深夜過ぎのこと。隣の妹の部屋から声が聞こえてきた。
いつも聴いていたラジオを消した途端に聞こえてきたのだ。
「っあー っあー」
妹はまだ中一だ。まさか……でも……いやこれは……
俺は決してシスコンではないが、妹は正直可愛いと思う。そういえばこないだ男子に告白されたとか言っていたっけ……兄の知らぬ間に密かに大人の階段を……
待て待て待て。落ち着け俺。
……とニヤケていたのは一瞬のこと。何度も繰り返すその声には感情が乗っておらず、まるで作業とかトレーニングとかのよう。
これはひょっとして身体を鍛えている？
完全に気になってしまった俺は悪いと思いつつも自室を出て、妹の部屋の前に立った。
ドアに耳をあてる。
壁越しに聞いていたよりもドア越しのほうが幾分か鮮明に聞こえる。
「くまー くまー」
熊？ それともまだ聞き間違えているのか？ しかし抑揚のない声。呪文みたいな……
なんか変なコトじゃないだろうな。
そっとドアノブに手をそえる。わが家は部屋に鍵などついていない。これを回せば真実への扉が開かれる……
こ、これは兄としてだな。家族を心配してのっ！ 決してやましい気持ちではっ！
それでもドアノブを可能な限り静かに回す俺チキン。
指に伝わる感触からドアノブを回しきったのが判る。
ちょっとだけ。ちょっとだけな……
……キィ
のわー！ なんで音が出る！ 慌ててドアノブから手を離し足音立てないように自室へて戻りさっと部屋に戻る。この間二秒。
心臓が早鐘のように打つ……だがその鼓動が収まるにつれ、また妹の声が聞こえてきた。
「くまー くまー」
ちょっと怖くなる。今度は心配100%で再び妹の部屋の前へ。
「くまー くまー」
扉はわずかに開いたまま。
つばを飲み込み、俺はその隙間からそっと覗いてみた。
妹はベッドに座りこんでいた。こちらには背を向け、しきりに右手を動かしている。その右手の指先には何かをつまんでいるように見える……針？
「くまー くまー」
縫って縫って。
「くまー くまー」
縫って縫って……としか見えない。そういえば、妹はテディベアが好きだ。自分で作っているのか？
その割にはあまり楽しそうに見えないが……ま、いいか。ひとまず安心した俺は部屋に戻り、そのまま寝てしまった。
翌日、高校から帰ってきた俺を待ち受けていたのは、家の門の前で物凄い張り詰めた顔の母親だった。
ちょ、俺なんかやったっけ？
ビクつく俺の手を取った母親は無言のまま通りかかったタクシーへと乗り込……これ、通りかかりじゃなく呼び出したのか？
「○○病院まで」
それ以外は一言も発しない母親の握りしめる手が痛い。
10分もかからずに病院へ到着して、俺たちは手術室の前へと通された。妹が高い場所から落下し、いま手術を受けていると聞かされる。
正直、実感がわかない。自分の家族がこの扉の向こうで生死の境をさ迷っているなんて言われても。
じっと待つ時間が重なれば重なるほど、不安もまたその濃さを増す。と同時に妹の、小さな頃からの仕草や表情がたくさん浮かんでくる。
自分でも意外なくらい、妹のことを大切に想っているのを自覚する。
二時間後、妹の手術は無事に終了した。落ちる途中で樹にひっかかったおかげで勢いが消され、しかも頭から落ちずに済んだのではないかとのこと。
助かりはした。
だが、妹の落ちた場所が中学校の校舎近くと聞いて、俺の中に黒い塊が産まれた。
学校で飛び降り、だぜ？
誰かが妹を追い込んだ。それしかない。
まだ意識の戻らない妹の寝顔の前で、俺は復讐を決意した。
その夜、中学時代の部活の後輩に電話した。俺に懐いていた信用できるやつで、そいつの妹とうちの妹とは同じクラスだったはず。
