会社の部長から聞いた話ですが
部長が中学生だった頃
単に苗字が『松本』であったが為に
当時、活躍していた女子プロレスラー
『ダ●プ松本』の二つ名で呼ばれた若い女教師がいました。
（私はダ●プ松本さん知りません）
どちらかと言いますと全盛期の長●千種に似ていたんだけどな
あははははと部長は笑いましたが、
私はその長●千種さんが如何なる人か存じ上げませんで…
しかし、
社会人としてお追従笑いだけはしっかり忘れずしておきました
それで、
そのダ●プ松本…松本先生に起こった話です。
その日の各部活動が全て恙無く終了して
最後に校内の見回りを教師たちが分担で行っている時、
松本先生は戸締りの確認や、居残った生徒が校内にいないか確認しながら
懐中電灯を片手にひとり、
体育館までやってきたそうです。
秋のつるべ落とし…
あっという間に陽は落ちて
周囲は夜になりきれぬ赤黒い暗闇に包まれる中
松本先生は女性ながら気にする風もなく
懐中電灯を点灯せずに体育館の施錠を確認してまわってました。
不良達がたむろしている裏側を確認し終え
ちょうど体育館の南側に来たとき
先生の五メートルほど前
体育館脇に設置された常夜灯が照らす芝生の上を、
バスケットボールがバウンドしながら横切り
植え込みにぶつかって止まるのが見えました。
体育館を部活動で使っているのはバスケットボール部…
松本先生は女子バスケ部の顧問をしており
男子女子の両方とも練習を終え全員が外へ出たのを確認して
出入り口を確かに施錠したんだそうです。
それなのに南に面した金属製の引き戸がひとつ
大きく開け放たれていました。
誰が開けたか…
二つある体育館の鍵は松本先生が現在、ジャージの上着ポケットに入っています。
もうひとつは予備として職員室の金庫に保管されてるそうで…
松本先生はボールを拾いながら
去年の文化祭で出し物の準備をしたいが為に
職員室から予備の鍵をこっそり拝借して型を取り、
自力で合鍵を作った生徒の顔が浮かんだそうです。
作った合鍵を全て提出してなかったとしたら…
校長室でたっぷり油を搾られたのに懲りてなかったのか…
しかし、彼も今年は三年…進学に影響を及ぼすような馬鹿な真似はしないだろう…
「凄いですね〜中学生で合鍵作っちゃうなんて」
私が感心してみせると部長が鼻息を荒くして
「それほどでも〜♪」
「…………………」
その生徒は部長だったんですか…ガッカリです
それで、
松本先生は本人か、その合鍵を受け継いだかした生徒が
体育館内に入り込んだと決め付けて
開け放たれていた鉄扉の間から
仁王立ちとなって
明かりの落ちた中へ向けて
「誰か残っているのか！？
出て来い！
今なら見なかったことにしてやるぞ！！」
声を張り上げたんだそうです。
妙に長く感じる十秒…二十秒
耳を澄ませ、動くものはないかと闇の中に目を凝らし
してみますが
誰か息を潜めているようには思えないし…
ステージ下の倉庫か二階の放送室にでも潜っているのか
先生は拾ったボールを奥に向かって転がすと
中に入って潜んでいるであろう生徒探しをしようと
靴を脱ぎ…
脱ごうとしているところに
奥の方からこちらへ向けて
正確に松本先生目掛けて
エコーを効かせてバスケットボールがバウンドしながら
転がってくるではないですか
「巫山戯るな！誰かいるのか！？
返事をしろ！！」
怒りで先生の頭が煮え滾りました。
しかし、誰も中にいる様子は無く…
松本先生はバスケットボールをまっすぐ前に転がしたのですが
誰も拾った様子も…人影ひとつなかったんです
それなのに誰がボールを拾ってこちらへ返したのか…
怒り以外の感情が先生の熱くなった脳の片隅に芽生えました。
そして、それを紛らわす様に
今度は思いっきり
床に叩きつけボールを奥へと放りました。
激しくバウンドを繰り返しながらバスケットボールは転がっていきます。
すると
また…
