ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

暇つぶし本棚コミュの【第40話】魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」【まおゆう】

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
シリーズ一覧
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=74232274&comm_id=5991824

コメントに続きます。全部で11コメの予定です。
全部のコメントをフルに使っているので、携帯からだと見切れるかもしれませんが、御容赦ください。
その場合、機能設定で文字サイズを小さく変更することをお勧めします。
以下、コピペ↓


806 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 18:54:05.04 ID:quxpU4cP
――開門都市、南大通り、六番街

東の砦将「隊伍を組めっ! 長槍兵! 戦列を崩すなっ」

竜族軍曹「左右の商店を崩せっ!」
人間衛兵「しかしっ」

東の砦将「いまは防ぎきるのだ! そうでなくても略奪にあう。
 くずせ! バリケードを作れ!!」

竜族軍曹「そうだっ! 弓兵配置は終わったかっ!?」

   耳長弓兵娘「配置完了しましたっ!」

東の砦将「矢の尽きるまで撃ち込めっ! 地の利はこちらにある。
 街路を封鎖して、敵をここで足止めするんだっ!
 全ての通用門封鎖っ! 防備部隊を配置っ!」

ゴウゥゥン!! ゴォォン!

光の銃兵「左右へ散開しながら前進っ!!」
光の突撃兵「精霊は求めたもうっ!」

  ゴウゥゥン!! ゴォォン!

東の砦将(展開がにぶい……?)

竜族軍曹「どうやら遠征軍も攻めあぐねている様子」

東の砦将「指揮がなっちゃいないな。どういうことだ」

竜族軍曹「マスケットの砲声も少ないですな」

東の砦将「……。押し戻せ! 何はともあれ、
 連中はまだ統制が取れていないようだっ!
 いまならまだ押し返せる。――短弓で左右の家の上から
 応戦しろ! 小刻みに動けっ」


※コメントに続きます
まとめ元:http://minnanohimatubushi.2chblog.jp/archives/1355096.htmlより

コメント(12)

807 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 18:56:08.50 ID:quxpU4cP
竜族軍曹「足を止めるな!! 槍兵中隊、前進っ!」

ザッザッザッ!

人間槍兵「我らに自由をっ!」
蒼魔槍兵「我が地に平安をっ!」

キィン! ガキィン!!

隻腕の獣人男「うぉぉ!!! どけどけぇぇ!!
 命が惜しければ逃げるがいいや。ここは一歩も通さねぇ!
 のど笛噛みちぎってでもお前達を進めさせはしないぞ」

中年の義勇兵「押せ! 押せ!」

ゴウゥゥン!! ゴォォン!
  ゴウゥゥン!! ゴォォン!

東の砦将「八番切り込み隊! 紫神殿通りを迂回して、
 南大通りの左翼から敵に突っ込め!! 射手は援護を!
 獣牙族の動ける範囲を増やせ、屋根の上の自由を奪われるな」

竜族軍曹「動け! 足を止めるな!!
 敵は多いのだ、こちらが遊兵をつくると押し込まれるぞっ」

東の砦将「おい、副官。門の外の状――ちっ!」

人間衛兵「は? 砦将」

東の砦将「なんでもねぇ。不便を実感していただけだ。
 防壁はどうなっている?」

竜族軍曹「南門近くの防御用司令部に遠征軍が
 群がっているようだ。あそこには義勇兵しか居ない、まずいぞっ」

東の砦将「俺が行くっ。鬼呼抜刀隊、ついてこいっ!!」


811 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 19:24:28.31 ID:quxpU4cP
――魔界、白詰草の草原、開門都市、西方2里

タカタ、タカタ、タカタ、タカタ

メイド姉「お気を悪くされてはいませんか?」
勇者「なにが?」

メイド姉「いえ、その。わたしが勇者を名乗るだなんて」

勇者「ああ。びっくりしたけどさ。面白かった」

メイド姉「はい。あの……」
勇者「……」

メイド姉「勇者様が、1つじゃなくても良いんだって」
勇者「え?」

メイド姉「昔、仰ったじゃありませんか。
 教会は1つじゃなくても良い。って。
 そして湖畔修道会が冬の国では正式な教会として認められて」

勇者「うん」

メイド姉「だから、思ったんです。
 勇者も、一人でなくても良いんじゃないかって。
 ……すみません。なんだか、何を云えばいいかよく判らなくて」

勇者「勇者の力が欲しかったの?」

メイド姉「いいえ。……むしろ勇者の苦しみを」
勇者「?」

メイド姉「わたしにも背負える荷物があるのではないかと。
 わたしが流せる血があるのではないかと、そう思いました。
 わたし達は、自らの負債を勇者様や当主様に
 押しつけているのではないかって。
 目には見えないから、実感できないから
 罪の意識もなく罪を重ねているのではないかと」

勇者「……」


812 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 19:26:41.78 ID:quxpU4cP
タカタ、タカタ、タカタ、タカタ

メイド姉「当主様も勇者様も優しいから。
 もしかしたら、払いすぎてはしまわないかと。
 それが心配です。
 あの冬の夜、凍り付くような納屋の中で
 別に特別なことでもなんでもないかのように
 わたし達姉妹を救ってくれたように。
 
