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パパイヤ航空 【開業準備室】コミュのパパイヤ航空 客室本部長 [Air マツコのブログ]

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はじめまして。

マツコです。←といっても「マツコ・デラックス」さんとは関係ありません。でも、生年月日は(月日だけじゃなくて年も)同じなんです。

元 大手航空会社・客室乗務員。 管理職として地上に降りました。

某、LCC航空会社「パパイヤ航空・開業準備室」の社外取締役をして居ります。 開業後は客室本部長?!



LCC開業前の現在、某大手航空会社でお局様、いや、管理職として、現役CAたちの指導・監督にあたっています。これまでは、採用試験官、新人訓練教官なんかも担当しました。

たまに毒舌となることから、みんなから「マツコ」と呼ばれています。


これまで経験してきた面白いことをお伝えするために、ブログ始める事にしました。

よろしくお願いします。

マツコ飛行機

コメント(37)

第1話 「上野の脱毛サロン?!?!」


あれは、もう2年ぐらい前かしら〜。

ビジネスクラスで新しいサービスを始めるというので、そのサポートの為にフライトに同乗していたときの事です。

お客様の搭乗中、ビジネスクラスのギャレーで担当のCAと打ち合わせをしていました。新しいサービスだし、私が乗っているフライトで失敗する訳にもいかないし。

他のCAたちはキャビンでお席へのご案内とか、ジャケットのお預かりとか、通常の業務をしていたんだけど、そのうちの一人がギャレーにやってきて、

「マツコさーん。お客様からお問い合わせで、脱毛サロンまでの行き方を教えて欲しいって。」

え?いくらなんでも飛行機に乗ってきてCAに脱毛サロンについて聞くお客さんって居るの?って疑ったんだけど、それを伝えてきたCAはかなり真面目なタイプだったし、しかもごく普通に話してるので、嘘ではないかなーと。

「それで、上野らしいんですけど、私、上野の事よく分からなくて。 お客様は成田に着かれたらすぐに行きたいってご希望なんですが。」

このCA、自分では無理なので私に対応して欲しいというオーラぷんぷん出して。 そんなの私だって上野の脱毛サロンなんて知りませんけど! でも、仕方ないので、行きました。お客様のお席まで。 ビジネスクラスの最後列にお座りの日本人のビジネスマンの方。


一通りご搭乗のお礼を申し上げた後、聞きました。


マツコ: 先ほど乗務員にお問い合わせの件なんですが。

客: あぁ、そうそう、阿修羅展見に行きたいんだけどね、上野らしいんだよね。


その当時上野公園にある国立博物館で「国宝 阿修羅展」をやっていたんです。
もちろん成田空港から上野までの行き方をご説明いたしました。

でも、何がどうなったら 脱毛サロンになるの? と言う疑問を抱きながらギャレーに戻ると、

CA:どうでした? 

マツコ:「阿修羅展見に行きたいんだけどね」って言われたから上野の国立博物館までの行き方ご案内したわよー

と言ったとたん大爆笑。

CA:えーーー? お客様は「足の毛抜きに行きたいんだけどね」っておっしゃいましたよー!

マツコ:「阿修羅展見に行きたいんだけど」「足の毛抜きに行きたいんだけど」ってかなりの聞き間違えじゃない??


まぁ、こんな聞き間違えって機内では序の口かぁとも思うのでした。

第2話 シンガポール・ガールの謎。

マツコです。

この業界にいるとさ、やっぱり気になるのよね。 「世界のエアラインランキング」とか、「ザ・ベストエアライン」とか。

あの手の記事って書き手の主観で判断していたり、アンケート取ったとしてもその会社のイメージが先行していて、本当の意味での評価って出ていないと思うんだけど。 まぁ、それはさておき。

その上位にいつも挙げられるのが、シンガポール航空。 最近は一般の人まで SQ なんて言って呼んでらっしゃるけど。

シンガポール政府の全面的な援助を強みに、普通では考えられないくらいの設備投資をしているから、いつも最新鋭の機材で斬新なデザインのキャビン、機内サービスを提供できるというのは、それなりの評価を得られやすいとは思うのよね。他社があれだけの設備投資を採算度外視で出来るわけないから、ある意味 卑怯ではあるけれど。 ま、それも有りの世界。

SQのCAに対する評価もいつも上位なのよねー。民族衣装を模したピチピチのサロンケバヤで女性の肉体曲線を全面に出してる制服。素肌は一切見えないんじゃないかと思うくらいしっかりとお化粧もして、目配せも「エロ光線」たっぷりだして。 まぁ銀座の高級クラブのお姉ちゃんといい勝負なんじゃない?って言ったら怒られるかしら。シンガポール・ガールのマジックにかかると、非日常な「ご接待」が体験できるって訳よ。 そう考えると、シンガポール航空の作戦は大成功だと思うのよねー。

でもねー。かなり不思議なのよね。 

シンガポールって行った事あるでしょ? 私もフライトで何度も行った事があるんだけど、あの街中で「シンガポール・ガール」を見た事が一切ないのよ。 あの街で見かける若い女性って、とっても安っぽいテレテレのワンピースにサンダル(というよりもつっかけ)を履いてて、しかもガニ股で歩きながら、大口開けて北京語と英語まじりでガヤガヤおしゃべりしてる人ばっかり。 デパートの店員さんも、レストランのウェートレスもみーんなそうよ! あえて言うなら、チャンギ空港のカウンターにいる地上職のお姉さん達もそんな感じ。 それがシンガポール航空のCAになったら、なんであんなにおしとやかで妖艶な美女になっちゃう訳?

あそこの新人訓練センターではどんな洗脳教育がなされているのか、是非見てみたいと思うんだけどぉ。絶対洗脳よねぇ。じゃなかったら、どんなカラクリがあるのかしら? 誰かおしえてー。
第3話 「空中火災!」



飛行機の運航上、一番怖いのが飛行中に発生する火災。

消火活動を行なうにも行動範囲や消化用機材にも制約がある中で、火災が押さえられないと空中でバラバラになる可能性だって出てくる訳だから。

火災を防ぐ為の策は色々あって、熱や煙を感知する機械は飛行機の至る所にあるのよ。

あるフライトでね、「後部貨物室の二酸化炭素濃度が異常に高くなっていて火災発生の可能性がある」って言う報告がコックピットから入ったの。 CAたちって、火災の恐ろしさってホント怖いくらい訓練で習っているから、もうみんな一瞬にして背筋が凍る思いをしたわけよ。

機長の指示で火災の原因を探る作業を開始。 そりゃーもう、あのときのテキパキ度って、ホントすごかったわよー。 手を床や壁に当てて異常な熱があるかを探るんだけど、誰も発見できなかったの。

でも放置しておくのはリスクが高すぎるから、機長の判断で貨物室内に消化剤が撒かれ、そのまま成田へ緊急着陸。

乗客へは簡単に状況説明と、着陸時に消防車が多数待機している事、最優先で着陸させてもらえるように緊急着陸の要請をした事なんかをアナウンスして、着陸態勢へ。

到着後、普通のゲートではなくて緊急の飛行機が止めさせられるスポット(ホットスポット)に駐機。機長と一緒に外に出たんだけど、なにも燃えてる様子がないのよね。

その貨物室を開ける場合も外から熱があるか確認しながら慎重に。 開けると、消化剤で白い煙が舞ってたけれども、異常なし。

すると、地上職の人が、「ペットの猫ちゃんが1匹いるんだけどー、もうだめかなぁ」って。 すぐ猫ちゃんを取り出すと、ぐったりしていて。 みんな、あーぁ、もうダメかってみんなが思った瞬間、猫が「コホッ」って咳をして、しばらくしてすごい声でギャーって。 まぁ死んでなくてよかったー。

その後、お客様には普通に降機して頂いて、事なきを得たんだけどね。

後日、調査の結果、その貨物室には大量のオクラが貨物として乗っていたらしいの。オクラって、二酸化炭素を大量に出すらしくて、どうやらそれが飛行機の火災探知機に触れたらしい。 

それ以降、大量のオクラは同じ貨物室に乗せる事は禁じられました。



第4話 「添乗員の英語力!」



マツコです。

先日、個人的な旅行でロスに行ってきました。 円高の影響もあるんだろうけど、日本人旅行客が多かったわよー。

いまだにあるのね、添乗員同行ツアー。今はパッケージツアーを使ったとしても個人旅行が主流でもう添乗員が同行するのって随分無くなったと思っていたけど。

それでね、ロサンゼルスからの帰国便でチェックインするとき、私の隣のカウンターでその添乗員同行ツアーの皆さんが手続きされてたの。 お土産物が増えたのか、皆さん手荷物が多くて、中にはカウンターで段ボール箱もらって荷物を作り直している人もいたの。 そしたら、その中の人が「添乗員さん、ガムテープもらえますか?」って。

添乗員さんってさぁ、まあ完璧じゃないにしても現地でのお世話をしてくれるぐらいの語学力があるって言うイメージってあるでしょ? さすがこういう時こそ添乗員同行ツアーの強みが出るよねーって見てた訳。

その添乗員さん、チェックインカウンターの地上係員に、
「テープ、プリーズ」って。
そしたらさぁ、その白人のお姉ちゃん、セロテープ渡しちゃって。 その添乗員さんも、「えぇっと。ガムテープってなんていうんだっけ?」
まぁ、私もこの業界長いからさぁ、英語ではガムテープじゃなくて別の言い方をするって言うぐらいは知ってるわよ。「ガムテープ!」とカウンターの向こうのお姉ちゃんに叫ぶ添乗員さんを助けてあげようかなってちょっと思ったのね。 そしたら、

添乗員:「あぁ、ガムテープ、テープ!」

係員: 「Oh, I already gave it to you. What do you need?」

添乗員:「テープ、…… フトーイ!」


え?「フトーイ」って、太いテープが欲しいっていうこと? かなり耳を疑ったんだけど、何とその係員のお姉さん、「Oh, ok! Here you go!」って、ガムテープ渡しちゃった。

まぁ通じたからいいか!って、それにしてもこの英語力でロサンゼルスまで添乗してくるこのお兄ちゃんって、かわいそうっていうか、ある意味勇気あるなーっていうか。このお兄ちゃんを添乗員として雇っている旅行会社もすごいわよねー。
第5話「すぺるあうと」



マツコです。

この業界に限らず、聞き間違えを防ぐ為の言い回しってあるでしょ? 例えば、電報を頼む時なんて「ひ」から始まる音だと「し」と聞き間違えないように、「ひまわりの『ひ』でしょうか?」なんて電報受付のオペレーターの人が使ったり。