そしてわかったこと。妹の物がなくなることが実は最近何度かあったらしい。妹はそれに対して何も言わない。俺達家族ばかりか、学校の教師やクラスメイトにも。ただ小さく「あ」と言って、後はそれを見なかったように過ごしていたという。後輩の妹もなにかされているのかなと思いつつたずねられないでいたそうだ。
あと、とある女子生徒に対してだけはあからさまに避けようとしていた、と。その相手の子はすごい美人で有名な子らしいのだが、いじめに加担するような子には思えないとのこと。
……でも、避けるというのには何か理由があるはずだよな。他に手がかりはないものか……
そういえばと妹が告白されたと言っていた男の名前を出してみた。
「あ、サッカー部のホープっすね。イケメンで勉強も出来て、多分一年で一番人気の男子っすよ。そういえば……」
「そういえば？」
「先輩の妹ちゃんが怯えてるっていう御園よりか、そのホープ君と噂になっているとかいないとか」
「なぬ！」
俺の中で点と点でしかなかったものが一つの明確なルートとしてつながってゆく。
「さんきゅーな」
電話を切り、子機をリビングへ戻しに行く途中、妹の部屋のドアが空いているのが気になった。昨日の夜は元気にテディベアを作っていた妹……覚えていろよ御園よりか……。
妹の部屋のドアを閉めてあげようと部屋の前に立った時、俺は何故か視線を感じた。部屋の中から。
俺がその視線の主を探すと、くりくりっとした目がそこにあった。くまのぬいぐるみが居たのだ。
確かこれ……九州のどこだかの地方のゆるキャラとかってやつだろ。くまえもんみたいな名前の。そいつがベッドの上に腰かけて俺を見ていたのだ……昨晩縫っていたのはこれ？
でも何かが変だ。俺はそのぬいぐるみに呼ばれるようにして妹の部屋の中に入ってしまった。
違和感の理由はすぐにわかった。ぬいぐるみの腹部にたくさんの縫いあとが見えたのだ。そして、縫いつけられた紙。
俺はそのくまえもん(仮)を手に取った。
腹部には針を何度通したか分からぬほど赤い糸がびっしりと縫いこまれている。その全ての糸が紙を貫いていた。いや、紙ではなく写真か。これはうちの妹がやったこと、なのか？ 尋常じゃあない。……それほど追い込まれていたってことなのか？
俺はその写真が気になって糸を解くことにしてみた。
数十分後、穴だらけでボコボコになった写真を一枚、手に入れることが出来た。女の子が写っている？ 髪型はおさげかな？ なんとなく雰囲気は残っているものの正直穴だらけで顔を判別するのは無理に等しい。何気なく裏返したそのとき、俺は腕の毛穴が全部開いた。
穴が空きはしているがなんとか読むことが出来る。写真の裏に大きく書かれた『御園よりか』という文字を。
ビンゴか。やはりこいつか。
犯人を見つけた俺が妹の部屋から出ようとしたとき。妹の机の上に茶色い封筒を見つけた。しかも中から何かが出ている。
すぐさま手に取る……予想通り写真が入っている。おさげの女の子。背景から入学してすぐの頃の遠足のものだと分かる。俺も中一の時に行った場所。１、２、３……全部同じ子の写真。確かに中一とは思えないほど大人びた美人だ……こいつが御園よりかなのか。
翌日。
俺は高校を休み準備をした。
そして中学校の放課後、帰宅する御園よりかの跡をつける。家と帰宅ルートの確認。今日はこれだけ。だが、よりかの住んでいる場所を見て復讐の方法は決まった。
その翌日。
帰宅するよりかがマンションに入る時、爽やかに挨拶しながら着いてゆく。ポケットの中の鍵をまさぐるフリをしながら。
１４階建てのマンション。よりかは案の定挨拶を返し鍵を開ける。俺はよりかに続いて入る。こんな大きなところで住人の顔を全部覚えているわけないよな。そのままエレベーターホールまで一緒に行き、エレベーターへ。ここからが重要だ。昨日はどこの階に住んでいるかまでは分からなかったから。
