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暇つぶし本棚コミュの【第44話】魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」【まおゆう】

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コメントに続きます。全部で18コメの予定です。
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以下、コピペ↓


385 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 07:30:28.04 ID:VaDFVbYP
――開門都市近郊、混戦の中で

ゴッゴォォーン!!

カノーネ兵「弾着確認っ!」

百合騎士団隊長「ふふふっ」

偵察兵「防壁東側に、土煙が上がっています。
 おそらく廃屋か、庁舎に命中したと思われますっ」

カノーネ兵「……」がくがく

百合騎士団隊長「続けなさい? 停止命令は出していないわ」

カノーネ部隊長「お、恐れながらっ。あの地域には我が軍の
 突撃部隊も侵入しているはずですが……」

百合騎士団隊長「やりなさい」 にこっ

教会騎士団「精霊の思し召しだ、やれっ」

光の銃兵「精霊は求めたもう!」
光の槍兵「精霊は求めたもう!」

カノーネ部隊長「は、はいっ。ほ、砲弾を込めよっ!」
カノーネ兵「はひぃ」 がたがた

ゴッゴォォーン!!
    ゴッゴォォーン!!

百合騎士団隊長「ふふふっ。聞こえるわ……。
 その甘さと苦さに酔いしれそう……。
 血の染みた黒々とした大地に抱かれて眠る同胞よ、
 魔族と剣を交えて狂気に陥る信徒の群よ。
 戦場はまさに深紅に染まる大舞踏会のよう……」

教会騎士団「筆頭騎士団長っ!」


※コメントに続きます
まとめ元:http://minnanohimatubushi.2chblog.jp/archives/1356327.htmlより

コメント(19)

386 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 07:34:01.60 ID:VaDFVbYP
百合騎士団隊長「なぁに?」

教会騎士団「追加のブラックパウダーが届きましたっ」

百合騎士団隊長「かまわないわ。カノーネ部隊に優先配備。
 マスケット部隊には三斉射の分量さえあれば良いでしょう。
 それから“お土産”用に、二、三人に抱えさせなさい。
 南部連合に手こずる王弟閣下にも目を覚まして頂きましょう。
 血の香りを嗅いで奮い立たない殿方なんていないのに。
 ふふふふっ。なにを小手先の戦術で戦を長引かせているのやら」

教会騎士団「はっ!」

ゴォォン! ガァォーン!

光の銃兵「っ!」
光の槍兵「近いです、これは銃声……」

百合騎士団隊長「南部連合の突出部隊か、都市からの迎撃部隊ね。
 丁度良いわ。霧の国の騎士団残存兵と、マスケット中隊2つを
 そちらへ差し向けて。叩きつぶさせなさいっ」

光の銃兵「はひぃ! いってきますっ!」
光の槍兵「精霊は求めたもうっ」

百合騎士団隊長「よい子ね」 にこり
教会騎士団「……散る花ですが」

百合騎士団隊長「灰青王の死んだ今、霧の国の騎士団も兵団も
 戦闘能力を期待は出来ない。こんな使い道がせいぜいなの。
 期待していたのに
 私の側から消えるなんて。
 ……やはりね。
 ずっと側にいてくれるのは、精霊だけ。
 暖めてくれるのは、精霊の慈悲だけ。
 流れ去るものに期待をするなんて意味もない。
 私の汚れを拭ってくれるのは、精霊様だけ。
 この腐った両手を清めてくれるのは、くれるのは……」

教会騎士団「精霊の恩寵は永遠です」

百合騎士団隊長「……ええ。くっ。くくくくっ。
 突撃させなさい。
 それからカノーネの着弾はさらに都市中央部へ。
 陣を少し前進させます。
 ……精霊は求めたもう。
 血の香りを、混沌を、そして死の苦鳴を……。
 ふふふっ。ふふっ。うふふふふっ。
 精霊の恵みを! 精霊の平安を! 精霊の粛正を!
 地に遍く混沌と薔薇の赤を塗り広げるのっ!」


387 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 07:35:42.14 ID:VaDFVbYP
――開門都市、中央庁舎、執務室

  ……ゴォォン。 ……ォォン

庁舎職員「せめて二階の執務室に移りませんと」

青年商人「ここで十分」
火竜公女「執務の邪魔をしてはならぬっ」

庁舎職員「し、しかしっ」

青年商人「庁舎まで攻め込まれる事があるのなら、
 一階だろうと二階だろうと敗戦には代わりありません。
 それに執務室では広さも処理能力も足りい」

庁舎職員「しかし、ここでは内密の軍議も」

火竜公女「事ここにいたって、
 “内密”などというものはありませぬ」

……ゴォォン!

魔族娘「す、すいませんっ!」 びくっ

鬼呼の姫巫女「娘はすぐに謝るな」

傷病兵「中央街道、大六区まで閉鎖とのこと。
 集積場所を無名神殿広場前まで移動っ!」

青年商人「もう一段階下がらせますよ」

火竜公女「わかりました。
 ……無名神殿前広場を第一集積地としますっ。
 無名神殿前に集められた捕虜および傷病者を後方輸送っ。
 鴉神神殿、渡り神神殿前広場の2つに分割して移動をっ。
 ――魔族娘、頼みまする」

魔族娘「はいっ! 行ってまいりますっ」

鬼呼の姫巫女「よろしく頼む」
宿屋の市民「わ、私もお供しますっ」
388 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 07:39:18.54 ID:VaDFVbYP
庁舎職員「そのほか、十番街で火災。
 規模は中程度、南八番街で倒壊多数。
 市保有倉庫とは連絡取れずっ。
 また、医薬品倉庫壊滅を受けて、包帯の残存量が……」

青年商人「ギルド長っ!」
紋様族職人長「は、はいっ!?」

青年商人「仕立て職人および倉庫から布を供出っ。
 支払いは全て当局回しで、清潔な布を出させてください。
 医薬品については、東十二番街の有角商会地下倉庫に
 予備の蓄えが千と五百人分はあります。
 衛士!」

衛士「はっ!」

火竜公女「徒行で突破、前述の物資を確保してくださるかや?
 これを全て第三次集積地に移動。
 班分けは15人。――義勇軍から募って馬車四台を編成」

衛士「判りましたっ」

鬼呼の姫巫女「なぜそのようなことを知っているのだ」

青年商人「商売相手の在庫把握は商談の基本です」

鬼呼の姫巫女(この二人、修羅場慣れしているのか?
 どこから来るのだ、この胆力はっ)

  ……ゴォォン。 ……ォォン

青年商人「火災は放置っ。あの地域の避難は完了済みですし、
 建物は漆喰と煉瓦が殆どです。昨晩の雨も残っている。
 燃え広がりはしないっ。市保有倉庫へは連絡を……。
 姫巫女、頼めますか?」

鬼呼の姫巫女「良かろう。若草鳩よ、いくが良いっ!」

若草鳩「ピロロロッ。判りました姉御っ!」

バタバタバタッ!

伝令「ま、魔王さまっ!!」

青年商人「落ち着いて報告を」


389 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 07:40:37.27 ID:VaDFVbYP
伝令「で、伝令です。敵の砲撃、激化!!
 それにマスケットを持った新手の人間数千人が南門から侵入。
 無秩序な動きで、破壊を繰り返しながらあふれ出していますっ」

青年商人(……来た)

火竜公女「到来でございまする。商人殿」

鬼呼の姫巫女「〜っ!! ここまで来て、敵の増援っ。
 いや、最初から判っていた予備兵力か……。
 しかし、恐るべき数。それにマスケット兵とは……」

庁舎職員「このままでは砦将どのも危機に!」
市民職員「いや、族長に限ってそのような手には乗らぬはずですが」

青年商人「待っていた好機です」

鬼呼の姫巫女「は?」

庁舎職員「なっ、なにをっ」

  ……ゴォォン。 ……ォォン

青年商人「遠征軍はその統制を失っている。
 ……説明をしたでしょう。遠征軍の4つの勢力を。
 その勢力の統制が乱れ、混乱している。
 今流れ込んできたのは、遠征軍の中核とは言え、
 その実体は促成で教練を施した民兵に過ぎない。
 しかしその民兵こそが遠征軍の最大戦力です。
 そして彼らは“教会の剣”だった。
 ……教会に何らかの問題が起きたと考えられます」

鬼呼の姫巫女「その剣がこちらを向いているのだっ」
390 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 07:42:49.29 ID:VaDFVbYP
青年商人「何を言っているんです?
 戦とは剣と剣による傷つけあい、そのものではないですか。
 相手の剣が向けられただけで降伏では話になりませんよ。
 それに、剣が向けられたからこそ勝機がある」

鬼呼の姫巫女「……っ」

火竜公女「敵の首魁の守りが薄くなっていますゆえ」にこり
青年商人「そう言うことです」

鬼呼の姫巫女「これを待っていたというのか?」

  ……ゴゴゴーン! ズドォーン!