タァーン！でぃ〜ん！でぃ〜ん！でぃ〜んでぃぃぃんでぃぃぃぃん…
先生をからかう様に…
ボールが跳ねながら戻ってきました
ボールが奥の壁にぶつかった音は聞いていない
途中で誰かが拾い
投げ返した…
今度こそ投げ返してくる瞬間を見つけてやる
そして、
ゴーマーパイルが便所で自殺したくなるほど…
笑ったり泣いたりできなくなるまで
生徒指導質でみっちり説教してくれる！！
松本先生はダ●プ松本を超越して
海兵隊訓練キャンプのドリルインストラクターハートマン軍曹と化してしまいました
今よりさらに力を込めて
「どぉおりゃぁあああああ！！」
バイイイン…バイイン…バイイン……
女性にあるまじき奇声をあげてバスケットボールをぶん投げました
激しくボールが床に叩きつけられる音が
奥から聞こえたと思ったら
バスケットボールがまたもや…
松本先生の許へバウンドしながら戻ってきました。
もうダメです
捕まえたら石鹸をタオルで包んだやつでボコボコに殴ってやらねば
怒りは収まりません
そこで不届き者を捕まえるため
松本先生はある作戦に出ることにしました。
ボールを投げたと同時に奥へ向かって突撃をかまして
カバディで培った捕獲技能を用いて
神聖にして偉大なる先生様をからかう不敬な輩を足下に平伏させてやる！
高いバウンドが続くように
思いっきり
全身をバネのようにし
渾身の力を込めた
さらに憤怒を上乗せして
サンデー兆治もびっくりな剛腕をもって振り抜きました。
「……………………」
投げた…
たしかにボールを投げた…と思ったのに…
叩きつけた…
床に叩きつけたのだが…
投げた動作のまま身体を固まらせていると…
叩きつけたはずなのだが
ボールが床を叩く衝撃もない
途中でボールが奪われた！？
近くに人なんていなかったし…
なかったはずなのに…
変な汗が背中に浮かび流れ落ちて…
全身に鳥肌が…
いる…
誰かいる…
松本先生はゆっくりと顔を上げ
すぐ目の前にいる…
何者かと向かい合いました。
バケットボール…
自分の胸の高さで…
松本先生に差し出すかのように
誰かが持っています
投げる前には近くに誰もいなかった…
それなのに
腰の力が入らなくなって
ガクガク震えが走る
白い手が…
骨のような細い指が
ボールを保持している
左前の合わせ…
薄汚く変色してしまった
白い着物…
帯が解けて
だらしなく床に向かって垂れている
先生は
見たらダメ！
絶対ダメ！
そう思いながらも
ゆっくりと視線を上げていったそうです
というか勝手に
自分の意思に逆らい
誰かに身体を乗っ取られたかのように
それが何者かを確かめるため…
視線は上に向かっていくのです
白い薄汚れた着物の
胸や肩にかかる
脂気が抜け落ち
バサバサの
黒髪…
泥や落ち葉が付着している
その黒髪に包まれた
顔がありました
女の顔
闇に満たされた虚のような眼窩…
朽ち果て
腐肉の中に穴だけとなった鼻…
唇も頬肉もちぎれて
剥き出しとなった黄色い歯茎…
腐乱した
女の顔…
死人の顔
それが
松本先生が
最後に見たもの…
そこで記憶は途切れているそうです
病院のベッドで目を覚ますまで
戻ってこない松本先生を心配して
同僚の体育教師が探しにきて
体育館の外
芝生の上で倒れている松本先生を発見
地面を掻いた為か
指の爪がことごとく剥がれ
恐ろしい形相で固まり
意識のない先生を見て
その尋常ではない様子を見て
救急車の出動要請の電話を入れたそうです…
部長は春休みの卒業旅行の晩に
直接、
松本先生からこの話を聞いたそうです。
先生はショックで一週間寝込んだあと
職場に復帰し
最近まで教壇に立ち生徒を教えてたんだそうです
が、
この事件が現在に語り継がれる間に尾ひれが付いて
学校の七不思議のひとつ
『恐怖のダ●プ松本事件』が伝えるには
松本先生は
事件のショックで自宅で首を吊って死んでしまった
ということになってるそうです
部長が中学生だった頃
