ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

奇本昔話コミュの 終幕「孤独な化け物」

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

玉座に座るのは白衣を着た男。
隣に座った美しいまるで人形のような女性。
玉座を守るように女形の木製の人形を先頭に十体ほどで囲んでいる。
「何がそんなに不満なんですか?」
人形のような女性は玉座に座った男に話しかけた。
男は王冠を指で転がしながら言った。
「これで国民は全てピノキオに入れ替わった。だからもうピノキオは、化物でも人形でもない。人なんだ」
「えぇ、そうですね。貴方がそう言うのならそうなのでしょう。玉座に座るのは王だけですから」
「グラスヒールは今幸せかい?」
グラスヒールは顔を付して恥ずかしそうに言った。表情は変わらないが。
「……えぇ、とても幸せですわ」
「僕はね、幸せじゃないのさ」
「えっ」
「あぁ、悪い違うんだ。僕にはね息子のように育てていた一人のピノキオが居たんだ。彼は魂を持っていてね。神様から頂いた奇跡だった」
そう語る王にグラスヒールは無言で聞いていた。
「それにしがみついて意地になって、こうなってしまった。振り返ってみて気付いたのは僕はピノキオを人にする努力より、その人と言う存在全て無くすことしか考えていなかったんだろうね。頑張れば王様は人権を認めてくれると思ったんだけど、失敗して化物扱いされてしまった。何に問題があるのかと言われれば僕の考え不足だったんだろう」
「私はこの健康な体は満足しています。ゼペット様そう自分を攻めないでください」
「いいや、これは僕の罰なのだ。一生抗えぬ業を背負ったのだと。胸に刻むべきなのだ」
そう城の窓ガラスから外を眺めた。
外は煙を燻らせて廃墟のようになってしまった街を直そうと走り回るピノキオ達の姿だった。
食や睡眠の概念の無い彼らを人と呼ぶにはあまりに不気味だった。
「僕はなんてことを」
ゼペットの所属していた国は脱獄から三日ほどで陥落していた。マジュヌーンが壊滅させた街は数えきれなかった。その一つ一つに大量のピノキオ達が人と入れ替わるように生活をしていた。
「これが人かい?グラスヒール」
「貴方がそう言うなら人ですわ」
「なら、僕はなんだい? 今度は僕が化物かい?」
「貴方は、私達にとって神様と同じ意味を持つ存在。私達と壁を作るのならばそれはそうね」
ふと、言葉をつまらせるグラスヒール。
少し考えたように。
「みんな貴方の子供よ? 私を含めた全部」
グラスヒールは少し悲しそうな顔をした。そう言ってしまうとゼペットとの距離を感じてしまうからだ。
「すまない、グラスヒール。僕は考えすぎていたよ」
その時、王城に鳴り響く警報。グラスヒールとマジュヌーンはその音で何が起こっているかすぐの理解した。
「どうしたんだ?」
「敵襲のようですね、生き残りでしょうか」」
「ふむ居てもおかしくはないからな、よし、我々自ら出向くとしよう」
「わかりました、行くわよマジュヌーン」
マジュヌーンは歌いながらあとを追った。言葉では無く鼻唄のような歌だったが、美しい旋律に変わっていた。
城の中庭に巨大な穴が開いている。ゼペットが捕らわれていた地下が見えるはずだった。しかしそこに蓋をするように黒い物が波を打っている。
そこにはヘンゼルとグレーテルが釜の中で眠りについているだろう。
「釜も使えたら良かったんだけどね」
ふと、目を止めゼペットは反応を待たずに歩みを進めた。
釜の上には大きく崩れた逆さの城が赤黒い稲光を出しながら、釜を封印しているように見えた。
もう城壁は壊されていた。土埃が立っている。
「さてさて、どんな珍客なんでしょうね」
手をもんで晴れるのを待つと、そこには信じられない姿があった。
「『ピノキオ』じゃないか……」
それはオリジナルであるピノキオだった。
『ただいま戻りました、お父様』
「おぉ、おぉ」
それを見て両目から熱いものが流れるのを止めることができなかった。
「本物なのか、本物のピノキオなのか」
『何をいってるんですか、僕は僕一人しかいませんよ』
一歩、一歩と。歩みを進めるゼペット。そんなゼペットを掴み後ろに転ばしたのはマジュヌーン。
ゼペットの居た場所にはククリが刺さっていた。
「あー、奇襲失敗か」
ギャハハと笑うのは煙のなかに紛れた白いフードつきのコート。よく見るとそれは狼の毛皮だ。
「貴方はどなた?」
グラスヒールはゼペットの前にたつと強い口調で訪ねた。
「どなたって、私は白頭巾。その転がってる男を私は殺す理由がある。私の敵なんだよ、その男は」
そして、背から身丈よりも長い黒い銃を取り出した。
「でも、私がさせませんわ」
グラスヒールは足を肩幅で広げる。
「女に守られる何てのは男の恥じゃない? ねぇ、ピノキオ」
そう言われたピノキオも後ろに下がった。
『えぇ、全くそう思いますよ。それに噂は本当だったみたいですね』
ピノキオの目はだらしなく被せられた王冠に行っていた。
「何をいってるんだピノキオ。これも全部お前のために」
「何いってんのは、あんたよ。神様ぁー神様ぁーなんて崇拝されるもんだからいい気になってこんなになったんでしょ。あー言わなくて良い。分かってるから」
思わずグラスヒールが足をあげた、この距離ならもう白頭巾は避けることはできない。
ガラスの割れる音。
「ひょー、急に来るとは卑怯だな」
「貴方が言えた口?」
「えー。あっ、そうか」
えへへと頭をかく白頭巾。
『お父様、お言葉ですが。僕は一度だって人間になりたいと言いましたか?』
「……いや、」
『僕はお父様の息子で十分だった。でも、もうそれは叶いません。僕はお父様を許せない』
風が吹き、ピノキオの体が露になると、既にゼペットの作った物はほとんど残っていないほど改造されていた。
『死ぬ気で生きてきました。今からお父様。貴方を死ぬ気で殺します』
「ピノキオォ!!」
ゼペットな悲痛な叫びは空にこだましました。それを皮切りに四人の戦いは始まります。