伝令「砦将どの、撤退を開始! 防衛線を押し下げて、
 無名神殿の方向へとさがってゆきます!
 人間の軍は勢いに乗り軍を前に。ただし略奪や混乱に
 手をさかれて、戦場は混沌としていますっ!!」

青年商人「貴族軍はこれで開門都市の南部を使った
 市街戦の迷宮に引き込んだはずです。
 民兵の過半数もそれに続くでしょう。
 大事なのは交戦地域、交戦地点をこちら指定すること。
 そして指定してもそうは思わせぬ事。
 わたし達が望む戦闘を行ない、
 望まないタイミング、望まない地点での戦闘は
 “相手に思いつきさえさせない”。
 ……それが私と砦将の出した結論です。
 それさえ守り、非戦闘地域で補給と兵站を途切れさせなければ
 まだまだ粘ることは出来ます。
 タイミングと、範囲を制御する。
 商戦と何ら代わりがありません」

火竜公女 くすくすくすっ

鬼呼の姫巫女「……っ」

青年商人「そして、守りの薄くなった本陣へ攻撃を仕掛ける。
 ――それは、私の役目でしょうね。
 こればかりは勝てるとお約束は出来ないのですけれど」

火竜公女「私もお供を」

青年商人「それはだめです」


391 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 07:44:43.88 ID:VaDFVbYP
火竜公女「なにゆえにっ」

青年商人「この執務室で補給と後方支援部隊の
 指揮を執る人材が我が方には必要です。
 少なくとも、お財布の重さが判る人間がね」

火竜公女「そんな……。ただの言い訳でありましょう?」

青年商人「共同事業者でしょう?」

火竜公女「それは……」

青年商人「相方でしょう?」

火竜公女「……っ」

青年商人「どうしました?」

火竜公女「商人殿が意地悪を言いまする」

青年商人「“良くできたおなご”は、殿方をどうするのです?」

火竜公女「〜っ。……っ」

鬼呼の姫巫女「――やれやれ。公女のこのような表情を見れるとは」

火竜公女「判りました。私は……。
 私はこの執務室でお待ちしておりまする。
 なにとぞ首尾良く吉報を持ち帰ってくださいますように。
 私は信用しておりまする。
 商人殿は、魔王の名を冠するに相応しき方。
 わたしの……。……いえ、それはよそ事でございまする。
 どうかご武運とご商運を。良い取引を祈りまする」

青年商人「お任せあれ。“同盟”十人委員会の筆頭として
 この都市を預けられたものとして、
 恥ずかしくない商談を約束しましょう」

392 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 07:47:37.19 ID:VaDFVbYP
――開門都市近郊、南部連合陣地

ゴガァンッ!!! ズダァァァン!!

 光の銃兵「た、助けてくれぇ!!」
 光の槍兵「な、なんでっ! なんで俺たちがっ!」
 光の突撃兵「ど、どけぇえ! どいてくれぇっ!」
 包帯の光の兵「ひぃぃぃぃっ。撃つなっ! 撃つなぁっ!」

ズキュゥン! ドガァン! ギシィ、キンッ!

鉄腕王「前線で何が起きているっ!?」

偵察兵「砲撃ですっ! 遠征軍本陣よりの砲撃っ。
 自軍のマスケット部隊に着弾。被害が広がっていますっ」

鉄腕王「誤射か!?」

軍人子弟「違う……」

ズダァァァン!! ゴガァンッ!!!

偵察兵「違いますっ! 怠戦にたいする警告というか、
 ある種の督戦行動のような……。
 我が軍に向かって駆り立てて民兵を追い立てていますっ」

鉄国少尉「まさかっ!? そこまでっ」

 光の銃兵「うわぁぁ! 返事をしろっ。槍兵! 槍兵っ」
 光の槍兵「ごふっ。ごぶごぶごぶ……。げはっ……」
 光の突撃兵「止めろぉ! 俺たちは敵じゃない! やめてくれぇ!」
鉄腕王「なんてことをっ」

軍人子弟「指揮系統を乱したのが徒になったでござる。
 このままでは遠征軍の損害は……」

鉄国少尉「遠征軍の損害など気に掛けている場合ではっ」


393 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 07:48:51.99 ID:VaDFVbYP
軍人子弟「かけている場合でござるよっ!
 ここで必要以上の被害を出せば、
 双方にとって傷跡が深くなりすぎるっ!!
 世界は混沌の淵に沈むでござるよっ。それではなんのためにっ」

鉄国少尉「ではっ」 きっ

鉄腕王「……」

鉄国少尉「受け入れを進言します」

軍人子弟「少尉……?」

鉄国少尉「見捨てることが出来ないなら、助けるしかないでしょう。
 我が南部連合は、民を……。
 開拓民も農奴も等しく助けることによって
 大儀を得た国々の集まりです。
 その大儀が、助けろと命じるならば、
 我ら軍人はその声に耳を傾けるべきです」

ゴォォン! ズゴォォン!

鉄腕王「たしかに、離間工作じみたやりかたもした。
 奴らの兵を寝返らせてこちらに引き込むのは戦略のうちだった。
 しかしこの状況で助けるとなれば、こちらから軍を突出させ
 敵の本陣に切り込むことになるだろうよ。
 あの光る塔が現われてから、奴らの本陣は混乱の一途だ。
 組織的な抵抗はないかも知れないが、
 それでも狂気じみた反撃はあるかも知れんぞ」

冬寂王「……」

鉄国少尉「必要であれば躊躇うべきではありません」

軍人子弟「その通りでござる。許可を願うでござる」

冬寂王「行ってくれ。頼む。……将官っ!」

将官「はっ!」

冬寂王「こちらは塹壕を整備している。カノーネの砲撃は
 平地よりもよほどその威力も精度も押さえることが出来るだろう。
 1部隊……いや、4部隊を率いて、こちらへ向かってくる
 遠征軍民兵の受け入れを始めろ。武装解除の上、後方へ護送。
 姓名を控えて一カ所にまとまってもらえ!」
394 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 07:50:23.60 ID:VaDFVbYP
軍人子弟「準備をするでござるよ」
鉄国少尉「了解っ!」

軍人子弟「今度こそ死線をくぐることになるでござるが」
鉄国少尉「そのようなこと。あははははっ」

軍人子弟「……」

鉄国少尉「我が国の安全、我が国の繁栄、我が国の利益。
 それらのために戦うのは尊く素晴らしいことです。
 それらは軍人としての任務であり、本懐」

軍人子弟「……」

鉄国少尉「しかし“どこかの誰かのため”に戦うのは、
 軍人ではなく、男子の本懐であると、護民卿はおっしゃられた」

軍人子弟「若気の強がりでござるよ」

鉄国少尉「それでも良いではないですか。
 この攻撃を凌ぎきり、
 あの三千余名を収容、敵のカノーネ部隊さえつぶせば
 遠征軍は、少なくとも圧倒的な数的優位を失う。
 待ち望んできた近郊状況が訪れる可能性が高い」

軍人子弟「その通りでござる。
 この一手は人道的な見地からのみならず、
 戦略的見地から見ても、われらが放つ最高の一撃」

鉄国少尉「我らが鉄の国の槍は、岩をも貫く」

軍人子弟「……そろそろもてるとか、
 そういう場面も欲しいでござるが」

鉄国少尉「は?」

軍人子弟「いいや、なんでもないでござるよっ!
 この凛々しくも雄々しく汗臭いのが我が国でござるっ。
 さぁ、馬に乗るでござるっ! 切り込み準備っ!!
 カノーネ部隊を沈黙させるため、いざ! 推して参いるっ!」


395 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 07:51:45.00 ID:VaDFVbYP
――開門都市近郊、混乱の戦場

ドゴォォーン! ズギャ!
 うわぁぁぁ!! 押せぇ! 押せぇ!
 撃つな、俺たちを撃たないでくれぇ

遠征軍士官「なんだって!?」
聖王国騎士「真実です、早く取り次ぎをっ」

遠征軍士官「判った、このことは他言無用だ」
聖王国騎士「はっ! はいっ」

  光の銃兵「光は求めたもう! 光は求めたもうっ!」
  光の槍兵「精霊は魔族の血を求めたもうっ!」

遠征軍士官(何を言っているんだ! このような時にっ。
 数万!? 数万を超える魔族の援軍が、
 ゆっくりとだがこの地に終結しつつあるだとっ!?
 馬鹿な! 馬鹿なっ!?
 なぜそのような数の軍勢がっ。
 そのような軍勢は我が遠征軍が世界で初めてのはず。
 愚劣で未開の魔族にそのような軍勢を組織できるはずがないっ。
 何かの間違いだ!
 間違いに決まっているっ!!)

