ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

mixi携帯*小説*漫画*コミュの●リレー小説●

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ぴかぴか(新しい)ルールぴかぴか(新しい)
お手数ですが、雑談トピックに『執筆宣言』。当トピックにて『予約します』と両方に書き込みをして、他に予約者が居ないか確認後に提載をお願いします。本文作成後、『予約します。』書き込みは、削除願います。
重複回避の為、必ず守って下さい。宜しくお願い致します。

禁止これ守ってね指でOKグッド(上向き矢印) ↓↓
●連投は原則不可です。
●誤字脱字ストーリーを書いた後に修正は禁止です。次の人に全て任せる指でOK
●18禁止禁止揺れるハート(全体公開です)

本今回のお題本

題名:雨に誘われて
ジャンル:その他
回数:ターン20
条件:雨にまつわるショートショート(単発でも次の人に任せても良し。話のジャンルはシリアスでもギャグでもOK)
アプリ小説のパラレルな世界という設定。
自作品のキャラ(オリジナルでなくても可能)が、雨に関係するお話を、百物語のように順番に回していくイメージです。
話が途切れたら単発も可能。
※注意※
自作品を読んでない方にも分かるような内容でお願いします。

コメント(185)

【8】〜前編〜
里弥颯-satoyaso-朝兎

+ + +

空の涙の様に、そっと静かに舞い落ちる幾千の雨の雫。

降りしきった雨は少しばかり其の勢いを無くしたが、足元に細く長い河を造形していた。

「ねえ、チュチュ。そういえば、お空はどうして泣いているの?」

チャ、チャ、チャポン。

其の河を何度か蹴りあげて、唇を噛んだミイミが少しばかり切なそうに呟く。

「僕たちが笑えばきっと大丈夫。」

チュチュは繋いだ手のひらを握り返しながら呟く。

「そうしたら笑ってくれるかな?」

「うん、きっとね!」


淡い恋のような、微笑ましい二匹…しとやかな雨音が見守る。

其の様子を木陰から覗く三つの影があった。


「可愛い!素敵ね!」

顔の前で手のひらを合わせ声を張り上げるひかりの瞳は、キラキラと輝いた。


「うるせーなっ。気付かれちまうだろ。」


漆黒の翼を小さく畳んだ死に神のクロスが、彼女の首根っこを捕まえて、突き出した人差し指を鼻の天辺に押し当てた。

「うるさいのはあんたじゃない!」

真っ赤に染め上げた顔を背けてひかりは、言の葉を投げ放つ。


水滴の粒子を含んだ空気にさらされ、少しばかり濡れた前髪。

其の水滴は、ひかりとクロスの後ろに佇み、大きな桜色の傘を翳したサクが含み笑うと、揺らぎ地面を目掛けて落ちた。


「クロス、ひかり。もう遅い。気付かれてしまったようだよ。」


「え?」
呟いた二人は、大樹の向こう側に視線を送る。

「ッ!?」
最早目の前に来ていたチュチュとミイミに、クロスは震わせた身を構え、息を飲んだ。

其の拍子に、彼の漆黒の翼についた無数の水玉が宙に飛ぶ。

過敏とも窺えるクロスの反応を隣で感じていたひかりは、したり顔で笑った。


「かっこわるっ!」
「な、なんだと!」

クロスは、雫をパッと散らせ勢いづくと、ひかりに食ってかかる。

其れを制するかの様にサクは、唇を俄かに動かし笑った。


「こらこら、ひかり。クロスに失礼だよ。」

ひかりは、いたずらっぽい笑顔でサクの瞳を熱く見つめた。


其の様子をジッと見つめていたチュチュとミイミは顔を見合わせる。


「ねえ、喧嘩してるの?」

「でも、笑ってるよ?」

二匹は同じ方向に首をかしげて三人を見つめた。

「喧嘩ではないのだよ。」

優しくサクが諭し、笑む。

「喧嘩でないなら。」
「なぁに?」

二匹が逆方向へ首を傾げながらサクに尋ねる。

彼は、ひかりとクロスを見つめて暫く悩むと、閃いた様に言の葉を紡ぎ出した。

「じゃれ合い、かな。」

クスクス、サクが病弱に咳き込みながら笑う。


