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自作小説お披露目会場コミュのブレイブハーツ 4−3〜暴露大会、後に達人遊戯〜

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 気がつけば空は橙色を帯びていた。
 あたしは弾倉を交換しながらぼやきつつ、自分の回りに視線を向ける。
 我が家の裏庭は戦闘行為によって悲惨な姿になっていた。石畳と芝生には弾痕やら斬痕が無数に刻まれている。元に戻すのには結構な金額になりそうだ。
「片付けが大変そうだね」
「鶴来、片付けを始めますよ」
「合点承知」
 切り替え早く、沙耶と鶴来の二人が飛び散った破片を片付けにかかる。
 あたしも手伝うとしよう。一番派手にやったのはあたしだ。
「知美、あたし達も――」
 手伝おう――そう言おうとした矢先、あたしの感覚に『それ』は触れた。
 怨嗟に満ちた防人仁美の気配を。
「一実? どうかしたの?」
「知美、夕飯までには戻って来るよ」
 あたしはそれだけ言った。それだけで知美は察してくれるだろうから。
「吉報以外は認めないわ」
「平気。ムカつく事にそれ以外は認められていないからね」
 知美の激励にそう返し、あたしは屋敷を――、
「一実、行ってらっしゃい」
 後にしようとした時、背中にそんな言葉が聞こえた。
 それはずっと言わなかった言葉だろう。それはずっと言いたかった言葉だろう。
 だから、あたしもずっと言わず、だけれども言いたかった言葉で答える。
「行って来ます」
 あたしは地を蹴り、人気の無い場所を目指して天道家を後にする。
 それに伴い、追走して来る気配が一つ。
 怨嗟に満ちたそれは、防人仁美の物だ。
「……ムカつくね」
 不満を呟き、あたしはより強く地を蹴った。
 運動公園に到着したところで、あたしは足を止め、こう声をかけた。
「――四年振りだね、防人仁美」
 振り返った先には、仄かな星明りに照らされて絶妙な光陰を宿しているその姿は儚げな大和撫子――防人仁美の姿があった。非常に浮世離れしている。左手に携えている身の丈ほどありそうな長刀がそれにより拍車をかけている。
「そうですね。そしてこれを今生の別れとしましょう」
 防人仁美は、極自然な動きで長刀を抜き、鞘を捨てる。
「それほどまでに防人が憎い?」
「ええ、憎いですよ」
 とても冷たい、背筋が凍る声だった。
 この人の人生は、実の親によって散々な事になっている。無能だからと捨てられたのも同然の様に遠縁に預けられ、あたしのパパが家を出たから一方的に呼び戻され、務めを行うために体を弄くられ、あたしという存在が見つかった事により、不用品として扱われている。
 だからだろう、この人は防人が打破すべき存在となってしまった。
 復讐という邪に憑かれた鬼――復讐鬼に。
「当然と言えば当然だけど、否定しないんだね」
「否定は無意味です。……それにしても兄とあの魔女の血を引き、二人の教育を受けただけの事はありますね。断片的な情報から真相に至るとは流石です」
「それは褒め言葉として受け取っておくとして、どうしてあたしを?」
「それは貴女を殺そうとしている事を言っているのですか? それとも貴女を犯人だと思う様に捜査の方向性を操作した事ですか?」
「両方」
「色々と憎いからですよ」
「それじゃ分からないよ」
「分かるでしょう? 貴女は優れている、貴女は恵まれている、貴女は持っている、貴女は守られている――貴女という存在全てが憎いのです」
 そう言って、防人仁美は長刀を構え、気配が変わった。
 取り付く島も無し、というのはきっと防人仁美の態度を言うのだろう。
 それでも、あたしは話を止めない。
 もう手遅れだけど、何もかもが終わってしまっているけど、あたしは防人仁美に伝えなければいけない事があるから。