 特別なことでもなんでもないことのように、
 世界を救ってしまうかも知れないのが心配です。
 
 そんなお二人だから、
 それがあんまりにも当たり前のことのように感じてしまって。
 どんなに大事に思っているか、どんなに感謝しているかを
 伝えることも忘れて、当たり前になってしまうのが心配です。
 
 当主様も勇者様も、血を流すことに馴れすぎているから」

勇者「そんなことは、ないよ」

メイド姉「それを確認したいんです。勇者になって。
 勇者でいると云うことが、どれだけの痛苦を要求されるか。
 どれだけの恐怖を強いられるか」

勇者「……」

メイド姉「膝がガクガクしますよね。
 喉は干上がって、身体は木で出来たかのように
 思い通りに動かないし、
 頭は熱に浮かされたようにぼやけている割に、視界は鮮やかで。
 みんなの不安そうな顔も苦しそうな呟きも
 いやになるほどはっきり聞き取れて。
 手綱を握る手のひらは、汗で滑って。
 
 滑稽で臆病ですよね、わたし。
 全然向いてないって、よく判ります」

勇者「相当に場慣れして見えたよ」

メイド姉「それはもう。自分のお葬式に参加してる気分で
 生きていますからね。ふふっ」

815 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 19:29:19.10 ID:quxpU4cP
タカタ、タカタ、タカタ、タカタ

メイド姉「止めないで、下さいね」
勇者「……」

メイド姉「チャンスがあるのならば、賭けてみたい。
 わたしはやはり、
 わたし達がそこまで馬鹿だとは思いたくないんです。
 わたし達は自由なのですから。
 縛られたままでいる幸福も、世界にはあるって知っています。
 でも、それでも飛び立ってゆく鳥を留めることが出来ないように
 わたし達は明日を探しに飛び出してゆける。
 本当は誰だって知っているはずなんです」

勇者「うん」

メイド姉「そのために血が必要なら、
 その席を譲るわけにはいきません。
 たとえ相手が勇者様にであっても、当主様にでも。
 その席は、言い出しっぺであるわたしの座るべき場所なんですよ」

勇者「……」

メイド姉「元帥さまだって判ってくれますよ」

勇者「……」

   傭兵弓士「おいっ! 開門都市が見えたぞ!」
   ちび助傭兵「煙が上がっているな」
   貴族子弟「持ちこたえている証拠ですよ」

メイド姉「間に合いましたか」ほっ

勇者「――っ!」 キンッ

   傭兵弓士「え?」
メイド姉「どうしたんですか?」

勇者「なっ。……死? 火薬? 破裂、血、硝煙、破壊」


817 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 19:30:57.09 ID:quxpU4cP
貴族子弟「どうしたんです!? なにが?」

勇者「死んだ。何かが……。な、これっ……。
 気持ち悪いぞ、なんだこの真っ黒なのはっ」

   傭兵弓士「黒煙が発生。大規模攻撃か!?」

   ちび助傭兵「斥候に出るっ! 若造、フォローっ」
   若造傭兵「判った、行けっ!」

生き残り傭兵「何が起きているんだ。どうする、代理?」
メイド姉「進みましょう」

勇者「悪いな」
貴族子弟「え?」

勇者「つきあえるのは、ここまでだ」

勇者「“飛行呪”っ! “加速呪”っ! “雷鎧呪”っ!
 術式展開っ、“天翔音速術式”っ!!」

キュゥンっ!

メイド姉「勇者さまっ!」

勇者「縛りプレイだとかそんな事、もう知るかっ。
 俺の目の前で、お前らいったいどれだけっ……。
 やるなって云ってるのにっ。
 なんでお前らはそうなんだ。壊したり、殺したりっ。
 そういうのはさっ!」

 ひゅばっ! 

器用な少年「すげぇ、なんだ、それっ」

勇者「いい加減飽きたって云ってるんだよっ!!」


839 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 20:15:17.00 ID:quxpU4cP
――魔界、聖鍵遠征軍後方戦線、南部連合軍、丘の上

……オォォン!!
       うおおおっ!!

鉄腕王「なんだっ」
斥候兵「報告申し上げます! 前方遠征軍で大きな動きがありっ」

鉄腕王「見れば判るっ! 詳細をっ」

斥候兵「それは現時点ではっ」

軍人子弟「何か動きがござったな。
 こちらではない、とすると……。
 開門都市防備軍との戦いに何らかの動きが」

鉄国少尉「防壁が破られたのでしょうか」
将官「その可能性はあるな」

冬寂王「いや、前方の陣ぞなえにも変化が」
鉄腕王「なんだと?」

軍人子弟「これは、突撃陣形……」
鉄国少尉「王弟元帥は持久戦を望んでいたのではありませんか?」

女騎士「王弟元帥の望みとは別に、そうせざるを得ないのだろう。
 おそらく、防壁の一部が崩れたのだ。
 前方の遠征軍が市街への侵入を開始した。
 そうなれば、我らは、撤退するか、
 突撃を仕掛けて援軍に向かうかの二択を強いられる。
 あれは、意思表示だ。
 近寄るならば、食らいつき、蹂躙すると云うな」

冬寂王「うむ……」

鉄腕王「仕方あるまい。どだいここまで来て
 一戦も交えぬと云うことに無理があったのだ」

840 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 20:16:28.93 ID:quxpU4cP
軍人子弟「鋼盾の準備をさせるでござる」
鉄国少尉「了解しました。……馬車に装甲板を取り付けよ!」

