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自作小説お披露目会場コミュのブレイブハーツ 3−1〜お嬢様の奮闘は親友の我が侭の終わり〜

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「お帰りなさいませ、お嬢様。いらっしゃいませ、一実様」
 家に到着すると、沙耶が出迎えてくれた。
 その事に私は疑問を持った。沙耶は昼食とお茶会の準備をしているはずだ。私達が少し遅くなった事を考慮しても準備は終わらず、職務を放棄するほど沙耶は使えないメイドではない。
 となれば、何かあったのだろうか。でなければ、私には勿体無いくらい出来るメイドである沙耶がここにいるはずが無い。
 私達を出迎えた沙耶は、
「おや、お嬢様、タイが曲がっていますね」
 そう言って私に歩み寄って来て、タイを直した。それが終わると沙耶は一枚のメモを見せて来た。そこにはこう書かれていた。
『防人仁美が急遽来訪され、止む無くお待ちになって頂いています』
 それだけで私は沙耶がここにいる理由に行き着いた。
 それが分かった矢先だった。
「――知美、ちょっとトイレ借りて良い?」
 一実が唐突にそんな事を言った。そう言った一実は一見平然としているが、それは恐らく演技だろう。こういう事は今までに何度もあった。最初は分からなかったが、今では一瞬にして緊張感をまとったその雰囲気を読み取れる。
 私が答えようとした時、沙耶が口を開いた。
「鶴来、一実様を二階のお手洗いに案内を。それからお召し物を着替えもお願いします。制服が万一にも汚れてしまっては事ですから」
「一人で行けますよ? 後『様』は止めてください」
「いえそうではなく、一階のお手洗いは今朝から調子が悪くなりまして、今は使用出来ない状態となっており、二階のお手洗いをお使いになって頂かなくてはならないからです。それと申し上げ難いのですが、一実様のファッションセンスは微妙です。それ故に鶴来と一緒に行って頂ければ時間の消費を抑えられます。ご不満かもしれませんが、どうか理解ください」
「あたしの要望は清々しく無視ですか……」
「ふふ、一実様の消沈する顔は母性をくすぐられるから好きなのです」
「あー、分かる。物凄く分かるよお姉ちゃん。一実さんってバトルヒロインの皮を被った小動物系キャラだもんね。または妹キャラ。何にせよ可愛いは正義」
 それには私も激しく同意だ。
「鶴来、お嬢様と一実様の前ですよ」
「と、そうでした。ではでは、一実さん! 早く行きましょう!」
 言うや、鶴来は抗議の声を無視し、一実の背中を押して家の中へと入っていく。
「お嬢様、鞄を」
 それを尻目に沙耶はそんな事を言い、両手を差し出して来る。私は鞄を渡し、
「沙耶、今日の昼食は?」
「来訪があったので用意しておりません」
「食べ損ねるのは明白だものね……。応対中にお腹鳴らないと良いけど」
「その時はその時です。ところで、今日は少し遅かったですね?」
「生徒会に呼び出しを食らい、ちょっと佐東先生と話し込んじゃってね」
「そうでございましたか」
 さて、そろそろ平気だろう。一実や鶴来の声はもう聞こえないから。
「場所は?」
「一階の客間でございます」
「良き配慮をありがとう」
 あたしは屋敷の中に入り、客間へと向かいながら礼を言い、話を進める。
「来訪目的はやはり一実の引き取りについて?」
「はい。相変わらず」
 一実の実家である防人家は、一実を引き取りたい、という要望が来ている。しかし、その理由がとても飲む事が出来無いものなので、こちらはその要求を一向に突っ撥ねている。血縁という絶対の繋がりがあるとしても認められないのだ。
「それにしても当主自らとはね……痺れを切らしたのかしら?」
「或いは当主ならばぞんざいな扱いを受けない、と踏んだのでしょう。もしくは当主としての威光を保つためかと。何にせよ身勝手なものです」
「全くね。もっとも身勝手さなら私達も負けていないけど」
 状況は平行線のまま早三年。今までは使者がご苦労にも足を運んでくれたが、ついに当主が出張って来た。それはつまり、沙耶が挙げた推測か、それに類似する何かが向こうではあったのだろう。こちらとしては迷惑な話だ。
「しかしまあ、明確に『白』と言える証拠があるのに本当に酷い連中ね」
「ですが、『黒』と言える証拠があるのも事実です。そして理由が理由。感情論ではありますが、話だけ聞くならば聴衆の心を掴むのはあちらでしょう」