サクの言の葉と笑い声が二匹の耳に届くと、彼らは不意に安心して笑んだ。
【8】〜後編〜


ほんのり甘い砂糖菓子のような空気がシトシト雨降る其の辺り一帯を優しく包み込む。

其の刹那、我慢が出来ないというように待ったをかけたのはクロスだった。

「ごめんだね。なんでこんな女と!」

「あたしだって!サク、変なこと言っちゃダメッ!」


サクの笑顔に、声を張り上げて猛抗議をしたクロスとひかりは顔を突き合わせると、息を荒く吐き出して、互いに背を向けた。


クスクス。
サクの幸せそうな微笑み。

其の笑顔を、チラリと盗み見て、冷徹な死に神の顔を少しばかり綻ばせたクロス。

其の透き通る様な笑い声を聴覚に浸透させ、声無く微笑むひかり。

2人が願うのは、たった一つ。サクの幸せ。


また甘く優しい空気が辺りに立ち込め、其れはほんの少し、花の香りがした。


サクもクロスもひかりもみんなみんなが笑うから。

だから。
うふふ。くすくす。

チュチュはミイミから受け取っていた葉っぱの傘を首に引っ掛け、両手で長い耳を頬に寄り添わせて。
ミイミは、両手を口の前にしとやかに添えて。

顔を見合わせ声を立てて笑う。


ポチョン、ポチョン。
ゆっくりとしたリズム。
木々から、草花から、水玉が一つ、また一つ。

ポチョン、ポチョンと大地の窪みに出来た水たまりに導かれるように舞い落ちてゆく。


「あ…。」
ふと気が付けば、雨は上がっていて、彼らがいる丘の遥か向こうに聳える山の麓から、大きな虹がかかっていた。

「やった、やった!ミイミ、お空が泣き止んだよ!」

チュチュは葉っぱの傘を勢いよく放ると、ミイミの両手をとって、くるくると回り始めた。


「ねえ、チュチュみんなで笑ったからかな?」

「きっとそうだよ!きっとお空も楽しくなったんだね!」

「…だったら、ねえ?」
ミイミが何か含みのある言い方をしながら三人をジッと見つめる。

其の言の葉が届くや、チュチュもミイミの無言の想いを嗅ぎ取ったように、笑んで彼女に習った。

「せーの!」
二匹は声を合わせて。

「ありがとう!」
お空を笑顔にしてくれて。

「どういたしまして。」

ひかりとサクは微笑んで風に言の葉を流し、素知らぬふりをするクロスをわざとらしくジトッと睨む。

「なんだよ!」
眉をしかめて死に神の瞳で睨み返しながら、クロスは言い放った。


「礼儀知らずぅ。」
ぷーっと頬を膨らませながら、小さく呟くひかりの頭にポンと手のひらを置いたサクが、クロスに笑いかける。

「クロス、有難うと言われたら、どういたしまして、そう答えるのだよ。」


分かりきった事を大真面目な瞳で諭すサクが、滑稽で思わずクロスは噴き出しながら。

其れでも其処に触れてはサクが傷付いてしまうかもしれないと。


「死に神の世界では有難うの返事は、こう言うんだよ。」

そう前置いてから、チュチュとミイミのふわふわとした肩に触れる。

「チュチュ、ミイミ、はじめまして。」

其の顔は、皮肉で卑屈な彼の嘲笑とは違う、楽しげなものだった。


サクとひかりは顔を見合わせ笑う。

「はじめまして!」

チュチュとミイミは、ペコッと頭を深々下げると雨上がりの空に吹く風に向かい、言の葉を流した。

【9】〜前編〜

「…不思議あの動物達の言葉が分かるわ」

ドン引きした様子で呟いた、バカ女改めエリーゼ。それを押し退けて口の悪い男は微笑みその動物達に歩み寄った。

「僕はイリヒアだよ。君は?」

小さい方のピョコピョコ跳ねるミミが気に入ったのか、唐突に話しかけた。

「チュ…チュチュだよっ!」

動揺しながら恥ずかしそうに応える様子に、愛しさが込み上げたのか、満面の笑みを浮かべイリヒアも応える。

「はじめまして。」

「──イミ…僕はミイミだよ…」

後ろからチュチュを守る様に声を出したミイミ。

「はじめまして。ミイミ。チュチュ」

屈んだ体を少し起こして、その隣に目をやると先程話をしていた黒羽根の人間の姿をした彼が居た。

「素敵なお話だね。はじめまして黒羽根の人。」

「………。」

無言で睨むクロスと呼ばれた彼を背にイリヒアは苦く笑んで振り返ると、エリーゼが睨んでいた。

