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Billy on Dollarsコミュのスイート・ヘロイン博士の犯罪(博士による独白・曲イメージ)

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狂気は現実以外から生まれる。現実以外とは、現実でないもののことだ。

この世には、頭が正気すぎて、現実以外の存在を信じられない者がいる。この世に存在しているのは肉体や、木や、森や、石ころや、惑星や、恒星だけで、それ
以外のものは全て脳内で作られた妄想だと信じて疑わない者たちがいるのだ。

彼らにとって、「自分」とは、肉と血と骨と表層人格のことを指し、「他者」とはそれ以外の全てを指し、その二つは互いに完璧に断絶されている。

現実とは、肉体のことだろう。あるいは、肉体を通してアウトプットすることのできる唯一の世界のことだろう。全人類が共通してチャンネルを合わせることの出来るただ一つの世界が、現実と呼ばれるものだろう。すなわち、今目の前に広がるこの世界が。

目で見、指で触れる、強烈な衝撃で激痛が走る、この世界こそが唯一の現実だろう。

社会的、及び学問的な観点では、現実のみがその存在を認められ、市民権を得ることに成功している。

しかし、肉体のみがその「現実」を知覚することの出来る唯一の道具だとするならば、肉体の状態によって各々の認識する「現実」の姿は歪められてしまう、ということになる。

特に、脳の識別能力に欠陥がある場合などは、その歪みが顕著に見られることになる。「現実」の音は、脳内の声と混濁し、その客観性を失う。目に映る景色には脳内のイメージが重なり、幻覚となって見るものを欺くだろう。

この世に、完璧に健康な肉体を持つ人間がいるとするならば、それは恐らく、生まれたばかりの赤ん坊だけだろう。その赤ん坊もまた、一秒、二秒と肉体を劣化させていく。この世に、完璧に健常な「現実」など、ありはしないのだ。

誰しもが、歪められた宇宙を抱え、歩いている。科学の持つ客観性も、神の前でしか役にたつまい。

所詮、多くの人が支持している「現実」というものは、多数決の出した解答にすぎない。すなわち、より一般的な肉体を持つ者が、「現実的な思考」と皆が思っているような発想をすることができるのだ。

恐らく、その発想は貧相で、凡百で、欠伸がでるほど退屈なものだろう。

軍隊アリの一匹が独創性を持たないように、彼らもまた主張するべき自己を持たない。

私はそういった類のものを嫌う。客観性を、正気の世界を、多数決の出した答えを、私は嫌う。私は現実嫌いなのだ。

私は、「現実」というチャンネルに、アンテナを合わせない。私の興味の対象
は、ただただ狂気のみなのだ。

今、私のパラボラアンテナが、リリーの愛をキャッチした。私はモニターでその存在を確認し、その規模をレーダーで数値化する。

彼女の愛のスケールは、太陽系のサイズをとうに超え、すでに銀河系を凌駕するほどに膨張している。

どうやら、相手はハイスクールの同級生らしい。金髪の天然パーマが特徴的な男の子。ドーナツをくわえて登校する姿が、彼女の意識全体に広がっている。太陽の存在はもはや、ドーナツの輪をくぐれるほどに小さくなっている。

いや、この同級生が巨大化しているのだ。

彼女の狂気的愛情は、膨れ上がるばかりだ。そのうち、その大きさは宇宙をも超え、この世界では抱えきれなくなるに違いない。

しかし、彼女の狂気は、まだこの現実世界にアウトプットされていない。現実世界とは異なる、全く別のチャンネルで展開されている世界なのだ。それ故に、彼女のその宇宙規模の妄想は、決してこの現実世界に影響を及ぼすことはない。

彼女は彼女のまま、どこにでもいるハイスクール・ガールとしての存在を、この現実世界で維持し続けるだろう。

もし、私が何もしなければ・・・。

私は、現実以外の存在を、この世界に反映させるための装置を作り出した。二つのチャンネルを、一つにするための装置を。

その装置は、現実以外のエネルギーで動く。電気やガソリンではない。この世界には存在していないエネルギーで。

見た目は、掃除機を大きくしたようなものだが、その機能は掃除機の反対だと言えるだろう。吸い込むのではなく、吸い出すのだ。リリーの中に存在している、現実以外の世界を、彼女の外に、つまりこの現実世界に、吸い出すための機能を、この装置は持っている。