英語のスペルもそうで、航空・旅行業界には、だいたい世界共通のスペルアウトが存在するのよー。Aは「エイブル(ABLE)」、Bは「ベイカー(BAKER)」、Cは「チャーリー(CHARLIE)」、」… Zは「ゼブラ(ZEBRA)」に至るまで、それぞれの文字を決まった単語で表すことになってるの。

例えば 『小泉(KOIZUMI)』 さんの名前のスペルは

「ケイ・オー・アイ・ズィー・ユー・エム・アイ」

ではなく

「KING・OVER・ITEM・ZEBRA・UNCLE・MIKE・ITEM」

って言う感じで。


ある日ねー、客室本部のオフィスで書類整理をしていたら、隣のデスクに座っていたおじさんが、

「あ、そうそう、明日の早朝 OA (Other Airlineの略=他社便)でデッドヘッドするクルーがいるんだけど、予約の確認をしておいた方がいいなぁ」

なんて、独り言をいっていたの。 まぁ、確認しておいた方がいいわよねー、なんて私も心の中で同意をしていたんだけど、しばらくしてそのおじさん、電話を掛けたのよ、相手の航空会社の予約センターに。

「あ、そうなんです。もう既に予約が入っているはずなんですが、確認をお願いします。 予約番号申し上げます。」

って言う感じで。まぁ、通常の会話よねー。 飛行機の予約(PNR) ってアルファベットと数字の組み合わせで出来た6桁の予約番号(Reference Number)が割り当てられるの。 それで、そのおじさん、

「エーブルのA」
「数字の6」

なんてやっていたんだけど、その途中で、

「おばQのQ! … え?数字の9ではなくて、おばQだよ!分かんないかなー」
「クィーンのQ? え? そうそう、そうとも言うかな?! Qです。」

わたしさぁ、「おばQ」って聞こえた瞬間吹き出しそうになったんだけど、もう、デスクで前のめりになりながらぐっと必死にこらえてたのよー。 

しばらくして、予約の確認もとれて、事なきを得たみたいなんだけど、そのおじさん私の方を向いて、

「おい、マツコ。 最近の若いエージェントはスペルもロクにできないんだなぁ。俺もこの業界長いけどよぉ、ちょっと悲しくなったよ!」

って、「Qは、おばQ じゃなくて、クィーンのQなんだよ!」って言いたかったけど、

「あらー、そうなんですか?それは残念ですね。」なんて聞いてないふりしちゃった。大人の対応でしょ?

あーぁ、でもさぁ、このおじさん、ずーっと「おばQ」で通してきたのかしらん?
第6話 「油断は大敵よー!」



マツコです。

私ってさぁ、客室訓練部で新人訓練教官をしてたことがあるのよね。 だからさぁ、普通に乗客として乗っている時でも私が教えたCA達は、私を見ると妙に緊張するらしいのよね。

ある日、私が随分前に訓練を担当した 愛ちゃんが乗務するフライトに乗客として乗ったの。 愛ちゃんって関西出身で、機内で接客する時以外は完全に関西弁で通しちゃうような、元気なCA。

私をゲートで見つけるなり、 「イヤー、マツコさん。お久しぶりですー。元気にしてはりましたぁ? もしかしてこのフライト乗らはるの? イヤー、困るわぁ、メチャクチャ緊張しますやん。マツコさん、どうぞお手柔らかに。 ほな、機内でー!」って相変わらず、愛ちゃん節をかまして、機内に消えて行ったのよ。

そんな愛ちゃんも機内では標準語で 「ご搭乗ありがとうございます。ジャケットをお預かりいたしましょうか?」なんて卒なく仕事をこなしていたゎ。教え子が立派に独り立ちして働いている姿を見るのってそりゃ〜気持ちがいいものよ。

私の席の横を通るたびにコソコソっと 「どないです?ちゃんとやってまっしゃろー。」なんて余裕な態度を見せるほど。 私も「随分ご立派ね」なんてけしかけたら、頬を赤らめて 「恐れ入ります。」 って急に標準語に戻して、業務に戻って行ったけど。

離陸しておしぼりが配られたの。 他のCA達は、「おしぼりでございます。」「熱いのでお気をつけください。」などと言いながら、普段通りにサービスをしていたの。

ところが、この愛ちゃん、どういう訳か おしぼりを配っているのに「新聞でございまーす」「新聞です、どうぞ。」 って言いながら前から満面の笑みでやってくるの。私にも同じように、「新聞でございまーす」なんて言っておしぼりを出すものだから、制服の袖を引っ張って 「ねぇ、あなたが配ってるのは、新聞じゃなくておしぼりよ!」って小声で教えてあげたの。そしたら愛ちゃん、完全に素に戻ったのか関西弁丸出しで、「いやぁー、どないしょ!ホンマやゎ」「私、新聞ってゆうておしぼり配ってましたゎー。さっきなぁ、前でお客さんに新聞頼まれて、忘れたらあかんと思って、頭ん中で、新聞、新聞って言ってたつもりが、口に出してしもーたわぁ。あー、もうすんませんでした!」って。これにはお客様も大爆笑。

人間、いくら慣れてきたからと言っても、油断は禁物ってことね。
第7話 「添乗員の英語力? (フマキラーの巻)」



マツコです。

今日はちょっと昔の話していいかしら?
私にも新人だった時代があってね、とても初々しく仕事をしていたのよ。

当時の日本人のお客様ってほぼ全員って言っていいほど、添乗員付きのパッケージツアー。キャビンにお座りの皆様の胸にはLOOK、マッハ、 ホリデー…などと言った有名旅行会社のパッケージツアーブランドのバッジが付いてて、「なにも機内でバッジ付ける必要ないんじゃない?」ってはじめの頃は思ったけど、あれは添乗員さんからすると自分のお客様を見分ける重要なツールだったのね。

パッケージツアーのお客様は何でも旅行会社任せだから、今のお客様と比べると、私達に求めてくるものって本当に限られたことしかなかったわ。入国書類だってぜーんぶ旅行会社が記入済み。添乗員の言うことを聞いていたらまず恥かく事もないし、楽しい海外旅行ができるって思い込んでたのね。

当時のパッケージツアーは典型的な団体旅行。スケジュールがぎっしり決まっていて、観光スポットの滞在時間はもとより、お買い物の時間も決まっていたの。安いツアーだとお買い物の時間が観光よりも多かったりしたのよね。

この「お買い物の時間」っていうのが曲者で、お店にはいる前に「お買い物カード」っていうのがツアーバスの中で配られるの。「お会計の際必ずレジでご提示ください。特別サービスでチョコレート一箱もらえます。カードを提示しないと損しますよ。このツアーに参加したお客様だけの特典です!」なんて添乗員にふっかけられて。 添乗員からするとこのカードを出した客は俺の客だぞっていう店側への合図。帰り際に店から売り上げの何%かが添乗員に渡る仕組みだったの。

だから機内でお客様から、現地でいいおみやげやさんありますか?なんて聞かれた時に丁寧に答えてたら、添乗員が割って入ってきて「ツアーでお買い物のお時間を十分にとってますから、ご心配いりませんよ!」なんてことも。あとでお客様から見えないところで「余計なことするな」って添乗員が私たちを怒るのよ。今じゃあ考えられないわよね。

私たちだって新人だった頃は海外に行くたびにうれしがって何かとお土産を買ってきたゎー。乗務が終わって街中にあるDuty Free でお買い物をしてた事が多かったかしら。 当時海外からのお土産って、洋酒か香水がほとんど。香水だって今みたいに種類が多かったわけではなくて、シャネル、ディオール、クロエぐらいしか品揃えは無かったの。中でもシャネルの五番がお土産の定番。 それでも、大中小のサイズ、パフュームなのかトワレなのか、ボトルはアトマイザー付きなのか…って色々バリエーションがあったの。

ある日、いつものように時間潰しを兼ねて Duty Freeのお店の中に入ったら、いつも以上に日本人の団体客が店内を埋め尽くしていたの。添乗員さんもてんてこ舞いでヘルプをしていたし。当時は今みたいに日本語ができる店員さんばかりじゃなかったのね。 ふと見ると、香水売り場で日本人がシャネルのNo.5を買ってたの。カウンターの上に出されてた商品は、アトマイザーがないタイプ。どうやらアトマイザー付きのものが欲しかったらしいんだけど店員さんには伝わらず、「あ、添乗員さん、通訳して!」って叫んだのね。

やってきた添乗員さんは店員さんにむかって「They want different type.」 って。違うタイプって言われてもどれ出していいかわかんないわよねぇー、なんて思いながら私、横で見てたんだけど。添乗員さんも日本語でボソボソっと、「シャバシャバ出るやつじゃなくてスプレーがいいんでしょ?」ってお客様と再確認なんかしちゃって。



添乗員: ノー、ノーシャバシャバ! シューっ!

店員: what?

添乗員: シュー、シュッ タイプ。 うーん通じないなぁ~。発音悪いかな?ー





っておい、発音の問題じゃないだろーーって思った瞬間





添乗員: わかった、あのぉー、フマキラー、フマキラータイプ、プリーズ!




ええええ! フマキラーって??
そしたら、




店員: oh certainly, here you go!




