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自作小説お披露目会場コミュのブレイブハーツ 8−1〜少女の幸せを願う者達〜

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「……ふむ。どうにかなるものだな」
「どうにかなってしまうものですね」
「そのつもりでやったのなら当然でしょ?」
 宵の淵に達した頃、私達は状況を終了させた。
 強気で言ってみるものの、私はかなりヘトヘトだった。
 あれからどれだけの時間が経過したか――今や立っているのは私達だけ。
 周りには三人で頑張って気絶に追い込んだ同じ顔をした少女達。
 かなりハードだ。
 向こうは確実に殺しに来ているのに対し、こちらは生かす気満々。余裕があればもうちょっとスマートな戦いが出来ただろうけど、生憎と外聞を気にしていられる余裕は無かった。
 そのおかげで私達はボロボロだ。私は立っているのも辛いし、口ではああ言っているけど防人仁美は刀の支え無くして立っているのも難しい、唯一平然としているのはセノーラフさんだが、彼の顔にも疲労の色が見える。まあもっとも逆に言えば私達よりも多くのアインを気絶させたにも関わらず、バテバテな私や防人仁美とは違い、まだまだ余力があるからそれはそれで異常だけど。
「沙耶、鶴来、私の封印処置とアイン達の介抱をお願い」
 私の指示に二人は首肯し、
「「その矛盾を胸に仕舞え」」
 封印の言葉を紡ぐ。それにより、私の衣服は元に戻り、翼も消える。途端、例によって例の如く、力を解放した事による反動により、倒れてしまいたくなる疲労感がドッと押し寄せてくる。人間としての私にとって、堕天使として私の行動はトライアスロンをペース配分抜きにして行うのと同義だ。一実の力となれるから別に不満に思っているわけじゃないが、この仕様だけはどうにかしたいものだ。
「お嬢様、無茶が過ぎます」
「そうですよ。一実さんが帰って来たら何て言い訳するんです?」
「平気、よ……。一実が戻るまでには……動ける様にするから。それより……事後処理をお願い……。私は……手伝えそうに、無いから……」
「心得ておりますのでご安心を」
「そのために私達は戦線に参加しなかったわけですからね」
 沙耶は律儀に、鶴来は言わなくても良い事を言って、事後処理を始めた。
「――トモミ、幾つか聞いて良いか?」
 と、セノーラフさんが突拍子も無く聞いて来た。
「何でしょう?」
「カズミは何だ?」
「藪から棒なのに随分と失礼な事を聞きますね?」
「無礼は百も承知だ。それで?」
「破邪と魔女の混血です」
 私が口を開くより早く、防人仁美が口を開いた。
「聞かれたのは私ですよ?」
「答えるのは誰でも同じでしょう?」
「喧嘩は止めろ。で――その魔女の名は?」
「その前にこちらも聞いてよろしいですか?」
 そう言ったのも、防人仁美だ。だが、それは奇しくも私と同じ言葉だった。
「俺が何者であるかか?」
「如何にも。それを教えてくれるなら、私の知る限りを教えます」
「貴女は一実の母親の事を知っているのですか?」
 私は少なからず驚いていた。一実の母親である真実さんに関しては、どうやっても調べ上げる事が出来なかったから。でも、よくよく考えると防人仁美が知っているのも当然かもしれない。一実の証言で確証が取れたが、変化の発端は真実さんがその実魔女であり、一斉が二人の結婚を認めなかったからだ。防人家にとっては元凶そのものであり、そういう方面に関しては防人家の方が専門的だから、こちらが知らない情報を持っていても不思議じゃない。
「全てを知っているわけではありませんが、あの魔女に関してはそちらより把握している、と自負しています」
「一々一言余計ですね」
「ええ。私、貴女の事嫌いですから」
「私だって嫌いですよ」
「だから喧嘩は止めろ。それとどうして知りたがる?」
「「一実のためです」」
 私と防人仁美の声が重なり、私達は全く同時に心底嫌そうな顔をした。
 私が言えた義理じゃないが、どうして一実は同性に好かれてばかりなのだろうか。少女漫画の男の子の役がやる事を平気でやるから当然かもだが、それにしたって百合フラグを立て過ぎだ。こんなところまで過剰さを発揮しなくて良いのに。
「真似しないでください、独占少女」
「それはこっちの台詞ですよ、泥棒猫予備軍」
「……カズミは愛されているな。良くも悪くも」
「セノーラフ様、事実とは言え言葉を選んでください」
「そうそう、語彙が辛辣過ぎますよ?」