単に苗字が『松本』であったが為に
当時、活躍していた女子プロレスラー
『ダ●プ松本』の二つ名で呼ばれた若い女教師がいました。
（私はダ●プ松本さん知りません）
どちらかと言いますと全盛期の長●千種に似ていたんだけどな
あははははと部長は笑いましたが、
私はその長●千種さんが如何なる人か存じ上げませんで…
しかし、
社会人としてお追従笑いだけはしっかり忘れずしておきました
それで、
そのダ●プ松本…松本先生に起こった話です。
その日の各部活動が全て恙無く終了して
最後に校内の見回りを教師たちが分担で行っている時、
松本先生は戸締りの確認や、居残った生徒が校内にいないか確認しながら
懐中電灯を片手にひとり、
体育館までやってきたそうです。
秋のつるべ落とし…
あっという間に陽は落ちて
周囲は夜になりきれぬ赤黒い暗闇に包まれる中
松本先生は女性ながら気にする風もなく
懐中電灯を点灯せずに体育館の施錠を確認してまわってました。
不良達がたむろしている裏側を確認し終え
ちょうど体育館の南側に来たとき
先生の五メートルほど前
体育館脇に設置された常夜灯が照らす芝生の上を、
バスケットボールがバウンドしながら横切り
植え込みにぶつかって止まるのが見えました。
体育館を部活動で使っているのはバスケットボール部…
松本先生は女子バスケ部の顧問をしており
男子女子の両方とも練習を終え全員が外へ出たのを確認して
出入り口を確かに施錠したんだそうです。
それなのに南に面した金属製の引き戸がひとつ
大きく開け放たれていました。
誰が開けたか…
二つある体育館の鍵は松本先生が現在、ジャージの上着ポケットに入っています。
もうひとつは予備として職員室の金庫に保管されてるそうで…
松本先生はボールを拾いながら
去年の文化祭で出し物の準備をしたいが為に
職員室から予備の鍵をこっそり拝借して型を取り、
自力で合鍵を作った生徒の顔が浮かんだそうです。
作った合鍵を全て提出してなかったとしたら…
校長室でたっぷり油を搾られたのに懲りてなかったのか…
しかし、彼も今年は三年…進学に影響を及ぼすような馬鹿な真似はしないだろう…
「凄いですね〜中学生で合鍵作っちゃうなんて」
私が感心してみせると部長が鼻息を荒くして
「それほどでも〜♪」
「…………………」
その生徒は部長だったんですか…ガッカリです
それで、
松本先生は本人か、その合鍵を受け継いだかした生徒が
体育館内に入り込んだと決め付けて
開け放たれていた鉄扉の間から
仁王立ちとなって
明かりの落ちた中へ向けて
「誰か残っているのか！？
出て来い！
今なら見なかったことにしてやるぞ！！」
声を張り上げたんだそうです。
妙に長く感じる十秒…二十秒
耳を澄ませ、動くものはないかと闇の中に目を凝らし
してみますが
誰か息を潜めているようには思えないし…
ステージ下の倉庫か二階の放送室にでも潜っているのか
先生は拾ったボールを奥に向かって転がすと
中に入って潜んでいるであろう生徒探しをしようと
靴を脱ぎ…
脱ごうとしているところに
奥の方からこちらへ向けて
正確に松本先生目掛けて
エコーを効かせてバスケットボールがバウンドしながら
転がってくるではないですか
「巫山戯るな！誰かいるのか！？
返事をしろ！！」
怒りで先生の頭が煮え滾りました。
しかし、誰も中にいる様子は無く…
松本先生はバスケットボールをまっすぐ前に転がしたのですが
誰も拾った様子も…人影ひとつなかったんです
それなのに誰がボールを拾ってこちらへ返したのか…
怒り以外の感情が先生の熱くなった脳の片隅に芽生えました。
そして、それを紛らわす様に
今度は思いっきり
床に叩きつけボールを奥へと放りました。
激しくバウンドを繰り返しながらバスケットボールは転がっていきます。
すると
また…
タァーン！でぃ〜ん！でぃ〜ん！でぃ〜んでぃぃぃんでぃぃぃぃん…
先生をからかう様に…