乗ってから最上階の１４階を押す。よりかは……１２階……よし。ツイてる。けっこういい。
上へと昇るエレベーターに途中階から乗る奴など居ない。１２階についてよりかは軽くお辞儀をして出ようとした時、俺はその手をぐいっと引っ張った。びっくりしているその口にくまえもん(仮)をおしつけて抱き寄せ、閉ボタンを連打する。中学一年の女子と高校一年の男子。この体格差を活かし俺は悠々とよりかを１４階まで連れて行った。この階ともなるとけっこう風がある。もがくよりかの耳元で騒ぐと殺すぞと囁く。涙を浮かべてやがる。いい気味だ。お前が俺の妹にしたことに対して懺悔させてやる。
くまえもんを口に押し当てられているせいかよりかの声はくぐもって聞こえない。
「お前のせいで俺の妹は……」
外廊下の手すりからよりかを突き落とそうとするが、いじめっ子のクセに暴れやがる。
「いじめた報いを受けるんだよ！」
よりかは必死にもがいてやがる。首を振り、手足をバタつかせ。くまえもんを口におしつけたまま片手で持ち上げるのはなかなか難しい。人間ってこんなに重いのか。
「いい加減にしろ！ 俺の妹を突き落としたくせに！」
つい大きな声が出てしまったせいか、少し離れたところのドアが開き、中からオバサンが顔を出す。ヤバイ。こんなに手間取る予定じゃなかったのに……
俺はくまえもんを捨て、両手でよりかをつかむと、床を蹴って手すりの向こう側へ飛び出した。
地面が遠い。
「いやぁぁぁぁぁ！」
よりかの声、か？ その声がすごい速度で遠くなる。ぐいぐい離れてゆく１４階のよりか。俺の手には、よりかの髪と上着だけが。それが最期の光景。
（コメントへ続く）
いつも聴いていたラジオを消した途端に聞こえてきたのだ。
「っあー っあー」
妹はまだ中一だ。まさか……でも……いやこれは……
俺は決してシスコンではないが、妹は正直可愛いと思う。そういえばこないだ男子に告白されたとか言っていたっけ……兄の知らぬ間に密かに大人の階段を……
待て待て待て。落ち着け俺。
……とニヤケていたのは一瞬のこと。何度も繰り返すその声には感情が乗っておらず、まるで作業とかトレーニングとかのよう。
これはひょっとして身体を鍛えている？
完全に気になってしまった俺は悪いと思いつつも自室を出て、妹の部屋の前に立った。
ドアに耳をあてる。
壁越しに聞いていたよりもドア越しのほうが幾分か鮮明に聞こえる。
「くまー くまー」
熊？ それともまだ聞き間違えているのか？ しかし抑揚のない声。呪文みたいな……
なんか変なコトじゃないだろうな。
そっとドアノブに手をそえる。わが家は部屋に鍵などついていない。これを回せば真実への扉が開かれる……
こ、これは兄としてだな。家族を心配してのっ！ 決してやましい気持ちではっ！
それでもドアノブを可能な限り静かに回す俺チキン。
指に伝わる感触からドアノブを回しきったのが判る。
ちょっとだけ。ちょっとだけな……
……キィ
のわー！ なんで音が出る！ 慌ててドアノブから手を離し足音立てないように自室へて戻りさっと部屋に戻る。この間二秒。
心臓が早鐘のように打つ……だがその鼓動が収まるにつれ、また妹の声が聞こえてきた。
「くまー くまー」
ちょっと怖くなる。今度は心配100%で再び妹の部屋の前へ。
「くまー くまー」
扉はわずかに開いたまま。
つばを飲み込み、俺はその隙間からそっと覗いてみた。
妹はベッドに座りこんでいた。こちらには背を向け、しきりに右手を動かしている。その右手の指先には何かをつまんでいるように見える……針？
「くまー くまー」
縫って縫って。
「くまー くまー」
縫って縫って……としか見えない。そういえば、妹はテディベアが好きだ。自分で作っているのか？