ばさっ!

遠征軍士官「閣下っ!!」

参謀軍師「王弟閣下は前線である。何事かっ」

聖王国騎士「そ、それがっ。ご、ご報告しますっ!
 目下、この場所に向かって北方および東方の森林地帯を抜け、
 最低数万の魔族の軍が迫っているとのことっ」

参謀軍師「なっ!? 数万、ですとっ!?」

遠征軍士官「最低、です。先遣部隊は森の橋からこちらを
 観察しているとの情報がもたらされましたっ」


396 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 07:54:24.50 ID:VaDFVbYP
――開門都市近郊、混戦状態の南市街廃墟

清明の時節、辺城を過ぐ
  遠客風に臨んで幾許の情……

……ゴォォン!!

光の少年兵「……」

野鳥は閑関として語を解し難く
  山花は爛漫として名を知らず……

光の少年兵(……なんだろう、この歌。
 死んじゃったのかな、ぼく)

葡萄の酒は熟して愁ひに腸は乱れ
  瑪瑙の杯は寒くして酔眼明らかなり……

光の少年兵(優しい、綺麗な声……。
 梢がさわさわ鳴っているみたいな……)

遥かに想ふ故園 今好く在りや
  梨の花さく深き院に鷓鴣の鳴く声すらん

光の少年兵(綺麗で、泣きたくなるような……歌……)

ゴォォン!!

光の少年兵「砲声っ!!」 がばっ

奏楽子弟「ん。目が覚めたかな」

光の少年兵「え? えっ!?」

奏楽子弟「いいよ。横になってて」
397 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 07:55:18.29 ID:VaDFVbYP
光の少年兵「え、あ……あ。ああっ……」
奏楽子弟「うん? 耳?」 ぴこぴこ

光の少年兵 こくこく
奏楽子弟「私は森歌族……。君たちの云う、魔族なの」

光の少年兵「なっ!? ぐっ」

奏楽子弟「ほらほら、無理しなくて良いよ。
 多分、腕折れちゃってるよ。じっとしていた方がいい」

ゴォォン!!

光の農奴兵「ああ、じっとしていた方がいい」
光の少年兵「え? あ……。たくさん」

光の農奴兵「ああ」 こくり
光の傷病兵「逃げ出して、もう戦え無くて集まっているんだ」
光の少年兵「そんな……」

奏楽子弟「ごめんね、こんな水しかあげられないのだけど」

光の農奴兵「いや、その……。感謝する。ほら、坊主、飲め」
光の少年兵「でも魔族の……」

奏楽子弟「魔族でも水ぐらい飲むよ」

光の少年兵 じぃっ

奏楽子弟 かちゃかちゃ

光の少年兵「なんなんだ、それは。ぶ、武器かっ」

光の農奴兵「楽器だよ。この人は、歌人なんだそうだ」
光の傷病兵「吟遊詩人だよ」
光の少年兵「え?」

奏楽子弟「水と同じ。魔族も歌うの。
 ……歌うしかできない時には特にね」


399 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 07:56:29.88 ID:VaDFVbYP
ゴォォン!!
  パラパラパラ……

光の農奴兵「近いな」
光の傷病兵「……もう、帰りてぇよ」

光の農奴兵「なぁ、なんでこんなところに来ちゃったんだろう」

光の傷病兵「そりゃ精霊様が求めたから……」

光の少年兵「僕たちは栄光ある光の子って云われてやってきたのに。
 いやなのにっ。戦争なんて……偉い人だけでやればいいのにっ!」

奏楽子弟「……」かちゃかちゃ

ズドォォン!

光の農奴兵「仕方ない」

光の傷病兵「俺たちは何も出来ないんだ。
 農奴なんだ。拒否権なんて無いんだ。
 云うことを聞かなきゃならなかった。そうでなきゃ飢えていた。
 仕方なかったんだ。仕方ないじゃないかっ」

光の少年兵「……っ」

奏楽子弟「いずこに……♪」

光の少年兵「え?」

奏楽子弟
 ――何処に行きたまいしか、小さき手のひら振りし我が友よ
 何処に行きたまいしか、頬染める幼なじみの我が君よ。
 今は遠き我が村よ。
 遠く、遠く、砂塵の果てにて思う。


401 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 07:58:27.19 ID:VaDFVbYP
光の農奴兵「……綺麗な、声だぁ」
光の傷病兵「……」

奏楽子弟「どこに行っちゃったの? 昔の故郷は。
 ……っていう歌」

光の農奴兵「それは」
光の傷病兵「……」

光の少年兵「そんな事なんで云えるんですかっ」

奏楽子弟「その、小さいの」

光の少年兵「え、あ? ……こ、これ」

奏楽子弟「それはね。小さな子供の手袋だよ。
 多分この家に住んでいたんだろうね。
 魔族にも、赤ちゃんだって小さな子供だって沢山いるんだよ。
 この手袋のサイズは、紋様族かな。
 紋様族の子供は、賢くて可愛いんだよ。
 あの路地を走って遊んでいたんだと思うな。
 日が暮れて、夕ご飯が出来るまで」

光の少年兵「……っ」

奏楽子弟「誰も悪くないよ。戦争だから。
 すごく怒りたくても、私は怒らないよ。
 同じくらい痛かったし怖かったのを、知ってるから」

光の農奴兵「……すまねぇ」

奏楽子弟「ううん。――でも、ね。
 やめるためには、誰かが頑張らないと。
 私は魂の血を流すよ。
 だって血は流せない。必要だとしても。
 この手に剣は握れないから。
 ううん、握らない。そう決めたの。
 殺すのも殺されるのも、絶対にしないの」

光の少年兵「――っ!」

402 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 08:02:22.85 ID:VaDFVbYP
奏楽子弟「それに……。
 あなたたちに、殺させたりもさせたくない」

光の農奴兵「なんで、魔族なのに、なんで……そんなに」

奏楽子弟「関係ないよ」 にこっ

奏楽子弟「わたし達は、同じでしょ?
 大砲の音が怖くて、ぶるぶる震えて隠れている。
 それでも、どんなに怖くても、もう戦争はやめようって。
 そう考えてる。……だから一緒だよ」

光の傷病兵「……ひっく。……ずずっ」
光の少年兵「ごめん……なさい……」

〜♪

奏楽子弟
 ――何処に行きたまいしか、小さき手のひら振りし我が友よ
 何処に行きたまいしか、頬染める幼なじみの我が君よ。
 今は遠き我が村よ。
 遠く、遠く、砂塵の果てにて思う。

 ――茜射す陽に照らされし、黄金の麦畑。
 風走る度に、波をうつすかぐわしき麦の穂よ。
 今は遠き我がふるさとよ。
 遠く、遠く、凍える白夜にて思う。

 ――故郷を守ることもなく、
 今はその声は風に埋もれ、草に隠れ、雪の舞に見失い
 伝える言葉無く、指先も枯れ果ててなお鮮やかに

 ――何処に行きたまいしか、小さき手のひら振りし我が友よ
 何処に行きたまいしか、頬染める幼なじみの我が君よ。
 何処に行きたまいしか、黄金の髪揺らす甘き約束よ。


421 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 18:25:26.54 ID:VaDFVbYP
――光の塔、その道程

ギィン!! キィンッ!!

女騎士「ぐっ!」
大主教「もう終わりか、修道会女騎士よっ。ふはははっ」

ギィン!!

女騎士「させるかっ! “聖歌六連”っ!」
大主教「“光壁三連”っ!」

 ギュン!ギュン!ギュン!ギュン!ギュン!ギュン!!