って出てきちゃった、アトマイザー付きのシャネルNo.5。


お客様たちも「さすが添乗員。すごい英語力ですね。助かりましたー。」って。
うーん。

この団体様、翌日、私が乗務する帰国便にご搭乗でした。機内免税販売の時、添乗員さんに、「免税品はいかがですか? 人気のシャネルNo.5、アトマイザー付きのボトルもご用意しております。」って話しかけた私って意地悪かしらん?
第8話 「ファーストクラスの黒い雨」

マツコです。


ファーストクラスのお食事って時代とともに随分変わったわよね。 

まだファーストクラスが個室タイプではなくて座席だったころ、ファーストクラスの機内食サービスはフライト中のメインイベントでした。


食前のお飲み物もフルサイズのボトルのリカーをカートに並べてバーのように演出してから各種カクテルをお作りしていました。機材によってはコンソールがバーのようになっていたし。飲み物用にレモンやライムだけじゃなくて、オリーブやチェリー、ミントの葉なんかもあったりして。 カクテルとともにお出しする小皿には、カナッペやエスカルゴのパイ包みなど本格的なおつまみがあったのよ。 今はほとんどの方がいきなりワインかシャンパンをご注文なさるみたいだけど、食事の前のカクテルタイムって、とても優雅だったわ。

カクテルが終わるとお食事。完全なフルコースが用意されているの。 キャビア、冷前菜、温前菜、スープ、サラダ、お口直しのシャーベット、お魚料理、お肉料理、チーズ、フルーツ、デザート、食後酒、コーヒー、チョコレート・・・温かいパンも数種類。と、まぁ、これだけよく食べれるわねーって言うぐらいお出しします。 

今は個室のタイプになってしまって、ほとんどの物がギャレーで盛り付けられて出てくるけれど、当時は全てワゴンからお客様の前でお取り分けしてお出ししていました。 

キャビアサービスときは氷の彫刻もあったのよねー。 氷の彫刻の上にある小さい窪みにキャビアを瓶ごといれて、大きい窪みにはウォッカのボトルを入れて。その周りにコンディメントとして使うエッグヨーク、エッグホワイト、パセリ、オニオン、サワークリーム、ケッパー、レモンなどがきれいに並べてあって、一緒にお出しするポイントトーストやポテトパンケーキなどは冷めないようにバンマリーの上に並べていました。ウォッカはショットグラスでご用意していました。

お席までワゴンでお伺いして、「キャビアは如何でしょうか?」「本日はセヴルーガでございます。」「コンディメントは全てご用意してよろしいでしょうか?」等といいながらお好みに合わせて盛り付けしていくの。 カートがキャビンに出ると一気に華やかな雰囲気になったものよ。

キャビアはお好みの量をデミタス・スプーンとナイフを使って取り分けることになっていたの。キャビアを瓶からスプーンですくい上げて、お皿の中心の上に持って行き、ナイフでスプーンの内側を滑らすようにしてキャビアをお皿に盛り付けるというのが訓練所で習うやりかた。 でもねー、今も昔もいるのよねー、自己流でやる人間が。 キャビアをスプーンですくってそのまま振り落とす。 中々キャビアが落ちてくれないときは何度もブン、ブン振り落とす。キャビアの粒がついてるときはさらにブン、ブン、ブンって振りまくる。

うまく行けばいいけれど、そうは行かないときもあってねー。 スプーンを勢いよく振り下ろした瞬間、キャビアが雨の様にぱらぱらと。 しかもお客様の白いシャツの上に。訓練所で教わったとおりにしておけば、起きないんだけど。

これを私達は「ファーストクラスの黒い雨」と呼んでいました。

ビジネスクラスやエコノミークラスで働いているとたまに、「今日はファーストクラスで黒い雨が降ったらしい」なんてお触れが廻ってきたりして。 

みなさん、自己流はやはりいけません。 訓練所で習った通りにやりましょう!
第9話 シャトーといえば...


マツコです。

日本人がワインを楽しむようになったのは、ここ10年ぐらいのことじゃないかしら? 以前、機内で頼まれるお酒といえば、大抵ウィスキーの水割りかビール。 たまにジントニックというのが定番。

日本でワインが流行り出すと皆さんこぞって、ワインを召し上がるようになりました。もちろん中には相当お詳しい方もいて、ワインリストを見て銘柄を指定される事もあります。 それでもほとんどの方がにわか仕込みの自称「ワイン通」。

あるフライトのファーストクラスでの出来事です。明らかにファーストクラスは初めてご利用になる感じの、30台前半の男性。 機内でお出しするものは全てお楽しみになりたい!と言う意気込みが感じられ、しかもちょっと鼻につく感じのエエカッコしい。 これにはクルーも失笑気味でした。

この方もご多分に漏れず、自称ワイン通。
食前はもちろん、ドンペリガブガブ。お食事中もワインは白二種、赤も二種お楽しみになってご満悦でした。「さずが、ファーストクラスだね、ビジネ スクラスとはワインの種類が違う!」なんて。お客様には失礼だけど、あまりにもその態度が鼻につくものだから、CA達からすると、本当に味わかって仰って るのかしら?って思っちゃうんだけど。

機内サービスも、メインコースをお出しするころになって、このフライトでのロースト物がやたら余りそうだって事がわかったの。 ロースト物ってフライトによってローストビーフだったり、ラムのラックだったり、メニューが様々だったんだけど、このフライトにはシャトーブリアンの ローストビーフが用意されてたの。 当時、ローストのサービスはワゴンでご用意してお客様の目の前で切り分ける事になっていたの。

お客様のご注文によってはロースト以外のメインコースをお召し上がりになるので、ローストが余ることもし ばしばあったわけ。 そんな時には他のメインコースをご注文の方にもお声をおかけして、お出しすることもありました。特にシャトーブリアンなんて最上級のお肉の時は皆様にお声 をかけてました。


もちろんこのお客様にも...。


CA:お客様、メインコースは鴨のお料理をご注文いただいておりましたが、シャトーブリアンもお召し上がりになりませんか?

客:え?そうなの、いいの?



と、とてもご満悦そうな表情で、



客:じゃあ、グラスで一杯貰おうかな!




えー!! 肉をグラスで一杯⁈


このCAの表情がこわばった途端、離れて見ていたチーフパーサーが赤ワインの入ったグラスをとっさに差し出し、


チーフパーサー:お待たせいたしました、シャトー △%⌘〻でございます。


って、シャトー以外は訳のわからない言葉を言いながら、にっこり。



客:さすがだね、ワインリストにもないワインがファーストクラスにはあるんだね。うん、おいしいよ!


と、お客様に恥をかかせることなく、事が納まりました。


あとでこのチーフパーサーにどのワインを出したのかを聞いてみると、
「あまりにもとっさだったから、ギャレーにあったエコノミークラス用のミニボトルの赤ワインをファーストクラス用のグラスについじゃった!」
ですって。


なんでも、シャトーって、つけとけばいいってものなの?

第10話 機内アナウンス


マツコです。

CAの業務の一つに、機内アナウンスがあるでしょ?  私たちは、PA (Public Address) って言ってるけど。

通常はご搭乗時の案内、出発時のご挨拶、シートベルト着用等の安全確認、非常用設備の案内、離陸後機内サービスについてのご案内、フライトの進捗 状況の案内、到着時の情報や入国手続きに関する案内、到着前の安全確認、到着時の案内、降機案内…。 通常業務でも結構、機内アナウンスを入れてるわね。

これも得意、不得意があって、異常に緊張してしまう人もいるのよね。 逆に得意ぶって、マニュアルに無い事を加えてアナウンスする人もいたりして。

通常運航ならいいんだけれど、突発的に何かが起こると、その状況説明に突拍子もない事を言っちゃうものなのよ。 

ある日、成田空港に到着する際、着陸前の情報だと通常のゲートに到着する予定だったんだけど、使用する予定のゲートにいる飛行機に不具合が見つかって、出発が遅延するとの事。それで、急遽ゲートが変更になったの。 しかもゲートがなかなか決まらなくて、ターミナルから離れた場所で待機。

10分ほど待ったあと、ゲートへの到着は諦めて、スポットからバスでご案内する事になったの。 機内アナウンス担当のCAが、

「みなさま、たいへんお待たせいたしました。 本日、成田空港のゲートが混雑しているため、この飛行機は置き引きとなります。 到着ターミナルまではバスでご案内いたします。」

え? 置き引き? それってこの飛行機、泥棒されちゃうの? キャビンは「え?置き引きってどういう意味?」と、お客様がざわざわ。

すかさず、チーフパーサーがアナウンスを入れ直して、

「たいへん失礼いたしました。この飛行機は、沖止めとなります。どうぞご了承くださいませ。」

そりゃそうだ! 置き引き じゃなくて、 沖止めよねぇ。

いい間違えって怖いわー。
第11話 特賞ー沖縄旅行


マツコです。

一昔前って、CAっていうとみんな若くて、結婚と同時に辞めて行くいて言うイメージだったけど、今では結婚後も続けて飛び人も多いし、ママさんCAだって珍しくなくなったわねー。

だから最近はオフィスにいると、旦那さんのこととか、お子さんのこととかいろいろとCA達も私に話してくるわけよー。

もう飛び続けて相当長いチーフパーサー級のお姉様がいらっしゃるの。私よりもずっと先輩なんだけど、地上に降りずに現役で飛んでいたいっていうご希望で。ある時、この先輩が私服姿でオフィスにいらして、「これから沖縄に行って参ります。他社のフライト利用で、旦那と旅行なんですよー。」ってうれし そうに、CA達と話してたの。 みんな、結婚されて随分経っても二人でご旅行なんて羨ましいわーなんて冷やかしてたけど。

私は自分のデスクに戻って仕事をしていたんだけど、このお姉様、私の所に来て



お姉様:マツコさん、旦那と二人で沖縄旅行なの。旦那がギリギリまで仕事だから空港で待ち合わせなんだけど。

マツコ:あら、イイじゃない、楽しんでらしてください。

お姉様:ありがとう。この旅行は旦那が川柳で入選した賞品なのよ。

マツコ:ヘー、旦那さん、入選するほど川柳がお上手なんだぁ。

お姉様:それがね、私はとっても複雑な心境なのよ。 これ見てよ。


差し出された紙には テーマ『妻へ贈る心の叫び』って書いてあって、特賞ー沖縄旅行 の下にあった川柳は、

夜間飛行 仕留めた相手は アカンひと

だって。 思わず吹きそうになっちゃったけど、グッと堪えて、


マツコ:この、「アカンひと」っていうのはあなたのこと?

お姉様:そうなのよ、ホントに頭にくるでしょ? 結婚前に、旦那は夜のフライトによく乗客で乗ってて、それがきっかけでお付き合いが始まったんだけどね。

マツコ:じゃあ夜間飛行で仕留められたわけだー。

お姉様:まあね…。 あ、もう待ち合わせの時間だわ。 じゃあ、行ってきまーす。



私のデスクにはこの川柳の紙が残されてました。

それにしても、この川柳、うまくまとまってるわよねー。
第12話 カタカナ姓


マツコです。

国際結婚って、今はそれほど珍しくなくなったわよねぇ。 以前だと、名札がカタカナの苗字になるのが嫌で、旧姓の日本名で通した人も多かったけど、最近の人は気にしないみたい。

韓国人のリーさんと結婚した人は、 「リー 真須美」 とか イギリス人のスミスさんと結婚した人は、「スミス 真理子」 という具合に、名札にカタカナ名が入っても違和感がなくなってきました。

客室本部の地上スタッフにもアメリカ人と結婚して、カタカナ姓を名乗っている人がいたの。 ご本人は多少の海外生活もあるものの、日本生まれの日本育ち。 結婚後、姓が変わってからはアルファベットの表記を頑なにきらって、カタカナで表記するように周りの人にもお願いしていたの。

ある日、彼女が電話をしていたんだけど、

「はい、わたくし客室本部の者です。え? スペルですか?」

察するに電話の相手は彼女の苗字のスペルを聞いてきたみたい。

「え? はい、カタカナでかまいません。わたくしは日本人ですから。 え? はい。 カタカナで、 ガに点々、バに点々です。

それ聞いた瞬間、彼女の袖を引っ張って、違うわよー!って教えてあげたんだけど、彼女電話を保留にして



彼女:え?何が違うの? 私、ガに点々、バに点々なんだけど。

マツコ:それじゃあ、ガ゛バ゛ってなっちゃって点が四つよ!なんて発音するのよ!

