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シャーク◎市屋の面白い話コミュの始まりは面接

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「どうぞお座り下さい」

右に座る白髪の男性がフランク・シナトラの様な
バリトンボイスで言った。
その声を受け私は椅子に掛けた。

この日の為に髪も切ったし、スーツも新調した。
シャツもスタンダードな白。
身だしなみに問題はない。
自己PRだって完璧だし、志望動機だってハッキリ言える。
やるだけの事はやった。
この最終面接さえ乗り切ればあこがれのあの仕事に・・・
そう自分に言い聞かせた。

「早速ですが・・・」

左に座る額が大きくM字に禿げ上がった面接官が口を開いた。
一体どんな質問からくるのか?
私は唾を飲み込んだ。

「当社を志望する理由を教えてください」

在り来たりの質問に私はほっと胸をなでおろした。

「はい」

歯切れ良く返事をすると熱く志望動機を語った。

「ステージにそっとギターを置いたあの日から2週間。
久しぶりに外に出た私は自宅近くのラーメン屋に足を運んびました。
ただ空腹さえ満たされればいい。そう思い注文した一杯の味噌ラーメン。
無口な大将の手からカウンターに置かれた丼からは湯気と一緒に
味噌の芳醇な香りが立ち込めていました。
一口啜ると希望を失った私の心にパッとスポットライトがあたり
もう一口啜ると麺とスープの前奏が始まりました。
その後は丼の中のシンフォニーに夢中になり
気づけば一滴も残さず飲み干していました。
その瞬間ただ空腹を満たしたいと
安易な気持ちで暖簾をくぐった自分を恥じました。
大将渾身の一杯はただの食料じゃない。
欝な気持ちを一掃してくれるこの感じはまさに・・・

向精神薬!

心底そう思いました。
店を出るとき背後から聞こえた店長の
「がんばれよ」の声で気分は更に高揚しました。
常連だけど殆ど話したことのなかった大将。
でも私のことを分かっていてくれていました。
体だけじゃなくて心の芯まで痺れました。
家に帰った私はもう弾くことはないと思ったギターを
再びケースから取り出しました。
ハイになった今なら最高のメロディを紡げる気がしたから。
そして出来た曲がこれです。
聞いてください。
『上から味噌ラーメン』」

「ふざけるな!!!」

突如、真ん中に鎮座していた恰幅のいい面接官が
拳を机に叩きつけた。

しまった・・・

つい熱くなりすぎて
MCの様に語ってしまった。
今日はギグじゃなくて面接と言うのに。
後悔しても時すでに遅し。
3人の面接官は赤鬼のように頬を紅潮させている。
私は即座に非礼を詫びるべく床に這い蹲り土下座した。
そして懇願した。

「もう一度だけ、もう一度だけ聞いてください・・・」

奇跡的に誠意は伝わった。
真ん中の面接官は興奮冷めやらぬ様で
顔面を真っ赤に染めたままであったが
左右の面接官に宥められて着席した。
私はこのラストチャンスを決して逃すまいと
自分の想いを余さず伝えられる様に
ゆっくりとでもはっきりと話し始めた。

「残念ながら楽しい時はあっと言う間に過ぎて
しまうものです。これが最後の曲です。
聞いて下さい。
『まぜそば列車』」

「そうじゃない!!!」

今度は面接官3人揃って立ち上がり叫んだ。
ダチョウ倶楽部を彷彿とさせるチームワークだった。
彼らが怒り心頭であることは
火を見るより明らかであったが
ここで「ヤー!」なんて言われたら絶対に噴く。
ダメだ…真ん中の面接官が竜ちゃんに見えて来た。
噴き出しそうになるのを俯き必死で堪えていると

「歌わせてやれよ」

突然背後で声がした。
顔を上げると目の前の面接官たちが一斉に言った。

「しゃ、社長!?」

社長と呼ばれた男性は
私の目の前の椅子に腰を下ろした。
白いTシャツに身を包み
頭にタオルを巻いた男性の顔を見て
私は言葉を失った。
そこに居たのはあの・・・

大将だった。

他人のそら似かもしれない。
一瞬そう思ったが
大将の着たTシャツの胸には
行きつけのラーメン店である
「うなぎのかわむら」
の文字が。
大将=社長。
疑念の余地はなかった。
しかし、これは私にとって最大のチャンス。
一つ大きく深呼吸をすると
私は精一杯の志望動機を歌に託した。

「それでは聞いてください『チャーシューになりたい』」

タコ糸を回して
豚バラ100周旅行
肉がはみ出ている
卑しい脂で
ハラミのうしろ側
塩を振るまげ力士
生肉の塊は
いま鍋の中に

チャーシューになりたい
チャーシューになりたい
野菜ばかりじゃ
魚介類ばかりじゃ

肉亡き時代に
生まれた訳じゃない
肉を食べたい
肉で米食べたい
肉亡き時代に
生まれた訳じゃない
豚になりたい
チャーシューになりたい

「違ぅううううううううううう!!!!」

「はい!」

「そんなんじゃ全然伝わらない!!!
チャーシューになりたければもっともっと脂っこく!
音符の一つ一つにラードを塗って!!!もう1回!!」

「はい!!!」

タコ糸を回して・・・

直立不動の面接官たちに見守られながら
社長と私の特訓は
いつまでもいつまでも続いた。


後のELTである。

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