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自作小説お披露目会場コミュのソローブレイカー 3−2

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「はぁい、ご機嫌いかが、塵芥」「いきなりの訪問、許せ」

 夢乃が業者の頭目が言うところの『浮世離れした美男美女』を出迎えに行けば、予想通り、案の定、そこには夢乃を初め、誰もが即座に連想した男と女――ウリエルとガブリエルが当たり前のように待っていた。

「訪問は別にいいけど、機嫌はたった今最悪になったわ、この鬼畜『天子』」
「言われているわよ、ウリエル」
「あたしはアンタに言ったのよ、鬼畜『天子』少女」
「辛辣なお言葉をどうも。変過ぎる塵芥」
「「…………」」

 夢乃とガブリエルは共に平然とした態度であるが、その言葉に込められた意思は敵意全開で、共に微笑を浮かべているが、それは一ミリも笑っていない、見ていて背筋が凍る類の率直に『怖い』と形容できる笑顔であった。

「で――何しに来たのよ?」
「私は貴女に喧嘩を売りに来たの」「俺はフォールに死合いを所望しに来た」
「……貴方は分かるとして、アンタはどういうつもり?」
「あら、私とウリエルとでは随分態度が違うわね?」
「生憎とアンタとは第一印象からして最悪だからよ。あー、彼なら中にいるわ。勝手に話を付けて、勝手に連れてって。あ、家、壊さないでよ?」
「俺はガブリエルと違って強攻策は取らんよ」

 夢乃に通されたウリエルはそう言って、新羅家に入り、奥へと消えてく。ガブリエルもその後に続こうとしたが、その進行を夢乃は足で防ぐ。

「アンタは駄目よ。何されるか分からないからね」
「私は当然のことをしただけよ? 悪く言われる謂れは無いわ」
「確かに。でも、アンタは少しやり過ぎ。それを卑怯とは呼ばないけどね」
「あら。塵芥のくせに話せるじゃない。好感度アップよ」
「それはどうも。それで?」
「好きにしていい、と言われたからよ」

 夢乃は不審げに眉をつり上げる。

「好きにしていい? どういうこと?」
「そのままの意味。我らがお父様は塵芥との賭けに負けたから再検討を決定したわ。今頃はその旨を伝えに東奔西走しているでしょうね。その功績に免じて塵芥から小虫に格上げしてあげるわ。有り難く思ってね」
「……アンタは普通の二人称を使えないの? まあ、別にいいけど。それにしても……そっか。あの人、ちゃんと約束守ってくれたんだ……」
「――ふぅん。笑うとそれなりに見れるじゃない」
「何か言った?」
「……別に。しかしまあ、小虫に昇格したとはいえ、そんな小虫を『お義母様』と呼ばないとなるとゾッとするわね。時に小虫、年はいくつ?」
「昨日で十七。というか、何でアンタがそれを知ってるのよ?」
「お父様が嬉しそうに言っていたからよ。……初めて見たわ、お父様があんなに嬉しそうにしている顔。そういう意味じゃ、小虫とはいえミクロ程度は感謝してあげてもいいかな、と思っているわ」
「……ファザコン?」
「親を愛して何が悪いの? しかしまあ、十七歳。私の方がお姉さんね」
「そうなの? アンタいくつ?」
「十七歳。で、四月生まれ」
「……一ヶ月で姉貴面するなよ」
「何か言って?」
「いや別に。それにしても……どういう風の吹き回し? アンタのことだからあたしはてっきり搦め手で来ると思ってたけど?」
「同じ徹を踏むつもりは無いわ。ましてやお父様の言葉だからね」
「同じ徹?」
「……こっちの話で逆鱗に触れるなと言われたからよ」
「そこまで考えるなら、せめてもう少し感覚を開けてよ。こっちは連戦で満足に眠れてもいないし、全身筋肉痛なんだから」

 夢乃が気だるそうにぼやくと、ガブリエルは鼻を鳴らした。

「ざまあみろ、と言わせてもらうわ」
「……アンタが先走らなきゃ今頃――ああ、同じ徹ってそういう意味か。なら、お互い様ってことでこの件は水に流さない?」
「――右腕一本に対して睡眠不足と全身筋肉痛で水に流せですって?」

 ガブリエルは夢乃を睥睨し、

「流せると思う?」

 夢乃は頭を振り、肩をすくめてみせる。

「言ってみただけよ。そう睨まないで。でも――ガブリエルというくらいだし、あんなこともできるんだから、右腕だって『水』でどうにかできないの?」
「無理よ。小虫が完全完璧に『斬って』くれたおかげでね。……ったく、何者よ、この小虫。私も私だけど、小虫のほうがずっと化物じゃない」
「さてね。人間を蔑ろにするから罰が当たったんじゃない? 或いは運が無い方でも運が悪い――」