その割にはあまり楽しそうに見えないが……ま、いいか。ひとまず安心した俺は部屋に戻り、そのまま寝てしまった。
翌日、高校から帰ってきた俺を待ち受けていたのは、家の門の前で物凄い張り詰めた顔の母親だった。
ちょ、俺なんかやったっけ？
ビクつく俺の手を取った母親は無言のまま通りかかったタクシーへと乗り込……これ、通りかかりじゃなく呼び出したのか？
「○○病院まで」
それ以外は一言も発しない母親の握りしめる手が痛い。
10分もかからずに病院へ到着して、俺たちは手術室の前へと通された。妹が高い場所から落下し、いま手術を受けていると聞かされる。
正直、実感がわかない。自分の家族がこの扉の向こうで生死の境をさ迷っているなんて言われても。
じっと待つ時間が重なれば重なるほど、不安もまたその濃さを増す。と同時に妹の、小さな頃からの仕草や表情がたくさん浮かんでくる。
自分でも意外なくらい、妹のことを大切に想っているのを自覚する。
二時間後、妹の手術は無事に終了した。落ちる途中で樹にひっかかったおかげで勢いが消され、しかも頭から落ちずに済んだのではないかとのこと。
助かりはした。
だが、妹の落ちた場所が中学校の校舎近くと聞いて、俺の中に黒い塊が産まれた。
学校で飛び降り、だぜ？
誰かが妹を追い込んだ。それしかない。
まだ意識の戻らない妹の寝顔の前で、俺は復讐を決意した。
その夜、中学時代の部活の後輩に電話した。俺に懐いていた信用できるやつで、そいつの妹とうちの妹とは同じクラスだったはず。
そしてわかったこと。妹の物がなくなることが実は最近何度かあったらしい。妹はそれに対して何も言わない。俺達家族ばかりか、学校の教師やクラスメイトにも。ただ小さく「あ」と言って、後はそれを見なかったように過ごしていたという。後輩の妹もなにかされているのかなと思いつつたずねられないでいたそうだ。
あと、とある女子生徒に対してだけはあからさまに避けようとしていた、と。その相手の子はすごい美人で有名な子らしいのだが、いじめに加担するような子には思えないとのこと。
……でも、避けるというのには何か理由があるはずだよな。他に手がかりはないものか……
そういえばと妹が告白されたと言っていた男の名前を出してみた。
「あ、サッカー部のホープっすね。イケメンで勉強も出来て、多分一年で一番人気の男子っすよ。そういえば……」
「そういえば？」
「先輩の妹ちゃんが怯えてるっていう御園よりか、そのホープ君と噂になっているとかいないとか」
「なぬ！」
俺の中で点と点でしかなかったものが一つの明確なルートとしてつながってゆく。
「さんきゅーな」
電話を切り、子機をリビングへ戻しに行く途中、妹の部屋のドアが空いているのが気になった。昨日の夜は元気にテディベアを作っていた妹……覚えていろよ御園よりか……。
妹の部屋のドアを閉めてあげようと部屋の前に立った時、俺は何故か視線を感じた。部屋の中から。
俺がその視線の主を探すと、くりくりっとした目がそこにあった。くまのぬいぐるみが居たのだ。
確かこれ……九州のどこだかの地方のゆるキャラとかってやつだろ。くまえもんみたいな名前の。そいつがベッドの上に腰かけて俺を見ていたのだ……昨晩縫っていたのはこれ？
でも何かが変だ。俺はそのぬいぐるみに呼ばれるようにして妹の部屋の中に入ってしまった。
違和感の理由はすぐにわかった。ぬいぐるみの腹部にたくさんの縫いあとが見えたのだ。そして、縫いつけられた紙。
俺はそのくまえもん(仮)を手に取った。
腹部には針を何度通したか分からぬほど赤い糸がびっしりと縫いこまれている。その全ての糸が紙を貫いていた。いや、紙ではなく写真か。これはうちの妹がやったこと、なのか？ 尋常じゃあない。……それほど追い込まれていたってことなのか？
