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暇つぶし本棚コミュの【第43話】魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」【まおゆう】

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コメントに続きます。全部で14コメの予定です。
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以下、コピペ↓


232 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/12(木) 21:09:16.59 ID:uEzyLrsP
――開門都市、南門周辺、市街戦

獣人軍人「下がれ! 押し寄せてくるぞ!!」

土木師弟「10番から20番まで、扉閉鎖っ! タールを流せ!」
巨人作業員「オオオっ!」

義勇軍弓兵「討て! 討てっ!!」

ひゅんひゅんひゅん!! ひゅんひゅんひゅん!!

人間作業員「土嚢だ。石も持ってきた!」
蒼魔族作業員「そこにおいてくれ。俺たちが積み上げる」

人間作業員「そこは矢が飛んでくるぞっ!」
蒼魔族作業員「だから俺たちがやるんだっ」

東の砦長「おい、おい。落ち着けぇ!
 まだ始まったばっかりだ。それに相手は貴族配下の
 欲の皮の突っ張った騎士どもに腰の引けた従者どもだぞ。
 こんなものはまだまだ手始めだ。気負うな!」

獣人軍人「退却する城壁、防壁、路地を確認っ」

土木師弟「……良く引き寄せてくれ」

巨人作業員「……家を……略奪しながら」

義勇軍弓兵「ふざけるな! 遠征軍どもめっ。
 人間はお前達のような恥知らずばかりじゃないっ」

ゴォォン!!

人間作業員「!! カノーネ!? お構いなしなのかっ」


※コメントに続きます
まとめ元:http://minnanohimatubushi.2chblog.jp/archives/1356330.htmlより

コメント(18)

235 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/12(木) 21:12:55.49 ID:uEzyLrsP
東の砦長「よぉく聞け! 衛門の一族よ! 魔族の強者よ!
 南区全域はこれより市街戦の戦場とするっ。
 すでに住民の避難も終わり、魔王の許可も出ている。
 本陣は無名神殿に奥だが、いずれは無明神殿まで譲り渡す。
 いや、無名神殿の方まで貴族軍を招き寄せて捕獲するぞ!
 いいか、街はここで大きな被害を受けるだろう!
 だが、街は街だ。
 人じゃない。
 戦が終われば再建できる。
 眼前の一戦にこそ、家族、同胞、氏族、そして魔界の
 興亡がかかっていると心得よっ!
 憎しみで戦うなっ。恐怖も怒りも視界を濁らせて自分の
 身を危うくするぞ! 無理はするなっ!
 この区域は俺たちが暮らしてきた街だっ。
 一から復興して、一つ一つ煉瓦を積み上げてきた都市だっ。
 この都市は俺たちの味方で、決して裏切ったりはしない。
 欲に駆られたヤツらは略奪や放火をしながら進んでくる。
 少しずつ、ヤツらを小さな部隊にほぐして、取り囲め!
 無理なら殺して問題はないが、もし可能なら生け捕りにしろ。
 戦闘力を奪うには、両手をへし折れば足りるっ。
 我らの街に勇んで入ってきたヤツらは、地上の王族や貴族だ。
 戦後身代金をたんまり払わせてやるぞっ!」

「「「おおっ!」」」

東の砦長「土木師弟さんよぉ、人足を指揮して、
 防壁の指揮を頼む。相手の上に矢を降らせて
 いらいらさせてくれ。ヤツらの経路誘導は全て任せたっ。
 獣人軍人っ。あんたは後詰めだっ。
 だからといって暇じゃないぞ。けが人の手当やさらに
 後ろへと運ぶ準備、それから捕虜の管理、全てやってもらう。
 後退軍の準備も進めてくれっ。
 俺は大通りに出て、ヤツらの主力を一回叩く。
 さっと下がるからな! 街の中央部へは行かせるな!
 あくまで無名神殿方面へと侵攻させ、被害を制御しろっ!」

ゴォォン!

東の砦長「この街は魔王そのものだっ。
 俺たちは魔王に恩義があるっ。
 そしてその魔王を守るために散っていった友との約定もある。
 この地を守ることは、俺たちがこの地の正統な住人だと
 名乗る上で欠くことの出来ぬ条件だ。
 ――故郷だからこそ守る、と人は言う。
 だがしかし、俺は新興の木っ端族長として言わせてもらうぜ。
 “守るために力を尽くしてこそ故郷と呼べるのだ”となっ。
 さぁ、だれ恥じることのない故郷を得るために、
 この都市を本当の意味で我らの故郷とするために
 俺たち力の最善をつくせっ!! 自分自身の未来の為にっ!」


236 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/12(木) 21:14:16.34 ID:uEzyLrsP
――開門都市南側、南部連合軍前線

ズギュゥウウン! ズギュゥゥン!

軍人子弟「600歩後退っ!」
鉄国少尉「600歩後退っ! 急げっ!」

将官「左翼騎馬部隊、準備完了っ」

軍人子弟「接近、騎射終了後即座に反転して離脱っ。
 行くでござるよっ!」

将官「了解っ!」

冬寂王「どうだ」

軍人子弟「小刻みに出入りを繰り返しながら
 敵軍を挑発中でござる。
 最初の斉射の後は、遠征軍の前線の指揮官も
 軍勢の内側に身を隠したようで
 なかなか隙を見せないでござるね」

「おぉぉぉぉ!!」 「光のために!」 「精霊は求めたもう!」
ギィン、キィン!!

鉄国少尉「騎射完了ッ!」

軍人子弟「300歩前進っ! 射撃準備っ」

冬寂王(細かいな。これほど緻密な運用をするのか)

軍人子弟「どうしたでござろう? 冬寂王」

冬寂王「いや、感心していただけさ」

軍人子弟「?」
237 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/12(木) 21:17:07.58 ID:uEzyLrsP
鉄国少尉「確かに驚異的な粘りですね」

冬寂王「む?」

軍人子弟「さすが王弟元帥という話でござる。
 歴史に残る采配でござるよ。
 これだけ指揮系統を炙って、少なからぬ混乱を
 起こしているにもかかわらず、前線が破綻しないでござる。
 それどころか、けが人を抗争して、素早い再構築を繰り返し
 前線密度が低下しないでござるよ。
 こちらの突撃はマスケットで押さえながらも、
 向こうのもくろみも進行させているでござる」

冬寂王「もくろみ、とは?」

軍人子弟「遠征軍は、開門都市南門で戦場を一つ、
 そしてここで我ら南部連合との間に戦場を一つ
 抱えているのでござる。
 二つの戦場の間には貴族や王族、教会の天幕やら
 糧食を集積した大規模な街にも匹敵する陣地を
 築いている……。
 この三つは、互いに距離もあり連携することは困難でござる。
 王弟元帥1人で目が届くのは我らとの前線くらいのもの。
 そしてその前線戦力では我らと互角。
 王弟元帥はこちらの誘いに乗らずに徐々に軍を斜行させ
 本陣、および南門前線方向へと戦場をずらしているでござる。
 おそらく前線と本陣の距離を圧縮して、数的有利を得る
 戦術でござろうね」

鉄国少尉「ま、こちらも織り込み済みですがね」

冬寂王「そうみえるな」

軍人子弟「しかし、それをここまで被害を押さえて
 行なうとは非凡でござる。良くする所ではござらぬ。
 敵でさえなければ教えを請いたいほどでござる」


238 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/12(木) 21:19:29.00 ID:uEzyLrsP
冬寂王「崩すのはやはり難しいか?」

軍人子弟「膠着はするでござるね。
 王弟元帥はこのまま戦場を圧縮し、
 おそらく本陣へも我らの銃声が響くような距離設定に
 することにより危機感を煽り、一気に本陣の予備兵力を掌握。
 その圧力にて、我ら南部連合を殲滅する計画でござろう」

鉄国少尉「……」

「大地のためにっ!」「我ら南部の旗の下にっ!」

ズギュゥウウン! ズギュゥゥン!

冬寂王「そのようだな」

軍人子弟「王弟元帥の器量がどれほどか」
冬寂王「そこは賭けにならざるをえんな」

鉄国少尉「は?」

冬寂王「器量が低ければ、軍の掌握を仕切れぬだろう」
 そして器量が充分に高ければ戦わずとも済む。
 ……高いことを期待したいが」

ゴォォン! ズゴォォン!!