 その時、不意に携帯が鳴った。ポケットから出して見ると『着信:外野環』とあった。微弱な振動音が静かな竹林に響き渡る。

「出ていい?」
「向こうは話が決まったようね」

 えっ、と夢乃が口にするのと門を飛び越え、あっという間に新羅家から離れていった二人の人影を夢
乃の視界は捉えた。

「……出るわよ?」
「どうぞ」

 了解を得、夢乃は鳴り止まぬ携帯を耳に当てる。

「どうしたの?」
『フォールさんがウリエルと雌雄を決しに行った。その報告だ』
「さっき確認したわ。あ、環、あたしもちょっと鬼畜天子少女ことガブリエルと喧嘩してくるわ」
『了解した。武運を祈る』
「ありがと。んじゃ、また後で。あ、携帯、壊れると嫌だからポストに入れておくから頃合い見て回収しておいて」
『心得た。ではな』

 相手が切ったことを確認してから夢乃も通話を終了し、携帯をポストに放る。

「んじゃ、行きましょうか」


 改装することによって使われなくなった旧浅野差高校の校舎。
 その場所は、校庭は少年野球を初めとし、子供から大人まで規模の小さな公園や空き地ではできないことをするために開放され、また消防署の消火訓練にも扱われ、体育館の方は空手やハンドボール、フットサルといった室内競技を行うために学校としての存在意義は失ったものの、住民の運動場とその意義を変え、今尚機能している。難点を挙げるとすれば、古くからあるため、またあまり金をかけて整備してまで使用する有用性が無いのか、外見が『廃れている』という印象を与えてしまうことだろうか。
 そんな場所であるが、前述したことが行われているのは基本的に休日や夜間のことであり、平日かつ午前中である現在に置いては初見では『廃校』という形容が最も適しているだろう、という印象を誰にも与えるだろう。
 そして今。
 この場所は現実と結界により隔離され、色と時間を失っている。
 ウリエルがこの場所を選んだ理由は特別無い。場所を求めて探していれば、程好く広く、程好く人気が無い場所があり、それがこの場所だった、というだけだ。

「あの少女には感謝しているんだ」

 それを口にした理由は別段無い。
 あるとすれば、眼前の男には、宿敵とした男には知っておいて欲しい、ということくらいである。

「私がある程度とは言え、力を取り戻したからか?」
「ああ。そのおかげで俺はお前と雌雄を決することができるからな」

 雌雄を決する――ウリエルの目的はそれだけだった。
 それ以外に無いと言ってもいい。『天子』ではあるが『天使』ではなくなった、『天使』の力を宿すだけとなった今となっては、それ以外に興味関心を示せる対象が無い。人類への確執は無いわけでは無いが、滅びるその瞬間まで見てきた中でも人類は幾度となく争いを続けていた。何度も、何度も。
 ――そこまで繰り返しても変わらないなら、今後も変わらないだろう。
 ウリエルはそう思っていたし、実際問題、そうだった。
『天子』として生まれ『天使』の力に目覚めた瞬間、同じ名を持つ主人格とは違い、本質的に『天使』たるウリエルとして目覚めた時から天津総司や他の『天子』と合流するまでの間、暇潰しとして調べてみれば、かつて程では無いにしろ、人類は今尚同族で争うことをやめようとはしていなかった。
 そこに自身の正義はあるのだろう。が、やめていなかったことに違いは無い。
 だから、ウリエルは、機会を得たウリエルは、自分のために生きることにした。
 幸いだったのは、同じ名を持つ主人格が自分を受け入れ、自分のために体の占有権を譲ってくれたことだ。それは一個として存在するには『異常』過ぎる才覚を有してしまったことにより、日常に飽き、早々に自分の生涯に見切りを付けていた――という積極的絶望から来るものではあったが、機会を得たウリエルとしては、重要なのは『機会を得た』ことであって、主人格の心情は重要では無い。
 さりとて、軽視したわけでもない。
 機会は得られたものの、『天使』としてのウリエルは既に一度滅んだ身。さしものウリエルもそこまでしてフォールと雌雄を決しようとは思っていなかったし、力を失っているフォールを打ち負かしたところで『雌雄を決した』ことにはならなかったから。
 しかし、他にやる事が無かった。
 当然と言えば当然だろう。『天使』とは『天の使い』でその本分は『人類の補助』。そのためだけに人類よりも先に創造され。自己は与えられているものの、それ以外の生き方を誰しも知らない。
 が、ウリエルは自分のために生きることを決めており、『神の代理人』たる天津総司が人類に見切りを付けた以上、自発的に人類を補助しよう、という気にはどうにもならなかった。

