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怖い話で眠れなくする!!コミュのAとBシリーズ2

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Bについて

Bについて語ろうと思う。
予め言っておくけど、俺は正気だ。


1年と少し前に、ある人が死んだ。
その人の一周忌法要は俺の働くホテルで行った。
法要の打ち合わせ伝票を書いたのは俺だった。
その人の親族からはクレームを承った。
さっさと料理を出して欲しかったとのこと。
なるほど、一周忌では話は弾まない。
懐石風に料理が少しずつ出てくる形式にしたのが駄目だったか。
その席にはAも居た。
今は居ないその人の事を仮にCさんとする。
AはCさんの事を心底から尊敬していた。
俺もそうだった。
だからこそ安堵し、死んで良かったと思う。
Cさんはやっと、Cさんの本来の場所に戻れたんだ。
Cさんが死んだ時、俺はそう思って泣いた。
Aも泣いた。
いつもの食堂で、本当に良かったと2人で泣いたんだ。
普段は飲まない日本酒を頼んで、良かった良かったと泣き続けた。
さて、Bの話だ。
俺はBに対してあまり危機感を持っていない。
何故なら前例があるからだ。
Cさんは

「今のBと全く同一のものかは解らないけどね」

と前置きして

「昔は私について来てたんだよ」

と言った。
Cさんはそれを代替わりと言った。
話を纏めるとこうなる。


・以前CさんはBに似たものに付きまとわれたことがある。
・ただし、全く同一のものであるかはわからない。(同じ種類の別の霊か、Cさんに付きまとったBが変化したもののどちらか、という事)
・何とかする事は基本的に無理。お祓いやらなんやらが通じる相手ではない。
・ただし、Aなら何とかできるかもしれない。その時一緒に話を聞いていたAもこれに頷いた。
・Cさんにつきまとう前には、Cさんの知人につきまとっていた。(ただし、Cさんにつきまとっていたものと完全に同一のものかは解らない)
・そして最後に、時間が経てば自然と姿を現さなくなるということ。


結局、今のBを知るのは俺とAだけだ。
けれど、Bというものの根本に触れた気がして、俺とAはその時凄く興奮していたのを覚えている。
そして、同時に安堵した。
待てば消える。
耐え続ければいつかはあの恐怖から逃れられる。
そして今、俺はある事を考えている。
Bを消す。
CさんはAなら何とか出来るかもと言ったが、条件が揃えば俺でも何とか出来ると思う。
問題は、日時が合わない事だ。
今ならやれる、今なら出来るという日にBが現れたことはない。
Bが現れる日と、その日が重なるのを俺は待っている。
それまで俺はBを刺激せず、ひたすら逃げ続ける。
重ねて言うけれど、俺は正気だ。







呪いの人形

俺は呪いをかけられた事がある。
忌々しいBに遭遇するかなり前の事だ。
呪いと言っても不発に終わった(というか失敗した)のだが、Aも出てくる話なので、書いてみる。


諸々の事情により、働きながら学校に通う20歳過ぎの高校生なんてものをやっていた頃の話。
学校が夏休みになり、俺は職場、自宅、Aの家、心霊スポット、行き付けの食堂を巡る生活をしていた。
俺には霊感の強い知り合いが何人かおり、Aというのはその内の一人で、今でもよく遊ぶ友人だ。
その日、仕事を終えた俺はAの家に向かった。
Aの家は元は下宿寮だったとかいう古いアパートで、妙な怪談もある曰く付きの物件だった。(実際には何も存在しないが)
Aはベースで何かの曲を弾いていた。
確かプリティ・ウーマンだったと思う。

