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怖い話で眠れなくする!!コミュの赤緑シリーズ 袋小路

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1/16
北上に車で送ってもらい、家に着いたときは22時を過ぎていた。
別れ際に何か――期待するような、何か言いたそうな顔をしていたけど、大人しく帰ってくれた。

玄関を開けて部屋に入ると、私はすぐに着ているものを脱ぎ捨て…ほっぽり投げ、浴室に直行する。
そして頭から熱いシャワーを浴び、フー…っと一息つく。
こういうのってオヤジくさいって言うのかな?
「あ〜」とか「う〜」とか、意味の無い声も出てしまう。

本当は湯船に浸かりたいところだけど、うちのお風呂は追い炊きができないこともあり、1人暮らしでそんな贅沢はできない。
肩まで…何なら頭までお湯に浸かりたい、という欲求はある。
それが思う存分できるところ…例えば、そう、温泉に行きたい。銭湯じゃなくて、温泉。

そういえば、古乃羽が雨月君に温泉に誘われたと言っていたっけ…?
まったく、羨ましい限りだ。
私も是非一緒に行きたいところだけど、まさかそんな野暮ったいことをする訳にもいかないしなぁ…。
せめて誰か、もう1人居れば…?と考えると、出てくるのは北上になる。

うーん…。

2/16
シャワシャワと頭を洗いながら、今日の事を考える。

今日は1日中、あいつを引き回してしまった。
昼に呼び出して、牧村さんのところに行って、往来会に行って…その後は適当にご飯を食べて、家まで送ってもらった。

最後…1日付き合ってくれたのだから、部屋に上がって貰って、お茶くらい出してあげるのが礼儀ってやつだったのかも知れない。

…でも、時間が時間だ。
こんな遅くに部屋に招く――しかも、私に気があると分かっている男を招く――なんて、さすがにマズイ。
古乃羽にだって分かるくらい、マズイ。
そうと分かっていて…変に期待させて何もさせない方が、逆に悪い気がしてしまう。

ハァ…

シャンプーを洗い流しながら、先ほどとは違う意味のため息が出る。
私って、イヤな女…?イジワル?悪い事している…?
今日の事を古乃羽に言ったら、ちょっと怒られそうな気がしないでもない。
いつまでも昔のこと…って。

でも、まだ、無理…。無理よ…。

3/16
…あ。

トリートメントに手を伸ばしたところで思い出す。
そうだ、古乃羽。
古乃羽に、聞かないといけないことがある。

牧村さんは「灰色」って言っていたけど、往来会には怪しいところがあることが分かった。
それを踏まえて、古乃羽に聞かないと――気付かない振りをしていたことを、聞かないといけない。

明日、病院に行こう。
きっと雨月君もそこに居るだろう。彼にも聞いてもらわないといけない。
それと…北上も呼んでやるか。ここにきて蚊帳の外じゃ、さすがに可哀想だ。

そうと決めてから、一通りのお手入れをしてお風呂を出ると、時刻は23時を過ぎていた。

少し身体を冷ましてからベッドに入り、寝ることにする。

1日駆け回って疲れたからか、変に思い悩んでしまったからか…
何だか人肌恋しかったので、今日はラット君を抱いて寝ることにした。

4/16
――朝。病院の朝。

入院していると、必然的に生活が規則正しくなる。
…と言っても、たまに包帯を交換してもらうくらいで、特に検査などをするわけではない。

うーん、こんな風にここに居ていいのかなぁ…なんて思ってしまうけど、4人部屋になっているこの病室、私以外は現在、誰も居ない。
そんな状況だから、病院側も私なんかの入院を許可してくれたんだな、と勝手に解釈する。

…そんな事を思いながらボンヤリ過ごしていると、お昼を過ぎた頃になり、彼がお見舞いに来てくれる。
私が入院してから、自然と2人きりで過ごす時間が多くなった。
このことは、ちょっと嬉しい。怪我の功名ってやつかな?