もし、それを実行すれば、この世界はリリーの狂気に凌駕され、その性質を全く変えてしまうに違いない。もしかすると、全てが裏返り、現実が狂気に、狂気が現実に、なってしまうかもしれない。

科学や秩序は全て白紙に戻り、150億年続くこの宇宙は、以前とは全く別の歴史を歩むことになるのだ。

しかし、私はそれを悪とは思えない。

恐らく、私もまた、この現実世界を知覚するための肉体に欠陥を持っている人間の一人なのだろう。この世界に対する違和感を、払底することが出来ない。

しかし私は、この世界を自分のチャンネルに変えてしまおうというエゴを行わないだけの道徳観は、持ち合わせているつもりだ。

私は装置をトラックに積み込み、家を出た。

リリーのいる場所まで、2000マイルの旅をする。

エンジンが現実的な音を立てる。

私は非現実に向かって、現実のアスファルトの上を走る。

私はずっと、この世界を変えることの出来る存在を待ち望んでいたのだ。一体、彼女の何が、私の心を強く打ったのだろう。彼女の世界が現実に反映されれば、それを知ることが出来るだろうか。

彼女の狂気が宇宙の法則となった世界で、私はその法則を発見することが出来るだろうか・・・。

彼女がいた!彼女がいた!!

私は装置の車輪に油を差し、物音を立てずに彼女の背中に近づく。

一つ言い忘れていたことがある。彼女の世界をこの現実世界に引っ張り出すためには、彼女の現実的装置を破壊する必要がある。

つまり、彼女の肉体を破壊しなければいけないのだ。そうしなければ、この装置を彼女の世界に接続することが出来ない。

私はそのための道具もそろえていた。

カナヅチとナイフ、それに手術道具。

私はまず、カナヅチで彼女の後頭部に一撃を加え、彼女の現実意識の接続を断った。

さらに、ナイフで胸を貫き、彼女の心臓を停止させる。

そして、手術道具を使い、彼女の肉体の隅々に装置のコードを這わせる。

準備は整った。後は、装置を作動させるだけだ。

急がなければならない。ぐずぐずしていると、彼女の狂気的世界のチャンネルを見失ってしまう可能性があるのだ。まだ電気によって彼女の肉体を動かすことが出来るうちに、作業を終了させなければ。

装置のコンピューターを使って、彼女の狂気にアクセスする。

一度目、失敗。二度目のチャレンジ、また失敗。

急がなくては。

三度目のトライで、彼女の狂気にアクセスした。こうなれば、もう肉体は不要だ。この世界と全く別の世界が、この装置によって繋がったのだ。

私はリリーの肉体を、近くの森に埋めた。

私はレーダーで、彼女の持っていた世界の規模を再び数値化する。なんということだ!すでにこの宇宙を超えている!

二つの世界を合わせれば、現在あるこの現実世界よりもむしろ、彼女の狂気的世界の方がより強く反映されるのだ。

私は一瞬、恐怖で背筋が寒くなった。私がやろうとしていることは、どんな犯罪よりも罪深いことに違いない。

しかし、私は作業を先に進めた。もはや、私の意志は関係なくなっていた。私もまたこの装置と同じように、現実以外のエネルギーによって動かされていたのかもしれない。

私はボタンを押し、この世界にリリーの世界を流し始めた。

その瞬間、私の意識は混濁し、自我が消え、五感が狂い始めた。まるで、麻薬を打ったような、いや、それをはるかに超えた感覚だった。「私」という存在をとっくに凌駕した、この世界の根底が変化しているのだ。

さらば現実!さらば神よ!全ての宇宙法則よ!さらば!キリストよ!仏陀よ!私は全てを変えてしまった!

まるで洗濯機の中だ!何もかもが回っている!

地球が一秒で一回転する!太陽がとぐろを巻いている!

狂気だ!まさに狂気だ!

男の子の性器の先端には、真っ赤なストロベリーがついている!

顔がゆがむ!肉体が変形する!もはや我々は人間ではない!

神だ!全ての人間が神になったのだ!

そして、神を超える、さらなる全能者が生まれたのだ!

それこそがリリーだ!彼女は神を超えたのだ!

私は、気を失ったのと同じ場所で目覚めた。つまり、この世界に。




おしまい。

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