「何?」

「さっきまでの張りつめた空気がどっかにいってしまったわ。せっかく親近感を覚えた気がしたのに…」

【話し方か…?】

何処からか声が聞こえた。

「結局向こうの人達が話してたのは何かしら?」

「ホラーですよ。お嬢さん。」

山羊髭が小声で囁く。

「「ホラー?」」

エリーゼとイリヒアの声が重なった。

「だっ駄目だわ…少しでもズレるとついていけなくなる。可愛いのは良しとして、現実的についていけてない私達がどうするか考えないと…」

「そうだね…こんな時、兄上が居てくれたらな…」

愕然として可愛い生き物には滅法弱いらしい男の頼りなさにエリーゼは肩を落とした。兄上が居ると何かが違うらしい。

「なんでそこでアクトが出てく………るのよ。」

「呼んだか?」

目の前のあり得ない出来事に目を見開く。

「…だっ!だからっっなんっっで、出てくるのよ!?」

「何…?──あ、兄上!!どうやって此処に!?」

辺りをキョロキョロと見ている馴染みの顔が二人の前にあった。

【9】〜後編〜

「さぁ…。お前が呼んだのではないのかイリヒア。」

「あぁ…あれ届いたんだ。じゃあ、話が早い。ここから僕達出たいんだけど、何をすれば良いのか分からないんだ。兄上、代わりに聞いてくれない?」

普通に出ていけば?とハの字眉の顔で訴えられてイリヒアは肩をすくめた。辺りを見回していた兄上改めアクトは一際目についた年頃の少年に話し掛けた。

『…そこの少年。ここから出るにはどうすれば言い?』

「えっ…僕!?…えっ、な、なんて言ってるんでしょうか?この人…」

あどけた表情が印象的な人ではない人。

『言語が違うのだな…』──これで通じるか?」

「あっ…あれ?」

突然理解出来る言葉に変わり少し困惑していた。

「我々はここから出たいのだがどうすればいい?」

少年の喉元を過らせた風が戻りアクトの周りを渦巻いていた。

「え〜っと…出たいなら出て行けると思います。」

「…ん?イリヒア。自由に出ていっても良いようだぞ。」

「でも何かを話し合っていたみたいだけど?誰もここから出ようとしないしね。」

イマイチ状況が掴めていないアクトは取り敢えず言われたままにもう一度聞いてみる。

「何か…皆で大切な話をしていたのではないのか少年。」

「えっ…と。雨にまつわる話しでもして雨が止むのをここで雨宿りしながら待とうって話してたんですよ。」

「雨…そうか。ありがとう少年。」

オレンジに似た金色の瞳をゆっくり細めたアクトは、エリーゼとイリヒアの元へ戻り聞いた事を説明した。

「え、ただの雨宿り?…そうなんだ。じゃあ雨が止むまで皆ここで足止めなんだね。」

「雨にまつわる話〜?思い付かないわ〜…」

「話をしなくても出られるみたいだが、これも何かの縁だ。少し考えてみよう。」

「じゃあ通訳宜しく兄上。」

「ああ。それで良いか?エリーゼ。」

「面白そうだから許す!」

「「相変わらずだな(ね)」」

金色の瞳に金髪の異様な二人の、声が重なって館は再び雨の音に包まれた。
【10】1/2
さて、本当に妙なことになってきた。
この奇妙な状況を誰も指摘しないのはおかしい。
…それは僕も含めてだ。
彌琴…は、自分の研究以外の興味を持つことが珍しいので仕方ないとして…。
まるで『変だ』と思うことすらできないような…いや、まさかな。
「雨か…」
誰にいうでもなく、つぶやく。
まあいい、この現状がどんなにおかしくても、車はエンストしたままだし、雨はずっと降り続いている。
ふと、ポケットにいれていた携帯電話の存在を思い出した。
それは折りたたみ式で、片手でスナップをきかせて開き、液晶を見下ろす。
『圏外』の表示にしまったと思った。
『彼』が心配するかもしれない…が、もうこの状況ではどうしようもない。
「ここに電話は…ないよなあ」
「Cになら事前に連絡をいれたはずだけれど」
「そっちじゃなくてね…アレックスが心ぱ」
「そう」
『彼』の話しになると彼女は僕の言葉をよく遮って一方的に打ち切ってしまう。