冬寂王「カノーネか」

鉄国少尉「我ら主力軍、防壁まで後1里半に接近っ」

冬寂王「そろそろだな」

軍人子弟「本当に良いのでござるね?」

冬寂王「平和のためだ。惜しくはないさ」

軍人子弟「承ったでござる。輜重部隊、護衛部隊。準備を」
鉄国少尉「了解っ!」


239 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/12(木) 21:20:41.76 ID:uEzyLrsP
冬寂王「前線の構築と傭兵は鉄の国および貴君に一任する。
 我には南部連合のとりまとめとして、別の戦があるのだ。
 出立前から描いていたとおり、やらせてもらおう」

鉄腕王「良かろう。会議でも合意されたことだ」

鉄国少尉「輜重部隊に簡易装甲の準備良しっ。
 火竜大公よりの補給品、全て積み終わりましたっ」

羽妖精侍女「伝ワッテ欲シイデス」

冬寂王「力尽くでも判らせるほか、あるまいよ」

鉄腕王「こっちも準備よしっ!」

軍人子弟「狙撃部隊っ、突出してきた兵の鼻先を叩け。
 なるべく深く突っ込み、荷物を置き去りにするぞ!
 回収させるでござるっ!」

鉄国少尉「一番隊、二番隊、三番隊出発!!
 護衛歩兵部隊、長槍部隊進発っ!
 測距兵、マスケットの間合いを随時警告せよっ!
 距離はない、ゆっくり進んでもかまわん!!
 待避用の塹壕をこえて、慎重に行けっ!!」

冬寂王「では、我も出るか」

軍人子弟「それは――。前線はそれがしたちだけで
 大丈夫でござる。冬寂王が身を危険にさらすことなど」

鉄腕王「はははは。わしもでるぞ。ここは王族の出番だろう」

軍人子弟「っ! では、拙者も出るでござるっ。
 突撃準備っ! 鉄国兵団、構えっ!!」

鉄国少尉「了解っ!」
251 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 03:31:34.06 ID:rH.ZqWkP
――開門都市南側、遠征軍前線

   ズギュゥウウン! ズギュゥゥン!

王弟元帥「きめの細かい傭兵だな」
参謀軍師「姫将軍とやらでしょうか」

王弟元帥「いいや、この感覚は違うだろう。
 挑んでくるような破棄が感じられる代わりに、
 しぶとく不屈の、折れぬ剣のような気配だ。
 必殺の策を持っているという気迫ではないが
 負けぬ戦いの意志を感じる。南部も、層が厚い」

参謀軍師「マスケットの射程距離外で細かく兵を出入りさせて
 わが軍の指揮系統を消耗させているようです」

王弟元帥「このような戦、歴史にはないものだ。
 射程距離が長く、命中精度の高いマスケットか。
 ――だが、数は少ないようだな」

バサリッ!

聖王国将官「元帥閣下っ! 陣備えを半里ほど後退させました。
 本陣もあと少しで交戦領域です。本陣の予備兵力や
 光の子供達の間では緊張状態が広がっていますっ」

参謀軍師「で、しょうな。彼ら徴発された農奴兵達は
 王弟元帥に従って蒼魔族の領地まで遠征した経験もない。
 魔界についてから大規模な合戦もなく、
 攻城戦はカノーネが担当をしてきたわけでしょうから、
 実戦の経験が足りないのでしょう」


252 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 03:32:54.25 ID:rH.ZqWkP
王弟元帥「そのプレッシャーが吉と出るか、凶と出るか。
 しかし、ここまで前線と本陣を近づければ、
 教会も貴族達も本気を出さざるをえなかろうさ。
 伝令を出せ! 教会および本陣司令部に、援軍要請だっ。
 一気に南部連合を打ち破るために兵力集中を命ぜよ!
 これは全軍総司令からの指令だっ!」

参謀軍師「はっ。すでに伝令は用意してあります」

聖王国将官「これで兵力がそろいますね」

王弟元帥「一時しのぎに過ぎんがな。
 開門都市の入り口を固めるだけなら、貴族の私兵で充分だ。
 本陣のマスケット銃兵1万を増援として運用。
 このマスケット兵を右翼から南部連合軍にあてる。
 その混乱に乗じて、我らが鍛えた精鋭マスケット部隊を」

 ぐいっ

王弟元帥「一里ほど前進させるぞ。
 それで南部連合の本陣までたたきつぶす」

伝令兵「王弟閣下! 貴族達が援軍を求めていますっ。
 “開門都市南門付近の戦闘にて、魔族の抵抗激しく
  わが軍は窮地に立たされつつある、援護を乞う”と」

聖王国将官「恥知らずが」

王弟元帥「ふっ。戦局が見えていないのかっ。
 いってやるがいい! “わが軍後方より南部連合が侵攻、
 本陣との距離は一里を切り、全軍による総攻撃の段階にあり。
 後方の指揮を変わっていただけるなら、聖王国中核軍全てを
 もって南門周辺地域の制圧に向かおう”となっ」

参謀軍師「ふふっ」

伝令兵「かっ、かしこまりましたっ!」

だっだっだっ


253 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 03:34:13.00 ID:rH.ZqWkP
王弟元帥「参謀っ」
参謀軍師「はっ」

王弟元帥「教会に向けて書状を。口述筆記だ」
参謀軍師「はい」

王弟元帥「“いまや、南部連合軍間近に迫り
 開門都市との位置関係は我らを半包囲する状況に
 なりつつある。しかし一方、遠征軍には未だ豊富な
 兵力があり、反撃は充分以上に可能である。
 我が後陣は敵軍を制御しつつ戦場を設定した。
 これより、全軍総司令として本陣予備兵力の銃兵1万を
 増援として徴用。火力を持って南部連合を撃破する。
 大主教におかれては、我らが聖鍵遠征軍に祝福を”とな」

参謀軍師「釘を刺しますか」

聖王国将官「これならば、大主教も
 頷かねばならないでしょうね。南部連合を利用して
 遠征軍の石を固める、素晴らしい策です」

王弟元帥「……うむ」
参謀軍師「?」

王弟元帥「いや、良い。伝令兵を出せ! 急がせろ」

ゴォオオッン!! ゴォオオン!

聖王国将官「カノーネですな」

王弟元帥「貴族軍が攻め入っているにもかかわらず、
 後方からの射撃か。領主達が功を焦って
 足を引っ張り合っているな……」

参謀軍師「今は一刻も早く南部連合を平らげて、
 反転し指揮権を掌握すべきかと」

聖王国将官「了解っ! 伝令兵準備、前線を再構築しますっ」
254 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 03:35:27.38 ID:rH.ZqWkP
――開門都市、近郊、遠征軍本陣

ゴォオオッン!! ゴォオオン!

光の銃兵「お、音が近づいて来ただな」
光の槍兵「ああ……」
光の護衛兵「とうとう戦になるんだか。俺はまだ訓練でしか
 剣を振ったことがないのに……。ま、魔族か。
 来るのか、あいつらがっ」

    ギィン! キィン! 「……ために!」

光の銃兵「い、いや。そうとは限らないぞ。後方に迫ってる
 南部の裏切りどもの相手をすることになるかも知れねぇ」
光の槍兵「裏切り……かぁ……」

光の護衛兵「裏切り、なのか」

光の銃兵「だってそうだろう?
 あいつらは破門された異端者をかばった、異端の国々だ」

光の槍兵「腹一杯食うのは、異端なのかな……」

 ズギュゥゥン!!

光の護衛兵「っ!」

光の銃兵「今のは、近かったな」
光の槍兵「ああ、近かった」

ダカダッダカダッダカダッ!!

