ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

7days,7flowersコミュの恋と耳たぶ

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
就活の終わったその足で、池袋の駅をただひたすらに東へ東へと歩いていると、突然に肩をむんずと掴まれて、強制的に立ち止まらされた。



なっ!?!

と思って振り返ったら、すごい泣き顔の女が必死な形相で俺を見つめていた。




全く知らない人だ…




他人の顔を覚えられない俺だけれども、さすがにこんなにまで泣かれないといけないほど濃ゆい思い出を作り上げた相手なら、顔を忘れる訳はないと思う。

えっえっ

と嗚咽を止められない様子のその人は、俺の左肩を握りしめたまま、何かを言わんとしているものの泣きすぎて言うに言えない様子だった。

あの、『恋の門』という映画に出ていた女の子に似ていなくもない。でもいかんせん肌荒れが痛々しい。繰り返し出来たにきびの後が、彼女の闘いの痕のように頬に刻まれている。





「まぁまぁ、落ち着きなさいお嬢さん」

俺はとりあえず彼女をなだめる為に言って、泣きじゃくるその人をよたよたと通路のはしっこの柱の側まで移動させた。
その間もその人は俺の左肩を掴んだままだった。

俺はその人が気が付かない様に横目で腕時計を確認した。映画が始まるまでにはまだ時間はある。

俺がだだ広い池袋駅を黙々と行進していたのは、東口を出て徒歩15分くらいのところにある映画館に行くためだった。好きなアニメの公開初日なのだ。

うまくいかない就職活動の鬱憤を晴らそうと、俺はこの日を心待ちにしていた。


原作の漫画とは結末が違うらしいけれど、あのエピソードだけは削らないでほしいなぁ。
そういえばあのキャラクター役の声優が病気で降板したと聞いたが…代わりの声優は2ちゃんでは散々叩かれていたけれど、個人的には好きな声優だから、期待し





「あの…」



女の人が突然口を開いたので俺は我に返った。

しまった、つい違う世界に行っていた。


その人はいつの間にか落ち着いていて、左肩から腕は離れていた。俺は良かった、と思った。





「落ち着かれましたか、ではぼくはこれで」

立ち去ろうとすると、女の人のまなこからぶわぁぁぁっ、と涙が盛り上がり、ざざざざという感じで流れ落ちてきた。目の白いところが全部真っ赤だ。



俺はあわわわ、と思って

「どうされました」

と言ったら、

「事情を聞いてくれてもいいじゃないですか…」

と言われた。
確かにそうかもしれない。



「それは申し訳ない、で、何がありましたか」

「あなた、変な人なんですね…」



少し考えてみて欲しい。
仮に俺が変な人であったとして、池袋駅の真ん中で初対面の人間に号泣しながら話を聞けと訴えているこの人は、変な人ということにはならないのだろうか。

だがしかし、変な人が他人に対して「変な人」と言ってはならない、ということもないだろうから、別に構わないのかもしれない。



どう答えていいものかわからず佇んでいると、その人は唐突に

「似てるんでしゅ」

と言った。
語尾がおかしいのは、別に赤ちゃんプレイをしようという訳ではなくその瞬間に同時に彼女が鼻をすすったからだ。



「あなたの後ろ姿は、私の好きだったひとにすごく似てるんです」

彼女は目も鼻も真っ赤にしながらそう言った。鼻水がすすりきれずにちょっとだけ出ている。





「それはどうも…良かったです」

「何が良かったんですか?!」





…何故今怒られたんだろう。



「だって、あなたがそんなに泣かなければいけないくらい好きだった男の人に、ぼくは似ているんでしょう。
それはぼくにとっては光栄なことかと」

女の人は小さな声で「あぁ…」と漏らした。
とりあえず納得してくれたようだ。



「でも、私の好きなひとは、あなたみたいに変人じゃなかった」



彼女は涙を拭いながら、何故か負け惜しみみたいに言った。
“変な人”よりも“変人”の方が、ちょっと傷つくのはどういう訳なんだろう。





「でもその肩幅とか、髪型とか、胸板の厚さとか、黒いスーツとか、肌の白さとか、ななめから見た睫毛の長さとか、耳たぶとか、ぜんぶすごい似ている」




(耳たぶ!)

と俺は思った。



俺は誰か1人でも、耳たぶを思い出せる知人がいるだろうか。いや、いない。

俺は恋愛経験が無いという訳ではないのだけれど、数少ないそれは、きっと彼女のそれとは全然違うものなのだろう。
だって俺は去っていった恋人たちの耳たぶを思い出すことができない。

そしてそういうところが、恋人たちにとっても物足りない部分だったのだろう。



「耳たぶかぁ…耳たぶねぇ…」



俺が感じ入ってウンウンと頷いていると、女の人はまだ涙のたっぷりと溜まっていそうなその瞳をゆるませて、クスリと笑った。



「本当に、全然違う」



と言って。



「そんなに違いますか」

「うん、全く」


彼女は妙にキッパリと言った。





「ずっとここにいて、いっぱいいろんな人を見たけれど、あなたが1番似ていたのに、あなたが1番似ていなかった」



彼女は苦笑するみたいな、泣き笑いみたいな、何かを諦める時の様な表情で笑った。



ずっとここに?と問いかけようとした俺の一瞬早く、彼女が

「ねぇ知ってる?」

と言った。



「あなたの左の耳たぶの裏っかわには、ピアスみたいな、小さなかわいいほくろがあるんだよ。そんなところまで似ていたから、ほんとにびっくりしちゃった」



俺は勿論、そんなことは知らなかった。

かわいいだなんて、女性から言われたことは、もしかしたら初めてかもしれない。それが例え、耳たぶ限定のことでも。





と、その刹那に、彼女は忽然と姿を消していた。





本当に、跡形もなく、“消えた”ということよりも“いた”ということの方が信じられなくなるくらい、見事ないなくなり方だった。




俺はたっぷり5分間ほどその場に佇んだ後、我に返って時計を見たら映画の上映時間まであと30分を切っていた。

とりあえず進まなければ。



大体、俺は池袋という場所が好きではないのだ。

駅の端から端までの距離が尋常じゃないし、
その間歩かねばならない地下街の混み具合もうざったいものだし、
地上に出ても何1つ精神力をチャージしてくれそうなものもなく(例えば小さな公園とか、噴水とか、あずまやとか)、

狭苦しい土地にやたらと家電量販店が詰め込まれ
(ビックカメラに至っては池袋だけで6店舗も!)、
マイクで何事かを叫び散らす男女のあの独特の口上が癇に触って仕方がない。



それなのに、あの人は、ずっとこんなところにいて、アリの様に無数に蠢く人々の中から、俺の耳たぶの裏側にあるホクロを見つけ出した。





恋というのは、すごいもんだなぁ。





俺はまた1人ウンウンと頷きながら、東口の出口を抜ける。

街並みは相も変わらずだったけれど、そこを歩く人々1人1人に、もしかすると耳たぶを思い出せる相手がいるのかもしれない。
この巨大な横断歩道を作り上げた人にも、あの無機質な建物を建てた人たちにも。

うん、そう思うと、なかなか悪くない気分だ。



俺はまた1人ウンウンと頷きながら、目的地へと向かう横断歩道を小走りに渡り始めたのだった。

コメント(2)

すっげぇおもしろかったです(^▽^)♪
楽しく読ませていただきましたー*
この女の子、なんだかうまく言えないけれど好きだって思った。だから脳内で、映像化する際に、勝手に「肌荒れがひどい」ことは消してましたw

ぼくも就活うまくいってないけれども、
「俺」くんのようなタイプの人間ではないからか、周りにこんな男の子がいないからか、
この男の子の存在がなんだか不思議で仕方なかったです。…んん、うまく言えないけど。

「お嬢さん」って使う男の子ってどんな人なんだろうってなった。

ええっと。
コミュニティ参加させていただきます。他の作品も読むのたのしみです。
よろしくお願いします
(._.)_
> (・×・)ともくんさん

この男の子は私のマイミクさんをモデルにしてるんですよ!いや本人に言ったら怒られるかもしんないですけど(笑)けっこう変わったひとですね お嬢さんとは言わないだろうけど、言ってもおかしくない雰囲気です。

この女の子、今ふうに(?)言うと多分“メンヘラ”ってやつなんですけどね、人を好きになることは尋常じゃない、こころが普通じゃない時の要素が必ず入ってくるものと思うんですよね。

好きになってもらえたなら嬉しいです。何かともくんさんのこころに良いものが生み出せたなら、うん。買いた甲斐があります。


ぜひぜひ他のも読んでやってください!!もちろん、イマイチだった、っていう感想も、なんでもお待ちしております(´∀`*)

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

7days,7flowers 更新情報

7days,7flowersのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。