彼女:はぁ?

マツコ:だから、あなたの名前は、カに点々に横棒、ハに点々に横棒にしないと、ガーバーにならないでしょ! ガに点々つけちゃったら、かなりきたない音になるじゃない!横棒忘れてるから伸ばせないし。


すると彼女、電話の保留を解除して、

「はい、ガーバーです。Gerberです。」

って英語のスペル言っちゃった。


それまでのこだわりって何だったんでしょ?
第13話 お忘れ物


マツコです。

日本の高齢化社会が叫ばれて久しいけど、CAの世界も高齢化社会が進んでいて、定年を迎えるまで働いているお姉様方も珍しくなくなりました。

ある日、ゲートコンコースを歩いていると、私の名前を呼ぶ声が聞こえました。「マツコさ〜ん。」 振り返ると、定年間際の大先輩の ヨウコさん。 いまでも現役でCAとして飛んでいらっしゃいます。チョット天然が入っている感じの、可愛らしいいお姉様。昔、スチュワーデスって呼ばれてた頃はホントに可愛かっ たんだろうな〜って想像できるような方です。

「あのぉ、今到着したんですけどね、こちらお客様が機内にアイホンをお忘れとの事で…。」

お客様から座席番号、iPhoneにケースが付いているかなどをお伺いした上で、ご利用便が到着したゲートに電話をしました。 するとちょうどお忘れ物として出てきたところらしく、地上係員がここまで持ってきてくれることになりました。

お待ちいただく間も ヨウコさんはお客様へ「見つかったようですので、ご安心くださいませ」などと、昔のスチュワーデスさんっぽい対応ぶり。 さすがだな〜なんて横で見てました。

しばらくして、地上係員がiPhoneを持ってきてご本人確認をしてお渡ししました。 それを見ていたヨウコさん。



ヨウコさん:ネェ、マツコさん、今のアイホンってあんなに小さいの?

マツコ:え?大きさ的にはiPhoneって初期の頃とあまり変わってないとおもううんですけど。 厚さとか微妙な大きさは違っているかもしれませんが。

ヨウコさん。:あなた、なにをおっしゃるの? アイホンってあんなのじゃなかったわよー。

マツコ:え? どんなのだったんですか?

ヨウコさん。:昔は親機と子機があってね、白くて丸いボタンがあって…

マツコ:ねぇ、ヨウコさん、それってインターホンのことじゃないですか?

ヨウコさん:そうよ。え?アイホンって違うの?

マツコ:iPhoneってスマートフォンのことですよ。

ヨウコさん:まぁ〜、私そういうのに疎いから〜。 昔、祖父がウチの者を呼ぶのに部屋にアイホンつけたことあって、てっきり今でもアイホンってそういう物のことを言うのかと思って〜。

マツコ:あ、そういえば、アイホンって家の玄関のインターホンにも書いてあったようなー。

ヨウコさん: そうそう、あの会社よー。お客様に恥ずかしいこと言ってなかったかしら、わたくし。



年代によってアイホンとiPhone、似たような発音でも全く別の物を思い浮かべちゃうのねー。
第14話 でしゃばり


マツコです。

どこにでも「でしゃばり」の人っていると思うんだけど、先日地方空港を利用したときにもいました。でしゃばりな職員が。

どうやらその空港では「名物」らしいんだけど、保安検査場の入り口で警備員が大声で、「一列にお並びください!」「こちらは従業員専用となりますので、お並びいただけません!」「お見送りの方はここまでです!」と、まぁ叫ぶ叫ぶ。
そんなに声を上げなくてもいいじゃない?と突っ込みたくなるぐらい。

私もその列に並んでいたんだけど、突然その警備員が、「ヘルスメーターをお持ちの方は必ずお申し出ください! 検査場でピンポーンとなりますので!」とわけの分からないことを大声を出して言ったの。 

ヘルスメーターって、いわゆる体重計でしょ? そんなの持って飛行機に乗る人なんているわけ無いじゃない? でもねぇ、得意気に何度も言うのよ。  「ヘルスメーターをお持ちの方はお知らせください!」って。 私もさぁ、ホントに疑問に思っていたんだけど、列の最後尾にいたし、聞きに行くこともでき なかったし。 

そしたら、また、「ヘルスメーターをお持ちの方〜」って言いながら列の後ろのほうまで向かってきたの。「心臓の手術をして、ヘルスメーターをお持ちの方!」って。それって、ヘルスメーターじゃないわよねぇ。 で、列の後ろ方に来たとき、こっそり言ってあげたの。「すいません、それヘルスメーター じゃなくて、ペースメーカーのことじゃないですか?」って。

その瞬間、もう、その警備員の顔が真っ赤になっちゃって、そのままどこかへ消えていきました。


あぁ、こうやって地方の名物をまた消してしまったんじゃないかと不安になるマツコでした。
第15話 ご長寿番組

マツコです。

乗務員をやっていると、日本を離れる時間も多いし、日本のテレビを見る時間だって限られてるし、何かと社会から取り残されるんじゃないかという恐怖心に駆られることもあるのよね。 お友達の話題について行くのに必死になったりして。 特に自分達の年代の人の間で流行っているものは何かとか、どうい うテレビ番組が人気だとか。

先日も、サービスが終わったあとのギャレーでそんな話になって、今シーズンは、月9ドラマが面白いだの、NHKの朝の連続小説が良いだの、みんなそれぞれに話してたわけよ。

そしたら、そのフライトで一番シニアのお姉さまが、「あ、今日、水戸黄門の日よね。家で見られると思ったら、成田の到着が遅くなりそうで、見れないじゃないのー。 あれ毎週楽しみにしてたのにー。」って。  

それを聞いた、一番ジュニアのムツミちゃんが、「え?先輩って渋いドラマみてますねー、でも大丈夫ですよ、一話見逃してもドラマの展開が分からなくなるってことは無いですからー。」

そうよね、水戸黄門って一話完結のシナリオばかりだから、一話逃したってどうってこと無いわよねーって私も横で聞いてたの。



先輩:「でもね、毎週ワクワクして観てたのよ、今回はどんな話かしら?って」

ムツミ:「どんな話しかしらって、今日の話だって私、言えますよー。 黄門さまご一行が立ち寄った旅先で悪人が善良な市民に悪いことをしている。 ちょっとカワイイ感じの町娘が黄門さまとは知らずに事情を伝えたら、黄門さまが黙っては置けないっていっていうので、手下を使って悪人を懲らしめる。  で、事が収まったら、身分を明かして、一同、黄門さまにひれ伏す。で、最後に町娘からお礼を言われて、旅を続けるために町を去る。」

先輩:「あなた、なんで?まだ放送されていない回の話を知ってるの??」

ムツミ:「先輩!本気で聞いてます?」

先輩:「ご親戚にTBSのドラマ部門のお偉い方でもいらっしゃるの?」

ムツミ:「え? 先輩、目を覚ましてくださいよ。 水戸黄門って毎回ストーリーが同じなんですって。」

先輩:「毎回、違うわよ! あ、コールライトついてるわよ、キャビンに出てくるから!」


横で聞いてて私も吹き出しそうになったけど、この先輩CAは、水戸黄門が毎回同じあらすじだって気付いてないのかしら? 

あ、そんなご長寿番組 水戸黄門、もう終わったんだゎ。
第16話 私たちっていったい?


マツコです。

私たち、客室乗務員のことをいろんな言い方をするわよねー。 
昔はスチュワーデスって言っていたんだけれど、いまはキャビンアテンダントとか、フライトアテンダント、会社によってはオテス(ホステスのフランス読み)だったりして。

まぁ、呼び方も様々だから、お客様もなんて言っていいのか混乱するのも無理ないけど。

ある日、珍しく日本人のおばちゃん団体が乗ってきました。 もう、乗ってくるなりおばちゃんパワー炸裂。喋りも半端無くうるさくて。席についてい きなり持ち込んだお菓子を広げるのね。おせんべいだとか、みかんとか。 「あ、山田さん、冷凍みかん食べる?投げるからとってねー」と投げたんだけど、その冷凍みかんはなんと、別のお客様の頭に命中。それでもおばちゃんパワー「あらー、すいませんねー、この人コントロール悪いから! ワハハー!」 「あ、 怒ってないよねー、悪気無いのよー、ごめんねー ワッハッハー!」 と、こんな調子。そのぶつけられた男性の方もかなりムッとされていたけれどおばちゃん パワーに押しよられた感じで。

離陸してサービスを始めたんだけど、もう、このおばさまパワーはおさまる事がなく、自分たちがサービスされる順番が来てなくても私たちを呼び止めるのよね、
「あ、ガイドさーん、お茶ありますか?」 とか、「お姉さん!お薬飲むのに、お水がいるんですけど」とか。 決してコールライトを使う事無く大声で呼びつけるの。 

呼ぶ度にかけ声が違って、「ガイドさん」「お姉さん」「アテンダントさん」挙げ句の果てには「ヘルパーさん」など。私たちの中ではもう何と呼ばれても対応してたんだけど、そのうちおばちゃんのウチの一人が、「ねぇ、あのさー、あの人たちはスッチーって言うんじゃ無いの?ガイドじゃないよねー(ガハハ ハー)」なんて言うと、それ以降、「スッチーさん」と呼ばれるようになったけど。

それを見ていた冷凍みかんをぶつけられた男性客。「君たちも大変だよね、いろんな呼び方をされても気分を害する事無く対応しなくちゃいけないんだ から。」と。 まぁ、そのように見ていてくださるなんてとても素敵な方よねーなんて思っていたら、「コンパニオンさんの鏡だよ、君たちは。」  え?コンパニオン?? 「頑張ってね、コンパニオンさん」と。 

うーん、いつになったら間違えなく呼ばれる日がくるんだろう?
第17話 Credit Card

マツコです。

皆さん最近マイルって貯めていらっしゃるかしら? 搭乗実績やクレジットカードの利用額、提携会社の利用に応じてマイルが加算されて、貯まったマイルで無料航空券や各種サービスなどの特典と引き換えられるやつ。

私なんかはマイルを貯めたんなんて思わないけど、先日母に頼まれたの。「ねぇ、◯◯航空(他社)のマイルを貯めようと思うんだけど、今度くる時クレジットカードの申し込み用紙もらってきてくれない?」

