ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

自作小説お披露目会場コミュのこいこいしようよ! 6−1

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
 花札もそこそこに途中休憩や昼食、座談会などを挟みつつの初日高校と鳳凰堂学院による合同練習の初日も夕方を迎えて終盤に入った時の事だった。
 一団の中で唯一の初心者である佐治亜衣が何となしにこんな事を言った。

「キキコが入ると関東で一番強いのって誰になるのかな?」

 その話題が投じられた瞬間、全員が動きを止め、亜衣に注目した。
 各々思いはある。ある者は触れまいとしていたのにどうして触れたのかと。ある者は聞かなくても分かるだろうと。思惑は様々であるが。
 会話が途切れ、気まずい沈黙が降りると思われたその時、

「そんなのキーちゃんに決まっているではないか」
「ミッチーでしょ。関東の顔と言っても過言じゃないわけだし」

 この合同練習内における成績一位の五光満と亜衣と並んで成績十位タイのキキコ・S・フランクールが相手の名前を全く同時に挙げた。
 キキコがげんなりしながら満に言う。

「ミッチー、関東の最上としてそれは色々まずくない?」
「こうでも言わないとお前様は本気を出さないだろう?」

 心中を見透かされ、キキコは内心のみでドキッとした。
 どうにか平常心を保って答える。

「……本気って何の事? 私は何時でも本気だよ?」
「――やはり器用に手を抜いていましたのね」

 紫がカップを更に置きながら会話に加わった。
 キキコはぎょっとして紫の方を振り向く。

「ちょ、ゆかりんまで何を――」
「満と紫が言うのなら間違いないみたいね」

 キキコの言葉を遮り、鶴賀が真剣な声で先を促した。

「いや、赤松部長、私は――」
「安心しなさい。非難も軽蔑もしないわ。というか、自分だけが特別だと思ったら大間違いよ? 貴女は単に自覚しているかどうか、というだけだもの」
「それってつまり、キキコは特殊能力所持者って事ですか?」

 亜衣が興味津々とばかりに尋ねた。

「そんな感じね。ま、どれだけ花札を好きかどうかというだけだけど」
「どういう事ですか?」
「亜衣は人に負けたくないものがあるかしら?」
「ありますね。ゲームとかのテクニックでもいいのであれば、ですけど」
「形は違うけど、ズバリそれよ。これだけは他人に負けたくない――そういう気持ちが形になるのが今話している事よ。あたしが【逆転の鶴】なんて大層な異名で呼ばれているのもここぞという時ほど気持ちの上では負けないようにしているから逆転勝利って結果が多いところから来ているのよ」
「それって偶々偶然でそうなっているだけなのでは?」
「ええ。ただの偶然で思い込みでしかないわ」
「しかし、鶴賀を初め、プロアマ問わず優秀な成績を収めている者は大体『自分は負けない』『自分は勝てる』というイメージを持って戦いに望んでいる」

 静観していた満が諭すように言った。

「あらゆる競技において気持ちで負けない事は何にも増して重要な事だ。だが、そういう事がまかり通るならば、その逆――良く言えば接待、悪く言えば手加減をする事も可能であり、キーちゃんはそれを実践しているというわけだ」
「……そうなの?」

 亜衣が皆を代表してキキコに話を振った。その場にいる全員がキキコに視線を向ける。キキコは全員を一通り見た後、ため息をつき、

「……上手く行かないなー、もう……」

 罰が悪そうに頭を掻きながら本気を出していない事を認めた。
 それにキキコが気づいたのは、紫と満にこいこいの遊び方を教えてもらい、慣れてきて一人でも戦えるようになった時だ。
 理由は分からないが、どういう事なのか、ある程度勝敗を操作出来た。する事は競技が始まる前にどう思うか。勝ちたいと思った時は基本的には勝てたし、負けようと思うと基本的には負けられた。気持ちが露骨に表れるというのは両親に聞いていて知っていたが、ここまでとは思わなかった。単に優位に立てる札が来易いというレベルの話ではないのだ。百パーセントでは無いにしろ、望むと七、八割方優位になれる札が来て、望まなければ来ない。そういう次元の話である。

「じゃあ、手を抜いてたっていうの?」
「そうなるね。楽しんでやる事しか考えていなかったわけだから」

 キキコは肩を竦めながら言った。
 それが、キキコが見つけた処世術。勝とうとすれば大体は勝て、負けようとすれば大体は負けられる――ならば、どちらも考えずに楽しんで遊ぶ事だけを考えて望めばいい。そう思って実践してみれば、やはりそうなった。勝つ時も有れば負ける時もある。その方法を見つけて以降、キキコはそういう考えでしかこいこいを遊んだ事がない。
 兎角、確かな事はきちんと向き合っている人達を侮辱しているのも同然である事だ。どう取り繕ったところでその事実だけは絶対に覆らない。

「楽しんで、か……。……好き過ぎるっていうのも問題なんだね?」
「うん。亜衣は私みたいになっちゃ駄目だよ?」
「その境地に至るにはまだ先の話だよ」
「だからこそだよ。でないと私みたいに取り返しのつかない事になるからね」
「……だね。肝に銘じておくよ」