俺はその写真が気になって糸を解くことにしてみた。
数十分後、穴だらけでボコボコになった写真を一枚、手に入れることが出来た。女の子が写っている？ 髪型はおさげかな？ なんとなく雰囲気は残っているものの正直穴だらけで顔を判別するのは無理に等しい。何気なく裏返したそのとき、俺は腕の毛穴が全部開いた。
穴が空きはしているがなんとか読むことが出来る。写真の裏に大きく書かれた『御園よりか』という文字を。
ビンゴか。やはりこいつか。
犯人を見つけた俺が妹の部屋から出ようとしたとき。妹の机の上に茶色い封筒を見つけた。しかも中から何かが出ている。
すぐさま手に取る……予想通り写真が入っている。おさげの女の子。背景から入学してすぐの頃の遠足のものだと分かる。俺も中一の時に行った場所。１、２、３……全部同じ子の写真。確かに中一とは思えないほど大人びた美人だ……こいつが御園よりかなのか。
翌日。
俺は高校を休み準備をした。
そして中学校の放課後、帰宅する御園よりかの跡をつける。家と帰宅ルートの確認。今日はこれだけ。だが、よりかの住んでいる場所を見て復讐の方法は決まった。
その翌日。
帰宅するよりかがマンションに入る時、爽やかに挨拶しながら着いてゆく。ポケットの中の鍵をまさぐるフリをしながら。
１４階建てのマンション。よりかは案の定挨拶を返し鍵を開ける。俺はよりかに続いて入る。こんな大きなところで住人の顔を全部覚えているわけないよな。そのままエレベーターホールまで一緒に行き、エレベーターへ。ここからが重要だ。昨日はどこの階に住んでいるかまでは分からなかったから。
乗ってから最上階の１４階を押す。よりかは……１２階……よし。ツイてる。けっこういい。
上へと昇るエレベーターに途中階から乗る奴など居ない。１２階についてよりかは軽くお辞儀をして出ようとした時、俺はその手をぐいっと引っ張った。びっくりしているその口にくまえもん(仮)をおしつけて抱き寄せ、閉ボタンを連打する。中学一年の女子と高校一年の男子。この体格差を活かし俺は悠々とよりかを１４階まで連れて行った。この階ともなるとけっこう風がある。もがくよりかの耳元で騒ぐと殺すぞと囁く。涙を浮かべてやがる。いい気味だ。お前が俺の妹にしたことに対して懺悔させてやる。
くまえもんを口に押し当てられているせいかよりかの声はくぐもって聞こえない。
「お前のせいで俺の妹は……」
外廊下の手すりからよりかを突き落とそうとするが、いじめっ子のクセに暴れやがる。
「いじめた報いを受けるんだよ！」
よりかは必死にもがいてやがる。首を振り、手足をバタつかせ。くまえもんを口におしつけたまま片手で持ち上げるのはなかなか難しい。人間ってこんなに重いのか。
「いい加減にしろ！ 俺の妹を突き落としたくせに！」
つい大きな声が出てしまったせいか、少し離れたところのドアが開き、中からオバサンが顔を出す。ヤバイ。こんなに手間取る予定じゃなかったのに……
俺はくまえもんを捨て、両手でよりかをつかむと、床を蹴って手すりの向こう側へ飛び出した。
地面が遠い。
「いやぁぁぁぁぁ！」
よりかの声、か？ その声がすごい速度で遠くなる。ぐいぐい離れてゆく１４階のよりか。俺の手には、よりかの髪と上着だけが。それが最期の光景。
（コメントへ続く）
|
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コメント(17)
（続き）
数週間後。
「ね、りょーちゃん、もう大丈夫なの？」
「うん、すっかり。心配かけてごめんね」
「でもすごいじゃん。屋上から飛び降りたんでしょ？」
