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ねこると創作クラブコミュの第一回ねこると短編小説大賞応募作品No.4『115円』

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115円

HAPPY NEW YEAR!と、テレビが告げるのを見計らってジャンプしたのは、いったい何年前のことだっただろう。
早くみんなに会いたくて、カレンダーをうずうずと眺めていた。学校が始まるとクラス中で「おれ、年明けたとき地球上にいなかったんだぜ!」「おれも!おれも!」なんて、馬鹿みたいで無邪気な会話が繰り広げられていたっけ。

さすがに高校1年生になった今じゃ、そんなことをする奴はいなくなり、カレンダーをため息混じりに眺めるようになった。
本当は元旦に行くつもりだった初詣も、布団のぬくさと特番に負けて、家でごろごろとしていた。見かねた双子の片割れ(弟)が、僕のことをたたき起こさなければ、学校が始まるまで引きこもり状態だった自信がある。

「仕度できたか?」
「あ、ちょっと待って」

お年玉の一部を財布にいれると、片割れが呆れたようにため息をついた。

「あんま無駄遣いするなよ」
「分かってるよ」
「そう言って毎年痛い目をみてるのは誰だったかな」

ムッとして反論しようとしたけど、口から出てきたのは「早く行こう」というなんとも情けない逃げ口上だった。全くもって、その通りです。



思っていた以上に外は冷えていた。
昨日見た特番について喋りながら歩いていると、赤い鳥居が見えてきた。新年3日目にして初詣。正月三が日以内だったら、神さまも許してくれるはず。
有名な神社だからなのか、3日目でも人で賑わっていた。
鳥居をくぐり境内に足を踏み入れる。なんとなく、今までよりも澄んだ空気が漂っている気がした。
去年かったお守りを収め、本堂へ。財布から小銭を取り出して、ちょっと離れた賽銭箱に向かって投げ入れる。その額、115円。

「良いご縁、ね。…今年こそ友達できますように?」
「やめて。泣きそうだからやめて」

こいつは人の心をエグるのが凄く得意だ。僕と同じ顔のくせに、何もかもが真逆で本当に双子か疑いたくなるくらい。ちょっとぐらい優しくしてくれたっていいじゃないか。

「出した年賀状の返信、何人くるか今年も見物だな」
「あぁああああっ!何も聞こえない!聞こえなぃいいい!」

慌てて両耳を塞いで大声をだしても、すでに耳に入っている時点で終わっている。僕の隣にいるおじさんが、チラリとこちらを見る効果を発揮しただけだった。あ、あと、耳がちょっとあったかい。

その後、(僕だけ)毎年恒例のお守りを買って、おみくじを引いた。結果は吉。普通が一番!
2人で近くの屋台でタコ焼きを買ったり、射的をしたりと30分程ブラブラした後、家に帰って、手を洗って、荷物を置いて、さて買ってきたお守りを付けようと袋から出したところで、ようやく気がついた。

「交…通…安全……」

見慣れた青い生地に○○神社。
それだけなら総合的なお守り。
神社名の下に小さく、普段見慣れない「交通安全」という文字が印字されていた。

確かに、事故は恐い。交通安全は大事だ。でも、僕が欲しいのはこっちじゃない。総合的なお守りなら、交通安全に限らず他の災厄からも護ってもらえる(ような気がする)から、そっちの方がお得だし、それを毎年買ってる。
毎年買っているが故に、ちゃんと見ていなかった。

「や、やられた…」
「なにお守りのせいにしてんだよ」
「だ、だって、似てるのが悪い!総合的なお守りに交通安全って書いてあるだけとか、絶対僕以外にも間違えて買ってる人たくさんいるよ!」
「いま行ったら取り返えてくれるんじゃね?」
「…うーん、でも…は、恥ずかしい…」
「はぁ、…一緒に行ってあげましょーか?おにーさま」
「…いい、一人で行ってくる」
「よく言った。さっさと行ってこい」

神社の悪徳商法を垣間見た気がした。…だなんて思ってませんよ、神様!

間違えて買ったお守りだけを持って、急いで神社に戻る。買ってからもう1時間もたっているから、交換するの難しいような気がするんだけどな…。ほら、僕はそんなことしないけど、去年買ったお守りを「間違えた」と言って新しいお守りに交換する人がいるかもしれないし。

そんな不届きなことを考えながら鳥居をくぐる。相変わらず人で溢れかえっていた。
お守りを買った時に相手してくれた巫女さんを見つけると、無意識に頬が引き攣った。
僕ってば、かっこわるい…。

「あ、あの…」
「はい?」

晴れやかな笑顔が眩しい。
女の子と喋ることなんてあまりというか全くない、僕みたいな根暗DTには、君の笑顔が眩しすぎて直視できないよ。
ウェイトレスさんに注文する時に、女の子ってだけで吃ってしまいますが何か?

というわけで、目線を合わせられないんです。すみません。

「えっと、あのですね…」
「ふふ、佐藤くん、もしかしてお守り間違えたこと?」
「あ、はい。そうなんで…え?」

この人、いま僕の名字言わなかった?

恐る恐る顔をあげて、改めて確認する。
…えーっと、どこかで会ったっけ?

「あ、私よー。同じクラスの天野、天野早紀。佐藤兄の方だよね?」

にこにこと人懐っこい笑顔を僕に向けてくる。
天野早紀さん、……名前だけなら知ってます。

「天野さん…よく僕だって分かったね」
「分かるよー。顔は一緒だけど、きみの方が雰囲気ほんわりしてるというか…って言うか、さっきお守り買ってくれた時、普通にスルーされてちょっとショックだったぞー」
「あ、ごめん…」
「で、交通安全買っていくんだもん。さらにびっくりだよ。私、朝からバイトで巫女さんやってるんだけど、初めて買ったのが佐藤くんだよ?」

そうなんですか。なんだろう、この羞恥心。

「あ、あと、バイトしてるの秘密だよ!」
「学校バイト禁止だもんね…大丈夫、言わないよ」
「ありがとう!佐藤くん優しいね」
「あ、当たり前だよ…えっと、これ」
「そうだったごめん!いま交換するね」

間違えたお守りと引き換えに、欲しかったお守りが渡される。

「じゃあ、バイト頑張ってね」
「うん。佐藤くん、また学校で会おうね」

ひらひらと振られる右手に応えるように、小さく右手を振り、踵を返し駆け出した。

頬がほんのり熱いのは、きっと恥ずかしさのせい。そうに違いない。

コメント(3)


<投稿者のあろんさんによるあとがきコメントがあります>

*あとがき*

 この作品は、実話8割、妄想2割、残りの10割は双子愛と巫女さん愛でできております。

 双子と巫女さんハァハァハァハァh(ry

 愛のままに打ちまくっていたら6000文字程度いってしまい泣く泣く削りまくりました。ときに愛は重くなってしまうのでご用心。という教訓を得られた作品でした。

 こんな駄文読んでくださり、ありがとうございました。またこの素晴らしい機会を与えてくださったねこるとさんに感謝します。
 ではー
・あまじょっぱいのが、いい。ちょっと小っ恥ずかしいくらいがちょうどいい
・さわやかな青春っぽくていいネ
・平凡で実際にありえそうな感じが好き。終わったその後がどうなるのか想像を膨らませることができるのも良い。視点が主人公で話が進行し、さらに年越しの瞬間にジャンプしたり、友達がいなかった(少なかった?)りお守り間違えたりする主人公に共感がもてる。

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