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小説日記コミュの幸福への招待

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それなりに高校を卒業してからそれなりの大学へ入学し、それなりの就職先へ入社して早4年目。
残念ながら彼女はいないが、周りや会社の人間関係もそれなりに、かといって取り立てて出世することもなく、ただただエスカレーター式の平凡な人生を俺は歩んでいた。

朝起床しては会社へ出社し、1日の業務を適度にこなし少しの残業を終えてから帰宅。
週末になると友達や上司、同僚からの飲みの誘いが無い限りは、取り立てて誰かと接触する事もなく帰宅。
休日も平日に溜まった家事や、生活用品の買い出しに、録画していたドラマや映画を観るだけの超が付くほどの平凡な日常。

夢や目標も特になく、今の生活がそれなりに続き運が良ければ結婚、そして子供にも恵まれた家庭が築いていければそれでいい。
事なかれ主義と言われればそれまでだが、別に自分から何かを起こして苦労する必要もないだろう。


そんなある日の事だった。
食材の買い出しの際にはいつもお世話になっている商店街へ行き色々な品を見ながら歩いていると、少し細めの路地裏に1つの商店がオープンしていてた。
こんな目立たない殺風景な場所に店を構えるという事は穴場か何かなんだろうか。
開店記念という事もあり全品が格安でだったため、食料や生活用品等を大量に買い込んだ。

すると店主が俺に1枚の福引き券を手渡した。
本来はスタンプカード制で1000円につき1ポイント、30ポイント溜まった時点で1枚の福引き券と交換できるのだが今回はオープン記念という事でサービスしてくれた。
福引きは至ってシンプルなもので、多角形型の箱を回転させると色の付いた玉が出てきて、その色により商品が異なるという仕組みだ。

俺は各等賞の商品が記されたボードに目をやる。

白…5等/BOXティッシュ。
青…4等/シャンプーセット。
黄…3等/商品券(壱萬円分)
緑…2等/旅行券
赤…1等/液晶テレビ
虹…特賞/幸福への招待。

よくテレビなどで見かけるありきたりな商品の数々だが、俺は特賞だけがやけに気になった。

「特賞…幸福への招待?何だこの曖昧な商品は…」

思わず気になったので店主に聞いてみるが、その内容は秘密だという。
まぁ、内容がわかったところで当たるほど俺はそんな強運の持ち主ではない…ガラガラガラ…
そんな事を思いながら取っ手を回し、出て来た玉の色は…「白」

ま、こんなもんだろ、俺はBOXティッシュを1箱頂き商店街を後にした。

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明くる日、俺は同僚と駅前の定食屋で昼食をとることになった。
すると同僚がおもむろに口を開いた。

「なぁお前、あそこの商店街の福引き知ってるか?」

間違いない、同僚は俺が昨日「白」を当てた福引きの事を言っているのだろう。
同僚の話によると、「幸福への招待」を当てるととんでもない事が起こるらしい。
ただの噂にしか過ぎないが、一生不自由なく暮らせる、大金持ちになれる、憧れの芸能人と結婚できる等、要は自分の思う幸福が手に入るようで考えるだけでも夢のまた夢のような話だ。

午後からの業務もそれなりにこなし、この日は残業も無かったため定時に帰宅し、早い時間帯でもあったため夕食の惣菜を買いにいつもの商店街へと赴いた。
昔ながらの雰囲気が残るアーケード通りをブラブラと歩いていると、突如ベルの音が聞こえてきた。
音の鳴る方に耳をすましていると、どうやら昨日行った新店の方からである。

…まさかっ、特賞でも当たったのだろうか!?