「知らぬが仏ね。……まあそうしたのは私達だけど」
 一実と防人家の間では確執を修繕不可能にする事件が起こり、私達天道家はある事情からその事件が公にならない様に勤めている。
 一実は謂れ無き罪をまた背負う事になってしまったものの、内密に行った事なので一実はこの事に関しては一切知らず、それ故に防人家及び防人家に縁がある物からは邪推されるのは致し方無いのだ。
「恥じる必要はありません。私達は恥じる事をやってはいませんから」
「過保護ではあるけどね」
「仕方ありません。一実様は甘え方を知りませんから」
「そうね。まあ無理も無いけど」
 私がそう言った時、私達は客間に到着した。
「お嬢様、私はお茶を用意して参ります」
「粗茶で良いわよ」
「心得ています」
 沙耶を見送り、私は応接室の扉を開けた。
 私が応接室に入ると、中で待っていた防人仁美は立ち上がり、
「突然の訪問という無礼な振る舞いをして申し訳無く思います」
 謝罪を述べてから深々と頭を下げた。
 そう思うならば来ないで欲しい。
 防人仁美は一実のお父様である防人一期さんの妹だ。絵に描いた様な大和撫子。艶やかな黒髪に優しい黒の双眸。痩身を包み隠すのは藍色の着物だ。祝日でも無いのに着物を着ているのは普通なら変なのだが、この女性が着ると普段から着用しているからか、容姿の成せる技か。まるで違和感が無い。
「お待たせして済みません。学業の最中だったもので」
「お気になさらないでください。非はこちらにあります」
「お気遣いありがとうございます。どうぞ座ってください」
「では、お言葉に甘えて」
 私達が座った時、控えめなノックが二回した。沙耶が来たのだろう。
「入って良いわ」
「失礼します」
 そう言って沙耶は扉を静かに開け、用意したお茶を持ってくる。この香りは緑茶か。何も相手の趣味に合わせなくて良いだろうに。沙耶は急須から二つある湯飲みに緑茶を注ぎ、
「どうぞ。熱いのでお気をつけください」
「ありがとうございます」
 まずは防人仁美の前に置き、
「お嬢様、舌を火傷しない様注意してください」
「見れば分かるわ。忠告ありがとう」
 ついで私の前に置いた。私は一口啜ってから話を始める。
「来訪目的は一実の事ですね?」
「如何にも。そちらの回答は?」
「貴女が来ようとこちらの答えは変わりません」
「そうまでして人殺しを庇いますか」
 それは、一実の耳には決していれまいと固く誓った事件だ。
 事件は四年前の、一実の両親が他界して四ヵ月後に発生した。
 その日、一実の父親である防人一期とその妹である仁美の父親である防人一斉が何者かによって殺され、その犯人として浮上したのが一実なのだ。
 そうなったのは、捜査の結果、現場に残された髪の毛から一実と全く同じ遺伝情報が検出したからだ。しかし、犯行時刻、一実には私とテーマパークへ赴き、アトラクションの列に並んでいた、という絶対的なアリバイがある。それは私を含め、保護者として同行していた近衛姉妹だけでなく、列に並んでいた人達の証言により不動な物となり、物理的には『白』とされた。
 かくて、事件は迷宮入りとなる。毛髪の遺伝情報という明確な証拠があり、また動機もあったが、物理的に不可能である、という不整合な点。そしてそれを突き詰めて行く内に行き着いた現実離れした可能性の発覚から、天道家と警察上層部が協力し、この事件は未解決事件の一つとして扱われる運びとなった。
 その事を防人家は当然だが快く思っていない。中にはこちらは何も黒い事や黒い取引をしていないにも関わらず、そう口にする者も少なからずいる始末。本当に知らぬが仏だ。こちらは一実の身可愛さ、という自分中心の理由で表沙汰にしなかったわけではないというのに。
 この一件が一実の耳に入らなかったのは、防人一実に関する事は当人に接触する前に自分達を通す様に、とお父様が様々な団体に指示していたからだ。そうしたのは、一実にとってはあらゆる意味で悪い情報だったから。
「そうまでして一実を人殺しにしたいのは何故です?」
「人殺しを人殺しと呼ぶのに何か問題でも?」
「大問題です。冤罪でとやかく言われる方の身にもなってください」
「……先ほども思いましたが、それではまるで一実が人殺しではない、と言っている様に聞こえます。あれだけ明確な証拠がありながら言い逃れが出来ると?」
「だから、自分達で裁く次第に至ったわけですか?」
「物騒な物言いをしますね。こちらは純粋に戦力を求めているだけですのに」
「実の息子を強引に連れ戻そうとして良くその様な物言いが出来ますね?」