光の中隊長「お前ら、そろっているかっ!」


255 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 03:37:52.67 ID:rH.ZqWkP
光の護衛兵「はっ、はい」
光の銃兵「そろってるだよ!」
光の槍兵「そろっております」

光の中隊長「今より進軍を開始する、整列せよっ!」

光の銃兵「どこへっ?」
光の槍兵「……」

光の中隊長「光の子供の軍として、敵に突撃をするのだ」

光の銃兵「な、南部のヤツらですか!」
光の槍兵「南部かっ。くそっ! くそっ!」

光の中隊長「それは我らが考える。早く整列をしろっ!」

光の銃兵「はっ、はいっ!」
光の槍兵「了解しましたっ!」

わぁぁぁああ、わあぁぁぁあ

カノーネ兵「な、なんだ?」
光の護衛兵「あれは」
光の中隊長「――! 大主教さまだっ!」

光の銃兵「大主教さまが壇上に……? ほ、本物だか」
光の槍兵「大主教さま」がばっ

カノーネ兵 がばっ
光の護衛兵 がばっ

  参謀軍師「腰を上げてくれましたか。遅いお出ましですが」


256 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 03:40:12.44 ID:rH.ZqWkP
大主教「……汝ら光の子よ、いよいよ決戦なる時は来た」

 うわぁぁあああ! 大主教さま、大主教さまぁ!!!

大主教「我ら精霊の子らが邪教の都の防壁を攻めあぐねて
 長い時がたった。しかし見よ、眼前に扉は砕け落ちた!
 ……これは精霊の怒りの炎、御手に持つ雷霆の恵みである。
 立ち上がれ、精霊の、光の子らよ!
 時は来た! 精霊は求めたまう。
 精霊は自らを求める子らに無限の抱擁と優しさをもち
 喜びの野へと迎え入れるであろう……。
 我らが四方にもはや敵と云えるものはなく」

 参謀軍師(なっ!?)

大主教「精霊の光と慈悲は、あまねく世を照らす。
 見よ、南方に迫るは異端の軍である。
 我ら地上世界への生を許されながら魔族と通じ
 世界に穢れを振りまく者ども。きゃつらは敵ではなく
 もはや刈り取るべき腐った稲穂でしかない。
 光の子らの二万よ、あの軍を滅ぼすが良い」

ざわざわ、ざわざわ……い、いいのか。ほ、滅ぼす?

 参謀軍師「ばかなっ!」

大主教「見よ、北方には開門都市。邪教の都。
 精霊を奉じぬ邪悪の化身、魔族の住まう、腐敗と瘴気の
 源泉がそこにある。精霊の光を遮り、この世界に闇を広げる
 邪悪の根源を絶つべき、光の子らの二万よ、
 あの都を滅ぼすが良い」

ほ、ほろぼす? 全部で突っ込むのか? あの砲撃の中に……

 参謀軍師「それでは全軍ではないかっ! 予備兵力はどうなるっ!?」
257 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 03:41:27.70 ID:rH.ZqWkP
俺たちはまだ国に帰りたいんだ、異端なんてまっぴら……
だけど、人間を殺すって……戦争なんだ……
どうせ貴族が全てを……俺たちは何処まで行っても……

大主教「我はここに宣言する。これは聖なる戦。
 光の精霊の骸を我らが聖なる光の教えに取り戻す聖戦である。
 ――この戦において勇を示すは
 我ら光の子の最大の義務にして至高の奉仕。
 敵に情けをかけ、あるいは背を向けるは背教であると知れ!
 大主教と精霊の御名においてここに宣言をする。
 四方の異端を排除せよ!
 それが出来ぬものは、ことごとく異端であるっ。
 野に落ち顧みられることのない麦のように
 そのもの、腐れ行く未来を過ごすことになると知れ」

い、異端……魔族を殺さなければ……い、いやだ
腹が減った……だれか少しでもいいから……
異端になったら、俺だけじゃなく、娘や、妻が……
故郷の父も、母も異端に……

 参謀軍師(この流れでは。……あまりにも民衆に圧力を
  かけすぎではありませんか。これでは彼らが暴発してしまう)

大主教「剣を持て! マスケットを掲げよ!
 今日は祝祭の日! 奪え、殺せ、異端の全てを!
 破壊し尽くせ! もはや四方に散るは呪われた獣。
 進み、打ち、殲滅するのだ! 光の子らよ!
 精霊の祝福を! 精霊は求めたもうっ!」

……たもう……精霊は、求めたもう
精霊は求めたもう……精霊は求めたもうっ!!
奪え! 壊せ! 倒せ! 全てを我らが手に!!
……精霊は求めたもうっ!!……精霊は求めたもうっ!!

大主教「進むがよい、子らよ! 喜びの野は目の前であるっ!」


258 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 03:43:59.95 ID:rH.ZqWkP
――開門都市、南門周辺、市街戦

ゴォォン! ゴォオン!
 ドゥーン! ドゥゥン!!

光の槍兵「精霊は求めたもうっ!!」

光の銃兵「精霊は求めたもう! う、うわぁぁ!
 く、来るなぁ! 魔族は来るなぁ! 撃つぞ!
 撃ち殺してやるぞっ!!」

光の剣兵「行け! 進めぇ!!」
光の突撃兵「突撃だぁ!!」

貴族の私兵「なっ」
貴族騎兵「農奴兵どもか。やっと本軍を突入したとみえる。
 貴様ら、こちらだ、この通りから奥へ」

ドカッ! ズグググ、ダダダダッ

貴族の私兵「!!」
貴族騎兵「話を聞けっ! そちらはヤツらの陣地がっ!
 ええい、勝手に行くなっ!!」

ゴォォン! ゴォオン!
 ドゥーン! ドゥゥン!!

光の銃兵「精霊は求めたもう! 異端には死を……」
光の槍兵「お、俺たちは帰りたいだけなんだっ。
 お前達魔族がいるから帰れないんだよぉっ!」

光の剣兵「食い物を、食い物をよこせっ!!」
光の突撃兵「お前達みたいなのがいるからぁ!!」

……ドゥーン! ドォォーン!

観測兵「接近、マスケットを含む混成部隊1200ほど」

土木師弟「っ! 来始めたな。ここからが本番だ」
巨人作業員「……おお」
259 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 03:44:57.51 ID:rH.ZqWkP
義勇軍弓兵「まずは我らだな」

土木師弟「うん。防壁内側の射手通路に部隊を配置。
 引きながら攪乱射撃! 高低差を利用して頭上から射かけるんだ」

義勇軍弓兵「了解っ!」

人間作業員「投石準備できましたっ」
蒼魔族作業員「こちらも完了だぞっ」

キィン! ガキィン!!

土木師弟「いいか、これは甘さでも慈悲でもないっ。
 敵の命は残すんだっ!
 このような局地戦では、戦闘不能で十分。その方がいい。
 敵の方が兵力は大きいっ。重傷を負わせて、敵に後方輸送と
 治療を強制させろっ。特に貴族や騎士とかいう人間の
 お偉いさんを怪我させれば、おつきの人間や護衛の人間を含めて
 五倍の人数が戦場から撤退してくれるっ」

巨人作業員「わがっだ」

義勇軍弓兵「弓兵隊、整列よしっ!!」

人間作業員「投石機、準備よしっ」
蒼魔族作業員「焼けた石も混ぜたぞっ」

土木師弟「狙いは大通りっ。最前列の貴族集団っ!
 待てっ。いま、砦将の軍が引き上げる。まだだっ!
 まだっ! 俺たちの作った防壁を信頼しろ。
 この塔は容易く敵に落ちたりはしないっ。
 落ちるかっ。あいつを迎えるまで、俺の作った橋も
 俺の作った防壁も、落ちてたまるかっ!
 ――今だっ! いけぇ!!」

ヒュバッ! ヒュバッ! ヒュバッ! ヒュバッ!
  ヒュバッ! ヒュバッ! ヒュバッ! ヒュバッ!

 光の銃兵「なっ!? ど、どこから。うわぁ! くるなぁ」
  ドキュン、ドギューン!!

光の槍兵「撃つなっ! むやみに撃てば同士討ちになるっ」
光の剣兵「どこだっ。塔!? 防壁の塔だっ!!」
光の突撃兵「魔族めぇ!!」

土木師弟「第二攻撃準備っ! 前線工作班に伝達!
 小鳥通り、および砂塵通りをバリケードで封鎖、家を引き倒せ!」

巨人作業員「おおっ!」


265 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 04:21:53.62 ID:rH.ZqWkP
――開門都市、近郊、遠征軍本陣から南部連合軍

突き進め! 突き進め!
 我ら光の子! 異端を貫く輝く槍!

