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ねこると創作クラブコミュの第三回ねこると短編小説大賞応募作品No1『ハロウィンの月』

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 小さい頃よく読んだ絵本の中に「小さな星の子と山ねこ」という話があった。
私はこの話が大好きで、寝る前になると母に何度も読んで欲しいとせがんだものだ。
 主人公の星の子は末っ子で、他の兄や姉たちはみんな色とりどりのマントを纏い、空を飛びまわっている。
 星の子は母である月にマントをせがんで作ってもらい、地球へ初めての冒険に繰り出した。星の子が降り立った地球の山では様々な生き物と触れ合い仲良くなる。
 その中で、少しいじわるな山ねこがやってきて、悪ふざけで星の子のマントを破ってしまう。
 星の子は空へ帰れなくなったと泣き、弱った山ねこは星の子のマントを直すために奔走し、最後には空に帰る星の子のことを帰したくないと思うほど好きになる。


 「ねぇおかあさん、死んでしまった人はお空に行くってほんと?」
―そういう人もいるわねぇ。お空でずっと大切な人が見守ってくれているって考えたら寂しくないものね。本当かはわからないけれど、おかあさんもそうだと良いなって思っているわ。
 「そうだったら絶対お兄ちゃんも私たちのこと見守ってくれているもんね」
―……。

 兄は私が小さかった時に交通事故で亡くなってしまった。
 私がまだ幼稚園に上がったばかりの頃で、小学5年生の兄は学校が早く終わるとよく迎えに来てくれていた。帰り道に二人で手をつないで畦道を歩くのが大好きだった。
 カエルを見つけたり、ザリガニを捕まえて持って帰ったりしてはよく母に叱られていた。
 ある日、私をいつものように迎えにくる最中、兄は信号無視をしたトラックに轢かれてしまったのだ。人通りが少ない道で発見が遅れたため手遅れだった。
 トラックの運転手は通報も何もせずただ茫然と立ち尽くしていたそうだ。原因は何日も碌に睡眠をとっていなかった事による居眠り運転。
 運転手は自分がしたことが許せなかったのだろう。
 妻子を残して数年後に獄中で自殺したときいた。
 母は、兄を一人で迎えにやった自分をひたすら責め、毎日毎日仏壇に泣きながら謝っていたのを覚えている。
 葬式の時は心無い親戚に責められていた。
 私はじっと母の服の裾を掴んでいることしかできなかった。
 父親については何も出てこないのを不思議に思う人がいるかもしれないので書いておく。
 実は父のことは覚えていない。
 今でいうDV夫という最低な奴で、暴言や暴力で相当母を痛めつけていたようで、私が生まれてすぐに離婚した、と成人するときに母からきいた。
 自分が辛いことを愚痴ひとつ零さず、ずっと耐えてきた母は、私が成人して直ぐに病を患い亡くなってしまった。
 私は一人になったが、高校を卒業後に就職しているので、生活に大して困ったことはない。
 母の49日も過ぎ、寂しいと感じていた頃にちょっとした縁で出会いがあり、人生で初めての彼氏ができた。
 彼はとても優しく面白い人で、いつも私を楽しませてくれる。
 私は兄が亡くなってから、あまり笑わない子に育ち、いつも無表情でいるのが大半で何を考えているか分からない怖い奴だと周りから思われていた。
 しかし、会社内の部署交流会で出会った彼は、何故か私の元へ一番に来て話をし、交流会が終わった後も食事に誘ってきた。
 最初は急なことで気味が悪かったが、話をしているうちに彼に惹かれてしまった。
「あー、こんなの可笑しいですよね。すみません。でも本当に一目惚れなんです。」
 と顔を真っ赤にしながら照れるその姿が不思議と可愛く思ったのだ。
 人から好意を持たれたことが殆どなかったということもあり、あれよあれよという間に付き合うことになっていた。
 彼は色々なことをしてくれた。
 正月はどこで買ったのか鏡餅の着ぐるみを着て初詣に誘いに来た私を玄関で迎えたり、ゴールデンウィークの休みには砂金を探すんだと川に探検に出かけたり、夏にはスイカ割りが恒例だと二人では到底食べきれない量のスイカを砂浜で割りまくって色んな人に振る舞った。
 クリスマスにはサンタガールの格好をして私の職場の前で仕事が終わるのを待ち伏せていて、不審者と間違われて厳重注意されたこともある。
 余りにも変な行動ばかりする彼と別れようと真剣に考えたことが何度もあるが、実はこれらの行動は私を笑わせたいというだけでしていたというのだから驚きだ。
 後で知ったことだが、交流会のとき、あまりに無表情な私が笑った顔を想像してしまったのが一目惚れの原因らしい。
 本当にへんてこな奴だ。家族のことも話したがただ静かに聴いてくれた。
 しかし、彼のおかげで私の表情筋はだいぶ柔らかくなったようだ。
 昔の私を知っている人からすると石が大仏に進化した、らしい。
 例えはあまり変わっていないように思うが。
 そろそろ付き合って3年経つが、彼の行動は一向に変わらず、私を笑わせることがライフワークと化したようだ。
 そろそろハロウィンが近いので何かしらやってくれるのだろう…。

