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自作小説お披露目会場コミュの改修版ブレイブハーツ 4−2

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 きっと、思い立ったが吉日、という事なのだろう。
 あたしは、堪らずため息をついた。
 文句を言っても仕方ないが、もう少し空気を呼んで欲しいところだ。
 まあもっとも、古今東西、襲撃者というのは得てしてそういうものだろう。だからこそ、襲撃者、なんて呼ばれているんだろうし。

「全く、何処までも無粋な連中ね」

 背後から、知美のため息交じりの声があたしの耳をついた。

「一実、数はどのくらい?」
「団体さんだね。ざっと見積もっても百は固いよ。おまけにその中に群を抜いて大きな気配がある。数は一、二、三――八人だから幹部が総出。全く、たかが少女一人殺すのに過激な事で。大人げないとはまさにこの事だよ」
「少なくとも百人、ね……。一人辺り二十五人相手にすれば終わる計算か」

 知美が算出し終えた時、沙耶さんと鶴来さんが駆けつけて来た。
 二人の到着してすぐ、あたしは三人に言った。

「あのさ、九十二人近く任せて良い?」
「それは、幹部七人と防人仁美を相手にする、という事よね?」

 答えたのは知美だった。

「そ。ダメかな?」
「一実の返答次第ね」
「どういう事?」
「一実も頼まれたのか、という話よ」

 あたしは、それだけで知美が言おうとしている事を察した。
 あたしは、自分に万一の事があったら仁美さんに伝えて欲しい事がある、とお爺ちゃんに頼まれている。それを引き受ける義理は無かったが、断る理由は無かった。知美が言葉からして、天道家も同じ事と頼まれているのだろう。
 あたしは、お爺ちゃんの抜け目の無さに、心底呆れてため息をついた。

「お爺ちゃんってば……、面倒頼むのは身内だけにしてよ」
「それだけ仁美さんが大切なんでしょうよ」
「……あたしにもその配慮をほんの少し分けて欲しかったよ」
「あら、妬いているの?」
「多少ね。そうしてくれていたら、もうちょっと仲良くやれたかな、と」
「無理な話ね。向こうも必死だっただろうから」
「誰も彼も強情だね。もっと周りを頼れば良いのに」
「……その台詞を一実が言うの?」
「その台詞を一実様が言いますか?」
「その台詞を一実さんが言いますか?」

 三人から突っ込まれてしまった。

「三人して酷いね」
「だって……ねぇ?」

 そう言って、知美は沙耶さんを見て、

「ええ。一実様ですから……ねぇ?」

 沙耶さんは鶴来さんを見て、

「本当どの口が言うのやらって感じですよね?」

 鶴来さんは知美を見た。
 向かい風を感じたので、あたしはため息一つつき、自室に向かった。別々に暮らしているけど、天道邸にはあたしの部屋が用意されている。あたしは広くて好かないが、天道邸の部屋の方が三倍は大きい。

「一実さん、お待ちを」

 と、向かおうとしたところで、鶴来さんに呼び止められた。

「何か?」
「私が取って来ますから、一実さんはここでお待ちください」

 自分で行けます――と答え様としたが、そんなの聞かずに、鶴来さんはあたしの部屋へと走って行ってしまった。

「沙耶」
「心得ています」

 短いやり取りを交わし、知美に命じられた沙耶さんは、知美の部屋へ。
 三分ほどして、右手にアタッシュケースを携えて、沙耶さんが戻って来た。知美の前で開くと、中には二挺の自動拳銃――ベレッタM92FS。知美は礼を言って、銃を取り出し、弾倉を確認。きちんと装填されている事を確認し、両手に装備した。

「ふと思ったんだけどさ、知美って何でそれを使ってるの?」

 何と無く理由は分かるけど、聞いてみた。知美――というか、天道家ならその気になれば、他の銃も入手出来ただろうから。

「何でって、一実が愛用しているからに決まっているじゃない」
「あ、そう」
「ええ、そうよ」
「お待たせしました」

 知美とそんなやり取りをしたところで、鶴来さんが帰って来た。
 あたし達の下に到着するや、鶴来さんはアタッシュケースを開け、一挺のベレッタM92FSを取り出し、弾倉を開いて見せてくれた。あたしが首肯すると、ホルスターへと仕舞い、そこでようやく渡してくれた。
 ついで、鶴来さんは日本刀を渡してくれたのだが、その刀にあたしは驚いた。