「えへ。ナイショだよ。靴は屋上に置いといたけどさ、そっからビニール袋はいて二階まで戻ってさ。飛んだのはそこからなの」
「うわーかっこいい！ スタントマンみたーい！」
「えへ。将来は映画に出れるかしら」
「出れる出れる！ りょーちゃんなら女優になれるって絶対！ そしたらジャニーズの誰でもいいからサインもらってきて！」
「うんいいよー！」
「そういえばさ、しゅん君とは最近どーなの？」
「あー。引っ越してから全然会ってない。なんか怖がっちゃってダサいんだもん。ちっちゃいオトコだよね。それにさ、思っちゃったんだ。サッカー選手より野球選手のほうが年棒たかいでしょ？」
「かしこーい。でもそれじゃ、よりかちゃん病院送りにまでしなくてもよかったかもね。しゅん君と付き合うためなんでしょ？」
「えへ。あんなことになるなんて予想外だったけれどね。試しのつもりだったんだけど本当に効くんだ、おまじない」
「でも怖くない？ だってお兄さんも……」
「あんな酷いやつ兄じゃないって。よりかでうまくいったら次のターゲットあいつにするつもりだったもん。だってさ、こないだ私のお気に入りのシュークリーム食べるんだよ。勝手に。死んじゃってくれてラッキーよ！ お菓子独り占めできるもん」
「そうなんだー。でもちょっとかっこよくなかった？」
「じょーだん言わないで。呪いの方法、教えないよ？」
「あーうそうそごめん。かっこわるいよ。死んで当然……で、方法って？」
「えへ。まずねー。呪いの相手の写真の裏に名前書いて、あと針と赤い糸とくまのぬいぐるみ用意するの」
「くまじゃないとダメ？ うち、うさぎとねこしかない」
「くまじゃないとダメ。だって苦魔模無だもん」
「くまもん？」
「く、ま、も、む！ 苦しいのくに、魔法のま、それから模写のもに、無くなるでむ」
「くまもむ、ね」
「そうそう。でね、自分を苦しめる相手に魔法をかけるように念じながら、苦魔ー苦魔ーって唱えながら赤い糸でぬいぐるみに写真を縫い付けてゆくの」
「苦魔ー苦魔ーね」
「そ。全部で１００回よ」
「うわー。数間違えそう」
「だいじょーぶ。１０回縫うごとに段を変えたら間違えない」
「わ、りょーちゃん頭いい！ やっぱ私、りょーちゃん好き。遠くに行って寂しい」
「私ものりちゃん好きー。なんかさ、パパったらあの馬鹿兄があんなことしたからもうここには居られないとか言ってさ」
「でも、りょーちゃんのおばーちゃんのとこ、海近いんでしょ？ 夏休みに遊びに行っていい？」
「おいでおいでー！ その時までに野球部のかっこいい彼氏見つけとくー！」
「私も苦魔模無試してみるねー！ 英語むずかしくてわかんないからあのアゴ割れ先生呪ってみようかな」
「やるじゃんやるじゃん。きっとうまくいくよ！」
「あ、はい……うん……りょーちゃん、ママがもう寝なさいって」
「わかった。のりちゃんおやすみー」
「おやすみー」
（終わり）
数週間後。
「ね、りょーちゃん、もう大丈夫なの？」
「うん、すっかり。心配かけてごめんね」
「でもすごいじゃん。屋上から飛び降りたんでしょ？」
「えへ。ナイショだよ。靴は屋上に置いといたけどさ、そっからビニール袋はいて二階まで戻ってさ。飛んだのはそこからなの」
「うわーかっこいい！ スタントマンみたーい！」
「えへ。将来は映画に出れるかしら」
「出れる出れる！ りょーちゃんなら女優になれるって絶対！ そしたらジャニーズの誰でもいいからサインもらってきて！」
「うんいいよー！」
「そういえばさ、しゅん君とは最近どーなの？」
「あー。引っ越してから全然会ってない。なんか怖がっちゃってダサいんだもん。ちっちゃいオトコだよね。それにさ、思っちゃったんだ。サッカー選手より野球選手のほうが年棒たかいでしょ？」