女騎士「っ!」
大主教「どうした、速度が落ちたぞ?」

女騎士(これほどとはっ。魔王の力とは。
 本来の魔王の力とはこれほどのものだったのか。
 これじゃ全開の時の勇者の速度と力そのもの。
 いや、それ以上じゃないかっ)

大主教「この両手は動かぬが、
 もとより我は剣士でもなければ
 武芸者でもない。一回の聖職者に過ぎぬ。
 両手が動かずとも、我が祈りは万物を斬り刻む」

女騎士「黙れ! だれが聖職者なのだっ。
 聖職者を愚弄するなっ!
 貴様には精霊に使える敬意の一辺も感じない。
 その気持ち悪い玉と魔王の力で
 貴様は光の精霊を愚弄しているだけだっ!」

大主教「ここまで来たならば知っていよう?」

ギィン! ギリギリギリ!!

大主教「その魔王すらも精霊の願いが生み出したと云うことを」

女騎士「……っ」


423 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 18:27:41.98 ID:VaDFVbYP
大主教「その通り!! その通りなのだよっ。
 すべては炎の娘の願いから始まったもの。
 あの無垢な娘の救世の祈りから。――であればこそっ!」

ギィン! キィン!!

女騎士(くっ。押されるっ!?
 ただの斬撃祈祷がこれほどに重いっ)

大主教「なればこそ、この汚濁に満ちた世も! 戦乱も!
 嘆きの苦しみも裏切りも欲望もこざかしい浅知恵もっ!
 全てはあの娘の願ったものなのだっ!
 全ては“精霊の許したもの”。全ては“聖なるもの”っ」

ごごごごっ

大主教「“電光呪”っ!」

女騎士「っ!? “光壁”っ!
 か、重なれっ! “光壁双盾”っ」

ズガァァーン!!

大主教「ふふふふっ」

女騎士「これは、24音呪っ!? まさか貴様っ」

大主教「そのとおり。勇者の力だ……。
 神聖術式で捕縛した勇者の力を借り受けたまで。
 使いこなすには至らないがな」

女騎士「下衆がっ!」かぁっ!
大主教「呼気が乱れているぞ。はははっ!」

女騎士「黙れ! 黙れぇ!! “嵐速瞬動祈祷”っ!」
大主教「“加速呪”――っ!?」

ギキィン!!

女騎士(届いっ……て、ない!?)

大主教「見えるかな」

女騎士「なっ。それは……。なんだ、その霧はっ」
424 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 18:30:16.35 ID:VaDFVbYP
大主教「知らないのか? 判るまいな。
 歴代の魔王でさえその身に纏うことは叶わなかった
 超越者の証し……“やみのころも”。
 全ての攻撃を遮断し、我を守る物質化現象を果たした
 “魔王達の霊の結晶そのもの”だ」

女騎士「五月蠅いっ!」

ガッ! ガッ! ザシュ!!

大主教「……くく」

ズガッ!!

女騎士「っ!」
大主教「……どうした?」

女騎士「ならば……。“錬聖祈祷”っ!」
大主教「攻撃力の強化と、光の属性付与か」

女騎士「闇の力であれば、弱点は自ずと明白だっ!」
大主教「良かろう」

ゴッ! ジャギィィィン!

女騎士「そんな……」

大主教「狙いは悪くはないが、
 そもそもの攻撃力が足りなすぎるようだな。
 弱点を突いてさえ、かすり傷もつけられぬ。
 あの老人と同じとは、修道会の麒麟児も所詮この程度か」

女騎士「――老人っ? 弓兵かっ。
 あいつをどうしたんだっ!?」

大主教「殺したぞ?」
女騎士「っ!?」

大主教「ああ。そう言えば、一緒に旅をした仲間だったのだな。
 足を貫いても手向かってきたので、腕を引きちぎってやった。
 奇怪な技で我が腕を麻痺させてきたので、
 臓物を踏みつぶしてやったよ。
 最後の最後まで悲鳴を上げぬ頑迷な老人だったがな」


425 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 18:40:34.16 ID:VaDFVbYP
女騎士「きさまっ。貴様ぁ!! 何を、お前はっ!!」

大主教「“後は任せましたよ、お転婆姫”とかなんとか、
 最後まで強がりをぬかしてなっ。
 凡夫には所詮判らぬようだ。この力の圧倒的な差がっ。
 “風剣呪”っ! “雷撃呪”っ!」

ビシィッ!! ドギャン!!

女騎士「“光壁”っ! “光壁”っ」
大主教「どうした、退がるだけかっ! はぁっ!」

ドゴォンッ!

女騎士(爺さんが、死んだ!? 死んだなんて……っ)

大主教「器用に跳ね回る」

ドゴォンッ!

女騎士「“光壁”っ! “光壁”っ! 弾け光の壁っ!」

大主教「確かに防御術は精霊の御技の中核。
 修道会の術式は我が教会のものとは多少違うようだが、
 干渉力も発動速度も申し分はない。
 流石修道会の首座をしめる光の術士にして騎士。
 その防御術があれば、我が攻撃をしのぐことも、
 あるいは可能かも知れぬなぁ……。
 だが何回しのぐ? 何回しのげる?」

女騎士「限りなど無いっ!」

大主教「その言葉を試してみようではないかっ」

ゴォン! ヒュバッ!! ザシャァン!!


426 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 18:42:19.49 ID:VaDFVbYP
女騎士(あの爺さんがっ。爺さんがっ!
 勝算も無しに“任せる”なんて云うはずがない。
 あるんだっ。
 糸よりも細くても、何か、隙があるっ。
 あるはずだっ、探すんだっ。
 私は勇者の剣。
 私は勇者の騎士っ。
 こいつを、この怪物を勇者の元に行かせは、しないっ。
 あの変態の、馬鹿で、あほで、すけべでっ。
 それでも、それでもわたしを導いてくれた
 爺さんをっ。任せる、と言ったならっ)

大主教「それっ! “斬撃祈祷六連”っ!」

ギン!ギン!ギン!ギン!ギン!ギン!

女騎士「“光壁四華”っ! がはっ! ぐぅっ」

ドゴォン! ばさっ

女騎士(見つけるんだ。……魔法使いを。
 あの思いを……。裏切る、訳には……。
 いかない。……騎士、なんだ……ぞ……)

大主教「ふっ。四つ防ぐのが精一杯のようだな」

女騎士(そ……れ……)

大主教「もはや座興も終わらせよう。“斬撃祈祷六連”!!」

女騎士「それ、だ……」

ふわっ

大主教「!?」
428 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 18:44:05.14 ID:VaDFVbYP
女騎士「はぁ……はぁ……」

大主教「なにを……!?」

女騎士「さぁ……」
大主教「“斬撃祈祷六連”っ!!」

ふわりっ ひゅかっ

女騎士(この怪物の、大主教の弱点は……
 戦闘経験の少なさ。……っく。
 圧倒的な力を持ってはいても、戦闘の回数自体は、少ない。
 そして、その経験の元になってるのは、おそらく……
 爺さんとの戦い。
 ……爺さんは、勝て無いと判っていた。
 判っていたから、勝とうとはしなかった……。
 
 “自らの敗北を持って、こいつに仕込んだ”
 “間違った戦闘経験という毒の入った餌を”)

大主教「何をしたっ!? その動きはなんだっ」

女騎士「偶然だ……。はぁっ……はぁっ」

大主教「瀕死の女がっ」

女騎士(この方法でも、時間稼ぎに過ぎない。
 動きには隙がある。
 爺さんが仕込んだ罠の戦闘経験のせいで
 この化け物の攻撃にはリズムが“ありすぎる”。
 それに攻撃はどれも強力だが、真っ正直で、直線。
 だけど……。
 私の攻撃じゃ、通じない。
 あの黒い霧も、おそらく精霊祈祷の光の壁も越えれない。
 わたしの使える“光壁”はこいつだって使える。
 その上再生能力まで……。
 あれがもし勇者の力のコピーなら致命傷以外は
 全て回復しかねない……)


429 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 18:53:06.86 ID:VaDFVbYP
大主教「この衣を引きはがせるのは勇者のみっ。
 そして勇者が力を失った現在、
 我の力を阻めるものは存在しないっ!」

ガキィッ! ギィン!

女騎士「その力で何を目指すっ!? 過ぎたる力でっ」

大主教「我は“次”へ向かうのだっ」

女騎士「次――?」

ギィン! ギキィン! ガッ!
女騎士「っ!」

大主教「そうだ。“次”だ。“次なる輪廻”だっ。
 この世界はもはや収斂の最後の段階にあるっ。
 これが逆転することはあり得ぬ。
 生きようが死のうが構わぬではないか。
 どうせ全て“無かったこと”になるのだっ。
 思い出さえ残らぬ。思い出す存在も全ていなくなるのだからっ」

ギィン! ガッ! バシィィ! ヒュバッ!