羽妖精侍女「魔王サマ……」

女騎士「何かが、おかしい……」

軍人子弟「どうしたでござるか?」

女騎士「いや、おかしい。違和感がある。ここまで露骨な。
 ……余裕のない動きをする司令官か? 何が起きている?」

冬寂王「何が気になるのだ?」

女騎士「わかりませんが……。
 遠征軍の陣地で、何か大規模な問題が発生していると見えます。
 突破のチャンスなのか、罠なのか……」

冬寂王「チャンスだ」
鉄腕王「気にしたって仕方がねぇ」

鉄国少尉「装甲馬車、第一波準備良しっ!」

将官「――それは?」

軍人子弟「堡塁と車両の両方を兼ね備えた策でござるよ。
 樫で作られた丈夫な馬車を鉄の装甲板で強化したものでござる。
 8輪を持ち、多少の砲撃でも移動可能なうえに、
 その気になれば人力で押してゆくことも出来る。
 この車両20台を弾よけとして押し上げてゆくでござる」

女騎士「ふっ。考えたじゃないか」

軍人子弟「誰一人、死なせたくないでござるからね。
 しかし、それも、騎士師匠が約束を守ってくれていれば、
 の話でござる」


845 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 20:22:30.40 ID:quxpU4cP
女騎士「任せて欲しいな。
 ――ライフル部隊! 多少狭いが馬車に乗り込めっ!
 射撃準備をして火薬も持ち込めよっ!」

将官「それは……?」

軍人子弟「あの部隊は、狙撃用の銃兵部隊でござる。
 数は少ないでござるが騎士師匠が鍛えた勇士でござるね。
 その射程距離と攻撃力を生かすためには、
 安心して銃撃が出来る砲座が必要でござる。
 
 あの馬車は重装甲でござるが、
 銃眼とよばれる小さな窓がついているでござる。
 いわば、移動用の小さな砦といえるでござろう。
 防御に安心が出来るからこそ、
 狙撃などと云うことが可能になるのでござる」

鉄国少尉「こちらの兵を守る砦になりつつ、武器にもなるのです」

女騎士「数が少ない銃兵を生かして、敵の力を発揮させない
 方策というわけだ。この程度の事はさせてもらわないと」

将官「そうかっ。うむ!」

軍人子弟「そして歩兵部隊には、下部の尖った鉄の盾を運ばせる。
 この杭のように尖った部分は、地面にさして即席の壁を
 作り出すことが出来るでござる」

女騎士「この2つで、こちらの陣地は柔軟に運用する」

冬寂王「……やるな」

鉄腕王「よっし! 鉄腕国、遠征部隊っ!
 および南部連合、連合軍!!
 眼前の聖鍵遠征軍後方防御部隊との間に戦端を開くっ
 命を無駄にするなっ! 敵はマスケットだ。
 鉄壁と装甲馬車を弾よけにしろ! 敵に突撃戦力はないか
 あってもごく少数だ! 第一射を撃たせろっ!」

軍人子弟「皆の味方を信じるでござる!
 この盾も車両も、鉄の国の鉄工ギルドが
 総力を挙げて研究したもの!
 マスケットの弾は20歩離れた場所から撃っても
 貫くことは出来ないでござる! 工兵は縦線塹壕の準備!
 急ぐでござるっ!!」
853 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 20:42:44.57 ID:quxpU4cP
――聖鍵遠征軍、本陣上空

ひゅばぁぁぁぁああっ!!

勇者「つぐみっ!」
夢魔鶫「御身の側に」

勇者「魔王は!?」

夢魔鶫「判りません。しかし、防壁の一部が破られ、
 聖鍵遠征軍は開門都市内部に侵入した模様」

勇者「こんな事になったら約束も糞も関係あるかぁっ!」

――転移は禁止。上級呪文も禁止。勇者呪文もダメ。
 とにかく、勇者としての力を使ってはいけない。
 それを狙っている相手がいる。
 最後のその時まで、勇者は力を使ってはダメ。
 そうでないと……止められる人がいなくなる。

勇者「知ったことかっ。招嵐っ!!」
夢魔鶫「これは……」

勇者「気象制御だ。あいにくこれだけの広域となると、
 ごっそり魔力使っちまうが。そんなんどうでもいいっ」

夢魔鶫「ですが、御身が」

勇者「温度低下系は苦手なんだ、離れてろ」
夢魔鶫「はい……」

ぱたぱたぱたぱたっ

(……大気中の水分を凝固させる。
 中心だけ冷やすと、雪や霙になってしまうから、
 全体を攪拌してゆく。
 暖かい空気の流れから水を絞り出すイメージが重要)

勇者「雷鳴よ、大気を切り裂き、黒雲を呼べっ。
 全てを包む豪雨をもって結界とせよっ。“招嵐万雨呪”っ!」


857 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 20:50:57.31 ID:quxpU4cP
――開門都市近郊、聖鍵遠征軍中枢

地方領主「行けっ! 突撃だぁ!」
小国国王「防壁は崩れたのだ、数で押せ! 攻めこめぇ!!」

光の銃兵「うわぁぁぁ!! 精霊は求めたもうっ!」
光の槍兵「勝った! 勝ったんだ!! 食い物をよこせぇ!!」

カノーネ兵「撃てぇ! 敵は弱っているぞ。撃ちつくせっ!!」

小国国王「団長、構えて乗り遅れまいぞっ!」
小国騎士団長「ははっ!」

小国国王「開門都市が陥落したとなれば、
 その財貨はいかほどになろうか?
 こたびの遠征には多大な費用がかかっているのだ。
 城にいち早く乗り込み、全ての宝物を略奪せよっ」

ドォオォォン!! ドォォオン!!

