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[保管庫]コミュの■第1章:黒い雨【前編】

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もみじ第1章:
黒い雨【前編】 (2)




 彼女の足裏を触り、僕という存在を確かめたくはなかったのに確かめ、

 とりあえずへその緒の原点を確認する。

 彼女は決して十字架を取ろうとしなかった。

 規律正しい匂いと演技のような汗、ワイシャツに似た単調な声、動作のひとつひとつに順応する硬玉の呼吸。

 豆電球に照らされた二つのシルエットはまるで調教されたイグアナのように。

 ねえ、あそこで金魚を食べてる子供、かわいいねえ。

 僕の子供が僕より不幸になるなんて言うのは誰だ!

 演じやすい世の中になったものだ、そのうち本物の自分を忘れてしまうさ、忘れたっていい。

 悩みつづけて踊り狂う頭痛は消えない、

 決断しないかぎり灰燼になるまで消えてくれない。

 いいよ、ゆっくり考えて、麦藁帽子のレディーマミーは他人事のように咏っている。

 メンソールの煙が鼻をくすぐり、

 そしてこんな想いを巡らせる。

 もしも我が手に触れているこの雨が、

 人生最後の雨だったら何を考えるのだろうと考えた。

 これから国のため戦地に赴く特攻隊の若者が、

 この細かくて甘く淑やかな雨模様を眺めたなら、
 彼らは心に、どんな所懐を置くのだろうと考えた。

 僕の祈誓はこの優しい雨とともに、止むことはなかった。

 

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