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7days,7flowersコミュの珈琲が飲めたら

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新しい建物が建つと、以前そこが何だったのかって本当に思い出せなくて、いかに自分が何も見ないで歩いてるかを思い知ったりする。

その日もそんな感じで、こんなところにこんなかわいい建物あったっけ?その前には何があったんだっけ?と思っていた。勿論、そこに何が建っていたのかは思い出せないんだけれど、何となく、そこには何も無かったような気がしていた。建物が、という意味ではなくて、例えば空き地で行き止まりになっていたところにある日突然道が出来たような、切り立った崖のその先に急に家が建っていたような、そんな違和感があった。

だけどその違和感は、現実の流れるスピードにかき消されてしまうほどの気配しかなく、その可愛らしいドアノブに手をかけて、どんなお店か確かめてみたい、という興味に勝てるほどの強さは全然無かった。

何となく、全体的に丸い建物である。
アンコール・ワットみたいな、屋根が絞り出したクリームみたいな形をしている上に、丸い飾りが付いているし、壁も少し丸みを帯びていて、マッシュルームに似ている。よく見ると、窓枠や建物の周りに巡らせた柵に細かい装飾が施されていて、入口近くにある赤い小さなポストの上には小鳥の像がちょこりと乗っていた。

すみませーん、

中に入ると、こぢんまりとした椅子とテーブルが何組か並べてあった。どうやらカフェかレストランであるらしい。奥にはところせましと、それでいて使いやすいように整理して並べられた調理器具と木で出来たカウンターが見えた。私は少し疲れていたので、ほとんど無意識に1番近くにあった椅子を引き、腰かけた。

すると、奥のカウンターの中にあるドアが空いて、ドアの半分くらいの大きさしかない小リスちゃんが出てきた。小リスちゃんは白いふりふりの前かけをして、かわいい白の三角巾と、首には赤いスカーフを巻いていた。

あら、お客さんなの?
ごめんなさいね、あたし今日は何となくお料理をするって気分じゃなくて、お部屋からお庭のあじさいを見ていたのよ。

小リスちゃんは言った。
私はがっかりしてしまった。
ここがカフェかレストランなら、きっと何かあたたかい飲み物が飲めると思ったのだ。
だけど小リスちゃんが料理をしたくない気分ならば、無理にしてもらっても仕方がない。

でもね、いいのよ。
あなたの顔を見たら、あたし料理をする気持ちになったわ。
だってあなたとっても休憩したいんでしょう?そういう顔をしてるもの。

小リスちゃんははりきった様子でやかんを火にかけた。よく使い込まれた様子の、銀色のやかん。
わたしは 申し訳ないけれど、珈琲は医者に止められているの、 と小リスちゃんに声をかけた。
小リスちゃんは、そんなことはわかっているわ、というふうに短い腕をちょいちょいと振った。

あなたみたいな弱った人に、珈琲なんて出すわけないでしょう

小リスちゃんは歌うように言った。

ところであなた、お姉さんなの?お兄さんなの?

小リスちゃんは小さな踏み台の上に乗り、何か作業をしながら私に言った。
わたしは特に、そういうのはないんだとおもう、と答えた。

そうね、でもわたしはあなたが目元の涼しげなお兄さんだったらいいなと思うわ。だってわたしは綺麗な男の人が大好きなんだもの。

小リスちゃんはむじゃきにそう言った。

少しして、小リスちゃんはオレンジの香りがする紅茶と、雪玉みたいな白くて丸いブールドネージュをいくつか、木のおぼんに乗せて運んできてくれた。

ゆっくり召し上がっていってね。
ゆっくりするって、何につけても、大切なことよね。

小リスちゃんはそう言うとふわりといなくなってしまった。
小リスちゃん…

小リスちゃんが可愛らしい女の子(もしくはおばさん)だったので、ぼくは自分のことを男性でもいいかなという気持ちになっていた。
ぼくは男性で、美しい栗色の髪と長い指を持っていて、休日の昼下がりに小リスちゃんとバスケットを持ってピクニックに行くんだ。そういうのって何よりいいじゃないか。

だけど小リスちゃんはぼくの前からいなくなってしまったなぁ。それは何故なんだろう?