大主教「我はこの世界には未練はない。
 全てが滅びる時まで共にするほどの愛着も感じてはいないっ。
 我は“次なる輪廻”へと旅立つ。精霊の力をもってなっ。
 そして次の世界こそが終末点だ。
 全ての旅の終わり。――それこそが“喜びの野”っ!!
 なぜなら今や魔王と勇者の二つの力を兼ね備えた
 そして“ただの人間”である我の能力は全てを越え
 精霊さえも思うがままにする権能を手に入れるからだっ。
 あの聖骸の熱量を取り込んだ我は“次なる輪廻”にて
 光の精霊の地位を手に入れるっ!
 否! 光の精霊として“喜びの野”へと降り立つっ。
 そして、二度と世界を繰り返したりはしない。
 人は愚かで、醜く、度し難いっ。
 繰り返して救う価値などはないのだ。
 ただそこには永遠に続く我の箱庭さえあればよいっ!」


430 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 18:55:04.44 ID:VaDFVbYP
女騎士「魔王の力を弄び、出した答えが……っ」

大主教「女騎士っ! 跪き、命乞いをせよっ!」

女騎士「だれがっ!」
大主教「戯けがっ」

ビキィィ!

女騎士(これはっ……!)

大主教「小器用な動きで回避を繰り返すが、
 そのような手妻など何ほどのこともないっ。
 我にはそれに対応するだけの膨大な力が、すでにある」

女騎士(まずいっ。これは広域殲滅用のっ……!)

ジリっ! パチパチパチパチ……

大主教「ふふふっ。命乞いをする気になったか?
 われを光の主として崇める気になったか?」

女騎士「黙れ。……私は湖畔修道会の騎士。
 そして剣を捧げた主は、勇者ただ一人!!
 たとえ、全世界が雪を染める黒い煤のごとく汚れていようと、
 お前が全てを焦がし尽くすほどの戦力を持っていたとしても
 二君に仕えるような剣を私は持っていないっ。
 私はっ。
 勇者のっ!!
 勇者だけのっ!! 守護騎士だっ!!」

 ギィィィンン!!!

大主教「よく言った。死ぬが良いっ!!
 24音! 集いて唱和せよっ!! “超高域雷撃滅呪”っ!!」

女騎士「〜っ!!」

 ――ズシャァァァーン!!

434 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 19:51:36.63 ID:VaDFVbYP
――開門都市近郊、遠征軍本陣

ギィン! ドグワァ!!

軍人子弟「後続っ! 立て直すでござるっ!!」
鉄国少尉「あのマスケット部隊を落とさなければ……っ」

ズギュゥゥンっ!

軍人子弟「ライフルの支援があるでござるっ!
 カノーネ部隊まで突撃! 四列縦走っ!」

鉄国騎士「大地のためにっ!」 ガシャン!
鉄国騎士「地の果てまでもお供しますぜっ! 卿!」

軍人子弟「はははっ! 行くでござるよっ! 突撃っ!!」
鉄国少尉「くっ!」

 ドゥン! ドゥン!! ドゥゥン!!

 光の銃兵「く、くるなぁ!! 来ないでくれぇ」
 光の銃兵「撃つぞ、撃つんだぞぉ!」

鉄国騎士「やぁぁぁぁ!!」 ガキィン!
鉄国騎士「はぁっ!」

軍人子弟(すでに損害が20を越えたでござるっ……。
 だが、もうすこしっ……。あと数百歩で、
 カノンにたどり着けるっ)

鉄国少尉「どけぇ!! 我が道を阻むものは、
 鉄国少尉が相手になる。退がれぇ!
 精霊の名を戦に用いる卑怯者っ!! 恥を知れっ!!」

 光の銃兵「ひぃっ! 死にたくないっ」
 光の銃兵「俺たちだって死にたくないんだぁ」

 ドゥン! ドゥン!!

鉄国少尉「っ!! がふっ!」


435 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 19:52:58.45 ID:VaDFVbYP

軍人子弟「少尉っ!!」
鉄国少尉「心配……無用です……」

ギィン! ガギィン!!

鉄国騎士「突撃っ!! 続けっ!」
鉄国騎士「二列、波状にて突貫っ!」

鉄国少尉「今はカノーネをっ!!」
軍人子弟「……ついてくるでござるよっ」

鉄国少尉「ええ。……ええ! どこまでだって!!」

軍人子弟「落馬するなら見捨ててゆくでござるっ」

鉄国少尉「お任せくださいっ。
 わたしはまだまだあなたに
 学ばなきゃならない事があるんです。
 そしてあの素朴な国をいつまでも
 守らなきゃならないんですからっ」

 ドゥン! ドゥン!! ドゥゥン!!

軍人子弟「道を開けよっ!! 開けるのだっ!!」

ダガダッダガダッダガダッ!

鉄国少尉「護国卿……」

軍人子弟「いつまでもこの下らぬ騒ぎを
 続けるつもりでござるかっ! 拙者はっ!!
 拙者はもう、うんざりでござるっ!」

 ギンッ!!

軍人子弟「焦げた匂いもっ!」

 ガギンッ!!

軍人子弟「耳を覆いたくなる悲鳴もっ!!」

 ドガァッ!!

軍人子弟「もうお終いにするでござるよっ!!」


437 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 19:54:02.21 ID:VaDFVbYP
――開門都市、9つの丘の神殿の鐘楼

ざぁざぁ〜っ……

器用な少年「風が出てきたなぁ」

若造傭兵「この高さだ。仕方ない」
生き残り傭兵「気をつけろよ」

器用な少年「まかせとけよぅ。いいのかな」

――ゴォォン――どけぇ、どけぇ――精霊は――

生き残り傭兵「いっちまおう」
若造傭兵 こくり

器用な少年「んじゃ、鳴らすぜ。……重いっ。
 なんて重いんだよ、このやろう。んっせぇっ!!」

若造傭兵「……」
生き残り傭兵 ごくり

器用な少年「よいっしょぅ!!」

――ァン。カラァン! カラァン!! カラァン!!

若造傭兵「よし」

カラァン! カラァン!! カラァン!!
 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!

生き残り傭兵「他のみんなも成功させたか。
 九つの鐘が鳴っている。ははっ!
 みんなぽかんと見上げてるぜ! 遠征軍も、都市の連中も!」

器用な少年「そりゃいいけれど、
 どーやって逃げ出すんだよ、こっから!」

若造傭兵「そいつぁ姉ちゃんがどうにかすんだろうよ。
 俺たちはほんの一分か二分、
 連中を呆気にとらせりゃそれでいいのさ」

438 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/16(月) 19:55:54.32 ID:VaDFVbYP
――開門都市近郊、世界の終わりのような戦場

 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!

  斥候兵「え?」

  光の銃兵「な……」
  光の槍兵「なんだ、この音は」

 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!

鉄国騎士「音が……」
軍人子弟「音が降ってくるで……ござる……」

 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!

光の農奴兵「どこから……」
光の傷病兵「大聖堂の鐘みてぇな……」
光の少年兵「なんて綺麗な音なんだろう」

奏楽子弟「陽が差し込んでくる」

 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!

獣人軍人「風が吹いてくる……」
巨人作業員「オォ……砲声が、やんだ……」

義勇軍弓兵「静かだ……。戦場なのに」
土木師弟(雲が、切れる……。奏楽子弟……)

 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!

王弟元帥「なんだっ。鐘の音ではないか。
 貴族軍が占領を達成したのか。この音は、この風はっ」

  ザクッザクッザクッ

聖王国将官「元帥閣下っ。お気を付けくださいっ」

ザクッザクッザクッ

貴族子弟「――」

王弟元帥「……ここで来るか」

メイド姉「お目にかかりに参りました。王弟閣下」にこり


461 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/17(火) 00:41:50.23 ID:Afl8afoP
――開門都市近郊、遠征軍本陣、その中央

 ラァン……! カラァアン!! カラァアン!!