興味がないのはわかるのだけどね…友人としては少し寂しい気もする。
もしかして…車の中でちょっとしつこく話しすぎただろうか…。
小さくため息をして、中指で少し下がったメガネを元の位置に戻した。
これ以上彌琴に呆れられるのは本意ではないし、誰も話さないなら僕がいこうかな。
「じゃあ僕が話そうか」
手をひろげて一歩踏み出す。
大袈裟な態度は僕なりの処世術である。
「僕は一応これでも科学者をしているんだけど、助手が一人いてね…この助手が若いこともあってか怖いモノ知らずなんだ…」
その怖いもの知らずの助手の無邪気な笑顔を思い出して、つい僕も笑みを浮かべてしまう。
「ある時、その助手に誘われてキャンプしに行ったんだ。一日目は晴天で何の問題もなかったんだけど、二日目が大雨でね。帰るか帰らないかでだいぶ揉めたんだ。まあ結局半日待つことにした…、本題はここからでね…」
あの時は本当に大変だった。
「なにかあったんですか」
学生の少年がタイミングよく聞いてくる。
「ああ、僕たちがキャンプしていたところは、川のすぐそばだったんだよ…大雨が降ってきた時点で安全なところに移動したけどね。で、暇を持て余した僕の助手はこともあろうに川に近づいて…流された」
「大丈夫だったの?」
さっきまで車の話しをしていた女性が言った。
「レスキューが割と早くきてくれたのもあったけど、奇跡的にね。悪運が強いというか…なんというか…」
がっくりと肩を下げて、頭を振る。
「あきれたのはその後だよ生きるか死ぬかの瀬戸際だったっていうのに『楽しかった』と言うんだから…。僕はあまり怒るっていう行為は好きではないのだが…あれにはさすがに怒ったな」
顎を撫でて当時の彼の姿を思い出す。
そう…怒ったのだが、助かったからいいじゃんとまったく堪えた様子無かった。
「ここにいる方々は僕の助手のように無謀ではないだろうけど、雨の日の川には近づかないことだよ…」
彼のような無謀な人間はなかなかいないだろうけれど。
【10】2/2

「雨にまつわる…ということだったからこんな話しになってしまったけど、暇つぶしにはなったかな?」
「もちろんですよ」
少年がうなづいてくれたので彌琴の方へ振り返った。
「キャンプ?」
彌琴が珍しく興味を示したので、僕は片目を瞑った。
「彼の影響、かな?健康的だろう」
実際、彼は僕の家で主夫をしてくれているので、一人で過ごしていた時よりは健康になっていると思う。
「そうね」
視線の中に冷たいものがあるように感じるのは僕の想像の産物だけじゃないと思われる。
そろそろ本気で自重しよう。
「…?」
振り返って、部屋の中を見渡した。
「今、誰かが…」
少女が笑った声が聞こえたような気がした、が。
近くにそんな少女はいない。
「気のせい…かな?」
「ノーラン?」
「…なんでもないよ」
彌琴に笑って見せた。
【13】MK 1/2
その場にいた誰もが押し黙った。ある者は彼女の話に純粋に恐怖を感じ、ある者は彼女自身のなんら感情を持たぬ語り口に異様さを覚えたからだ。


「そこの方…とても具合が悪そうですね」

唐突に美穂が部屋の隅を指差した。抑揚のない声と共に。示した先にいたのは目を固く瞑って耳を塞いでいるブロンドの男。



「お嬢さんの話が余程怖かったようです」

ファウストを自分がいた部屋の暗闇に素早く押し込んで、代わりに前に出たメフィストは彼女に答えた。何人かは初めてメフィストの存在に気づいた様子で驚いている。


メフィストが言葉が分からないと言ったのはまるきし嘘だった。最初から全員が何を話していたのかも、そして何故此処から出られないのかも分かっている。

理由が理由だけに静観していたが、ファウストは子どもの歌声が酷く大きくなっているとしきりに訴えていた。このままならファウストが倒れるのも時間の問題だ。

なら先に欲しがってるものをくれてやろう。何もファウストが話す必要はない。


「すいませんね。彼は雨の日にあまり良い思い出がないんですよ。自分の子どもが殺人鬼に襲われて、目の前で見るも無惨にかっさばかれた。それで埋葬したのが、まぁこんなに降ってはいませんでしたがね。雨の日だったもんで」


