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自作小説を発表〜!コミュの『受け継がれる思い』

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「なんで、ママのお雛様って、お内裏様とお雛様だけなの?」
「しかも、古めかしいし、汚れてるし・・・」
娘の美帆が、恨めしそうに言った。
どうも、友達の家の雛人形を見てきたようだ。

「おばあちゃんのだからね」
「ふぅ〜ん」
「うん」


不思議そうな眼差しでお雛様を眺める美帆。

そう。私も美帆と同じころ、母に同じことを聞いた。
母も、笑顔で「うちは、これでいいのよ」って、言われたものだ。

その時は、そんなもんかと思っていたが、この雛人形を母から
渡されたとき、その理由を聞かされた。

母も、祖母から聞いたという。



   昭和20年3月10日未明。
   風が強かった夜。
   いきなり下町のほうから爆音。そして轟音。
   またか!と、家から飛び出し夜空を見つめる人々。
   そして、こちらにも伝わる地響き。

   祖母は、幼かった母の手を引き、近所の人たちと避難した。
   頭上を飛び去る爆撃機。
   2時間以上にも渡る空襲。燃え尽くされる街並み。
   祖母たちは、一睡もとることが出来ずに朝を迎えた。

   翌日、まだくすぶり続けている街並みの中を
   家のあった場所へ足早に歩く。

   焼け焦げた場所を、いろいろ探してみると、焼け跡の下から
   母のためにあつらえた雛人形が、お内裏様とお雛様だけ出てきた。

   そう。物資不足で贅沢は敵とされた時代。
   そんなときでも、母のために用意したお雛様。

   祖母は、すすを払い大事そうに抱え上げた。


   やがて戦争が終わって、祖父も復員して来たが
   まだまだ、生活は苦しかった。

   毎日の食事を用意するのが精一杯。

   何度も、この焼け残った雛人形をお金に換えて
   食べ物を買おうと思ったが、祖母は思い留まった。

   ”生き残った証として、残しておこう”
   ”平和になったら、また飾ろう”と。



   戦後の混乱も落ち着き、もう世の中が戦後では無くなったころ
   母の結婚が決まった。
   お嫁に行くときに祖母が持たせてくれたそうだ。

   そして、私が産まれ、このお雛様を毎年見て育った。

   母も、私がお嫁に行くときに持たせてくれた。
   この話とともに。

   きっと、私も美帆がお嫁に行くときに持たせることだろう。


「ママ!雛あられは??」
「宿題が終わってからね」
「もう、宿題ないもん」
「あら、そう・・・」
「えへへへ」
「もう!ちゃんと手を洗って食べなさいよ!」
「は〜い!」
美帆は、言い終わらないうちに洗面所へ走って行った。



 私は、教科書でしか「戦争」を知らない。
 しかし、母から聞いたこの話を、美帆が判る歳になったら
 聞かせてあげよう。



まだ、地球上から争いは絶えない。
そして、武力を持つ国々も。



半世紀以上の時を越えて、今ここに並べられているお雛様。
表情は、いつまでも微笑を絶やさぬままに。

コメント(2)

nanaさん

いつでもその気持ちがあれば大丈夫だよね。

まだまだ止ったなんて思わないでね。

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