光の銃兵「精霊は求めたもう! 精霊は求めたもう!」
光の槍兵「うわぁぁぁ!! く、くるなぁ!!」

ドギュゥゥン! ドギュァァーン!

光の銃兵「てっ、敵だ!」
光の槍兵「南部の裏切り者だっ! 突き進めっ!
 異端の臆病者なんてマスケットの敵じゃないっ」

光の銃兵「そ、そうだな。大主教が守ってくれるさ。
 そうさ、そうじゃないと俺たちはっ。くっ。
 なんでこんな異郷の果てで……。う、うわぁぁ!!」

光の槍兵「来るなぁ! 来るんじゃねぇっ!!」

ドォォン! うわあああああ!!

 王弟元帥「戯けがっ! なんという混乱だっ!!」
 参謀軍師「閣下っ」

 王弟元帥「何をしたというのだっ! あの男はっ!?」
 参謀軍師「『聖戦』の宣告をっ!。
 そして本陣に存在する民兵全てを2つに分割し、
 それぞれ都市とこちらの前線に全力投入を宣告しましたっ」

 聖王国将官「馬鹿なっ」

 王弟元帥「〜っ!」

 参謀軍師「このままでは、あの軍は暴徒の群と変わりません。
  突破力はありますが、その勢いが途切れるところを
  狙われれば容易く崩壊してしまうに違いありませんっ」

 王弟元帥「その通りだ。南部連合の将は、我らのそのような
  失態をけして見過ごさぬであろう。このままではっ」

 聖王国将官「至急掌握を! 王弟閣下!」

266 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 04:23:20.94 ID:rH.ZqWkP
 王弟元帥「無論だっ! 行くぞ。騎馬部隊800近衛として
  我に続けっ! 先行する暴徒二万の先端を横合いから浚うっ」

 聖王国将官「はっ!!」

 王弟元帥「参謀っ! 後衛の取りまとめをっ」
 参謀軍師「はっ!」

 王弟元帥(っ! 後手に回ったと云うのか。大主教っ。
  この罪は高くつくぞ。この異教の果てにてその慢心、
  高慢、傲岸不遜っ。中央諸国家のみならず自らの版図、
  聖光教会の歴史をも終わらせるおつもりかっ!?
  やはり。戦場において2つの頭を持つ竜は生き残ることが出来ぬ。
  ――斬る。
  それ以外、我らが地上に帰り着くすべはないっ)

ドォォン! うわあああああ!!

光の銃兵「撃てっ! 撃てぇ!!」

光の槍兵「逃げるな! 南部軍!! お前達が来たから!
 お前達が裏切ったから、俺たちはこんなにも腹を減らしてっ!
 お前達が食料を独り占めしたから、
 俺たちはこんな故郷を離れた場所でっ!」

ドギュゥゥン! ドギュァァーン!

 聖王国将官「射程距離外でマスケットを撃っているようですっ」

ダカダッダカダッダカダッ

 王弟元帥「戦場の熱気に耐えられぬ民兵だ。仕方あるまいっ」

 聖王国将官「打ち方止めっ! 聞こえんのかっ!
  我らは王弟閣下の近衛なるぞっ! 従えっ! 従えっ」

うわぁぁぁあ!! くれ! いや、よこせっ!!
 俺のだっ!! 俺のものだぁっ!!

 王弟元帥「何が起きているのだっ!?」


267 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 04:24:42.79 ID:rH.ZqWkP
よこせ! それは俺のっ!
こっ、こっちの馬車もだっ!
――干しぶどうだ! 干しぶどうが入っているっ。
こっちの馬車には、水とエールもあるぞっ!?

 斥候兵「報告しますっ! 敵は撤退開始っ!
  速やかに前線を後退させてゆきます、それにっ」

 聖王国将官「何が起きているっ! 報告を」

 斥候兵「て、敵が残していった数十台以上の馬車にっ
  パ、パンや食料がっ!!」

 聖王国将官「っ!? 毒か? 食べさせるのを止めさせよっ」

 斥候兵「無理ですっ! 民兵の殆どは満足に食事も取れないような
  待機状態で長い包囲網を続けていました。
  体力も緊張も限界だったんですっ。
  前線はパンの奪い合いと、詰め込みあいで完全に膠着っ。
  この混乱を収拾するのは不可能ですっ」

 聖王国将官「なんていう……」

 王弟元帥「……」

 聖王国将官「どんな思惑があるというのだっ! 南部連合はっ」

ガサリ

 王弟元帥「――」

 斥候兵「そ、それがパンと一緒に大量に積まれていた
  木版刷りらしきものでして……」

 王弟元帥「……三食の保証。そして天然痘の予防。
  ここまできて。この魔界までやってきてっ!
  ――開拓民の募集、だと!? 冬寂王っ!!」
268 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 04:26:45.67 ID:rH.ZqWkP
 王弟元帥「お前は、この戦場までやってきて
  我らと矛を交えるつもりはないとでも云うのかっ!
  なぜ自らを否定するっ!
  王族に生まれ、民を支配する金の冠をその額に頂いて
  統治者として君臨してきた貴様が
  なぜ得体の知れぬ学者の娘のようなことを言い出すのだっ。
  答えろっ! なぜ自らの未来を塗りつぶすようなことをするっ。
  全ての秩序を否定して、無為を行なおうとするっ!
  見ろ、この民衆をっ!
  パンを与えれば泥の中でむさぼり喰らうっ。
  このように自分本位な者たちに何らかの権利や自由を与えて
  国が治まるとでも考えているのかっ!!
  答えろっ! 冬寂王っ。
  貴様はっ!
  “貴様ら”はっ!!
  この戦場に何を見ているのだっ!!」

 聖王国将官「王弟閣下……」

 斥候兵「南部連合軍、すくなくとも半里後退しましたっ」

 王弟元帥「〜っ!」

 聖王国将官「毒が含まれているわけでもなければ、
  これは戦術的には無意味な行為です。
  たかだか数時間の足止めが為されるだけに過ぎませんっ。
  我らは何も失ってはいないっ!
  落ち着いてください、王弟閣下」

 王弟元帥「判っている」ぎりっ

 聖王国将官「では、この隙に突出したマスケット部隊を
  収拾して、戦線を再構築。
  少なくなりましたがブラックパウダーを再配――」

 斥候兵「あれはっ!?」

 王弟元帥「あれは、なんだっ」


269 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 04:27:50.57 ID:rH.ZqWkP
――開門都市近郊、混戦状態の南市街廃墟

うわぁぁぁあ!!
 ドゴォォン! ドギュゥゥン!! ゴァァン!
 キィン! ギキィン!
石が! 燃える石がっ!
進め! 進めぇ! 精霊は求めたもうっ!
精霊は求めたもうっ! 殺せ! 魔族を殺せ!
異端を殺せ! 背教者を殺せ! 殺さなければ、剣を持たない者は
全て異端だ! 魔族と通じた裏切り者だっ!!

光の少年兵「……っく。うっ」

ずるっ……ずるっ……

光の少年兵「いやだ。もういやだ……」

光の少年兵「帰りたい」

光の少年兵「……殺すのはいやだ」

光の少年兵「……殺されるのはもっといやだ」

光の少年兵「痛い、苦しい、飢える、焼ける……」

ずるっ……ずるっ……

光の少年兵「……判らない。判らない」

光の少年兵「ううっ。戦いは、まだ……」

         どぉんっ! ドォォーン!

光の少年兵「……」

光の少年兵「ううっ。うぅ」


284 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 19:08:20.16 ID:rH.ZqWkP
光の少年兵「行った、かな」

光の少年兵(ここに隠れてれば……)

ガチャン!!

光の少年兵「っ!?」

光の少年兵「……? 荷物が落ちただけか。なんだろう。
 魔族の荷物かな。魔族の家だろうし」

光の少年兵(考えてみれば、僕は魔族の姿なんていっかいも
 ちゃんと見たこともないのに。なんでこんな世界の果てまで)

光の少年兵「……」

がさっ、がさっ

光の少年兵「服か」

光の少年兵「魔族も、似たようなの着るんだな。
 でかいな。これは、商人用なのかな……あ」

ぽろっ

光の少年兵「……これ」

光の少年兵(小さな、手袋。僕よりも半分くらいの。
 ……子供の。ううん、赤ちゃんの。魔族の、赤ちゃんの)

光の少年兵「……うぅ。なんだよ。何だって云うんだよぅ。
 こんなにちっちゃくて。魔族ってなんなんだよっ。
 なんでこんな風になっちゃってるんだよぅ。うううっ」

ゴォン! ゴゴゴゴゴ!! ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

光の少年兵「っ!? 今度は何がっ!?」
286 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 19:12:59.52 ID:rH.ZqWkP
――開門都市近郊、全ての人々

なっ!? なんだ、あれはっ!?