王弟元帥「約束どおり、というわけか」
メイド姉「はい、お約束どおり」

王弟元帥「それにしては援軍の姿が見えないが?」
メイド姉「いずれ参ります」

王弟元帥「ここは戦場だ、女子供の来るところではない」

メイド姉「勇者だ。と申し上げたはずです」

王弟元帥「……退くつもりはないということか」

メイド姉「退いて頂く交渉をしに来たのですから」

王弟元帥「この期に及んで。この血と硝煙の香りに満ちた
 裂壊と怒号の戦場においてそのような綺麗事を語るか。
 ここは死と鋼鉄がその意を通す場所だ。
 宣告しておいたはずだ。次に出会う時は戦場だと。
 我は我の意志を通すためならば、娘。
 そのはらわたを串刺しにすることも厭わぬ」

聖王国将官「閣下……っ」

メイド姉「王弟閣下はそのようなことはなさりません」

王弟元帥「なぜそのようなことが云えるっ」

メイド姉「この戦場に存在する勢力、軍勢のうち、
 私の麾下にあると観測されるものは一つもないからです。
 で、ある以上、この場で私を殺したとしても、
 それは王弟閣下が、目障りにわめき立てる小娘一人を
 腹立ち紛れに黙らせた、と云うことに過ぎません。
 戦場に満ちる問題を一個として解決することにはならない。
 それは個人的なただの気晴らし。
 ……王弟閣下はそのようなことはしません」

王弟元帥「ずいぶん高く買ったものだな」
463 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/17(火) 00:43:42.16 ID:Afl8afoP
メイド姉「そのようなことをするくらいならば
 私を生かしておき出来るだけの情報を絞ろうとする。
 もしくは何らかの勢力に対しての
 外向的な取引材料になるのならば身柄を拘束しようとする。
 その方が妥当です。
 合理的、と云う意味では、中央諸国家で
 もっとも信用に値する方だと思っています」

王弟元帥「……。自らが云ったように、拘束されると
 云うことは考えぬのか。若い娘の身で」

メイド姉「我が身可愛さをここで出すくらいなら
 そもそもこの戦場に立つ資格はない。
 そう思いませんか?」にこり

 ……ァァン。カラァァン。

王弟元帥「この鐘の音も、そなたか?」
メイド姉「そうかもしれませんね」

 あ、あの娘は……?
  王弟閣下になにを……あの娘……まさか
 まさかって……まさか、魔族?
  い、いや人間に見えるぞ、誰なんだ
 ざわざわざわ……

王弟元帥「よかろう。前置きは終わりだ。
 聞こうではないか。その方の要求を」

メイド姉「戦争の終結。遠征軍の撤退です」

王弟元帥「出来るはずもない」

メイド姉「この都市は都市国家としての主権を持っています。
 また、遠征軍が通ってきた領土は
 この地に済む氏族の支配領域七つを侵犯しています。
 遠征軍が犯してきた犯罪的行為を続けることは、
 遠征軍およびそれぞれの所属国家に
 百年にわたる大きな負債を背負わせるでしょう」


464 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/17(火) 00:45:55.43 ID:Afl8afoP
王弟元帥「この度の遠征は先にも述べたとおり、
 教会の宗教的号令に従って自発的に集った
 自由意志の民衆による聖遺物奪還運動なのだ。
 その運動を国家の責に帰そうとする論には賛成できない」

貴族子弟「そのような言い逃れが通るとでも?」

王弟元帥「どのような道理であろうと、
 道理を守るには相応の力が必要だ」

貴族子弟「どのような理不尽でも暴力が伴えば
 この世界においてまかり通ると聞こえますね」

王弟元帥「真実であろうさ」
貴族子弟「……っ」

メイド姉「力とは……。暴力とは常に相対的なものです。
 “有るか、無いか”などという
 粗雑な議論をするつもりはありません。
 相手との相対的な差違のみが意味を持つのですから
 絶対量は意味がない」

王弟元帥「賢者の言葉だな。だが、それがどうした」

ザカっ!!

参謀軍師「王弟閣下っ!!」

王弟元帥「どうしたっ」
聖王国将官「何があったのです」

参謀軍師「そ、それがっ」ちらっ

王弟元帥「申せ」

参謀軍師「は、はいっ。それが、まだ遠距離ではありますが
 徒歩一日以内の地点に、魔族の援軍、数万が集結を」

メイド姉「――」
王弟元帥「数万だと……」

参謀軍師「いえ、それは最低限でして。
 ……とどまる様子はありません。
 この様子では、数日のうちに十万を超える恐れも」

465 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/17(火) 00:48:16.40 ID:Afl8afoP
メイド姉「――」 にこにこ

王弟元帥「これが。……これがその方の援軍か」

メイド姉「そうとって頂いても構いませんよ?」

貴族子弟(よく言う。……その数は、軍勢なんかじゃない。
 忽鄰塔にあつまってきた非武装の魔族の民だ。
 魔王の戦いを見届けるために集まった氏族に過ぎないじゃないか。
 数はそりゃ確かに十万にふくれあがるかも知れないが、
 所詮は泡だ。マスケットでつつけば、パチンと割れる)

メイド姉「……」
王弟元帥「……」 ぎろっ

聖王国将官「い、いかがいたしましょう」

メイド姉「……」
王弟元帥「……はったりだな」

貴族子弟(なっ!? だからといって、気が付くのかっ!?)

メイド姉「とは?」

王弟元帥「この短期間でそれほどの援軍を組織できるはずもない。
 もし組織できるのであれば、とっくに現われて
 我が軍に一撃を食らわせているはずだ。
 で、有るならば、その軍勢は幻術による偽りか
 なんらかの策……。
 たとえば、偽の軍装によっていつわった烏合の衆なのだ。
 それだけの戦力を温存する理由は、無い」

メイド姉「それでも、構わないのではありませんか?」
王弟元帥「なぜだ」

メイド姉「いま、重要なのは“開門都市を包囲していた遠征軍が
 二週間をおいてもなお都市攻略に成功していない”という事実。
 ここに“包囲していたはずの遠征軍が、十万の魔族によって
 逆に包囲されている”という事実を加えれば……。
 ……軍が本物か、偽りかなどというのは
 些末な違いに過ぎないかと思います」

聖王国将官「そ、それは……」

王弟元帥「軍の士気、ひいては我が掌握能力に問題があると?」


466 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/17(火) 00:50:51.51 ID:Afl8afoP
メイド姉「普段であるならば問題はないでしょう。
 しかし、良くも悪くも王弟閣下の仰ったように、
 この遠征軍の大儀は信仰です。
 精神的支柱を王弟閣下のカリスマだけに
 依存するわけにはいかない。
 それが可能であったとしても、です。
 そして、今のこの乱戦は、信仰の中心が揺らいでいるせい。
 ……ちがいますか?」

王弟元帥「好きに解釈すれば良かろう」

メイド姉「この状況下において戦闘を継続すればどうなります」

聖王国将官「……」

貴族子弟(流れは悪くないのか……。しかし、先が読めない。
 相手が悪い。いくら我が姉弟弟子とはいってもなぁ)

メイド姉「どちらが勝つにせよ、双方に壊滅的なダメージが残る。
 そのようなことは百害あって一理もないではありませんか」

王弟元帥「確かにそうなる可能性が高いだろう。
 しかし、では撤退をしてどうなる?
 この戦を始めたのは教会だ。
 では教会が責任を取るのか? 否だっ。
 責任など取りはしない。
 そして、責任を誰も取らぬ以上、
 この遠征に財をつぎ込み財政難に陥った諸侯は
 秩序を保つことが出来なくなるだろう。
 そうなってしまっては略奪が横行し、
 中央国家群でも小競り合いが頻発することは想像に難くない。
 この魔界で富を。少なくとも、富の予感を手に入れない限り
 中央諸国家のふくれあがった欲望は制御不能なのだっ。
 それはつまり、中央諸国家体制の崩壊。
 その方の云う“壊滅的なダメージ”だ」

メイド姉「そんなっ」

王弟元帥「撤退しても戦っても、我がほうには壊滅的な被害が出る。
 ならばここは戦って魔族や南部連合にも
 ダメージを与えておくべきなのだ。
 そうすれば復興の時間に、外部から侵略をされずに済む。
 違うかな? 学士の娘よ。それが国家の安全保障ではないか」
467 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/17(火) 00:52:58.61 ID:Afl8afoP
ザッザッザッ

東の砦将「そいつは、族長としていかがなもんかね。
 自滅しながらの巻き添え攻撃のような策略とは
 下策としか言いようがないと思いますぜ」

青年商人「遠征軍の責任者“ではない”以上、
 仕方ない判断かと思いますよ」

聖王国将官「お前達は何者だっ!」

東の砦将「何者かと聞かれてますが」
青年商人「一番乗りだと思ったんですが、ね。
 ですから、あの方の知己にはいつも驚かされる」

東の砦将「このお嬢さんは?」
青年商人「あの方の家で会いました。そうですね?」

メイド姉「はい、ご無沙汰しています」ぺこりっ

貴族子弟(青年商人。同盟の有力商人、十人委員会の一人。
 かつて出会った時よりもすごみをましたなぁ。
 師匠並だぞ、この迫力は)

王弟元帥「貴公らは何者か。
 このような戦場のまっただ中に何をしに来た?」

東の砦将「それがしは。あー。あの開門都市の氏族長。
 人間で云うところの市長を務めている。砦将といいますな」

青年商人「あの都市の防衛軍最高責任者
 その代理というところでしょうか。青年商人と申します」

聖王国将官「っ!? 銃士っ! こいつらをっ!」

王弟元帥「やめろっ!!」

聖王国将官「〜っ!?」

東の砦将「良い判断ですな」 ……すっ


470 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/17(火) 01:31:44.78 ID:Afl8afoP
王弟元帥「いつカノーネを鹵獲した?」

東の砦将「いや、一台くらいならね」

王弟元帥「揃ってお出ましとはなんの話だ。
 降伏でもしに来たのか? ふふんっ」

青年商人「馬鹿を云わないでください。スカウトしに来たんですよ」

王弟元帥「は?」

青年商人「聖王国の王弟将軍と云えば、
 中央大陸でも名の知られた英雄。カリスマですからね。
 合理的思考と切れすぎる戦略で
 早くから名を馳せた戦場の風雲児。
 戦術戦略のみならず、外交や財政にも果断な判断能力をもつ
 大陸最大級の人材です」

王弟元帥「ずいぶんと詳しいのだな、人間の事情に」

青年商人「私は人間ですよ。人間が魔族の軍を
 率いていては変ですか?」

王弟元帥「いや……。そうか。
 『同盟』に異端の商人がいると風の噂で聞いた。
 小麦相場で大陸中の金貨をさらったというのは……」

東の砦将「はぁ!? そんなことまでやってたのかぁ?」
青年商人「人聞きが悪いですよ。ほんのちょっぴりじゃないですか」

聖王国将官「――“小麦を統べる商人王”」 がくがくっ
メイド姉「ふふふっ」

王弟元帥「その男が何を求める」

青年商人「ですからスカウト。人材の勧誘と、一つの質問を」


471 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/17(火) 01:33:51.24 ID:Afl8afoP
王弟元帥「――どいつもこいつも、戦場である弁えもなく」

ザッ

冬寂王「であるならば」

王弟元帥「おまえは、冬寂王っ!」

冬寂王「率直な降伏勧告は、我が方のみということかな」

王弟元帥「降伏勧告だと。南部連合に?
 中央大陸の秩序の破壊者に下げる頭など無いわっ」

冬寂王「南部連合に下げろ、とは云わぬさ。
 ……ここに書状がある。修道会からだ」

聖王国将官「修道会、から……?」
王弟元帥「なにを」

貴族子弟「そうきましたか。……ずいぶん思い切りますね」

メイド姉「冬寂王様」
冬寂王「どうした? 学士よ」

メイド姉「……なにとぞ慈悲を」
冬寂王「判っている」 こくり

王弟元帥「何を言っているっ」

冬寂王「まぁ、時間を掛けて読むが良かろう。
 言葉を飾ってあるが、中身はこうだ。
 “人の国に入り込んで戦を行なうようなものは、破門する”
 それだけだよ」

王弟元帥「破門……」
聖王国将官「それは」
472 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/17(火) 01:35:54.16 ID:Afl8afoP
貴族子弟「もちろん、聖光教会を奉じる聖王国にとっては
 直接何らかの影響があるわけではありません。
 もちろんお気づきだと思いますが、この書状の意味は」

――天然痘の接種は、受けさせない。

聖王国将官「〜っ!」

貴族子弟「そのようなことになれば、5年、10年を待たずに
 国は寂れ、人々は移住し……。交易の順路からも外された
 地方の村のような惨状になるかと」

メイド姉「私はそのような交渉方法を好ましいとは思いません」

冬寂王「もちろんだ。だが、学士よ。
 そもそも、戦争とは好ましいことではないのだ。
 そして、チャンスがあるのならば、
 どんな手段を使ってもそれを終わらせる。
 この交渉の場はは、我が南部連合の兵士の命であがなった
 数少ない空隙だと云うことも忘れて貰っては、困る。
 もはやここに至っては、交戦行為を一刻も早く終わらせることが
 慈悲であると知ってくれ」

王弟元帥「破門を引き下げる代わりに、降伏しろと?」

冬寂王「そうだ」

王弟元帥「遠征軍は我一人の意志で動かせる軍ではない。
 大主教猊下の号令によって動く、複数の国家、
 そして多くの領主の参加する軍だ。
 我のみが破門を免れたとしてどのような責任も取れぬ」

青年商人「逃げ口上はやめてください。
 どう考えても、どう見ても、
 あなたが実質上の意志決定者であることは疑う余地がない」

王弟元帥「ここまで混沌と狂信に染まった軍を
 撤退させる難しさが判らない貴君らではあるまいっ。
 すでに賽は投げられた。一矢は射られたのだ。
 もはや雌雄を決するしかないのが判らないのか。
 時の流れは、人間か、魔族かのどちらか一方を選ぶと
 その意思を表したのだ。
 この世界は、両者を住まわせるに
 十分な広さがないとなぜ判らぬっ。
 世界はそれほど寛大ではないのだっ」


474 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/17(火) 01:41:35.63 ID:Afl8afoP
メイド姉「争いを始めるのに精霊を理由に用い、
 今また争いを継続するために世界を言い訳にするのですか?
 ――たしかに。
 確かに“彼女”は間違ったかも知れない」

東の砦将「は?」

メイド姉「確かに“彼女”は間違ったかも知れない。
 わたし達がこんなにも愚かなのは、
 彼女がわたし達に炎の熱さを教えなかったから。
 わたし達はゆりかごの中でそれを学ばずに
 育ってしまったのかも知れない。
 それは彼女の罪なのかも知れない。
 しかしいつまで彼女と彼女の罪に甘えるつもりですか、我々はっ」

聖王国将官「何を……。何を言っているのだ?」

メイド姉「“彼女”に……。
 光の精霊にいつまで甘えているのかと問うているんですっ。
 争いを始めるのに“彼女”の名前をいつまで使うのですか?
 人を殺すのに彼女の名前を用いて正当化するなどと云う
 卑劣な責任回避をいつまで続けるおつもりですかっ。
 “この世界は、両者を住まわせるに十分な広さがない”?
 世界の許可が必要なのですかっ!?
 わたし達が……。
 今! ここにいるわたし達が、今この瞬間に責を取らずして
 どこの誰にその責任を押しつけようというのですかっ。
 確かに民は愚かかもしれません。
 しかし、彼らは望むと望まざるとに関わらず、
 その責任を取るのです。
 飢え、寒さ、貧困、戦。
 ――つまるところ、望まぬ死という形で。
 王弟閣下。あなたは英雄ではないのですか。
 私はそう思っています。あなたもあの細い道を歩く一人だと」

王弟元帥「何を望むのだっ。勇者よ。
 世界を守るというのならば――。
 世界を変えるというのならば、我にその方の力を見せるが良いっ」

メイド姉「望むのは平和。ほんの少しの譲歩。
 そしてわずかな共感と、刹那のふれ合い。
 それだけしか望みません。
 それだけで、わたし達は立派にやっていける。
 その後のことは“みんな”が上手く形にしてくれる。
 私はそれを信じています。
 だって信じて貰えなければ、私は人間でさえなかったんですから。
 あの日、あの夜。あの馬小屋の中で
 虫けらのままで死んでいたんですから」
476 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/17(火) 01:42:24.23 ID:Afl8afoP
青年商人「……」
冬寂王「……」

王弟元帥「その戯れ言を通すだけの力が、
 その方にあるというのか」

メイド姉「私に武力はありませんから」
王弟元帥「お前の援軍とやらは、
 全て集まるのにまだ十日もかかるのだぞ」

メイド姉「では、私が連れてきた本当の援軍をご紹介しましょう」

聖王国将官「なっ!?」 きょろきょろ

王弟元帥「見せてみるがいいさ。
 その方の甘い理想論をかなえる力とやらを」

メイド姉「はい……。王弟閣下、手をお借りしますね」

     ぱぁぁああああああ!!!

王弟元帥「そ……それはっ……」

メイド姉「――“ひかりのたま”です。
 これは、彼女の残した恩寵。
 光の精霊自らがこの世界へと残した、忘れ得ぬ炎」

聖王国将官「ま、ま、まさかっ」

――な、なんだあの光は!? ――ま、まさか精霊さま!?
 あの娘っこは、精霊様の使いだったのか!?
 間違いない、この光は……
 なんて優しい、綺麗な光なんだ……。
 身体の痛みがみんな、何もかんも無くなっていくようだ。
 精霊の巫女様に違いねぇ……

メイド姉「はい。勇者の名において。
 これが“聖骸”であると、ここに告げましょう。
 そしてこの聖遺物を……。王弟閣下に贈ります」

東の砦将「っ!?」

青年商人「……ははっ! ははははははっ!
 これはすごい。すごいなっ!」

王弟元帥「なぜっ!? 何をしている、なぜそうなるっ!?」


477 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/17(火) 01:44:14.24 ID:Afl8afoP
メイド姉「私の援軍は、あなたです」

王弟元帥「!」

メイド姉「王弟閣下が、私の援軍です。
 魔族が人間に、ではありません。
 開門都市が、聖なる光教会に、でもありません。

 わたしが、あなた個人に“聖骸”を贈ります。

 あなたであれば、この“聖骸”を守り、
 正しく用いてくれると信じるからです。
 あなたであれば、聖鍵遠征軍を退けるに当たって
 私のもっとも有力な援軍になってくださるからです」

東の砦将「……こいつぁ。奇襲なんてものじゃねぇや」

参謀軍師(何と言うことを考えるのですか、この娘は!!
 確かに、この衆人環視の中、これだけ多くの将兵が見つめる中で
 聖遺物を取り出されては……。
 我々の大義の上で、無碍にするわけにはいかない。
 この“聖骸”を求めてはるばるとやってきたという
 それが目的の組織である以上、こうして贈られてしまえば、
 これ以上開門都市を攻略、攻撃をするという理由自体が
 消失してしまう。
 その上、この清らかなる光、偽物であるとはとても云えない。
 何よりも将兵達は一瞬で納得してしまった。
 この宝玉が“聖骸”であると信じてしまった。
 その“聖骸”を個人間であろうが、こうして贈られるというのは
 ある意味で、開門都市が頭を下げたに等しい。
 国家としては礼を返さぬ訳には行かぬ。
 しかも狡猾なのは、たとえ我々が礼を尽くさなければならぬと
 しても、開門都市も魔族も実際には一歩も譲ってはいない、
 何ら妥協も譲歩も、実際にはしていないという点だ。
 これは個人間の贈答に過ぎないと娘は明言している。
 ……多くの将兵は満足感を得るが、領地や賠償金などのやりとりは
 発生しないようになっている。この娘、そこまで計算をして……)

冬寂王「重いな。……王弟殿」
479 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/17(火) 01:45:22.50 ID:Afl8afoP
参謀軍師(そうだ。まさにその通りだ。
 その上、これはとてつもなく重い決断を迫られる贈答物でもある。
 この“聖骸”を受け取ったとして、聖王国の取り得る道は三つ。

 第1の案は“聖骸”を聖光教会に献上する、というものだ。
 しかし、それはもはや政治的にそこまでのうまみはない。
 聖光教会はおのずの領分を越えて国家への干渉を強めている。
 また、この学士という娘は“正しく使ってくれると信じる”と
 断言した。つまり、それは、この“聖骸”を教会に譲るなど
 という手段に出ればそれ相応の報復を覚悟しろと云う
 恫喝であると云えなくもない……。
 
 一方、この“聖骸”を聖王国そのものが管理すると
 云うことも考えられる。これが第2の案だ。
 ……その場合、“聖骸”を所有する聖王国王家は
 光の精霊由縁の血筋を持つ王家として、
 中央諸国家の数多の王家とは別格の正当性を持つだろう。
 まさに、支配権を天より携わった選ばれた王家だ。
 この正当性は、旧来の秩序を維持したいという聖王国の政策上
 巨大な、余りにも巨大な利点だ。
 民衆も歓呼の声を上げて歓迎するだろう。
 ……しかし、この方法は二つの注意点がある。
 一つには、贈り物は、贈り物であると云うことだ。
 この“聖骸”の由来を語る時“魔界で贈られた”という縁起に
 触れざるを得ない。つまり、この方法を採るのならば、以降
 魔界とは何らかの形で友好的な関係を構築する必要がある。
 もう一点は、もし聖王国がこのようにして“聖骸”を
 管理するのだとすれば、教会との確執は免れないという点だ。
 
 第3の管理方法として、修道会と接近しそこに管理を委託する
 という事も考えられる。その場合、種痘の優先的な割り当てなど
 利点を得られる。これは国の民意を高める上でも有効だろうが、
 聖王国の目指す旧来型の権力構造に、修道会とその背後に控える
 南部連合からなんらかの圧力がかかる可能性は十二分に検討する
 必要がある。また第2の管理方法――聖王国の直接管理と
 同じように、教会との確執は避けられない。

 選ぶとすれば、2……だろうが。だとしても魔界には礼を尽くし
 この戦争はなんとしてでも終結させなければならない。
 戦争を続けるためには1しかないが、それでさえ
 “相手から聖骸を与えられておきながらも虐殺の限りを尽くした”
 という余りにも外聞の悪い戦争継続方法になり、
 士気はどん底にまで落ち込むだろう……)


482 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/17(火) 02:12:03.56 ID:Afl8afoP
王弟元帥「我の――我のっ。
 我の何を信じるというのだとっ」

冬寂王「能力だろう?」

聖王国将官「それは……」

貴族子弟「能力であれば一級品なのは判りますからね。
 実際容赦のない攻撃ですよ、本当に」

メイド姉「そうですか? 私は人柄も加味しましたよ?」

東の砦将「世間話みたいな雰囲気で、いけしゃぁしゃぁと」
青年商人「そういう一門なんですよ、彼らはね」

王弟元帥「巫山戯た事をっ。このような茶番をっ」

青年商人「ではお尋ねしますが、王弟閣下。
 王弟閣下こそ茶番をしているのではないのですか?」

王弟元帥「……なにを」

青年商人「なぜ無能な兄王を、殺さないのですか?
 なぜ元帥という位置になど留まり続けているのですか?
 全ての貴族に望まれ、何度となくその示唆を受け、
 唆されながらも、王よりも巨大な名声を得てしてもなお、
 なぜ元帥などという茶番を演じているのですか?」

聖王国将官「それは……」
王弟元帥「……っ。そのようなことっ」

青年商人「それが茶番でないのならば、
 彼女の言葉も茶番ではないのですよ。
 そして彼女の行為を茶番だと貶めるのならば、
 貴方のやっていることも茶番に他ならない。
 己の選んだ細い道。彼女はそう言いましたが
 貴方が貴方自身の掟に従い守るべき対象があるように
 彼女にもそれがある。
 そしてそれは茶番などと云う安っぽい言葉で
 片付けられるようなことではないっ」
484 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/17(火) 02:17:13.81 ID:Afl8afoP
東の砦将「……」

青年商人「さて、どうするんですか?
 もう一押ししなければなりませんか?」

王弟元帥「……その玉を、受け取ろう」

メイド姉「ありがとうございます」

冬寂王「これで、やっと……」

王弟元帥「それが我が国の国益に叶い。
 もっとも我の影響力を最大化できる手法だから選ぶまでだ。
 善意や好意などからでは断じてない。
 ……大陸は、教会の影響を受けすぎていたのだ」

聖王国将官「……閣下」

貴族子弟(素直さに欠けるね、まったく)

メイド姉「そうであっても構いません。
 いえ、だからこそ。それだからこそ手を取り合う意味があります。
 突発的な善意や好意からではなく、わたし達は利益を共有できる。
 それは二つの種族が今後もこの狭い世界の中で過ごすために
 必須の条件なのですから」

――損得勘定は、我ら共通の言葉だと。

青年商人「……そうでしたね。貴女はいつもそう言っていた」

 ぱぁぁぁああああ!!!!

東の砦将「なんて華麗な輝きなんだ」
メイド姉「この宝玉も、新しい持ち主を歓迎しています」

ゆらぁ、がさっ。がさっ。

百合騎士団隊長「ゆるさない。ゆるさない。
 そんなのはゆるされない。
 そんなのは、精霊の救いじゃない。
 そんなものは、赤き救済ではない。
 そんな結末は認めない。
 そんな救われかたはなかった。
 なかった。
 私にはなかった。
 貴女は精霊の巫女じゃない。
 それが聖骸であるはずがない。
 悪魔。――悪魔の使い。貴女は、悪魔のっ」

ゴゥゥゥーン!!




コピペおわり
【最 終 回】魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」【まおゆう】へつづく
【最 終 回】魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」【まおゆう】はこちらになります。
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