「ずっと聞いてみたかったのだが、聞いていいか?」
「何だ?」
「どうして私との雌雄の決しをそこまで求める?」
「単なる興味だ。俺の名は『神の光』『神の炎』という意だ。だが、グリモワールにおいて俺の属性は『土』でお前――『天使』だった頃のお前は『火』。で、光は七曜においては『日』に該当するだろう。つまるところ『日』であり『炎』でもある俺と『火』であるお前――一体どっちが強いのだろう、そう思った」
「……聖典と魔術書の内容を混合するとは……随分と寛容なものだ。だがしかし……なるほど。確かに気にならないといえば嘘になるな。『日』と『火』――音は一緒で、そこにある違いは運動量くらいだろうからな」
「だろう? まあもっとも、それも単にやることが無かったからに過ぎず、敵対したことによって雌雄を決せられるから、という機会を得たからやってみようと思っただけだが」
「そうか。しかし、それなら私よりも夢乃を選ぶべきではなかったのか?」

 フォールの疑問はもっともだろう。
 確かにフォールには『夢乃に責任を果たすため』という意味の下で力は戻ったが、戻った力は彼が『天使』だった時の力ではなく、彼が『天使』をやめてから得た『堕天使』としての力である。
 ウリエルもそれを分かっているだろう。だと言うのに、ウリエルは夢乃ではなくフォールを選んだ。そこに矛盾が生じている。

「ユメノ――あの少女はそういう名か。しかし……なるほど。『夢の』か。確かにあの少女は夢のような存在だな。そうは思わないか?」
「質問は無視か……。――確かにそうだな。その見解については全力で同感だ。私やお前やラファエル、あまつさえ奴――メタトロンたる天津総司をも改心させてしまったのだからな」
「或いは、そのために用意された人材なのかもな」
「そのために用意された人材、か……。だったら、彼女は本当の意味で『天子』であり『天使』だな」
「誰が上手い事を言えと」
「思ったことを口にしただけだ。しかし……何某かの根拠があるのか?」
「ある。お前は存知無いだろうが……我らが『天子』の父たる天津総司はどういうわけか生まれついて肋骨の一つが無い」
「原初の男子たるアダムと同じだが……それがどうかしたのか?」
「意外と鈍いな」
「夢乃なら至れただろうが、生憎と私はそこまで鋭く無いものでな」

 呆れて言うウリエルにフォールは肩をすくめてみせる。ウリエルは嘆息して、

「そもそも、おかしいとは思わなかったか?」
「おかしい? 何について?」
「あの少女が関わってからの全てだ。お前はあの少女と出会い、ガブリエルの先行によってあの少女は介入、お前の力を得、御大将が興味を示し、求婚し、ラファエルは恋人を救い、そして御大将は『天子計画』の一時凍結と共に目論んでいた『人類根絶』も再検討している。色々問題は残っているが、少なくともあの少女が生きている間、人類の安寧は約束されたようなものだ」

 ウリエルは、だが、と一度区切り、

「――これが皆々『偶然』のことか?」
「確かに作為的ではあるが、私達にそれを確かめる術は無い。それ以前にお前の言っていることでは天津総司と夢乃の関連性が説明できていない」
「自分で答えを言っているものだと言うのに鈍いな。天津総司は初めから肋骨の一つを有していなかった。聖書にはアダムの肋骨が一つ欠けているのは子孫を増やすために女体――イヴを創るためだったとされている。が、天津総司はイヴ無しで子孫を増すことができた。しかし、肋骨は欠けている。ならば、欠けた肋骨の一つは何処へ行き、神はその一つで一体何を創造した?」
「それが夢乃、というわけか。――暴論にも程があるな」
「確かにそうだ。が、全面否定できる材料も無い。まあもっとも――」

 ウリエルは言葉を切って、虚空に手を伸ばした。すると、それに呼応するかのようにそこから金色を帯びた光の剣が出現した。

「真偽を確かられない以上、これ以上は無粋。――全く以って同感だ」

 ウリエルの言葉を引き継いで、フォールもまた構えを取る。

「そういうことだ。せいぜい粘ってくれ」
「窮鼠猫を噛む――ここでお前との因縁は打ち砕かせてもらおう」

 やり取りはこれにて終了し、
 今一度、『日』と『火』の雌雄を決する戦いが始まった。

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