 ガチャとドアが開き、ふわっと目の前のカーテンが揺れた。
「何を書いているんだい?」
 彼が机に向かっている私の肩にそっと手を置く。
「自分の今までのことをまとめとこうと思って」
 殆ど書き終えたし今日はここまで、とペンを置き振り返ると、頭に大きなカボチャを被った全身黒タイツのパンプキンマンがいた。
 ふぅっとため息が漏れる。
「今日はハロウィンだよー!トリックオアトリート!」
 日付はまだ30日だったように思うが、そこは黙っておく。
 私は両手両足で変な動きをしている彼を横目に、どんな悪戯をするつもりか気になってつい尋ねてしまった。
「で、お菓子をあげなかったら私はどうなるのかな?」
 彼は、んー、と考えたふりをして腕組みをしている。
 とてもシュールだ。でも面白い。
「この格好の僕が添い寝しちゃいます」
 その巨大頭でどうやって寝るのかは疑問だがそれは遠慮したいところなので、彼のフライング用に用意しておいた“都こんぶ”を1つ、机の引き出しから出して彼の手にポンと乗せた。
「はい、お菓子」
 彼はじっと手に乗った赤い箱を見つめ停止したかと思うと、黙ったまま、また変な踊りで部屋から出て行った。
 お気に召したようで良かった。
 明日は会社主催のハロウィンパーティがある。
 私は同僚に魔女の衣装を用意されているときいた。
 無愛想だから怪しい魔女にぴったり、だそうだ。
 明日は全員用の都こんぶを用意しておいたので楽しみだ。
 ヅラを必死で隠している部長にはとろろ昆布をお見舞いしようかな、しないけど。
 そんなことをしたら勿論クビだ。
 などと彼に影響されたのか変なことを考えながら私は眠りについた。

 不思議な夢を見た。
 沢山の星が輝く丘で、大きなお月様が辺りを照らしていて、その周りでは沢山の流れ星が流れている。
 しかし星たちは空から消えることなく月の周りを飛んでいるのだ。
 しばらく星たちが自由に飛び交うのを見ているとスッと一つだけ地上へ降り立った星がこちらへゆっくりとくる。
 私はその星にただ懐かしさを感じた。

 そこで私の目は覚めてしまった。
 何かの暗示なんだろうか、チュンチュンという雀の声に耳を傾けながらゆっくりと体を起こす。
 朝食の支度をしていると寝ぼけ眼で彼が起きてきた。
 朝に弱い彼は色んなところに頭や足をぶつけている。とっても痛そうだ。
 毎朝見ているが不思議と飽きない。
「今日のハロウィンパーティは地域交流も兼ねているから色んな人が来るみたいね」
 朝ごはんを食べながらまだ寝ぼけている彼はふぇーんと情けない声で返事をするが頭に入っていなさそう。
 さて、そろそろ着替えてもらわないと。
 今日は一日中、ハロウィンパーティの準備で皆大忙しだ。私はひたすらクッキーを焼く係りで彼は商店街に繰り出して客寄せをするらしい。
 なかなかに大がかりなパーティになりそうで、無愛想な私もウキウキしているのがバレるほど一生懸命準備してしまった。
 パーティは会社の前にある広い公園で行われる。公園の木には様々な大きさのランタンが輝いていて夕方の薄暗がりに幻想的な雰囲気を醸し出していた。
 パーティが始まる頃にはすっかり夜になり、今日はたまたま満月なのかまんまるなお月様が綺麗に輝いている。
 夢で見た月にそっくりだ。
 そんなことを思いながら魔女の私はランタンを象った小物入れからクッキーを子どもたちに配っていく。
 ちょっと魔女っぽく、ひっひっひと笑い声を出すとすっかり逃げられてしまった。