ふと気がつくと、先程小リスちゃんがお茶を入れてくれたカウンターの近くの席に、グレーのうさぎさんが腰かけていた。背すじをピンと伸ばし、黒い蝶ネクタイをつけている。

うさぎさん、

ぼくは少しびっくりしたので声をあげてしまった。
うさぎさんは少し笑ってこっちを見た。

ねぇ君、

うさぎさんのテーブルの中央には小さな花瓶があり、そこに生けられた野草の花束に窓からの日差しが柔くあたっていた。

ねぇ君さ、それ、忘れるわけにはいかないの?

唐突に言われたけれど、わたしには何のことだかすっかりわかっていた。
だけど初対面のうさぎさんに言われて、すぐに忘れられるようなことでもなかった。

きみが笑顔の綺麗な女の子ならいいのにね。そしたら、ぼくは君をこのふさふさの胸にうずめて、可愛がってあげることができるよ。

わたしは失礼なうさぎさんだな、と思ったけれど、だけど本当にそうならいいのに、と思った。何も考えずに、うさぎさんのふさふさに顔をうずめて泣いてしまいたい。それならわたしは女性でもいい、髪の長い、おしりとおっぱいの丸い、カーディガンのよく似合う女性がいい。

うさぎさんはおもむろに立ち上がると、ゆっくりわたしのほうに近づいてきた。口元には相変わらず笑みをたたえて、仕方のないひとだね、とでも言うようにすこし困った眉毛をしている。

うさぎさんは、そのピンとした耳の外側の部分をわたしの手の甲に当ててきた。ふさふさしていて、くすぐったい。わたしはクスクス笑い声をたてた。

ねぇねぇ君、君は仕方のないひとだね。そんなこと気にする必要ないのにさ。それならぼくともっと楽しいことをしようよ。天気の良い平日の昼間に、ベッドでごろごろしながらはちみつを舐めたり、天気の悪い日には、君の髪のにおいをかいでどのシャンプーを使ったか当てる遊びをしよう?

うさぎさんの右手がわたしの首すじに触れ、つつつと頬に上がってきた。うさぎさんの爪は尖っていて、金属みたいな感触がした。

ぼくといるあいだは、そのこと、忘れていいよ。きっと忘れさせてあげるから、だから女の子になってよ。女の子でいいじゃない。

うさぎさんの息はあがり、触れている指先ががくがくと震え始めた。
わたしは悲しい思いで、パチンとまぶたを閉じた。その瞬間にうさぎさんは消えてしまっていた。
うさぎさん…

わたしは家に帰ることにした。
ねぇお空の神様よ、忘れずに悲しくなくなる方法はありませんか。
いなくならずに傷つけない方法はありませんか。

ねぇ神様よ、彼らはどこに消えたのですか。


コメント(6)

幻想的。なのにどこか生々しくもある。いい意味で。

街や建物の記憶が上書きされてしまうのは、そうしないと迷子になってしまうから。
対人関係にも地図のような一面があって、きっと測量が客観的で更新がまめな人は、迷わない。
ちなみに私は慎重になり過ぎて“楽しく迷えない”派です。
>>[1] ありがとうございます!
そうですね、消えてないんですね。なんかハッとしました。
絵本いいですよね。やっぱこういうフィクションの世界がないとわたしは生きられないなぁと思います。
>>[2] ありがとうございます!
なんかねー上書きできてないんだと思うんですよね。いや、別にこれ自分のこと書いたってわけじゃないんですけどね。
わー!おもしろかったです!なんとなく久しぶりにmixi開いたら、こんなにおもしろいもの読めたから、なんかしあわせです。

私は生々しいものを生々しくばっかり描いてしまうから、こういうメルヘンな、でも生々しいものを読むと「狡い!」と思います(笑)また読みに来ます。
>>[5] わー!ありがとうございます!しあわせになってもらえて嬉しいし、ずるいと思われて、してやったりです(笑)

毎日ただの現実が続くと、たまには現実じゃないことがあってもいいじゃない、ってなるので、書きました。

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