地方領主「進め! 進めぇ! 今回の遠征第一の功は我らのものだ!
 王弟元帥閣下と大主教猊下に覚えて頂くためにも、農奴どもよ!
 死にものぐるいで進め!
 死体なぞ放っておけ、そいつらは犬の餌にもなりはせぬ!
 進んで進んで、火薬の尽きるまで魔族どもを撃ち殺すのだっ!!」

ドォオォォン!! ドォォオン!!
   ゴォォォォン! ズドォォーン!!

農奴槍兵「もう、ダメだ……。俺は我慢できないっ」
農奴突撃兵「なっ。どうするつもりなんだよ?」

農奴槍兵「このどさくさに紛れて、領主様の糧食を盗むんだ」
農奴突撃兵「えっ!?」
農奴歩兵 ごくり

農奴槍兵「領主様だけは毎日肉やミルクやパンをどっさり
 食っている。俺たちから巻き上げた食料でだ。
 王弟元帥閣下が奪ってきてくれた食料を奴らは俺たちから
 取り上げて、これ見よがしに浪費しているんだ」


858 :以下、パー速民が(ry2009/10/13(火) 20:51:29.31 ID:Oo4xjSco
止められる人がいなくなる。

何を止めるんだろうな

世界を?崩壊を?人を?国を?
暴走を?思考を?経済を?歴史を?
生命を?殺戮を?人生を?
勇者を?魔王を?
レスを?ママレを?
859 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 20:52:48.98 ID:quxpU4cP
農奴突撃兵「そ、それは、反乱っじゃ……」ごくり
農奴歩兵「おい、い、いいのかっ」

農奴槍兵「反乱なんかじゃない。
 だってこのままじゃ、俺らは突っ込まされて、
 結局は戦いで死ぬだけじゃないか。
 死ぬくらいなら、最後にパンを食って死にたい……」

農奴突撃兵「……」

ドォオォォン!! ドォォオン!!

農奴槍兵「それに、いま領主の騎馬部隊は
 開門都市に突撃をしていて、食料をたっぷり詰め込んだ
 天幕も馬車も、見張りを数人置いているだけだ。
 これは反乱なんかじゃない。
 褒美を前払いしてもらいたいだけなんだ」

農奴突撃兵「う、うん」


ドォオォォン!! ドォォオン!!

農奴歩兵「そうだ。食料を奪って配ろうじゃないか」

農奴突撃兵「えっ!?」

農奴歩兵「だって、開門都市はもう陥落するんだろう?
 そうすれば、食料だってどっさり手に入るはずだ。
 だとすれば、俺たち兵士が少しくらい食ったって
 問題ないじゃないか。
 どうせ俺たちだけじゃない。みんなだって腹が減っているんだ」

農奴槍兵「そうだなっ。精霊様だってお許しになるはずだ」

農奴突撃兵「奪って、食料をばらまきながら軍の反対側に抜けよう」

農奴歩兵「そうだな。それなら他の奴らにも、声を掛けないと」


866 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 21:25:08.46 ID:quxpU4cP
――開門都市近郊、聖鍵遠征軍本陣内、豪奢な天幕

ちゅぷ、くちゃぁ。ころり、ころり。

大主教「……動いた」
従軍大司祭「は?」

大主教「至急、司祭を集めよ。全てのだ。
 かねてから用意させていた祈祷を行なわせる」

従軍大司祭「対黒騎士の、ですか?」

大主教「急がせよ」

従軍大司祭「は、はいっ! ただいま!」

大主教「司祭よ」

見習い司祭「はっ、はいっ!」

大主教「天幕の布を二重に。雨が降る」

見習い司祭「え? 今日も良い天気ですけれど」

大主教「いいや、降るのだ」

ちゅぷ、くちゃぁ。

見習い司祭「は、はいっ。そ、そ、それは?」 がくがくがく

大主教「精霊の光を見せてくれる、わしの眼だ。
 口蓋は脳と通じる髄液を出すという。
 舌の上でころがす度に、
 我が心は清澄なる恩恵の光で満たされるだよ。
 くっくっくっ。ふぅっふっふっふ」

見習い司祭「す、す、すっ。すみませんっ」

大主教「やはり、これだけの“死”に我慢しきれずに
 誘われいでたか。……黒騎士よ。
 魔王の首で門を開けることになるかと思ったが、
 もはやどちらでも構わぬ。
 いや、“勇者”であればさらに都合がよい。
 その力も我が使いこなして見せよう。
 必ずや捕縛祈祷で捉え……その力の全てを奪い取るのだ」


871 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 21:31:35.37 ID:quxpU4cP
――聖鍵遠征軍、本陣上空

ゴォォォオオオオ!!