「我が兄一期は有能でありながら我が家の務めを放棄したのです。それくらいの事をされて当然です。もっとも何処かのお人好し達のせいで果たせぬ物となってしまいましたが」
「勘当同然の扱いをしておきながらどの口が言うのやら。それと困っている友を助けるのは友として当然の事です。貴女達が家のためにそうしている様に」
「別に非難しているわけではありません。この世は所詮弱肉強食。私達が弱者であり、貴方方は強者だった。しかし、弱者にも弱者なりの意地があります。一実の事も法に訴えるのは不可能。それに頼れぬのなら、法があの子を裁かないなら自分達で裁く他に我が父一斉を殺した罪は贖えません」
 それだけ見れば、これだけ聞けば、天道家が黒で、防人家は白だろう。
 だけれども――、
「大した演技です。よくもまあ心にも無い事が次々出てきますね」
 この人は嘘をついている。この人は一実が犯人では無いと分かっている。そこまで分かりながら、自分の悔恨から、一実が犯人だと思われる様に捜査の方向性を促している。その情報をこちらは掴んでいる。
「……物騒な上に無礼ですね。天道の未来が危ぶまれます」
「心配には及びません。これから話す事を聞けばそれが分かるでしょう」
「お嬢様、他言無用の誓いを破るのですか?」
 沙耶の忠言が耳につくが、
「この人には知る権利があるわ」
「ですが、知る必要はありません。漏洩したらどうするおつもりですか?」
「平気よ。この人だって防人の一人。そのくらいの分別は付くでしょう」
「信じるのですか? 一実様を犯人であると虚言を吐いたこの方を」
「そうなるかしらね。ええ、信じるわ。――この人の計算高さを」
「……どうなっても知りませんよ」
「任せて。どうなっても上手くやって見せるわ」
 沙耶が納得させ、私は防人仁美を改めて見る。
「何の話です?」
 すると、待ちかねた、と言わんばかりに防人仁美が聞いて来た。
「私達は貴女達に一つだけ嘘をついていた、という話ですよ」
「どれの事です?」
「そちら側へのあの一件を公にしない事に関する説明です。お父様から窺いましたが、そちらへは『防人の務めが表沙汰になるのはまずい』という理由からあの一件を内密に処理し、公にしない事に合意してくださったと聞いています」
「それが誤りであると?」
「ええ。あの事件を公にしなかったのは、ある現実離れした可能性が実現しているかもしれず、その事が公になる事を避けたかったからです。ちなみにその可能性というのは防人家がこなしてきた務めではありませんのであしからず」
「……ならば、その可能性というのは?」
「結論から入ります。それは一実のクローンがいる、という可能性です」
 その瞬間、客間は自然と沈黙が訪れた。
 私は防人仁美の反応を待つ。
 防人仁美が口を開いたのは三拍ほど間隔が開いてからだった。
「……随分と突飛な可能性ですね」
 防人仁美はそう言って飲み頃になったお茶を一口啜った。
「悪霊や怨霊、妖怪よりはずっと現実味がある話だと思います。それともそういう物を古来より相手にして来た家系の一つである人達には、こういった科学的な方面に関する方が非現実的ですか?」
 邪な存在の退治――それは防人家が古来より受け継いで来た務めだ。その中でも防人家は原点とされている。その証拠が『防人』という名だ。名は体を現す――防人は昔から破邪を生業とし、人の守護者として活躍しているのだ。
「バカにしないでください。世間一般程度には知り得ています。私が言っているのは現在の科学力でそれが可能なのか、という事です」
「然るべき資金と人材と場所が揃えられれば可能、だそうです」
「それは貴女のお母上が?」
 私のお母様は、世界的にも有名な名医だ。その技量は『神の腕』と称され、数多の患者を救って来た事から『救う者』などと言われている。お母様は患者なら悪人だろうと構わず助けるから、防人の人間が知っていても不思議じゃない。
「はい。――説明を続けます。事件当時、一実には物理的に犯行は不可能。これは再三申し上げておりますが、我が天道家は潔白を立証します。大体、良く考えてもみてください。そんな一実を庇い立てした、という誰がどう見てもそうとしか見えない事を私達がすると思いますか? むしろ逆です。結果的にはそちらにより疑われる事になってしまいましたが、私達は一実の潔白を証明するために徹底的に調べ上げました」
「それでクローン説が浮上したわけですか。……しかし、あまりにも突飛過ぎます。それにクローン人間である事を何故隠さなければならなかったのです? それは科学の進歩的には良い事だと思うのですが」
