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自作小説お披露目会場コミュの改修版ブレイブハーツ 序章

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 夕方、某所。

「一人相手に三十人――多過ぎやしないか?」

 屋根から屋根へ飛び移る影の一つが、おもむろに口を開いた。
 先頭を走る影が答える。

「目標は確実かつ速やかに殺さなくてはならない。それに目標の戦闘能力考慮すれば、これでも不安は残る。万全を期すなら、倍は欲しいところだ」
「分かってはいるが、本当にそれほどなのか?」
「目標は生きている――それが何よりの証拠だ」

 平坦な返答に、問いを投じた影は沈黙した。
 沈黙した影に、答えた影はさらに釘を刺す。

「分かったなら黙って走れ。この会話ですら体力の浪費だからな」


 同時刻、大樹学園高校三年A組教室。
 仮眠を取っていたあたしは、殺気を感じて目が覚めた。
 上体を起こし、うんと背伸びをする。
 西日が差し込む教室には、あたしだけしかいない。当然だ。既に放課後。友人を待つあたしみたいな目的が無ければ、下校するのは必然。花の十代であり、学生時代最後の時間を、無駄に過ごそうとする者は少ないはずだ。
 背伸びを終えたあたしは、体をほぐしながら体を総点検する。机に上体を預けて寝る、というのは中々節々に悪い。点検してみると、枕代わりにしていた腕に痺れを感じ、腰が若干痛みを訴え、足にも痺れが残っている。しかし、いずれも行動に支障を来す程度ではなかった。
 立ち上がり、誰も来ない事をざっと確認してから、準備体操をした。動きに支障を来す程度では無いとは言え、動かないよりは動く方が良いし、関節をほぐし、体も温めておけば怪我を未然に防ぐ事も出来る。
 準備体操を終え、あたしは鞄を持って教室を後にした。


 三十の人影は、学校の屋上で足を止めた。
 そこへ降り立つや、影達は一糸乱れぬ動きで唯一の出入り口を目指した。
 その時、唯一の出入り口のドアノブが回った。
 無論、屋上から校舎内へと続く唯一の出入り口は自動で開閉する物ではない。
 よって、それが意味する事は、ただ一つしか存在しない。
 影達は弾かれた様に散り、転落防止の柵を越え、落ちる寸前に屋上の端に手をかける。かくて、屋上は一見すれば無人の場となった。
 影達が隠れ終わるのと入れ違いに、唯一の出入り口が開かれる。屋上に現れたのは、肩を少し過ぎたところまで黒髪を伸ばしている女子生徒だ。
 影の一人が確認しようと腕の力だけで体を持ち上げる。
 と同時に、女子生徒は口を開いた。

「七曜拘束解除、同時に干渉緩和結界展開」

 紡がれた瞬間、影達は世界の一変を感知した。
 一見して変化は無い。しかし、常識から見て、非常識と呼べる世界を知っている者は知覚する事が出来る。些細だが、恐ろしいまでの変化を。
 影達は迷わず動いた。腕の力だけで柵を越え、屋上へと躍り出る。
 それを見て、女子生徒は不敵に微笑み、小さく呟く。

「舞え、嵐」

 次の瞬間、女子生徒を中心に大風が吹き荒れ、それは竜巻を形成し、影達は突如発生した竜巻によって上空へと吹き飛ばされていく。影達が吹き飛ぶ中、女子生徒は鞄から得物と取り出した。一挺の自動拳銃――ベレッタM92FS。それを構え、女子生徒は躊躇う事無く引き金を引き、弾倉を全て使い尽くした。飛翔する弾丸は、影達の左右どちらかの足を正確無比に打ち抜いた。

 影達が地上に落ち、ついで雨となった地が屋上に降り注ぐ。

「踊れ、七曜」

 そこへ女子生徒は追撃をしかけた。突如中空から出現した光は、闇は、火は、水は、木は、金は、土は意思を持ち、女子生徒の指示に従う様に舞い踊り、影達を各々の方法にて攻撃していく。
 影達の苦悶が響き渡る中、女子生徒は弾倉の交換を完了し、全員を一度見渡してから銃口を影達へ向けて引き金を引く。七曜が踊る中、悲鳴が飛び交う。今度の発砲にて影達が射抜かれたのは、左右いずれかの手首。その都度血が噴き出したが、舞い踊る七つの現象が、各々の方法でそれが飛び散るのを防いだ。
 そこまでして、女子生徒は動きを止め、影達を見渡してから静かに言った。

「命は取らないから、とっとと消えてくれないかな?」

 何処までも平坦な声だった。
 影の誰かが引きつった声を出し、影の一人が悔しげに奥歯を噛む。
 しかし、勝敗は歴然。達人であるが故に、影達の誰もが敗北を悟っていた。
 そんな中、影の一人が告げる。

「――撤退するぞ」

 その一声を機に、影達は屋上から姿を消した。
 それから一分して、女子生徒は肺の空気を吐き出した。

「――全く、誰も彼も懲りないね」

 自分しかいなくなった屋上で、女子生徒はため息交じりにぼやいた。
 それを聞くのは、各々の方で片付けを行う自身の異能達だけだ。
 薬莢の片付けが終わると、女子生徒は静かに告げた。

「干渉緩和結界解除、後に七曜拘束発動」

 女子生徒がそう言うと、異能達は消え、屋上は再び静けさを取り戻す。
 それを終えると、女子生徒は携帯を取り出し、時計を見て呟く。

「……戻って寝直すとしますか」

 言うや、女子生徒は欠伸をした。
 目尻に貯まった涙を拭きつつ、女子生徒は屋上を後にした。


 教室に戻りながら、あたしは電話していた。

『久しいな。元気でやっているか?』
「まあまあかな。そっちは?」
『お前に会えなくて寂しいよ』
「諦める事だね。自分で決めた事じゃん」

 あたしがそう言うと、ため息が聞こえて来る。
 それから、真面目な調子で質問が返って来た。

『で――何か用か?』
「元気にしてるか確認しただけ、とは思わないの?」
『思えない、だな。お前が戦った後では』
「お見通し、か……。本当に何でも知ってるね?」
『早計だな。私が知っているのは、私が知りたいと思った事だけだぞ?』
「はいはい。――それじゃ、用件良い?」
『良いとも。何かな?』
「単刀直入に言うと、戦力が欲しいんだよね。それも超一流の」
『それほどの事が起きたのか?』
「起きる、が正しいね。時期的にそろそろ、と思ってたけど、さっきの襲撃で確信したよ。近々派手に動くよ」
『――ふむ。少し待て』

 待つ間に、あたしは教室に到着した。幸い、鍵はまだ開いていた。あたしは引き戸を引き、入室し、自分の席へと向かう。
 自分の席に座ったところで、向こうが再び口を開いた。

『ご明察。思い人は既に行動を開始して、そちらに近づいている』
「別に思い人ってわけじゃないけどね」

 あたしは別段驚かない。こうなる事は分かっていた事だ。

『しかし、そこまで厳しいか?』

 至極意外そうな顔で相手は言った。まあそう言いたくなる気持ちも分かる。
 なので、あたしは用意しておいた返事をする。

「戦力的には問題無いけど、物理的に厳しいね」
『なるほど。そのための戦力――いや、保険か』
「そうそう。で――どう? 何とかなりそう?」

 そう聞くと、楽しげな笑い声が聞こえて来た。

『そういう事を何とかするのが私の仕事だ』

 分かっている。だからこそ、あたしは頼ったのだ。

『……悪いな。お前にも面倒を背負わせて』
「――もう。それは言わない約束でしょ?」
『だが――』
「『だが』は要らないよ」

 あたしはきっぱり言った。
 反応はすぐには返って来ない。
 しばらくして、ため息が聞こえる。

『……全く、頼もしい限りだ』

 それを最後に向こうから通話が切れた。
 あたしは携帯を耳から離し、少しの間眺める。

「――備えあれば憂い無し、か……」

 自問自答し、あたしは別の番号を呼び出し、携帯を耳に当てる。
 相手は十コール鳴り終える直前で出た。

『急に電話してくるな。驚いたぞ』
「ごめん、ごめん。でさ、今平気?」
『そのために電話に出るのが遅れた』
「重ねてごめん」
『気にするな。お前の声が聞けて嬉しいよ』
「どうも」
『礼は不要だ。堪らなく惨めな気分になる』
「あたしは気にしないよ?」
『こっちが気にする。――それで? 用件は?』
「単刀直入に言うけど、援軍が欲しいの」
『冗談か?』
「まさか。正気の沙汰で、約束を果たす時が来ただけだよ」
『――ああ、そういう事か』
「分かってくれた様で何より。で――どう? 誰か空いてる?」
『何人必要だ?』
「一人で十分」
「一人か。では、都合をつけさせよう」
「悪いね」
『謝罪は不要だ。他ならぬお前の頼みだし、二つ返事で了解だろうからな』
「そっか」
『そうだとも。――話を変えるが、そちらはどうだ?』
「元気でやってるよ。そっちは?」
『健康的には問題無いが、仕事の方がどうにも、な』
「平気? あたしで良ければ手伝うけど?」
『心配するな。そこまで落ちぶれる気は無い』
「そっか。でもさ、必要になったら言ってね? 協力は惜しまないから」
『……苦労をかける』
「――もう。それは言わない約束でしょ?」
『言わせてくれても良いだろう?』
「自己満足に浸りたいならどうぞご自由に」
『……手厳しいな』
「一人だけ楽になろうとするそっちが悪い」

 あたしは通話を強引に終わらせる。
 打てるだけの手は打った。後はこっちで臨機応変に対応して調整するだけだ。

「ふぁ……」

 安堵して気が緩んだのか、眠気がやってきた。
 これからを脳内で想定しつつ、あたしはまどろみに身を委ねた。


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