勇者「気圧低下……。こっから冷却して……っ」

ゴォォォオオオオ!!

勇者「招雨っ!! 来たれぇ!!」

ザアァァァァアア!!!

勇者「よっしゃ。――んじゃま、今度は落雷でもサービスすっか」

勇者(……当てたくはないな。適当な鐘楼とか、地面とかにでも)

ビギィン!!

勇者「なっ。んだ……これっ」

ギリギリギリっ

勇者「力が……。吸われ……っ」

夢魔鶫「主上っ!! 主上っ!」

勇者「逃げろ、つぐみ……」

夢魔鶫「主上っ。このままでは落下してしまいますっ。
 飛行を、魔力をっ!! このままでは、嵐に巻き込まれてっ」

ギリギリギリっ

勇者「……だめ、っぽ。……うっわぁ、二回目。
 かっこわる……。痛いなんて……もんじゃ……」

夢魔鶫「主上〜っ!!」

勇者「……魔王。……だって……こんな……」
874 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 21:35:54.77 ID:quxpU4cP
――魔界、聖鍵遠征軍後方戦線、後方戦線

軍人子弟「急げ! まだ馬が使えるっ」

ザッザッザッ

鉄国少尉「まだマスケットは届かないぞ!
 落ち着いて作業と進軍を進めろっ!」

女騎士「マスケットの射程ぎりぎりまで装甲馬車を進めよう」

軍人子弟「了解したでござる」

鉄国少尉「馬車と馬車の間は五十歩の間隔を守れ。
 前線に到着したら鉄盾の配置を忘れるな!
 命を守る盾だぞっ」

ザッザッザッ

将官「医療部隊の配置完了」

女騎士「……」

鉄腕王「どうしたい? 騎士将軍」

軍人子弟「まだなにか?」

女騎士「いや。なんでもない。ただ……」

軍人子弟「?」

女騎士「胸の奥がざわざわするんだ」

ゴゥゥン!!


878 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 21:40:51.64 ID:quxpU4cP
伝令兵「前線接触!! 遠征軍のマスケット銃撃が始まりました!
 しかしまだ遠距離なことと我がほうの装備もあり、実質被害無し」

軍人子弟「威嚇でござる! 進め!
 いまのうちに有利な位置を取るのでござる!」

  冬寂王「はじまるな」
  鉄腕王「ああ。大丈夫だ。あの男は、人一倍小心者だ。
   だから勝つためならこすっからいことでもやる」

  冬寂王「ずいぶん褒めるではないか」
  鉄腕王「女に弱いところ位だな。ダメなのは」
  冬寂王「はっはっはっ。貴君と一緒だな」

ゴォォン! ドオッォン!

軍人子弟「よしっ。車止めにて固定っ! 合図を」
女騎士「……」

軍人子弟「宜しいですか、騎士師匠」
女騎士「ん。ああ。すまない」

軍人子弟「……師匠っ」
女騎士「なんだ?」

軍人子弟「采配をよこすでござるよ」
女騎士「え?」

軍人子弟「……大丈夫でござる。ここは任されたでござる」
女騎士「子弟……」

軍人子弟「今は駆け出す時でござるよ。
 心配で心配でたまらぬのでござろう?
 今ならば騎士団を都市の反対側に迂回させることも
 不可能ではござらん。ここはいいでござる。騎士師匠」

女騎士 こくり

軍人子弟「ご武運をっ!」びしっ

女騎士「感謝するぞ! 我が弟子よっ!」ばっ
 「お前は、まだまだだっ。終わったらまたしごいてやるから
  死んだりしては駄目だからなっ」

軍人子弟「それはお互い様でござるよ。
 ……街を人々を頼むでござるっ。そして再びっ」

892 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 22:16:29.57 ID:quxpU4cP
――5年前、魔界の小さな村

ガチャリ

勇者「……」

きしり、きしり……

かちゃり

勇者 そぉっ

執事「……こんな夜更けに、どちらに夜這いですかな〜」

勇者「ちょ。爺さん、なんてことをっ」びしっ
執事「もがっ。もがっ。こ、呼吸がっ。げふっげふっ」

勇者「あ、ごめん」
執事「危うく殺されてしまうところでしたぞっ!」

勇者「良いじゃないか、もう十分生きただろう?」
執事「さっぱりした顔をして鬼も顔負けな恫喝台詞をっ!?」

勇者「あ、いや。すまん。悪気はないんだ」
執事「一般会話へたくそですからね。勇者は。童貞ですから」

勇者「童貞で悪いか」
執事「いえいえ、にょっほっほ。……さてはぱふぱふに?
 こんな小さな村にはぱふぱふ酒場もありませんぞ」

勇者「えっと、ちょっと、星を見に」
執事「ほしぃぃぃ?」じとー

勇者「いや、すんません。嘘つきました」
執事「判れば宜しい。さ、庭にでも出ましょうか」


893 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 22:25:32.97 ID:quxpU4cP
執事「……良い風ですな。確かに星も綺麗だ」
勇者「そうだな。綺麗だ……」