「生み出された理由が真っ当な物では無いからです」
「……ならば、製造者の狙いは一実の戦闘才能ですね?」
「すぐに分かる辺りは流石ですね。貴女も防人の人間というわけですか」
「世辞は結構です。ですが、優生学の絶対性は遺伝学的にも統計学的にも否定されているはずです。兄の娘である一実なら万一もあるかもしれませんが、だとしても全員が全員一実と同じ風になると?」
「それは無いでしょう。もしもそうなら今頃世界はその製造者の天下です」
「それはつまり、出来た事は出来たが何らかの事情により劣化版と呼べる物だった、或いはどうやっても劣化版しか出来なかった――そういう事でしょうか?」
「恐らく。もっとも劣化版とは言え元が元。ある程度の商品価値はあるのでしょう。実際問題、裏社会では一実のクローンと思しき少女達が確認され、その者達が成し遂げる功績は素晴らしく、その道で今では有名人です」
「酔狂な事を考える輩がいたものです」
 淡白に言い、防人仁美はお茶を飲んだ。それで湯飲みは空っぽになる。
「おかわりは?」
「お構いなく」
 沙耶が聞くと、防人仁美は丁重に断り、
「で――その様な話をして私にどうしろと?」
 変わらない声質で言った。ここまで詰めてもまだ平静か。ならば、
「大した事は望みません。私は認めてくれればそれで構いません」
「何を?」
「貴女が一実のクローンを目撃している事を」
「……また妙な物言いを。私が駆けつけた時、父上は既に変わり果てた姿になっていました。それなのにそんな事を言いますか」
「言います。貴女はあまりにも冷静過ぎた、と調書にはあるからです。そう教育されていた、とも証言されていますし、亡き父のために、とも証言していますがそれを差し引いても貴女は冷静だった。防人一斉が殺害されたという事実に誰もが恐慌状態に陥った状況下にも関わらず。それ故に貴女は全てを分かり、その上で自分にとって最善の行動をした――私達はそう考えた次第です」
「……本当に無礼な方ですね。私が黒幕だとでも言いたいのですか?」
「まさか。貴女ならもっと上手くやります。――冷静に狂っている貴女なら」
 途端、防人仁美の雰囲気が変わる。背筋が凍る様な絶対零度の雰囲気へと。
「……私の事を調べたのですね?」
「ええ、貴女もまた一実にとっては害悪ですから。しかし、ご安心を。こちらは一実に手を出さない限り、貴女が何しようととやかく言う気はありませんので」
「脅迫とは物騒ですね」
「何とでも。私達にとって一実を害する者は何だろうと害悪ですから」
 返答は無く、自然と沈黙が降りた。
 少し待っても何も無かったので、私は扉を示しながら言った。
「用件が以上ならばお帰り願えますか? こちらも暇では無いので」
「その前に一つ伺ってもよろしいですか?」
「どうぞ」
「貴女達は一実をどうしてそこまで?」
「家族を助けるのに特別な理由が要りますか?」
「……そうですか」
 反応はそれだけだった。防人仁美は静かに立ち上がり、一礼した。
「急な訪問に対し、丁重な扱い痛み入ります」
 そうして扉に向かって歩き出していく。
「――私からも一つだけ良いかしら?」
 その背中を私は呼び止めた。言われっ放しで帰らせるのは何か癪に障るから。
「何でしょう?」
 防人仁美は足こそ止めたが振り返らずに言った。
 そんな彼女に私はこう言ってやった。
「――貴女は幸せな部類ですよ。少なくとも一実よりずっと」
「小娘が知った風な口を」
 間髪入れずに鬼気迫る返答が返って来た。
「貴女に私の何が分かると言うのです?」
「一実よりマシな人生を送っている事は分かります」
「主観全開な発言ですね」
「贔屓しているつもりはありません」
「とてもそうは思えません」
 素気無く言い、防人仁美は再び歩き出した。
 そのまま出て行くのかと思ったが、
「と、もう一つだけありました」
 防人仁美は扉の前で足を止め、
「夜の外出は気をつける事です。鬼などに襲われたくないのであれば」
 そんな事を言った。安い挑発だ。よほど先ほどの言葉が気に入らなかったのだろう。それにしてもどういうつもりなのか。その程度の挑発に私が乗らない事など分かる様な物なのに。でもまあ、ありがたく受け取るとしよう。
「忠言感謝します」
「では、これにて」
 防人仁美はまた一礼し、静かな足取りで部屋から出て行く。

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