「鶴来さん、この刀で戦えと?」
「ご不満でしたか?」
「逆です。こんな名刀、あたしには分不相応です」

 そう言って、あたしは渡された刀を突き返した。

「それって名刀なの?」

 静観していた知美が、ぶっきら棒に聞いてくる。

「名刀ですよ、お嬢様」

 刀を受け取りつつ、鶴来さんが説明に入った。

「この刀は、刀工・虎徹が鍛え上げた一振りで、堅牢無比にして芸術品としても価値が非常に高く、その頑丈さが理由かどうかは分かりませんが、新撰組局長・近藤勇が使っていた刀です。余談になりますが、『虎徹を見たら贋作だと思え』と言われているほど贋作が出回っていますが、これは紛れも無く本物です。鑑定書もちゃんとあります」

「ふぅん……。で――そんな名刀がどうして我が家に?」
「何を言いますか。お嬢様の指示ですよ?」
「そうなの?」

 鶴来さんにそう言われ、知美は黙考し始めた。
 ただ待っているのも暇なので、あたしは索敵をして暇を潰す。敵の一団は、滞り無くこちらに近づいているみたいだ。

「――およ?」

 索敵をしたら、それ以外に妙な気配を二つ探り当てた。

「どうしたの?」
「どうかしました?」
「どうかしたんですか?」

 三人が聞いてくる。

「ちょっと待って」

 あたしはそう言って、より注意深く索敵を行ってみた。あまり真剣にやると、向こうに気取られる可能性があるが、虎穴に入らなければ虎子は得られない。

「――うーん……、珍客が二人ほどいるね」
「珍客? どんな相手か分かる?」
「それより、知美の方は? 何か思い出した?」
「優先順位が違うでしょ?」
「個人的には知美の答えの方が上だよ?」
「一実、こういう時は全体を優先して」

 知美は、ため息交じりに言った。

「言うから、ちゃんと教えてね?」
「時間があったらね」

 なら、急ぐとしよう。

「一人はまだまだ遠いよ。この移動速度だと多分飛行機か何か。妙なのは、ここまで周囲に溶け込んでいるのに、どうしてか妙な感じがする事。ここまで出来る人が、こんな下手を打つはずが無いからね。少なくとも、あたしだったら、こんな下手は打たない。だから、これには何らかの理由があるのだと思う」
「体質的な何かか、能力にそういった制約があるのかもしれないわね」
「そうかも。そうじゃないと説明がつかない」
「なるほど。で――二人目は?」
「二人目は、あたしのクローンだよ。結構派手に飛び回っているけど、騒ぎを起こす気は無いみたい。こちらも目的は不明。ここにいる理由もね」
「一実、それは一人なのね?」

 妙な言い回しだった。

「そ。でも、何で?」
「何処のバカがやっているのか知らないけど、一実のクローンは量産されていて、その子達は便宜上『白き少女達』と呼ばれているからよ」
「なるほど。しかしまあ『白き少女達』ねぇ……、やっぱり白いの?」
「飛び交っている情報をまとめると、髪から目、肌、衣服、さらには使用している得物まで全部白で統一しているそうよ。そこに意図があるのかは不明だけど」
「そっか。で――何か思い出せた?」
「虎徹を買ったのは覚えて無いわ」
「あ、そうなんだ」
「お嬢様、一実様に新撰組のコスプレをさせるために取り揃えたのです。私達しか観賞しないのだから、どうせならこだわろう、と。ちなみに、表向きの理由は、一期様のご子息である一実様に使ってもらうため、という目的です」

 あたしのそんな心境を読んだのか、沙耶さんが説明してくれた。
 すると、知美は合点したのか、手をポンと叩いた。

「あー、そう言えばそんな事もあったわね」

 その反応に、あたしは叫ばずにはいられなかった。

「そんな事って! そりゃ無いよ、知美! 名刀に失礼だよ!」
「失礼じゃないわ。一実には相応だもの」
「パパならまだしも、あたしには分相応だよ!」
「私は十分だと思うわ。二人はどう?」
「私も問題無いと思います」
「以下同文でーす」
「実力的な問題ではなく、精神的な事を言っているの!」
「まあまあ。そんな事より、行くのでしょう?」
「……このっ」

 悪態一つつき、あたしは玄関へと向かった。

「ちゃんと帰って来るのよ?」
「ご武運を」
「グッドラックです!」

 知美は苦笑交じりに、沙耶さんは相変わらずの事務的に、鶴来さんは相変わらずメイドらしからぬ明るさで、あたしを激励してくれた。
 あたしはサムズアップを返し、天道邸を後にした。

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