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自作小説お披露目会場コミュの改修版ブレイブハーツ 6−3

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 小石が地面に着地する。
 その瞬間、あたし達はまたも全く同時に踏み込んだ。

「銃を持ちながら、接近戦を挑みますか!」

 先ほどとの違いは、あたしが後進ではなく、前進している事。

「間合いの外から打っても無駄になるからね!」

 あたしが応じた時、仁美さんの間合いに入った。横薙ぎの一閃を、あたしは跳躍で回避し、そのまま仁美さんの背後に回った。
 あたしが着地するのと、仁美さんが身を翻して後ろを取ったあたしに追撃を仕掛けたのは全く同時。回避行動は間に合わないが、防御は間に合い、むしろそれが狙いだ。長刀を銃身で受け止め、火花が散るが無視。仁美さんの目が見開かれるが、それも無視してあたしはより間合いを詰める。

「行きます!」

 宣言し、あたしは右の肘を仁美さんの腹部へ見舞う。肘から骨を砕く感触が伝わり、仁美さんが小さく呻き、体を『く』の字に丸め、よろめいた。が、それは一瞬であり、仁美さんは我に返るや即座に攻撃を振ってくる。でも、よろめいた分、あたしの方が一瞬早い。肘を戻し、上体だけを仁美さんへと向け、無防備な顎へアッパーカットを見舞う。顎への攻撃は直撃し、仁美さんは体を仰け反らせ、方物線を描いて吹き飛ぶ。その直前、あたしは左半身を仁美さんへと向け、腹部へと照準を合わせ、フルオートで全弾を撃ち尽くす。血が飛沫となり、あたしは返り血を浴びる。一方、仁美さんはアッパーカットの衝撃で後方へと飛んで行き、三メートルほど離れた場所に着地した。
 それで閉幕。
 しかし、あたしは警戒を緩めず、仁美さんを見据える。
 それから十秒ほどして、仁美さんは口から血を吐き出し、同時に力が抜ける。
 それを確認し、あたしは警戒を解き、深呼吸を二度三度繰り返して行う。

「……負けて、しまいましたか……」

 そう言った仁美さんは、何処か晴れやかだった。

「でも……不思議です。どうしてか、気持ちが良い……」
「満足そうにしてるところに水を差すけど、寝ちゃダメだからね?」

 あたしはそう言って、仁美さんの下まで歩き、横に座り込んだ。

「それから、少し休んだらすぐに出発するからね」

 矢継ぎ早に言うと、仁美さんはきょとんとした。

「行くって……何処へ?」
「知美のところだよ。向こうはまだ終わっていないだろうからね」
「……ああ、なるほど」

 少し考えて、仁美さんは納得した様に言った。

「ならば、一人で行かれては?」
「そうしたいのは山々だけど、戦力は一人でも多い方が良いからね」
「……鬼ですね」
「文句は負けた自分に言って」

 強引に会話を打ち切り、あたしは仁美さんの腹部を見た。血に染まっているが、そこからは流血していない。常人なら失血死、もしくはショック死するだろう血の量と傷だが、生憎とあたし達は破邪。この程度じゃ生憎と死ねない。
 大丈夫そうだったので、あたしは口を閉じて回復を図りつつ、体を総点検する。何処もかしこも疲労を訴えていたが、少し休めば動けるだろう。どちらかと言うと、問題になってくるのは明日になれば出るだろう筋肉痛だ。かなり体の事を度外視で動き回ったから、明日はかなり悲惨な感じになる事間違いない。

「……暇潰し、というわけではありませんが、聞いても良いですか?」

 一人で勝手に憂鬱な気分になっていると、仁美さんが話しかけてきた。顔に視線を向ければ、まだ蒼白ではあるが、赤みを帯びて来ている。

「喋って平気?」
「平気だから喋っています」

 少し不安だが、自己申告を信じるとしよう。

「で――よろしいですか?」
「まずは聞いてからだね。で――答えられる質問だったら答えるよ」
「そうですか」
「そうそう。で――何が聞きたいの?」
「貴女はどうしてこの力と向き合え続けられるのですか?」
「どうしてあたしにそれを?」
「私と貴女では見えている世界が違うからです」

 仁美さんはそう言って、あたしに有無を言わせない目を向けてくる。

「――その証拠に、貴女は今まで一度として『零番目』を使っていません。そしてそれこそが、向き合い、堪え続けられている事を如実に物語っています」

 そして、仁美さんは『それ』を口にした。
 それは事実だ。
 正確にはそれが根源。七曜は強過ぎる『零番目』を使わないために、全てを無に帰す、という出鱈目にも程がある力を使わなくても良い様に編み出された物。
 そしてそれは、破邪達が恐れ、ママを絶対に殺そうとした要因でもある。

「――有して分かりましたが、七曜は恐ろしい力です。世界の構成が見えてしまうだけでなく、そこへ自由自在に干渉出来る。それだけでも辛いというのに、その上『零番目』――『無』を見続けていたのなら、どれだけ心穏やかであろうとしても、耐えられないはずです。それなのに、貴女はどうして向き合い、耐え続けられるのですか?」

 あたしは、仁美さんがママの事を『義姉さん』と呼んだ事に驚き、と同時に仁美さんが本当に大丈夫な事が分かって内心で安堵した。
 それはそれとして、どうして向き合い続けられるのか、か。

「――恥ずかしいから、かな? ……うん、恥ずかしいからだね」

 少し考えて、あたしはそう答えた。

「恥ずかしい?」
「うん。カンニングして満点取っても恥ずかしいでしょ?」
「貴女の場合、完全犯罪でしょう?」
「そうだけど、素直に喜ぶ事は出来ないでしょ?」
「むしろ、後ろめたさで一杯になりますね」
「そうそう。――とまあ、何かを『無かった事』にするって事は、つまりそういう事。使えば客観的には問題無くても、主観的には『使った』という後ろめたさで結局マイナス値。それなら一回目で我慢しちゃった方が楽だからね」
「……なるほど。そういう事でしたか」

 仁美さんは納得してくれたみたいだった。
 だけど、その後、合点した風な微笑は、呆れ切った苦笑へと変わる。

「それにしても、貴女は何時だって相手優先なのですね」

 そして、そんな事を言ってくる。

「――今更叔母を気取るわけではなく、そもそも私にはこんな事を言う資格が無いかもしれませんが、貴女はもう少し自分のために生きるべきだと思います」

 さらにはそんな事まで。
 あたしは肩を竦めて見せた。

「いやー、これで結構あたしは自分のために生きてるよ?」
「そう見えないからこう言っています」
「そうかな?」
「ええ。天道知美からは口煩く言われているでしょう?」
「それ正解。良く分かったね?」
「見ていれば分かります。天道知美とは親友なのでしょう?」
「うん。一番の親友で、一番大切な人」
「なら、あまり心配をさせない事です」
「それは安心して。これからちょっとずつ直していく所存だから」
「それは良い心がけですね」

 楽しそうに言って、仁美さんは上体を起こした。
 あたしは、立ち上がりながら尋ねる。

「行けそう?」
「……五分ほどですね」
「それだけやれれば御の字」
「どうするのです?」

 言いつつ、仁美さんは周囲を探り始めた。鞘を捜しているのだろう。あたしも一緒になって探し、少し離れている場所に落ちているのを発見し、仁美さんの代わりに拾いに行き、それを仁美さんに渡す。

「ありがとうございます」
「どういたしまして」
「で――改めて聞きますが、どうするのです?」

 その質問に、あたしは微笑みながらこう答えた。

「あたしがやれる事をやるだけだよ」


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