数日後、その航空会社を利用する機会があったの。本当は空港カウンターでもらおうと思ったっんだけど、うっかりしていて、入会用紙の事を思い出したの は機内に入ってから。 機内にもあるんじゃないかと思って、化粧室横のマガジンラックとか見たんだけれど、なかなか見つけられなくて。 仕方が無いから、サービスが一段落して暇そうになった頃通りかかったCAさんに聞いて見たの。

「あのー、お忙しいところ恐れ入りますが、この航空会社のマイルが貯まる Credit Card の入会申し込み用紙があれば一部いただきたいのですが?」 すると快く 「はい、お持ちいたします。少々お待ちください。」って返答してくれたの。

それでも、待てど暮らせどやって来ない。で、前方キャビンを見たら彼女が必死の様相で色んなコンパートメントを開けて探してるの。

私もさぁ、同業者として申し訳ないことをしたなーと思って、もうイイですよって言おうと思った頃、そのCAがきて、

「お客様、生憎お尋ねいただきました クレディットカードの申し込み用紙はご用意がないのですが、代わりに、クレジットカードの申し込み用紙をお持ちしたのですが?」

と。 これには一瞬私のことをオチョクッテルのかと思ったんだけど、このCAの表情からしてとても真剣な様子。

「あ、お手数おかけしました。有難うございました。」と言って受け取りましたが。

クレジットカードって英語表記は Credit Card 。 他社さんだけど、この英語力でまぁCAによくなれたわねーって思っちゃった。
第18話 他人のウワサ

マツコです。

現役で飛んでいると、滅多に顔を合わさない同期とか、仲良くなった同僚でも会う機械が滅多に無いクルーとかって沢山いるのよねー。

サービスの合間で暇になると、そういう人たちの噂話で花が咲くものなんです。ある日、最近結婚したカズちゃんの話になって、どうやら旦那さんの事業がうまく行ってなくって、家計はカズちゃんのお給料で支えてるらしいっていう話が出たの。カズちゃんって元々資産家のお嬢さんらしくて、お育ちも良くてどちらかというと、おっとりとした感じのひと。そんなカズちゃんが苦労してるんだねーって、何だか暗いお話になっていたの。本人の居ないところでさぁ、みんなあること無いこと全て知ってるかのように話すんだから。 みんな自信満々で話すし、こういう話って本人に聞きづらいしね。

そんな話を聞いて数日後、カズちゃんがオフィスにきたの。いつものように元気な姿で、「マツコさーん、今日久々にPA(機内放送)担当なんです。 随分担当していなかったのでかなり緊張してます。」なんて。 普段とあまり変わりなく振舞ってるものだから、あの噂話の事はすっかり忘れてしまうぐらい。 「じゃあブリーフィング行ってきまーす!」と元気に出て行きました。

事態が急変したのはブリーフィングが終わってからのことです。



カズちゃん : マツコさん、いま大変なことを思い出しました。私、アコムしてくるの忘れました。

マツコ : え? あなたアコムって?

カズちゃん:そうなんです、今日は私がアコムしてくる事になってたんですが、どうしよう?



アコムしてくるって、どういうことかハッキリとはわからなかったけれど、何だか消費者金融で何かするってことかしらーって一瞬ドキッとしたわよ。



マツコ:あなた、大丈夫なの? 手持ちが必要なら幾らかなら手助けしようか?

カズちゃん:ご心配ありがとうございます。アコムに電話してもいいですか?



そういうので、他の人に聞かれたらまずいだろうと思って、ミーティングルームの電話を使わせてあげました。

電話を終えて出てきた彼女、とても明るい表情で、


カズちゃん:ご心配おかけしました。何とか大丈夫みたいです。ありがとうございました。

マツコ:カズちゃん本当に大丈夫なの?言い難いことかもしれないけど、力になれるなら言ってね。

カズちゃん:ありがとうございます。鍵はかけてきましたし、担当の方がうちのエリアをいつも以上に見てくれるそうなので。 今日は誰も家に戻らないのでとても気になってしまって。

マツコ:それにしても、アコムって

カズちゃん:あ、アコムじゃなくて、セコムでした。

マツコ:え?

カズちゃん:最近旦那の事業が成功してある程度の現金を家に置くようになってから、セコムさんをお願いしたんです。 出てくる前に設定しないといけないのをすっかり忘れてしまってー。

マツコ:心配ないならいいけど。フライト気をつけて行ってらっしゃい。

カズちゃん:いってきまーす


アコムとセコム、一文字で大違いよねー。 それにしても他人のウワサって全くあてにならないわ〜
第19話 茶色い固形物

マツコです。

昨日はあるパーサーのサポートで出発便の機内に居ました。彼女がこの機材でパーサーとして飛ぶ初めてのフライト。 相当早い時間にオフィスに来てマニュアルやら資料やらを一生懸命見てたんだけど、何となく不安げだったので、出発までの間機内に居てサポートをしていました。

お客様の目につかないようにギャレーの中にいてたんだけど、ご搭乗案内中にあるCA が、「マツコさーん、あれ、あれっ!」っと声をあげながら、化粧室のある方向を指差しました。


みると化粧室前の通路に、茶色い固形物が。 姿形も大きさも、一見、人のウン◯に見えました。 ギャレーにいたCAたちと思わず目を合わせ、皆が顔を引きつらせていたけど、内心誰が処理するの〜って腹の探りあい。 うーん、ここは私がしかないないな〜と思いつつ、処理のためにインフェクション・コントロール・キット(感染予防キット)を使うべきか、機内清掃を呼ぶべきか考えていたの。


で、通路に出て見てみると、化粧室に近い席にいらしたお婆さんが、茶色い固形物をムシャムシャと。 手には、「極太 黒糖かりんとう」と書かれた袋が。


どうやらあの化粧室前に落ちてた固形物はこのおばあちゃんが落とした ”かりんとう” だったようです。 ホント人騒がせなお菓子、搭乗中に食べる? しかも化粧室前に落とす?! なんて思いながら、「お客様、こちら床に落ちてましたのでこちらで処分させていただきます。」というと、「あ、すいませんねー」と。 こちら側の ”騒ぎ” に関してはもちろんご存じない訳で。


ホッと胸をなでおろしたところで、出発とのこと。私は飛行機を降りたんだけど、このフライト、何か他にも起きてそうよね〜。
第20話 最後のお客様

マツコです。

連休、いかがお過ごしですか?

最近はは、円高の影響もあって国際線は混み合っていたみたい。
特に近場が人気だったみたいです。

連休中だと、普段飛行機に乗り慣れないお客様も多いし、私みたいにオフィスにこもりっきりな人間も積極的にゲートに出て現場を見みましょーっていうこと になっていたの。近場のリゾート路線などは家族連れが目立っていて、おじいちゃん、おばあちゃんを連れて旅行されるご家族も少なくないのよねー。 年寄りには長時間のフライトは辛いだろうし、人数が増えても近場だと予算内で旅行できるだろうしねー。

そんなある日、私も出発便の様子を見に現場に出ていたの。乗り慣れていない方が多いと普段以上に搭乗に時間がかかるのよねー。 もう旅客担当の地上職員は戦々恐々。出発時間が迫っても、なかなか搭乗完了しないと焦るわよね〜。

電車とは違ってみんなが駆け込みで乗ればすぐに出発というわけには行かないの。飛行機の出発時間とは全員が搭乗完了し、手荷物が収納され収納棚の蓋が閉じられ、その他の安全確認などが滞りなく完了して、機長が飛行機のブレーキを解除する時間を指すの。 定時発着率も航空会社にとっては大切なサービスの一つ。利用客の多い時期に良い成績を出したくなるのもわかるでしょ?


で、私が見ていたフライトも地上係員さんはてんてこ舞い。出発時間の10分前になると、コンピュータの画面に搭乗予定者でまだ飛行機に乗っていない人の名前をはじきだして、「山本さま4人連れ、田中さまお二人りさま、お呼び出しします!」なんていうと館内放送で、「◯◯航空◯◯行き◯◯便をご利用 の山本さま、田中さま、ご利用の飛行機は間もなく出発いたします。お急ぎ、◯番ゲートよりご搭乗ください」なんて名指しでお呼び出しも。

しばらくして駆け込んできた二人連れをみて、「田中さまですか?」と案内する姿はさすが、私にはできないゎ〜。

「あと、山本さま4名さまです。」というと、それらしき姿の人を探し当てるべく捜索隊がコンコースや出国審査場などにでていて、彼女たちは無線で 伝えられます。「日本人で山本さま4名さまです。65歳男性、32歳男性、31歳女性、6歳の男の子」と捜索隊にはヒントになる情報が伝えられます。 それらしき姿をみると、「◯◯へご出発の山本様でいらっしゃいますか?」などと積極的にお声がけをします。

同時に出発に間に合わないことも想定して、貨物室で預かっているその人たち手荷物をいったん飛行機から降ろす作業も開始されます。


しばらくすると、3人さんが駆け足で乗り込んで来て、「すいません、遅くなりましたー」と。 「お待ち申し上げておりました。」と飛行機のドアで乗務員がご挨拶申し上げたところ、「もう一人すぐきますので!」と奥様。「私の父にあたる婆さんがすぐ来ますので。」
とご主人様。

え? 父にあたる婆さん?