そよそよそよ……

勇者「……」
執事「……」

勇者「んじゃ」
執事「……」

勇者「えっと、さ」
執事「ええ」

勇者「行くよ」しゅたっ
執事「はい」

勇者「止めないのか」
執事「止めて良いのか、考えているのです」

勇者「……」

執事「わたし達は、あなたに科せられた枷のようなものですから。
 あなたにとっては、やはり重荷なのか、
 窮屈なのかとも考えます。
 そもそも……この際ですから聞いてしまいますが
 あなたが世界を救う理由は、無いような気さえする」

勇者「……」

執事「聞いて良ければ。……どうしてですか?」

勇者「他にやること無いからだよ」
執事「……」

勇者「だってそうじゃん。魔法使えるし、剣技も使えるけれどさ。
 こんな化け物、学院でも騎士団でも雇ってくれないよ。
 どこに行っても歓迎されるけれど、
 ずっと住んでくれなんて云う村も町もなかっただろう?
 “有り難いには有り難いけれど、
 ずーっといられても困っちゃうのよね〜”とか。
 勇者って、そういう感じじゃん?」


897 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 22:38:38.56 ID:quxpU4cP
勇者「おれ、頭悪いから、よく分かんないだけどさ。
 ――多分、おれ人間じゃないんだ。
 だって人間は俺に優しくはないもの。
 でも人間じゃなかったらなんだろうって考えると、
 俺ってやっぱり勇者なんだよね。
 しかたない。
 人間に生まれたこと無いから、なんで嫌われるかは
 よく判らないんだけどさ」

執事「……」

勇者「弱いってさ。弱くて一杯いるってさ。
 すげー暴力的だよ。
 弱い奴らが不幸になると、
 それが真実かどうかなんてお構いなしに
 近場にいる強いやつを一斉に指さして、お前が悪だって言うんだ。
 そんでもってそれに抗議をすると、
 “ほら、やっぱり私たちを責めるんだ! こいつは悪だ!”
 って大喜びしてさ。そう言うのってすごい暴力的だ。
 そういう意味では、俺はたしかに、救う理由なんて無いけどさ」

執事「……はい」

勇者「でもさー、やっぱりさー」
執事「……」

勇者「全部を嫌いになるのは、無理」 にかっ
執事「……」

勇者「だって、みんな健気なんだもん。優しいし、温かいしさ。
 ただ、そういうのが、俺に向かってないってだけでさ。
 基本的に人間は良いやつばっかりだ。
 じいちゃんが、最後には帳尻があったって言ってたけれど
 幸せだけなんてないんだよな。
 たぶん、帳尻が合うだけ。
 全てはモザイク模様で、白と黒とのコントラスト。
 白だけとか、黒だけとか、そういう手に入れ方は出来ないんだな。
 たぶん“全部もらう”か“全部要らない”かしか
 選べないセットメニューなんだよ。
 ……だから、俺がどんなに辛くても、
 誰かにとっては大事なこの世界は、壊しちゃいけない」
898 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 22:41:16.74 ID:quxpU4cP
執事「勇者……」

勇者「爺さんとか、あの二人と一緒にいるとさぁ」
執事「……」

勇者「なんか、人間みたいな気分で、楽しいわけだ」てへっ
執事「……」

勇者「だから倒してきてやるよ。魔王を。
 それくらいの幸せは、受け取った」

執事「……」

勇者「それにさ。やっぱ、もてたい訳よ」
執事「そう、ですか……」

勇者「童貞だから」
執事「童貞ですからね」

勇者「期待しちゃう訳よ」
執事「そりゃしますな。期待こそ青春ですから」

勇者「だから」
執事「?」

勇者「そのうち、なんつーか。ほらよ、なんつーかな!」
執事「はい」

勇者「“わたしのものになってくれ”なんて云ってくれる人が
 ……俺にだって現われるかも知れないじゃん?
 魔物殺すのと都市壊すのくらいしかできないけどさ。
 俺は人間じゃないから、仲間はずれだけどさ。
 そんなのは、俺のセットメニューに
 入ってないなんて判ってるんだけれどさ。
 そう言うこと云ってもらえるのは、人間なんだろうなって。
 ――でも、
 そういうの、期待しちゃうんだよ。馬鹿だから」


911 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 23:17:20.66 ID:quxpU4cP
――開門都市近郊、聖鍵遠征軍本陣内、豪奢な天幕

ザザザアアアーーーー!!
  ゴゥゥン! ゴロゴロゴロゴロ

大主教「落ちたな」
従軍大司祭「は?」

大主教「黒騎士が落ちた。……勇者と呼ばれていた男だ」
従軍大司祭「勇者が!?」

大主教「勇者は光の精霊を裏切ったのだ。その証拠に精霊の
 祈りの力を受けて身動きも叶わなくなり、地に落ちたではないか」

従軍大司祭「そ、そんな」

大主教「騎士団よ」

百合騎士隊員「はっ! 猊下」

ちゅぷ、くちゃぁ。
 ――ころり、ころり。

大主教「勇者は激しい雨と落雷を呼び寄せたが、
 祈りの結界に閉じ込められて戦場に落ちた。
 その能力は、祈りの続く限り、腕の立つ騎士の一人と大差ない。
 聖なる祈願を込めたマスケットと百合騎士隊で
 捉えることが出来るだろう。
 良いか、必ずや捉えろ。
 むしろ、殺してしまえ。
 ただしその首は持ち帰るのだ……」

従軍大司祭「まさか勇者が……」

ザザザアアアーーーー!!
  ゴゥゥン! ゴロゴロゴロゴロ


912 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 23:19:13.90 ID:quxpU4cP
大主教「勇者はもはや闇に堕ちたのだ。
 漆黒の鎧をまとい、魔族に味方をし
 精霊の遠征軍に雷の刃を向けたのが、その証し……。
 教会は、精霊の御名により、彼の者に異端の烙印を押す」

従軍大司祭「お、御命をうけたまわりましてございます」
百合騎士隊員「ははぁっ」

 ふわり

大主教「行けっ。すぐさま伝えよ」

 執事「そうはいきません」
  ひゅばっ! キィン!

