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男装執事カフェ Clef de Fleurコミュの 【小説】 Clef de Fleur 大空寺過去編

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一枚の写真がある。
老いた一人の紳士と9人の執事。
色褪せても消えない彼等の笑顔と心。
これは微笑みを花と称した紳士と、9人の花の番人の出逢いの物語。

「私が執事になったの?あれは・・・7年前でございますね」

『Hylotelephium sieboldii〜大切なあなた〜 大空寺編』 

病床の母さんから5日前に預かっていた手紙を昨日出した。

「ごめんね・・・・でも・・私が居なくなっても・・・・一人じゃないから」
別れの間際、握られた右手の熱がまだ残っている気がして、左手で右手を握り締めた。
幼い頃から母さんと二人だった僕にとって『一人じゃない』の意味はわからない。
母さんの病は深刻で、家にはお金が無くて、入院もさせてあげられなくて。
日毎弱っていく母さんを看ながら、僕は日が昇る前から仕事をしたけど、子供に稼げるお金はたかが知れてて・・・・
母さんは昨日天に召された。
わざと出さなかった訳じゃない、手紙を預かった夕方から母さんの容態が悪化して、僕もずっとあわただしくて。
でも、母さんの最後のお使いを終えたボクは・・・今日からなにをしたらいいんだろう?
身寄りが無い人の葬儀に来る人など居ないから、明日の朝がくれば母さんは冷たい土へ埋められてしまう。
ステンドグラスの月明かりが眩しい教会の隅で、ずっとしゃがみこんでいた。
石畳の冷たさも、息が白くなる程の寒さも、母さんとはもう分かち合えない。
「母さん・・・・僕は、一人だよ」
棺に向かって思いを呟くと、ボロボロと涙が零れる。
死んでしまったとはいえ、母さんの前で涙を流すのなんて何年振りだろう。
心配をさせぬ様に暮らしてきた。
僕を育てる為に必死だった事を知っていたから。
実際最後に僕の手を掴んだ母の手は、長年朝から晩まで働きづめだったせいで硬くて、ひび割れをいくつも起こしていた。

棺の安置されている台座にもたれて、母さんとの思い出を手繰る。
具なんてほとんど無い暖かなスープ、寝る前に本を読んでくれた事、大きくなってからも母さんはいつも頭を撫でてくれた。
僕は与えられるばかりで、まだなにも返せていなかったんだ。
棺の中にすら一輪だけしか、母さんの好きだった百合を入れられなかった。
また涙が流れて、そこで僕は意識を失った。
思えばちゃんと何かにもたれたのなんていつぶりだろうか・・・・

そして不思議な夢を見た。
「ここへ来ては駄目です」
母さん?
「私は君達と生活したいんだ」
誰・・・・男の人?優しい声だ。
「立場が違いますわ・・・貴方が望んでも・・・帰ってください!」
悲しそうな、声。
「君の好きな花を持ってきたんだ!せめて、せめてこれだけでも!!」
あ・・・この匂い・・母さんの好きな。
「・・・ッ・・・・私だって本当は・・・・」
泣かないで・・母さんの好きな百合の花だよ・・・・
「・・・ありがとう」

歌と、甘い香りと自分の涙が溢れた感覚で眼を覚ました僕の眼に見えたのは、教会を埋めるような百合と聖歌隊の歌だった。
周りを見回すと、棺の横で初老の紳士が母さんの手を撫でていた。
「君は・・・・本当に強情だよ」
優しい、どこかで聞いた声がした、母さんの知り合いだろうか。
初老の紳士の後ろに立つ燕尾服の眼鏡を掛けた男性が僕を見る。
「旦那様、起きられた様でございます」
紳士はこちらを見ると、眼を細めて頭を下げる。
「や、やぁ・・・目が覚めたかい?」
「は、はい」
少しぎこちなく話されて、こちらまで驚愕してしまう。
立とうとすると自分にコートが掛けられている事に気付いてつい止まった。
「あ、これ・・・」
「気持ちよく寝ていた様だったが、ここは寒いからね、私のコートを掛けさせてもらったよ」
確かに、紳士はこの時期出歩くには少し薄着だ。
「あ、ありがとうございます!」
すぐに立ち上がってたたみ、差し出しても、じっと眼を見られたままで僕は固まってしまう。
「本当にそっくりだ」
「え・・・あの?」
母さんの顔を見る彼の眼は、まるで少年の様だった。
「棺の花、君が用意してくれたんだね」
「あ、はい・・・・百合が好きで・・・でも、ご存知ですよね・・・」
飾られた花を見て、棺を覗くと、母さんは僕の用意した花しか持って居なかった。
「あの、母の知り合いでしたら・・・よかったら、花を・・・」
紳士はゆっくりと首を振った。
「いや・・私にその資格は無いよ」
「え・・・?」
そこで扉の方から大きな声が響く。
「鈴音ぇーーーーっ!牧師が着いたぜー!!」
すると眼鏡を掛けた執事が振り返って呆れたように言った。
「桜木君、教会では静かに・・・・・・・・・・入ってもらいなさい」

母さんとのお別れの最中、紳士は神妙な面持ちで、最後に母さんを土に埋める作業も一緒に行ってくれた。
最後に土を掛ける間際、僕は教会から百合の花を取ってきて紳士に手渡した。
「棺の外なら、いいんじゃないでしょうか?」
一瞬眼を丸くして、少し涙ぐむ紳士はきっと母さんと深い仲だったのだろう。
僕も泣きながら思った。

全てが終わった時にはもう夕方で、帰る場所の無い僕に彼は切り出した。
「君のお母さんとは古い知り合いでね、手紙をもらってすぐ来たんだ」
鈴音という執事が後ろで僕が出した手紙を持っていた。
「間に合わなかったが・・・最後だけでも顔を見れて良かった」
「本当なら、間に合ったのかもしれません」
僕は思わず呟いていた。
「僕、ずっと母さんの面倒を看てて、手紙をすぐに出せなくて・・・母さんだって、アナタに会いたかったかもしれないのに」
なぜ、今まで関わりも無かった人にこんな風に言ったのか、自分でもよくわからず、ボロボロと流れる涙が止まらい。
だけど紳士は、僕の頭をそっと彼は撫でてくれた。
「・・・ありがとう、そんな風に思ってくれて」
風に乗って薫る彼の匂いは、なぜかとても懐かしかった。

「僕、一人で大丈夫です、これからは・・・」
ひとしきり泣いて、母が病気になってからの数ヶ月の気持ちが少し晴れた気がした。
「君は、暮らすアテはあるのかい?」
「いえ、でも・・・・」
紳士が手紙を取った。
「君がやりたい事が見つかるまで、預かって欲しい・・・・君のお母さんからの伝言だよ」
「え!?」
「私の邸は・・・常に人手不足でね、今も執事を募集している」
よく見ると教会の外の車の脇に更に執事が数人立っていた。
「よかったら・・・来ないかい?君を一人にしない様に・・・頼まれたんだ」
思えば、この時、なぜ僕は頷いたのだろう。
母の言葉が、風に聞こえた気がした。
「一人じゃない」と。

コメント(2)

初めまして、なかなか趣のある作品ですね。何だか昔見た、ルキノ・ヴィスコンティの映画の一場面のようと申しますか、吉屋信子(少女小説の大家)の男性版
と申しますか・・・・
スサノオ!さん
コメントありがとうございます!作家さんに伝えておきますね!!!

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