無性に気になった俺は一目散に細い路地裏に入りお店の前までくると、
「おめでとうございます、こちらが特賞の幸福への招待です」
店主はそう言うと同時に、特賞を当てた年配の女性に1つの招待状を渡していた。

あんな招待状1つで幸福が訪れるのだろうか…!?
…今日の同僚といい、どうせただの噂だ、こんな福引き1つで幸福になれるわけなんてない。

せっかく店の前まで来たついでに惣菜を適当に購入して僅かのスタンプを押してもらい家路を急いだ。


そして暫く経ったある日。
この間昼食を一緒にとった同僚が会社を辞めるといってきた。
聞くところによると、新車に新築を購入しても尚、一生遊んで暮らせるだけの大金が突如舞い込んできたというのだ。

理由は教えてくれなかった……ただ、例の商店街のガラガラで「幸福への招待」が当ったと…。

それからだろうか、俺は「幸福への招待」を未だ半信半疑ではあるが意識していた。


数日後、そのお店で買物をしているうちにポイントが溜まっていて福引きのチャンスが到来した。
取っ手を握ると力んでいるのがわかる。やはり特賞を意識している…。
ガラガラガラ…ゆっくりと多角形の箱を回して…回して……コロンッ…結果は「白」だった。

くそっ、駄目かっ…。

俺はBOXティッシュを貰い肩を落としながら店を後にしているそんな時1人の女性とすれ違った。
ん?あ、あれは…!?
そうだ、あの日に特賞を当てた年配の女性だ。
この間とは全く違って、何だろうセレブになっている。お洒落な帽子に見るからに高級な指輪等の宝石類を身に纏い、挙げ句の果てには動物柄のコートまで羽織る始末である。
これも、「幸福への招待」の恩恵なんだろうか。

その日からというもの俺は「幸福への招待」の事ばかりを考えるようになった。
当てたい…何としても当てて、幸福を手に掴みたい。
毎日、そのお店に行っては惣菜を大量に買い込み、会社での昼ご飯分はもちろん夕食に夜食分も購入していく。
その成果もあってか数週間後には30ポイントが溜まっていて福引きを行えるチャンスが再度やってきた。

気持ちを高ぶらせ順番待ちの列に並ぶ。
先客が1人1人と福引きを終えていく中、特賞のベルは鳴らない。
よしっ、イケるんじゃないかっ!?
…と、その刹那だった、カランカランカラン!!

「おめでとうございます、特賞の幸福への招待です」

2人先の中年男性が当てていた。
俺は最前列を覗き込むように確認したが、やはり1つの招待状だけを受取っていた。

これで…何か人生が変わるのだ…。

目の前で当てられたものあってか、一層のこと特賞への執念が沸いたと同時に、遂に俺の番が回ってきた。

当ててやる、当ててやる、ガラガラガラ…コロン…青玉だった。

「残念でしたね、4等のシャンプーセットです」

俺は落胆の色を隠せないまま帰宅したのだった。

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その日からというもの、そのお店へ向かう度に特賞のベルが鳴っている。
1人、また1人と幸福への道を歩んでいるというのか。

しかし何故だ、何故俺は当たらない…。もう数えるだけでも10回以上は回している。
この福引きを回すだけに会社の飲み会も断り、節約生活を実行し、趣味や服などに使うお金も節約しているというのに何故だ…。

そんな日の休日、昔からの友人が俺の家へと遊びにきた。
それも彼女を連れて。…が、しかし、俺は驚愕した。なんとその友人の彼女は俺が数年前からファンである人気グラビアアイドルだった。

友人が何故!?こんな夢のような話があっていいのか!?
彼女がお手洗いにいっている隙に問いただしたのだが、友人から思わぬ言葉が返ってきた

「いや…俺もよくわかんないんだよ、ただ…福引きで幸福への招待ってモノが当たったんだよね」

もういい、これ以上聞かなくても間違いなく例の商店の特賞の事だ。


もう仕事が手につかない…夜が眠れない…そう、俺は特賞の事しか考えられなくなっていた。
そして何よりも30ポイントを貯めるだけの時間が惜しい。

俺は銀行から10回分の現金を引き下ろし、現金で福引き券を貰えるよう店主に掛け合った結果、
俺の熱意が伝わったのだろうか店主はしぶしぶ了承してくれて一気に10回の権利を得た。

