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一条家御庭番秘帳コミュの(1)第一話「Good morning!Adventure!」

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 ゆうしゃたちのけんが

 まおうをつらぬいた

 まおうはたおれた

 そしてまおうはいった

 ゆうしゃたちよ

 よくぞわしをたおした

 これからはおまえたちが

 わしのかわりに

 せかいをかえていくのだ


 ルーンミッドガッツ王国・王都プロンテラ。
 この世界最大の都市と、故郷の天津(あまつ)・瑞波国(みずはのくに)との最大の違いは何か、と言われたら、
 「それは夜の明るさだ」
 と、無代(むだい)は即座に答えるだろう。
 魔法の灯火が所狭しと配された町並みは、まるで都市全体が光を発しているかのように、真夜中でも昼のように明るい。
 (…明るすぎる街…)
 朝の、覚醒に向かうまどろみの中で、無代はいつものように、独り言とも愚痴ともつかない思考の中。
 (…だから、俺は迷ってしまったのか…)
 責任転嫁と現実逃避。
 薄目を開けると、いつもの宿の部屋。
 カーテンの隙間から入り込む光の量は、昨夜ベッドに入った時のそれと大差ない。
 ただ、窓の外から聞こえるニワトリの雄叫びが、一日の始まりを力強く宣言している。
 それは革命を告げる改革者の声にも似ていて、実際、彼らにとっては毎朝が革命なのかもしれない。
 スープにも丸焼きにもされず、生き延びた革命の朝。
 (そしてこれから断頭台に送られるのは…俺というわけだ)
 自嘲と諦観。
 …するり。
 そんな思考を読まれたかのように、薄い毛布の中から、ずっとそばにあった素晴らしい温もりと触感が消失した。
 (処刑前の、最後の饗応も終わり…か)
 「あ…ごめん、起こしちゃった?」
 若い女の、生命にあふれた張りのある声。
 同じく生命力を凝縮したかのような、見事な身体の曲線を隠すものは、流れ落ちる豊かな髪の毛だけ。
 たった一夜だけとはいえ、自分に与えられたものの価値と、同時に失うものの大きさを実感させられる。
 「いや…こっちも起きたとこ。ニワトリの革命軍に、処刑台へ連行されるとこさ」
 「あはは。彼らに慈悲を乞うても無駄なのですぞ〜。大人しく処刑されることね」
 芝居がかった台詞を棒読み。同時にてきぱきと衣服を身につけ、髪を結っていく。
 別れを言うなら早くしないと、彼女は別の人になってしまう。
 「モーラ、あのな…」
 「今日限り、でしょ?」
 化粧の手を休めず、手鏡から目を離すこともなく、彼女は答える。
 「…ああ」
 「宿の女将からね、聞いたわ。今日限りで宿、追い出す…って」
 「…」
 「溜まってる宿代、代わりに払ってくれるなら…って言われたけど…」
 「…よしてくれ」
 「ふふ、言うと思った。…ごめんね。ヒモ作るほどの余裕はないの」
 「当然だ」
 精一杯のプライド。いや、単に女のヒモに成り下がる度胸も無いだけか。
 「…これからどうするの?」
 「…それ聞いてどうする?」
 そのくせへそ曲がり。
 「その言い方ないんじゃない?  最近、狩りも露店もしてないでしょ? …故郷に…天津に帰るの?」
 「…わかんね。帰らない…と思うけど…、帰りの船賃も無いしな」
 「あのね、無代」
 女が男の方を見る。視線、それが男に与える最後の贈り物。
 だが男はその受け取りさえ拒否する。
 「すごく月並みだけど、出会った頃の貴方は素敵だった。光ってはいないけど、輝いてたわ」
 「…何だよそりゃ」
 「…今は、光ってもいないし輝いてもいない。そんだけ」
 「…だから、何だよそれ」
 女に非難されてることは分かる。でもそれしか分からない男。
 「…行くね。さよなら」
 だから一夜で愛想を尽かされる。
 「…仕事熱心だな。いくら何でも早すぎないか?」
 「…違うわ。男の部屋から朝帰りするとこ、人に見られるワケにいかないだけよ。…カプラ嬢なんだから」
 そう言い捨てて、他のモノもまとめて捨てて、部屋を出て行く女はもう「モーラ」ではない。
 『デフォルテー』
 その名を名乗ることを許された、この世にたった4人しかいない交代要員『ディフォルテー・ナンバーズ』の4人目。
 それが彼女、モーラの『昼の顔』だ。 