 亜衣の肯定を最後に会話が途切れた。
 いや、終わったというべきか。好奇心は身を滅ぼす、という事か。ちょっとした好奇心で空気が重くなる事など誰にも想像出来ない。

「しかし、そうなるとやっぱり満が一番か?」

 それから少しして萩が気だるそうに口を開いた。

「そうなると思う」
「フランクールさんが本気出せないんじゃそうなるんじゃないかな?」

 それに牡丹と椛が便乗した。
 これによって話は本題に戻り、空気が軽さを取り戻していく。

「その結論はまだ早い。キキコだってやろうと思えば出来るはず」
「ま、そういう理屈よね。やってやれない事は無いんでしょう?」

 朱美が反論し、桐子が賛同を示してキキコに話を振った。

「え? いや、どうでしょう……? 考えた事もありませんでした」

 キキコは逡巡して曖昧に答えた。
 それを聞いて、鶴賀がため息をつく

「これは重症ね。大会までに直せるかしら……」
「どうにかして直さないと一勝をみすみす捨てるようなものですからね」

 亜衣が他人任せ全開な発言をさも当然のように口にする。

「鶴賀さん、そういう話は後でやってくれ。今は満とフランクールのどっちが強いかって話だ。さっきみたいな空気になるのはごめんだぜ?」

 萩が気だるそうに嗜めながら軌道修正を試みる。

「と、悪かったわね。それじゃ、話を戻すけど鳳凰堂には悪いけどそういう事情ならキキコの方が強いに決まっているじゃない。ね、亜衣?」
「ですよね。イマイチ信じられませんが、さっきの話が本当ならキキコは勝とうと思えさえすれば勝てるわけですから。そうだよね、キキコ?」
「そこで私に話を振る!?」

 キキコはぎょっとして思わず叫んだ。

「振るよ。で、どうなの?」

 冷静に答えを催促する亜衣。他の者も興味津々の視線を送ってくる。

「いや、その……そんな目で見られてもどうしようもないし……」
「精神的な事なのが厳しいな。私や紫はキーちゃんのおかげで克服出来たが、キーちゃんの場合、二つの問題点から私達の方法は使えないからなー……」
「全くです。こんな事なら十年前にキーちゃんを九条家で引き取るべきでした」

 満と紫が各々自分達だけが知る情報のみで物を言った。
 その発言に他の者の興味はそちらに移る。
 真っ先に口を開いたのは椛だった。

「ねえ、満、その問題点って何? というか、その話初耳なんだけど?」
「恥ずかしい話を態々する阿呆はいないだろうが」
「あ、なるほど。それで?」

 悪びれもせずに先を促してくる椛に、満はため息をついてから話し出す。

「簡単な話だ。キーちゃんは私達にまだまだ上がある事を教えてくれ、勝ちたいという気持ちを思い出させてくれた。それからというもの私も紫も自分が慢心していた事に気づき、今では関東の顔と言える地位に登りつめられている」
「つまり、二人にとってフランクールさんは恩人って事か」
「でも、それとフランクールさんは引き取るという話はどう繋がる?」

 話題に一段落つくのを待って牡丹が紫に尋ねた。

「経験者からしてこの症状を改善するには心を滾らせてくれる相手と早期に相対する事ですわ。で、キーちゃんの実力が凄まじいのは分かっていましたし、私達が側にいれば前者は多少なりとも症状を軽減出来る自信があるからですわ」
「なるほど。そういう理屈」
「で、そういうわけだからお前ら二人の方法は使えないってわけか」

 萩がまとめにかかり、全員黙り込んだ。

「――なあ、ちょっといいか?」

 その時、松町が口を開く。

「ああだこうだ言い合うのも結構な事だと思うんだが、そういう事する前にフランクールにそういう条件付けて戦わせてみればいいんじゃねぇの?」
「……やっぱりそうなる?」

 鶴賀が不承不承ながらに賛同を示す。

「百聞は一見にしかず、みたいなものだ。不満か?」
「不満ってほどじゃないけど、それで駄目だった場合、完全に手詰まりになっちゃうでしょ? だからどうしたものかなー、と思って」
「だが、鉄は熱い内に打てって言うぜ?」
「この機に乗じて駄目元でやってみろと?」
「おう。というわけで――フランクール、ちょっとやってみろよ」

 松町は鶴賀からキキコに視線を向けて言った。いつもと特に違いがあるわけではないが、その声には不思議と有無を言わせない響きがあった。

「他人事だと思って好き放題言いますね?」
「実際問題、他人事だからな。それにこれまでの話から鑑みるにお前は初めの一歩を間違えてはいるものの、それでもきちんと軌道修正してきちんと花札に向き合っている。それなのに何で気負ってんのかそこが俺には分からん」
「向き合っているって……先生、話聞いていました?」
「ふむ……。教師として嬉しいが優秀過ぎるというのも中々に問題だな」

 松町は立ち上がり、

「では、敢えて言ってやろう。フランクール、しっかり聞いとけ」

 お立ち台にあがるように皆の視線を集めながら、

「難しく考えんなよ。皆々偶然の出来事なんだからよ」


次→http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=66380392&comm_id=4595819

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

自作小説お披露目会場 更新情報

自作小説お披露目会場のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング