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小説日記コミュの見間違い

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彼女と付き合い始めて数ヶ月。
社会人になってから独り身の生活が長かったせいなのだろうか、それとも俺の心が冷えきっていたのだろうか、彼女という存在が温かくも愛おしく惚れた女性と共に過ごせるこの現実がにわかに信じられなかった。


「彼女」という概念が存在した日。
友人や同僚と飲みに行ったり趣味に没頭したりと、今迄がそういう生活だったが故に今はとても新鮮味に溢れ充実した時間を満喫しているといえよう。

だが、そんな矢先の事だった。

会社から帰宅して夕食を済ませ1人まったりとお酒を飲んでいると、何やら外が異様に騒がしく大きな荷物を運んでいるかのような音が聞こえる。

上がる度にずっしりと重たく響く鉄製の階段音、時折壁に接触している鈍い音。

近所迷惑も顧みず何やってんだよ…。
ここの住人はそもそも一体何を購入してきたというのだろうか。

暫く経ち俺の部屋を通り過ぎた頃、さっきまでの騒音が嘘だったかのようにピタリと止んだ。

何だよ、隣の兄ちゃんの仕業だったのか…。
いくら何でも近所迷惑にもほどがあるな。一言注意しようと思い玄関のドアを空けて外に出る。

すると何だ、ドアを空けた右側に大きな段ボールが1つ置かれていて等身150cm程度だろうか、アパートの通路が狭いだけにその存在感は大きかった。

隣の兄ちゃんはなんでこんな物を運んで……ん?
俺は一瞬自分の目を疑った。

目の前の段ボールにはネットショップからの伝票が貼付けられてあり、受取人の名前が俺になっている。
いやいや俺は何も、ましてやこんな大きな商品を注文した覚えがない。

代金の方も事前に振込で支払われている…一体どういう事なのだ。

カツッ、カツッ、カツッ、カツッ。

マズいな、誰かが上ってきたぞ。これでは完全に通行の邪魔ではないか。
伝票には俺の名前になっているため仕方ない、とりあえず部屋の中に運んでそれから状況を整理しよう。


ほろ酔い気分もすっかり覚めてしまい、俺は巨大な段ボールと対峙している。
とりあえず中身を確認するため、ガムテープの封を乱雑に剥がして更には衝撃から守るためのプチプチのシートも取る。

えっ、…に、人間!?…ま、まさか…死体!?
その中には22歳前後だろうか、歳のわりには少し童顔で可愛らしい容姿が際立った女性が仰向けに収納されていた。

俺はすかざず後ろに仰け反ってしまった。…いや、そんな訳ないよな…。
再度確認すると、それは一見人間と間違える程の造りで肌触りに皮膚の質感、髪の毛も、筋肉や関節の収縮に各部位のパーツも忠実に表現されていてマネキンやフィギュアでは済む代物ではないほどの逸品である。


本当に見れば見る程、血のかよった人間にしか見えない。
…一体何なのだ、確かに俺は注文した覚えがない。
仮に友達が俺の名前と住所を勝手に使い注文したとしても代金はもう支払われている。
見るからに何十万もするモノを支払う自滅行為並の嫌がらせは流石に無いだろう。かといって俺の誕生日はつい先月に終わったばかりだ。

…考えても仕方ない、明日も仕事だ今日はもう休もう。

人形とはいえ全裸は全裸、それも細部まで造り込まれているので何だか恥ずかし気持ちにかられて仕方ないので、とりあえずバスタオルを捲いて動かない彼女を押し入れに収納し、俺は布団に潜り込み深い眠りに埋没してゆく。


------------------------------



昼休み、同僚曰く昨日のアレは極限にまで本物の人間を再現した人形だという。
用途としては彼女のいない男性がターゲットのようで、一緒に生活をしている感じを味わうためのもので自分好みの着せ替えや、入浴に添い寝、更には夜の営みの相手にも大いに可能であり使い方次第では夢が広がるというわけだ。

しかしなぜ…そもそも俺には彼女がいるのに人形が届いた。心当たりが全くない。

これは俺が悪いわけじゃないが彼女に見つかると何かとややこしくなりそうだ。早いところ対策を考えなければ。


帰宅後、着替えと夕飯を済ませると押入から女の子の人形を取り出してこれからのことを考える。

…いや、考えるまでもないよな、完全に必要のないものだから。高価なモノなのであっさりと廃棄するには少々気が引けるがやむ終えない。

段ボールに人形を詰め直そうとした、その時だった。

…ガチャ。玄関のドアが開き女性の声が聞こえた。

「あ、今日はもう帰ってるんだ、上がるね。」

咄嗟に後ろを振り返ると俺の彼女がもうすでに部屋へと上がり込んでいる。

ま、マズイ…!?