塔!? なんであんなものが。

判らない、突然。

突然現われたぞ!

光って、白くて、どれほど高いんだ。
まるで糸のように天空に伸びているじゃないか……。

光の塔だ……。

天に続く塔。

光の……精霊の、塔?

精霊の塔だっ!!

あれは、精霊の宝の眠る塔だっ!!

精霊が我らを迎えてくれている吉兆だっ!

いや、戦をいさめる凶兆だっ!

果てが見えない、なんて……。

なんて高い塔なんだ……。

いったい何が起こっていると云うんだっ!?


289 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 19:18:03.68 ID:rH.ZqWkP
――光の塔、おそらく下層

コオォォン……

勇者「ここが『天塔』なのか……」
魔王「まぶしくて、真っ白で眼がきついな」
女騎士「魔力感知が追いつかない。全体が高レベルの
 魔法具のような……。いや、それ以上の反応だ」

勇者「そのうち馴れるとは思うけど。大理石じゃないな、これは」

魔王「うん、部屋も通路もないようだ。
 ただひたすらに、巨大な螺旋階段と巨大な踊り場が
 遙か上まで伸びている……」
女騎士「本当に、ただの通路なんだな」

勇者「ま、この状況下だ。かえって有り難いさ」
魔王「そうだな」
女騎士 こくり

……コオォォン

魔王「行こう」
勇者「ああ」

コオォォン……

女騎士「どれほどの高さがあるのかな」

勇者「ちょっと判らないな」
女騎士「魔王も判らない?」

魔王「不明だ。話によれば1500里。途轍もない距離だ」

女騎士「そうか。――その、勇者は」
勇者「?」


290 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 19:19:21.44 ID:rH.ZqWkP
女騎士「身体は……。どうなんだ?」

勇者「ああ。なんか、さっぱりだ。
 いつもの半分の半分もも力が出やしない。
 どうもなんか特殊な呪詛でも喰らったような感じだ。
 たいがいの呪いは無効化できるんだけどなぁ」

魔王「そうか」

勇者「それさえなきゃ“飛行呪”で
 塔の内側を一気に飛んで登れるたと思うんだけどな」

魔王「それはどうかな」

魔王「さっきから定期的に紋様が刻まれている。
 反呪とか引力制御とかだ。この塔の内側で飛行は
 出来ないと思う」

女騎士「ふぅん」

勇者「それならハンデ無しだ」

女騎士「ま。荷物持ちはわたしがやる。ちょうど良かった」

勇者「悪いな」
女騎士「なんだ。二人とも、わたしを置いて行く
 つもりだったんだな」

魔王「あー」
女騎士「抜け駆けだ」

魔王「今回はそう言う話ではないではないか」

女騎士「置き去りか。……魔王には友情を感じていたのに」

魔王「それはわたしだって人間の親友だとは思っているけれど
 今回ばっかりは事情が事情というかだな」

女騎士「二人で内緒で、で、出かけるなんてな」


291 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 19:20:50.85 ID:rH.ZqWkP
勇者「……さくさく登ろう。行くよ? 行きますよ?」

魔王「良いではないかっ。結局は同行できたのだし!」
女騎士「ぷになのに」じー

魔王「……むっ」
女騎士「〜♪」

勇者「あー。なんだね。そういえば」

魔王「どうした?」

勇者「さっき、女騎士は随分おとなしくなかったか?
 魔法使いのところで、だけどさ」

女騎士「そんなことはない」

魔王「そういえば、魔法使いと何を話してたんだ?」

女騎士「え、いや」
勇者「ん?」

女騎士「新作小説について?」

勇者「そうなのか!?」

魔王「そうかっ。やはりご機嫌殺人事件シリーズは
 不朽の名作だなっ。あのカオスな展開と切ない
 ラブストーリーがたまらなぁい。
 “ガッシ!ボカ!”を遙かに超えた表現だ」

女騎士「……うう。ちょっと後悔してる」

勇者「少しどころじゃない表情だ」
292 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 19:22:21.90 ID:rH.ZqWkP
魔王「ふむ」

女騎士「まぁ、わたしがついてきて便利だろう?
 いまでは勇者の力も落ちている。
 わたしの“瞬動祈祷”なら2人にもかけられるし、
 勇者の力を無駄にしないで済む。先行きは長いわけだし」

勇者「それはそうだけど」

女騎士「荷物持ちにも便利だ。わたしは元気だからな」

魔王「……」

女騎士「魔王」

魔王「え? ああ」

女騎士「そう言うことにして置いて」

魔王「うむ」

勇者「……?」

魔王「今は、上に待ち受けているものが先決だ。
 急いで登るに越したことはないはずだ」

勇者「上には、精霊がいて、直談判だろう。
 そんなに急ぐべきなのか?」

女騎士「急ごう」

魔王「そうだな。地上では戦争が起きているんだ。
 私たちがのんびりしているわけにも行かない」


293 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 19:23:45.28 ID:rH.ZqWkP
コオォォン……

勇者「……」
魔王「……」

……コオォォン

魔王「これで良かったのかな」
女騎士「?」

勇者「良かったんだろ」

魔王「……」

勇者「正直に言えば、良かったか、悪かったのかは判らない。
 けど、判らないって事は、判る」

女騎士「戦場を、離れたこと……?」

魔王「そうだ」

勇者「昔、爺さんが言ってた。
 良かったか悪かったか判らないなら、
 その二つは判らないという意味では一緒なんだ。
 点数がつかないという意味では、まったく一緒。
 だから“良かった”事にしておいても、問題なし」

魔王「随分強引な思考方法だな」
女騎士「勇者らしくてほろりと来そうだ」

勇者「それに、メイド姉が言ってたよ」

魔王「メイド姉? そう言えば、さっきも言っていたな。
 近くに来て、勇者になる。なっている、と」

――それでも飛び立ってゆく鳥を留めることが出来ないように
 わたし達には翼がついている。
 本当は誰だって知っているはずなんです。
 チャンスがあるのならば、賭けてみたい。
 わたしはやはり、そこまでお互いに馬鹿だとは
 思いたくないんです。わたし達は自由なのですから。


294 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 19:25:59.24 ID:rH.ZqWkP
勇者「ああ」
女騎士「どうやら、わたしの知らないことが
 沢山おきているみたいだ」

勇者「それは仕方ないさ。俺だってびっくりしたし……。
 女騎士がこっちに来ているのだって知らなかった」

魔王「そうだ。勇者だって何をしてたのやら」

女騎士「ともかく。メイド姉が近くにいて。
 えーっと勇者?
 それは冗談ではなくて、その、なんなんだ?」

勇者「うん。正直舐めてた。あいつは、すげぇや」

魔王「そうか? うん、そうだろうな。
 あの娘は、逸材だ。古典的自由主義をドライブして
 人権思想や憲法の規定にまで思想が及んでいるからな」

女騎士「それは……すごいことなのか?」

勇者「憲法ってなんだ? 法律じゃないのか?」

魔王「憲法って言うのは、法律の親玉なんだ。
 原型というか、理念と言ってもいい。
 いわば“法律を作る時の基本的な考えを示すもの”だ。
 もちろん国によって語句は変わるから
 これは概念論に過ぎないけれどね」

女騎士「難しいな」

魔王「つまり、この世界、国家や氏族によって方は様々だ。
 それはよいとしても、そもそも王や族長が変わった時点で、
 いろんな決まり事や方はひっくり返ってしまうだろう?
 国の基本的考え方や性格は、その行動を見て判断する
 しかないわけだ。
 憲法というのは、様々な法律の下になるガイドラインだ。
 この法律には次の支配者を決めるものも含まれる。
 つまり“その国の基本的な性格”を表現していて
 それを見ただけで、その国がどのような考えに
 基づいているか判る。それが憲法だ」
295 :以下、パー速民が(ry[sage]:2009/11/13(金) 19:29:23.53 ID:rH.ZqWkP
女騎士「それは、すごいことなのか?」
勇者「うん、すごそうだけど、やっぱりぴんと来ないな」

