼女のために持てる料理の技量を発揮し料理をしていた。彼女がどこの誰かも分からず、敵の忍びかもしれないというのに、
 しかし、オレの身体は衝動的にこの女性を助けろと動いてしまった。

 
 縁側から夕日の光が部屋に入り込み女性の安心しきった寝顔を彩り、オレの心を揺さぶってきた。

(危なかった! 見惚れてしまっていた)
心の自我はオレに大きなビンタを浴びせ理性を呼び戻した。
 このまま女性の隣にいては自分を保てないと思い、庭で薙刀稽古をしようと庭に出た。

(あの子が上杉の忍びでも送り返すか、もし、御館様に知られ斬れと命令されてもオレには斬れない・・・・・・)
 一武士としては失格であるが、オレの中にある情が太刀を抜かない。
 女性だからではなく、何となくであるが彼女が身に纏っているのは武田に対する敵意ではなく、深い悲しみだと感じていたからである。

「ん〜?」
 部屋から吉報を知らせる声が聞こえ、すぐ、部屋に駆けつけると彼女が起きていた。

「大丈夫か?」
「ここはどこですか・・・・・・?」
首と眼を動かし周囲を見渡すとオレの顔を見た。

「助けて下さりありがとうございます・・・・・・」
 姿勢を正して頭を下げる彼女。

「いや、そんなこと・・・・・・。それより、腹減ったろ? 飯の準備ができてある。今持ってくる」
「あ、いや・・・・・・」
 彼女は何か言おうとしていたが、オレは構わず食事をとりに行く。

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