大主教「行け」
従軍大司祭「はっ、はいっ」

 ダッダッダッ!!

大主教「そなたは……。見覚えがある。聖王国の」
執事「勇者の仲間です」

大主教「背教者め」
執事「その黒い呪力。……魔王になりましたなっ」

 ひゅん! ひゅわんっ! ビキィッ!

執事「その魔力っ。防御力っ。大主教ともあろうものがっ!」

ちゅぷ、くちゃぁ。
 ――ころり、ころり。

大主教 にまぁ

執事「……っ!? それは、刻印王のっ!?」
915 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 23:24:06.52 ID:quxpU4cP
大主教「われは人間だ。
 徹頭徹尾、ただの、無力な、か弱い人間だよ。
 はぁっはっはっは」

執事「偽るおつもりかっ! あなたが黒い意志ではないですかっ!?」

ガギンっ! ヒュドンッ! キン、キィン!

大主教「見えない魔弾か。造作もない」
執事「人間に弾けるはずもないっ」

大主教「人間に撃てるものは、みな人間に防げるのだ」
執事「その力は、魔王の力だっ」

キュン、キィン!

大主教「だが我は人間だ。この眼球を我が眼窩に移植をすると?
 それは。くっくっく。
 確かに魔王の資格も得るだろうが、
 それでは“勇者の敵”になってしまう」

執事「……っ!?」

大主教「勇者は強い。魔王が弱いこの時代において、
 その力は、世界でもっとも強大なもの。
 それが赦せぬ。
 この世界は人間のものなのだ! あのような超人の闊歩する
 箱庭ではない、我らが、この世界の王なのだっ!
 くっくっくっく。はぁーっはっはっは!
 何が悪い!? 人間が人間のまま、魔王を! 勇者を!
 あやつら人外どもを越えて何が悪いというのだ!」

執事「だとしたら同じ人間としてあなたを
 生かしておくわけにはいきませんぞっ!」

ギィン!

大主教「“鉄甲祈祷”、“魔盾祈祷”、“光輪祈祷”っ」
執事「……っ! おされるっ!?」

大主教「たかが弓兵ごときが、我にかなうと思っているのか。
 勇者は光の縛鎖にて――“人間の悪意”にて縛った。
 もはや我を越える力を持つ者は、この世界にはいない」

執事「っ!?」

大主教「次は、『聖骸』を。そして世界は真の平和を得るのだ」


926 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 23:41:53.21 ID:quxpU4cP
――地下城塞基底部、地底湖

ブゥウンッ!

メイド長「今の映像は……」
女魔法使い「……遠隔視の術式」

メイド長「あれは、あの男はなんなのですかっ!」
女魔法使い「……」


メイド長「あのような人間など。
 なぜ今まで隠していたんですかっ。女魔法使い様」
 ゆさゆさっ

女魔法使い「汚点」

メイド長「え?」

女魔法使い「……一族の、ミス」

メイド長「とは……?」

女魔法使い「……遙か昔、1400年前に人間世界へと出た図書館族。
 その、子孫。末裔。……それが、あれ」

メイド長「そんな、図書館……わたし達の、一族?」

女魔法使い「……存在の可能性は認識していた。
 幾つかの事象から、その実在が高い確率で想定できた。
 でも、正確に誰がそうなのか判ったのは、今が最初」

メイド長「そんな……」

女魔法使い「あれが、魔王と勇者がやろうとしていることの、
 もう一つの側面。眼をそらしては、いけない」
930 :以下、パー速民が(ry[sage]:2009/10/13(火) 23:47:22.82 ID:quxpU4cP
メイド長「……」

女魔法使い「……人々を善導する意志が、歪み、腐り、淀む。
 善意はやがて支配へとすり替わる。
 全ての革命の行き着く先。その、なれの果て。
 魔王と勇者が産もうとしているのは、あれかもしれない」

メイド長「だからといって、歩みを止めるわけにはいかない。
 それは死です。全てが腐敗するとしても、だからといって
 腐敗するために生きるわけではない」

女魔法使い「……」

メイド長「違いますか?」

女魔法使い「……“仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明”」

メイド長「なんですか、それは」

女魔法使い「……明滅している現象だけが、生だと。
 永遠の光も、永遠の闇も。永遠という意味では透過。
 永遠は死。なぜならそこに時間の経過はないのだから。
 明滅だけが永遠ではない。永遠でないと云うことは、
 つまり、明滅の許容」