 『カプラ社』

 その会社名と、その従業員である『カプラ嬢』を知らない人間は、この世界に1人もいないだろう。
 世界中の街角に、時には町でさえない危険なダンジョンの入り口に24時間、1日も休まず立ち続ける女たち。
 その周囲に展開される強力な魔法領域を使って空間を操り、時には冒険者たちの荷物を預かり、時には別の町に冒険者を転移させ、またテレポートの魔法の帰還位置を正確に記憶する。
 たとえ瀕死の状態でもテレポートの魔法、あるいは『蝶の羽』と呼ばれるアイテムを使えば、必ずこのカプラ嬢の元に帰還できる。
 世界中の、それこそ無数の冒険者たちが、この彼女らの力を頼りにダンジョンに挑み、その力を信じて貴重な荷物を預ける。
 それ故に『カプラ嬢』は、冒険者たちにとって単なる『窓口』以上の意味を持つのだ。
 その数は『ディフォルテー』を筆頭に6人。

 『ビニット』

 『ソリン』

 『グラリス』

 『テーリング』

 『W』

 だが『6人』と言っても本当に6人しかいないわけではない。
 例えば『ディフォルテー』は世界3カ所に同時に配置されているし、『テーリング』に至っては9カ所だ。
 カプラ嬢のこの名前はだから、言うなれば『役名』である。
 一つの『役名』に対し、4〜20人ほどがその『名』を名乗る事を許され、さらにその下に見習いの新人を従えてローテーションを行う。
 中でも『ディフォルテー』は『長女にして最初のカプラ嬢』という『設定』であり、多くのカプラ嬢の頂点とされる『役』。
 決して1人の男が、まして文無しで宿屋を追い出されるような男が『モノ』にできるような存在ではない。
 「…やっぱり仕事熱心なんだろ…」
 ドアが閉まる。そして男は永遠に失う。
 (…いや、元々手に入れてもいないんだ…)
 そうとでも思わないとやるせなさで潰されそうな、この世の宝の一つ。
 「…ゆうしゃは ちからつきた…」
 最初の宝箱を目の前にして、冒険は終わる。

 言い訳する相手が自分だけ、という状況は、情けなさのレベルでいうとかなりの上位にランクされる。
 冒険者としていっぱしの名を上げよう、と故郷を出たのが半年前。
 新人冒険者を受け入れる『冒険者アカデミー』をさっさと卒業して商人に転職。そこから、昔からちょっとした憧れのあった鍛冶士・ブラックスミスになるのが目標だった。
 森でオオカミ退治。下水道でゴキブリ潰し。草刈り、キノコ狩りの日々。
 夢中でかき集めた経験値と金。
 だがプロンテラを離れ、ちょっとばかり強敵であるオークに挑んだあたりから、しかし調子が狂い始める。
 自分と敵の強さのアンバランス。欲しい装備と稼ぎのアンバランス。
 周りの冒険者がみんな自分より強く、金持ちに見え、彼らの背中がどんどん遠くなる感覚。
 それがいつまでも続くんじゃないかという憂鬱。
 そんなのは全部自分の問題で、解決できるのは自分だけなのだが、その肝心の自分とやらが変調を来してはどうしようもない。
 新しい武器でも買えば、と無理して銘入りの武器を買ってみた。
 新しい女でもできればと、高根の花を口説いてもみた。
 結果として分かったのは、足りないのが自分の『中身』だという、当たり前と言えば当たり前の事実だけ。
 残ったのは言い訳する自分と、その言い訳を聞く自分。
 やがて最後には自分さえも消えて、言い訳だけが残るという情けなさの特上レベル。その予感におびえる特大の憂鬱。