「お前、呪われてるぞ」

その言葉はしっかりと覚えている。
唐突にベースを弾くのを止めていきなり言われたんだ。
ニヤニヤ笑いのAに、俺はむっとして言った。

「呪われてねえよ」

俺は憑かれたりすると自分でわかる性質で、その時は特にそんな感じがしなかった。

「いいや呪われている」

Aがからかっていると思って尚更ムカついてきた。

「見えんのかよ」

「いや」

Aは携帯を開く。
待ち受けを開いて、俺に言った。

「証拠がある」

俺の名前が書いてあった。
人の形に切り抜かれた紙に、その真ん中には、釘。

「な、呪われてるだろ」

ぐうの音も出ない。
経緯はこうだ。


日課にしている散歩(というかなんというか)をしていたAは、明け方近くに近所の神社に立ち寄った。
そこは本当に神社なのかと疑問に思うような小さなところで、御神体だか何だかを収めた小さな社と、腕に抱えられるくらいの小さな賽銭箱と、古い鳥居しかないようなところだった。
もしかしたら神社じゃないのかもしれない。
その日は特に何もなかったため、Aは何かないかと普段は行かないそこに向かったらしい。
松の木に囲まれたそこに入ったAは落胆した。
何もない。
もう帰ろうかとも思ったが、近くのコンビニで買ったビールを飲むことにしたそうだ。
家で飲むよりはマシかと思って飲んでるうちに夜が明けてきた。
ビールも無くなり、さあ帰ろうかという所で『見つけた』とのこと。
その粗末な紙人形を写メに収め、映りが良いものを待ち受けにしてAは上機嫌で帰宅。
そして俺がやってきた朝に至る。


Aが写した紙人形は、正直に言って不出来だった。
人の形に切り抜かれた人形にはうっすらと青の罫線が引いてあり、大学ノートから切り抜いた物であることが分かる。
その罫線に添って、つまりノートに書くのと同じような感覚で俺の名前が書いてある。
シャーペンで書かれた弱々しい字。
ふざけた子供が呪いの人形を作ろうとして失敗したような出来だ。

「こんなので丑の刻参りが成功すると思うか?」

「しないだろうな」

人形はあまりにも簡単に作られている。
呪われたという実感はない。
憑かれたという感覚はない。
儀式は失敗している。

「で、どうする」

「付き合えよ」

だが、自分が誰かから呪われるというのは気分が悪い。
俺達は丑の刻参りの犯人を見つけることにした。


次の日の深夜、仕事を休みにして貰った俺はAと一緒にその小さな神社に向かった。
自分の目で人形を確認する。
釘は中途半端に打たれ、俺の名前が書かれたそれはぴらぴらと風に揺れる。
犯人はこんなので儀式が成功すると思ったのだろうか。
Aはその人形と自分が撮った写メを見比べ

「よし、まだ来てない」

と判断し、俺達は人形がある方向とは逆側の松林に身を潜めた。
Aが持って来ていたらしいビールを開ける。
何口か飲んだ後

「飲むか?」

と訊いてきたのでありがたく頂く。
俺達は1本のビールをちびちびと回し飲みしながら、犯人が来るのを待った。
そのうち3時になって、来た。

「あれ、ママ電話じゃないか」

現れたそいつを見てAはそう言った。
ママ電話というのはあだ名で、俺達と同じく定時制の高校に通うクラスメイトだ。
ママ電話というのは、授業が終わる度に携帯で自分の母親に電話し

「ママ、今○○の授業が終わった。もう帰りたいよ」

なんて言うことから付いたあだ名だ。
歳は大体当時の俺達と同じくらい。(20歳前後)

「いや、なんでママ電話が」

A程目が良いわけじゃない俺には判別がつかない。
ママ電話らしき人影は、辺りをくるくると見回しながら俺達の隠れている松林とは反対側の松林に消えた。

「あれは絶対ママ電話だって」

「まさか」

俺達は確かめることにした。
松林から出て、小さい社の裏を回って反対側の松林に入る。
物音を立てないように息を殺して行くと、音がしてきた。

「こんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこん」

規則正しい小さな音がして来る。
気持ち悪く思いながら、俺達は進む。
そして見つけた。
ママ電話だ。
危うく、うわ、と声を挙げるところだった。
子供みたいなパジャマ姿のママ電話は、松の木にべったりと張り付いて小刻みに釘の頭を叩いていた。
俺がイメージしていた丑の刻参りとは違う。
ママ電話はがん、がん、がんと怨念を込めて釘を打つのではなく、こんこんこんこん、こここここ・・・と、力を込めずにちょっとずつ釘を打ち、ぶつぶつぶつぶつと小声で何かを喋っている。
その声が異様だ。
怨念やら怒りがこもるような声音ではない。
何かをおねだりするような、甘ったるい声音。
成人した男であるママ電話がそんな声音で