でも、嬉しいだけに…後ろめたい気持ちがある。
皆に黙っている事。嘘をついている事。でも、理由がハッキリと分からないうちは――

雨月「…どうかした?」
私「あ…ううん」
雨月「そか。何か元気なさそうに見えたからさ」

そう言って彼は、私の手を握ってくれる。
私は無言でその手を握り返し、平気だよ、と伝える。

やっぱり、言わないとな。彼にも、みんなにも悪いや。
いくら、あの…

5/16
声「古乃羽〜、元気にしてる〜?」
ガラガラッと病室の扉が開き、元気な声が聞こえてくる。
美加の声だ。

美加「やや…、お邪魔だったかな?」
きっと彼を見てのことだろう、軽く冷やかされる。…もう。

声「お、やっぱ雨月も居たか」
もう1つ声が聞こえる。…北上君の声だ。
美加、一緒に来たんだ。これはちょっと良い傾向かな…?

雨月「あぁ。どうしたんだ?2人して」
美加「ん…、ちょっとね」

…あれ、声のトーンが下がった?

美加「古乃羽と、お話しようと思ってさ」
北上「俺も来い、って呼び出された」

古乃羽「…美加、なぁに?」
美加「んーとね…まずは、アレ。私たちね、昨日、往来会に行ってきたの」

雨月「…へ?」

6/16
ベッドで上体を起こした状態の私を囲み、美加と北上君が、昨日あった話をしてくれる。
それは、牧村さんのところに相談に行き、その後そのまま往来会に直行して…という話だった。

雨月「灰色、ねぇ…」
私のすぐ横の椅子に座っている彼が、ポツリと呟く。

北上「なんとも、半端なところだよな」
美加「そうなのよねぇ…。でもまぁ、何か怪しい点がある、ってことは分かった訳よ」
雨月「ふーん…」
私「…」

怪しい、かぁ…。
確かに怪しいところはあるかも知れないけど、美加たちを見張っていた、っていう事だけじゃ、一概にそうとは言えない気もする。
だから牧村さんも、「灰色」だと言ったのだろう。

…でも、実際にその場に行った美加がそう感じたのなら、私に異論は無い。

美加「それでね…」
美加が話を続ける。

この時点で、私には彼女の目的が分かった。
…いや、最初から分かっていた。

7/16
美加「あのさ、古乃羽…」
私「…」

美加「えーっと…、あの、霊視の――」
私「…待って」
そう言って私は手を前に出して、美加の言葉を止める。
美加「…」

言わなきゃ。そう、私から言わないとダメだ。

私「みんな…ごめんね」
ペコリと頭を下げて謝る。
北上「ん?なに?」

北上君にはサッパリだろう。
美加は分かっている…長い付き合いだもの、ね。
こーくんは…?彼は、ちょっと事情が違うかなぁ…。

私「あのね…私、嘘付いていたの」
北上「嘘?」
私「うん」
北上「…何が?」

私「霊視をして…何も覚えていない、って言った事」

8/16
北上「…なんでまた」
美加「見えちゃったものに、問題があるのよね?」
私「うん…」
さすがに、美加にはお見通しみたいだ。
そして、彼も何も言わない。きっと、分かっていたのだろうな…。
北上「問題って…何が?」
私「あのね…」

あのときの事――。

私はテーブルに名刺を置き、眼鏡を外す。
そして名刺の左右に両手を置いて、それをジッと見下ろした…瞬間、私はなんとも言えない、嫌な感じに襲われた。
これは見てはいけない…そう、感じた。

でも…。でも、見たい。美加もそれを望んでいる。
私は意を決し、静かに目を閉じ…別の目を開く。

するとそこに、薄暗い部屋が見えてくる。…見たことの無い部屋だ。
その部屋の真ん中に、誰かの座っている姿…後ろ向きに、正座をした姿が見える。
薄暗い中、ジッと俯き加減で、静かに座っている。

誰だろう?暗くてよく分からないけど…知っている人…?
私は意識を集中し、それに注視する。

…すると、その人が何かに気付いたように、顔を上げ…こちらを振り向く。

それは…舞さんだった。

9/16
――
俺「…姉貴?」
古乃羽の話を聞いて、思わず声が出てしまう。
何か隠し事があるとは分かっていたけど、霊視をしたら姉貴が見えた、って…どういうことだ?

神尾「やっぱり…」
神尾さんが、予想通りだったという感じでつぶやく。

…確かに、ありえる話か。
あの古乃羽が嘘を付いて、隠し事をするくらいだ。
俺にも神尾さんにも言えない理由としては、一番シックリくる。

じゃあ、まさか姉貴が古乃羽の目を…?
…いや、違う。姉貴は絶対に、そんな事はしない。
白谷さんの件で、俺は姉貴を疑う事は絶対にしないと決めた。…何があっても信じると決めた。

神尾「古乃羽、それで?」
神尾さんが話を促す。
古乃羽「うん…。ここからがちょっと…私もビックリしちゃって」
俺「どうなった?」

古乃羽「え、何で?って思ったら、目の前が真っ暗になってね。それから突き飛ばされるような感じがして、その後…、ヒュッって、何か、鋭利なものが…」
言いながら、古乃羽が包帯をした目に手を当てる。

あっ…と思い、俺は古乃羽の話を止める。
そこで、目を切られた訳だ。

10/16
俺「悪い。嫌なとこまで思い出させたか」
古乃羽「んーん、平気…」

目を切りつけられるなんて、想像しても嫌なことだ。
その痛みもそうだが、それ以上に、刃物に対してトラウマができそうに思える。
例え外見には浅い傷だったとしても…それが簡単に治る傷だったとしても、心には深く傷が付いてしまうかもしれない。
俺は傷の具合と共に、その点も心配だった。

神尾「…古乃羽、直前に突き飛ばされたの?」
古乃羽「うん」
神尾「そっか、じゃあ…?」
神尾さんが俺を見る。
…あぁ、俺も同意だ。これで安心した。

北上「舞さんが助けてくれたってことか?」

…お?意外な発言。
俺「かな?突き飛ばしてくれたお陰で、傷が浅くて済んだって事じゃないかな」
神尾「きっと、そうだろうね。北上、少しは頭が回るようになったじゃない」
北上「ふ…まぁな」

少しは、って…どんだけお前は下に見られているんだ?と、突っ込みたくなったが、
それで喜んでいる北上を見ると、気の毒になったので止めておいた。

11/16
神尾「でも、そういうことなら…古乃羽、何で黙っていたの?舞さんが押してくれて助かった、って分かっていたでしょ?」
古乃羽「…」

そうだ。古乃羽だって、それくらい分かっていただろう。
それでも黙っていた、その理由として考えられるのは…
俺「…姉貴に言われたか?」

そう言うと、古乃羽がハッとしてこちらを向く。
古乃羽「…うん。すごいね、よく分かったね…」
俺「…まぁ、勘だ」
他に思い浮かばなかった。古乃羽が俺たちに嘘を付くとしたら、そんなところだろう。

神尾「言われたって、いつ?連絡、取れていたの?」
古乃羽「ううん。言われたのは、目の前が暗くなる直前。舞さんが指を立てて、口の前に…シーって」
ジェスチャーか。でも、それだけで…?
と、疑問が浮かんだが、古乃羽が続けて言う。

古乃羽「それと同時に舞さんと目が合ってね、言葉が伝わってきたの。言わないでいてね、って…」

…なるほど。

12/16
北上「でも、何で雨月のお姉さんが見えたんだろ…?」
北上がもっともな疑問を口にする。

神尾「…古乃羽、分かる?」
古乃羽「ん…、多分…」
ポツリと答える古乃羽。

古乃羽「私ね、あの名刺の持ち主…桐谷さんに関わった人を探そうと思って、見てみたの」
神尾「関わった人…」
古乃羽「うん。名刺について何か知っている人が見えないかな、って思ったから」
俺「じゃあ、それで姉貴が見えたってことは――」

神尾「舞さんと桐谷って人、会った事があるってこと…?」
古乃羽「多分…」
俺「…」

その桐谷は、何者かに殺されている。
そして、姉貴は今…行方が分からない。更に、古乃羽に謎の口止めもしている。
この状況は良くない。ものすごく、良くないぞ…。

13/16
古乃羽「こーくん…」
俺「…ん?」
古乃羽が俺の方に片方の手を伸ばしてきたので、その手を取る。
北上たちの前で少し恥ずかしい気もするが、まぁ、構わない。

古乃羽「お姉さんのこと、信じてる?」
古乃羽がこちらを見て聞いてくる。
包帯を巻いているので見えないが、今彼女がどんな目をしているかは良く分かる…。

俺「もちろん。信じているさ」
古乃羽「…良かった」
古乃羽が安心したように言い、繋いでいる手に両手を添えてくる。
…さすがにちょっと恥ずかしい。

神尾「あー…コホンコホン。舞さんの事は同意だけど、じゃあ、どういうことだと思う?」
わざとらしい咳払いをして、神尾さんが誰とも無く問い掛ける。

北上「会った事があるのは、事実だろうなぁ」
古乃羽「うん。そのときの舞さんの印象が強かったから、それが残っていて…見えたと思うの」
俺「印象ね…」
まぁ、姉貴のことだ。印象は強いかも知れない。

14/16
神尾「そうなると、目の前が暗くなって、って言うのは――」
古乃羽「…」
俺「殺されたときのこと、かな…?」
北上「うへ…」
最後に強く印象付けられた事なら、それしかない気がする。

神尾「真っ暗になって…ってのは目隠しでもされて、鋭利な…刃物ね、それで切りつけられた、と」
きっと、そんなところだろう。何とも乱暴な話だ。

俺「古乃羽、大丈夫か?」
そんな場面を見てしまった…ある意味、体験してしまった古乃羽が心配になる。
古乃羽「うん、平気…。ありがとう」
そう言って手を握り直してくる。
いつになく甘えがちな感じがするのは、色々と不安な事があったからだろうな。

神尾「何はともあれ――」
それを横目に、話を続ける神尾さん。

神尾「これから、どうしよっかね」
これから。今これから、俺たちにできることって、何かあるだろうか?

15/16
北上「まさか、犯人探しなんて無理だよなぁ…」
犯人…桐谷って人を殺した犯人探しか。
俺「それは、警察に任せるしかないよな」
いくらなんでも、俺たちはまったくの素人だ。何をできる訳でもない。

神尾「そうなのよねぇ…。なーんか、もどかしいなぁ」
腕を組み、ため息混じりに神尾さんが言う。
分からない事だらけでモヤモヤしているのが、彼女には我慢できないようだ。

桐谷のこと。
名刺のこと。
往来会のこと。
それと、姉貴のことも、かな。

ただの学生である俺達には、人が殺されたとか、それなりに大きな団体が相手となると、どうしようも無くなってしまう。
いくら頭を使って考えたとしても、限界がある。
何とか調べてみようとしても、限界がある。

広い世間の中では、その力の無さを思い知らされてしまう。
それが、少し悔しい…。

16/16
古乃羽「明日になれば、舞さん帰ってくるのかな」
古乃羽が独り言のようにつぶやく。
俺「…その筈だな」
お袋に「3日くらい出掛ける」と言っていたらしいから、明日には帰ってくるだろう。

神尾「3日くらい、って話だったよね?”くらい”だから、明後日とかになる可能性もありそう…?」
俺「うーん…。うちのお袋、心配性でさ。姉貴もそれは良く知っているから、少なくとも連絡はあるはずだよ」
そうであって欲しい。…いや、そうでなくちゃ駄目だ。

北上「じゃあ、それからかな?」
古乃羽「それが良いよね。…美加、それまで無茶なことしたらダメだよ?」
神尾「へいへい、大人しくしていますヨ」
口を尖らせて了承する神尾さん。

明日には古乃羽の抜糸も終わり、退院できるだろう。
姉貴が戻ったらまた集まろう、ということにして、その場は解散した。

お手上げ状態の俺たちは、また姉貴を頼る事になった。

…しかし、その翌日――更にその次の日になっても、姉貴は帰ってこなかった。

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