 なけなしの荷物をまとめて食堂へ降りる。
 「おはよう、女将さん」
 「おはよう、無代さん」
 帳場の女将に『さん』付けで呼ばれた。どうやらまだ客扱いしてもらえるらしい。
 が、いっそそのまま叩き出された方が気が楽な状況だけに『嫌み』にも思える。
 「昨夜はお楽しみでしたね、無代さん?」
 「『棒読み』が身にしみるよ」
  やっぱり『嫌み』らしい。
 「朝飯ぐらいは食って行きな。武士の情け、って天津の習慣だろ?」
 「ありがたいけど、俺は武士じゃないぜ?」
 「あたしもさ? ほれ」
 「…すまん」
 心遣いは有り難いけれど、さすがにタダ飯で長居する度胸はなく、急いでパンとスープを流し込む。それでも間が持たない。
 「女将さん?」
 「ん?」
 「『光ってもいないし輝いてもいない』ってどういう意味だ」
 適当にもほどがある質問に、しかしベテランという言葉が割烹着を着たような宿の女将は驚きもせず、 
 「あれさ」
 「ん?」
 宿の、開け放たれた玄関の外を行き交う冒険者たち。朝の光の中で、ひときわ目立つ『光』を放っているのは熟練の冒険者だ。
 駆け出しの無代など想像もつかない経験と時間を積み重ね、その地位を極めた者だけがまとう事ができる魔法の光。
 「『転生オーラ』。あれが『光っている』ってこと」
 「…なるほど…ね」
 「で、『輝いてない』ってのは…」
 「…今の俺だ」
 「正解。せめてヒゲぐらい剃りゃいいのにね」
 聞くんじゃなかった、と心から後悔する。宿で味わう最後のメシまで不味くするほどの被虐趣味はない。
 「アンタも最初は輝いてたんだよ、それでもさ。…そう、あんな風にね」
 「…」
 女将は外の誰かを指しているらしいが、無代はもうそちらを見ない。
 すっかり不味くなった朝食を片付けるのに集中。
 「…『冒険者アカデミー』の新入生さんだね、あのピンクの帽子。…すれ違う冒険者も、露店の品物も、出会うモンスターも何もかもが珍しくて、目を輝かせて。ふふ、あくびをかみ殺してる。今日の冒険が終われば明日の冒険が楽しみで、夜も寝られないのさ。でもやっぱり目は輝いてる」
 「…」
 それを今聞かされて何になる、と思うのは無代の被害妄想。
 「…ん? こっちへ来るってことは、ウチのお客かね? …アンタの部屋の『後がま』だと、無駄がなくていいんだがね」
 いや、案外被害妄想でもないらしい。この上『後がま』まで来られたら、自分がこの場で消えてなくなっても不思議じゃないので、急いで最後の一口を飲み込み、立ち上がる。
 「世話になった。…ツケは…いつか」
 「…はいよ。それまでせいぜい元気でいな…いらっしゃいませ…?」
 玄関ですれ違う、出て行く客と入ってくる客。
 それぞれにそれなりの言葉をかける女将が、しかし一瞬、ぽかんと口を開けた。
 ずどぉん!
 すれ違うはずの無代の身体が、見事に一回転した…いや、『させられた』。そして無惨にも背中から床に落下する。
 突然の出来事に無代は受け身すら取れず、結果として息もできずに悶絶。
 「ちょ…アンタ…!」
 「…やっと見つけた」
 血相を変える女将を無視し、『入ってきた客』が口を開いた。女性の声。透き通った、だがガラスのように鋭い。
 「見つけた…と思ったらこのザマとは…。なんなの、そのヒゲ。…だらしない!」
 床の上の無代に、容赦ない罵声が振ってくる。
 「ちょ、ちょ…待って、待って下さいましな!」
 女将が制止に入ってくれているが、無代はいまだ床の上でうめくしかできない。
 何事かと、食堂にいた他の客や、外の通行人まで足を止め、時ならぬ人垣が形成されていく。
 「困りますよ…ここでモメ事は! …無代さんの…お知り合い…?」
 「…失礼した」
 罵声の主はやはり女性、まだ少女と言っていい風貌だが、それにしては長身だ。強靭なバネを感じさせる体つき。背中にシールドを背負い、腰には天津風のツルギと呼ばれる刀を下げている。
 少女がアカデミーの新入生を示すピンクの帽子を脱ぎ、頭をひとつ下げる。と、黒曜石を糸に梳いたような見事な黒髪も、揺れた。
 見る物の目に、鮮烈な印象を刻み付ける美貌の少女。
 「私は、天津は瑞波の国の守護、一条瑞波守鉄(いちじょう みずはのかみ くろがね)が三女、一条静(いちじょうしずか)と申す。この無代とは幼き折からの…」
 「ぷっ…」
 笑い声は、いつのまにかできた人垣のあちこちから聞こえた。
 「…? 何がおかしい?」
 意志の強そうな濃い眉とまなざし。宝石のようなそれをはめ込んだ容貌は、精緻な工芸品を思わせる。
 プロンテラでは珍しい、そのエキゾチックな美貌に睨まれ、笑い声が一瞬止まる。
 「人の名を聞いて、笑う理由は何かっ!」
 「…お嬢さん、お待ち下さいな」
 激高する異国の少女を、やはり女将が静止する。
 「あのねお嬢さん。今月だけでも、アナタで『4人目』なんですよ。『天津の静姫』を名乗るコはね」
 「…4人目?」
 一瞬何を言われたのか分からず、きょとんとする少女。
 「プロンテラじゃ、まだ天津の人はめずらしい。偽物が見破られることはない、と思うんでしょうねえ…」
 「…偽物?」
 「そう。まあ、すぐバレちまうんですがね。髪と目の色が黒ってだけで、他に何の証拠もないんだからねえ」
 「…なるほど」
 状況が飲み込めたらしく、少女のつり上がっていた眉が少し下がる。頭の回転もいいようだ。
 「私の偽物がたくさんいる。だから私が名乗ったとしても『また偽物か』、としか思われない」
 「そう」
 「証拠がないと信用されない」
 「そうそう。…何か証拠をお見せいただけますかね?」
 「…」
 「…どうです?」
 少女の沈黙に、人垣の緊張が解け始め…また笑い声がさざめき始める。その時。
 す、と少女の手が自分の腰のポケットに入れられ、また出された。広げられた手には、2枚の10ゼニー硬貨。
 「? それが? ただの、この国のお金ですけどね?」
 「…これじゃない」
 2枚の硬貨を両手に分け、コイントスの形をつくる。ぐるり、と人垣を見渡す視線は『よく見ておけ』の意思表示。
 きぃん!
 2枚の硬貨が同時に宙に弾かれた。一枚は少女の前に、一枚は少女の背後に。
 そして…次の瞬間。
 『一瞬』で、『何か』が、『同時』に、起きた。

 少女の体が、『重力より速く』沈んだように見えた。
 少女の両手があり得ない方向に曲がり、またその数が倍に増えたように見えた。
 少女の顔が正面だけでなく、後ろにも見えた。
 少女の腰から抜かれた刀が、気まぐれな稲妻のように二本、三本と閃いて見えた。
 ちゃりん。
 『4つの音』が一つに聞こえた。
 真っ二つになった10ゼニー貨幣が合計4つ、地面に落ちている。
 『バラバラの出来事』。

 …その場に居合わせた者全員が、それを『一連の出来事』と認識できないでいる空白の時間。
 「…我が身の証はこの技と、この刀」
 少女は、離れ業を演じたばかりの腰の刀を鞘ごと抜き、自分の頭上にかざす。
 刀の柄には、透かし三つ巴(スリーヴォーテクシーズ・オープンワーク)の紋。
 「それだけだ…他にはない。これで証が立てられぬとあらば…証の立つまでこの血を流し尽くすのみ」
 納得いくまで殺し合う。
 たとえ死したとしても、その死をもって「一条静」の名前を忘れられない傷とし、この場とこの時に刻み込む。
 およそ少女の言う台詞ではない。
 が、その声音の本気を疑う者は、もう1人もいない。
 「…お見それをいたしました。お嬢様。どうぞお怒りをお鎮めいただきますよう」
 今にも決壊しそうな沈黙を破り、深々と頭を下げたのは宿の女将だった。
 「もはや誰一人、疑う者はおらぬと存じます。ここはひらに、平に」
 場末の宿の女将にしては立派な物言い。この女将もかつては、それなりの礼儀を叩き込まれた時期があったのかもしれない。
 「…うん。私も大人げなかった」
 この少女に大人げなかったと言われては、周囲の大人どもは立つ瀬がない。
 「恐れ入りましてございます、お嬢様。…しかし、まずはその足の下の方を」
 「あ」
 すっかり忘れられていた上に、少女に足蹴にされたままの無代。
 情けなさのレベルにはまだ上、いや下があったらしい。
 「…げほ…」
 「大丈夫かい、無代さんや?」
 「…げ…ふ。…ふ…すまん…女将。…ふ…この人を…中に…」
 「ああ。…お嬢様、ここは人目もございます。『無代さんのお部屋』にご案内させていただいてもよろしゅうございますか?」
 「うん。苦しゅうない」
 この物言いにも、もう笑う者はいない。
 「光栄に存じます。あばら宿ではございますが、ご無礼のお詫びに冷たいものなどお持ち致します。ではこちらへ。ほら、無代さんもお立ちよ」
 無代には目もくれず、背中の盾を女将に預けてさっさと宿の奥へ歩いて行く少女。女将もそれを案内していく。
 当の無代はまだ呼吸がまともに戻らず、壁を支えによろよろと立ち上がるのが精一杯だ。
 崩れ始めた人垣の好奇の視線は、無代に冷たい。
 冒険者の町では、身分よりも性別よりも年齢よりも、実力がモノを言う。
 高貴な少女に見事に投げ飛ばされ、惨めに地を這った『野郎』にかける情けは、誰も持ち合わせていない。
 だが、無代の情けなさのランクをさらに押し下げるのはそのことではない。
 「くそ…優しく投げてくれて…げほ…」
 下は石畳。投げは天津柔術。本気で叩き付ければ殺すことだって簡単にできたはずだ。
 実は手加減されたと知っているのは自分だけ、というのも情けなさのレベルでは…。

(2)へ続く
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