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自作小説お披露目会場コミュのこいこいしようよ! 6−2

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 堂々とそれでいて優しく諭すようにキキコを真っ直ぐ見て語り始める。

「勝敗も確かに重要だ。勝負事なんだから当然だし、部活なんだから勝てば学校側としても嬉しいからな。だが、大本を履き違えるな。間違えるんじゃねぇ。しっかりと見定めろ。勝つための努力大いに結構、上位者としての責任は持って当然。が、最も重要なのは楽しいかどうかだろうが。鳳凰堂の方は知らないが少なくとも初日において部活は自由参加だ」
「鳳凰堂も自由参加型にございます」

 瀬葉がさり気無く補足した。
 それを受け、松町は瀬葉に微笑みかける。

「そうかい。情報ありがとう。で――話を戻すがそういう形式なら好きだから入るわけだ。或いは上に進むために有利だからって奴もいるかもしれないが、そういう奴にしたって自分の好きな事をやるはずだ。でなきゃきついからな。で、誰もがそんな状態の中、勝ちまくるから勝たない? はっ。とんだお笑い種だ。へそで茶を沸かせられるな。目を背けんなよ。その理屈で行くなら本当は勝ちたいって思っているって事じゃねぇか。例えネガティブな考え方だとしてもそんな事を思っている奴が負けるはずねぇのは道理だろうが。で、楽しんでやりたい事しか考えてないだったか。――フランクール、お前、そういう気持ちで今までやってきて本当に心の底から楽しかったって誰かに聞かれて「楽しかった」と満面の笑みを浮かべて作った笑顔ではない本当の笑顔で答える事が出来るか?」
「…………」

 キキコは答えられない。そんな事出来た事が無かったから。

「出来ないだろう? 当たり前だ。妥協してんだからな。どれほど器用に誤魔化したところで自分だけは絶対に騙せないぜ? 仮に騙せていると思っているならそれはその事実から目を逸らしているだけだ」
「――知らないで……」
「ああん? 言いたい事があるならはっきり言えよ?」
「――っ! 人の気も知らないでと言ったのです!」

 キキコは立ち上がり、胸の内を打ち明ける。

「先生には分かりますか!? あなたとは遊んでも楽しくないと言われる私の気持ちが! 何もしていないのに勝ってばかりだからイカサマしているのだろうと疑われた私の気持ちが! そんな事を言われてきた私の気持ちが!?」
「それが何だよ? 単なる妬みじゃねぇか」

 松町はそれを素気無く一蹴する。

「お前、自分の心の弱さを人に押し付けるなよ。一応聞くが、お前はイカサマして勝ってんのか? 違うからそんなに怒ってるんだろう?」
「あ、当たり前じゃないですか!? 私、何も悪くないです!」
「だったら堂々としろ。しゃんと胸を張れ。というか、まだ気づかないか?」
「気づくって何にですか?」
「――原因はキキコにあったって事だよ」

 亜衣がため息混じりに言う。
 キキコは愕然として亜衣に尋ねた。

「私に、って……そんな、嘘だよ!?」
「嘘じゃないよ。キキコにはきつい話だけどね」

 亜衣は紅茶を一口飲んでから続ける。

「始めたばかりの僕が偉そうな事を言うけど、慣れてきてふと思ったんだ。キキコとこいこいをしてもそんなに楽しくないな、って」
「っ! だから、それは……」
「勝つ気がないからだって言いたい? ――違う。違うよ、キキコ。で、ようやく分かった。当然だよ。だって――」
「――お前は楽しんでやっていないからな」

 松町がその後を引き継ぐ。
 キキコは冷水をぶっかけられた錯覚に捉われた。
 そんなキキコを他所に、松町は静かに続ける。

「お前にも色々あったんだろうさ。そうなっちまうだけの、そういう精神状態でそれでも続けたくないから見つけた処世術だろうさ。それを非難しない。むしろすげぇって褒めてやるよ。そんな状態になってもお前は花札を嫌いにならないでいるんだからな。――でもよ、フランクール。お前、そんな精神状態の奴と戦って「楽しかった」と相手に素直に言えるか?」
「……そんなの――」
「分かるはずない、という言い逃れは無しだぞ? キーちゃん」