「ね?だよね?そうだよね?」

などと呟き続けている。
怖さより、気持ち悪さを感じた。
頭がイってると思った。

「何やってんだてめえ!」

その気色悪さに堪えかねたAが飛び出してママ電話に掴み掛かったが

「あああ!」

と声を挙げて暴れたママ電話に振り払われて転んだ。
ヤバいと感じて俺も飛び出した。
ママ電話は金槌を持っている。
殴られたら洒落にならない。
しかしママ電話は金槌を捨てて逃げ出した。
襲い掛かってくるものだと身構えていた俺は呆気に取られた。

「待てコラ、ボケエ!」

叫んで走り出したAにつられて俺も走り出す。
貧弱な割に足が早いAと、運動神経は悪いが体力に自信があった俺は、簡単にママ電話に追い付いた。
ママ電話は暴れたが、やがて観念したのか大人しくなった。

「何でこんなことしたんだ」

俺としてはそこが知りたかった。
恨まれるような覚えはない。
陰口を叩いた事が全くなかったとは言わないが、いじめなんかはした事がない。

「・・・」

ママ電話は言動があれだったが、知的障害の気はない。
おどおどとするが受け答え自体はしっかりしていた。
だが、そのママ電話は何も答えない。
苛ついたAが彼の胸ぐらを掴む。

「おい、何とか言えよ」

それでも何も言わない。
じ、と黙り込むその姿には、学校でのおどおどとした様子は欠片も見当たらない。
俯いたまま上目遣いで俺を睨む彼に、Aは舌を鳴らす。
俺の口からバカ、やめろ、という言葉が出る前にAはママ電話を睨み付けたが、すぐに彼のパジャマから手を離した。

「もういいや、行こう」

俺としては何でこんなことをしたのか聞きたかった。
なぜ俺が呪われなければいけないんだ、と。
それにパジャマ姿でこんこんと釘を打っていたママ電話は明らかにおかしいというか、変質者丸出しだったし、このまま放置するのは色々と躊躇われた。
けれどAは

「良いから」

と言って俺の腕を引っ張る。
釈然としない俺はその手を振り払ったが、強くAに言われ、渋々その場を離れた。
その間ママ電話は、ずっと上目遣いに俺を睨んでいた。
Aと一緒に松林を抜ける際に、後ろを振り返る。
ママ電話の姿はもう見えなかったが、俺の脳裏には俺を睨み続けるママ電話の姿が浮かんだ。
帰ってすぐに眠いと言って寝始めたAから、ママ電話を放置することに決めた理由を聞いたのはいつもの食堂だった。
話の内容に対して余りに軽い口調だった事をよく覚えてる。

「返しの風に掛かってたからな」

食事中以外は全く解らないが、あいつの口はちょっとびっくりする位に大きい。
Aは餃子をひょいひょいと口に放り込み、まとめてもぐもぐしながら俺に言った。

「呪いが失敗した時に自分に反ってくるってやつだっけ」

そうそう、と軽い口調で言ったAは餃子を飲み込み、ジョッキを空けてげふっとゲップをした。
毎度の事なので特に何も言わない。

「大丈夫なのか?」

「死んだり大怪我するほどじゃない。自業自得だろ」

しかし俺としては釈然としない。
呪われた理由を知りたかったし、俺を睨みつける表情も異様だった。

「丑の刻参りなんてしたことないから解らないが、多分自分の念が返って来たんだろ。お前に対しても何か起こるってことはないだろうし。現に、何ともないだろう」

その一言の後、食事を終えたAはゴルゴを開いた。
釈然としないまま俺も食事を終え、鬼平を開いた。


夏休みが終わった後、ママ電話が自主退学した事を担任に聞いた。
何があったかは解らない。
不発に終わったママ電話の呪いは虫刺されという形に変わり、ついつい掻いてしまう質の俺は、皮膚科を受診する羽目になった。








自分霊

定時制の高校というのはいろんな人が通う。
夫と子供の面倒を見ながら、薬剤師免許を取るため学歴を得ようと頑張る人の良いおばさんもいれば、傷害でパクられたことを武勇伝のように話すDQNもいるし、授業が終わる度に

「今何々の授業が終わったよ。もう帰りたいよママ」

と母親に電話する大の男もいる。
まあ、とにかく濃い面子が揃ってたなあと思う。
俺自身働きながら学校に通う20歳過ぎの高校生なんてものをやっていたわけだが。


高1の春だった。
新入生の初々しさとは全くもって無縁な俺は、参っていた。
俺は自分が憑かれていたり、近くに居ると解る性質の人間で、そういった人間の大半がそうであるように、そういうものに対する自衛手段を持っていた。
しかしその時は状況が少々特殊で、俺は心底から参っていた。
左耳はかりかりという音を聞き続け、頭の中では説明しがたい音響が鳴りっぱなしだ。
体は常に鳥肌が立ち掛け、視界は不意に靄がかかったり何かが過ったりする。
こういった症状は近くに居るか、もしくは自分が憑かれている時に出る。
実際に憑かれてるという実感があった俺は、当然のように原因を探し、身構える。
どこだ。
いつ来る。
どこから来る。
初めは雑多なものの寄せ集めだったはずなのに。
起きている間は常にびくびくと周りを警戒し、また、眠りに落ちてからも悪夢を見る。
見つけさえすれば何とかできるのに。
俺の精神状態はどん底だった。
それでも俺は学校と仕事は休まなかった。
学校では担任から心配され、職場では何かヤバいことに首を突っ込んだのではないかと疑われた。(それでも心配してくれる人は居たが)
結果として、それが功を奏したのだろう。
良い加減お祓いでも受けなければ気が狂うと思い始めた頃、俺は教室でうとうとしていた。
授業が終わった夕暮れの教室。
仕事に出るまでのちょっとした空き時間。
バン、と音がした。
驚いた俺は眼を醒まして音の発生源にありったけの気迫を込めて眼を剥いた。
ついに来た。
上等だ。やってやる。とり殺せるならやってみろ。
しかし、そこに居たのは人間だった。
他人の視線なんか知らないとでも言うような(と言うか後に言う)ガチガチのパンクファッションに身を包んだ、隣のクラスで浮きまくりの女。
俺と同じく20歳前後だという話を聞いていたので覚えていたが、パンクやらゴスロリやらが苦手な俺は20歳にもなってそんな格好して、と余計に苦手意識を持っていた。
しかもやたらと目付きが悪いことで有名で、クラスの何人か(人の良いおばさんですらも)が

「なんだか怖いよね」

と言っていた女。
その女が大股で近付いて来る。
なにがなんだか訳が解らなくなった俺を尻目に、女は俺の机の前までやって来て、ぎ、と俺を睨んだ。
人を殺した事があるような眼だ。
混乱してたこともあってか、俺は本当に殺されると感じた。
そうしてヤバいと思った瞬間、ふわりと体が浮いたように感じた。
頭から体を吊るしていた糸がぷっつりと切れたような感覚。
妙な心地良さを感じて俺の意識は遠退く。
けれど、1秒も経たずに俺は眼を醒ました。
あの目付きの悪い女が、俺の肩を揺さぶったからだ。

「おい、大丈夫か」

とそいつは言った。
中途半端に覚醒した頭では何もかも訳が解らず、俺はただ

「は?は?」

と繰り返したのを覚えている。
これがAとの出会いだった。


後に聞いた所によると、俺は自分霊とでも言うようなものに憑かれていたらしい。
呪いが自分にかけられたと知って自己暗示に掛かるのと似たようなもので、謂わば自分の生き霊が自分に憑いているような状態らしい。
Aは俺がそんな状態に陥っていたのに気付いて、しょうがなく助けてくれたそうだ。
因みにあれから数年経つが、Aは多少マシになったものの未だにパンクファッションを続けている。
勿論Aはそんな格好で、主な客層が中年から初老のおじさんおばさんな俺行き付けの大衆食堂に行くわけだ。
今ではもう、すっかりと馴染んでしまっている。










睥睨

霊感を持つ人間なら、祓ったりとまではいかなくても何らかの対抗手段を持っていることが多いと思う。
宗教やら信仰に由来するものや、呪術・魔術的な儀式めいたもの、または自分の経験によるもの。
お経や祝詞を読む、お守りを持ち歩く、人形代に吸わせる、その他。
人によって様々だ。
勿論、俺にもある。
自分でも少々変わり種だと思う対抗手段が。
だが、Aの対抗手段は俺のを鼻で笑えるくらい(事実鼻で笑われた)もっと変わり種だ。


高2の夏休み、20歳になったということで、Aが酒と煙草を始めた頃の話だ。
あいつはすぐに酒にも煙草にも慣れ、メンソってシャキーンてなるんだなあとか言ってた気がする。
当時付き合っていた彼女が煙草嫌いだったため、喫煙者でありながら自分の家の中では煙草を吸わない事にしていた俺は、何の気兼ねもなく煙草が吸えるAの家に入り浸り、買い貯めた煙草のストックもA宅に置いているような有り様だった。
その日も煙たいAの家でだらだらとしていて、どんな流れだったかは忘れたが、とにかくAの対抗手段の話になった。
もう分かってるかもしれないが、そういう存在に対するAの対抗手段は、相手を睨むことだ。

「昔さ、パラノイアだったんだよ。中学校に上がった辺りからなんかキモいのが見え始めた。妄想ってか幻覚ってか、まあ、そんな感じのが。それで不登校になったわけ」

中学校時代のAの話を聞いていた俺は、頷きながら煙草の封を開けた。
定時制の高校に通うやつには、当然普通の高校に行かない理由がある。
なんでこの高校に入ったのか?という定時制高校ではよくある身の上話として聞いていた。

「人っぽいのとか、なんか悪魔っぽいのとかゾンビとか。今思うと霊も見てたんだろうなあ、区別つかなかったけどさ。あ、妖精も見たぞ。ティンカーベルとか。つまり昔の私は妖精と戯れる無垢な少女だったわけだな」

「今は煙草食らって酒を飲む汚れ女だけどな」

「うるせえよ」

「で、どうしてそれがあの睨みになるんだ?」

「あー、先ずは聞いとけ。取り敢えず、そいつらは夢の中にも出てくるんだよ。まあ、悪夢だな。妄想、幻覚の化け物が昼夜問わずで襲って来るんだ。あの時は頭が狂いそうだった」

あ、つうか頭がおかしくなったからあんなのが見えたのか?なんて言いながら、Aはビールを飲む。
この後彼女と会う予定があった俺は羨ましく思いながらそれを眺め、煙草に火を点けた。

「それで、ある時夢の中でこう思った。夢なら何でも出来る訳だから、こいつらを消すこともできんじゃないかって。明晰夢ってやつだな。で、夢の中で必死こいて念じるんだ。死ね死ね死ねって。でも死んでくれない」

俺は夢の中で生々しい化け物に囲まれるAを想像する。
夢の中も現実も、中学生時代のAからすると大差なかったのだろう。
そう考えて俺はゾッとした。
たまに見る悪夢が現実で、こうしてだらだらしてるのが夢だと思うと、堪らない。

「毎日毎日死ね死ねって念じて呟いてるうちに、イメージもそれにくっつくようになった訳よ。
包丁刺されて死ぬとか、車に轢かれて死ぬとか思うと、その化け物が包丁で刺されて死ぬイメージが勝手に浮かぶんだ。
何回もそんなことをしてるうちにそのイメージが固まってきた。
化け物は私の妄想だろ。
それを妄想の中で殺すんだ。
そうなると本当に死に始めたんだよ、化け物が。
本当って言っても実際は私の妄想だか幻覚に過ぎないんだけどな。
そのうち夢だけじゃなく現実でもを殺せるようになってさ。
まあ、妄想は妄想から逃げられないんだろうなあ」

染々とAは語った。
俺たち現実で生きている人間は、夢の中で死んでも実際には生きている。
現実では死んでないのだから。
だが、昔のAが見ていたという化け物は妄想の存在だ。
妄想の中で殺されれば、生きてはいけないんだろう。

「そのうち、いつの間にか手当たり次第片っ端から化け物を殺すようになってさ。そしたら、だんだんと数が少なくなってきた」

「それって」

「うん。最終的には皆殺しにしたのかもしんないなあ。妄想を。でもさ、まだ変なのが見えるわけ。いかにも化け物、ってのは居なくなったけど、まだ変なのがいるわけだ。まあ・・・お前にも見えるやつだな」

妄想を皆殺しにしたら、残ったのは霊だったとAは言う。

「霊だって気付いたのはそっからすぐ。いつの間にかそっちも見えるようになってたんだな。で、やっぱりそいつらは殺せないんだ」

「それはそうだろ。霊は妄想じゃないんだから、妄想の中で生きてるのを妄想の中で殺すのとは訳が違う」

「うん。私もそう思った。だからオカルトに傾倒したわけよ。なんとかする手段はないかってな。熱中したね、あの時は。一通り勉強したあと、私がこれだと思ったのは、魔術だった」

「魔術って、悪魔呼び出したりとか?」

「いや、そういう儀式的なのじゃない。まあそんなんも出来るけど。成功したことないが。まあ、魔術って言っても初歩の技術的なやつだ。私がやったのは幻視法と呼吸法」

やっと話があの睨みに近くなってきた。
そう感じた俺は煙を吐いて煙草を揉み消した。
ぼう、っとした焦点の合わない瞳でAは話を続ける。

「幻視はイメージを視角化するってやつでな、それを使うんだよ。で、イメージを視角化するってことはつまりさ・・・」

話の途中でAはビールの缶を傾ける。
中身を全部飲みきったAは、っあー、なんて声を出した。

「まあ、あれだよ。私が睨む時はさ、相手を見ながら頭ん中で相手を殺すんだ。死ね、死ね、死ねって本気で思いながら。居なくなれ。消えろ。お前が存在してる意味はない。お前は無価値だ。死ね、死ね、死ね、死ね、死ねってさ」

一人言のように言ったAは、いつものように焦点が合わないどこかぼうっとした目で俺を見た。
淡々と語るAに怖気を覚え、俺は煙草に火を点けるふりをしてAから視線を外す。
どこを見ているか解らないような目は、けれど、確実にこちらを向いていた。
・・・Aのそれは、きっと呪いみたいなものなんだろう。
相手を睨み付け、死ね、死ねと本気で思いながら相手が死ぬ姿を丁寧に丁寧に想像していく。
丑の刻参りと同じように、相手に思念を飛ばして殺すという、呪い。

「ゆっくり、ゆっくりイメージするんだ。相手を見ながら。ゆっくりゆっくり、注意して、丁寧に、丁寧に」

淡々と話を再開したAは、まだこちらを見ていた。
俺はAを見ることができない。

「・・・なあ、ちょっと待ってくれ」

見ることができないまま、俺はAに質問しようと口を挟む。

「あの時のお前の自分霊のことか?大丈夫だよ。軽く睨んだだけだから」

俺が質問の内容を言う前にAはそう言って笑う。
けれど、俺が知りたいのはそういうことじゃなかった。
お前は俺を呪ったのか?
お前は俺の死を願ったのか?
お前の頭の中で、俺はお前に殺されたのか?
俺は、何も言えなかった。
生まれた会話の空白に気付かないふりをして、Aは声を挙げた。

「よし!お前帰れ!」

ふざけるように笑ったAに胸を撫で下ろし、俺は意識して普段通りの顔と声を作る。

「何でだよ」

「うるせえなあ。彼女に会うんだろ?風呂入って服洗って、煙草の匂い落とさなきゃなんないだろ?おら、帰れ帰れ」

俺は意識して苦笑しながら舌打ちをする。

「しょうがねえなあ。んじゃ、またな」

そうして、その場はお開きとなった。


・・・恐らくAは気付いていたんだと思う。
俺が煙草に火を点けるふりをしてAから目を逸らしたことも、俺が本当に聞きたかったことも、俺がAに怯えていたことも。
Aの睨みに関する話は、あれから数年経った今でも、話題に上ることは殆どない。

コメント(6)

食事の後Aはゴルゴを開いた、鬼平を開いたのくだりに吹いた(笑)

Aは女の人だったんだ・・・。
もう文章ぐだぐだすぎて読みにくい・・・(´;ω;`)
含み持たせてあって、こーゆー文章好きだけどなー(*^_^*)

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