「かしこーい。でもそれじゃ、よりかちゃん病院送りにまでしなくてもよかったかもね。しゅん君と付き合うためなんでしょ？」
「えへ。あんなことになるなんて予想外だったけれどね。試しのつもりだったんだけど本当に効くんだ、おまじない」
「でも怖くない？ だってお兄さんも……」
「あんな酷いやつ兄じゃないって。よりかでうまくいったら次のターゲットあいつにするつもりだったもん。だってさ、こないだ私のお気に入りのシュークリーム食べるんだよ。勝手に。死んじゃってくれてラッキーよ！ お菓子独り占めできるもん」
「そうなんだー。でもちょっとかっこよくなかった？」
「じょーだん言わないで。呪いの方法、教えないよ？」
「あーうそうそごめん。かっこわるいよ。死んで当然……で、方法って？」
「えへ。まずねー。呪いの相手の写真の裏に名前書いて、あと針と赤い糸とくまのぬいぐるみ用意するの」
「くまじゃないとダメ？ うち、うさぎとねこしかない」
「くまじゃないとダメ。だって苦魔模無だもん」
「くまもん？」
「く、ま、も、む！ 苦しいのくに、魔法のま、それから模写のもに、無くなるでむ」
「くまもむ、ね」
「そうそう。でね、自分を苦しめる相手に魔法をかけるように念じながら、苦魔ー苦魔ーって唱えながら赤い糸でぬいぐるみに写真を縫い付けてゆくの」
「苦魔ー苦魔ーね」
「そ。全部で１００回よ」
「うわー。数間違えそう」
「だいじょーぶ。１０回縫うごとに段を変えたら間違えない」
「わ、りょーちゃん頭いい！ やっぱ私、りょーちゃん好き。遠くに行って寂しい」
「私ものりちゃん好きー。なんかさ、パパったらあの馬鹿兄があんなことしたからもうここには居られないとか言ってさ」
「でも、りょーちゃんのおばーちゃんのとこ、海近いんでしょ？ 夏休みに遊びに行っていい？」
「おいでおいでー！ その時までに野球部のかっこいい彼氏見つけとくー！」
「私も苦魔模無試してみるねー！ 英語むずかしくてわかんないからあのアゴ割れ先生呪ってみようかな」
「やるじゃんやるじゃん。きっとうまくいくよ！」
「あ、はい……うん……りょーちゃん、ママがもう寝なさいって」
「わかった。のりちゃんおやすみー」
「おやすみー」
（終わり）
> ゆあさん
ゆあ「ねぇ、そろそろ起きてよー」
熊「……あー……ああ……もうちょっと寝かせてくれよぉ」
ゆあ「今日は買物付き合ってくれる約束だよ！」
熊「あと５分……ごふーん」
ゆあ「もう！」
ぺちぺち。
ゆあ「あれ、またちょっと増えた？」
むにゅ。
熊「そんなとこつまむなよ」
ゆあ「うひひ。揉んでやる！」
むにゅむにゅもにゅもにゅ。
熊「……ぬぁ……うー……おおおおお」
ゆあ「ちょ」
熊「起きたよ」
ゆあ「一部だけかい！」
……こんなやつなら許されたのでしょうかｗ
> かぶせいさん
ダイジョウブダヨ
ボクハカブセイノミカタダヨ
カブセイヲダマスワルイオンナカラ
マモッテアゲル……
ｷﾞﾗﾘ
ゆあ「ねぇ、そろそろ起きてよー」
熊「……あー……ああ……もうちょっと寝かせてくれよぉ」
ゆあ「今日は買物付き合ってくれる約束だよ！」
熊「あと５分……ごふーん」
ゆあ「もう！」
ぺちぺち。
ゆあ「あれ、またちょっと増えた？」
むにゅ。
熊「そんなとこつまむなよ」
ゆあ「うひひ。揉んでやる！」
むにゅむにゅもにゅもにゅ。
熊「……ぬぁ……うー……おおおおお」
ゆあ「ちょ」
熊「起きたよ」
ゆあ「一部だけかい！」
……こんなやつなら許されたのでしょうかｗ
> かぶせいさん
ダイジョウブダヨ
ボクハカブセイノミカタダヨ
カブセイヲダマスワルイオンナカラ
マモッテアゲル……
ｷﾞﾗﾘ
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