魔王「王が変わっても、途切れないと言うことだよ。
 おそらく冬の国は十年以内に憲法の制定にたどり着くだろうが
 もし制定されれば、王が変わろうと冬の国は、百年の間ずっと
 農奴を持たない自由と平等の国へなる。なろうとし続ける。
 これは、宣誓書であると同時に、計画書なんだ」

女騎士「そう聞くとすごいな」

勇者「王弟にまで啖呵きってたからな」
魔王「ほう!」
女騎士「聖王国の!?」

勇者「ああ。“次はわたしが相手にしてやるから
 覚悟して金玉小さくしていやがれ、んだとコラ!?”って」

魔王「いや、それは云わないだろう」
女騎士 こくこく

勇者「それは冗談としてメイド姉は
 “わたし達には翼がついている”って云ってたよ。
 だから、俺たちが。
 閉じ込めてはいけないと思った」

女騎士「……そうか」

魔王「そうだな……」

勇者「俺も魔王も女騎士も、魔法使いや爺さんもさ。
 あんまり過保護にしてると、メイド姉みたいな
 頑張ってる人をゆがめちゃうんだってさ。女騎士」

女騎士「うん。わたしも、それは魔法使いから聞いた」


296 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 19:30:49.14 ID:rH.ZqWkP
魔王「そうか。……人間は驚愕の種族だから」
勇者「へ?」

――あなたが魔王をさぼっているから、
 わたしのところにまで案件が持ち込まれているんですよ。
 いい加減に本気を出して仕事をしてください
 正直、少しがっかりしました。
 もう少し熱を冷ましてください。
 あなたのやるべき事は、目先の軍を防ぐことではない。

魔王「いや。青年商人にめちゃくちゃに言われてな」
勇者「なんて?」

魔王「えーっと……。足手まといだから、とっとと勇者を
 探し出して、そっちで仕事をしろ、みたいな」

勇者「云うなぁ、あいつ」

女騎士「同盟の指導者ですか」

魔王「あれはあれで傑物なのだ。
 聞けば先物に売り浴びせに
 取り付け騒ぎに果ては為替操作までしていた。
 まさにやりたい放題だ。
 鬼畜だぞ。
 わたしよりずっとえげつない。
 確かに経済圏がひとつしかなかった中央大陸において
 商人の活躍の余地は少なかったのだが、
 逆に言えばその中でどれだけ飢えて未来を
 求めていたことやら。
 あれはあれで、ある種の英傑だ。
 魔王を名乗るだなんて冗談にしたってはまりすぎだぞ」

勇者「?」
魔王「い、いや。こっちの話だ」

女騎士「勇者に、魔王か……」

――あなたの戦闘能力は勇者の全開時の40%以下でしかない。
 でも、そんな数値上の比較は関係ない。
 約束をしたならば、果たして。


297 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/13(金) 19:32:00.79 ID:rH.ZqWkP
コオォォン……

勇者「……下はどうなっているだろうな」

魔王「遠征軍は今にも雪崩を打って開門都市に
 流入しようとしている……。
 最悪は市街戦、その後、虐殺。
 怒りに駆られた魔族側は報復措置として、開門都市を逆包囲。
 人間達は開門都市に籠もったまま、
 数ヶ月の飢えを経てそのまま全滅」

女騎士「南部連合も援軍を出したんだ。その数は三万に迫る。
 ゲートのあった大空洞を抜けた救援軍は、形としては
 遠征軍の補給線を立って後背をついた。
 兵糧攻めにはなっているけれど、
 数の上でも戦闘能力の上でも、遠征軍は未だ圧倒的な
 優位性を持っている。良くて、膠着の泥沼戦。
 悪ければ、殲滅戦。どちらにしてもこの場で戦争は終わらず、
 その戦果は地上へと飛び火して、全ての国々を焼き尽くす」

勇者「……」

魔王「でも、そうはさせないと思っている人もいる。
 青年商人は判っているし、火竜公女、東の砦将もいる」

勇者「メイド姉と貴族子弟もいるしな」

女騎士「冬寂王や鉄腕王、軍人子弟にもこちらに来ている」

魔王「それなら、まだチャンスはある」

女騎士 こくり

勇者「まぁな。魔法使いもいる。
 あいつは昔から、頼りになるやつだし……」

魔王「そうか」

女騎士「……」

勇者(……まだなんか隠している気はするんだけどさ)
322 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/14(土) 03:37:58.12 ID:6OFcHF6P
――開門都市、近郊、遠征軍本陣

ゴゴゴォォン! ゴゴゴォォォン!

大主教「司祭よ」

ころり。ころり。

従軍大司祭「はっ。はいっ」

大主教「ふふ。どうした、震えているでは無いか。
 ……恐ろしいのか? 天のおののきが。それとも、我か」

従軍大司祭 がばっ 「い、いえっ」 がくがく

ころり。ころり。

大主教「時は満ちた。きゃつらの、すくなくとも1人は
 死んだのだ。そして精霊への道が現れた」

従軍大司祭「――っ」

百合騎士団隊長「では」

大主教「喜びの野……。“次なる輪廻”への架け橋」
従軍大司祭「次なる……輪廻?」

大主教「悠久を永遠へとする力だ」

従軍大司祭(判らない……。大主教は何を考えているのだ。
 い、いや。大主教は……。何になってしまったのだっ)


323 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/14(土) 03:39:35.42 ID:6OFcHF6P
大主教「これより我は出陣する」

従軍大司祭「そ、それは。南部連合方面へ?
 それとも開門都市にとどめを刺しに?
 いえ、どちらにしろ、まだ腕のお怪我も
 癒えてておりませんっ。大主教様にもしもがあればっ」

大主教「もはや、そのようなことは些末な問題だ」

従軍大司祭「しかしっ」

大主教「……あの暗殺者。良い仕事をしたが
 それでは腕が動かぬ程度のこと。
 刻一刻とこの双玉の瞳に力が満ちてくる。
 今を置いて時はない。
 あの塔を我より先に登るものがあれば、
 全ては水泡に帰す……。大隊長」

百合騎士団隊長「はっ」

大主教「これより、汝を光の筆頭騎士とする」

百合騎士団隊長「ありがとうございます」

大主教「地には混沌が充ちている。
 それはたとえようもなく美しい。
 もはや既存の権力は全て無用となった。
 この混沌の中で、大陸の全ての国家、
 魔界の全ての部族は解体されなくてはならぬ。
 光の再生には混沌こそがふさわしく
 それがこの終局を言祝ぐ最高のフィナーレとなろう。
 この地を混沌で充たせ」

百合騎士団隊長「承りました」


324 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/14(土) 03:41:33.32 ID:6OFcHF6P
大主教「大司祭」
従軍大司祭「はっ、はひっ」がくがく

大主教「我々、光の教団は長きにわたり地上世界の
 信仰の庇護者、精霊の代弁者として活動を続けてきた。
 欲にまみれた貴族。権勢を誇る王族。目先しか見えぬ商人。
 愚妹にして貪欲な農夫達の全てを真理という光において
 善導してきたのだ。
 それもこれも、光の恩寵。
 それが精霊の意志ゆえだ。
 しかしながら、彼らは彼らの罪を意識しないばかりか
 我らが教会をも取り込み、権勢の道具と見なすに至る。
 手を取り合うべき時期は過ぎ去った。
 我らは我らの王国を打ち立て、
 この地を教会の教えで充たさなければならぬ」

従軍大司祭(なっ!? なんという馬鹿げたことをっ。
 正気なのですか、大主教!?
 いや、狂気であるはずがない。しかし、それは……。
 それがどれくらい途方もない世迷い事か判らぬはずもない。
 我ら聖光教会がどれほどの信者の数を誇ろうと
 それのみにて国という、いわば俗界の機構を運営できるという
 事にはならないではありませんか!?
 我らにはその技術も経験も不足しているっ。
 そもそも、今更に表舞台に立つ意味がありませぬ。
 特定の国を持たないからこそ、我らは多くの国に
 信者を得ることが出来たっ。我ら最大の武器である
 国境を越えた共通の組織という利点を捨てて……
 捨てて……。
 いや、捨てずに国を持つ。
 ――それは)