だが、時はすでに遅し。
不運なのだろうか、段ボールに詰めようとしていたため人形を抱えていた俺の姿は彼女からすると抱き合っているように見えてしまっていて、挙げ句の果てには全裸という究極のいわく付き。

ちょ…こ、これは…。

彼女の表情は変わっていた。悲しい顔ならまだ救いはあったのだろうが、それは無情にもちがっていて怒髪天のように激昂している。

説得も弁解の余地もない。彼女の立っている横に置いていた小さな食器棚が薙ぎ倒され、キッチンに常備している調理器具等が俺に向かって飛び交う。

家具は無茶苦茶に倒れ、電気は割れ、空間自体が修羅場と化した。

待ってくれ、とりあえず落ち着けって、これは誤解だ!!

だが俺の声など全く届いておらず容赦ない攻撃は加速する一方だ。
どれぐらいの時間が経ったのだろうか…彼女は泣いていた。

最後、俺に「最低」とあまりにも悲しい一言を漏らして夜の街へと飛び出した。

くそったれ…ツイてないよな…。

意気消沈の俺は足下に転がっているスプーンやフォークを拾い上げていく。

その時だった。

近所迷惑極まりない騒音の嵐だったため、管理人のおばちゃんが俺の部屋を覗きにやってきた。
そして俺の不運は一体どこまで続くというのだろうか、女性の悲鳴、俺の手にはフォーク、散らかった部屋、乱雑に倒れている女の子のあまりにもリアルな人形。

「ひ、人殺しっ!!」

ちょ、人殺しって!?違うんだ、これは人形だ!!
それにほら、血痕がどこにも……。

だが、管理人のおばちゃんは俺の声に耳すらも傾けず一目散に俺の部屋から出て行った。

…本当にマズイな、あのおばちゃん、かなりの血相だった…このままではじきに警察がやってくるぞ。
そんな警察の相手をしている暇はない、どのみち俺は無実だ、後でしっかり事情を話せば大丈夫だ、今は急ぎ彼女の行方を追うのが先だろう。

ネオンが輝く夜の街へ俺は駆け巡り、彼女の行きそうな場所へシラミつぶしで探す。
児童公園、常連のコンビニ、カラオケBOX、ローカル書店、俺の体力が続く限り走り回った。だが、一向に彼女は見当たらず、時間だけが無情にも過ぎて行くばかりだ。

閑散とした商店街の中を途方に暮れながら歩く。

すると家電店の店前に設置されているテレビから思わぬ音声が聞こえてきた。

臨時ニュースをお伝えいたします。先程、○○町の閑静な住宅街で殺人事件がありました。

犯行現場を目撃した管理人によると、同じアパートに住む1人暮らしの男性で………。

犯人は逃亡中との事で、凶器であるナイフを所持している可能性が高いため近隣の皆様は充分な注意を払え、と言ういい加減な事をキャスターのオッサンは伝えている。

でも、何故だ!?何故殺人に!?刺す刺さないは別にしてそもそも人形のはずだ、それに俺はナイフを所持していない。
どう間違っても殺人になるわけがない。

辺りではパトカーのサイレンが鳴り響いている。いよいよ包囲網が敷かれてきたのだろうか。

このままでは時間の問題だ、よし、家に帰りあの人形を見せて無実を証明しよう。
徘徊する警察官に見つからないよう慎重に、そして隠密に行動しながらアパートを目指し、少なからず夜なのが救いなのだろうか、難なく見つからず無事に到着した。
アパートの敷地内では数台のパトカーが停まっており、辺りにはドラマでよく見る黄色と黒のテープが張られていて、おそらく2階では現場検証が行われているのだろう。

強行突破するしかないか、証拠さえ見せれば誤解は解ける。

覚悟を決め、俺は勢いよくテープをくぐり抜け自分の部屋の2階を目指す。

その時だった。

「お、おい!そこの君!勝手に入っちゃ駄目だ!」

警察官の呼び止める大声が聞こえる。
こんな所で捕まっては駄目なんだよ、俺は証明するんだ、無実ってことをっ!!

玄関を空け暗闇ではあったが数時間前と変わらず部屋の中は食器や雑貨等が見るも無惨に散らかり、奥の部屋では女の子の人形が転がっていて急ぎ俺は立ち上がらせる。


…ん?まてよ?…俺は一つの違和感に気付いた。
これが殺人として扱われているなら、この部屋に何故1人も警察官がいない。

それにさっき呼び止める警察官は「君」って……普通、容疑者なら「お前」や「おい」だろ!?