 キキコの言葉を、満が剣呑な声色で遮った。

「ええ。自覚しているキーちゃんにその逃げ道は初めからありませんわ」

 その後、紫が同じく剣呑な声色で駄目押しをした。
 そんな二人にキキコは自嘲的な笑みを返す。

「……違うよ。私はそんなの言えるはずないって言おうとしたんだよ」

 キキコはそう言った後、糸が切れた操り人形のように椅子に座った。

「言えないよ……言えるはずないじゃん、そんな社交辞令……」

 天井を仰ぎながら呟く。
 分かっていた。気づかない振りをしていただけだ。こんな方法で続けていたとしても周りを傷つけるだけで、自分を追い詰めるだけだと。でも、一番に見つけ、縋りついた方法がそれであり、それ以外の方法を見つける努力を怠った。そのツケがようやく回ってきた。これはただそれだけの事。

「でも……どうしたらいいのか分からないよ……」

 嗚咽混じりの呟きが室内に響く。
 分からない。不器用だと自覚しているからこそ、今更どうしたらいいのか分からない。騙し、傷つけ、それすらも慣れてしまった自分の心を今更どう処理すればいいのか、慣れてしまったキキコには何も分からなかった。
 そんな中、松町がキキコに近づき、頭に手を乗せ、

「――だから難しく考えんな。で、堂々としてろ」

 目線を同じ高さにして励ますようにそう言った。

「俺が思うに周りがお前に対してそういう態度を取ったのは、お前が堂々としていなかったからだ。確かに相手を気遣うのは悪い事じゃない。しかし、気遣えばいいってものでもない。勝者に情けをかけられるほど敗者にとって屈辱的な事はない。お前、そんな感じの事無意識にやっていたんじゃないのか?」
「え、だって……勝った方が楽しいでしょう?」
「おっと。意識的だったか。だったら尚更まずいが、今は置いとくとして――フランクール、鳳凰堂の奴らを見てどう思う?」
「どうって……」

 キキコは鳳凰堂の面々を一瞥してから答える。

「……そうですね。堂々としている、でしょうか?」
「だろう? あれが上位者としての振る舞いだ。強い奴はどんな世界でも堂々としているのが普通なんだよ。勝ちまくるとしてもそれは勝とうとする技術と気持ちが備わっている証だ。まああそこまで堂々としろとは言わないけどな」

 それを聞いて鳳凰堂の面々は『今さり気無く俺達の事をバカにしたよな』『したした。間違いなくしたよね』『紛れも無くされた』『事実だから仕方あるまい』『少し自重する事を心がけましょう』などと意見を述べた。
 しかし、松町は敢えて聞こえない振りをして続ける。

「まあそういうわけで、とにかく何もやましい事がないなら堂々として「負け犬の遠吠えほど見苦しいものはない」くらいの事を言ってやるくらいの心構えでいろ。ま、実はそうやって相手の心を折っているって話なら話は別だけどな」
「な!? そ、そんなドSな事しませんよ!?」
「そうか? 割と似合ってると思うぜ?」
「似合っているってそういう問題ではないですよね!?」
「まあな。んじゃ、話を戻すぞ」

 松町の提案に皆は各々の調子で肯定を返した。
 それを受け、松町が言葉を続ける。

「ともあれ、とにかく一度やってみようぜ? で、それで駄目だったら改めて対策を講じればいいし、直ったら御の字だ。ま、直には無理かもしれないけどな」
「では、早速準備をしませんとね」

 紫がそれを受け、席を立ちながら瀬葉を見る。

「瀬葉。というわけでお願いしますわ」
「かしこまりました」

 瀬葉が一礼して競技の準備を始める。
 紫はそれを確認し、満とキキコを交互に見る。

「満にキーちゃんは対戦台の方へ」
「おうさ」
「はーい」

 かくて、花札においては多大な功績を残した両親を持つ少女と関東圏最強と噂される少女との対戦が今ここに実現した。


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