ボールが跳ねながら戻ってきました
ボールが奥の壁にぶつかった音は聞いていない
途中で誰かが拾い
投げ返した…
今度こそ投げ返してくる瞬間を見つけてやる
そして、
ゴーマーパイルが便所で自殺したくなるほど…
笑ったり泣いたりできなくなるまで
生徒指導質でみっちり説教してくれる！！
松本先生はダ●プ松本を超越して
海兵隊訓練キャンプのドリルインストラクターハートマン軍曹と化してしまいました
今よりさらに力を込めて
「どぉおりゃぁあああああ！！」
バイイイン…バイイン…バイイン……
女性にあるまじき奇声をあげてバスケットボールをぶん投げました
激しくボールが床に叩きつけられる音が
奥から聞こえたと思ったら
バスケットボールがまたもや…
松本先生の許へバウンドしながら戻ってきました。
もうダメです
捕まえたら石鹸をタオルで包んだやつでボコボコに殴ってやらねば
怒りは収まりません
そこで不届き者を捕まえるため
松本先生はある作戦に出ることにしました。
ボールを投げたと同時に奥へ向かって突撃をかまして
カバディで培った捕獲技能を用いて
神聖にして偉大なる先生様をからかう不敬な輩を足下に平伏させてやる！
高いバウンドが続くように
思いっきり
全身をバネのようにし
渾身の力を込めた
さらに憤怒を上乗せして
サンデー兆治もびっくりな剛腕をもって振り抜きました。
「……………………」
投げた…
たしかにボールを投げた…と思ったのに…
叩きつけた…
床に叩きつけたのだが…
投げた動作のまま身体を固まらせていると…
叩きつけたはずなのだが
ボールが床を叩く衝撃もない
途中でボールが奪われた！？
近くに人なんていなかったし…
なかったはずなのに…
変な汗が背中に浮かび流れ落ちて…
全身に鳥肌が…
いる…
誰かいる…
松本先生はゆっくりと顔を上げ
すぐ目の前にいる…
何者かと向かい合いました。
バケットボール…
自分の胸の高さで…
松本先生に差し出すかのように
誰かが持っています
投げる前には近くに誰もいなかった…
それなのに
腰の力が入らなくなって
ガクガク震えが走る
白い手が…
骨のような細い指が
ボールを保持している
左前の合わせ…
薄汚く変色してしまった
白い着物…
帯が解けて
だらしなく床に向かって垂れている
先生は
見たらダメ！
絶対ダメ！
そう思いながらも
ゆっくりと視線を上げていったそうです
というか勝手に
自分の意思に逆らい
誰かに身体を乗っ取られたかのように
それが何者かを確かめるため…
視線は上に向かっていくのです
白い薄汚れた着物の
胸や肩にかかる
脂気が抜け落ち
バサバサの
黒髪…
泥や落ち葉が付着している
その黒髪に包まれた
顔がありました
女の顔
闇に満たされた虚のような眼窩…
朽ち果て
腐肉の中に穴だけとなった鼻…
唇も頬肉もちぎれて
剥き出しとなった黄色い歯茎…
腐乱した
女の顔…
死人の顔
それが
松本先生が
最後に見たもの…
そこで記憶は途切れているそうです
病院のベッドで目を覚ますまで
戻ってこない松本先生を心配して
同僚の体育教師が探しにきて
体育館の外
芝生の上で倒れている松本先生を発見
地面を掻いた為か
指の爪がことごとく剥がれ
恐ろしい形相で固まり
意識のない先生を見て
その尋常ではない様子を見て
救急車の出動要請の電話を入れたそうです…
部長は春休みの卒業旅行の晩に
直接、
松本先生からこの話を聞いたそうです。
先生はショックで一週間寝込んだあと
職場に復帰し
最近まで教壇に立ち生徒を教えてたんだそうです
が、
この事件が現在に語り継がれる間に尾ひれが付いて
学校の七不思議のひとつ
『恐怖のダ●プ松本事件』が伝えるには
松本先生は
事件のショックで自宅で首を吊って死んでしまった
ということになってるそうです
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