メイド長「わかりません。そんなことは。
 ――それより、まおー様は!? 勇者様はっ!?」

女魔法使い「魔王は死地に向かっている。勇者は死にかけている」

メイド長「何をしているんですかっ。お助けしなくては」くるっ
女魔法使い「いかせないっ」 がしっ

メイド長「っ!」

女魔法使い「勇者は、全部を掛けると云ったっ。
 何でも払うと云ったんだ。だから、行かせない。
 あなたは回路を調査する。わたしはそれを修理する。
 それが役目。絶対だ。
 ……いいか? 最初から不可能だったんだ。
 可能性はゼロだ。今さら、魔王が死のうが、勇者が死のうが、
 ゼロはゼロ以下にならないっ。
 それでもっ」


934 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/13(火) 23:51:15.48 ID:quxpU4cP
女魔法使い「あの二人は微笑みさえ浮かべて即答した。
 それでも構わないから、賭けると即答した。
 だったら生き延びる。いや、死んでいたって生き返る。
 
 二人が生きていたってそれだけ駄目なんだ。
 最初から不可能だった。
 この開門都市全てが、生け贄の祭壇。
 勇者か魔王の魔力全てを注ぎ込み、その命を絶つことによって
 起動する、天空への架け橋。『天塔』。
 片方の死を持って残り一人を『終幕』へと導く崩壊装置。
 『ようせいのふえ』にて封印されたと
 古の歌は語る伝説の中の幻の塔だ。
 
 それでもあの二人は、その『終幕』を拒絶するつもりなんだ」

メイド長「そんなっ」

女魔法使い「最初から奇跡の五つや六つ揃わないと
 駄目な賭けだったんだ。だからわたしはここを動かない。
 
 いいか? 勇者はわたしに奇跡を望んだ。
 奇跡を、望んだんだ。
 “お前なら出来る”ってなぁ!
 だからメイド長、あなたも逃亡は許さないっ。
 
 この世界には奇跡が溢れている。
 あの二人がそう言ったのだからわたしは信じる。
 たとえ、それがどのような荒唐無稽な話であっても。
 だからあなたにも信じてもらう。
 わたし達の知らない、どこかの奇跡があの二人を救うことをっ」

メイド長「まおー様が、そんなことを?」
女魔法使い「云ったさ」

メイド長「判りました。――宜しいでしょう」
女魔法使い「……」

メイド長「まおー様が言うのならば、そうなんでしょう。
 奇跡なんて信じないで奇跡みたいな冗談を言う人ですからね。
 冗談は胸だけにして欲しいと云ったら、
 冗談を言ってるつもりはないなんて云うほどの人です」

女魔法使い「……」

メイド長「まおー様を信じましょう。それが必要なのならば。
 わたしはあの人のメイド。主人を助けるための無限の力です」

941 :以下、パー速民が(ry[saga]:2009/10/14(水) 00:05:11.60 ID:NoxjAlgP
――開門都市、戦乱の市街

ヒュルルルル……
 グシャァァッツ!!

勇者「っ!!」
夢魔鶫「主上っ。主上……お気を確かに」

勇者「っぁく。な……んだ、この痛みは」
夢魔鶫「おそらく、体力低下の呪詛かと」

勇者「……っく」
夢魔鶫「動いては駄目です。“小回復術”」

ザァァァーザザザー

勇者「どこだ、ここは……」
夢魔鶫「おそらく開門都市の市街部かと」

勇者「周辺の偵察を」
夢魔鶫「しかし……」

勇者「行け」
夢魔鶫「はっ」

パタパタパタっ

勇者(っく! 雨が……。それでも雨だけは降ったか)

ドォオォォン!! ドォォオン!!
 キィン! ガキィン! おおおお、精霊は求めたもうっ

勇者「近いな……」


943 :以下、パー速民が(ry[sage]:2009/10/14(水) 00:10:50.64 ID:NoxjAlgP
夢魔鶫「主上、どうやら一街区先では、激しい戦闘が」

勇者「マスケットはどうだ?」

夢魔鶫「そろそろ、火薬が湿り、火も消えて使い物には
 ならなくなった模様ですが……」

勇者「?」

夢魔鶫「いかんせん、外の遠征軍の数が多すぎます。
 都市防衛軍は良く防いでいますが、この豪雨では
 マスケットももちろんですが、弓矢も殆ど役には立たず
 援護のない大通りでの白兵戦、しかも乱戦状態となっています」

勇者「行って援護をしてくれ」
夢魔鶫「しかし」

勇者「いいからっ」
夢魔鶫「……御命、承りました」

ぱたぱたぱたっ

勇者「……っ」

勇者(こりゃ、ちっと動けないな……。しばらく休憩しないと)

 キィン! ガキィン! 押せ! 引くな!
  ドゴォン! この都市には一歩たりとも入らせんっ!

勇者(魔王は、無事なんだろうな……)

勇者(再生が始まらない。出血制御も組織封鎖もままならない……、
 なんだこれ、毒……なのか?
 いや、でも解毒酵素も動かないぞ。身体が重い。
 神経の伝達速度が二桁も落ちてる……)

勇者「ってな。これっくれぇ、なんだってんだ」 ズキィッ

ぼたっぼたっ……

勇者「これくらい……血が……」

ぐしゃっ




コピペおわり
【第41話】魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」【まおゆう】へつづく
【第41話】魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」【まおゆう】はこちらになります。
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=74264542&comm_id=5991824

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

暇つぶし本棚 更新情報

暇つぶし本棚のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング