日々の音色(物語系)コミュの少食な男

取引先へのルート営業をしてる
フツーの人間。

自分で言うのも何だが、
相手先の人に割りと好かれやすい。
上司にソコを見込まれて
この部署に居る訳だが…

今、すこぶる悩んでいる。

特別、積極的に運動をしてたり
していた訳じゃないが、
両親ともに180cm超の長身で
骨格良しの為か、スポーツには
もってこいの体格をしている。
運動神経も人並み以上は受け継ぎ、
学生時代に各運動部の助っ人なんかも
頼まれた事がある。
まぁ、本人は帰宅部だったりするが…

ココまではちょっとした自慢、
で、悩みはココから…

行く先々の人から
“結構、食べるだろ？ ほら” 等と
ありとあらゆる食物を貰うのだ。
断る事もなかなか出来ない。

聞く人によってはコレも
自慢になるのかも知れないが、
俺の場合…
コレが苦痛になってるのだ。

俺は昔から
体型に似合わない少食動物で、
頂き物を消化し切れない…
食と言うものにも緩慢で、
こだわりがない。
なんなら食べなくてもイイくらいだ。
気持ち的には…だが。
人間の身体はそうも言ってられないから
食事はするが。

と言う訳で、
今は自宅で山になった
お握りと格闘中だ(苦笑)

自分が他人とどう違うか。
最近知った。

朝はフルーツミックスジュース
(我が家のミキサーお手製)
昼は菓子パン1つに炭酸飲料
途中、カロリーメイトを1,2つ
夜は何か1品料理をして、
米などは食べずにミネラルウォーター
…アレ？、よく生きてんな俺。
とね(笑)

家には炊飯器がそもそも無い。
酒呑まないし、煙草も吸わない。
ベッドはあるケド、ソファで寝てる…
うわぁ(笑)

そんなこんなの中、
最近、
唐突だが出会いがあった。

取引先の駐車場を借りて
営業車の中でパンを食べてると、
後部座席の窓をコンコンとこつかれた。

振り返ると女性。
手招きするので窓を開けると、
“後ろにこんだけ食物あるのに
なんでパン食べてるの？”
と訊いてきた。
“食べ切れないんだ”と答えると
“全部は無理でしょ”と続いた。

後ろにはカップ麺やらコンビニ弁当、
お握りがわらわらしてる。

“あーじゃなくて、米食べないし、
カップ麺は食べ切れないんだ”
と言い直すと、
“なら、焼そばと…鮭、ツナマヨ、おかか! ”
と笑いかけてくる。

まぁ、食べてくれるならと
“イイよ”と車を降り、
注文の品を取り出すと
“事務所で食べようよ、車ってのもね”
と渡そうとした物を持ったままの
手を引かれて連行された。

気の良い社長が
“イイよイイよ、仲良くなれば”
と俺らの事務所での食事を容認した。

コーヒーを俺に差し出した後、
社長のかなり遠い親戚である事を
話ながら焼そばを作っている。

彼女は…
身長は俺よりやや低いぐらいで
180cm弱はある。
髪は長く、
事務員らしいスーツを着ている。、
身長的に服選びに困りそうだ。
…などと要らぬ心配をしている内に
焼そばが出来た様だ。

“いやぁー焼そば、久々だなぁ”
と本人はウキウキしている。
確かにこの香りに食欲は湧くが
腹は減らない。

…なのに、
“いただきまーす”
と食べ始めた彼女を見て
俺に異変が起きた。

髪を乱さず、
口に運び始めた彼女を見て、
“うまそう”
と感じた。
下品には感じないものの、
運ぶ量は少し多く、
合間にお握りも頬張る。
焼そばは大盛版だし、
お握りも3つ…男が食うにも多いかも。

言い知れぬ、“興奮”にも似た感情に
唖然としていると、
顔見せに来た社長が
“いつもそいつの食べっぷりを見てるから、
ついつい君にもあげちゃうんだよなぁ”
と言って立ち去った。

あぁ…こういう人種がいるから
俺みたいなのが迷惑を被る訳か。
と思いながらも目が離せない。

一頻り食べ終え、
グラスの水を飲み干した彼女は
開口一番、
“んー、一番良かったのは鮭だな”
と言い放ったのに、
少し間が空いたが爆笑した。
あり得ないぐらい、俺は爆笑した。
“あんだけ、一心不乱に食っといて
一番はお握りの鮭かよ”…と。
そしたら彼女、
“皆が闘いあった結果よ”
なんて言いやがる。最高に笑えた。

それ以来、
貰ったお握りぐらいは制覇するか
と今もバカの一つ覚えで奮闘中だ。
あの“興奮”をまた味わいたいのもある。

でも、さっき気付いた。
あの“興奮”は…ねぇ。だよな？