「あたしも結構親不孝者だけど、貴女も同じくらい親不孝な子供だよね」
「……いきなり何を言っているのです?」
 嘲りの声は無視。話を聞いてもらえればそれで十分だから。
「貴女は何も分かっていないって話だよ。あたしはそれを教えに来たの。文句は言ってくれて良いよ。責め苦も受けるよ。でも、貴女は知らなきゃいけない」
 これがあたしの自己満足な事は百も承知。
 それに語る事は防人仁美を苦しませるだけだ。
 それでも、あたしは知って欲しい。
 そうしなきゃ、あの人は誤解されたままだから。
「――貴女が本当は愛されていた事を」
「戯言を」
「一言で切り捨てるのは良いけど、それならどうして攻撃して来ないの?」
 あんな事を言ったというのに、防人仁美はその場で立ち止まったままだ。
 それが意識的なのか、無意識的なのか分からない。
 でも、止まったということはまだ大丈夫だ。
 もうどうしようもないが、どうにかならないわけじゃない。
「――そもそも、おかしいと思った事は無かったの?」
「何がです?」
「色々だよ。貴女の身に起きた色々な事。遠縁に預けられた事、体を弄繰り回された事、また不用とされた理由――貴女が防人を邪と見なし、それ故に破邪として、その役割に則り、行動力へと変換されているそれら全てを」
 そこに疑問を持っていたなら、こんな事は多分起こらなかった。
 でも、無理な話だ。娘がそう思う様に防人一斉は振る舞ったから。
「何もおかしい事は無いでしょう? 私には才能が無く、だからこそ捨てられ、だからこそ体を弄繰り回され、だからこそ貴女という存在が現れた事により私はまた不用品へと戻った。――これの何処におかしいなところがあるのです?」
「視点だよ」
「視点……?」
「そう、視点。貴女はどういう家に生まれたの? 破邪を生業としているという非常識な家だよ? そんなところでは自分達の常識もまた世間一般には非常識と言える事でも常識なの。そんな場所に貴女は生まれた。常識人――つまりは破邪としては『不用品』と言える無能だけど一般的な一人の女の子として。そう考えれば、見えて来ない? 貴女への数々の非道は愛情裏返しだった事が」
「……あれが愛情の裏返しですって? ふふ、ふふふ、あはは、あははは!」
 防人仁美は静かに言った後、狂った様に笑い出し、
「寝言は寝て言いなさい!」
 そして、憎悪しか篭っていない怒声を放った。
「世迷言を! そう言えるからにはあの人が私にどの様な事をしたのか知っているのでしょう? あれが実の子に対して実の親がする事ですか? 可哀想な物を見る様な目で我が子を見つめ、我が子の嫌がる声を無視し、自分の手駒として好き放題弄繰り回す――あんな実験動物にも劣る扱いが愛? 性善説を信じている口ですか? それとも頭が湧いているのですか? 私も大概狂人ですが、貴女はその上を行きますね! 流石は異常! 異常者は考え方も異常ですね!」
 叫ぶ防人仁美は、見ていてとても痛々しかった。
 恨む事でしか自分を保てなかった人。
 その姿は、あたしに過去の自分を思い出させる。
 あたしと防人仁美の違いは、気付けたかどうかと救いの手があったかどうか。
 まあだからこそ、動く気になったわけだけどさ。
「……酷いね」
「異常者である貴女にも人を思う感情があるんですね」
「違うよ。あたしが酷いと言ったのは防人一斉の事だよ」
「何を今更。あの人が酷い人である事は言われずとも分かっていますよ」
「――急いては事を仕損じるよ、悲劇のヒロイン気取りさん。そんなに焦らなくても貴女の心の闇は今から完全に、完璧に、一切残さず真実という名の光で照らし尽くしてあげるから、大人しく耳を傾けていてよ」
 本当に酷い。こんな事なら律儀に頼みなんか聞かずに真実を教えるべきだった。おかげでこの様だ。言われ慣れているから痛くも痒くも無いが、何であたしがこんな胸糞悪い思いをしなきゃいけないのか。全く、やっぱりあの人は未来永劫好きになれそうにない。まあ向こうも願い下げだろうから別に良いか。