グラスヒールは横一閃。間合いを取る。その間にゼペットを安全なところに移動させた。
「いくらゼペット様の息子でも許すわけにはいきませんわ」
『貴方に許される筋合いは有りませんので』
グラスヒールは既にフルスロット。間合いを詰めての近接格闘をしていた。
ピノキオの腕が吹き飛ぶ。
『オリハルコンの芯を使った腕だったのに』
少し残念そうに後ろに飛ぶ。
それを回り込み後頭部に踵落としを入れる。
これで頭が吹き飛ぶはずだ。
ピノキオの飛ばされた腕は治ってマントを上手く翻し、横にとんだ。
流石のグラスヒールも、間合いを開けるしかなかった。
「なんで腕がなおってるのですか」
驚愕している。今までにそんな高速で直すピノキオは見たことなかった。
『僕も知らなかったけど、やってみると、以外にできるモノですよ。僕だけのワンオフアビリティー。再生能力です、ある条件を満たせば僕は木片になっても再生します』
「条件?」
『敵様に教えるのもどうかと思いますが』
「それもそうですわね」
『いえ、明度の土産にどうぞ。僕は嘘をつくと再生します。心の中でもそうです』
「じゃあ口をって訳にもいかないわね」
『えぇ、そうですね。この行動事態、自分な嘘をついてますから。貴方に勝ち目はありませんよ』
「それは私をグラスヒールと知ってのことかしら。貴方の意識がなくなるぐらい細切れにすれば良いんでしょう」
『まぁ、そうですね』
あっけらかんと言ってみせるピノキオ。それがブラフか事実か分からなかったが、細切れにするしかないみたいなのは確かだった。
しかし、自分にできるのだろうか。ゼペットの息子である彼を。
悩んでいても仕方がなかった。戦いは始まっているのだから。
ピノキオが走り込んでくる。それを片足で迎撃するグラスヒール。間に合ったと思ったら、頬に拳が入った。
「な、に?」
『言ってませんでしたけど。手とか足とか伸ばせますから』
伸びた手はそのままだったが、それを自分で折ることでもとに戻っていた。
『なかなか不便なんだこれ』
「貴方がいれば木材に困ることはなさそうね」
『それはそうかもしれませんね』
そう言うピノキオ。頬をぶたれた。
今までは当りもしなかったものだが、普通に殴られたのだ。
驚きもあれど、それよりも何処と無く嬉しかった。あぁ、あの人のために戦っている。そう感じることができるからだ。
「本気でいこうかしら」
『温存したかったけどそうもいってられなさそうだね』
二人は睨み合って二人同時に駆け出した。


