怪談クラブコミュのメモ

λ．．．ﾄﾎﾞﾄﾎﾞさんが紹介してくれたお話です～

『――――――ある夜、ふと目が覚めた。

僕は寝付きは良い方だし、夜中に目が覚めることは滅多にないんだけど、その日は熱帯夜だったので目覚めた時は寝汗まみれだった。

僕は一階のトイレに行き用を足そうと二階にある自室を出た・・・当然家族は寝てるので、忍び足で皆を起こさないように、階下へ降りていった・・・

―――――と、何か物音が聴こえてきた・・・音のする方へ目を遣ると和室の明かりが点いていた・・・

おかしいと思い、襖を少し開けてみたんだけど、そこで僕は恐ろしくて固まってしまった・・・

目の前に、父が、母の首を絞めている光景が広がっていたのだ・・・

―――――状況がまるで読み込めない・・・

母の身体がグッタリし、おとなしくなると、父は母を押入れに隠した・・・

そこまで見て、これは現実なんだということに我に返った僕は、足音をたてずに急いで部屋に戻り、ベットの中でガクガクと震えていた・・・

結局、僕はその夜は全く眠れぬままに朝を迎えた。

自室から出ると、朝食の臭いがする・・・

―――――もしかしたら、あれは幻覚ではないのか？

慌ててキッチンに行くと、そこにはトーストを焼いている父がいた・・・

「・・・母さんは？」

「ああ、今日から仕事でしばらく出張になるそうなんだ」

「・・そ・・そう・・・・・・」

―――――やはり昨日見たあの光景は現実なのか！？

僕は内心パニックになりながらも反射的に平静を装っていた・・・

父は普段通りの優しい顔をしながら

「お父さんもうすぐ会社に出るけど、駅まで一緒に行かないか？」

と話しかけてきたが、その日から僕は丁度夏休みに入っていた。

「言ってなかったっけ？俺今日から夏休みなんだ・・・」

父の顔が一瞬曇ったように見えた・・・

「そうか・・・」

そうこうしている内に出勤時間が迫り、父は何事もなかったかのように家を出て行った・・・

―――――父を見送った後、僕は和室へ向かった・・・昨日の光景は現実だったのか・・・自分の妄想なのか・・・確かめるために・・・

和室の中に足を踏み込むと、そこには何事もなかったかのようにシーンと静まり返った空間だけがあった・・・

僕は迷わず押入れの前まで行き、意を決して襖を開けた・・・

―――――いない！？

昨日殺された筈の母はそこにはいなかった・・・

僕は物凄くホッとしてその場にへたり込んでしまった。

「何してるんだ？」

「うわぁぁぁあああああっ!!!!」

僕のすぐ後ろに父がいた・・・僕は凄い表情をしていただろうと思うんだけど、何とか冷静を保って会話をしようと努めていた・・・

「か・・会社は・・・？」

「やっぱり父さん、今日は会社を休むことにしたんだよ」

父の顔から視線を外すと、父は金槌や鋸の入った大具道具を持っていた。

「そ、それは・・・？」

「ああ、たまには日曜大工でもしようと思ってな」

淡々とした口調で父は言う。

母は居なかった・・・でも父は鋸を持ってきた・・・

益々混乱する頭を落ち着かせようと、僕はキッチンに行き、水を飲んだ。

・・・水を飲んだ後、何か臭いがすることに気付いた・・・周囲を見渡すと蝿が飛んでいた・・・床下収納に向かって・・・

不審に思って床下を開けると、そこに母がいた・・・小さく体を折り畳んで・・・

僕は状況を飲み込めないまま、泣いていた・・・

「仕方なかったんだ・・・」

すぐ傍に父がいた・・・

「どうして・・・」

「母さんは、お前と父さんを捨てて、他の男と出ていこうとしたんだ・・・借金までつくって・・・その上、父さんを殺そうとしたんだ・・・」

僕は返事ができなかった・・・昨日まで平穏だったこの家が、もう自分の家だとは思えなくなり始めていた・・・

「父さん、片付けるから・・・自分の部屋に戻りなさい・・・」

少し涙ぐみながら鋸を持ち直す父の言葉に僕は素直に従い、自室に戻っていった・・・

―――――どうしたらいいのか全くわからない。

警察に電話するべきだろうか・・・父を擁護するべきだろうか・・・

自室の床にへたり込んだ僕は、いろんなことがぐちゃぐちゃになって、思考が出来なくなっていた・・・

―――――！？

ベットの下に何かが落ちていた・・・クシャクシャに握り潰された紙切れだった・・・

拾い上げてみると、それは何かのメモのようだった・・・

震える手で紙切れを少しずつ広げていき、恐る恐る中身を見てると、殴り書きの字でこう書いてあった・・・

『○○（僕の名前）はやくにげて　パパはくるってる　ママ』』