百合騎士団隊長「世界を精霊の御名の元に。
 “全てを精霊の下に”。くすくすくすっ」

大主教「その役目は、大司祭に任せる。存分に腕を振るえ」

従軍大司祭「っ!!」
325 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/14(土) 03:42:56.18 ID:6OFcHF6P
従軍大司祭「お待ちくださいっ! お待ちください大主教様!
 そのようなことをすれば、この世にどのような災厄と
 混乱が巻き起こることかっ! どうかご再考をっ!」

百合騎士団隊長「その混乱を“美しい”と仰せです」にっこり

従軍大司祭「しかしそれではっ! あまりにも多くの命が
 無為に失われ」

大主教「いずれ同じ事」
従軍大司祭「は?」

大主教「もはや天の塔は起動したのだ。
 精霊も聖骸もその姿を現した。となればいずれ同じ事。
 この世界の混乱は、次へは持ち越されぬ。
 であるならば、終末には炎こそがふさわしい」

従軍大司祭「な……なにを……?」

大主教「判らぬか。いや、それはいい。
 しかし信じることも出来ないとは、聖職者として失格だな」

従軍大司祭「え? あ、あっ……」がくっ ずるずるっ

百合騎士団隊長「なんの迷いがありましょう。
 この身には精霊の穢れ無き光が充ちています。
 わたしは迷いません。わたしは決して穢れてはいない。
 穢れなど、しない。この身には汚泥など触れ得ない。
 わたしは信仰します。わたしは帰依します。
 喜びの野に。悪夢のない影無き国を信仰します。
 お連れください、大主教猊下っ」

大主教「よかろう」

 ぎゅぐ。ぐちゅる。ぞぎゅ……。ご……とん……

従軍大司祭「がはっ……。ごぼっ、ごぼっ……な……にを……」

大主教「後は任せたぞ。筆頭騎士にして女司祭よ」


328 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/14(土) 04:02:29.44 ID:6OFcHF6P
――地下城塞基底部、地底湖

女魔法使い「……魔力回路の補強を」
メイド長「お任せください」

明星雲雀「ピィピィ……」

女魔法使い「……大丈夫」
メイド長「――」

女魔法使い「この両手の刻印があるうちは」

明星雲雀「だ、だって! 刻印から血が……。
 それに、こんな魔力を流してちゃ持ちませんよぅ」

女魔法使い「貯めてある」

明星雲雀「それにしたって!!」

女魔法使い「なんのために。――なんのために」

メイド長(なんて言う魔力ですか!? こ、これはっ。
 量だけならば、勇者様よりもっ)

女魔法使い「葦が原での合戦も、忽鄰塔でもっ。
 勇者の心の叫びを無視してまで、手のひらに爪を食い込ませ
 唇をかみ切る思いをして耐えたっ。
 ――わたしのこの胸に咲く誇りはこの程度で揺らぎはしない」

メイド長(……)

明星雲雀「ピッ! これ……これはっ!」

女魔法使い「……」

メイド長「“天塔”内部に侵入者有り。これはおそらく」


329 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/14(土) 04:04:10.28 ID:6OFcHF6P
女魔法使い「……怪物」

メイド長「人間ですが、人間ではない。
 ……過去の魔王の亡霊の力を受け継いだ、
 魔王にあらざる魔王っ」

女魔法使い「魔王の力と精霊の奇跡を兼ね備えるもの」

メイド長「やはり……」

キィィン!!!

明星雲雀「っ!?」

メイド長「刻印がっ!」

女魔法使い「……」

明星雲雀「無理だったんですよ! 魔力による仮想通路に!
 本来あの塔は1人で登るもの。
 その塔に4人も登らせるなんて! ピィピィピィ!
 術の強度が不足して
 崩壊するに決まっているじゃないですかっ」

女魔法使い「強度……」

明星雲雀「へ?」

女魔法使い「……回路、強化。強度、上げて」

メイド長「出来ます。可能ですが、それには安定して高出力の、
 そして魔王様の波形特性を持った魔力供給が必要ですっ。
 4人ですよ!? そんな強度を実現するためにはっ
 少なくとも歴代魔王の三倍……3人分はないとっ」

明星雲雀「だから不可能だってっ!」

女魔法使い「……不可能はない」

ビィィィッ!

メイド長「〜っ!」
330 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/14(土) 04:05:50.97 ID:6OFcHF6P
メイド長「そ、その腕……。ま、まさか。そ、そんなに!?
 なんでっ? どうして生きていられるんですっ!?」

明星雲雀「ピ、ピ、ピィィ!?」

女魔法使い「右手に54、左手に54。
 ……合わせて、108の刻印。
 その刻印に三年で蓄えた魔力と……みんなの、死」

メイド長「……っ」

明星雲雀「ピ、ピ……」がくがく

女魔法使い「……勇者には、見せられない。
 嫌われてしまうから」

メイド長「そんなっ」

女魔法使い「……綺麗な肌じゃない。
 死の穢れと、魔力の、こびりついた腕」

バチィッ!

明星雲雀「刻印がっ!? 灼けて消えちゃうっ」

女魔法使い「それが嬉しい。役に立てる力がっ。
 怪物も、精霊も関係ないっ。いくつの刻印が弾けてもっ
 わたしがここにいる限り、勇者の道を照らす。
 わたしは勇者の道を照らすものっ、。
 勇者に何かがあれば必ず駆けつけっ、
 その願いを叶える。
 あの日。
 あの夕暮れの中でっ! 足下の闇を恐れるあまり
 その闇の中を駆けだした勇者を追うことも
 出来なかったあたしの戦場はここだっ。
 譲らないっ。引かないっ! 負けるつもりはないっ」


331 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/14(土) 04:08:04.76 ID:6OFcHF6P
メイド長「回路を強化、魔力経路を計算して再配分。
 ターミナルを形成して、循環組織を形成しますっ」

明星雲雀「え、あ……あ」 パタパタ

女魔法使い「助かる」

メイド長「180秒お待ちを」

バチィっ!!

明星雲雀「ご主人っ!」

女魔法使い「……関係ない。くすぐったいくらい。
 この刻印の弾け飛ぶ痛みの一つ一つが勇者への恩返し。
 春の日だまりで、のんびりしながらごろごろしてるみたい」

明星雲雀「そんな顔色じゃないですよぅ!」

メイド長(……っ)

女魔法使い「タツタになる?」

明星雲雀「嫌ーっ! タツタは嫌ーっ! そうじゃなくて!!」

女魔法使い「……ゆずらない。
 譲る事なんて、出来はしない。
 わたしの居場所はここにしかない。
 武器も使えない。人と交流も出来ない。
 可愛い表情も出来ない。甘えることも出来ない。
 動けば戦を引き起こす広域魔法しか使えない。
 わたしは……人を殺めすぎる。
 わたしは勇者よりもずっと兵器として特化されている。
 勇者が魔族の殲滅ではなく共存を望むのなら
 わたしはきっと勇者の隣にはいられない。
 血の代価を……これでしか払えない」

メイド長(それは……)
333 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/14(土) 04:17:04.63 ID:6OFcHF6P
明星雲雀「ご主人じゃなくたっていいじゃないですか
 血の代価なんて、そんな言葉は何十回も聞きましたけれど
 何もご主人が流さなくたって! この世界には他に何人も
 いるじゃないですか! 何百人も、何千人も!」

女魔法使い「それじゃ」

バチィッ!

女魔法使い「恥ずかしくて、仲間って云えない」 にこり

メイド長「循環回路形成。……つづいて吸収回路を構築」

明星雲雀「だからって」

女魔法使い「『冗長系』って、云った」

メイド長(……?)

女魔法使い「冗長化は機構に何らかの障害が
 発生した場合に対して、
 障害発生後でも機構としての機能を
 維持し続けられるように予備の機構を
 バックアップとして配置すること。
 こうして得られる安全性を冗長性と呼び
 バックアップの部品を冗長系と呼ぶ」

――魔王の代わりは、わたしがする。

メイド長「始めからっ!?」

バチィッ!