 しばらくクッキーを配っているとふと周りのざわめきが静かになった気がした。
「トリックオアトリート」
 突然後ろから声をかけられ、振り返る。
 いつの間にか人が居なくなり静かになった公園で、小学生くらいの男の子が一人だけ下を向いて立っている。
 ふと懐かしい感じがしたが、クッキーを渡そうと思い手を伸ばした。
「あの時のことは…のせいじゃないんだよ」
 え、と聞き返そうとすると一瞬だけ顔を上げた顔を見るか見ないかの間に男の子はとてつもない光を放って消え去ってしまった。

「お兄ちゃん!?」
 私は叫んだが、辺りにはざわめきが戻ってきていた。
 近くにいた人にとても驚かれてしまったので謝りながら、キョロキョロと辺りを見回したがそれらしい姿はもうどこにもなかった。

 そろそろパーティも終わりが近づき社員たちが片づけを始めている中、私はただぼーっと立っていて、急に後ろから近付いてきた彼にも気が付かなかった。
「だーれ、だっ!」
 目隠しをされるが、驚きもせずただじっとする私を不思議に思ったのかそっと手を放してくる。
 彼の手が離れるとつーっと涙が零れた。
 彼はすぐに私の異変を察知したのか近くにあったベンチに座るよう勧めてくれる。
「どうした?何か嫌なことでもあった?」
 今まで一度も彼の前で泣いたことのなかった私の頭にそっと手が乗り撫でてくる。
 ひとしきり泣いて、落ち着いてきたのでさっき起こったことをぽつりと話してみた。
 彼には私の家族については殆ど語っていたので、真剣な表情で聞き入っていた。
 私が落ち着いたのを確認して、彼はちょっと間をおいて私が避けていた話について尋ねてきた。
「あの時のことって聴いてもいい?」
 私は少しずつ、当時兄が亡くなった日のことを話し始めた。
「お兄ちゃんが轢かれた道路は普段は送り迎えには使わない路だったの。でも、 私が朝にぐずって幼稚園に行きたくない、と泣いていたらお兄ちゃんは「迎えに行くとき良いものを必ず持って行くよ」と私を宥めてくれた。あの時、私はちょっとお兄ちゃんを困らせたかったのかもしれない。トラックに轢かれたお兄ちゃんの手にはたんぽぽの綿毛が握りしめられていたそう。いつもの通り道にはたんぽぽがなかったから、私のせいでいつもと違う道を通ってお兄ちゃんは死んでしまった。」
 私はずっと抱えていた思いを彼にぶちまけてしまった。
 彼は何も言わずただ私の手をとって、そのまま抱きしめてくれた。
 あの時のことを悔やむ私の前に現れた男の子は確かにお兄ちゃんだった。
 私のせいじゃないと伝えるためにわざわざ来てくれたんだ。
 また涙が止め処なく溢れた。
 彼はスッと私の頬から涙を拭って、
「僕は、ずっと笑わない貴女を不思議に思っていました。笑ったら本当に素敵な人なのになって想像をして一目惚れしたくらいですからね。だけど、お兄さんのことがずっと貴女を苦しめていた。それがお兄さんは許せなかったんですね。妹の幸せをずっと願ってくれていたんでしょう。とても優しい人ですね。」
 そう言ってまたぎゅっと抱きしめてくれた。

 しばらく経ってから片づけの手伝いに行くことにしたのだが、彼が涙を拭ってくれたおかげで落ちたアイメイクがひどいことになっており、同僚たちから本物が出たと逃げられた。
 失礼な話だ。

 帰り道に彼と手を繋いで歩きながら、あの絵本の山ねこの気持ちで月を見つめる。
 お兄ちゃんはお月様の子になれたんでしょうか。
 ハロウィンの月は私に不思議なプレゼントを贈ってくれたようです。
 おしまい。

コメント(2)

<投稿者の龍斗さんによるあとがきがあります>
自分が何を書きたかったのか、
さっぱど分からん状態な作品になってしまいました。
妹にダメ出しをもらってやっとまとまった(?)感じです。
最初はもっと迷走していました。
冒頭の絵本は実在するものなので一度読んでいただければと思います。
私の拙い説明文ではいまいち内容が伝えきれていなくて申し訳ないです。
今回も参加させていただいてありがとうございました。
竜斗
<読んだ人の感想>
・さみしいハッピーエンドが好きです
・こういう話が書きたいです。ハロウィンと言えば死者に会える日って設定を忠実に活かした作品だと思います。
・単にこういう話が好き。えぇ好きですともw

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