「良い? 耳の穴かっぽじって良く聞いて。防人一斉はどんな人だった? 防人の、破邪の務めに愚直なほど忠実だったでしょう? 貴女を物として、道具として、手駒として扱える――そんな厳しさを持っていた。そうでしょう?」
「――――」
 返って来たのは沈黙だった。無理も無い。積もり積もった恨みでどうにか自分を保っている人にこんな事を言っても戯言にしか聞こえないだろう。
 まあ良い。静聴しているという事は聞く気はあるのだろうから。
「たまにいるんだよ。大切だからこそ敢えて心を鬼にし、その大切な物を遠ざけたり、手放したりする人。だから――」
「嘘です!」
 無理をしているのが丸分かりな否定だった。
 それは当然だ。否定しなければ罪悪感で押しつぶされる。
「嘘です、嘘嘘嘘嘘嘘! そんなの嘘です! それなら……それなら何故あの人は私を捨てたのですか!? 何故私を呼び戻し、私の体を弄くり回したのですか!? 何故私はまた捨てられなければならなかったのですか!?」
「防人の家業は安寧無き修羅の道。そんな道を無能な子供に歩かせようとする親はいないよ。肉体を改造したのは、防人一期という隠れ蓑を失われたから。貴女を守るためには、当時の防人一斉には手立てが無かったから。貴女をまた捨てたのは、あたしという新たな隠れ蓑が見つかったから。そうすれば貴女を元の生活へ戻す事が出来る。だからこそ、防人一斉はあたしを引き取りたいと言ったの」
「……そん……な……」
 動揺の声と共に防人仁美は膝を折り、四つん這いになった。長刀が音を立てて地面に落ちる。人気が無いからか、その音は不気味なほどに響き渡った。
「……そんな……事って……」
「確かにそうだね。本当にそう思うよ」
 でも、とあたしは区切り、結論をもう一度口にした。
「そうすれば、貴女を守る事が出来る。何を失っても、自分がどう思われても」
 それが、防人一斉の最優先事項。
 それが、一人の親が愛する我が子を守るために行った最善。
 それが、あたしがあの人を一生好きになれそうにない理由。
「……父上、父上ぇ……」
 勘違いに気付き、自分を悔やむ防人仁美の嗚咽が大気を振わせる。
 良かった。どうにかなった。どうにかなってくれた。
 あの人のために泣けるのなら、もう大丈夫だろう。
 でも、これでは防人一斉に『お前とは違う』と自慢出来ない。
 まだ、防人仁美が前に進めるように手伝ってあげる事が残っている。
「で――これからどうするの?」
「――過ちを気付かせてくれた事には感謝します」
 防人仁美はゆっくりと立ち上がり、あたしを鋭い眼光で見据えてくる。
 そこに憎悪は無い。しかし、あたしの行為に対する憤慨はあった。
「でも、私は貴女の事が許せそうにありません。今更である事が父上の意固地な我が侭だとしても、貴女がいてくれたら父上は死なずに済みました」
 それは事実だ。事情はどうあれ、あたしのクローンにどんな事情があったとしても、あたしが防人家に引き取られていれば、防人一斉があたしのクローンに殺される事は無かった。それだけは未来永劫覆らない事実だ。
「それ故に、私は貴女に改めて決闘を申し込みます」
 剣先を向け、防人仁美は凛然とした声で言った。
「あたしが勝ったら生き恥晒してもらうからね?」
「承知しました。では、私が勝ったら大人しく殺されてください」
 あたしは刀を抜き、防人仁美は長刀を構えた。
 歴史は勝者によって綴られる。あたし達もその流儀に則るとしよう。
「防人家九代目当主・防人仁美」
 防人仁美が名乗った。
 あたしは少し考えてこう名乗る事にした。
「大樹学園高校三年A組所属・防人一実」
 一陣の風が吹いた。
 それが止んだ時、あたし達は奇しくも同時に動いた。

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