しばらくしていらした方の容姿は、まるで女性。 たしかに、さっき地上係員が言っていたのは「65歳男性」。これはパスポートにある情報と一致させてあるから、嘘はつけないわよねー。 でも見た目は完全に婆さん。


最後にお迎えしたのは、「父にあたる婆さん?」でした。
第21話 スペシャルミール

マツコです。

皆さん、機内食って普通に召し上がってます?
機内食には特別食(Special Meal -SPML)っていうのがあるのご存知? これって、宗教上の理由や、健康上の食事制限から普通の機内食が食べられないというお客様が事前に予約を入れてくださった場合に限ってお出しするもの。 その事前予約の締め切り時間は航空会社や出発地によってばらつきがあるみたいだけれど、大体は24時間から48時間前までの予約が原則となっているみたいね。

代表的なものだと、


ベジタリアン・ミール - 菜食主義者向け。肉・魚を使用しない。
ムスリム・ミール(イスラム食) - イスラム教徒向け。豚肉・酒を使用しない。
ヒンドゥー・ミール - ヒンドゥー教徒向け。牛・豚肉を使用しない。
コーシャ・ミール - ユダヤ教徒向け。事前に教義に則った祈祷済み。
低塩食 - 調味用の塩を使用しない。
低カロリー食 - 油脂・砂糖を使用しない、繊維質の増強など。
糖尿病食ーカロリーバランスの計算、糖分を抑える、繊維質の増強など。
乳糖排除食ー乳糖を消化できあない特異体質の方の為の食事。
チャイルドミール ―お子様用の機内食。

などかしら。 

この特別食って状況によってはとても厄介なものなのよ。
乗るべきフライトにその事前予約したお客様が乗れば良いんだけれど、フライトが遅れて乗り継ぎが間に合わなかったとか、キャンセルで振り替えられたとかってなっちゃうと、お客さんが悪い訳ではないのにその特別食が乗ってこないっていうこともあるのよね。

ある日、どこかのフライトがキャンセルされて、振り替えられてきたお客様で、コーシャーミールをご注文の方がいらしたの。 乗客名簿をみて確認作業をしていたギャレー担当のCAが、

「マツコさーん、お座席20Cの◯◯さまのコーシャーミールが搭載されていません!」って言ってきたのよね。 私も、なんで私にそんな事言うのかしら、自分で連絡しなさいよ!なんて心で思いながらも、にっこり、「そうね、地上係員に確認するわねー」なんて対応してたら、たまたま、機内に若い地上係員がやって来たのよ。 

その若いエージェントさんに
「20Cの◯◯さまのコーシャーミールが搭載されていないみたいなんだけど、確認していただける?」 
というと、
「こーしゃーみーる?」と理解不能みたいな顔をしてきたのよ。

「そう、コーシャーミール、特別食をオーダーされた方の機内食が搭載されていないの。20Cの◯◯さまの記録、確認して必要ならば搭載してください。」というと、頼りなく「ハイ」と一言。


機内準備も整い、お客様の搭乗開始。 しばらくしてギャレー担当のCAからインターホンでまだ特別食の搭載もないし、特別食をオーダーされたお客様は20Cにご搭乗済みとの連絡が。 これは困る事になるから、わたし、ゲートまで出て行きました。 

すると知り合いのエージェントさんが、
「あ、マツコさん、いたのぉ?」って。 「で、あのー、コードシェア用のミールってなに?」って言うのよー。

え?あの若い地上係員、全く理解していなかったの?

「ねぇ、コードシェア ミールじゃなくて、コーシャーミールなんですけど!」って言うと、

「え?そうなのぉ、そうよねぇ。あ、ほんと、すぐ搭載してもらうから!あははーー」って。


○ コーシャー
× コードシェア


あまりにも旅客業務の知識で頭でっかちになっちゃって、コードシェアって聞こえちゃったのかしら。

結局ドアが閉まるギリギリでミールは搭載されたんだけど、最近の若い子たち、いくらゆとりと言ってもこれは困るわよねー。
第22話 搭載忘れ

マツコです。

飛行機って、とても特殊は環境にあると思うの。

例えば何かを搭載し忘れた場合って、途中のどこかに立ち寄って調達するっていうことはできないでしょ? だから、ギャレー担当のCAはサービスに必要なものが揃っているか、出発前に必死になって確認するの。

あるフライトで、普段通りに出発準備を進めていました。しばらくしてギャレーのCAが、「マツコさーん、この路線ってサービスが改訂されてからサラダの出し 方変わったんですよね。」って言ってきたの。「えぇ、ブリーフィングでも確認した通りだけど、何か手違いがあった?」って聞いたものの、「いえ、確認だけ です!」って。

こういうことって、”虫の知らせ”というのか、なんか嫌な事が起こりそうな予感をさせるものなのね。 ま、そんなの気にせずに、フライトは定刻に出発。 お食事のサービスが始まり、皆さん楽しんでいらっしゃいました。

前菜が出た頃、例のCAが言ってきました。「サラダってドレッシング無くなったんですか?」って。

え? サラダにドレッシング無しって言うはずないでしょ。

「ちゃんとバルサミコのドレッシングってメニューには書いてあるけど?」というと、「えー?見当たりません!」って。

もうその時点で前菜をお下げしている頃だから、スープをお召し上がりにならない方にはサラダをお出ししなくてはいけないタイミング。 うーん、どうするぅ?

で、みんなにオールコール(一斉呼び出し)のインターホンをかけました。 「全ギャレーにあるレモンをファーストクラスに持ってきて!」と。

手袋して、レモンを絞って、塩こしょうを混ぜて、パン用にお出ししているオリーブオイルを集めて、即席でドレッシングを作りました。

「本日、メニューに変更がございまして、サラダドレッシングはレモン風味のドレッシングでございます。」といいながら、サラダをお出ししました。

ふーぅ。 なんとか事なきを得ました。 私たちって、こういう突発的な事への対応能力って日々鍛えられます、ホント。  って、自慢にはならないかぁ。

そして、このフライト、その後はレモンが無くなったため、お飲物へ添えるレモンをご希望の方には、「申し訳ございません、ライムでのご用意となりますが宜しいでしょうか?」と。

私たちのポーカーフェィスの裏側には色んなハラハラがあるんですよー。
第23話 圏外


マツコです。

皆さん、携帯電話ってお持ちですか? って言う質問も野暮よねー。最近は子供も、爺さん婆さんも、一人に1台は持っている時代。 

でもね、飛行機の中ではご利用いただけないんです。 最近のスマートホンなんかは、電波を発信していない状態に設定できるものもあって、「機内モード」などにすればご利用いただけますが。 でも通信機能が切られているから、電話としては利用できないんですよね。

その「電波を発信していない状態」であれば、携帯用電子機器が使用できる時間になれば機内でもお使いいただけます。電話以外の携帯用電子機器も離陸・着陸の10分間は使用禁止と鳴っていますし。この電子機器の使用制限は、決してマナーの観点からお願いしているものではないんです。飛行機はフライト中、地上との交信行なう無線、飛行機の位置や周りの気象環境などを正確に把握する装置、その他の精密機器などは、携帯用電子機器の影響を受けて誤作動を起こす事象が報告されているの。この事が原因で過去に重大な事故も起きているし。離陸前の安全確認の際に、「携帯電話の電源をお切りでいらっしゃいますか?」の問いかけに「え?マナーモードに設定してますけど!」って言われる事もあるけれど。

あるフライトでのこと。 このフライトは後方の客席はいくつかの団体のお客様で満席でした。そのうちの一つの団体さんはどうやら地方からの皆さんで、中年から熟年の皆様。ほとんどがご夫婦でご利用で、旦那サマは農作業用の作業着。ベージュというかラクダ色の上下で胸元にはオレンジ色の糸でお名前と所属団体名が刺繍されていました。 奥様方は皆様みるからに「かけたて」のきつめのパーマに原色の色使いが素敵な派手めのジャケットをお召しでした。

離陸後、「これより先、携帯用電子機器をご使用いただけます。」の放送がありました。 すると、この団体のウチのお一人が機体最後方に携帯電話を持っていらっしゃいました。 ドアにある窓から外を見ていらしたので、外の景色でも写真を撮られるのかしらーって思っていたの。 でも、どうやら様子が違う。

男性客: ありゃ、こりゃいかんのぉ。

マツコ: いかがなさいましたか?

男性客: いやー、携帯がー、え? 圏外じゃ!

マツコ: お客様、機内では携帯電話はご使用いただけないんですよ。

男性客: え? そんな事が一流航空会社でもあるんかい? ウチの集会所もずーっと圏外じゃったのを、最近やっとアンテナを入れてもろて、やっと繋がるんやから。 オタクの航空会社みたいな一流の会社でアンテナをいれておらんのは、どういうことじゃ?

マツコ: いえ、そう言う事ではございませんで、上空ではアンテナがあっても電波もございませんしー。

って、私もなんか訳の分かんない事を言ってしまったの。 すると、とても派手は大仏パーマのオバサマがすごい勢いでいらして、

女性客: あんた、また変な事言うて、スチュワーデスさんに迷惑かけとるんとちがうん? 田舎もん丸出しで恥かいとるんやないん? もぉー、スイマセンねぇ。 はよ、電話のスイッチ切っとかんと、電池持たへんし、飛行機降りたときに電話できんと困るし、電源切りんさい!

さすが奥様。 電源を切る理由は違ったけれど、おじさん素直に携帯の電源切っちゃった。

飛行機をご利用の際は、携帯電話や電子機器の使用制限にご協力くださいね。
第24話 Lost in translation


マツコです。

最近、外国人の客室乗務員も珍しくなく、国際線では日本人乗務員と混じって乗務しているのよね。日本語も完璧ではないにしろ、接客に耐え得る程度はできるんだけど、日本人のお客様も彼女たちを見かけると、英語で話しかけてくるみたい。 いい英語の練習相手なのか、それとも自分の語学力をひけらかしているのか、人それぞれ。

ある欧米線のフライトでの事。エコノミークラスに、金髪で可愛らしい白人の女性が働いていたの。どのお客様にも笑顔で対応していてとても好感の持てるタイプ。 どうやら、一人の日本人男性客に気に入られてしまったようで、事あるごとに話しかけられていたみたい。 その男性客もできない英語を一生懸命単語を並べてコミュニケーションしていて、周りは口出しせずに見守っていたの。

フライトは終盤に差し掛かり、到着地のご案内ビデオが流れ始めました。CA達は入国書類を片手にキャビンをゆっくり周りながら書類の書き方等、お客様からの質問に答えていたの。 その時、私は機内の前方にいました。 そしたらエコノミークラスからCAがやってきて、「マツコさーん、エコノミーのお客様がカンカンにお怒りで、責任者だせっておっしゃってますけど、対応してもらえますか?」 と。どうやらあの白人乗務員を気に入っていたお客様からのクレームみたい。もちろん、お話に伺いました。


マツコ:お客様、本日の客室責任者のマツコでございます。まだ事情は詳しく存じませんが、とてもご不快な思いをされたとのことで、お話をお聞かせ願えませんでしょうか?

男性客:全くぅ、あの金髪の乗務員、どうなってるの? 入国書類の書き方を尋ねたら、「Oh, no!  I don't know!  You tell me!!」って捨てゼリフ吐いて行っちゃったよ。一体どういう教育してるの?


そりゃーそんなことを言われたら腹が立つわよねー。 でもその彼女、そんなことするような感じじゃないし。 一通りお詫びをした上で、何かの行き違いの可能性もあるので彼女と確かめたいって言ってから一旦その場を離れました。

で、その本人に聞くことにしました。


マツコ:So, what's your side of the story? あなたの側からの話をおしえて?

乗務員:You know, he is kind of girly.  彼ってちょっと女性っぽいでしょ?