だが、その考えも束の間。

眩しい無数の光が俺を包み玄関には複数の敷地内で待機していた警察官のシルエットが見える。

くそっ、サーチライトかっ!!

「おい、人質を離せ」

ちょ、ちょっと待ってくて、これは人間じゃない、人形なんだ。

「くそっ、貴様!女性を気絶させたまま人質にとるとはっ」

駄目だ埒があかない。

こうなったら見せるしかない、血の無い人形だってことを。
俺はジーパンの後ろポケットに入ってあったフォークを取り出し手をかざす。

「お、おい、やめろ、これ以上おかしな真似をすると撃つぞ」

警察官が次々を銃を構え俺を狙っている。


撃つわけない…いや、撃てるわけないんだ。
俺は握るフォークに力を込めて人形の首に勢いよく鋭い尖端を突き刺した。

ブシュッッッッッーーーーー!!!!!

目の前が赤い…血…なのか…、嘘だ…血が出るわけないんだ。
すると、下半身から力が一気に抜けて膝が床につくと同時に硝煙の臭いがした。

違う、この血は…俺の…血…。う、撃たれたのか!?

身体の全身が地に着いていて、だんだん意識が遠のいていく。




「お、おい!これは…人間じゃなくて本当に人形だぞ」

何やら警察官が喋っている。

「と言う事は隣の部屋で起こった殺人事件の犯人ではなかったのかっ」

えっ、隣の部屋の殺人事件!?どういう事だ!?

考えようにも上手く思考が回らず意識が朦朧としていて身体中が熱い、そして痛い。
駄目だ、呼吸もろくにすることが出来ない。

俺は…死…ぬのか…。

死…ぬ………


----------------------------


数日後のある日の事。

「なぁ、知ってるか?つい数日前このアパートで警察官が誤射したらしいぞ」

「全く物騒だよな、しかし誤射するなんてよっぽどの事だぞ」

「いや、実は聞いた話によると、このアパートの2階に住む若いカップルが口論になり彼氏の方が怒りのあまり彼女をナイフで刺殺したんだって。
ここまでは普通の殺人なんだけど問題はここからでさ、同じくして隣の部屋でも若いカップルが喧嘩していてさ殺傷は無かったもののもの凄い騒音だったため管理人のおばちゃんが様子を見に来たんだよ」

「でさ、彼女は部屋を飛び出して彼氏は散らかった食器類を拾い集めてる所を目撃された」

「えっ、目撃っていっても度が過ぎる喧嘩してただけだろ?」

「実はこれが不運の始まりで、彼氏の部屋には人形が転がっていたんだよ、それも人間と見間違える程のさ」

「なるほど、それで管理人のおばちゃんは彼氏が殺人を犯したと」

「いや、それは逆だ、人形なんて後で確かめればわかる話…だから彼氏が殺人を目撃されたと思い込んでしまったんだ」

「それで一旦おばちゃんは驚きのあまり彼氏の部屋を後にするのだが、確認のために再度戻ろうとした時に丁度、若いカップルの殺人を目撃して通報」

「暫くした後、警察が現場に到着し検証を開始するのだが、そこへ無実を証明しようと彼氏がアパートに戻ってくるんだよ、隣の部屋で殺人の検証が行われているのも知らずにね」

「警察官の制止を振り切り人形を抱え上げたまでは良かったのだが、警察官も犯人が戻って来たと思い、それでリアルな人形を人間と見間違えて人質をとっているように見えたものだから彼氏を犯人と間違えたんだろうな」

「そして彼氏はポケットに入っていたフォークで人形をグサリ、ま、警察からしたら2度目の犯行と思っているわけでやむ終えず発砲」

「んで、警察もそれが本当に人形だってわかった時には、もう遅かったって話」

「…とんでもない話だな、それ」

「不運が重なったんだよな、たぶん。人形が人間に見えてしまった事、若いカップル2組が同時に喧嘩していた事、無実の彼氏が殺人を目撃されたと思い込んでしまい冷静な判断がとれなかった事、そして無情にも隣の部屋で本物の殺人が起きていた事」

「繋ぎ合わなくていい糸が見事に1つになったんだ、それも最悪なかたちで」

「でさ、その本当の犯人はどうなったんだよ?」

「あぁ、勿論、誤射のあとすぐに近くの住宅街で捕まったよ」

「いや〜、怖いね。ホント…俺たちも気を付けないとな」


end

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