 沙耶は事務的に、鶴来は友達に話すみたいに言った。って、ちょっと待て。
「貴女達、人の事言えた義理じゃないからね?」
「そういうトモミもな。で――俺の事か。しかし、意外と鈍いな。カズミは気付いているというのに。まあだからこそ、俺に残る様に依頼したのだろうが」
「気付ける要因なんてありました?」
「一実に失礼ですけど、一実と一緒にしないでください。一実は一人でしょっちゅう分かった顔しますし、色々と達者なので」
「自分を卑下して逃げるのは美しくないな。それはそれとして、簡単なアナグラムだ。適当に考えた名前だが、皆騙されてくれるから割と気に入っている」
「名前ですか? 確かセノーラフでしたよね?」
 セノーラフさんは首肯し、それきり黙った。
 私は色々並び替えてみる。ヒントはある。魔法を知り、魔女と聞いてもすんなり受け入れられるという事から鑑みて、そういう存在が実在しているのを知っているのは明白である。それに一実がこの単時間で分かったのならそこまで難しいアナグラムじゃないはずだ。
「お嬢様、そんなに難しく考えないでください」
「というか、お嬢様が分からないのは色々ダメだと思います」
 アイン達を屋敷へ運んでいく最中、沙耶と鶴来が好き勝手に言ってくる。という事は、二人は分かっているのだろう。それにしても無茶を言う。こっちはぶっ倒れたいと思っている脳を回転させているというのに。
「……私は降参です。西洋系に関してはあまり詳しく無いので」
 防人仁美が少し悔しそうに言った。
「何で西洋系なのですか?」
「貴女が分からないとダメという事は、堕天使と関連がある事だからです」
「堕天使が関係している事くらい私も分かっています。だからこうやって――」
 言いかけて、私はハッとした。
「分かったのですか?」
「……ええ、分かりました。確かに私が分からないと色々ダメですね。そうですよね? 元熾天使さん?」
 私がそう言うと、セノーラフさんは微笑を作り、
「正解だ。簡単だっただろう?」
 確かに簡単なアナグラムだ。必要な知識があれば誰でも解読出来る。
 元熾天使――天使の最高位である熾天使のヘブライ語訳の発音は『セラフ』であり、それを否定するためにいいえの英訳である『No』を用いて『ノーセラフ』とし、さらにそこから変化させて『セノーラフ』という具合だ。
「そうですね。それで? 元熾天使である貴方が何故そんな事を? それと貴方の本当の名前は? 熾天使と一口に言っても色々いますし」
「悪いがそれは明かせない。生憎と捨ててしまったからな。それとは別に俺がカズミの事を聞いた理由を話しても良いが、取り乱す事は必至だぞ?」
「私が取り乱す……? ――まさか、一実の事!? 一実がどうかしたの!?」
 私が取り乱す事なんて一実に関する悪い情報だけだ。私の両親は私に心配される様な事はしない。娘に気苦労かける親になりたくない、と豪語していたくらいだから。だから、私は安心して一実の事だけを心配する事が出来る。
「気持ちは分かるが落ち着け」
「そんな事を聞いて落ち着けるわけ――」
 セノーラフさんに駆け寄ろうとしたが、疲れ果てた体は全く言う事を聞いてくれず、足元がふら付いて、私は転んでしまった。受け身を取る事が出来なかったので、全身に鈍痛が駆け巡る。
「「お嬢様!」」
「平気よ! それより、一切合切詳しく話して!」
「急かさなくても話す。――先ほど微弱だが思い出したくも無い奴の気配を感じた。奴が裏で動いていたなら、色々な事に辻褄が合うわけだが、その後誰かによって奴の気配ごと遮断された。で、一瞬感じ取った遮断したそいつの気配は色々混ざった複雑な気配だった。それでちょっと気になったから聞いたわけだ。あの男を相手に出来るのは、限られているからな」
「……それは一実よ。間違いないわ――間違いないです」
 私は知っている。一実もまた大き過ぎる、持たされ過ぎた力を私と同じ様に親によって必要だと思える時以外使わない様に封印されている力がある事を。
「その根拠は? 後、敬語は不要で構わん」
「お言葉に甘えます。――根拠は遮断よ。一実の力は大き過ぎるから、力の解放を迫られた時は世界に影響を及ぼさない様に、解放と干渉を緩和する結界を同時に行う様にしているの。だから、気配を感じ取れなくなったのよ」
「そういう理屈か。……全く、こういう時、この身は不便だな」
 そう言って、セノーラフさんは私達に背を向け、歩き出した。
「何処へ?」
「言うまでも無いだろう?」