うーん、日本語では余り感じなかったけれど、そう言われてみれば英語ではオネエ入ってたかも。


乗務員:while helping him with the immigration card, he asked me "am I Male or Female? " 入国書類のお手伝いをしていたら急に聞き出すの。 私って男だと思う? それとも女性? って。

マツコ:then, you said...  そして、言ったのね。

乗務員:Yeah, I said, I don't know, you tell me.  Then he got very upset!  そう、わかりません、ご自身でお答えくださいって言ったの。 そしたら怒りだしちゃって。


まぁ彼女がそう答えるのも無理ないかーとも思ったんだけど、そんな質問する方もチョットねー。 と思いつつ客室に目をやるとあのお客さんジーッと私の方見てるしー。  で、再度伺いました。


マツコ:お客様、本人と確認を致しましたが、お客様の質問に気が動転してしまって失礼な態度をとってしまったようです。まことに申し訳ございません。ところで彼女への質問は何でしたでしょうか?


男性客:あ、この入国書類のここ! 性別の欄に Male or Female ってあるよね。 男性ってどっちだっけ?  Man or Woman とか、Boy or Girl なら分かるんだけど、こんな難しい単語、わかんないよ!  

マツコ:あぁ、それでそういう質問になったんですねー。



で、かいつまんでその質問がどう伝わったかをお知らせしたところ、お怒りは収まりました。  もちろん、乗務員の彼女にも彼の質問の意図を伝えて。

これぞ正しく、Lost in Translation よねー。
第25話 職業病

マツコです。

先日、他社の方とお話をする機会が有りました。職場での傷病、労災についての話し合いの場でした。

私たち客室乗務員って、ある意味肉体労働者なのよね。立ちっぱなしで、通路を何度も歩いて、機内食のカートを押したり、飲み物をトレーに載せて運んだり。 ギャレーではしゃがんだり、かがんだり、重いものを移動させる事も。

客室乗務員ならではの職業病とも言うべきものがあるの。 よく知られているのは、腰痛や腱鞘炎など。 

あとは、気圧の変化で耳が詰まってしまい、さらには中耳炎になってしまうことも。 正式名称ではないらしいけど、私たちの間では「航空性中耳炎」って言ってます。

言葉って恐ろしいもので、「航空性」って頭に付けると、それらしく聞こえてしまうのよね。

それを良い事に、私たちの間では色んな言葉に使っています。

航空性健忘症 ー 単なるど忘れ

航空性過食症 ― 食べ過ぎ

航空性肥満症 ー ただのデブ

そうやって、日々、新たな職業病を作り出しているのです。

第26話 丁寧語


マツコです。

皆さん、丁寧語って使いこなせてますか? 日本語って敬語、謙譲語などもあって、とても複雑よね。 過剰な丁寧語も不自然な印象を与えるし。 ホント日々勉強です。

私たちだって大変だと思ってるんだから、新人さんの苦労も想像できるわよね。

ある日オフィスに居ると、CAたちの会話が耳に入ってきました。どうやら、最近入ってきた男性CAの敬語がひどいというの。 そんな会話をしている彼女達だって怪しいものなのに、自分の事は棚に上げちゃって。人の事は酷評するのねー。

数日後、例の彼のフライトに乗る機会がありました。何気なく見ない振りをしながら気に留めていました。あーぁ。そりゃあんた、ウワサになるゎ。頭に何でも「お」を付けりゃいいって言うもんじゃないでしょ!

「おテーブルをお元のお位置にお戻しいただけますでしょうか?」なんて言うのを聞いたときには思わず吹いちゃいました。

でもね、彼も一生懸命なんだから、そこでいきなり指摘してやる気を失わせても不本意だし。フライトが終わってから、やんわり注意してみようと思っていたの。

私も悠長に構えていたのが悪かったのかしら。事件はフライトの終盤で起こりました。あるお客様がものすごい剣幕でこの男性CAに怒鳴ったんです。

「お前とは、客に対して言う事か!」

何となく察しは付いたんだけど、とりあえずその場を納める為に私もお客様にお詫びをして、事なきを得ました。

どうやらこのCA、「お着陸に備えまして、お荷物を、お前のほうにお入れください。」と言ったらしいの。 いくら丁寧にしようとしたとしても「お前」ってお客様に言う?

何でも「お」をつければいいってもんじゃないわよ。ホントに。
第27話 スーパースター

マツコです。



このお仕事をしていると、有名芸能人や政治家など、普段お会いすることが無いような方をお迎えすることもあるのよ。

それぞれ、ご希望も違って、ファンの方が機内にいらしても絶対に分からないようにして欲しいとか、サインはするけど写真はダメとか。担当する乗務員もそうだけど、担当外でも同じ機内にいれば粗相が無いように緊張するものよ。

私が客室部で仕事をしていたある日、あるスーパスターが米国便にご搭乗になることになっていたの。 もちろん、担当するパーサーはもとより、この便に関わる全員に対して連絡が行き渡っていた訳よ。

私も何かとバタバタと業務をこなしていると、総務で働いているお姉様が珍しくいらして、「ねぇ、マツコさん。 今日、有名な方がご搭乗なんだって? 私、ゲートまで行ってもいいかしら?」って。

普段そんな事に興味を示すような人ではないのでちょっとびっくりしたんだけど、
「ゲート付近からそっと見るだけだから、決して近づいたりしないので、いいよね?」っていうもんだから、わたしも、「うん、いいんじゃない?周りに迷惑をかけないようにさえすれば。それに、アナタがこんな事言うなんて滅多に無い事じゃない? せっかくの機会なんだから行ってきなさいよ!」 と、送り出しました。

私はオフィスにいたんだけれど、スターのご搭乗になったフライトは無事に出発したとの連絡を受け、もちろん機内でのサービスはこれからなんだろうけど、地上にいる我々としてはホッとしていました。

そこへ、あの総務のお姉様が帰っていらして、「ねぇ、ゲートにいらしたのは黒人のお姉さんだったんだけど、何かの間違いだったのね?」と。


マツコ:「え? ビヨンセさんって黒人の歌手だけど、何か違った?」

お姉様:「うそ? ビ・ヨンセって、韓流スターじゃないの?せっかく近所のお友達に自慢できると思ったのにぃ!」



って。 うーん。確かに名前だけ聞くとそうかもしれないけど、名前区切らないし! うーん。 韓流スターと間違われるなんて、ご本人もびっくりよねー。
第30話 不審者

マツコです。

このお仕事をしていて楽しみの一つに、「ステイ」というのがあるのよね。 短い路線を飛ぶと、日帰りで乗務することも有るけれど、国際線に乗務するとたいていは1泊、スケジュールによっては2泊以上現地で滞在することもあるの。

新人の頃は、短いステイだとしてもその町の観光に出掛けたり、その土地で有名な料理を食べに行ったり、色々行動していたけれど、何度もその町に行くようになると、お気に入りのレストランに行くぐらいで、あとはホテルでゆっくり過ごすことも有るんだけどね。

私も乗務していたあるフライトでのこと、久々に一緒に乗務した同期のクルーとか、同じキャビンを担当したクルーで、到着後にお食事に行きましょうということになったの。フライトの現地到着は夕方。ホテルのロビーで集合することだけを決めて、各々ホテルの部屋へ行ったの。

私は制服を脱いで、私服に着替えてからすぐにロビーに居りたんだけど、いつもクルーの中には着替えるのが早い人が居て、私よりも先にロビーに居たクルーがいたの。 「あー、◯◯ちゃん!」と声をかけたら、「マツコさん、しーーーっ! あそこに怪しい男性がいて、じーっとこっちを見てるんですよ。大きい声で名前とか言わないでくださいよ!」って。

ロビーを見渡してみると、確かに、旅行者という感じでもないし、ビジネスマンという感じでもないし。服装もカジュアルで、野球帽なんかかぶっちゃって、年相応な格好でもないのよね。しかも私たちの方をチラッとみて、目が合うとニヤッてしてきて、とても不気味。

「不審者に絡まれないように気をつけないとダメですよね!」なんて言っていたけど。しばらくして約束していたクルーが揃ったのでレストランへ行ってお食事をしました。

翌朝、ホテルのロビーで集合したとき、「あの不審者、気持ち悪かったですよねー。」なんてもうその話題で持ち切り。 そんな話をしていると、機長が一言。「君たちはあの後、一緒に食事でもいったのかい?」 

ん? 「あの後」って…。

「あーーーっ。」と全員が顔を見合わせたとたん、大笑いしてしまいました。

私たちが不審者だと思っていたのは、他の誰でもない、機長だったのです。 もーっ、制服脱ぐと分からないものよね。 そりゃ、こっちをみて誘って欲しそうに微笑む訳だ!

第31話 汚れた食器

マツコです。


最近、ある海外の就航地から出発する際に搭載される食器が見た目美しくないという報告が立て続けに会ったの。陶器の食器は問題ないんだけど、フォークやナイフ、シルバーのポット等、不潔という訳ではないんだけれど、洗った後の水滴跡が目立つというもの。 

本来、食器は到着した飛行機から降ろして、機内食工場内で洗浄して、出発の際に機内食とともに搭載されるの。 その洗浄の工程で何か不具合が生じてるのか知らん?っていうのがみんなの推測だったのよ。

早速、その機内食工場の担当者に電話をしました。担当者は私のことをしているから、「Oh Matsuko! ヒサシブリデスネ!」なんて片言の日本語まじりで会話をしてくれたんだけど、問題点を伝えると、態度は一変。 そんなことはあり得ない。自分たちは誇りをもって仕事をしている。もしそう言うことが有ったとしたら、その一回限りのはずで何かの間違いだ。 って言う感じ。

その国の文化で仕方が無いのかもしれないけれど、私がその人たちの尊厳を傷つけちゃったみたいな話になっちゃって。

で、話が前に進まないから、その彼に社内調査を依頼して、何も無ければいいからさーと、なんとか納めました。

数日後、報告書がメールで届きました。 やはり、水滴の跡が残っていた食器を搭載したことがあり、その点を詫びる内容。 でも社内調査をした結果、驚愕の事実が。 食器洗浄機から出てきた食器は人の目で検品をして、必要が有れば再洗浄や手で磨くことをするらしいの。その検品作業をしている職員が全員高齢で視力が弱っていたのが原因で、目視で確認する能力が劣っていたというの。早速全員に眼科検診を受けさせ、ほぼ全員がメガネを着用するようになったと。

ホントかどうか分からないけど、まぁ改善されたなら良しとしましょーって思っていたの。

数ヶ月後、その都市に別の用事で出張が有った際、機内食工場に立ち寄ってみました。 行ってみてびっくり! ほとんど全員が黒縁のメガネを着用していました。 ウソのようなホントのはなしよ!
第32話 ほうれんそう

マツコです。

皆さん、「報・連・相」って言う言葉ご存知? 「報告・連絡・相談」の略で、コミュニケーションを大切にしましょうという言葉なんだけれど。最近の新人さんってこの言葉をやたら使ってる気がするの。 それを聞いていて私なんか「報・連・相」の前に、自分でやるべきことをやってから、報告しろ!!って思うこともしばしば。 酷いときには、「あ、その件は先輩に報告済みですしー!」なんていうジュニアも出てきちゃって。

あるフライトでのこと。出発準備が整って、いよいよドアクローズって言うタイミングでインターホンが鳴ったの。「L1マツコです」って出たんだけど、電話の相手はクルーの中でも一番ジュニアの うららちゃん。 うららちゃんって名前からして若いでしょ?  「あのー、43Cのお客様が気分がすぐれないとおっしゃっているんですが」と始まったものだから、私も「それで?」と聞いたとたん、「え? あの-、ですので、報・連・相 ですぅ。」 との答え。 これには私もあきれてしまって、「あなた、きちんと状況を把握してから報告してちょうだい!ご気分がすぐれないというのはどういう様子なんですか? ご旅行をお続けになれないぐらいの重症なの?」と強い口調で聞いてしまったの。 それに対するうららちゃんの答えは、「え? わたし、チラ見しただけですので、これからガン見してきますぅ。」だって。 

うーん、「チラ見」に「ガン見」。もうちょっと違う表現ができないものかしら。

第33話 大惨事!?

マツコです。

飛行機の中で仕事をしていると、足をぶつけたりとか、指に切り傷をしたりとか日常茶飯事なの。特にサービス中、慌てたりするとオーブンで軽い火傷をすることもしばしば。どんなに忙しくても、焦らないことが重要なのよね。

オフィスで仕事をしていた、ある日のこと。電話が何本も入って来たの。運航管理部やら、クルースケジュール管理部、人事部、もう、なにが起こったかと思うくらい、一気に電話が鳴ったのよ。そう言う時に限って、だいたい私しか電話を出る人が居ないのよね。

電話の内容は全て同じ。ロサンゼルスから到着するフライトで客室乗務員が怪我をしたというもの。どうやら左手の指を怪我したらしいんだけど、入ってくる情報が錯綜していて、「かなりひどいから大病院の緊急受付にお願いしなくてはならない」とか、「場合によっては到着時に救急車の手配が必要」とか。 ホントにそんなに大けがをしたのかしらん?って私は疑問に思っちゃったんだけど、周りが騒ぐのよね。何の根拠も無しにそれを否定する訳にも行かないから、「はい、私が到着時に飛行機に行きますので」と、とりあえずその場は取りつくろいました。到着時間が近づくにつれ、「マツコさん、この乗務員、重傷なんですって?」なんていう人も現れちゃって。

その後も何の確証もないままに、救急車だの大きな病院だの、色々騒ぐものだから、「指、切断でもしたんですか?」って聞いちゃったのよ。それがまた騒ぎを大きくすることになっちゃって。「おい、マツコ、本当か?指切断って、だったら成田に降りる前にどこかに緊急着陸させた方がいいんじゃないか?」なんて運航管理部の人が言うものだから、「あのー、コクピットに聞いてもらえます?怪我の具合?」ってお願いしちゃいました。 返ってきた答えは「ノーマルランディングする」というもので、怪我の状況は一切知らせて来なかったのね。もう、この運行管理部も、パイロットも、コミュニケーションどうなってるのよ!!って思いつつゲートへ向かいました。

フライトは定刻に到着。ドアが空いた瞬間、パーサーに聞きました。「どう?怪我の具合は?」って。 チーフパーサーも私が来てるからびっくりしたみたいで、「え?怪我は大丈夫ですよ。ちょっと出血がありましたが、機内のファーストエイドキットで処置しました。大したこと無いと思いますよ。」って。

それにしても、地上の騒ぎとはかなりの温度差があるのを感じつつ、本人のところへ行くと、「あれ、マツコさん!わざわざ来てくださったんですか?」ってけろっとしているの。見ると小さい絆創膏をしているだけ。「だって、あんたの指が切断したんじゃないかって言う騒ぎになってるんだもん、来ない訳にはいかないでしょ!」って言うと本人は大笑い。 「私、ちょっと慌てちゃって、ビジネスクラスで片付けをしているときにグラスを割ってしまって、その破片でちょっと切っただけなんです。ご心配をおかけしました。」ですって。

じゃあ、なんでこんなに大騒ぎになったの?って疑問に思ったんだけど、それは何とも野暮な話。どうやら、副操縦士がこのCAのことを気に入っていたみたいで、大したことも無い怪我なのに、大げさに伝えてきたみたいなのよね。 あーぁ。なんだか、とっても振り回された気がして、嫌な感じだったわー。職場恋愛も考えものよね。
第34話

マツコです。

日本も、祝祭日を月曜日に移動することになってから、連休が増えましたね。短くても連休となりと、飛行機も混み合うことが多くなりました。特に近場のリゾート路線なんかは満員御礼。エコノミークラスがオーバーブッキングすることもしばしば。

ある、3連休前の金曜日。近場のリゾート路線でのこと。この日もご多分に漏れず、エコノミーは満席どころか、オーバーブッキング。6人ほどのお客様がビジネスクラスへ移って来られるということでした。こういうときは、マイレージの上級会員様か、正規料金をお支払いのお客様を優先的にビジネスクラスへとご案内するのですが、なんせ3連休前の金曜日。上級会員様はほとんどいらっしゃらなくて、結局アップグレードされてきたのは学生6人組。 

ご搭乗になるや否や、「うわぁ、ヤバい」。「うん、ヤバくない?わたしたちー」。と言う会話。6人が6人とも異口同音に「ヤバい」の連発。私も気になって、「お客様、いかがなさいましたか?」ときくと、「いやー、マジやバイです」というお答え。 「あのー、何がヤバいんですか?」との問いかけにも、「こんなヤバいの初めてです。」と。

しばらくして、CAが私の袖を引っ張って、「マツコさん、ヤバいっていうのは、意味が色々あって、彼らの言うヤバいっていうのは、スゴい、とか、嬉しい、とかそういうことなんですよ。」って説明してくれたの。まあ、本当の意味で「ヤバい」んじゃなければ良いんだけど。何となく不安が残りつつ静観することにしました。

フライト中も彼らは「ヤバい」を連発。お飲物も、機内食も、映画も、全てについて、「ヤバい」と。

サービスも一段落ついて、フライトも終盤に差し掛かると、「えー。まじヤバいんじゃん!!」という大声が。 若いCAたちは、「マツコさん、大丈夫ですよ。何も心配要りませんって。また何かうれしがってるんですよ、きっと。」なんて呑気に構えていたんだけど、私は何か胸騒ぎがして、見に行きました。

すると、そのグループの一人がどうやら乗り物酔いになってしまったらしく、顔が青白く吐き気がすると。飛行機に乗るのが初めてで、しかもビジネスクラスに乗るなんて、「ヤバい」経験をしたものだから、余計に騒いじゃったのがたたったみたいで。すぐに酸素マスクを用意して、酸素を吸っていただき、水分も十分にとっていただきました。すると、みるみる血色も良くなって、ご本人も随分良くなったとのこと。

到着後、「マツコさん、さすがですね。あのヤバいの意味がすぐに分かったなんて。」ってCAがちゃかすもんだから、「私の中でのヤバいの意味は、本当にヤバいっていうことなんですけど?」と答えたものの、今の子達の「ヤバい」は、いったいどれだけ異なる意味を持つんだろうかと、ふと考えてしまいました。

うーん、広辞苑みても、出てないわよね、こと「ヤバい」に関しては。
第35話 定時発着率

マツコです。

航空会社の評価って様々だけど、サービスや運賃だけではなく、定時発着率が重要視されることもしばしば。

各航空会社によって、目標を掲げて、8割以上を定時出発させるぞ!って言うところもあれば、出発はどうでも、定時到着に力を入れている会社もあって、目標設定にばらつきがあるのは確か。私たちも、この定時発着率を上げる為の努力を日々行なっています。

そんなある日のこと、使用機材の到着が遅れる為、本来なら出発時刻も遅らせるところだけれど、どうやら搭乗予定者数が少ないので、皆で頑張れば定刻に出発できるぞ!っていうフライトがあったの。もちろん1便でも遅延がリカバリーできれば全体の成績もあがるわけで。私も、その便のブリーフィングに参加して、クルーの協力をお願いしました。使用機材が到着後、機内清掃完了と同時にクルーが乗り込んで、なんとか機内での準備を短時間で済ませて、普段よりも短い時間で搭乗開始を始めましょうということでお話がまとまりました。

運航管理部も本社からのプレッシャーを感じていたらしく、なんとか1便でも遅延便を減らしたいということで、皆の期待が集まっていました。

なんとか搭乗開始。程なくして、エコノミークラスのCAから、「どなたもお申し出の無いお忘れ物があるんですが」という報告。化粧ポーチのお忘れ物で、機内でのアナウンスもし、手にもって通路を何度か回ってみたものの、持ち主が見つからなかったの。

それ以上に定時に出発させるために皆がハラハラ。機長からも客室の状況を伝えるように頻繁にインターホンで連絡もあったし。

そんなこんなで、なんとか定刻の5分前に全てのお客様のご搭乗が完了。最終の書類もととのい、3分前にドアクローズ。 ドアを閉める際に例の化粧ポーチは地上係員が預かって降りてきました。

なんとか、定刻出発に間に合った!と喜び、ボーディングブリッジを引いたところ、飛行機がプッシュバック、と思いきや、30センチほど後退したところで停まっちゃたの。 みんな、「え?なにかあった?」と話していると、運航管理部から、「化粧ポーチ、あれ、客室乗務員のものだったらしくて、必要だからドアを開けろって。」という連絡。 え? 今ドアを開けたら、完全に定時出発ではなく数分の遅れが生じるじゃない! もうみんな、がっかりと言うか、怒りというか。 「これで遅延がついたら、マツコさんのせいですよ!」って言う人も居たりして。そりゃ仕方ないわよね、客室乗務員の忘れ物で遅延だなんて。

すると、機長がコックピットの窓を開けて、「投げろ! いいから、投げ込め!」と。

一瞬、えーっ!って思ったけれど、思い切って投げました。 「キャプテン、ナイスキャッチ!」

そのまま、何事も無かったかのように出発して行きました。記録上も3分の早発のまま。

なんとか遅れにはならなかったけれど、あれでよかったのかしら。

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