遂に座り込んだファウストを心配して顔を覗き込んでいる兎と熊以外の耳には全員に聞こえた様だった。
当然、初めからこの事を思い出させたくない為にわざと言葉が分からないフリをしていたのだからドイツ語では話してない。

いや、むしろこの部屋で言葉が通じないのはファウストだけだ。


「これでトモダチってことには、なりませんか?」

「何を言って…」

黒服が言いかけて止める。

流石似たような業者さんだ、察しが良くて助かる。

「Weh!ich ertrag' dich nicht!」

だが、急に背後で泣き叫ぶ声がした。同時に小娘の耳障りな歌がまた聞こえてくる。

「どうやらご納得頂けなかったらしいですな」

……畜生、館ごと吹っ飛ばすぞ。
【13】MK 2/2

「彼は今なんて…?」

遠野がノーランに尋ねる。

「ドイツ語よ!何て言ったかまでは知らないけど」

中学生と間違われたのが余程腹立たしかったのか、ブラックレインの話をした女子大生は噛み付く様に言った。遠野は曖昧に笑って彼女を宥める。どう見たって矢張り中学生にしか見えない。


「もうお前には耐えられない…そう聞こえたよ」

ノーランは遠野に言うというより独り言のように呟いた。遠野は少し考えて言う。

「お前と言うのは…連れの方でしょうか」

「多分違う」

突然背後から声がした。牧野だ。

「彼はずっと耳を塞いでいました。それに連れの方が話している時…よく見えませんでしたがかなり混乱していました。まともに聞こえていたとは思えない」

牧野の声は僅かに痛みを含んでいた。まるで混乱した誰かを思い出す様に。




「あなた、本当に大丈夫?えぇっと…言葉分かる?ていうか山羊髭!あなたちょっと無神経過ぎるわよ!」

ファウストの前にしゃがみながら慰めていた女性が、メフィストに怒鳴る。

「先生には俺の言葉は伝わってない」

メフィストは背後を見ずに答えた。

「はぁ!?あなたがこの人の子どもの話をしたから…ムグッ」

エリーゼの次の言葉はアクトの手で抑えつけられる。メフィストはため息をついて振り返った。

「ムグググ!」

「美人に睨まれるのは嬉しいことですな」

一瞥もくれずに適当なことを言う。暗闇からファウストを引っ張り出せば、兎と熊…いやパンダが貼りついていた。

「何してる」

「震えてるから」
「いっしょにいれば温かいよ」



少女の歌が嫌なほど耳につく。だが何も正攻法に出る必要はない。先ほどこの二匹(正確に言えば死神)は雨を止める方法を言ってやしなかったか。


「先生、立って下さい。もう大丈夫ですよ」

「メフィスト!屋敷から出してくれ!耐えられない!あの子が私に…」

だが、この部屋で二匹の方法で雨を止められるだろうか。まぁ、正攻法でもいい。雨さえ止めば。

「トモダチになりたいとでも言われたんですかい?」
【16】〜前編〜

「何だか少し楽になったわ。」

背筋を丸めて深いため息をもらす。

「それは我のおかげか?エリーゼ。」

金の滑るようになめらかな髪の隙間から微笑みが首を傾げた姿で彼女を覗き込んだ。

「ちっ違うわよ!あの…あの男の子の話でよっ!」

「フフっ…その男の子の話を通訳したのは兄上だけどね。」

フワフワの綿毛の様な毛を愛しげに逆撫でながら強張る小さな生き物を抱き締めてイリヒアは補足した。

「ちょっと…余計な事言わないでよ。大体それリパスじゃないから離してあげて。可哀想でしょう?」

腕の中で窮屈気にもがく生き物は一瞬緩んだ腕からずり落ちて、心配気にイリヒアの足元にしがみついていた緑の生き物に合流して山髭の片割れの元へと走って行った。

「あぁ…君が余計な事言うから。」

「自業自得。」

「はいはい。それよりさっさと雨の話をして、あの女の子にご満悦頂いて帰ろうよ、ねぇ兄上。」

「そうだな。イリヒアがリパスの代わりをまた探し始める前にそうしよう。」

「……僕に対して失礼だよ二人とも。」

「じゃあ、誰が話すの?」

男二人の視線は口元を動かさないままエリーゼから離れない。

「え゛………私?」

無言のまま揃って縦に首を振る兄弟にエリーゼは

【覚えてろよ】

心の中で呟いた。
〜後編〜

ある時のある季節…常春の国に雪が降ったの。

それも他国で言うところの真夏の季節にね。

太陽は燦々と頭上に輝いて雲一つ無いのに、凍える様な寒さと光に反射してキラキラ輝く雪に、子供達は歓喜して老人達は恐怖に戦いた。