 分かっている。セノーラフさんは自分の都合で一実の下へ行くつもりだ。声色に混じる緊張感からして、相手は相当な強者なのだろう。仕事のためであれ、自分の都合であれ、自由にさせると決めたのにそれを覆さなければならないほどに。
 だけれども――、
「……それは止めて」
 それはダメだ。それは一実の意地を邪魔する事だ。一実の事は心配だが、一実が意地を通す事を邪魔しようとする人がいるのを私は見過ごせない。
「悪いが聞けないな」
「自由にさせるんじゃなかったの?」
「そのつもりだったが、事情が変わった」
「それは一実の邪魔をしてまでする事なの?」
「過去を捨てた男が、そんな事をすると思うか?」
「だったら止めて。ここで一緒に帰りを待って」
「それは無理だ。依頼を果たせなくなる」
「一実は約束を守る女の子よ」
「トモミが言うならそうなのだろうが、今のカズミでは絶対に奴に勝てない」
「貴方が一実の何を知っているの?」
「戦闘能力だけならトモミより分かっている。だからこそ言える。今のカズミでは絶対に奴に勝てない。相性が最悪だし、カズミの性格からして、意識的には本気だとしても、無意識に加減してしまうだろうからな」
「一実なら大丈夫よ。絶対に大丈夫よ」
 私がそう言うと、セノーラフさんは深々とため息をつき、
「――一つだけ聞くぞ、未熟なお姫様、貴女はカズミに帰って来て欲しいか?」
 呆れ切った、しかし有無を言わせぬ物言いでそう言った。
「……当たり前じゃない」
「なら――」
「でも、ダメ! ダメなの! 一実はこれが最後って言った! なら、私はそれに答えたいのよ!? 親友の頼みよ!? 好きな人の願いよ!? それを聞いてあげるのは当然でしょう!? 私、何か間違った事言っている!?」
「だが、失ってからじゃ何もかもが手遅れだ」
 その言葉には有無を言わせない説得力があった。
 それが何なのかは分からない。お父様なら分かるかもしれないが、未熟な私にはその説得力の裏にある根拠を読み取る事が出来ない。
「失わない限り、謝罪が出来るし、感謝も出来る。だがな、失ってからではどれだけ渇望しようと、それだけ後悔しようとその思いは未来永劫胸に残り続ける。そんな事を貴女はしたいのか? 自分にもカズミにもさせたいのか?」
「したくないし、させたくないわよ! でも、だけど……!」
「だったら、意固地になるな。本当に、心の底から大切にしたいのであれば、失わない事を最優先事項とし、それ以外は二の次にしろ。自分の気持ちも、相手の思いやりも。心配するな。失わない限りは取り返しがつくのだからな」
 それきり、セノーラフさんは黙った。
 失わない限りは取り返しがつく、か……。
「――これを」
 私はポケットから携帯を取り出し、それをセノーラフさんへと放った。緩やかな放物線を描いて飛ぶ携帯を、セノーラフさんは意図も容易く掴み取る。
「これでどうしろと?」
「道標があった方が分かり易いでしょう?」
「使い物になるのか?」
「ご安心を。それは私のお手製です。一実が地の果て、空の彼方にいようとも一実に仕掛けた発信機は、受信機が一体化となっている私の携帯は絶対に逃がしません。多少見難いですが、その辺はご容赦ください」
「……ふむ」
 セノーラフさんは私が投げた携帯を操作し始め、
「中々に高性能だが、良く気付かれないな? カズミなら気付きそうだが?」
「それは無理でしょう。その発信機は一実の体内に仕掛けてありますから」
「……それは人道的にどうなのだ?」
「心配ばっかりかける一実が悪いのよ」
「だからって……まあ良いか」
 突っ込まないでくれて何よりだ。
 そこでヘリが到着した。沙耶か鶴来が呼んでくれたのだろう。出来るメイドだ。
「セノーラフさん」
 梯子へ向かう背中を私は呼び止めた。
 セノーラフさんは半身だけをこちらへ向ける。
「何だ?」
 そんな彼へ、私は深々と頭を下げた。
「改めてお願いします。一実と一緒に帰って来てください」
 対する返答は、苦笑と軽く手を振るだけだった。
 その背中は雄弁に語っていた。
 ――任せておけ。
 その背中は、とても大きく、何でも出来てしまうお父様を想起させる。
 あそこが私の到達地点。
 あそこまで行ければ、一実を守る事が出来る。
「……遠いわね」
 本当に遠い。あそこまで行かないと、一実を守り切れないのだから。
 でも、やってみせる。
 だけど今は――、
「「お嬢様!?」」
 今は無理だ。だから、大人しく待つ事にしよう。
 沙耶と鶴来の声を聞きながら、私はまどろみに身を委ねた。

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