だが…神は俺を見捨てたのだろうか、10個とも全て「白」

「お客さん、もうやめておいた方が…」

諦められるわけがない、俺はもう中毒になっていたのかもしれない。
それでも構わない、もう気になって仕方ないんだよ、幸福の招待のがっ。

次の日も貯金を引き出し福引きの権利を得た。
しかし結果は全て「白」

いつしか貯金は底を尽き、勤務態度の悪さから会社もクビになり、
水道代やガス代、光熱費に家賃も払えず滞納、そして大家からは見事にアパートを追い出された。
公園のベンチに腰掛けてポケットを探るが小銭だけが残っていて、ほとんど無一文に近い状態。

喉が乾いた、お腹が減った。

しかし飲み物も食べ物も何も無い。
もうこれは本能なのだろうか、気付くと俺は街の路地裏でポリバケツ等に廃棄されている食料を漁り飢えを凌いでいた。

福引きをしたい、
福引きをしたい、
福引きをしたい、

明日の生活が保証されていないにも関わらずとも、俺の脳は福引きだけが支配していていつ発狂してもおかしくはなく地獄のような日々だった。
賞味期限が切れた廃棄食品。
公園の水道の水。
レストランで客が食べ残したであろうと思われる残飯。
最悪、雑草も食べた。

嗚呼、コンビニ弁当が食べたい…。


路上生活が暫く続いたそんなある日、俺はふと商店街に赴き例の商店の前までやってきた。
するとそこには思わずものが目に飛び込んできたのだ。

1日限定、500円以上のお買い上げで福引き1回キャンペーン。

直ぐさま俺はポケットの中の小銭を確認すると1回引ける金額はある。
商品の購入などどうでもよかった、ただこの500円で1回引けるならそれだけでっ。

店主には無理を言って500円で福引き券を頂いた。
もうこれが最後になるかもしれない、頼む…当ってくれっ…。

…ガラガラガラ、、、コロン、、、なんと、赤玉だった。
「お客様、1等賞の液晶テレビでございます」
無情にも店主は俺の前でベルを鳴らしている。

いらないんだよ、1等賞じゃ駄目だ、特賞じゃないと駄目なんだ。
だから俺はこのテレビを受取らない変わりにもう1回の抽選を店主に懇願したところ、
いつもお世話になっていた事もあり店主は快く俺の願いを承諾してくれた。

出ろ、虹色の玉…虹色の玉っ…

ガラガラガラ…………コロン…俺は目を疑った。
そこには燦々と輝きを放つ虹色の玉が堂々と転がっていたのだ。

カランカランカラン!!祝福とも言えるベルの音が鳴り響き、店主から「幸福への招待状」を受取った。

意気揚々と街中を歩きながら中身を確認する。
そこには1枚のメッセージカードが入っており、「幸福への道、おめでとうございます」と書かれていた。

一体これから何が起こるのだろうか。
そんな事を考えながら拠点とする公園に向かっていると…ドン!!!

通行人の女性と肩がぶつかった。
とりあえず俺は謝り先を急ごうとすると…ん、女性が何かを落としたみたいだ。
声をかけようにも走って行ったためもう間に合わない。

とりあえず落ちたビニール袋の中身を確認する…こ、これは!?
紛れも無い、コンビニのボリューム満点ミックス弁当だ。

夢にまで見たボリューム満点ミックス弁当。
サクサク衣にホクホクのジャガイモが口いっぱいに広がる暖かなコロッケに、
デミグラスソースが美味しさを一層引き立てるハンバーグ。嗚呼、美味しいな。
他にもジューシーな唐揚げ、程よいポテトサラダ、目玉焼きに海老フライ。
俺は、俺は今こんなにも幸せだなんて夢のようだ…。
あまりの嬉しさに涙が止まらず格好悪い見た目になっているが気にしては駄目だ。

…これが幸福への招待でもあり、幸福への正体だったのか…。

俺は幸せを他の誰よりも味わい、噛み締めていて、世界中で一番幸せであると実感している。
本当に今まで諦めず福引きを回し続けてきて良かった。

もう一度言うが、俺は今世界で一番幸せなのだから。

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