「あんたか、火の魔人」
コキコキコキとリズムよく鳴る音が歌に聞こえる。
「そうかそうか。でも、私にあんたは役不足だ。大人しく成仏するべきだよ」
そう瞬きすると目が金色に変わる。
「もう私は隠れる必要なんて無いんだ。いこう魔弾よ」
黒い銃から打ち出された七発の弾。七回跳弾して相手を狙う。一発は自由に飛ぶ、自由に七回跳弾する。
その一発を白頭巾は叩き落とす。
「魔弾もまだまだね」
そういって鳥籠のように跳弾を続けマジュヌーンは一度きりの銃撃でなす統べなく力尽きた。
「火も出してないでやんの」
そう言ってピノキオのもとに向かった。


「森を作るなんてどうかしてますわ」
簡単に切れると言うものの、流石のグラスヒールもばててきていた。
きり無く作られる木々にグラスヒールの足技が遅れをとっているぐらいだった。
『なかなかの速度ですね』
そう言ったときに後ろから声が聞こえる。
「あんた待つ筋合い無いから先行くわよー」
白頭巾がゆっくりとゼペットのもとに歩いていく。
『待ってよ、駄目だよ!ダメダメ』
「遅いから無理だわ」
「真面目に戦いなさいよ」
グラスヒールの斬撃は白頭巾にすら襲いかかった。
「あんたのその速度のと私の早打ちだったら、私の方が早いってさっきわかったはずでしゃ?」
いつの間にか構えた銃にグラスヒールの斬撃は砕かれていた。
「貴方たち何者なのよ」
グラスヒールが戸惑っているとピノキオが答えた。
『僕達を倒せるのはヘンゼルとグレーテル位じゃないかな』
そう会話をしている間に終わっていた。
木はグラスヒールの回りを囲み、蔦が足をつかんだ。手近な木にくくりつけられ動くことができなくなった。
『それ木じゃなくて生き物だから』
そう言うといよいよ体の節節が軋み始めた。
「嘘おっしゃい」
消え入るような声でグラスヒールが言うと、ピノキオは答えた。
『嘘だけど』
グラスヒールは意識を失った。
『ごめんねおねぇさん』
ピノキオは意識の無いグラスヒールの胸めがけて巨大な杭を打ち込んだ。きっともう目覚めることはないだろう。