それは、たった1日の奇跡みたいな出来事だったんだけど、大人達はその日を神の涙と呼んで毎年収穫祭とは別に、神様の流した涙と悲しみが休まりますように…

そうお祈りする日になったのよ。


「──それで…?」

イリヒアが首を傾げてエリーゼに問いかける。

「それで…って?」

問いかけに不思議に思った彼女は少し考えてから問いかけ返した。

「話の続きは?」

苛立ったのが端から分かる様な口調で問いただした彼はつま先でリズムをとって腕組みをしていた。

「無いわ。あれで終わりよ。」

項垂れた彼の肩にアクトから同情の手が伸びる。

「エリーゼらしくて良いじゃないか。」

金色の瞳金色の髪に彩られた彼の端正な顔立ちが拗ねた顔に変わると、彼女の眉間にシワが寄りはじまった。

「良くないよ。雨の話じゃ無いし、皆が驚く様な怖い話でも無い。」

「そんな心配は無いと思うが…まだ訳してないから問題無いだろう。」

「バカ女のせいでここから出られなくなるかもしれない。あの子が言葉が分からない存在だとは限らないよ。」

彼の痛い指摘にアクトが苦笑いした様な変な表情に変わった。

「ちょっと〜何なのよ〜人に役目押し付けといて文句言う気〜?怒るわよっっ」

【【既に怒ってるだろ…】】

二人の呟きが密かにシンクロしていた頃。

それまで淡々と流れていた洋館内の様子と時間が少しずつ変わり始めていた…

[19 1/2]greenspanda

カーテンの隙間から零れる月明かりが、おもちゃ箱の中の人形の頬を薄く照らしている。扉を開いた彌琴は、其の奥に広がる子ども部屋を眺め、ゆっくりと後ろを振り返った。
「どうぞ」
少女の周りから歌声が聴こえなくなって以降、次第に弱まっていく其の音はある独特の気配を闇に溶け込ませている。
「どうして此の部屋が?」
促されるまま室へと歩を進めた三穂が、掠れた声で問い掛ける。
「それは」
彼女と繋いでいた手をいつの間にか解いた少女が、歓声を上げて其処にある無数の人形へと駆け寄って行く。
「トモダチだからでしょう?」
三穂と目を合わせたまま後ろに歩を戻した彌琴は、回らないドアノブに手を掛けて唇の端を持ち上げた。

階上から微かに響く音は彼女の声だろう。笑っている音など滅多に聴いた事は無いが、と顔を歪めたコーネリアスは目の前に居る少年見遣った。
「君は眠らないのかな」
遠野という少年は先に二階の客室に上がっている。
「この子達が心配ですから」
微笑んで見せたミハルは、暗い階段の向こう側に明かりがひとつ増えている事に気が付いて眉を顰めた。先刻遠野を見送った時には点いていなかったという事は、彼が点けたという事だろうか、それとも。

「何処へ?」
巡らせた思考は、コーネリアスの控え目な問い掛けと、二匹の足音の前に途切れる。
「キラキラしているから」
問い掛けられたチュチュが、ミイミと手を繋いで扉の向こうを示す。
「嗚呼」
霧がかった外の空気と洋館の入口を照らしている照明が生み出した小さな虹が、其処には架かっている。扉を開けると、チュチュとミイミは其れを見上げて嬉しそうに顔を見合わせて微笑んだ。随分と気の利いた偶然だと思わず表情を緩めたコーネリアスは、庇から先に歩を進め、掌を空に向けた。
「雨はもう止んだようだね」
此の不思議な動物達は、雨が止んだら何処へ行くのだろう。或いは。
「思い過ごしだったようですね、僕たちの」
彼の言葉に微笑んだミハルの表情は、何処か安堵に満ちている。
「何か問題でも?」
訝しげに眉を顰めると、彼は、此方の話ですよ、と緩く頭を振り、小さな兎と熊猫の側に屈んだ。
「満足したかな?」
視線を合わせた二匹は其れに頷いて、もう一度小さな虹を振り返った。
「願いは叶ったかしら?」
彼等の動きに合わせて照明を見上げたコーネリアスの耳に、聞き慣れた声が届く。
「彌琴」
「電話よ、ノーラン」
彼が安堵に顔を綻ばせたのとほぼ同時に、胸ポケットを指した彌琴がいつもの抑揚の無い事で紡いだ。
「失礼」
ほぼ同時に着信を告げた電話を取ったコーネリアスは、短く断って室内へと戻る。
「無事でしたか」
雨の音も、あの歌声も今は聞こえては居ない。
「二階に行っただけよ」
「……そうでしたね」
其の彼女は、一体何に気付き、何をしたというのだろう。曖昧に頷いて微笑もうとしたミハルは、頬が引き攣るような感覚を憶えて微かに眉根を寄せた。
[19 2/2]ブレス

さっきまで圏外だったはずの携帯だが、今は通話できるほど電波が届いているらしい。
彌琴は何か知っているような風だったが、僕が聞いたところで教えてくれるかどうかは疑問だ。
電話の向こうの同居人は心配すぎて怒りを覚えているらしく、ずっと不満を口にしていた。
そして同行者が彌琴であることがさらにその怒りをあおっているらしい。
エンストも、電波が届かなかったのも、僕のせいではないのだけれど、散々謝ってからようやく通話を終えた。
ため息をつき、他に連絡が必要なところへは朝になってからでいいかもしれないと思う。
とにかく慣れないことが多すぎて疲れている。
「どうしようかな…」
つぶやきながら振り返る。
彌琴のところへ戻ると、彼女はミハル…といったか、その人と話をしているところだった。
彼女の言動は、一般人には理解されにくい。
いや、長いつきあいのはずの僕ですら未だつかめない事が多い。
「彌琴」
名前を呼ぶと、二人が振り返る。
「戻るかい」
もちろん車へ、だ。通話ができれば組織の人間と連絡がとれる。
「休むところがあるんですから、泊まっていっては?」
彌琴の傍らにいたミハルが首を傾げる。
「うーん…」
曖昧に笑い、彌琴に視線を移す。
彼女はいつも以上にいつも通りで、僕をみていた。
「私はどちらでもかまわないわ」
それは、どこにいても同じだ、と言う意味なのか。
「かえっちゃうの?」
ふいに聞こえた声は足下からで、そちらを見てみると人語を解する動物二匹が僕を見上げている。
もう何にも動じることなど無いと思っていたがどうにも、その、やりにくい。
「あぁ…まあ、うん」
ぎこちなく頷くと、二匹はお互いの顔を見合わせてから再び僕を見上げた。
電気か何かで動いているAIなんじゃないだろうか、などと思ってしまうのはごく当たり前の事だろう。
「あめは止んだけれど」
「さみしいね」
二匹の無垢な言葉は、良心を痛ませる。
答えに窮している僕に、ミハルが苦笑した。
「この子たちもこういってますから、どうでしょう二階に泊まっては」
この人は、この状況になにも感じないのだろうか。
こう考えている僕が変な気がしてくるから不思議だ。
一応それなりの人数がいるとしても、予定外のところで彌琴と夜を過ごしたと、それを知られた時に対応が大変な人間がいると考えると、今の僕にはここにいるのは望ましくない。
「車は無事かしら」
口元に手をあてて考え込んでしまっている僕に、彌琴の声が降ってきた。
「…どうかな、周りに危険なものはなかったと思うけれど?」
雨の中…慣れない土地での立ち往生は、不安感が無いわけではない。
彼女の言葉で僕は一人頷いて、足下に視線を移した。
「すまないがお暇しよう」
「うん、またね」
耳の大きなウサギと緑色のパンダは残念そうだったが、僕は顔をあげてミハルに笑いかけた。
「そういうことだから、車に戻るよ」
携帯を取り出して、Celephaisの施設へ連絡をいれる準備をする。
彌琴がいるならば、迅速にこちらへ人を向かわせるだろうし。
「行こうか、彌琴」
「…ええ」
隣に並んだ彌琴の横顔は、何も示していないように見えた。
広場に残っている数人に簡単な挨拶をして、僕たちは雨のあがった外へと歩きだした。

ログインすると、残り173件のコメントが見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

mixi携帯*小説*漫画* 更新情報

mixi携帯*小説*漫画*のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング