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自作小説お披露目会場コミュのこいこい! 2−3

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 キキコは五枚の札を指し示す。

「まずは漢数字の五に光と書いて【五光】だよ。ま、見たままだね。得点は十五文。現在のこいこいは持ち点十二文だから唯一他の役と複合させずに勝利する事が出来る役だよ。成立条件は五枚の光札を全て取得する事。これから説明していくけど、一つでも相手に取られたら位が下がるから注意してね」

 ディヴィヤが『ふむ』と言い、呟く。

「確かに厳しいですね。ロイヤルのようなものと言った理由も頷けます」
「ロイヤルよりは揃うけどね。ま、確率的にも四八分の五と五四分の五なわけだから当然と言えば当然だけどさ」

 キキコは柳に小野道風を五枚の中から引き抜く。

「で、柳に小野道風を抜いたこの形が漢数字の四に光と書いて【四光】。得点は十文。こっちは狙っていけるけど基本的には厳しいよ」
「あ、狙えるのですか?」
「割とね」

 キキコは柳に小野道風と桐に鳳凰を入れ替える。

「で、これが気候の雨に漢数字の四、そして光と書いて【雨四光】。得点は八文。成立条件は柳に小野道風+光札三枚。これが札の説明の時、柳に小野道風は光札の中でも特殊な扱いがあると言った第一の理由だよ。何で雨なのかというと、柳の札には雨が描かれているから「雨入り」の四光って事で雨四光って名称なの」
「なるほど。……それにしても柳に小野道風だけ格下扱いとか酷いですね」
「まだまだ序の口。これから差別は酷くなるよ」

 キキコは柳に小野道風を抜き、光札は三枚となる。

「これはさしずめ、漢数字の三に光と書いて【三光】といったところですか?」
「正解。得点は六文。成立条件は柳に小野道風以外の光札を三枚取得する事」
「これは酷い……」

 物悲しそうに呟くディヴィヤ。キキコは共感し、

「私もそう思う。でも、次はもっと酷いよ」
「まだ酷くなるのですか……」

 陰鬱に呟くディヴィヤに、キキコは首肯し、残った三枚の内、桜に幕とススキに月を残して残りの光札三枚は回収し、その代わりに札束の中から菊に盃を取り出して机に残ったままの二枚の内、桜に幕の下に置く。

「これが問題の役の一つ。【花見酒】だよ。得点は三文。成立条件は桜に幕+菊に盃。この通り、二枚で役が成立するのでこいこいをしてもリスクが少なく、かつ他の役と複合し易いからリターンは大きいというとんでもない役だよ」
「それで菊に盃は最重要と言ったのですね」
「そ。で――」

 キキコは菊に盃をススキに月の下へと移動させる。

「――こっちが問題の役その二の【月見酒】。得点は花見酒と同じく三文。で、何となく分かると思うけど、花見と月見は非常に複合し易い役だし、成立に関わってくる札の一方がどちらも光札だから取り合いは必至」
「ま、当然でしょうね。初心者でもその凶悪さが分かるほどですし」
「でしょ?」
「で、先ほど言っていたより酷い差別というのは?」

 キキコは神妙な面持ちになり、声のトーンを落として答える。

「……ディヴィヤさん、もしもだよ? もし花見に行く時に雨が降ったらどうする? もし月見をする時に雨が降ったらどうなる?」
「え? そんなの――」

 ディヴィヤは言いかけた言葉を途中で止め、口元を手で押さえ、

「――ま、まさか、それはつまり、そういう事なのですか……っ!?」

 愕然と叫んだ。キキコは静かに頷いて正解だと肯定する。

「その想像通りだよ。どちらかのプレイヤーが花見もしくは月見、或いは両方を成立させていても柳に小野道風を取得した時点で不成立となってしまうの」
「そ、んな……」

 ディヴィヤは愕然を露わにする。

「ぜ、絶望しました! この差別に絶望しました!」

 そして声高に悲痛な思いを叫んだ。教室にその声が響き渡る。

「絶望しているところ悪いけど、先に進むよー」

 一方、小さい時に今のディヴィヤよりも酷いくらいに騒ぎ喚いてその悲しみを経験済みのキキコは、次の役を紹介するための準備をそそくさと始める。

「キキコさんって意外と冷たい人なのですね……」

 ディヴィヤがジト目で睨んできた。

「そう言われても私は経験済みだからねー」

 キキコはため息混じりに言った。すると、ディヴィヤはケロッとして、

「すると、同じような感じだったのですか?」
「ブチ切れしてパパとママンに当たりまくったよ」
「それはそれで酷い話ですね……」
「ま、そのくらいって事で話を戻すよ?」
「ええ。お騒がせしました」

 それを受け、キキコは机を示す。

「じゃ、次ね。これは猪、鹿、そして蝶と書いて【猪鹿蝶】というよ。得点は五文。成立条件は見ての通り、萩に猪、紅葉に鹿、牡丹に蝶を取得する事」
「そのままで覚え易いですね」
「総じてそういうのばっかりだけどね」

 キキコは札束の中から猪鹿蝶を仕舞い、赤短三種と青短三種を取り出す。

「これもそうだしね。赤い方は【赤短】、紫の方は【青短】というよ。得点は各五文。成立条件は見ての通り、赤短は赤短三種を、青短は青短三種を取得する事。ちなみに青短は牡丹、菊、紅葉にあるから○○酒や猪鹿蝶と複合し易いよ」
「分かり易くて覚える身としては助かります」
「そう思ったところで次からは少し毛色が違ってくるよ」

 言いつつ、キキコは赤短三種と青短三種を回収し、札束の中から早い月順に種札を五枚取り出して横一列に並べる。

「これはタネ。種札を種類問わずに五枚取得すれば成立。得点は一文」
「五枚揃えているのに一文だけなのですか?」
「その分、役を成立させてこいこいした場合、種札が一枚追加される度に得点は一文増えるし、そうなったら勝負かこいこいかを選択出来るし、種札が絡んでくる役とも複合させ易いと魅力的なメリットがあるからその得点なの」
「つまりは適正というわけですか」
「そういう事。で――」

 キキコは机に広げた種札を回収し、早い月順に短冊札を五枚取り出して並べる。

「――こっちはタン。短冊札を種類問わずに五枚取得すれば成立。得点と扱いに関してはタネと同じだから割愛するね」
「把握しました」
「ありがとう。じゃ、いよいよ最後」

 そう前置きし、キキコは並べた短冊札を回収し、早い月順にカス札を十枚取り出して並べる。

「これはカス。得点と扱いはタネやタンと同じ。違いは成立するのに必要な枚数が倍の十枚である事。やれば分かるけど、この役を含め、タネやタンは自然と揃っていくから成立を狙おうとは思わなくて平気だよ」
「まあこいこいの仕様上、そうなるでしょうね」
「……少し前から思っていたけど、覚えが早いね?」

 キキコは舌を巻く。子供の頃という事を差し引いたとしても花札の札やこいこいのやり方は覚え難いと思うのだが、ディヴィヤの様子を見る限り、時折考えたりしたものの、しっかりと理解しているようである。覚えるのに中々時間がかかったキキコとしてはただただ感心するばかりだった。

「何事も情熱あればこそ、ですよ」

 言いつつ、ディヴィヤは椅子を自分の席に戻し、バッグを持って立ち上がり、

「では、参りましょうか」

 はて、とキキコは思った。何処に参るというのだろうか。

「参るってどちらに?」
「……ここでマジボケかましますか」
「え? 分からないとまずい?」

 ますます分からないキキコは尚も尋ねる。
 ディヴィヤはため息をつき、

「キキコさん、自分で「私のスケジュールを把握した方がより確実だよね」という解にたどり着いておきながら、私が何処に参ると言っているのかまさかとは思いますが、本当に分からないと言いますか?」

 と、至極呆れた風情で言ってきた。
 それでキキコは合点した。その上で質問を重ねる。

「……止めないけど、そこまでする?」
「花札は元々日本に長期滞在する際に覚えようと思っていましたし、キキコさんのスケジュールを把握する上では部活も同じの方が都合良いですし、そして何より貴女の演奏にはこれだけの事をさせるだけの魅力がありましたから」

 凛然と言い、ディヴィヤは右手を差し伸べてくる。

「さあ、キキコさん。花札部へと共に参りましょう」

 キキコはディヴィヤの本気さを感じ取り、故に何も言わず、机に広げたままの花札を手早く片付けてからディヴィヤの手を握り返した。

「お待たせ。行こうか」

 そして二人は花札部へと向かった。


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