『結局助けられたみたいになったじゃないか。やだよ借りとか言われるの』
「あんなの借りじゃないわよ」
そう言い終わる頃に、地面に伏すゼペットの姿があった。
「これが、この国の王とか笑えるわ」
『お父様……』
既にゼペットはこの時点で壊れていた。
「ふふ、手に入らないなら壊せば良い。この国もこの世界も」
「まるで子供ね」
黒い銃を構える。その距離は二メートルほどだった。
「目覚めさせる。魔女釜の魔女を」
アハハハと大きく笑うと逆さの城が砕けた。そして黒く巨大な釜は広がりヒビが入る。
「ちょっと、ピノキオヤバイかも」
『待ってよ、今探してる』
「世界樹で作ったからだなのに役立たずね」
『教えないよ?』
「どこ?」
『あそこ』
「ほんとは?」
『右の亀裂の入った場所から斜めに五メートル入った場所にある。多分本体だけどなにかに守られてるかもしれないから気を付けて』
「はいよ」
魔弾は既に打ち込まれていた。
手応えは無い。
そしてヒビは広がり中身が姿を表した。
そこの中心には一人。グレーテルが踞っていた。
六つの弾丸を止めたのはそのグレーテルの回りを回る釜たちだろう。
白頭巾は一つ弾丸を叩き落とす。
「これめんどくさいわね」
こう言うギリギリの場合には命取りになるだろう。
「アハハハ、お前たち終わりだアハハハ」
ゼペットはピノキオも白頭巾ももう見えていないのだろう。
その声に真っ先に反応したのがグレーテルだった。
白目は黒く赤い瞳に光が宿る。
「グギギ」
口角が上がり歯を見せて笑う。
片手を横に伸ばすと釜がゼペットの近くに向かう。そして、その釜から出てきたのは虚ろな目のヘンゼルだ。その手にはアゾット剣が握られていた。
「なによあれ」
白頭巾がその異様な様に思わず口を開いた。
『死者を武器として釜にいれた。グレーテル、自分の兄ヘンゼルをなぜ』
「やっぱり死んでるのあれ」
『うん、じゃなきゃ術者が好き勝手に取り出せないはず』
そして、二人はヘンゼルがゼペットの命を断つのを止める行動を取っていた。
アゾット剣は撃ち抜かれる。剣を無くしたヘンゼルは釜に飲み込まれていく。
首を大きく回しグレーテルにこちらが見つかった。
「へへ、あんたにとられるわけにいかないのよ。私の敵なんだから」
そしてゼペットは巨大な木の幹に飲み込まれていく。
『えぇ、僕達が先客ですから貴方には引き下がっていただきます』
グレーテルは口を開く。
「あー、うー、」
黒い釜は無数に飛んでいる。それが一つに纏まっていく。
「なに」
バチッと言う音と共に爆発音。
『あれは何なんだ?』
木に当りその上半分は消し飛んでいたが、そこにはゼペットは居なかった。
「あんたがわかんなくてどうする」
バチッ。
ピノキオが地面にさわり木を生やす。そんなものでどうなるわけでもなく。撃ち抜かれピノキオは弾き飛ばされた。
「仕方無いわね」
金の目を使う。
しかし、グレーテルは片手から炎を出して全てを燃やし尽くす。
爪を立てて風を切れば五枚の空気の刃が襲う。
「単純にさっきのお姫様の五倍は厄介ってことね」
そう言ってギャハハと笑う。
「この国の最後に見会う最高の戦いになるかねぇ」
銃を構える手は素早い。しかし、それを遮るものがいる。
気付いた白頭巾。
後ろに下がり、半歩右に、左斜め後ろに飛び退き、バク転で避ける。
すべての場所に銀の針が刺さっているヘンゼルだ。立て続け止まることの許さないグレーテルの爪。
撃ち落としてなかった自分を狙う弾丸に銃身を当てて体ごと吹き飛ばされながら避ける。
「いつつ」
瓦礫に突っ込み、その弾自体の威力も十分にあるのが分かる。止まること無くバチッと音がする。
「流石に無理だわ」
見えない何かが自分を襲うのを想像した。
仲間も家族も全て居なくなって、最後に残ったのは白頭巾だけだった。その場にいたピノキオと死に物狂いで鍛えてきた。この時を待ちながら。ピノキオはそんな白頭巾を諭していたが結果ピノキオももうなにも言えなくなっていた。だから、ゼペットは私たちの手で止めなくてはならない。ゼペットが何を考えてたなんか知らない。それは私が知る必要はない。私は私の信じた道を行くだけだ。
「こんなとこで終われるか!!」
白頭巾がいた場所は閃光と共に消し飛んでいた。
『あぶなかった』
「もっと優しく出かなかったの?」
足に蔦を絡めて宙吊りの白頭巾。
『それは無理だったよ』
「嘘つくな」
『嘘だよ』
「ムカつく」
グレーテルは近くに邪魔が入らないとゼペットを探して木を破壊し出していた。明らかにグラスヒールよりも強大な力の塊に慌ててピノキオは戻ってくる。それを追うように体を捻りククリで蔦を切る白頭巾。
しかし、既に育った木は大樹に代わり、簡単には傷はつかない。
『あれが、有名なヘンゼルとグレーテルですか』
大樹に爪を立てバリバリと引き剥がす姿は知略の一つもない野性的な、もっと言えば野蛮な姿だった。
「なりたくてなった訳じゃないわ。目を背けるんじゃないわよ」
白頭巾は銃を構える。それにグレーテルは気付いていた。人差し指で白頭巾を指すと赤い目をギョロリと動かした。
白頭巾の銃声と同時にグレーテルの回りには空の星のような釜の数。
迎撃するにも多すぎる武器や魔術が白頭巾を襲う。体を翻し白頭巾はそれを避けるが、避けきれない。白頭巾が避けきれない攻撃をピノキオは木を生やし止めるか起動をずらしていた。
「私はこんなところで立ち止まってる暇はないの」
転がるように避けた白頭巾は続けざまに二回引き金を引いた。その瞬間もグレーテルの攻撃は止むことはない。
瓦礫を蹴り上り建物の残骸を走る。足場が次から次へと崩れていく。
グレーテルは指を指したまま止まっている。
その時だ。
「うぐっ」
炸裂音と閃光と共に白頭巾は何かに撃たれた。倒れたと同時にピノキオは木で白頭巾を囲んだ。グレーテルは白頭巾が見えなくなり暫くすると、ゼペットの居るきのほうに木の方に向かう。しかし、木はどこかに消えていた。
『見えないようにした』
巨木を隠されたことでグレーテルはピノキオの方を見る。
ピノキオは身構え、グレーテルは笑った。
対照的な二人、先に動いたのはピノキオだった。片手を地面に付けて世界樹の根で編んだ牢獄グレーテルを閉じ込める。グレーテルが爪を使おうと揺れはしてももびくともしない。
しかし、ピノキオの動きはあまりに遅かった。
「けらけらけらけら」
笑うグレーテル。片腕を空に掲げたグレーテルを中心に無数の釜が分裂をしながら回転をする。
『なんだよ、これ』
巨大な円盤になった釜は回りのものを手当たり次第に飲み込んでいく。吸い込みながらゼペットを探しているようだった。赤い稲光を走らせる。落ちたところからブロック状に変わり燃え跡形もなく消え去る。
その赤い光はピノキオに襲いかかる。マントに穴が開く。脱ぎ捨て走る。
足元が先読みされ分解される。
腕がかすったが、その瞬間に新しい腕を生やす。
『こんな力なら、きっと力尽きるのも直ぐだろう』
それに、と胸の中で思った。
グラスヒールとマジュヌーンしか居ないのに押さえることができたのだ。今の僕たちに出来ないでどうする。
その時、白頭巾を隠していた木は赤い稲妻に当てられ地面に投げ出された。
『あっ』
言うより早くに釜に吸い込まれる白頭巾。ピノキオはどうすることもできなかった。
『くそっ、僕の力不足で』
ピノキオは感情を露にした。こうなるといけないと自分でわかっている。
それが世界樹との約束だった。
落ち着け、落ち着け。
胸に反芻する言葉は余計に拍車をかけているようだった。
その時だ。稲光の他に銀の針が飛ぶ、気をとられ行動が遅れる。
見事に数にして14本の針が体を貫いた。
『ぐぁあぁぁぁ』
勢いは予想以上で壁に打ち付けられる。泣き叫ぼうが抜ける気配はない。ヘンゼルが手首を返さない限りピノキオは壁に捕まったままだった。
「けらけらけらけらけらけらけらけら」
こちらを指差すグレーテル。
その瞬間驚いた。
釜から出てきたのは黒い銃。そしてそれの使い手だった。銃口はこちらを向いている。引き金を引かれたら終わりだ。
虚ろな白頭巾。
その目が金色に替わる。
「なぁんてね!」
振り返り釜の中に銃口を向け引き金を引いた。
「狙え魔弾。目標は釜の破壊だ」
その瞬間七発目の弾丸に弾かれ外に出される白頭巾。脇腹を貫通したその弾は地面で回転して姿を消した。
黒い釜はグレーテルの回りに集まりだしその姿を覆った。黒い塊はゆがみ、体を奇妙に形を変える。黒々とした渦を巻き、瞬間、手当たり次第に鋭く貫く巨大な角を伸ばす。無残にも王城を瓦礫の山へと変えていく。
崩れる王城が生んだ土埃が晴れる頃、黒く渦巻く釜は小さくなっていた。
そこから吐き出されるヘンゼルとグレーテル。
二人は既に息をしていなかった。それよりも、ずいぶん前に死んでいた様な姿をしていた。
「人間の意思って強いのね」
『気持ちだけでいかされていたのかな』
「そうね、でも。これでゆっくり休めるでしょう」
釜はくるくると尾を引くと何処かに消えてしまった。消失したのか否か、分からなかったがこの場から居なくなったのは確かだった。
「最後よ、お父さんにさよなら言わなきゃ」
『うん、これで終わりだ』
地中深くに潜っていた世界樹を呼ぶ。
その中心にゼペットは磔にされていた。
「ふ、ふふ。我が息子ピノキオを生き返らせてくれ。私は、それが叶うならなんでもしよう」
ふふふ、と笑うゼペット。
白頭巾の銃口は間違いなくゼペットの眉間を狙っていた。
「あぁ、人形でも私の息子を抱けるなら、私は命を売ろう」
懐古する意識の中にゼペットのしたことが露になる。
「やりずらいわね、打とうかしら」
『ちょっと待って』
「私の働きがピノキオに人権を与える。私が頑張ればピノキオは人間になれる」
磔にされていたゼペットはそれを引きちぎろうと必死にもがいていた。
「こんなところで、こんなところで終わるわけには行かない。私は私の息子を――」
静けさが木霊した。銃口には煙が立ち、構えた白頭巾が驚いていた。
「なっ」
『もう見てられない、もう聞きたくない』
「あはっ、親殺しか。やったなピノキオ」
『なに?』
そう振り替えるピノキオ。もうわかっていた。
「最後よ」
『うん、最後だね』
「最後のダンスを踊りましょう」
『地に伏す方が人間で』
「生き残ったら化け物の」
『最後のダンスを始めよう』




昔々あるところに、人の住まない国がありました。その国には、ただの一匹の化け物しか居なかったそうです。
孤独な化け物は月夜に歌い。自分以外は人間だったと泣きました。
ただ一匹の化け物と人の居なくなった国の話。



おしまい。



原案:凸傷
作:763
編集:2y

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

奇本昔話 更新情報

奇本昔話のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング