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老女がたりコミュの歌舞伎座の友人

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歌舞伎のチケットを手に入れるために「都民劇場」というのに入っている。

そこでは自分の希望する日時を申告するのだが、申告し忘れても向こうが決めた日時のチケットが送られてくる。

第5希望まで日時を記入するのは面倒だし、申告し忘れたほうが席が良かったりするので、わたしは確信犯的に申告していない。

すると同じように申告しなかったひとと歌舞伎座で席が並ぶことになる。

なんどか隣になったひとと顔なじみになって言葉を交わすことになった。

言葉を交わしてみれば、その上品そうな老婦人はじつに饒舌に歌舞伎を語る。

「若いときは母や姉ときたものです。今は夫もなくなったのでひとりできています」というその人の名をわたしは知らない。

会えればうれしいし、もう二度と会えなくてもそれはそれでいい。

互いの住まいも来し方も話したことはないが、それでも歌舞伎の話は弾む。

「歌右衛門さんがねえ、むかし、インタビュー受けて、『うちの孫は利発でございます』なんて言ったのよ」

「芝翫さんも早く親を亡くして、苦労したのよね。若くして娘道成寺なんて踊ったりしたもんだから、まわりのひとがやっかんで、引き抜きの着物に細工されたりしたそうよ。

昔はそういうことがよくあったのよ。楽屋に置いといちゃ心配だからって、毎日リアカーに乗せて運んでたそうよ」

「吉右衛門さんは昔ふくのじょうっていってね、体が弱かったのよ。それがりっぱになってねえ。お父さんそっくり」

わたしが歌舞伎に全く縁のなかった時代のことを聞く。へえーへえーと感心すると、いよいよ口は滑らかになる。

すると時に話は歌舞伎を離れる。

「わたしが子育てで忙しい頃に夫は付き合いだと称してマージャンばかりしてたんですもの、わたしだって楽しまなくっちゃね。

今はマージャンも流行らなくなったけど、昔はなにかというとマージャンでしたよ。

そういえば、夫の葬儀にマージャン屋のご主人が来られて、驚きましたよ」

「夫の葬儀には日本橋のあんみつやのひとが来てね、あれは誰かしらて思ってたら、向こうがそう名乗ったのよ。驚いちゃった。

会社のひとを連れて行ってたらしいのよね。孫が好きだからってしょっちゅうおみやにわらび餅買って帰ってたのよね。たくさんおまけをつけてもらったりしてたから、気前のいい店だわって思ってたのよ」

幕が上がれば盛り上がった話もそこで終わる。

始まった舞台「鳴神」を見ながら、マージャン屋やあんみつやがやってくる葬儀のことを思った。

そして、友人の父親の葬儀に銀座の高級クラブのママが並んだと聞いたことを思い出した。そういう粋筋の雰囲気は喪服を着ていても漂うらしい。

葬儀はある意味人生の答案用紙のようでもあるなと思う。参列するひとの顔ぶれで、故人が何をなして、だれとどんなふうに付き合ってきたのかが垣間見える。

お寺で生まれた武田泰淳の葬儀で、幼馴染のお坊さんが泣きながらお経をあげていたそうだ。そんなお坊さんの姿を初めてみたと百合子さんが書いていた。

自分は出席することはできない自分の葬儀をこっそりのぞいて見たい。さてさていったいどんなひとがきてくれるのだろう。

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