女魔法使い「憧れた。……あの大図書館で魔王を見た時に。
 あの凛々しさに。聡明さに。未来を望む強さと優しさに。
 なにより。
 “あなたが欲しい”と勇者に云える勇気に。
 涙が出るほど悔しくて、胸を焦がすほどに憧れた。
 魔王の告白なんて成功率は1%も無かったのに。
 でもそんな確率なんかで一瞥もせずに、
 ただまっすぐに勇者を目指した魂にさに。
 あたしには云えなかったけれど、それを云えた女性に。
 わたしは憧れて、守ろうと思った。
 だからこそっ!
 相手が、化物でもっ!
 『大魔王』でもっ! 私たち三人は、勇者を守る。
 この身に刻んだ穢れた刻印の全てに賭けてっ。
 勇者が願う未来を、その手にっ!」


335 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/14(土) 04:50:31.29 ID:6OFcHF6P
――光の塔、その道程

……コオォォン

女騎士「だーかーらー! “ひとつまみ”ってのは
 指先でつまめる量。なんで“ひとつかみ”と
 いっしょにするっ」

勇者「そんなこと云ったって」

魔王「ま、魔界には様々な氏族がいるからな。
 そう言う曖昧な表現は争乱を招く元になるのだ」

女騎士「へー」

勇者「冷たい視線だっ」
魔王「理不尽だぞ、女騎士っ」

女騎士「食料を無駄にするのは、修道会の教えに反する」

勇者「それはそうだけど」
魔王「食事なんてメイド長に頼めばいいのだ。
 あちこちに酒場だってある。自分で作れなくとも
 なんの問題も発生しないっ。些末な問題だ」

女騎士「そう? ……勇者」

勇者「ん、なんだ?」

女騎士「はい。ビスケット」ひょい

勇者「ん。さんきゅ」ぱくっ

魔王「っ!?」


336 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/14(土) 04:55:06.61 ID:6OFcHF6P
女騎士「そして勇者。美味しい?」

勇者「うん、美味いな。もっきゅもっきゅ」
魔王「な、な、なにを……っ」

女騎士「そうか。もっとあるぞ」なでなで

魔王「何をしているのだっ!?」

女騎士「何って。……馴致だ」
魔王「馴致だとっ!?」

女騎士「いや、言葉が悪かった。……餌付けだ」

魔王「同じ意味だっ! 勇者も、何を馴染んでいるっ」

勇者「さくさく歩こうぜ、先は長いんだから」

魔王「〜っ!!」

女騎士「魔王。悪いことは云わない。料理を習おう。
 別にすごく上手である必要はないんだ。
 普通の男なら知らないが、勇者は空腹になれば
 普通の料理でさえあれば大抵ご馳走だと思って食べてくれる。
 食事はいいぞ。食事をしている勇者は無防備だからな」

魔王「無防備……なのか?」
女騎士 こくり

 勇者「おーい、置いていくぞー」

女騎士「勇者は、お腹一杯の時と寝てる時はすごく可愛いぞ」

魔王「う、うむ」

337 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/14(土) 04:57:52.36 ID:6OFcHF6P
女騎士「もふもふもさせてくれるようになったしな」

魔王「しかし、慣れるのはいいが、それはそれで
 ときめきがなくなるという意味合いでは負けというか
 ある種の本末転倒を感じないでもないではないか」

女騎士「こちらは一杯一杯だ。ときめきどころか
 心臓が暴走しているのだから、問題ない」

魔王「勇者の側の問題だ。勇者にだって動揺してもらいたい。
 そうでなくては公平ではないぞ。
 こちら側ばかりが動揺するのは魔王としての沽券に関わるっ」

女騎士「沽券で勝てるなら世話がない。
 まずは勝つ。具体的に云うと、同衾だ。
 ときめきはその後に考える」

魔王「な、なんという実利的な……」

女騎士「これが老師から教わった策だ。まずは勝て!
 相手を負かすのはそれからでも遅くはない」

魔王「わたしが女騎士に軍略を語られるとは……」

  勇者「なにやってんだよ。急ぐって云っただろう?」

魔王「あ、ああ。済まない」
女騎士「道中の雑談だ。無言だと帰って早く疲れる」

勇者「なんの話だ?」

魔王「いや、なんの話というか。そのぅ……。し、塩だ」

勇者「塩?」

魔王「あ、いや。帰ったら多少料理を習おうかと」
女騎士「うん、そう言う話だ」


338 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/14(土) 05:01:05.77 ID:6OFcHF6P
勇者「いいんじゃないか。よっと」

とったったっ

魔王「うん。何か食べさせてやるぞ、勇者!」

勇者「腕は同じくらいなんだ。いっしょに作ろうぜ」

魔王「それもいいな。二人で料理をすると楽しいぞ。
 出来上がりは今まで不幸だったけど……」

女騎士「うん。そのときはわたしも一緒に……」

…………ィン……

勇者「どした? 女騎士」

女騎士「あ、いや」

魔王「なにかあったのか?」

女騎士「ん。ちょっと」

勇者「ちょっとって?」

女騎士「勇者、魔王。ほら、荷物降ろして」

勇者「なんでだよ」
魔王「……」

女騎士「わたしが後から持っていってあげるよ。
 “瞬動祈祷”――ほら、持続時間も強度もあげておいたぞ。
 これでさくさく登れ?」

勇者(胸がざわざわする……)

魔王「危険が迫っているのか?」

勇者「そうなんだな、女騎士っ!?」
339 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/14(土) 05:02:42.35 ID:6OFcHF6P
女騎士「ここはわたしが引き受けた」

勇者「何いってんだっ。三人で戦うべきだろうがっ」
魔王「勇者……それは……」

女騎士「これはわたしの客だ。それに、勇者。
 わたしだって気がついてる」

勇者「なにを?」

女騎士「勇者の力は、殆ど回復してない。
 封印されてるも同然だ。そんな状況では、戦場に立って
 広域魔法や広域剣技の余波を受けるだけで、
 回復の手間がかかる。それは魔王も一緒だ」

勇者「〜っ!」
魔王「……うむ」

女騎士「上は説得なのだろう?
 だとすればわたしはあまり役には立たない。
 わたしは馬鹿だからなっ!」 にこっ

勇者「おまっ」
魔王「胸にも頭にも栄養が行ってないとは」

女騎士「胸は関係ないっ!!」

勇者「……っ」

女騎士「そんな顔をするな。勇者。ほら、荷物は置け。
 鎧も脱げ。今更関係ないから。
 これは……。ほら、ビスケットだ。
 二人で食べて良いぞ。
 わたしも追いつくからな、少しは残して置いて」

勇者「ああ」
魔王 こくり


340 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/11/14(土) 05:05:38.75 ID:6OFcHF6P
女騎士「じゃぁ、行って。
 そんな顔しちゃだめだ。わたしは女騎士だぞ?
 蒼魔王みたいなのが相手じゃ大変だけど
 そこらの人間や魔物に負けるわけがない。
 蒼魔王のいない今、ピンチになるわけ無いじゃないか」

魔王「……女騎士」

女騎士「口げんかは、少しだけ、お休み」

勇者「判った。上で待ってるからなっ!」

女騎士「ああ。勇者!」

勇者「?」

女騎士「――。ん。なんでもないぞ。
 うん、そうじゃなくて。
 がんばれ! それに、我が剣の主。
 剣の主の……剣の主の願いに加護をっ」

勇者「……。判った! 行ってくる!」

魔王「任せる」
女騎士「任される」

 ダッダッダッダッ

……コオォォン
…………コオォォン

女騎士「さて」 くるっ

女騎士(大主教と云えば、教会の最高位。
 建前では大陸一の法術の権威。
 だけど修道会の法術とは比べたこともない。
 どちらが光の法術を使いこなせるのか。
 それに……。魔法使いの云う“歴代魔王の思念”。
 合わせれば、並の魔王よりずっと強い。か……)

ジャキッ

女騎士「面白い。たとえどれほどの力をもってきても
 ここより先へは一歩も行かせない。
 勇者の隣を歩くために。剣の主人を守るために。
 騎士の力の全て、この身を全てを、盾としよう」




コピペおわり
【第44話】魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」【まおゆう】へつづく
【第44話】魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」【まおゆう】はこちらになります。
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